説明

燃料電池のセル構造

【課題】300℃以下で作動する燃料電池において、電解質膜の割れを防止でき、確実にガスシールできる燃料電池を提供する。
【解決手段】固体電解質膜1の一方の面に形成されたアノード触媒層6及びアノード触媒層6の外側に設置されたガス拡散層7からなるアノードと、固体電解質膜1の他方の面に形成されたカソード触媒層8及びカソード触媒層8の外側に設置されたガス拡散層7からなるカソードと、この一対の電極の更に外側に配された反応ガス通路を有する一対のガス不透過性板で構成されたセパレータ9と、前記固体電解質膜1の外周部に配置される平滑層材2と、平滑層材2と前記セパレータとの間に挿入されるシール材5と、から構成される。平滑層材2は、電解質膜1の外周部にリング状金属体3と平滑材4との結合体で構成されたものであり、弾性体シーラントとしての働きを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスのクロスリークを防ぐために、固体電解質膜の周囲にガスシールを有する燃料電池のセル構造に関する。

【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜に用いる材料により種別される。
例えば、液体であるリン酸を用いたりん酸形燃料電池(PAFC)、100℃以下で作動する高分子電解質膜(パーフルオロスルホン酸等)を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)、600℃以上の高温で作動するイオン導電性セラミックスを用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)などである。
【0003】
また、近年、300℃以下で作動する金属化合物(NaCo2O4、LaSr3Fe3O10等)を電解質膜とする燃料電池の研究が進められている。
燃料電池のセル構造は、その主な構成要素として、カーボンプレート、金属プレート等のガス不透過性板よりなるセパレータと、電解質膜と触媒層とガス拡散層からなる膜電極接合体(MEA) と、ガスをシールするためのガスケット(シール)を有している。
セパレータと電解質膜とを組み付けるに際して、その間にガスや冷媒をシールするためのガスシールを電解質膜の周囲部に設置する必要がある。
【0004】
例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の場合では、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などのセラミック電解質膜の周囲にガラスリングを設置しておくことにより、ガラスの軟化点温度以上の700℃〜900℃で運転するため、ガラスが締め付け応力によって変形し、ガスシールをしている。
また、金属リングや金属薄板を電解質膜に直接ロウ付けするガスシールも行われている(例えば、特許文献1、2と非特許文献1参照)。
図3は、上記従来燃料電池のセル構造の構成図である。図3に示されるように、アノード(6、7)とカソード(7,8)と、両電極の間に固体電解質膜1と、この一対の電極の更に外側に配された反応ガス通路を有する一対のセパレータ9と、シール材5とを備える積層状態の燃料電池のセル構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-021037号公報
【特許文献2】特開2010-021038号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】永田誠、江坂孝男、岩原弘育著、「無電解めっき法によるYSZ上への金属膜の調整とその高温型燃料電池における燃料極としての特性」DENKI KAGAKU、Vol.60, No.9、1992年9月発行、p.792-797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラスシールを用いる場合には、ガラスが軟化する温度以上での運転が必要であり、300℃以下で作動する金属化合物(NaCo2O4、LaSr3Fe3O10等)を固体電解質膜とする燃料電池のセル構造においては、上述したガラスリングシールを用いることが出来ないという問題があった。
一方で、このような金属化合物を固体電解質膜とする燃料電池のセル構造は、250℃程度の低温で運転することが出来るため、フッ素樹脂などの弾性体シールを用いることができる。しかし、金属化合物など無機結晶体は、剛体で脆くて割れやすく、表面研磨などによる凹凸除去処理を行うことができないため、金属化合物表面の凹凸により十分なシール効果を得ることができなかった。
また、金属薄板との直接ロウ付けは固体電解質膜への熱応力の緩和が難しく、固体電解質膜の割れが発生しやすいという問題があった。
以上の問題に鑑み、本発明は、固体電解質膜の割れを防止でき、確実にガスシールできる燃料電池のセル構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、本発明によれば、次のような構成によって解決される。
本発明による燃料電池のセル構造は、金属化合物を用いた固体電解質膜と、該固体電解質膜の一方の面に形成されたアノード触媒層及び該アノード触媒層の外側に設置されたガス拡散層からなるアノードと、前記固体電解質膜の他方の面に形成されたカソード触媒層及び該カソード触媒層の外側に設置されたガス拡散層からなるカソードと、この一対の電極の更に外側に配され、反応ガス通路を有する一対のセパレータと、前記固体電解質膜の外周部に配置される平滑層材と、該平滑層材と前記セパレータとの間に挿入されるシール材と、から構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明による300℃以下で作動する金属化合物(NaCo2O4、LaSr3Fe3O10等)を固体電解質膜とする燃料電池のセル構造においては、固体電解質膜の割れを防止でき、確実にガスシールできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による燃料電池のセル構造の実施例1の構成図である。
【図2】本発明による燃料電池のセル構造の実施例2の構成図である。
【図3】従来燃料電池のセル構造の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明による燃料電池のセル構造の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明による燃料電池のセル構造の実施例1の構成図である。図1において、1は固体電解質膜、2は平滑層材、3は金属体、4は平滑材、5はシール材、6はアノード触媒層、7はガス拡散層、8はカソード触媒層、9はセパレータを示している。
図1に示すように、本発明による燃料電池のセル構造は、固体電解質膜1と、固体電解質膜1の一方の面に形成されたアノード触媒層6及びアノード触媒層6の外側に設置されたガス拡散層7からなるアノードと、固体電解質膜1の他方の面に形成されたカソード触媒層8及びカソード触媒層8の外側に設置されたガス拡散層7からなるカソードと、この一対の電極の更に外側に配された反応ガス通路を有する一対のガス不透過性板で構成されたセパレータ9と、前記固体電解質膜1の外周部に配置される平滑層材2と、平滑層材2と前記セパレータとの間に挿入されるシール材5と、から構成される。平滑層材2は、電解質膜1の外周部にリング状金属体3と平滑材4との結合体で構成されたものであり、弾性体シーラントとしての働きを行う。
【0013】
実施例1による燃料電池のセル構造の各構成要素は、例えば、次のように作製することができる。
固体電解質膜1は、1400℃にて焼成したLaSr3Fe3O10粉末をペレット成型器でφ20mm厚さ1mmのペレットに成型することにより作製した。なお、この固体電解質膜1は必ずしもLaSr3Fe3O10粉末で作ったものである必要は無く、例えばNaCo2O4などの粉末でも良い。
平滑層材2は、Niフェルトの金属体3とぺースト状平滑材4(ガラス材)とを、熱処理することにより作製した。
【0014】
具体的には、軟化点400度以下の低融点ガラスフリットにトルエン溶媒を加え、超音波を印加しながら、攪拌混合しペーストを作製した。また、厚さ100μmのNiフェルトの金属体3を外形φ30mm、内径φ12mmのリング状に切り抜き、固体電解質膜1(ペレット)の上に設置した。Niフェルトの金属体3に、ガラスペーストの平滑材4をブラシにて塗布し、500℃の空気雰囲気下で熱処理を施し、Niフェルト金属体3とペレットを平滑材4(ガラス)によって一体化コートし、平滑層材2を作成した。なお、金属体3は、Ni元素に限定されるものではなく他の金属元素でも効果が得られる。
【0015】
また、金属体3は、板状だけではなく、箔、網、フェルト、多孔体などでも同様な効果が得られる。さらに、金属体3は、リング状に限られず、額縁状ものでも良い。
平滑材4としてのガラス材は、軟化点400度以下の低融点ガラスフリットにトルエンを溶媒として加え、攪拌混合して所定温度で焼結することにより作製できる。また、この平滑材4は、必ずしも低融点ではなく、焼成温度1400℃以下で軟化するガラス材であれば適用可能である。
【0016】
また、平滑材4は、ガラス材に限らずに、耐熱エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの耐熱樹脂、同様効果の平滑層材を構成することができる。
シール材5は、フッ素ゴムリングを使用し、平滑層材2に当るように設置した。なお、シール材5は、フッ素ゴムに限らず,エチレンプロピレンゴム,シリコンゴム,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの材料も使用可能である。
アノード触媒層6は、LaSr3Fe3O10粉末にPdを15wt%担持したものをエチレングリコールと混合して、固体電解質膜1にスクリーン印刷法で塗布して熱処理することにより作製した。
【0017】
ガス拡散層7は、東レ製のカーボンペーパー(TGPH60)を用いて形成することができる。
カソード触媒層8は、LaSr3Fe3O10粉末をエチレングリコールと混合して固体電解質膜1にスクリーン印刷法で塗布して熱処理することにより作製した。
セパレータ9は、炭素粉末と樹脂からなる材料をモールド成形により流路等を成形したものを使用した。炭素粉末は燐片状黒鉛紛を用いた。また、樹脂はフェノール樹脂を使用した。このように,炭素粉末と樹脂を混合したコンパウンドをモールド成形によりセパレータ9に加工した。
また、セパレータ9は、カーボン材だけでなく、金属セパレータを加工したものも使用可能である。
【0018】
実施例1による燃料電池のセル構造においては、凹凸が少なく、かつ割れにくい平滑層材2とシール材5とによりガスシールを行うことにより、300℃以下の温度範囲において、固体電解質膜への熱応力により電解質膜の割れ発生および電解質膜表面の凸凹によりガス漏れを防ぐことができる。また、平滑層材2をリング状金属体3と平滑材4(ガラス)との結合体とから構成することにより、コストの高い固体電解質膜の使用量を減らすことができる。また、平滑材4は、金属体3と一体化することにより、平滑材4の強度が補強できる。
【実施例2】
【0019】
図2は、本発明による燃料電池のセル構造の実施例2の構成図である。
図2において、図1と同じ構成要素は同じ符号で示されている。
実施例2に示す燃料電池のセル構造は、平滑層材2を固体電解質膜1の外周部の両面に設置した点で、実施例1の燃料電池のセル構造と異なっている。
ガラス材の平滑材4を平滑層材2として、次のようにして固体電解質膜1の外周部の両面に設置される。
【0020】
まず、1400℃にて焼成したLaSr3Fe3O10粉末をペレット成型器でφ20mm厚さ1mmのペレットに成型することにより固体電解質層1を作製した。
次に、軟化点400度以下の低融点ガラスフリットにトルエンを溶媒として加え、超音波を印加しながら攪拌混合してガラスペーストを作製した。
そして、このガラスペーストを固体電解質層1が形成されたペレットの外縁から4mmの部分にスクリーン印刷法により塗布した。最後に、塗布後のペレットを500℃の空気雰囲気下で熱処理を施し、シール設置用の平滑層材2を作製した。なお、平滑層材2は、実施例1と同様に、必ずしも低融点ではなく、焼成温度1400℃以下で軟化するガラス材であれば適用可能である。
【0021】
また、平滑層材2は、ガラス材に限らずに、耐熱エポキシ樹脂やフェノール樹脂でも、同様効果の平滑層材を構成することができる。
また、前記ガラスペーストを固体電解質層1であるペレットの外縁から4mmでなくても、所定な距離を有する部分に塗布すれば良い。
このように、凹凸が少なく、かつ割れにくい平滑材4とシール材5とによりガスシールを行うことにより、300℃以下の温度範囲において、固体電解質膜1への熱応力により電解質膜1の割れ発生および電解質膜1表面の凸凹によりガス漏れを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ……固体電解質膜
2 ……平滑層材
3 ……金属体
4 ……平滑材
5 ……シール材
6 ……アノード触媒層
7 ……ガス拡散層
8 ……カソード触媒層
9 ……セパレータ(ガス不透過性板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物を用いた固体電解質膜と、
該固体電解質膜の一方の面に形成されたアノード触媒層及び該アノード触媒層の外側に設置されたガス拡散層からなるアノードと、
前記固体電解質膜の他方の面に形成されたカソード触媒層及び該カソード触媒層の外側に設置されたガス拡散層からなるカソードと、
この一対の電極の更に外側に配され、反応ガス通路を有する一対のセパレータと、
前記固体電解質膜の外周部に配置される平滑層材と、
該平滑層材と前記セパレータとの間に挿入されるシール材と、
から構成されることを特徴とする燃料電池のセル構造。
【請求項2】
前記平滑層材は、前記固体電解質膜の外周先端部に取り付けられた金属体と、該金属体を覆うように設置された平滑材と、から構成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池のセル構造。
【請求項3】
前記平滑材は、ガラス材、耐熱エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの耐熱性の樹脂の何れかであることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池のセル構造。
【請求項4】
前記金属体は、少なくともNiベース材料又はSUS材であることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池のセル構造。
【請求項5】
前記金属体は、少なくともリング状の金属の板、箔、網、フェルト、多孔体で形成されていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の燃料電池のセル構造。
【請求項6】
前記平滑層材は、前記固体電解質膜の外周部の少なくとも片面に設置されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の燃料電池のセル構造。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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