説明

燃料電池の検査方法および検査装置

【課題】検査時間を短くする燃料電池の検査方法を提供する。
【解決手段】燃料電池の検査方法は、電解質膜と電解質膜の一方の側に配置されたアノード側触媒層と電解質膜の他方の側に配置されたカソード側触媒層とを含む発電体に第1の期間に第1の電圧値の直流電圧を印加する第1の工程と、発電体に第1の期間の後の第2の期間に第1の電圧値よりも低い第2の電圧値の直流電圧を印加すると共に、発電体に流れる電流値を検出する第2の工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、例えば、固体高分子型燃料電池は、電解質膜を一対の電極(アノードおよびカソード)で挟んで作製した膜電極接合体(以下「MEA(Membrane Electrode Assembly)」とも呼ぶ)にそれぞれ反応ガス(燃料ガスおよび酸化ガス)を供給して電気化学反応を引き起こすことにより、物質の持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。
【0003】
MEAは、プロトン伝導性向上のため、薄膜化等の検討がなされている。それに伴い、MEAのガス拡散電極との界面への異物混入、およびハンドリング上のキズ等で、MEAに求められるガス・電子の遮蔽機能が低下したMEAの発生確率が上がることが懸念されている。それらは燃料電池の性能を低下させるものであり、電気リークおよびガスリーク(以下、「リーク」とも呼ぶ)に対するMEAの検査により判定できる。従来、MEAに直流の一定電圧を印加し、MEAから検出される定常電流値から、MEAに生じたリークを検査する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−86130号公報
【特許文献2】特開2006−114440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記検査方法では、MEAにおけるリークを検査できるものの、MEAに直流電圧を印加したときに流れる電流が定常電流値になるのに時間がかかってしまい、燃料電池の検査時間が長くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の検査時間を短くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]燃料電池の検査方法であって、
電解質膜と前記電解質膜の一方の側に配置されたアノード側触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたカソード側触媒層と、を含む発電体に、第1の期間に、第1の電圧値の直流電圧を印加する第1の工程と、
前記発電体に、前記第1の期間の後の第2の期間に、前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値の直流電圧を印加すると共に、前記発電体に流れる電流値を検出する第2の工程と、を備える、燃料電池の検査方法。
【0009】
この燃料電池の検査方法では、発電体に、第1の期間に、第1の電圧値の直流電圧を印加し、第1の期間の後である第2の期間に、第1の電圧値よりも低い第2の電圧値を印加すると共に、発電体に流れる電流値を検出する。そのため、電流値を検出するときに、発電体における電気二重層の形成が完了しているため、発電体におけるリークの有無を検査することができる。よって、この燃料電池の検査方法では、発電体の検査を短時間で行うことができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の燃料電池の検査方法であって、さらに、
前記検出した電流値と所定の閾値とを比較する判定工程を備える、燃料電池の検査方法。
【0011】
この燃料電池の検査方法では、検出した電流値と予め定めた閾値とを比較し、発電体におけるリークの有無について判定する。そのため、閾値を予め定めておけば、発電体のリークの有無をより簡便に判定することができる。
【0012】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第1の期間の長さは、0.5秒以上2.5秒以下である、燃料電池の検査方法。
【0013】
この燃料電池の検査方法では、発電体に直流電圧を印加したときに流れる電流が定常電流値のときに検出することができ、発電体におけるリークの有無の検査時間を短くし、かつ読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。
【0014】
[適用例4]適用例1または適用例2に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第1の期間の長さと、前記第1の電圧値を前記第2の電圧値で除して算出した係数と、を乗じた値は、0.4以上4.0以下である、燃料電池の検査方法。
【0015】
この燃料電池100の検査方法では、発電体に直流電圧を印加したときに流れる電流が定常電流値のときに検出することができ、発電体におけるリークの有無の検査時間を短くし、かつ読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。
【0016】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記電流値の検出は、前記第2の期間の開始から所定の時間経過した時に行われる、燃料電池の検査方法。
【0017】
この燃料電池の検査方法では、発電体に印加する直流電圧が第1の電圧値から第2の電圧値へ変化するのに伴い、電気二重層の形成が完了していない電流値を検出することがないので、読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。
【0018】
[適用例6]適用例5に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記所定の時間は、1秒以上5秒以下である、燃料電池の検査方法。
【0019】
この燃料電池の検査方法では、発電体に印加する直流電圧が第1の電圧値から第2の電圧値へ変化するのに伴い、電気二重層の形成が完了していない電流値を検出することがない。また、電流値の検出が第2の期間の開始から5秒以内に行われると、発電体の電気二重層の形成が完了した後、速やかに電流値を検出する。よって、この燃料電池の検査方法では、発電体の検査をより短時間で、かつ高精度に行うことができる。
【0020】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第2の電圧値は、0.5ボルト以下である、燃料電池の検査方法。
【0021】
この燃料電池の検査方法では、発電体に印加する電圧値と検出される電流値とは、略比例関係になるので、発電体のサンプル間でのばらつきを小さくすることができる。
【0022】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第2の期間は、前記第1の期間の終了と同時に始まる期間である、燃料電池の検査方法。
【0023】
この燃料電池の検査方法では、第1の期間と第2の期間との間に余分な工程を含まず、発電体の検査を最短で行うことができる。
【0024】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、燃料電池の検査方法および製造方法、燃料電池スタック、燃料電池スタックの検査方法および製造方法、燃料電池を備えた移動体、燃料電池を備えた移動体の検査方法および製造方法等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例における燃料電池100の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明の実施例におけるMEA110の検査の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例におけるMEA110の検査の様子を概略的に示す説明図である。
【図4】本発明の実施例におけるMEA110に直流電圧を印加したときに検出された電流値の一例を示す説明図である。
【図5】比較例の検査方法における各時刻の検出電流値の関係を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例の検査方法における電圧を印加したMEA110から検出された電流値と検出時間とから算出したずれ量を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例の検査方法における電圧を印加したMEA110から検出された電流値と検出時間とから算出したずれ量を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例の検査方法におけるMEA110に印加した電圧値と検出された電流値とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施例:
A−1.燃料電池の構成
A−2.発電体の検査工程
A−3.精度評価:
B.変形例:
【0027】
A.実施例:
A−1.燃料電池の構成
図1は、本発明の実施例における燃料電池100の構成を概略的に示す説明図である。本実施例の燃料電池100は、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池である。燃料電池100は、セパレータ140とカソード側ガス流路層132とカソード側拡散層122と膜電極接合体(以下「MEA(Membrane Electrode Assembly)」とも呼ぶ)110とアノード側拡散層124とアノード側ガス流路層134とが複数積層されて締結されたスタック構造を有している。なお、MEA110は、本発明における発電体に相当する。
【0028】
図1に示すように、MEA110は、電解質膜112と、電解質膜112の一方の側に配置されたアノード116と、電解質膜112の他方の側に配置されたカソード114と、から構成されている。アノード116は、電解質膜112と反対側でアノード側拡散層124と接している。また、カソード114は、電解質膜112と反対側でカソード側拡散層122と接している。アノード側拡散層124とセパレータ140との間にはアノード側ガス流路層134が配置され、カソード側拡散層122とセパレータ140との間にはカソード側ガス流路層132が配置される。なお、図1には、燃料電池100の構成をわかりやすく示すために、1つのMEA110から構成される1つのセルのみを示し、他のセルの図示を省略している。
【0029】
電解質膜112は、フッ素系樹脂材料あるいは炭化水素系樹脂材料により形成されたイオン交換膜であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。アノード116およびカソード114は、電極反応を促進する触媒を提供する層であり、例えば白金を担持したカーボンと電解質とを含む材料により形成されている。アノード側拡散層124およびカソード側拡散層122は、電極反応に用いられる反応ガス(酸化ガスおよび燃料ガス)を面方向(燃料電池100の積層方向(図1参照)に略直交する方向)に拡散させる層であり、例えばカーボンクロスやカーボンペーパーにより形成されている。本実施例では、拡散層には、例えばPTFE樹脂によって撥水処理が施されている。
【0030】
セパレータ140は、ガスを透過しない緻密質であると共に導電性を有する材料、例えば圧縮成型された緻密質カーボン、金属、導電性樹脂により形成されている。アノード側ガス流路層134およびカソード側ガス流路層132は、反応ガスを燃料電池100の面方向に沿って流通させる反応ガス流路として機能する層であり、例えば、金属多孔体やカーボン多孔体などの導電性を有する多孔質材料により形成されている。本実施例では、アノード側ガス流路層134およびカソード側ガス流路層132の表面には、親水処理が施されている。
【0031】
図1では図示を省略しているが、燃料電池100は、いずれも燃料電池100を積層方向に貫通する燃料ガス供給マニホールドと、燃料ガス排出マニホールドと、酸化ガス供給マニホールドと、酸化ガス排出マニホールドと、を有している。燃料電池100に対して供給された燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールドを介して各セルのアノード側ガス流路層134に分配され、アノード側拡散層124で拡散され、さらにMEA110のアノード側に供給されてMEA110における電気化学反応に利用される。反応に利用されなかった燃料ガスは、燃料ガス排出マニホールドを介して外部に排出される。また、燃料電池100に対して供給された酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールドを介して各セルのカソード側ガス流路層132に分配され、カソード側拡散層122で拡散され、さらにMEA110のカソード側に供給されてMEA110おける電気化学反応に利用される。反応に利用されなかった酸化ガスは、酸化ガス排出マニホールドを介して外部に排出される。燃料ガスとしては、例えば水素ガスが用いられ、酸化ガスとしては、例えば空気が用いられる。
【0032】
A−2.発電体の検査工程
図2は、本発明の実施例におけるMEA110の検査の流れを示すフローチャートである。図3は、本発明の実施例におけるMEA110の検査の様子を概略的に示す説明図である。図4は、本発明の実施例におけるMEA110に直流電圧を印加したときに検出された電流値の一例を示す説明図である。本実施例におけるMEA110の検査では、MEA110に直流電圧を印加して、電圧印加時のMEA110に流れる電流を検出し、検出した電流値に基づいてMEA110の電子リークおよびガスリーク(以下、「リーク」とも呼ぶ)の有無を判定する。
【0033】
最初に、MEA110に直流電圧を印加する(図2のステップS210)。図3に示すように、MEA110は、一対の金属板160で挟み込まれ、締結される。一対の金属板160は、直流電源170と接続されている。また、一対の金属板160と直流電源170との間には、電流計180が設けられており、MEA110に流れる電流値を検出することができる。
【0034】
図4の電流曲線C1は、本実施例の検査方法における電流計測結果の一例を示している。また、図4の電流曲線C2は、後述する比較例の検査方法における電流計測結果の一例を示している。横軸は時間であり、縦軸は電流値である。図4に示すように、MEA110に電圧を印加し始めたときから時刻t1までの第1の期間AT1では、MEA110に第1の電圧値V1を印加する。第1の期間AT1では、直流電圧が印加されると、MEA110に電気二重層が形成され始めるため、電流曲線C1のように、徐々にMEA110に流れる電流値が上昇し、あるピークを迎えると徐々に電流値が減少する。なお、本実施例の検査方法における第1の電圧値V1は一定の電圧値の0.2V(ボルト)であり、時刻t1は1秒、すなわち第1の期間AT1の長さは1秒間である。
【0035】
次に、MEA110に第2の電圧値V2を印加する(図2のステップS220)。図4に示すように、時刻t1以降、すなわち第1の期間AT1の終了と同時に始まる第2の期間AT2では、MEA110に第1の電圧値V1よりも低い第2の電圧値V2を印加する。第1の期間AT1から第2の期間AT2に切り替わると、MEA110に印加される直流電圧が第1の電圧値V1よりも低い第2の電圧値V2に変化したために、第1の期間AT1でMEA110に形成され始めていた電気二重層の一部が放電する。そのため、印加電圧が変化した時刻t1のときの電流値Ip1はマイナスの電流値となっている。放電が終了した後、しばらくすると、第2の電圧値V2によりMEA110では電気二重層の形成が完了して、MEA110に流れる電流が一定の定常電流となる。なお、本実施例の検査方法における第2の電圧値V2は、一定の電圧値の0.1Vである。
【0036】
次に、MEA110に流れる電流値を検出する(図2のステップS230)。図4に示すように、時刻t1からしばらくして、MEA110におけるリークの有無を判定するための電流値を検出する時刻t2のときに、検出されるのが電流値Ip2である。本実施例の検査方法では、時刻t2のときに、すでにMEA110の電気二重層の形成が完了しているため、時刻t2以降は、MEA110に流れる電流値はほぼ一定の定常電流値である。ここで、時刻t2が小さい、すなわち第2の期間AT2の開始時刻t1からあまり時間が経過せずに、MEA110に流れる電流値を検出すると、MEA110の電気二重層の形成が完了しておらず、定常電流となっていない電流値を検出する場合がある。そのため、時刻t2は、例えば、第2の期間AT2の開始時刻t1から1秒以上経過していることが好ましい。また、MEA110に流れる電流値を検出するときに、MEA110の電気二重層の形成が完了していればよいので、時刻t2は、MEA110の検査時間を短くするために、例えば、第2の期間AT2の開始時刻t1から5秒以内であることが好ましい。なお、本実施例の検査方法では、時刻t2を4秒としており、MEA110から電流値Ip2を検出するときは、第2の期間AT2の開始時刻t1から3秒経過したときである。
【0037】
次に、検出された電流値Ip2と予め定められた閾値Ithとを比較し、MEA110におけるリークの有無を判定する(図2のステップS240)。MEA110にリークが生じている場合、リーク電流が発生するため、検出された定常電流の電流値は、リークが生じていないMEA110と比較して高い電流値となる。そのため、閾値Ithは、実験値からMEA110に生じたリークの有無が判定できる値に設定されている。電流値Ip2が閾値Ithよりも高い場合には、MEA110にリークが生じていると判定される。一方、電流値Ip2が閾値Ithよりも低い場合には、MEA110にリークが生じていないと判定される。
【0038】
以上説明したように、本実施例の検査方法では、MEA110に、第1の期間AT1に、第1の電圧値V1の直流電圧を印加し、第1の期間AT1の後である第2の期間AT2に、第1の電圧値V1よりも低い第2の電圧値V2を印加すると共に、時刻t2のときにMEA110に流れる電流値Ip2を検出する。そのため、以下に説明するように、MEA110の検査を短時間で行うことができる。
【0039】
比較例の検査方法では、第1の期間AT1および第2の期間AT2共に、MEA110に第2の電圧値V2を印加する。なお、第2の電圧値V2は、上述した実施例と同じ電圧0.1Vである。そのため、比較例の検査方法では、直流電圧が印加されると、図4に示す電流曲線C2のように、徐々にMEA110に流れる電流値が上昇し、あるピークを迎えると徐々に電流値が減少し、しばらくすると定常電流値になる。そのため、時刻t1のときにMEA110に流れる電流値Ip1’は、印加電圧の変化による放電の影響を受けず、マイナスの電流値にはならない。また、比較例の検査方法では、第1の期間AT1における印加電圧が実施例と比べて低いため、実施例と比較してMEA110の電気二重層の形成に時間がかかり、電流値が一定の定常電流値になるまでに時間がかかる。そのため、比較例の検査方法では、時刻t2のときにMEA110に流れる電流値Ip2’は、定常電流値ではなく、時刻t2よりもさらに時間が経過した時刻t3のときにMEA110に流れる電流値Ip3’が定常電流値となる。そのため、電流値Ip2’は、電流値Ip3’よりも大きい電流値となる。なお、図4に示す電流曲線C1のように、実施例における時刻t3のときの電流値Ip3は、定常電流値であり、実施例における時刻t2のときの電流値Ip2とほぼ同じ電流値となる。比較例の検査方法における時刻t3は、60秒である。
【0040】
図5は、比較例の検査方法における各時刻の検出電流値の関係を示す説明図である。図5の横軸は、時刻t3のときに検出された電流値Ip3’であり、縦軸は、時刻t2のときに検出された電流値Ip2’である。図5には、複数のサンプルのMEA110に、第2の電圧値V2の直流電圧を印加して、時刻t2のときに検出された電流値Ip2’と、時刻t3のときに検出された電流値Ip3’と、の関係が示されている。また、図5には、電流値Ip2’と電流値Ip3’との複数のデータから算出された近似直線L2が示されている。比較例の検査方法における電流値Ip2’と電流値Ip3’との電流値の差から算出された頻度分布における3σに対応する値は、8.7mA(ミリアンペア)であり、後述する実施例における値よりも大きく、すなわち電流値Ip2’と電流値Ip3’との差が大きい。そのため、比較例の検査方法における時刻t2に検出された電流値Ip2’と閾値Ithとの比較により、MEA110におけるリークの有無について、精度の高い判定をすることは難しい。
【0041】
これに対し、本実施例の燃料電池100の検査方法では、時刻t2のときに、MEA110における電気二重層の形成が完了しているため、MEA110におけるリークの有無を検査することができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査を短時間で行うことができる。
【0042】
また、本実施例の燃料電池100の検査方法では、時刻t2のときに検出した電流値Ip2と予め定めた閾値Ithとを比較し、MEA110におけるリークの有無について判定する。そのため、閾値Ithを予め定めておけば、MEA110のリークの有無をより簡便に判定することができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査を短時間で、かつ簡便に行うことができる。
【0043】
また、本実施例の燃料電池100の検査方法では、定常電流値となっていない電流値が検出されるのを回避するために、第2の期間AT2の開始時刻t1から1秒以上経過した時に電流値Ip2が検出されることが好ましい。また、MEA110の検査時間を短くするために、第2の期間AT2の開始時刻t1から5秒以内に電流値Ip2が検出されることが好ましい。電流値Ip2の検出が第2の期間AT2の開始時刻t1から1秒以上経過した時に行われると、MEA110に印加する直流電圧が第1の電圧値V1から第2の電圧値V2へ変化するのに伴い、電気二重層の形成が完了していない電流値を検出することがないので、読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。また、電流値Ip2の検出が第2の期間AT2の開始時刻t1から5秒以内に行われると、MEA110の電気二重層の形成が完了した後、速やかに電流値を検出するので、MEA110の検査時間を短くすることができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査をより短時間で、かつ高精度に行うことができる。
【0044】
また、本実施例の燃料電池100の検査方法では、第1の期間AT1の終了と同時に第2の期間AT2が始まっている。そのため、第1の期間AT1と第2の期間AT2との間に余分な工程を含まないため、MEA110の検査時間を最短にすることができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査をより短時間で行うことができる。
【0045】
A−3.精度評価:
図6および図7は、本発明の実施例の検査方法における電圧を印加したMEA110から検出された電流値と検出時間とから算出したずれ量を示す説明図である。図6には、MEA110に第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さと、第1の電圧値V1を第2の電圧値V2で除して算出した係数Cvと、の条件に対する電流値Ip2と電流値Ip3とから算出したずれ量を示している。このずれ量は、電流値Ip2から電流値Ip3を引いた電流値の差から算出された頻度分布における3σに対応する値である。
【0046】
図6に示すように、MEA110に第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さは、過度に短いまたは長い場合では、係数Cvの値によっては、ずれ量が大きいときがある。例えば、第1の期間AT1の長さが0.25秒で、第1の電圧値V1が0.3Vで第2の電圧値V2が0.2Vのときには係数Cvが1.5となり、ずれ量が3.81mAである。また、第1の期間AT1の長さが3秒で、第1の電圧値V1が0.2Vで第2の電圧値V2が0.1Vのときには係数Cvが2となり、ずれ量が4.74mAである。そのため、第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さは、図6の太線内部により示された、0.5秒以上2.5秒以下が好ましい。なお、上述した実施例では、第1の期間AT1の長さが1秒で、第1の電圧値V1が0.2Vで第2の電圧値V2が0.1Vなので係数Cvが2.0となり、ずれ量は0.43mAである。
【0047】
図7(a)では、図6とずれ量は同じで、太線の部分と後述する点線の部分とが異なる。図7(b)には、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた数値と、電流値Ip2と電流値Ip3とから算出したずれ量と、の関係を示している。図7(a)に示す点線内部は、図7(b)に示す点線内部と同じ範囲である。図7(b)には、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた数値が0.4および4について実線で示されている。図7(b)に示すように、MEA110に第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた値が、小さいおよび大きい場合では、ずれ量が大きいときがある。例えば、第1の期間AT1の長さが0.25秒で、第1の電圧値V1が0.25Vで第2の電圧値V2が0.2Vのときには係数Cvが1.25となり、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた値が0.3125であり、ずれ量は3.21mAである。また、第1の期間AT1の長さが3秒で、第1の電圧値V1が0.3Vで第2の電圧値V2が0.1Vのときには係数Cvが3となり、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた値が9であり、ずれ量は4.11mAである。そのため、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた値は、図7(b)の点線内部により示された、0.4以上4.0以下であることが好ましい。なお、上述した実施例では、第1の期間AT1の長さと係数Cvとを乗じた値は、2.0となる。
【0048】
図8は、本発明の実施例の検査方法におけるMEA110に印加した電圧値と検出された電流値とを示す説明図である。図8には、MEA110に印加した電圧値と、直流電圧を印加してから時刻t3のときに検出した電流値Ip3と、の関係を示している。横軸は電圧値であり、縦軸は電流値である。図8に示す直線は、比較的電圧値の高い範囲D1に属する点以外の点から算出した近似直線である。
【0049】
図8に示すように、MEA110に印加する電圧値が小さい場合、近似直線L1のように、検出された電流値は、印加した電圧値と略比例関係になる。MEA110に印加する電圧値が大きい場合、MEA110の特性上、検出された電流値は、範囲D1のように印加電圧と比例関係にはならない場合がある。そのため、MEA110に印加する電圧値が大きいと、MEA110から検出される複数のサンプル間での電流値のばらつきが大きくなる場合がある。よって、第2の期間AT2におけるMEA110に印加する第2の電圧値V2は、大きすぎないことが好ましく、0.5V以下であることが好ましい。
【0050】
以上説明したように、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110に直流電圧を印加したときに流れる電流が定常電流値のときに検出された方がよい。そのため、第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さが、0.5秒以上2.5秒以下であることが好ましい。この場合、電流値Ip2と電流値Ip3とのずれ量が小さく、MEA110におけるリークの有無の検査時間を短くし、かつ読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査を短時間で、かつ高精度に行うことができる。
【0051】
また、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110に直流電圧を印加したときに流れる電流が定常電流値のときに検出された方がよい。そのため、MEA110に直流電圧の第1の電圧値V1を印加する第1の期間AT1の長さと、第1の電圧値V1を第2の電圧値V2で除して算出した係数Cvと、を乗じた値が、0.4以上4.0以下であることが好ましい。この場合、電流値Ip2と電流値Ip3とのずれ量が小さく、MEA110におけるリークの有無の検査時間を短くし、かつ読み取り誤差の少ない、精度の高い検査をすることができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査を短時間で、かつ高精度に行うことができる。
【0052】
また、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110に直流電圧を印加したときに検出される電流値は、サンプル間でのばらつきが少ない方がよい。そのため、第2の電圧値V2は、0.5ボルト以下であることが好ましい。この場合、MEA110に印加する電圧値と検出される電流値とは、略比例関係になるので、MEA110のサンプル間でのばらつきを小さくすることができる。よって、本実施例の燃料電池100の検査方法では、MEA110の検査を短時間で行い、サンプル間でのばらつきを小さくすることができる。
【0053】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0054】
B1.変形例1:
上記実施例の検査方法では、第1の電圧値V1および第2の電圧値V2の具体的な数値を例示したが、これは一例であり、これに限られない。同様に、第1の期間AT1および第2の期間AT2の長さも上記実施例の数値に限られず、時刻t1と時刻t2と時刻t3とについても同様である。
【0055】
B2.変形例2:
上記実施例の検査方法における燃料電池100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施例の検査方法では、検査対象の発電体としてMEA110を使用しているが、発電体は、MEA110にアノード側拡散層124およびカソード側拡散層122を含んでもよいし、複数のMEA110で構成されてもよい。また、アノード側ガス流路層134やカソード側ガス流路層132がない発電体であってもよい。
【0056】
また、上記実施例の検査方法では、検査対象の電解質膜112とアノード116とカソード114とは面方向における面積を同じとしたが、異なっていてもよい。例えば、アノード116の面積が電解質膜112の面積よりも大きく、カソード114の面積が電解質膜112の面積よりも小さくてもよい。
【0057】
また、上記実施例の検査方法では、固体高分子型燃料電池のリークの有無を判定しているが、本発明は他の種類の燃料電池(例えば、ダイレクトメタノール形燃料電池やリン酸形燃料電池)のリークの有無を判定する検査にも適用することができる。
【0058】
B3.変形例3:
上記実施例における燃料電池100の検査方法では、MEA110に第1の期間AT1に印加する第1の電圧値V1および第2の期間AT2に印加する第2の電圧値V2の電圧値を一定の電圧値としたが、そうでなくてもよい。例えば、第1の電圧値V1は徐々に電圧値を上昇させるような一定ではない電圧値であってもよい。また、第2の電圧値V2は、検出される電流値Ip2が定常電流値となっていればよいので、第2の期間AT2に一定の直流電圧を印加することに限られない。なお、第1の電圧値V1および第2の電圧値V2が一定でない場合、第2の期間AT2における電流値Ip2が検出される時刻t2のときに印加された電圧値が、第1の電圧値V1における最大電圧値よりも低ければよい。
【0059】
また、上記実施例の検査方法では、MEA110に直流電圧を印加し始めると同時に第1の期間AT1が始まり、第1の期間AT1の終了と同時に第2の期間AT2が始まっているが、そうでなくてもよい。例えば、第1の期間AT1の開始よりも前に、MEA110に第1の電圧値V1とは異なる電圧値を印加してもよい。また、第1の期間AT1と第2の期間AT2の間に何らかの工程を含み、第1の期間AT1の終了と同時に第2の期間AT2が始まらなくてもよい。ただし、MEA110に電圧を印加し始めると同時に第1の期間AT1が始まり、第1の期間AT1の終了と同時に第2の期間AT2が始まる方が、MEA110の検査時間を短くできるため、好ましい。
【0060】
B4.変形例4:
上述した実施形態、実施例および変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0061】
100…燃料電池
110…MEA
112…電解質膜
114…カソード
116…アノード
122…カソード側拡散層
124…アノード側拡散層
132…カソード側ガス流路層
134…アノード側ガス流路層
140…セパレータ
160…金属板
170…直流電源
180…電流計
V1…第1の電圧値
V2…第2の電圧値
C1…電流曲線
C2…電流曲線
Cv…係数
AT1…第1の期間
AT2…第2の期間
Ip1…電流値
Ip1’…電流値
Ip2…電流値
Ip2’…電流値
Ip3…電流値
Ip3’…電流値
Ith…閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の検査方法であって、
電解質膜と前記電解質膜の一方の側に配置されたアノード側触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたカソード側触媒層と、を含む発電体に、第1の期間に、第1の電圧値の直流電圧を印加する第1の工程と、
前記発電体に、前記第1の期間の後の第2の期間に、前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値の直流電圧を印加すると共に、前記発電体に流れる電流値を検出する第2の工程と、を備える、燃料電池の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の検査方法であって、さらに、
前記検出した電流値と所定の閾値とを比較する判定工程を備える、燃料電池の検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第1の期間の長さは、0.5秒以上2.5秒以下である、燃料電池の検査方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第1の期間の長さと、前記第1の電圧値を前記第2の電圧値で除して算出した係数と、を乗じた値は、0.4以上4.0以下である、燃料電池の検査方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記電流値の検出は、前記第2の期間の開始から所定の時間経過した時に行われる、燃料電池の検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池の検査方法であって、
前記所定の時間は、1秒以上5秒以下である、燃料電池の検査方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第2の電圧値は、0.5ボルト以下である、燃料電池の検査方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池の検査方法であって、
前記第2の期間は、前記第1の期間の終了と同時に始まる期間である、燃料電池の検査方法。
【請求項9】
燃料電池の検査装置であって、
電解質膜と前記電解質膜の一方の側に配置されたアノード側触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたカソード側触媒層と、を含む発電体に、第1の期間には、第1の電圧値の直流電圧を印加し、前記第1の期間の後の第2の期間には、前記第1の電圧値よりも低い第2の電圧値の直流電圧を印加する電圧印加部と、
前記第2の期間に、前記発電体に流れる電流値を検出する検出部と、を備える、燃料電池の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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