説明

燃料電池の温度制御装置

【課題】発電部における温度の不均一を抑制するとともに、発電部の温度を予め定めた温度範囲にすることにより、発電効率を向上させ、かつ、発電を開始してから必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮することができる燃料電池の温度制御装置を提供する。
【解決手段】燃料や酸化剤の電気化学反応によって発電を行うセル2を積層化して発電部1を構成し、その積層化した各セル2の間にセル2に対して燃料や酸化剤を供給する流路が形成されているセパレータ6sa,6scが設けられている燃料電池の温度制御装置において、セパレータ6sa,6scにおける流路が形成されている面とは反対側の面に、予め定められた電流が通電されることにより発熱し、かつ予め定められた温度に達した場合に前記通電が阻害されて前記発熱が停止するように構成された自己温度制御式の発熱体7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の温度を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料および酸化剤を電気化学的に反応させて発電をおこなうように構成されており、その燃料としてメタノールを使用し、これを改質することなく直接発電部に供給して発電をおこなうように構成されたダイレクトメタノール型の燃料電池(以下、DMFCと記す。)が知られている。
【0003】
DMFCは常温で液体のメタノールを燃料として使用しているため、燃料の取り扱い性がよく、これに加えて、高圧ガス等を燃料として使用しないことから、小型化が可能である。そのため、DMFCは小型携帯型の電子機器用の充電器あるいは電源として、また10kWサイズの充電器としての使用が検討されている。
【0004】
一方で、DMFCは水素を反応させて発電をおこなう水素型の燃料電池と比較して発電効率が低いことが知られている。したがって、DMFCの発電効率を向上させることが望まれており、そのための方法の一つとして、発電部の温度を制御することが検討されている。すなわち、発電部のアノードにおけるメタノールの酸化反応は発熱反応であるから、発電部の温度を高めることによりその反応速度を向上させて発電効率を向上させることが検討されている。しかしながら、発電部の温度が過剰になると、アノードに供給したメタノールの一部が電解質膜を透過してカソードに到達し、そのカソードにおいて酸素と反応する燃料クロスオーバーと称される現象が生じてDMFCの発電効率が低下する可能性がある。このような発電部の過剰な温度上昇は、いわゆる単セルを積層化して発電部を構成した場合においては、特にその発電部の中央付近のセルの面方向の中央部分で生じる傾向があり、これは、積層化した各セルの外側部分は気中放熱により冷却され、これに対して中央部分の熱は気中放熱されにくいことによると考えられる。その結果、複数のセルを積層化して発電部を構成した場合においては、上述したような温度の不均一が原因となって発電効率が低下する可能性がある。
【0005】
また、上述したように、メタノールの酸化反応は発熱反応であるから、発電を開始した時点においては発電部の温度が低いことが原因となって発電効率が低い。そのため、発電部の温度が予め定められた温度に達するまでの間において、他の電源から小型携帯型の電子機器に電力を供給し、発電部の温度が十分に高くなってから電力の供給源をDMFCに切り換えることが検討されている。しかしながらこのような構成では、他の電源を備える必要があることから、その分、小型化には不利になる。
【0006】
上記に加えて、燃料電池は原理的に水を生成するため、例えば、寒冷季においてその水が凍結した場合には、発電部に対して燃料を供給できなくなる可能性がある。これに加えて、発電部における電解質膜が凍結した場合には、その凍結が原因となって電解質膜が破損して発電そのものができない可能性がある。
【0007】
燃料電池が上述した発電を開始してから必要十分な電力を出力までの時間を短縮したり、寒冷季や寒冷地において燃料電池を使用するために、発電部の温度を制御するための技術の一例が特許文献1や特許文献2に記載されている。特許文献1には、燃料電池用セパレータに、通電することにより発熱するシート状の発熱体を貼り付け、その発熱体が発生させる熱によってセパレータを昇温させるように構成した積層構成部品が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、発電部に燃料を供給するための流路溝が形成されているアノード側金属板において、その流路溝が形成される面とは反対側の面に、シート状の発熱体を設けた燃料電池が記載されている。そのシート状の発熱体は、ポリイミドなどの耐熱性樹脂によって形成されるフィルムと、そのフィルムの表面に配置されて予め定められた電圧が印加されることによりジュール熱を発生させる金属(すなわち、抵抗体)とを備えている。これに加えて、この特許文献2に記載された燃料電池は、アノード側金属板の温度を検出する温度センサと、その検出された温度に基づいてシート状の発熱体に印加する電圧を制御する制御部と、シート状の発熱体に供給する電圧を確保するための電源とを備えている。したがって、特許文献1や特許文献2に記載された装置によれば、シート状の発熱体が発生する熱によって発電部が昇温されるため、燃料電池が必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮することができる、とされている。また、特許文献2に記載された燃料電池によれば、検出された温度に基づいてシート状の発熱体に印加する電圧をオンオフ制御するように構成されているため、発電部の温度を予め定めた温度の範囲に制御することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−220947号公報
【特許文献2】特開2006−92842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や特許文献2に記載された構成によれば、シート状の発熱体が発電部を温めるため、発電部が低温な状態であったとしても、必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮できる可能性がある。しかしながら、上記の発熱体はこれに接触するセパレータやアノード側金属板の全面を均一に加熱するため、上述したように発電部の温度が不均一になる可能性があり、その結果、燃料電池全体としての発電効率を向上できない可能性がある。これに加えて、特許文献2に記載された構成では、温度センサや制御部が外的な衝撃によって脱離したり故障した場合には、抵抗体の発熱を制御することができず、発電部を過剰に加熱してしまう可能性がある。更にこれに加えて、燃料電池は局部的に酸やアルカリを生じるため、それらの酸やアルカリによって抵抗体の被膜が腐食させられた場合にはショートが生じる可能性がある。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、発電部における温度の不均一を抑制するとともに、発電部の温度を予め定めた温度範囲にすることにより、発電効率を向上させ、かつ、発電を開始してから必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮することができる燃料電池の温度制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、燃料や酸化剤の電気化学反応によって発電をおこなうセルを積層化して発電部を構成し、その積層化した各セルの間に前記セルに対して前記燃料や酸化剤を供給する流路が形成されているセパレータが設けられている燃料電池の温度制御装置において、前記セパレータにおける前記流路が形成されている面とは反対側の面に、予め定められた電流が通電されることにより発熱し、かつ予め定められた温度に達した場合に前記通電が阻害されて前記発熱が停止するように構成された自己温度制御式の発熱体が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、シート状に形成された複数の前記発熱体が、前記セパレータの面方向でその中心部から外側に向けてに予め定められた間隔を空けて設けられ、前記外側に配置される前記発熱体における前記通電が阻害される温度は、その発熱体よりも前記中心部側に配置される前記発熱体における前記通電が阻害される温度に比較して高くなるように構成されていることを特徴とする燃料電池の温度制御装置である。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記発熱体は、通電されて発熱する導電体と、その導電体の発する熱によって熱膨張するマトリックスとを備え、そのマトリックスが熱膨張することに伴って前記導電体における前記通電が阻害されることにより前記発熱が抑制されるように構成されたPTCヒーターを含むことを特徴とする燃料電池の温度制御装置である。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか発明において、前記多孔質構造体は、前記セパレータは、一方の面に前記発電部のアノード側に前記燃料を供給する燃料チャンネルが形成され、他方の面に前記発電部のカソード側に前記酸化剤として酸素を含む空気を供給する空気チャンネルが形成されたバイポーラ−プレートを含み、そのバイポーラ−プレートの内部に前記発熱体が設けられていることを特徴とする燃料電池の温度制御装置である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか発明において、前記セパレータは、熱伝導性を有するカーボンと、カーボンおよび金属製繊維の複合体と、金属性材料とのいずれかによって形成されていることを特徴とする燃料電池の温度制御装置である。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか発明において、前記燃料は、メタノールおよびメタノール水溶液を含むことを特徴とする燃料電池の温度制御装置である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、セパレータにおける燃料や酸化剤の流路が形成される面とは反対側の面に、通電されることにより発熱し、その発熱に伴って予め定められた温度まで昇温すると通電が阻害されて発熱が停止される自己温度制御式の発熱体が設けられている。そのため、その発熱体が発生する熱によって発電部を温めることができる。その結果、発電部における燃料や酸化剤の電気化学的な反応の反応速度を向上できることから、発電部に燃料を供給して発電を開始してから発電部が必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮することができる。しかも、その発熱体は予め定められた温度に達すると、その通電が阻害されて発熱が抑制されるため、言い換えれば自動的に発熱を停止するように構成されているため、発電部の温度を予め定められた温度範囲に維持することが可能になる。これらの結果、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、シート状に形成された複数の発熱体がセパレータの面方向でその中心部から外側に向けて予め定められた間隔を空けて設けられ、外側に配置される発熱体の通電が阻害される温度が、これよりも中心部側に設けられる発熱体の前記温度よりも高くなるように構成されている。言い換えれば、発熱体の最大発熱温度がセパレータの面方向でその中心部から外側に向けて段階的もしくは連続的に高くなるように構成されている。すなわち、複数のセルを積層化して発電部を構成すると、その積層の中心付近のセルの面方向で中央部の温度は他の部分に比較して高温となるが、上述したように発電体を構成し、またセパレータに設けることによって複数のセルを積層化して構成された発電部に生じる温度の不均一を抑制することができる。その結果、各セルの面方向で均一もしくはほぼ均一に上述した燃料や酸化剤の電気化学的な反応をおこなわせることができ、複数のセルを積層化して構成された発電部を備えた燃料電池においても、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明による効果と同様の効果に加えて、発熱体は、通電されて発熱する導電体と、その導電体の発する熱によって熱膨張するマトリックスとを備え、そのマトリックスが熱膨張することに伴って導電体の通電が阻害されることにより導電体の発熱が抑制されるように構成されたPTCヒーターを含んでいる。上述したように、このPTCヒーターは温度を検出するための温度センサや、発熱を制御するための制御装置などを必要としないため、その分、部品コストを削減することが可能になる。これに加えて、PTCヒーターは、原理的に過剰に発熱しないため、安全かつ安定的に熱を得ることができる。したがって、このような構成の発熱体を発電部の昇温に用いることにより、発電部の温度が過剰になることを未然に防止して、その温度を予め定められた温度範囲にすることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、バイポーラ−プレートの内部にシート状の発熱体を設けることにより、バイポーラ−プレートに発熱機能を持たせることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、セパレータやバイポーラ−プレートをカーボンあるいはカーボンと金属製繊維との複合体もしくは金属性材料によって形成することにより、例えば合成樹脂材料によって形成される従来のセパレータやバイポーラ−プレートに比較して熱伝達性を向上させることができる。そのため、発熱体による発電部の昇温を効率的におこなうことができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、反応性が高く、エネルギ密度の高いメタノールを燃料に用いることができる。すなわち、メタノールやメタノール水溶液を直接発電部に供給して発電をおこなうDMFCの発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る燃料電池の発電部の構成の一例を示す断面図である。
【図2】この発明に係る発熱体の構成の一例を模式的に示す図である。
【図3】セパレータの面方向における発熱体の配置の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎにこの発明を具体的に説明する。図1に、この発明に係る燃料電池の発電部の構成の一例を示す断面図を示してある。詳細は図示しないが、燃料電池は燃料を貯留する燃料タンクを備え、その燃料タンクは燃料供給管路を介して発電部1に連通されている。燃料の供給は電気的に駆動されるポンプを使用する方法、毛細管力を生じるウイックを燃料供給管路に設けることにより、ウイックの生じる毛細管力によって燃料を供給する方法、燃料タンクの内圧を高めることにより燃料タンクから燃料を押し出して供給する方法、燃料として例えば水素ガスを使用する場合にはそのガス圧を利用して燃料を供給する方法、すなわち燃料タンクと発電部との圧力差を利用して燃料を供給する方法など、従来知られている方法で行えばよい。
【0026】
発電部1は、図1に示す例では、複数のセル2が積層化されたスタックとして構成されている。セル2は実質的な燃料電池に相当する部分であり、セル2は電解質として高分子電解質膜3を備え、その表裏両面側に触媒層(図示せず)がそれぞれ設けられている。その高分子電解質膜3には、一例としてパーフルオロスルホン酸系高分子膜(例えばNafion 117(登録商標))やポリベンゾイミダゾールなどのフッ素系の高分子膜を用いることができる。
【0027】
燃料としてメタノールを使用する場合には、アノード側触媒層は触媒の存在下でメタノールと水とを反応させるものであるから、例えば、チタン、ステンレス(SUS)などによって形成されたメッシュ構造体の表面に触媒として白金およびルテニウムの等量混合物を被覆して形成することができる。なお、燃料としては無希釈のメタノールと、水によって予め定められた濃度に調整されたメタノール水溶液とのいずれをも使用することができる。
【0028】
これに対してカソード側触媒層は触媒の存在下で外部から供給された酸素、すなわち酸化剤と、アノードから高分子電解質膜3を透過してきたプロトンと、電気回路(図示せず)を移動してきた電子とを反応させるように構成されている。カソード側触媒層は、例えば、チタン、ステンレス(SUS)などによって形成されたメッシュ構造体の表面に触媒として白金を被覆して形成することができる。
【0029】
各触媒層の表面側には、ガス拡散層4,5がそれぞれ設けられている。各ガス拡散層4,5は各触媒層の表面側に燃料や酸化剤として用いられる酸素を含む空気を均一に拡散させて供給するための空隙を確保するためのものであり、導電性の多孔構造とされている。ガス拡散層4,5としては一例として、カーボン紙あるいはカーボン繊維をメッシュ構造に編んだものを使用することができる。これに加えて、燃料電池では燃料および酸化剤の電気化学的な反応に伴って原理的に水が生成されるため、その水が各ガス拡散層4,5に付着することにより、燃料および空気の拡散あるいは流動が阻害されないように、各ガス拡散層4,5に水和処理を施すことが好ましい。その水和処理は上記のカーボン紙あるいはカーボン繊維に酸化スズを含浸させる方法など、従来知られている方法で行えばよい。
【0030】
ガス拡散層4,5の表面側に集電板(図示せず)がそれぞれ設けられている。集電板は、アノードの触媒反応で生じた電子を捕捉してカソードに移動させるとともに、発電した電力を燃料電池の外部に取り出すためのものである。そのため、集電板は電子の捕捉を向上させたり、電気的な腐食に対する耐久性を向上させるために、これに加えて燃料や空気を触媒層に到達させるために、一例として鉄、銅、チタン、ステンレス(SUS)などの金属製のメッシュ構造体に白金や金などの導電性材料を被覆して形成することができる。
【0031】
そして、上記の高分子電解質膜3および各触媒層ならびに各ガス拡散層4,5そして各集電板を積層し、例えばホットプレス機で加熱加圧して一体構造化することによりセル2が構成される。
【0032】
各セル2を積層化してスタックを形成する場合には、例えば一つのセル2のアノード側と、これに隣接して配置される他のセル2のカソード側とがセパレータ6sa,6scを挟んで対向するように配置することができる。セパレータ6sa,6scは一つのセル2を他のセル2に対してシールして各セル2ごとに発電をおこなわせるように構成されている。これに加えて、セパレータ6sa,6scには各セル2に対して燃料や酸化剤を供給するための流路が形成されており、すなわち、セパレータ6sa,6scは各セル2に燃料や酸化剤を供給するための部材としても機能する。図1に示す例においては、セル2のアノード側に燃料を供給するための流路(図示せず)が形成されたアノード側セパレータ6saが設けられ、セル2のカソード側に酸化剤を供給するための流路(図示せず)が形成されたカソード側セパレータ6scが設けられている。したがって、詳細は図示しないが、セパレータ6saに形成された燃料の流路は上述した燃料供給管路に連通され、セパレータ6scの酸化剤の流路は例えば発電部1の外部に連通されている。このセパレータ6sa,6scに替わってプレートの一方の面に上述した燃料を供給するために流路を形成し、他方の面に上述した酸化剤を供給するための流路を形成した、いわゆるバイポーラ−プレートを使用することもできる。
【0033】
アノード側セパレータ6saと、カソード側セパレータ6scとの間にこの発明に係る発熱体7が設けられている。発熱体7はアノード側セパレータ6saと、カソード側セパレータ6scとのいずれか一方に一体化して設けてもよい。発熱体7はシート形状あるいはプレート形状に形成されていて、図示しない電源から予め定められた電流が印加されることにより発熱し、その発熱によって予め定められた温度に達した場合に、上述した通電が阻害もしくは遮断されて発熱が抑制され、また上記の予め定められた温度を下まわった場合には、上述した電流が再び印加されることにより発熱するように構成されている。セパレータ6sa,6scに替わってバイポーラ−プレートを用いる場合には、バイポーラ−プレートの内部に発熱体7を設ければよい。
【0034】
セパレータ6sa,6scやバイポーラ−プレートはカーボンや金属によって形成したり、カーボンとこれを補強するための合成樹脂製の繊維あるいは金属製繊維とによって形成してもよい。セパレータ6sa,6scやバイポーラ−プレートを熱伝導性を有するカーボンや金属を含む材料によって形成することにより、セパレータ6sa,6scやバイポーラ−プレートに熱伝導性を持たせることができる。
【0035】
図2に、この発明に係る発熱体の構成の一例を模式的に示してある。この発熱体7には一例として、通電されることにより発熱し、その発熱による温度上昇に伴って電気抵抗値が正の係数をもって増大する特性を有するいわゆるPTCヒーターを用いることができる。より具体的に説明すると、発熱体7は中空のフレーム8を備え、そのフレーム8の中空部に導体9,10が設けられている。フレーム8は例えばフィルムやプレートを貼り合わせて構成されている。導体9,10は導電性を有する導電性材料によって形成されており、図示しない電源から予め定められた電流が印加されるようになっている。フレーム8の中空部には、温度に応じて膨張・収縮するマトリックスが充填されており、そのマトリックスに導電性を有するカーボンブラック、すなわち炭素微粒子が分散させられている。マトリックスは、例えば、その温度が高くなることに伴って膨張し、その温度が低くなることに伴って収縮する熱膨張性を有する合成樹脂材料によって形成されている。図2において、温度に応じて膨張・収縮するマトリックスの樹脂成分を符号11で示してある。上記の炭素微粒子がこの発明における導電体に相当し、マトリックスがこの発明におけるマトリックスに相当する。
【0036】
上述したように構成された発熱体7の作用について説明する。発熱体7や燃料電池が低温状態の場合には、図2に示したように、隣接する炭素微粒子同士が接触するとともに、導体9,10に接触してこれらの間に炭素微粒子の導線12が形成される。導体9,10に予め定められた電流を印加すると、上記の導線12を電気が流れる。導線12は炭素微粒子の電気抵抗に応じたジュール熱を発生するため、マトリックスの樹脂成分11は炭素微粒子が発するジュール熱によって温められて熱膨張する。そのため、高温状態では、図2に示したように、マトリックスの樹脂成分11によって隣接する炭素微粒子同士が引き離されて上記の導線12の通電が遮断あるいは阻害される。すなわち、通電による炭素微粒子のジュール熱が発生しなくなる。その結果、発熱体7の温度が低下し、これに伴ってマトリックスの樹脂成分11が次第に収縮して元の大きさに戻る。そして、隣接する炭素微粒子同士が接触するとともに、導体9,10に接触して導体9,10の間に炭素微粒子の導線12が再び形成される。
【0037】
このように発熱体7は例えばサーモスタットなどのような温度制御機器を用いないで自己の温度を制御するように構成されており、したがって、この発熱体7は自己温度制御式の発熱体と言うことができる。発熱体7としては、上述したように、従来一般的に市販されているPTC特性を用いたヒーターを使用することができる。
【0038】
図3に、セパレータの面方向における発熱体の配置の一例を模式的に示してある。図3に示す例では、帯状かつ矩形状に形成された複数のシート状の発熱体7がセパレータ6sa,6scの幾何学的な中心からその外側に向けて予め定められた間隔をあけて配置されている。各発熱体7は電流供給部13,14を介して電気的に接続されている。これに加えて、各発熱体7は、上述した通電が阻害される温度、言い換えれば最大発熱温度が異なるように構成されている。一例として、セパレータ6sa,6scの外側部分に配置される発熱体7の最大発熱温度は、これよりもセパレータ6sa,6scの幾何学的な中心部側に配置される発熱体7の最大発熱温度よりも高くなるように構成されている。より具体的には、例えば、DMFCの発電部の最適温度が70℃前後であるから、上述したセパレータ6sa,6scの中心部に配置される発熱体7の最大発熱温度を60℃とし、これよりも外側に配置される発熱体7の最大発熱温度を段階的に引き上げて、最も外側部分に配置される発熱体7の最大発熱温度を70℃とすることができる。なお、複数の発熱体7を、セパレータ6sa,6scの幾何学的な中心部からその外側部分に向けて予め定められた間隔をあけて同心円状に配置してもよい。
【0039】
つぎに、上述したように構成した発電部1の作用について説明する。例えば、燃料電池が低温に曝されており、その低温状態から発電を開始する場合には、燃料タンクから発電部1に対して燃料を供給するとともに、発熱体7に通電して発熱させて発電部1の温度を上昇させる。発熱体7の温度が上昇することに伴って発電部1においては、燃料および酸化剤の電気化学的な反応の反応速度が上昇して発電部1の発電効率が上昇する。そして、発電部1の温度が予め定められた温度に達すると、発熱体7は上述したように自動的に通電が遮断もしくは阻害されてその発熱が抑制される。これに加えて、セパレータ6sa,6scの外側部分に配置される発熱体7の最大発熱温度は、セパレータ6sa,6scの幾何学的な中心部側に配置される発熱体7の最大発熱温度よりも高くなるように構成されている。そのため、各セル2の面方向における温度の不均一が防止もしくは抑制される。
【0040】
したがって、発電部1に自己温度制御式の発熱体7を設けることにより、発熱体7の発生する熱によって燃料電池が必要十分な電力を出力するまでの時間を短縮することができる。すなわち燃料電池の起動速度を向上させることができる。このような発電部1に発熱体7を設けた構成は、発電部1が凍結するような低温状態から燃料電池を起動させる場合に特に有効である。これに加えて、発熱体7は予め定められた温度に達すると、自動的に発熱を停止するため、発電部1の温度を予め定めた温度範囲に維持することができる。更にこれに加えて、発電部1の外側に配置される発熱体7の最大発熱温度を、これよりも中心部側に配置される発熱体7の最大発熱温度よりも高くすることにより、発電部1を構成する各セル2の面方向における温度の不均一を防止もしくは抑制することができる。これらの結果、燃料電池の発電効率を従来になく高くすることができる。
【実施例1】
【0041】
つぎに、上述した発熱体7を適用したDMFCの実験機を作成し、その発電特性を評価した。発熱体7は厚さ1.0mmのシート状に形成し、その最大発熱温度を70℃とした。これをアノード側セパレータ6saとカソード側セパレータ6scとの間に配置した。高分子電解質膜3にはフッ素系の高分子膜を用いた。アノード側触媒層の触媒には、白金とルテニウムの等量混合物を用いた。カソード側触媒層の触媒には、白金を用いた。各ガス拡散層4,5には、厚みが1.0mmのカーボン繊維を用いた。セパレータ6sa,6scはカーボンによって形成した。セル2の面積を20cmに調整し、これに水で希釈したメタノール水溶液を供給して最大の発電電力が得られるまでの時間を測定した。
【実施例2】
【0042】
発熱体7を、図3に示したように、セパレータ6sa,6scの幾何学的な中心からその外周側に向けて予め定められた間隔をあけて配置するとともに、セパレータ6sa,6scの中心部側に配置される発熱体7の最大発熱温度を60℃とし、これよりも外側に配置される発熱体7の最大発熱温度を段階的に引き上げて、最も外側部分に配置される発熱体7の最大発熱温度を70℃とした。その他の構成は実施例1と同様の構成にした。
【比較例】
【0043】
発熱体7を設けない以外は、実施例1や実施例2と同様の構成にした。
【評価】
【0044】
比較例のDMFC実験機は燃料の供給を開始してから約7分経過した後に最大の発電電力を出力することが認められた。これに対して実施例1のDMFC実験機は燃料の供給を開始してから約3分経過した後に最大の発電電力を出力することが認められた。また、実施例1のDMFC実験機を凍結させた後に、同様の試験を行った。その結果、燃料の供給を開始する時に、発熱体7に通電することによりスムーズに発電を開始させることができた。実施例2のDMFC実験機は、実施例1のDMFC実験機と同様にスムーズな発電の開始が認められた。これに加えて、実施例2のDMFC実験機は、セル2の幾何学的な中心部側と外側部分との温度差が抑制されていることが認められた。これらの結果から、発電部1に自己温度制御式の発熱体7を設けることにより、燃料電池の起動速度を向上できることが認められた。これに加えて、セル2の外側に配置される発熱体7の最大発熱温度をセル2の中心部側に配置される発熱体7の最大発熱温度よりも高くすることにより、発電部1を構成する各セル2の面方向における温度の不均一を防止もしくは抑制できることが認められた。したがって、この発明に係る燃料電池の温度制御装置によれば、燃料電池の発電効率を従来になく高くすることができる。そのため、この発明に係る温度制御装置を備えたDMFCは小型携帯型の機器用電源として優れている。
【符号の説明】
【0045】
1…発電部(スタック)、 2…セル、 6sa…アノード側セパレータ、 6sc…カソード側セパレータ、 7…自己温度制御式の発熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料や酸化剤の電気化学反応によって発電をおこなうセルを積層化して発電部を構成し、その積層化した各セルの間に前記セルに対して前記燃料や酸化剤を供給する流路が形成されているセパレータが設けられている燃料電池の温度制御装置において、
前記セパレータにおける前記流路が形成されている面とは反対側の面に、予め定められた電流が通電されることにより発熱し、かつ予め定められた温度に達した場合に前記通電が阻害されて前記発熱が停止するように構成された自己温度制御式の発熱体が設けられている
ことを特徴とする燃料電池の温度制御装置。
【請求項2】
シート状に形成された複数の前記発熱体が、前記セパレータの面方向でその中心部から外側に向けてに予め定められた間隔を空けて設けられ、
前記外側に配置される前記発熱体における前記通電が阻害される温度は、その発熱体よりも前記中心部側に配置される前記発熱体における前記通電が阻害される温度に比較して高くなるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の温度制御装置。
【請求項3】
前記発熱体は、通電されて発熱する導電体と、その導電体の発する熱によって熱膨張するマトリックスとを備え、そのマトリックスが熱膨張することに伴って前記導電体における前記通電が阻害されることにより前記発熱が抑制されるように構成されたPTCヒーターを含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池の温度制御装置。
【請求項4】
前記セパレータは、一方の面に前記発電部のアノード側に前記燃料を供給する燃料チャンネルが形成され、他方の面に前記発電部のカソード側に前記酸化剤として酸素を含む空気を供給する空気チャンネルが形成されたバイポーラ−プレートを含み、
そのバイポーラ−プレートの内部に前記発熱体が設けられている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池の温度制御装置。
【請求項5】
前記セパレータは、熱伝導性を有するカーボンと、カーボンおよび金属製繊維の複合体と、金属性材料とのいずれかによって形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池の温度制御装置。
【請求項6】
前記燃料は、メタノールおよびメタノール水溶液を含む
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の燃料電池の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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