説明

燃料電池の電極体の製造方法

【課題】触媒層とガス拡散層の間の電子伝導性や水透過性を低下させることなく、電解質膜の膨張収縮性を高めることなく、かつ、ガス拡散層の撥水性を阻害することなく、膜電極接合体もしくは触媒層とガス拡散層の接着強度を高めることのできる燃料電池の電極体の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜1の表面に触媒層2が形成された膜電極接合体(MEA)と、ガス拡散層5を用意する第1の工程と、少なくとも触媒層2の表面粗度よりも寸法が大きく、かつ、電解質膜1よりも軟化点の低いドライな接着粉体8を、触媒層2の接着面もしくはガス拡散層5の接着面のいずれか一方に散布し、次いで、双方の接着面を当接させ、熱圧着して接着粉体8を軟化させて電極体10(MEGA)を製造する第2の工程と、からなる、燃料電池の電極体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成する電極体(MEGA)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池のセルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側の触媒層およびカソード側の触媒層と、から膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を形成し、さらにその外側にガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて構成されている。実際には、この燃料電池セルが発電性能に応じた段積だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
【0003】
上記する触媒層は、電解質膜やガス拡散層、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、触媒を担持した導電性担体、電解質、分散溶媒を含んだ触媒溶液(触媒インク)を塗工し、次いで該触媒インク表面をホットプレートで乾燥させる湿式塗工法にて一般に製造されている。なお、この塗工作業は、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。
【0004】
たとえば電解質膜表面に触媒層が形成される場合、この触媒層は電解質膜よりも小面積に形成されるのが一般的であり、電解質膜の周縁の露出部には、ガス拡散層の毛羽の突き刺さりを防止し、さらには、膜電極接合体周縁に射出成形等で形成されるガスケットの補強材としての機能を備えた補強用ポリマーフィルムが接着され、この補強用ポリマーフィルムとガス拡散層の間に、接着剤が塗布されて膜電極接合体(MEA)とガス拡散層(GDL)との熱圧着がおこなわれている。
【0005】
ところで、上記する熱圧着は、電解質膜が軟化せず、損傷しない程度の温度条件および圧力条件でおこなわれるものであるが、このような温度および圧力条件で接着された、補強用ポリマーフィルムとガス拡散層の間の密着強度は極めて弱いものである。したがって、湿度変化に伴って電解質膜が膨張収縮する場合、電極体(MEGA)をハンドリングする場合、もしくはガスケットを射出成形する場合に電極体に応力や外力が作用した際に、ガス拡散層が補強用ポリマーフィルムから剥離し易くなってしまい、もしくは、位置ずれし易くなってしまう。
【0006】
ところで、特許文献1に開示の膜電極接合体の製造方法では、触媒層とガス拡散層の間に、カーボン粉末とフッ素系弾性共重合体を含む結着剤とからなるカーボン層を介在させて、触媒層およびガス拡散層を接着する方法が開示されている。
【0007】
しかし、触媒層とガス拡散層の間にこのような接着層を介在させてしまうと、触媒層とガス拡散層の間の電子伝導性が阻害され、また、水透過性が低下することは理解に易く、水透過性の低下はフラッティングを助長する原因にもなり、発電性能の低下が必至となる。
【0008】
また、膜電極接合体とガス拡散層の間の接着強度を高めるべく、液状の接着剤を触媒層とガス拡散層の間に介在させようとした場合に、膜電極接合体側に接着剤を層状に塗布した際には、双方の接着前に接着剤が電解質膜内にしみ込んで該電解質膜の膨張収縮を促進させる原因となるし、ガス拡散層側に液状の接着剤を塗布した際には、接着剤がガス拡散層内にしみ込んで該ガス拡散層の気孔を閉塞し、その撥水性を阻害する原因となり、したがって、液状の接着剤を使用するのは好ましい方策と言えない。
【0009】
【特許文献1】特開2005−310660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒層とガス拡散層の界面における電子伝導性や水透過性を低下させることなく、ガス拡散層の撥水性を阻害することなく、膜電極接合体(の触媒層)とガス拡散層(の集電層)の界面の接着強度を高めることのできる燃料電池の電極体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池の電極体の製造方法は、電解質膜の表面に少なくともアノード側もしくはカソード側いずれか一方の触媒層が形成された膜電極接合体(MEA)と、ガス拡散層を用意する第1の工程と、少なくとも前記触媒層の表面粗度よりも寸法が大きく、かつ、前記電解質膜よりも軟化点の低いドライな接着粉体を、ガス拡散層に対する触媒層の接着面もしくは触媒層に対するガス拡散層の接着面のいずれか一方に散布し、次いで、双方の接着面を当接させ、熱圧着して接着粉体を軟化させて電極体(MEGA)を製造する第2の工程と、からなるものである。
【0012】
本発明の電極体の製造方法は、触媒層とガス拡散層(具体的には、ガス拡散層を構成する拡散層基材と集電層(MPL)のうち、触媒層と当接するMPL)の間の接着力を高めること目的とし、ドライで電解質膜よりも軟化点の低い接着粉体を触媒層とガス拡散層(のMPL)の接着界面に散布等し、膜電極接合体とガス拡散層を熱圧着する際の熱によって接着粉体を軟化させて双方を接着し、電極体(MEGA)を製造するものである。
【0013】
ここで、ガス拡散層の集電層と触媒層双方の表面粗度は、それらの形成方法(たとえば、触媒層に関して言えば、電解質膜に触媒インクを塗布や散布してホットプレスするのか、あるいは支持フィルム表面に形成された触媒層を電解質膜に熱転写するのか等)によって多様に変化するものである。これらの表面粗度に関し、本発明者等の知見によれば、触媒層の表面粗度(Ra)がおよそ0.1〜1.0μmの範囲にあり、MPLの表面粗度が0.5〜5.0μmの範囲にあることが特定されている。
【0014】
また、上記する接着粉体は、電解質膜よりも軟化点が低く、したがって、通常の膜電極接合体とガス拡散層との熱圧着時の温度(たとえば100〜130℃程度)の際に軟化して接着剤としての作用を奏するものである。なお、ここで言う軟化点とは、ガラス転移温度(Tg)、熱機械分析(TMA)における軟化温度のいずれであってもよいが、少なくとも電解質膜との関係において、相対的にその軟化点が低いものであればよい。
【0015】
上記する本発明の電極体の製造方法を適用するに際し、ドライな接着粉体が相対的に表面粗度の小さな触媒層の表面粗度よりも小さくなってしまうと、MPLの表面の凹部内(この凹部に細孔が連通している場合には細孔内)に接着粉体が埋もれてしまうことは勿論のこと、触媒層の表面の凹部内にも接着粉体が埋もれてしまうこととなる。したがって、この場合には、接着粉体が軟化しても触媒層およびMPLの界面間に存在し難くなることから、所望の接着力を期待することはできない。
【0016】
そこで、本発明の製造方法では、相対的に表面粗度が小さな触媒層の該表面粗度よりも少なくとも寸法の大きな接着粉体を使用することにより、たとえば触媒層表面にこの接着粉体を散布した際に該触媒層の表面凹凸の凸部よりも接着粉体をMPL側に突出させておき、これが軟化した際に、触媒層の表面の凹部から軟化した接着粉体をMPL側に溢れ出させることにより、軟化した接着粉体からなる接着剤にて触媒層とMPLを接着させることが可能となる。なお、ガス拡散層のMPL側に接着粉体を散布する場合には、その表面粗度よりも大きな寸法の接着粉体を使用するのが望ましく、そうすることで、MPL表面の凹凸内、もしくはこれに連通する細孔内に接着粉体が落ち込むことを抑止できる。したがって、MPL側に接着粉体を散布する場合には、触媒層側に接着粉体を散布する際に使用する該接着粉体よりも寸法の大きな接着粉体が使用されることになる。
【0017】
ここで、接着粉体が触媒層表面(もしくはMPL表面)に島状に分布し、したがって、微小な接着点がこれらの界面に多数存在するものであることから、軟化した接着粉体が接触界面の全面を遮断することはなく、しかも接着強度の高い界面を形成することができる。すなわち、軟化した接着粉体によって、触媒層と集電層の間の電子伝導性が阻害される危険性はなく、水透過性の低下やこれに起因するフラッティングの助長といった危険性もない。また、微小な接着点が多数存在することにより、セル内の湿度変化に起因する電解質膜の膨張や収縮の際に生じる応力を、たとえば膜電極接合体の全体に分散できるという効果を期待することもでき、膜電極接合体とガス拡散層との間の剥がれを効果的に抑止することに繋がる。
【0018】
また、上記する接着粉体の素材の選定に際し、燃料電池の使用環境において、それが分解しない、もしくは分解し難い素材であるのが望ましく、したがって、耐酸性、耐温水性、耐熱性に優れた素材を選定するのがよい。
【0019】
これらの性能を充足する素材が燃料電池の電解質膜や触媒層、ガス拡散層等に使用されていることに鑑みれば、接着粉体の素材も燃料電池構成部材で使用される素材の中から選定されるのが好ましく、また、そうすることで、本発明の製造方法を適用した際の製造コストの高騰を抑止できることにも繋がる。
【0020】
上記する性能を充足し、軟化した際の接着性能にも優れた接着粉体の素材として、パーフルオロ系フッ素樹脂を挙げることができる。
【0021】
本発明者等の検証によれば、従来は膜電極接合体(の触媒層)とガス拡散層(のMPL)の間の接着強度はゼロであったのに対して、上記する本発明の製造方法によって製造された電極体では、130〜140mN/1cm幅程度の接着力が集電層と触媒層の界面で得られることが実証されている。
【0022】
本発明の電極体の製造方法によれば、ガス透過性、水透過性および電子伝導性を低下させることなく、さらには、製造コストを何ら高騰させることなく、膜電極接合体およびガス拡散層界面の接着強度を高めることができ、セル内の湿度変化に対して剥離強度の高い電極体(MEGA)を製造することができる。したがって、本発明の製造方法によって製造された電極体を具備する燃料電池は、近時その生産が拡大しており、車載機器に高性能かつ高耐久を要求している電気自動車やハイブリッド車に好適である。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池の電極体の製造方法によれば、ガス透過性、水透過性および電子伝導性を低下させることなく、さらには、製造コストを何ら高騰させることなく、膜電極接合体とガス拡散層の間の接着強度(剥離強度)が高く、高耐久な電極体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、触媒層側に接着粉体を散布し、その後に膜電極接合体とガス拡散層を熱圧着する方法であるが、ガス拡散層を構成する集電層側に散布する方法であってもよいことは勿論のことである。
【0025】
図1は、膜電極接合体(MEA)の触媒層上に接着粉体が散布された状況を説明した図であり、図2は図1のII部を拡大して示した断面図である。
【0026】
まず、不図示の容器にて、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液を生成する。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0027】
生成された触媒溶液を電解質膜1上に流し込み、不図示の塗工ブレードにて触媒溶液を層状に引き伸ばしてカソード側の塗膜を形成し、これをたとえば温風乾燥する。ここで、電解質膜1は、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成されている。なお、塗膜の形成方法はこの方法に限定されるものではなく、スプレー塗工やインクジェット法、スクリーン印刷法などの従来公知の形成方法が適用できる。
【0028】
電解質膜1上にカソード側の塗膜を形成したら、これをたとえば温風乾燥炉内に通すことにより、図示のごとく、電解質膜1上にカソード側の触媒層2が形成される。
【0029】
次に、この触媒層2の表面にドライな接着粉体8をまばらに散布する。この接着粉体としては、耐酸性、耐温水性、耐熱性に優れ、その軟化点が電解質膜1よりも低く、さらには、軟化した際の接着性に優れたパーフルオロ系フッ素樹脂からなる粉体を使用するのが好ましい。
【0030】
本発明者等の知見によれば、この触媒層2の表面(図1において視認できる表面)の凹凸(表面粗度:Ra)は、およそ0.1〜1.0μmの範囲にある。図2の拡大断面図で示すように、触媒層2には多数の細孔2aが存在し、一般には表面の凹部に細孔が連通したミクロ構造を呈している。
【0031】
図示のごとく触媒層2上に接着粉体8を散布するに際し、触媒層2の表面の凹部内に接着粉体8が嵌り込み、さらには細孔2a内に落ち込まないようにするために、接着粉体8の寸法は触媒層2の表面粗度よりも大きな寸法に設定されている。
【0032】
次いで、電解質膜1周縁で触媒層2と密着していない露出領域にガス拡散層5の毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防止するための保護ポリマーフィルム6を接着させ、集電層52と拡散層基材51とから構成されたガス拡散層5を該集電層52と触媒層2が当接するように位置決めし、外側のプレス定盤P,Pで熱圧着することにより、膜電極接合体とカソード側のガス拡散層5との接着がおこなわれる。なお、この熱圧着は、100〜130℃程度のアニール温度、1〜3MPa程度のプレス圧にて実行される。
【0033】
アノード側もカソード側と同様の方法にて膜電極接合体にガス拡散層を熱圧着することにより、保護ポリマーフィルム6と拡散層基材51との間の接着強度に加えて(従来の電極体では、膜電極接合体とガス拡散層の界面強度はこの接着強度のみであった)、触媒層と集電層の間に高い接着強度を備えた電極体を形成することができる。
【0034】
ここで、ガス拡散層5を構成する拡散層基材51としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から繊維状導電性無機物質(無機導電性繊維)であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。また、集電層52はアノード側、カソード側の触媒層から電子を集める電極の役割を果たすものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0035】
上記する本発明の電極体の製造方法によれば、触媒層の表面粗度よりも寸法の大きな接着粉体を該触媒層表面に島状に散布し、これを軟化させて触媒層と集電層を接着させることにより、これらの界面における水透過性、電子伝導性を阻害することなく、該界面の全領域における多数のスポット接着に起因する高い接着強度の電極体を形成することができる。
【0036】
図4は、上記する製造方法によって製造された電極体(MEGA)をその周縁のガスケットとともに示した縦断面図である。
【0037】
膜電極接合体4とガス拡散層5とからなる電極体10を不図示の成形型に移載し、該成形型にゴム等の射出樹脂を注入する射出成形により、電極体10の周縁にシール用のガスケット7が成形される。なお、ガスケット7には、冷却水供給用および排水用のマニホールドM、燃料ガスや酸化剤ガスを供給するためのマニホールドMと、反応後のガスを排気するためのマニホールドMが形成されており、ガスケット7に設けられた無端状のリブ71が各マニホールドMを囲繞することによって流体シールが形成されている。
【0038】
さらに、図示を省略するが、図4で示す構造に対して、カソード側およびアノード側にガス流路溝や冷却水流路溝が形成されたセパレータを配することにより、燃料電池セルが構成される。
【0039】
実際の燃料電池は、所望する発電量に応じて上記燃料電池セルが所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にエンドプレート、テンションプレート等を備え、両端のテンションプレート間に圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0040】
[触媒層と集電層の界面の密着強度試験とその結果]
本発明者等は、上記する電極体の製造方法によって膜電極接合体とガス拡散層が接着された電極体のテストピースを作成し、触媒層および集電層の界面における密着強度を測定した。
【0041】
ここで、粒径が50μmのパーフルオロ系フッ素樹脂からなる接着粉体を使用し、この接着粉体を触媒層の全表面積の1/50程度となるように散布し、膜電極接合体とガス拡散層を、100℃、1.3MPa、4分間のプレス条件にて熱圧着して電極体を製造した。
【0042】
密着強度の測定方法は、上記する電極体を15mmの方形に切断し、ガス拡散層側を両面テープにて下部固定し、MEA側を接着テープにて固定し、MEA側の接着テープをオートグラフ(ロードセルが50N)を使用して、その引張速度を1mm/秒にて引張り、その際の応力変位曲線を得、該曲線中で応力が安定した領域における接着力を測定した。
【0043】
その結果、触媒層と集電層の間の界面において、200mN/1.5cm幅の接着力が得られることが実証された。このことから、従来は界面の接着強度がゼロであった触媒層と触媒層の間に、高い接着強度を見込むことができ、該界面における高い剥離強度を備えた、したがって高耐久な電極体を具備する燃料電池を製造することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】膜電極接合体(MEA)の触媒層上に接着粉体が散布された状況を説明した図である。
【図2】図1のII部を拡大して示した断面図である。
【図3】触媒層上に接着粉体が散布されたMEAとガス拡散層を熱圧着している状況を説明した図である。
【図4】本発明の製造方法によって製造された電極体(MEGA)をその周縁のガスケットとともに示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…電解質膜、2…カソード側触媒層、3…アノード側触媒層、4…膜電極接合体(MEA)、5…ガス拡散層、51…拡散層基材、52…集電層(MPL)、6…保護フィルム、7…ガスケット、71…リブ、8…接着粉体、10…電極体(MEGA)、P…プレス定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を構成する電極体の製造方法であって、
電解質膜の表面に少なくともアノード側もしくはカソード側いずれか一方の触媒層が形成された膜電極接合体(MEA)と、ガス拡散層を用意する第1の工程と、
少なくとも前記触媒層の表面粗度よりも寸法が大きく、かつ、前記電解質膜よりも軟化点の低いドライな接着粉体を、ガス拡散層に対する触媒層の接着面もしくは触媒層に対するガス拡散層の接着面のいずれか一方に散布し、次いで、双方の接着面を当接させ、熱圧着して接着粉体を軟化させて電極体(MEGA)を製造する第2の工程と、からなる、燃料電池の電極体の製造方法。
【請求項2】
前記接着粉体がパーフルオロ系フッ素樹脂からなる、請求項1に記載の燃料電池の電極体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−49933(P2010−49933A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213030(P2008−213030)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】