説明

燃料電池のMEAの製造方法

【課題】MEAの触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制することを目的とする。
【解決手段】転写用の触媒電極層3aが表面に形成された転写用シート8を電解質膜2に押圧することで触媒電極層3aを電解質膜2に転写し、それによって燃料電池のMEAを製造する際に、触媒電極層3aの外側に実際に積層される構成部材6を用いて転写用シート8を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のMEA(Membrane Electrode Assembly)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池においては、電解質膜に一対の触媒電極層が形成されたMEA(Membrane Electrode Assembly)を用いたものが知られている。特許文献1には、このM
EAの製造方法として、転写用触媒層を転写用フィルムの表面に形成し、転写用触媒層が電解質膜に接するように転写用フィルムを電解質膜に重ね合わせた後、プレス板でホットプレスして転写用触媒層を電解質膜に転写する方法が記載されている。
【0003】
MEAの触媒電極層における電解質膜に接触している面とは反対側の面(外側の面)には、燃料電池の単セルを形成するための構成部材が積層される。ここで、構成部材とは、触媒電極層に供給される燃料又は酸化剤が流れる多孔体流路や触媒電極層に供給される燃料又は酸化剤を拡散させるための拡散層等のことである。
【0004】
MEAの両触媒電極層に構成部材が積層されたものをセパレータによって挟持することで燃料電池の単セルが形成される。また、複数の単セルを締結荷重をかけて積層することで燃料電池のスタックが形成される。
【特許文献1】特開2004−296216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池において、触媒電極層に積層される構成部材の該触媒電極層に接合される面には凹凸が存在する場合がある。このような凹凸が存在すると、触媒電極層と構成部材とを接合した際に、これらの接合面における面圧の分布が不均一となる。
【0006】
該接合面において面圧分布の不均一が生じると、面圧がほとんどかかっていない部分では、電子の供給が阻害されるために発電が行われない可能性がある。
【0007】
触媒電極層の材料としては一般に白金(Pt)等の貴金属が用いられている。上記のように触媒電極層において発電が行われない部分が生じた場合、該部分の触媒電極層は利用されないことになるため、触媒電極層を形成する材料を無駄に使用したこととなる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制することが出来る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、触媒電極層が表面に形成された転写用シートを、触媒電極層の外側に実際に積層される構成部材を用いて電解質膜に押圧することで、触媒電極層を電解質膜に転写するものである。
【0010】
より詳しくは、本発明に係る燃料電池のMEAの製造方法は、
転写用の触媒電極層が表面に形成された転写用シートを電解質膜に押圧することで触媒電極層を電解質膜に転写し、それによって燃料電池のMEAを製造する方法であって、
触媒電極層を電解質膜に転写する際に、燃料電池において触媒電極層の電解質膜と接触する面とは反対側の面に積層される構成部材の触媒電極層に接合されるべき面によって転写用シートを電解質膜に押圧することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、電解質膜に形成された触媒電極層の分布が、完成した状態の燃料電池の触媒電極層と構成部材との接合面における実際の面圧の分布に応じたものとなる。従って、触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制することが出来る。
【0012】
また、発泡焼結体の表面には凹凸が形成され易い。そこで、前記構成部材が発泡焼結体によって形成されている場合に、本発明に係るMEAの製造方法を適用してもよい。この場合、本発明の効果がより顕著となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料電池のMEAを製造する際に、触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る燃料電池のMEAの製造方法の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
(燃料電池の単セルの概略構成)
図1は、本実施例に係る燃料電池を構成する単セルの一方の触媒電極層側の概略構成を示す図である。尚、本実施例に係る燃料電池は固体高分子型燃料電池である。
【0016】
本実施例に係る燃料電池の単セルはMEA1を有している。MEA1は、電解質膜2と電解質膜2に形成された一対の触媒電極層3a、3bとによって構成されている。触媒電極層3a、3bはPtを主成分として形成されている。
【0017】
触媒電極層3aの電解質膜2と接触する面とは反対側の面には多孔体層6が積層されている。本実施例に係る多孔体層6は、多孔体流路層5と該多孔体流路層5の触媒電極層3a側の面に塗布されたマイクロポーラス層(以下、MPLと称する)4とによって構成されている。
【0018】
多孔体流路層5は、触媒電極層3aに供給される燃料ガス又は酸化ガスが流れる流路であり、発泡焼結体で形成されている。MPL4は、MEA1中に含まれる水分を好適な量に維持するための層であり、カーボンブラック及び撥水性樹脂(例えば、PTFE)を主成分として形成されている。
【0019】
尚、本実施例においては、多孔体層6が本発明に係る構成部材に相当する。また、多孔体流路層にMPLを塗布しない構成とする場合もある。この場合、多孔体流路層が本発明に係る構成部材に相当する。
【0020】
多孔体層6の外側の面(即ち、多孔体流路層5のMPL4が塗布されている面とは反対側の面)にはセパレータ7が配置されている。尚、本実施例においては、触媒電極層3b側の概略構成も上記と同様である。つまり、本実施例に係る燃料電池の単セルは、MEA1とその両電極側に設けられた多孔体層6とをセパレータ7が挟持することで形成されている。
【0021】
また、図1において、矢印は、触媒電極層3aと多孔体層6との接合面における面圧の分布を表している。各矢印の長さが、触媒電極層3aと多孔体層6との接合面における対応する位置の面圧の大きさを表している。
【0022】
図1に示すように、多孔体流路層5の表面には凹凸が存在している。そのため、MPL4が塗布されている多孔体層6の触媒電極層3aと接合される面に凹凸が存在することになる。その結果、図1において矢印で示すように、触媒電極層3aと多孔体層6との接合面における面圧の分布は不均一となる。このような面圧分布の不均一が生じると、触媒電極層3aにおいて面圧がほとんどかかっていない部分が発生する。
【0023】
該部分では、電子の供給が阻害されるために発電が行われない可能性がある。この場合、該部分の触媒電極層3aは利用されないことになるため、触媒電極層3aを形成する材料を無駄に使用したこととなる。
【0024】
(MEAの製造方法)
そこで、本実施例では、触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制すべく、以下のような方法でMEAを製造する。図2は、本実施例に係るMEAの製造方法を説明するための図である。
【0025】
MEA1を製造する際には、図2に示すような、触媒電極層3aが表面に形成された転写用シート8が用いられる。つまり、表面の触媒電極層3aが電解質膜2に接触するように転写用シート8を電解質膜2に重ね合わせ、その後、転写用シート8を電解質膜2に押圧することで、触媒電極層3aを電解質膜2に転写する。
【0026】
ここで、本実施例においては、転写用シート8を押圧する際に、触媒電極層3aに実際に積層される多孔体層6を用いる。つまり、多孔体層6の触媒電極層3aと接合される面(MPL4が塗布されている面。以下、押圧面と称する)によって転写用シート8を押圧する。
【0027】
このときの圧力は、MEA1を有する単セルを複数積層してスタックを製造するときの締結荷重よりも大きい値とする。尚、図2において、9は転写用シート8を電解質膜2に押圧するための加圧用冶具であり、白抜き矢印は加圧方向を表している。
【0028】
これによれば、転写用シート8を電解質膜2に押圧した際に電解質膜2にかかる圧力の分布が、多孔体層6の押圧面の凹凸に応じた分布となる。電解質膜2においては、押圧時の圧力が高いほど、触媒電極層3aの転写量が多くなる。そのため、電解質膜2に転写される触媒電極層3aの量の分布は、押圧時に電解質膜2にかかる圧力の分布に応じたものとなる。
【0029】
図3は、上記のように電解質膜2に触媒電極層3aを転写したときの電解質膜2おける触媒電極層3aの転写量の分布を示す上面図である。斜線部は、転写用シート8を電解質膜2に押圧した際に十分な圧力がかかったために、十分な量の触媒電極層3aが形成された部分を表している。A部及びB部は、転写用シート8を電解質膜2に押圧した際にかかった圧力が斜線部よりも小さかったため、触媒電極層3aの量が斜線部よりも少ない部分を表している。B部は、A部に比べて押圧時の圧力が低く、触媒電極層3aの量が少なくなっている。C部は、転写用シート8を電解質膜2に押圧した際に圧力がほとんどかかっていないために、触媒電極層3aが形成されていない部分を表している。
【0030】
上記の結果、電解質膜2に形成された触媒電極層3aの分布が、完成した状態の燃料電池の触媒電極層3aと多孔体層6との接合面における実際の面圧の分布に応じたものとなる。例えば、図3におけるC部のように、完成した状態の燃料電池おいて、触媒電極層3aと多孔体層6との接合面に面圧がほとんどかからないために触媒電極層3aが形成されていたとしても発電が行われない部分には、MEA1の製造時において触媒電極層3aが
形成されない。
【0031】
従って、本実施例に係るMEAの製造方法によれば、触媒電極層3aを形成する材料の無駄な使用を抑制することが出来る。
【0032】
尚、電解質膜2に触媒電極層3bを形成する場合も上記と同様の方法を用いることが好ましい。つまり、触媒電極層3bが表面に形成された転写用シートを電解質膜2に押圧することで、触媒電極層3bを電解質膜2に転写する。このとき、触媒電極層3bに実際に積層される多孔体層を用いて転写用シートを押圧する。これにより、電解質膜2に形成された触媒電極層3bの分布が、完成した状態の燃料電池の触媒電極層3bと多孔体層との接合面における実際の面圧の分布に応じたものとなる。
【0033】
(拡散層を設ける場合)
燃料電池においては、多孔体流路層と触媒電極層との間に、燃料ガス又は酸化ガスを拡散するための拡散層をさらに積層する場合がある。この場合、MPLは拡散層の触媒電極層側の面に塗布され、多孔体層が多孔体流路、拡散層及びMPLによって構成される。
【0034】
このように多孔体流路層と触媒電極層との間に拡散層が設けられていると、多孔体流路の表面に存在する凹凸が拡散層によって吸収される場合がある。この場合、触媒電極層と多孔体層との接合面における面圧分布のばらつきは、拡散層が設けられていない場合に比べて小さくなる。そのため、拡散層が設けられることにより該面圧分布が略均一となる場合には、MEAの製造時において、電解質膜の全面に触媒電極層を形成させてもよい。
【0035】
しかしながら、多孔体流路の表面に存在する凹凸が拡散層によって十分に吸収しきれない場合等のように、拡散層が設けられた場合であっても、触媒電極層と多孔体層との接合面における面圧分布が不均一となる場合がある。このような場合は、上記と同様、触媒電極層に実際に積層される多孔体層(拡散層含む)により、転写用シートを電解質膜に押圧することで触媒電極層を電解質膜に転写することが好ましい。この場合、拡散層を含む多孔体層が本発明に係る構成部材に相当する。
【0036】
これによれば、拡散層が設けられる場合においても、触媒電極層を形成する材料の無駄な使用を抑制することが出来る。
【0037】
尚、本発明に係る構成部材は、上記のような構成に限られず、その表面に凹凸が形成されるものであれば、本発明に係るMEAの製造方法を適用した場合の効果を得ることが出来る。
【0038】
(発電性能の検査方法)
上記のように、本実施例に係るMEAの製造方法によれば、電解質膜2への触媒電極層3a、3bの不必要な転写を抑制することが出来る。しかしながら、電解質膜2に実際に転写された触媒電極層3a、3bの量が過剰に少ないと、そのMEA1を用いて単セルを製造した場合に該単セルによって十分な発電量を得ることが困難となる。
【0039】
ここで、本実施例に係る製造方法によってMEAを製造した場合、触媒電極層3a、3bの電解質膜2への転写前後における、電解質膜2の重量の差又は転写用シート8の重量の差に基づいて、電解質膜2に実際に転写された触媒電極層3a、3bの量を算出することが出来る。
【0040】
そこで、本実施例においては、MEA1の製造時において、電解質膜2に実際に転写された触媒電極層3a、3bの量を上記の方法によって算出する。そして、その量に基づい
て、該MEA1を用いて単セルを製造した場合の該単セルの発電性能を検査する。
【0041】
例えば、電解質膜2に実際に転写された触媒電極層3a、3bの単位面積当たりの重量が所定値以下の場合、そのMEA1(又は該MEA1を用いて製造された単セル)を不良品と判断する。
【0042】
このような発電性能の検査を行うことにより、複数の単セルを積層してスタックを製造したときの該スタックの性能のばらつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例に係る燃料電池を構成する単セルの一方の触媒電極層側の概略構成を示す図。
【図2】実施例に係るMEAの製造方法を説明するための図。
【図3】実施例に係るMEAの製造方法により電解質膜に触媒電極層を転写したときの電解質膜おける触媒電極層の分布を示す上面図。
【符号の説明】
【0044】
1・・・MEA
2・・・電解質膜
3a・・触媒電極層
3b・・触媒電極層
4・・・マイクロポーラス層(MPL)
5・・・多孔体流路層
6・・・多孔体層
7・・・セパレータ
8・・・転写用フィルム
9・・・押圧用治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用の触媒電極層が表面に形成された転写用シートを電解質膜に押圧することで触媒電極層を電解質膜に転写し、それによって燃料電池のMEAを製造する方法であって、
触媒電極層を電解質膜に転写する際に、燃料電池において触媒電極層の電解質膜と接触する面とは反対側の面に積層される構成部材の触媒電極層に接合されるべき面によって転写用シートを電解質膜に押圧することを特徴とする燃料電池のMEAの製造方法。
【請求項2】
前記構成部材が発泡焼結体によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池のMEAの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−118307(P2010−118307A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292389(P2008−292389)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】