説明

燃料電池ガス分配

【課題】流体流れプレートで流体流れチャネルを形成するのに伴う問題、及び/または、セルごとに流体流れチャネルの性能が異なることに起因する問題を最小化すること。
【解決手段】膜−電極アセンブリと、陽極プレートとを含む燃料電池である。膜−電極アセンブリは、陽極電極面を有する。陽極プレートは、膜−電極アセンブリの電極面と隣い合い、膜−電極アセンブリの電極面に、封止ガスケットによって結合される。封止ガスケット、電極面及び陽極プレートは、陽極流体を電極面に配送するための流体閉じ込め空間を形成する。多孔質の拡散材シートが、流体閉じ込め空間に配置される。拡散材シートは、拡散材シートの少なくとも一つの側縁と、封止ガスケットとの間に設けられた少なくとも一つのプレナムを有する。膜−電極アセンブリの活性面に配送されるべき流体は、プレナムと、拡散材による拡散とによって、陽極プレートの流体流れチャネルが不要となる程度にまで配送され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、とりわけ、例えば固体高分子電解質燃料電池において陽極及び/または陰極プレートの活性面に流体を配送するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の電気化学燃料電池は、燃料及び酸化剤(oxidant)を、電気エネルギー及び反応生成物に変換する。図1には、既存の燃料電池10の典型的構成が図示されている。図示では明瞭化のため、幾つかの異なる層を分解状態で示してある。固体高分子型イオン移動膜11が、陽極12と陰極13との間に挟まれて配置されている。陽極12及び陰極13は、典型的には、両者とも多孔質カーボンなどの導電性多孔質材で構成され、当該導電性多孔質材には、白金触媒及び/または他の貴金属触媒の微粒子が付着される。多くの場合、陽極12及び陰極13は、それぞれ、膜11の隣接面に直接に接合される。この組み合わせは、一般には、膜−電極アセンブリ、即ち、MEAと称される。
【0003】
高分子膜及び多孔質電極層を挟んでいるのは、陽極流体流れ場プレート14及び陰極流体流れ場プレート15である。更に、中間裏張り層12a、12bが、陽極流れ場プレート14と陽極12との間、及び、陰極流れ場プレート15と陰極13との間に用いられてもよい。これらの裏張り層は多孔質であり、陽極表面及び陰極表面に、並びに、陽極表面及び陰極表面からガスを効果的に拡散させるとともに、水蒸気及び液体水の管理を助けるべく作製されている。
【0004】
流体流れ場プレート14、15は、導電性の非多孔質材で構成され、これにより、陽極電極12または陰極電極13にそれぞれ電気的に接触することができる。同時に、これらの流体流れ場プレートによって、流体の燃料、酸化剤及び/または反応生成物を、多孔質電極に配送、及び/または、多孔質電極から排出することができる。これは、一般的には、流体流れ場プレートの、多孔質電極に向いている面に溝、即ち、チャネル(channels)16を形成するなど、流体流れ場プレートの一面に流体の流路を形成することによって達成される。
【0005】
更に図2(a)を参照すると、流体流れチャネルの、従来技術における一形態として、蛇行構造20が示されている。この蛇行構造20は、陽極14(または陰極15)の一面に設けられ、図2(a)に示すように、導入マニホルド(inlet manifold)21及び排出マニホルド(outlet manifold)22を備えている。従来の設計に従えば、蛇行構造20は、プレート14(または15)の表面に設けられたチャネル16を含む一方、マニホルド21及び22は、それぞれ、プレートを貫通する孔を含んでおり、それによって、チャネル20に配送され又はチャネル20から排出される流体を、図2(b)の、A−Aに沿った断面で矢印により示すように、プレートと直交する方向に、複数のプレートからなるスタック(stack)の深さ全体に亙って通すことができる旨、理解されよう。
【0006】
他のマニホルド孔23、25が、プレートの他のチャネル(図示せず)との間で、燃料、酸化剤、他の流体または排出物(exhaust)を搬送するために備えられてもよい。
【0007】
流体流れ場プレート14、15に設けられるチャネル16として、様々な態様のものが知られている。一つの態様は、図2に示されるように、両端で開口している(open-ended)蛇行パターンである。ここでは、導入マニホルド21及び排出マニホルド22の間で延びているチャネルによって、流体を連続的に処理することができ、これは、典型的には、酸化剤を供給し、かつ、反応物を排出するのに利用することができる。別の態様では、チャネル16は一端で閉鎖されていてもよい。すなわち、各チャネルは、導入マニホルド21とだけ通じており、MEAの多孔質電極に、且つ、多孔質電極からガス状物質を100%搬送することで流体を供給する。閉鎖チャネルは、典型的には、櫛形の構造をとり、MEA11−13に水素燃料を配送すべく用いられる。
【0008】
図3を参照すると、従来の燃料電池アセンブリ30において、プレートからなるスタックが形成されている。この構成では、隣り合う陽極流体流れ場プレート及び陰極流体流れ場プレートが、従来の方式で組み合わされて、単一の両極プレート31を形成している。この両極プレート31は、その一面上に陽極チャネル32を有するとともに、反対の面上に陰極チャネル33を有する。陽極チャネル32及び陰極チャネル33は、それぞれ、各膜-電極アセンブリ(MEA)34と隣接している。導入マニホルド孔21及び排出マニホルド孔22は全て重ね合わされ、これにより、スタック全体に導入マニホルド及び排出マニホルドを提供する。スタックの様々な構成要素は、明瞭化のために、僅かに分離されて示されているが、必要に応じて、封止ガスケットを用いて一体的に圧縮される旨、理解されよう。
【0009】
流体流れ場プレートに流体流れチャネル、すなわち、流路(conduit)16を形成するのは、既存の方法で行うことができる。典型的には、化学エッチングプロセスまたは他の高精度なプロセスを利用することで、流体流れ場プレートをできるだけ薄く形成しながら、チャネル16の深さ、幅及びパターンを十分な程度だけ制御することが可能となる。流体流れプレートの深さ、幅及びパターンに違いを生じさせるエッチングプロセスでの如何なる不一致(inconsistency)も、かなりの程度、MEAへの又はMEAからの流体の流れを妨げる可能性がある。
【0010】
例えば、導入ポート21及び排出ポート22の間で圧力が低下する度合いが、燃料電池アセンブリの内部でプレート毎に、延いては、セル毎にかなり違ってしまうかもしれない。上手く動作していないセルがあると、セルの運転中、陽極のパージ作業を頻繁に行うという結果になりかねない。または、特別にセルをキャリブレーションするといった、時間及び費用がかかる手法が必要となりかねない。上手く動作していないセルがあると、燃料電池スタックの全体としての性能に限界を生じさせることになる。燃料電池スタックの全体としての性能は、一般には、最も弱いセルによって大きく左右される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的の一つは、流体流れプレートで流体流れチャネルを形成するのに伴う問題、及び/または、セルごとに流体流れチャネルの性能が異なることに起因する問題を最小化することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、電力出力をそれほど犠牲にすることなく陽極プレート(anode field plate)の厚みを減少させることで、燃料電池スタックの電力密度値(power density factor)を増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの態様によると、本発明は、膜−電極アセンブリと、陽極プレートと、多孔質の拡散材シートとを含む燃料電池を提供する。前記膜−電極アセンブリは、陽極電極面を有する。前記陽極プレートは、前記膜−電極アセンブリの電極面と隣い合い、前記膜−電極アセンブリの電極面に、封止ガスケットによって結合される。前記封止ガスケット、前記電極面及び前記陽極プレートは、陽極流体を前記電極面に配送するための流体閉じ込め空間を形成する。前記拡散材シートは、前記流体閉じ込め空間に配置される。前記拡散材シートは、前記拡散材シートの少なくとも一つの側縁(lateral edge)と、前記封止ガスケットとの間に設けられた少なくとも一つのプレナム(plenum)を有する。
【0014】
本発明のもう一つの態様によると、本発明は、膜−電極アセンブリと、陰極プレートと、多孔質の拡散材シートとを含む燃料電池を提供する。前記膜−電極アセンブリは、陰極電極面を有する。前記陰極プレートは、前記膜−電極アセンブリの電極面と隣い合い、前記膜−電極アセンブリの電極面に、封止ガスケットによって結合される。前記封止ガスケット、前記電極面及び前記陰極プレートは、陰極流体を前記電極面に配送し及び/または陰極流体を前記電極面から排出するための流体閉じ込め空間を形成する。前記拡散材シートは、前記流体閉じ込め空間に配置される。前記拡散材シートは、前記拡散材シートの少なくとも一つの側縁と、前記封止ガスケットとの間に設けられた少なくとも一つのプレナムを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流体流れプレートで流体流れチャネルを形成するのに伴う問題、及び/または、セルごとに流体流れチャネルの性能が異なることに起因する問題を最小化することができる。
【0016】
また、本発明によれば、電力出力をそれほど犠牲にすることなく陽極プレート(anode field plate)の厚みを減少させることで、燃料電池スタックの電力密度値(power density factor)を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
次に、添付図面を参照し、例として本発明の実施形態を説明する。
【図1】既存の燃料電池の一部分を示す模式的断面図である。
【図2a】図1に示された燃料電池の流体流れ場プレートの簡略化された平面図である。
【図2b】図1に示された燃料電池の流体流れ場プレートの簡略化された断面図である。
【図3】両極プレートを備えた既存の燃料電池スタックを示す断面図である。
【図4a】封止ガスケット、流体入り口ポート及び出口ポートに基づいて配置された拡散材シートを備えた陽極の態様を示す平面図である。
【図4b】図4aのA−A線に沿った側断面図である。
【図5a】図4a及び図4bに示された陽極の態様を示す平面図であって、通常動作中におけるガスの流れを示している。
【図5b】図4a及び図4bに示された陽極の態様を示す平面図であって、パージ動作中におけるガスの流れを示している。
【図6a】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを幾つか示している。
【図6b】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを幾つか示している。
【図6c】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを幾つか示している。
【図6d】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを幾つか示している。
【図6e】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを幾つか示している。
【図7a】共通陽極プレートを共有し且つ同一平面上にある複数の半電池(half-cell)を備えた陽極の態様を示している。
【図7b】共通陽極プレートを共有し且つ同一平面上にある複数の半電池(half-cell)を備えた陽極の態様を示している。
【図8】拡散材シートの側縁と、その周囲の封止ガスケットとの間に形成されるプレナムの別のパターンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
面上に流体流れチャネルを備えた陽極流体流れ場プレート及び陰極流体流れ場プレートに関する従来の設計は、既に、図1乃至図3に基づいて説明してある。これらの流体流れチャネルは、一般的には、プレートの表面のうち、かなりの部分上で延びており、MEAの活性面に陽極及び陰極流体を十分に搬送すべく用いられる。図1にも示されているように、多孔質拡散材12a、13bは、チャネル16からMEA11への搬送を助け、面を超えた拡散(具体的には、面と垂直または面を通り抜ける方向の拡散)を十分に行うとともに、面内での拡散(具体的には、面と平行な方向の拡散)を僅かな量だけ行うことができ、これにより、各チャネル16から陽極流体を拡散させるべく、既存の燃料電池に設けられている。このようにして、MEAの活性陽極面の全体に、又は、MEAの活性陽極面の全体から陽極流体を良好に搬送でき、また、MEAの活性陰極面の全体に、又は、MEAの活性陰極面の全体から陰極流体を良好に搬送できる。
【0019】
本発明では、或るタイプの多孔質拡散材を、導入ポート及び排出ポート間で圧力差を生じさせて用いることにより、その拡散材の内部において、面内で流体を十分に搬送できること、及び、陽極プレートに設けられた流体流れチャネルを利用しなくても、流体を膜の表面全体に搬送することが可能であるという知見が得られた。
【0020】
図4を参照すると、膜−電極アセンブリ40の陽極面は、その周縁が封止ガスケット41で覆われている。封止ガスケット41は、MEA40の陽極面の周縁において流体入口ポート44及び流体出口ポート45の周りに、2つの凹部42、43を有している。導電性の陽極プレート46が、封止ガスケットにかぶさって配置される(図4bの破断線で示され、明瞭化のため僅かに分離されているが、図4aでは、その下の構造を見せるために省略されている)。
【0021】
MEA40の陽極面、封止ガスケット41及び陽極プレート46は、これらが一緒となって、流体入口ポート44及び流体出口ポート45の間で流体閉じ込め空間47を形成する。流体閉じ込め空間は、陽極プレート46及び封止ガスケット41が不透過性を有するとともに、MEAが限られた透過性(実質上、イオンの流れのみを通す)を有することによって生じる。この閉じ込め空間47の内部には、拡散材シート48が配置される。拡散材シートは、シート48の側縁(lateral edge)51、52と、封止ガスケット41との間に一つ又は複数のプレナム(plenums)49、50を形成する形状となるように切断されている。より具体的には、図4に示された実施形態の場合、第1のプレナム49は、拡散材シート48の周囲の側縁の大部分51の周りに延びている導入プレナムを構成する。第2のプレナム50は、拡散材シート48の周囲の側縁の小部分51の周りに延びている排出プレナムを構成する。
【0022】
陽極プレート46は、電極40及び拡散シート48に向かい合うその表面52に如何なる溝、即ち、チャネル16を有さないことが好ましい。なぜならば、プレナム49、50及び拡散材48それ自体を用いることで、流体を搬送することが全く可能だからである。このことは、図5を参照し、より詳細に説明される。
【0023】
図5aは、燃料電池の通常動作中における流体流れパターンを示している。入口ポート44から圧力のもとで配送された導入流体は、矢印で示されるように、導入プレナム49に沿って分配され、更に、多孔質拡散シート48(及びその下にあるMEA40)の内部へと送り込まれる。この通常動作モードでは、排出プレナム50を使用する必要はない(使用できるけれども)。なぜなら、重要な機能は、MEA40の陽極面の活性面に流体燃料を供給することだからである。好ましくは、このことは、局所的な過熱箇所(hot spot)を生じることなくセルからの所要の電力供給を持続させるべく、陽極面の活性部分全てに燃料を適切に供給するように為される。但し、このことは、燃料電池の通常動作中に、燃料または或る副生成物の或る一部分が排出プレナム50に、延いては、出口ポート45にパージされ得るといった可能性を除外するものではない。
【0024】
図5bは、燃料電池のパージ動作中における流体流れパターンを示している。入口ポート44から圧力のもとで配送された導入流体は、矢印で示されるように、導入プレナム49に沿って分配され、更に、多孔質拡散シート48(及びその下にあるMEA40)の内部を通って排出プレナム50へと、延いては、出口ポート45へと送られる。燃料電池の動作に通じた者ならば理解されるように、(例えば電極での水の蓄積(build-up)のため)燃料電池の性能が低下したとき、燃料電池を規則的にパージモードへと切り替えることが、装置を管理する手法の一部として、多く採用される。
【0025】
拡散材シート48の側縁と、ガスケット41の縁との間に形成され、そこにはプレナムが形成されていない“部分的封止”53は、流体が拡散材の周りにおいて導入プレナム49から排出プレナム50へと直接に相当程度洩れることを防止するのに適切であることが分かる。好ましくは、“部分的封止”は、拡散材シート48の縁と、ガスケット41の当該の縁とのを緊密な状態ではめ合うこと(close fit)、または、抵触した状態ではめ合うこと(interference fit)によって達成される。スタックを組立てる際、拡散材を或る程度だけ圧縮すると、このような部分的封止を形成するのに役立つ。
【0026】
図4及び図5に示された拡散材48及びガスケット41の態様は、単なる一例に過ぎない。図6には、多数の他のとり得る構成が、斜視“分解”図(左側の図)及び平面図(右側の図)で示されており、これらは、同様な目的を達成することができる。
【0027】
図6aは、対比のため、図4のパターンを示している。図6bは、類似のパターンとなっている導入プレナム及び排出プレナムを示しているが、この構成では、拡散材シート48が、プレナムを生じるような形状となっているのではなく、封止ガスケット41が、プレナム61、62を生じるような形状となっている。これによって、不均整な形状の拡散材シート48ではなく、長方形または正方形の形状の拡散材シートを容易に採用することができる。
【0028】
図6cは、対称的な構成を有する導入プレナム63及び排出プレナム64を示しており、これら導入プレナム及び排出プレナムも、拡散材シート48の形状ではなく封止ガスケット41の形状によって定まるので、長方形または正方形の形状の拡散材シートを採用することができる。この構成では、導入プレナム63及び排出プレナム64は、実質上同じ長さを有しており、両者の間で均衡がとれている。また、拡散材を通る面内の流体流れは、一般に、一方の端から他方の端へと生じる。
【0029】
図6dには、図6bに示された構成と類似の構成が示されている。但し、導入(主要の)プレナム65は、拡散材シート48の2つの側縁のみに沿って延びており、また、排出プレナム66は、図6に示された排出プレナムよりも僅かに大きい。この構成では、面内の流体流れは、幾分か、より対角方向の流れとなり、また、より均一の流れとなる。
【0030】
図6eは、別個の排出プレナムを必要としない構成を示している。拡散材シート48を全体的に取り囲むように、単一の周状プレナム67が設けられているだけである。プレナム67をパージすることは、出口ポート45を利用することにより可能である。拡散材48及び電極40をパージすることは、拡散材に亙って生じる相当の圧力差による強制的な拡散ではなく、プレナム67へと外方向に生じる拡散に依るものであるから、より少ない程度でのみ可能であろう。このような構成は、陽極のパージを通常では必要としない特定の用途に向けられる。
【0031】
このように、一般的には、多孔質拡散材シートは、その周縁に凹部を有する不均整な(長方形でない)形状であってもよく、これにより、少なくとも一つのプレナムを形成することが理解されよう。また、それとは別に、多孔質拡散材シートは、長方形状の周縁を有していてよく、この場合、封止ガスケットは、その内周縁に凹部を有する不均整な(長方形でない)形状であり、これにより、少なくとも一つのプレナムを形成する。
【0032】
図7は、単一の共通陽極プレート(図示せず)及び単一の共通電極70を用いて同一平面上に在る複数の燃料電池セルを形成した構成を示している。この構成では、封止ガスケット71は、3つの別個の流体閉じ込め空間72、73、74を形成するような態様となっており、各流体閉じ込め空間には、それぞれの拡散材シート75、76、77が備えられる。プレナムを形成するための拡散材シート及び封止ガスケットの態様は、例えば、図6に基づいて説明したように、変更することができる。
【0033】
この構成では、燃料電池スタックに含まれる各陽極半電池(anode half-cell)を、別個の流体供給及びパージ領域に区分することにより、大領域の陽極を通るガスの流れをより均一化することが可能となる。とりわけ、導入プレナムと排出プレナムとの間で電極面を通る流体の拡散速度に如何なる制約を加えても、その影響は、このようにして拡散材シート75、76、77の面積を制限することで、最小化される。
【0034】
図8には、プレナム80が、拡散材シート48の側縁81との間だけでなく、拡散材シートに設けられ且つ拡散材シートの中央領域へと延びるスリット82によっても形成されている構成が示されている。更に、図8には、2つ若しくはそれ以上の入口ポート83、84、及び/または、2つ若しくはそれ以上の出口ポート85、86を用いることができる点も示されている。
【0035】
好ましい実施形態では、MEA40は、陽極面及び陰極面をそれぞれ形成する両側の電極層の間に、薄い高分子層が挟まれたものとして作製される。好ましくは、MEAの面は、周辺領域(即ち“枠”)によって囲まれる中央“活性”領域を有しており、周辺領域は、MEAの構造的一体性を損なう恐れを低減しながら、入口及び出口ポート(例えば図4のポート44、45)並びに他のマニホルドを形成することを可能とすべく補強されている。この補強された周辺領域では、MEAは、電極の薄い活性領域よりも極めて効果的に、様々な歪み及び力を処理することができる。
【0036】
このような補強されたMEAが採用されている場合、周囲に在るプレナム(例えば図6a〜図6eの参照符号49、50、60〜67)は、MEAの補強された周辺領域を覆うように配置されることが好ましく、これは、燃料電池スタックを組立てる間に燃料電池が圧縮されるとき、MEAの中央活性領域が支持されないせいでMEAに構造欠陥が起こる如何なる可能性をも回避するのに役立つ。MEAにおける補強された周辺領域の構造は、膜−電極アセンブリの活性領域と同じ程度に水の含有量から影響されることはない。
さもなければ、MEAの活性領域は、湿潤時に、膨れ上がってプレナムを部分的に閉鎖してしまうか、または、水素を供給することで乾燥したときに、構造的な弱点が生じるであろう。
【0037】
以上説明した構成は、何れも、燃料電池の陽極側(すなわち陽極半電池)について図示されている。但し、対応する陰極半電池は、例えば、流体分配チャネルを備えた流体流れプレートを採用するなど、図4〜図6を参照して説明されたものと同様な半電池構造を採用してもよく、または、他の既存の半電池構造を採用してもよい。
【0038】
好ましい実施形態では、陰極半電池は、陰極が、酸素を供給し、副生成物を排出し、燃料電池セルを冷却するための雰囲気に曝されるといった既存の“開放型陰極(open cathode)”の態様となっている。好ましくは、陰極は、酸素及び冷却水を配送し、且つ、水蒸気といった副生成物を排出するため、(例えばファンなどで)強制的に通気される。
【0039】
陽極プレート40においてチャネル即ち溝16を除去することにより、流体流れプレート14(図1)と比べて陽極プレートの厚みをかなり減らすことができる。一つの設計例では、各陽極プレートの厚みは0.85mmから、ほんの0.25mmに減らされ、その結果、燃料電池スタックの電力密度(power density)をかなり増大させることができる。スタックにおける各陽極プレートの厚みを減らすことで、燃料電池スタックの重量及び体積をかなり低減することができる。
【0040】
また、陽極プレート14においてチャネル16をなくすことにより、プレート14と電極12との間に直接的な電気的接触がないプレート領域を減らすことができることがわかった。すなわち、陽極プレートと拡散材との間にほぼ100%の接触領域が存在する。先行技術の電極の場合、陽極プレートと電極との間の電気的接触に如何なる不連続があっても、局所的に、チャネル間の電流密度の増大を生じてしまう。
【0041】
本発明は、チャネル16の非接触領域を回避することができ、これにより、通常、電極の領域に亙って電流密度を減少させることで、オーム損失を減らすことができるものである。
【0042】
また、陽極プレート14にチャネル16を形成する必要がなくなることで、製造プロセスが簡単化される。陽極プレート14にチャネル16を刻み付ける(etch)または押して付ける(stamp)よりも、封止ガスケット41及び/または拡散材シート48を切断で成形するほうが極めて容易であることがわかった。
【0043】
好ましい構成の場合、燃料電池は、水素燃料電池であり、そこでは、陽極流体燃料がガス状水素であり、陰極流体が空気であり、副次的に生成される排出物が水蒸気、及び、酸素を消費された空気である。また、導入される流体は、(例えばバラスト、パージまたは膜への水分供給(membrane hydration)のため)他のガスを含んでいてもよい。プレナム49、50を通したガスの分配と、拡散材内部での面内の拡散とに基づいて、チャネルなしで陽極プレート40を用いることは、水素ガスを電極の触媒領域に輸送するのに最も効果的であることがわかった。水素の拡散速度が高い点、及び、触媒領域における水素の酸化反応の過電圧が低い点が利用される。
【0044】
陽極電極の活性面全体に流体燃料を十分に供給するためには、陽極電極40(及びその上に配置される任意の裏打ち層12a)の内部での比較的低い拡散速度と比べて、陽極ガスが拡散材シート48を通る際の拡散性が比較的高いことが有利である。
【0045】
陽極の構成は、強制的な拡散を生じさせるべく入口ポート44と出口ポート45との間で相当の圧力差を保持する場合に、最も有効に機能する。これにより、パージの時間を短縮できることもわかる。
【0046】
好ましくは、拡散材は、軸方向に依存した透過性を有する。すなわち、一つの面内方向に沿ったガスの輸送速度は、別の面内方向に沿ったガスの輸送速度とは異なっていてもよい。この場合、拡散材シートは、プレナム間の、又は、入口プレナムから拡散材シートの中央領域までのガスの輸送が最も効率的且つ均一となるように、方向付けられることが有利であろう。拡散材は、このような軸方向の依存性を生じさせるような方向性を有する繊維(例えば織られたマット(woven mat))を含んでいてもよく、繊維は、半電池の中央部に水素を輸送するのに役立つべく、‘セルを横切る’方向に方向付けられることが好ましいであろう。また、拡散材の面内拡散速度が、面に交差する方向の拡散速度よりも高いとき、電極にガスを輸送する際の均一性を改善できるであろう。
【0047】
拡散材の拡散速度を最高の度合いに確保するためには、燃料電池を組立てる最中、すなわち、スタックのプレート全てを一体的に圧縮して燃料電池アセンブリを形成するときに
拡散材は、あまり押しつぶされたり圧縮されないほうがよい。このような理由から、封止ガスケット41の材料は、拡散材48の材料よりも硬い(圧縮しにくい)ように選定されることが好ましい。
【0048】
拡散材シート48として用いるのに好ましい材料は、Torayにより製造されるガス拡散媒体TGP−H級の炭素繊維紙である。
【0049】
好ましい実施形態では、封止ガスケット41は、100から400ミクロンまでの範囲にある厚みを有し、拡散材シート48は、150から500ミクロンまでの範囲にある厚みを有する。一つの好ましい実施形態では、封止ガスケットは、225ミクロンの厚みを有し、拡散材シートは、300ミクロンの厚みを有する。
【0050】
また、上述のように周辺のプレナム及び拡散材を用いて陽極ガスを分配することは、電極において水を制御するのに有益であり得る。水の蓄積は、電極の水浸しを引き起こす。プレートに設けられるチャネルを採用した既存の流体流れプレートの設計では、水浸しの間、水が電極の活性領域の縁に溜まり、そこで冷えてしまう。電極の活性領域の縁で電流がほとんど或いは全く発生しないため、熱が発生しない。そして、パージが行われるまで水がそのまま残ってしまう。
【0051】
これに対して、本発明では、水は、活性領域の中央部に向かって溜まる。これにより、MEAへの水補給を維持できるだけでなく、水浸しの領域における電流の流れが低減されるという効果を生じる。水が溜まっていない隣接の活性領域では、電流の流れがより高く、水素の消費速度がより大きくなるため、圧力がより低い領域がある。圧力勾配のため、水素及び水の両者が、優先的にこの低圧力領域に移動し、これにより、局所的な水浸しを減らすことができる。
【0052】
他の実施形態は、添付された特許請求の範囲内に、意図的に記載されている。
【符号の説明】
【0053】
40 膜−電極アセンブリ(MEA)
41 封止ガスケット
46 陽極プレート
48 拡散材シート
49、50 プレナム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜−電極アセンブリと、陽極プレートと、多孔質の拡散材シートとを含む燃料電池であって、
前記膜−電極アセンブリは、陽極電極面を有し、
前記陽極プレートは、前記膜−電極アセンブリの電極面と隣い合い、前記膜−電極アセンブリの電極面に、封止ガスケットによって結合され、
前記封止ガスケット、前記電極面及び前記陽極プレートは、陽極流体を前記電極面に配送するための流体閉じ込め空間を形成し、
前記拡散材シートは、前記流体閉じ込め空間に配置され、
前記拡散材シートは、前記拡散材シートの少なくとも一つの側縁と、前記封止ガスケットとの間に設けられた少なくとも一つのプレナムを有する、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載された燃料電池であって、
前記プレナムは、前記拡散材シートの一側縁の全体と、前記封止ガスケットとの間に形成されている、
燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載された燃料電池であって、
前記プレナムは、前記拡散材シートの複数の側縁と、前記封止ガスケットとの間に形成されている、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された燃料電池であって、
前記プレナムは、更に、前記拡散材シートの中央に延びているスリットを含む、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載された燃料電池であって、
前記プレナムは、拡散材シートの全側縁を巡って延びている周状プレナムである、
燃料電池。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れかに記載された燃料電池であって、
前記プレナムは、燃料電池の周縁で流体入口ポートに通じる第1のプレナムであり、
更に、前記拡散材シートの少なくとも一つの側縁と、前記封止ガスケットとの間に設けられ、燃料電池の周縁で流体出口ポートに通じる第2のプレナムが備えられており、
前記第2のプレナムは、前記拡散材シートの拡散材によって前記第1のプレナムと分離されている、
燃料電池。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載された燃料電池であって、
前記陽極プレートは、実質上平らで且つ前記電極面に向かい合う面を有する、
燃料電池。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載された燃料電池であって、
前記陽極プレートは、前記陽極プレートの、前記電極面に向かい合う面に、流体分配チャネルを有しない、
燃料電池。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載された燃料電池であって、
前記拡散材シートは、炭素繊維マットを含む、
燃料電池。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載された燃料電池であって、
前記拡散材シートは、軸方向に依存した透過性を有する、
燃料電池。
【請求項11】
請求項10に記載された燃料電池であって、
前記拡散材シートの拡散材は、最も高い透過性の方向がガスを前記プレナムから前記拡散材シートの中央部に最も輸送するのを助けるべく定められた態様で、方向付けられている、
燃料電池。
【請求項12】
請求項6に記載され、且つ、請求項10に記載された燃料電池であって、
前記拡散材シートの拡散材は、最も高い透過性の方向がガスを前記第1のプレナムから前記第2のプレナムに最も輸送するのを助けるべく定められた態様で、方向付けられている、
燃料電池。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れかに記載された燃料電池であって、前記燃料電池は、同一平面上に在る複数のセルからなる一体のアセンブリとして形成され、
前記複数のセルは、共通の陽極プレートを共有するとともに、前記複数のセルは、同一平面上に在る複数の独立した流体閉じ込め空間を形成し、各流体閉じ込め空間には、それぞれの拡散材シートが備えられる、
燃料電池。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載された燃料電池であって、
多孔質の前記拡散材シートは、少なくとも一つの前記プレナムを形成すべく、前記拡散材シートの周縁に凹部が設けられた不均整な形状である、
燃料電池。
【請求項15】
請求項1乃至13の何れかに記載された燃料電池であって、
多孔質の前記拡散材シートは、長方形状の周縁を有し、
前記封止ガスケットは、少なくとも一つの前記プレナムを形成すべく、前記封止ガスケットの内周縁に凹部が設けられた不均整な形状である、
燃料電池。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れかに記載された燃料電池であって、陰極プレートを含んでおり、
前記陰極プレートは、前記膜−電極アセンブリの電極面の陰極電極面と隣り合う、
燃料電池。
【請求項17】
請求項16に記載された燃料電池であって、
前記陰極プレートは、開放型陰極の態様となっている、
燃料電池。
【請求項18】
請求項16または17に記載された燃料電池を備えた燃料電池スタック。
【請求項19】
膜−電極アセンブリと、陰極プレートと、多孔質の拡散材シートとを含む燃料電池であって、
前記膜−電極アセンブリは、陰極電極面を有し、
前記陰極プレートは、前記膜−電極アセンブリの電極面と隣い合い、前記膜−電極アセンブリの電極面に、封止ガスケットによって結合され、
前記封止ガスケット、前記電極面及び前記陰極プレートは、陰極流体を前記電極面に配送し及び/または陰極流体を前記電極面から排出するための流体閉じ込め空間を形成し、
前記拡散材シートは、前記流体閉じ込め空間に配置され、
前記拡散材シートは、前記拡散材シートの少なくとも一つの側縁と、前記封止ガスケットとの間に設けられた少なくとも一つのプレナムを有する、
燃料電池。
【請求項20】
実質上、添付図面を参照して本明細書に記載されているような燃料電池。


【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−248548(P2012−248548A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202992(P2012−202992)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2007−506838(P2007−506838)の分割
【原出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(504175659)インテリジェント エナジー リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】INTELLIGENT ENERGY LIMITED
【Fターム(参考)】