説明

燃料電池スタックとそれを用いた燃料電池

【課題】燃料電池に用いる燃料電池スタックとして、占有体積を小さくするとともに燃料電池セルまたはセルスタックを均等に締結し、しかも冷却しやすい燃料電池スタックとそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による燃料電池スタック1では、膜電極接合体35とセパレータ34とを積層し、積層方向の両側から一対のエンドプレート17、18で挟んで構成したセルスタック16を、第1板ばね11で積層方向に締め付けて締結している。第1板ばね11は、エンドプレート17、18を押圧する2つの腕部と、これらの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状である。そして第1板ばね11の連結部と膜電極接合体35、エンドプレート17、18との間の空間20Aを第1冷却用送風路としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックとそれを用いた燃料電池に関し、特に燃料電池スタックを締結する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として、小型かつ軽量で、高エネルギー密度を有する二次電池への要望も高まっている。また、小型民生用途のみならず、電力貯蔵用や電気自動車用などの長期に渡る耐久性や安全性が要求される大型の二次電池に対する技術開発も加速してきている。さらに、充電の必要な二次電池よりも燃料供給によって長時間連続使用が可能な燃料電池が注目されている。
【0003】
燃料電池は、セルスタックを含む燃料電池スタックと、このセルスタックに燃料を供給する燃料供給部と、酸化剤を供給する酸化剤供給部とを有する。セルスタックはアノード電極とカソード電極とこれらの電極の間に介在する電解質膜とからなる膜電極接合体と、セパレータとを積層し、積層方向両端にエンドプレートを配して構成されている。セルスタックにおいて、アノード電極とカソード電極と電解質膜とを互いに緊密に積層する必要がある。これは、電気化学反応を均等に行わせるためだけではない。エンドプレートやセパレータには、燃料と酸化剤である酸素(空気)を流通させる溝が設けられている。そのため、エンドプレートやセパレータとアノード電極、カソード電極との間から燃料や酸素が漏れないように緊密に積層する必要がある。一般に、セルスタックは、以下のようにして締結される。セルスタックとの接触面がセルスタックより大きいバッキングプレートをセルスタックの積層両端に重ねる。そして、両バッキングプレートのはみ出し部分の全周を複数のボルトとナットの組で締め付けることで締結される。
【0004】
また燃料電池を小型化するために、一面が開放された直方体の筐体中にセルスタックを挿入し、対向する内壁面の一方から他方へ向かってセルスタックを押し付ける押圧部材を設けた構造が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−294366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述のように一面が開放された直方体の筐体中にセルスタックを挿入した場合、押圧部材がセルスタックの積層方向の寸法を大きくするため、特にノートパソコンなどの小型電子機器に用いる可搬型の燃料電池には不向きである。また発電に伴って発生する熱が筐体内に篭る。その結果、セルスタックの温度を制御しにくい。
【0006】
本発明は、これらの問題点を解決し、占有体積を小さくするとともに膜電極接合体、または膜電極接合体とセパレータやエンドプレートを均等に締結し、充分に冷却することが可能な燃料電池スタックとそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による燃料電池スタックは、膜電極接合体と、一対のエンドプレートと、第1板ばねとを有する。膜電極接合体とエンドプレートとは燃料電池セルを構成している。膜電極接合体はアノード電極と、カソード電極と、アノード電極とカソード電極との間に介在する電解質膜とを積層して構成されている。エンドプレートは膜電極接合体を、膜電極接合体の積層方向両側から挟むように配置されている。第1板ばねは膜電極接合体とエンドプレートとを積層方向に締め付けている。第1板ばねは、エンドプレートを押圧する2つの腕部と、2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状である。そして第1板ばねの連結部と膜電極接合体、エンドプレートとの間の空間を第1冷却用送風路としている。このように断面がC字型形状の第1板ばねで燃料電池セルを締結することにより、ボルトとナットで締結する場合に比べ燃料電池スタックを小さくすることができる。また燃料電池セルを膜電極接合体の面方向において、中央部を含め均等に締結することができる。しかも第1板ばねの連結部と膜電極接合体、エンドプレートとの間の空間を第1冷却用送風路として利用することができるため、燃料電池セルを冷却することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料電池スタック全体としての占有体積を小さくすることができるとともに、燃料電池セルを均等に締結することができる。また燃料電池セルの温度を制御しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の発明は、膜電極接合体と、一対のエンドプレートと、第1板ばねとを有する燃料電池スタックである。膜電極接合体とエンドプレートとは燃料電池セルを構成している。膜電極接合体はアノード電極と、カソード電極と、アノード電極とカソード電極との間に介在する電解質膜とを積層して構成されている。エンドプレートは膜電極接合体を、膜電極接合体の積層方向両側から挟むように配置されている。第1板ばねは膜電極接合体とエンドプレートとを積層方向に締め付けている。第1板ばねは、エンドプレートを押圧する2つの腕部と、2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状である。そして第1板ばねの連結部と膜電極接合体、エンドプレートとの間の空間を第1冷却用送風路としている。このように断面がC字型形状の第1板ばねで燃料電池セルを締結することにより、ボルトとナットで締結する場合に比べ燃料電池スタックを小さくすることができる。また燃料電池セルを膜電極接合体の面方向において、中央部を含め均等に締結することができる。しかも第1板ばねの連結部と膜電極接合体、エンドプレートとの間の空間を第1冷却用送風路として利用することができるため、燃料電池セルを冷却することができる。
【0010】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、エンドプレートの第1板ばねに対向する側面にフィンを設けた燃料電池スタックである。このようにフィンを設けることにより燃料電池セルの冷却効果がさらに高まる。
【0011】
本発明の第3の発明は、第1の発明において、膜電極接合体を複数有するとともに、複数の膜電極接合体同士の間にセパレータを設けてセルスタックを構成した燃料電池スタックである。このように構成したセルスタックを第1板ばねで締結する場合にも第1の発明と同様の効果が得られる。
【0012】
本発明の第4の発明は、第3の発明において、セパレータの第1板ばねに対向する側面にフィンを設けた燃料電池スタックである。このようにフィンを設けることにより燃料電池セルの冷却効果がさらに高まる。
【0013】
本発明の第5の発明は、第1の発明において、第1板ばねを複数個備え、第1板ばね同士の間を連結するシール部をさらに有する燃料電池スタックである。これにより第1板ばね同士の間から冷却風が漏れ出ることを抑制できる。そのため冷却風の下流側に位置する第1板ばねの内側にまで冷却風を流すことができる。
【0014】
本発明の第6の発明は、第1の発明において、エンドプレートの、第1冷却用送風路の入り口側に、膜電極接合体の積層方向において第1板ばねの2つの腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部を設けた燃料電池スタックである。これによりエンドプレートが露出する面へ優先的に冷却風を送ることができる。
【0015】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明において、膜電極接合体とエンドプレートとの積層方向に対して直交する方向に、第1板ばねに対向するように配置した第2板ばねをさらに有し、第2板ばねは、第1板ばねと同様、エンドプレートを押圧する2つの腕部と、2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状である燃料電池スタックである。このように第1板ばねに加え、第2板ばねを用いることにより燃料電池スタックを著しく大きくせずに確実に膜電極接合体の面方向において燃料電池セルまたはセルスタックを均等に締結することができる。また第2板ばねの連結部と膜電極接合体、エンドプレートとの間の空間を第2冷却用送風路とすることで、燃料電池セルの対向する2つの面から冷却することができる。
【0016】
本発明の第8の発明は、第1から第6の発明において、膜電極接合体とエンドプレートとの積層方向におけるエンドプレートの外側に、一対のバッキングプレートをさらに設け、第1板ばねはバッキングプレートを介してエンドプレートを押圧する燃料電池スタックである。このようにバッキングプレートを設け、エンドプレートと異なる材料でバッキングプレートを構成することにより、第1板ばねの押圧力を直接受けるバッキングプレートと燃料や酸化剤の流路を兼ねるエンドプレートを最適化することができる。例えばエンドプレートより硬い材料でバッキングプレートを構成することで第1板ばねの押圧力によるバッキングプレートの変形を抑制することができ、膜電極接合体の面方向において燃料電池セルまたはセルスタックをより均等に締結することができる。またバッキングプレートを絶縁材料で構成することにより第1板ばねの腕部による短絡を考慮する必要がなくなる。
【0017】
本発明の第9の発明は、第8の発明において、バッキングプレートの、第1冷却用送風路の入り口側に、膜電極接合体の積層方向において第1板ばねの2つの腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部を設けた燃料電池スタックである。これにより第6の発明と同様に、エンドプレートが露出する面へ優先的に冷却風を送ることができる。
【0018】
本発明の第10の発明は、第8、第9の発明において、膜電極接合体とエンドプレートとの積層方向に対して直交する方向に、第1板ばねに対向するように配置した第2板ばねをさらに有し、第2板ばねは、第1板ばねと同様、バッキングプレートを押圧する2つの腕部と、2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状である燃料電池スタックである。この構成により第7の発明と同様の効果を奏する。
【0019】
本発明の第11の発明は、第1から第10の発明による燃料電池スタックと、アノード電極に燃料を供給する燃料供給部と、カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給部とを有する燃料電池である。
【0020】
本発明の第12の発明は、第11の発明において、第1冷却用送風路に送風する第1送風部をさらに有する燃料電池である。
【0021】
本発明の第13の発明は、第7または第10の発明による燃料電池スタックと、アノード電極に燃料を供給する燃料供給部と、カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給部と、第1冷却用送風路に送風する第1送風部と、第2冷却用送風路に送風する第2送風部とを有する燃料電池である。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、直接メタノール型燃料電池(DMFC)を例に、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本明細書に記載された基本的な特徴に基づく限り、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池の構成を示すブロック図である。図2、図3は、それぞれ本発明の実施の形態における燃料電池スタックの斜視図と断面図、図4は同燃料電池スタックの要部の概略構成を示す拡大断面図である。
【0024】
この燃料電池は、燃料電池スタック1と、燃料タンク4と、燃料ポンプ5と、空気ポンプ6と、制御部7と、蓄電部8と、DC/DCコンバータ9と、第1送風部10Aと、第2送風部10Bとを有する。燃料電池スタック1は起電部を有し、発電された電力は正極端子2と負極端子3から出力される。出力された電力はDC/DCコンバータ9に入力される。燃料ポンプ5は燃料タンク4の中の燃料を燃料電池スタック1のアノード電極31に供給する。空気ポンプ6は酸化剤である空気を燃料電池スタック1のカソード電極32に供給する。制御部7は燃料ポンプ5と空気ポンプ6の駆動を制御するとともに、DC/DCコンバータ9を制御して外部への出力と蓄電部8への充放電を制御する。燃料タンク4と燃料ポンプ5と制御部7は、燃料電池スタック1内のアノード電極31に燃料を供給する燃料供給部を構成している。一方、空気ポンプ6と制御部7は、燃料電池スタック1内のカソード電極32に酸化剤を供給する酸化剤供給部を構成している。
【0025】
また制御部7は第1送風部10Aと、第2送風部10Bの運転を制御する。なお図示していないが、DC/DCコンバータ9が燃料ポンプ5、空気ポンプ6、第1送風部10Aおよび第2送風部10Bに電力を供給する。この電力は燃料電池スタック1で発電された電力または蓄電部8からの電力である。
【0026】
図4に示すように、アノード電極31には燃料であるメタノール水溶液が供給され、カソード電極32には空気が供給される。なお、燃料供給部、酸化剤供給部は上述の構成に限定されない。
【0027】
図2、図3に示すように、燃料電池スタック1は、セルスタック16と、バッキングプレート14、15と、第1板ばね11と第2板ばね12とを有する。セルスタック16は、起電部である膜電極接合体(MEA)35と、MEA35を挟むように配置されたセパレータ34と、一対のエンドプレート17、18を有する。エンドプレート17、18はMEA35の積層方向両端、すなわちMEA35とセパレータ34との積層方向両端からMEA35とセパレータ34を挟んでいる。図4に示すようにMEA35は、アノード電極31と、カソード電極32と、アノード電極31とカソード電極32との間に介在する電解質膜33とを積層して構成されている。
【0028】
アノード電極31はセパレータ34の側から順に、拡散層31A、微多孔層(MPL)31B、触媒層31Cを積層して構成されている。カソード電極32もまた、セパレータ34の側から順に、拡散層32A、微多孔層(MPL)32B、触媒層32Cを積層して構成されている。正極端子2はカソード電極32に、負極端子3はアノード電極31に、それぞれ電気的に接続されている。拡散層31A、32Aは、例えばカーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロスなどからなる。MPL31B、32Bは、例えばポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体とカーボンとから構成されている。触媒層31C、32Cは白金やルテニウムなど、各電極反応に適した触媒を炭素表面に高分散させ、この触媒体をバインダーで結着させることで形成されている。電解質膜33は水素イオンを透過するイオン交換膜、例えばパーフルオロスルホン酸・テトラフルオロエチレン共重合体で構成されている。エンドプレート17、18、セパレータ34は、カーボン材やステンレス鋼で構成され、燃料や空気をアノード電極31、カソード電極32へ供給するための溝が設けられている。
【0029】
バッキングプレート14はセルスタック16におけるアノード電極31の側に配置され、バッキングプレート15はカソード電極32側に配置されている。バッキングプレート14、15は絶縁性の樹脂やセラミック、あるいはガラス繊維を含む樹脂、絶縁膜をコーティングされた金属板などで構成されている。
【0030】
第1板ばね11、第2板ばね12は、バッキングプレート14、15を介してセルスタック16をそのばね弾性力によって締め付けている。第2板ばね12は第1板ばね11に対向するように配置されている。第1板ばね11、第2板ばね12は、ばね鋼材などで構成されている。
【0031】
図5は燃料電池スタック1に用いる第1板ばね11の側面図である。第1板ばね11は、セルスタック16を押圧する2つの腕部11Bと、これらをつなぐ連結部11Cとを有し、断面がC字型形状である。なお第2板ばね12は第1板ばね11と同じ形状を有するので説明を省略する。
【0032】
次に、燃料電池スタック1における動作について簡単に説明する。図1、図4に示すように、アノード電極31にはメタノールを含む水溶液が燃料ポンプ5によって供給される。一方、カソード電極32には空気ポンプ6によって加圧された空気が供給される。アノード電極31に供給された燃料であるメタノール水溶液とこれに由来するメタノールと水蒸気は拡散層31AにてMPL31Bの全面に拡散する。これらはさらにMPL31Bを通過して触媒層31Cに達する。
【0033】
一方、カソード電極32に供給された空気に含まれる酸素は、拡散層32AにてMPL32Bの全面に拡散する。酸素はさらにMPL32Bを通過して触媒層32Cに達する。触媒層31Cに達したメタノールは(1)式のように反応し、触媒層32Cに達した酸素は(2)式のように反応する。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
その結果、電力が発生するとともに、アノード電極31側には二酸化炭素が、カソード電極32側には水が、それぞれ反応生成物として生成する。二酸化炭素は、燃料電池外へと排気される。またカソード電極32で反応しない窒素などの気体や未反応の酸素もまた燃料電池外へと排気される。なお、アノード電極31側では水溶液中のメタノールが全て反応するわけではないので、図1に示すように排出された水溶液を燃料ポンプ5へ戻すのが一般的である。またアノード電極31の反応では水が消費されるため、図1に示すようにカソード電極32で生成した水をアノード電極31側へ戻してもよい。
【0037】
本実施の形態では、第1板ばね11と第2板ばね12とを用い、バッキングプレート14、15を介してセルスタック16を締結している。第1板ばね11、第2板ばね12は図3に示すように、セルスタック16の外形に沿うように極めてコンパクトにセルスタック16を締結している。すなわち、セルスタック16の側面においてデッドスペースが極めて小さくなり、従来のボルトとナットで締結する場合に比べ燃料電池スタック1を小さくすることができる。
【0038】
また、従来のボルトとナットで締結する場合にはセルスタックの外側に押圧点があるが、第1板ばね11、第2板ばね12は、セルスタック16の比較的中央寄りを押圧点としている。このため、バッキングプレート14、15の面方向においてセルスタック16に均等に押圧力が作用する。このような押圧力によりセルスタック16全体を均等に締結することができ、(1)式、(2)式に示す電気化学反応がMEA35の面方向において均等に進行する。その結果、燃料電池スタック1の電流電圧特性が向上する。
【0039】
なお図5に示すように、第1板ばね11は、腕部11Bにそれぞれ、断面C字型の内側に突出する凸部11Dを有することが好ましい。凸部11Dでセルスタック16の積層方向両側からセルスタック16を押圧することにより、腕部11Bの全体の面で押圧する場合に比べて押圧点が確定する。そのため、セルスタック16を安定に締結することができる。また腕部11Bの先端で押圧する場合に比べて押圧力のばらつきを低減できる。なお、凸部11Dの形状は図5に示すように、円筒面であることが好ましい。これにより第1板ばね11を嵌め込む際の作業性が向上する。
【0040】
具体的には、セルスタック16の積層方向の長さが19.1mm、バッキングプレート14、15の厚さが1.5mmのとき、第1板ばね11、第2板ばね12を厚さ0.5mmのばね鋼材で構成する。そして、それらの曲げ弾性率を206,000MPaとすれば、MEA35に平均0.21MPaの押圧力を作用させることができる。またMEA35の面方向の圧力ばらつきは4%以下となる。この構成のセルスタック16では、MEA35の押圧力が0.15MPa以上であれば発電特性が低下しないことが実験的にわかっている。したがってこのような第1板ばね11、第2板ばね12を用いることで必要な押圧力を確保することができる。
【0041】
なお図5に示すように、第1板ばね11の連結部11Cは、第1板ばね11をバッキングプレート14、15から外した状態で平面形状を有することが好ましい。すなわち、第1板ばね11を変形させる初期状態において連結部11Cが平面形状を有することが好ましい。一般に、断面C字型形状の板ばねの連結部は嵌め込む際に曲げやすくするため、解放状態で曲面に構成されている。これに対し本実施の形態では、連結部11Cはセルスタック16、バッキングプレート14、15から外した状態で平面形状を有する。このような形状の第1板ばね11は製造しやすい。またバッキングプレート14、15に嵌め込んだ際に連結部11Cの内側への突出が小さくなる。その結果、連結部11Cと腕部11Bとの間の湾曲部分が外側へ突出する寸法が小さくなる。そのため、燃料電池スタック1の占有体積をより小さくすることができる。
【0042】
また図2、図3に示すように、バッキングプレート14、15は、セルスタック16におけるMEA35とエンドプレート17、18との積層方向外側へ突出する突起14A、15Aをそれぞれ有することが好ましい。そして、第1板ばね11の先端11Aを突起14A、15Aに当接させることが好ましい。セルスタック16に対し第1板ばね11を嵌め込む際、バッキングプレート14、15に設けた突起14A、15Aに第1板ばね11の先端11Aを当接させることにより、セルスタック16に対する第1板ばね11の嵌め込み位置を安定させることができる。特に、腕部11Bに凸部11Dを設ける場合、バッキングプレート14、15に設けた突起14A、15Aの寸法と先端11Aから凸部11Dまでの寸法を適切に設計することによって、凸部11Dを最適な押圧位置に確実に配置することができる。
【0043】
また図2、図3に示すように、バッキングプレート14、15に設けた突起14A、15Aには切り欠き部14B、15Bをそれぞれ設けることが好ましい。切り欠き部14B、15Bは、第1板ばね11と第2板ばね12とが対向する第1方向と直交する第2方向に延び、突起14A、15Aに第2方向に平行に設けられている。突起14A、15Aに切り欠き部14B、15Bを設けることにより、保持部43A、43Bを切り欠き部14B、15Bに収容することができる。そのためセルスタック16に第1板ばね11、第2板ばね12を嵌め込む際の作業性が向上する。
【0044】
なお第1板ばね11の連結部11Cと、MEA35、エンドプレート17、18を含むセルスタック16との間に空間20A、20Bを設けることが好ましい。空間20A、20Bはセルスタック16を冷却する風路として活用できる。すなわち、空間20Aは第1板ばね11の連結部11CとMEA35、エンドプレート17、18との間に設けられた第1冷却用送風路である。同様に、空間20Bは第2板ばね12の連結部とMEA35、エンドプレート17、18との間に設けられた第2冷却用送風路である。そして図1に示す第1送風部10A、第2送風部10Bを用いて、図2に示す方向から送風する。この構造により第1送風部10Aは空間20Aに、第2送風部10Bは空間20Bに、それぞれ冷却風を送り込むことができる。そのためセルスタック16を冷却することができる。
【0045】
なお、図3に示すように、エンドプレート17、18の第1板ばね11、第2板ばね12に対向する側面にそれぞれフィン17A、18Aを設けることが好ましい。またセパレータ34の第1板ばね11、第2板ばね12に対向する側面にそれぞれにもフィン34Aを設けることが好ましい。このようにすることでセルスタック16をより効果的に冷却することができる。
【0046】
また、図2に示すように、複数の第1板ばね11同士の間、複数の第2板ばね12同士の間をそれぞれ連結するようにシール部51を設けることが好ましい。これにより第1板ばね11同士の間、第2板ばね12同士の間から冷却風が漏れ出ることを抑制できる。そのため冷却風の下流側に位置する第1板ばね11、第2板ばね12の内側にまで冷却風を流すことができる。
【0047】
また、第1冷却用送風路である空間20Aの入り口側に、セルスタック16の積層方向において第1板ばね11の腕部11Bよりも上下方向の外側に位置する壁部14Cをバッキングプレート14、15に設けることが好ましい。同様に、第2冷却用送風路である空間20Bの入り口側に、セルスタック16の積層方向において第2板ばね12の腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部14Cをバッキングプレート14、15に設けることが好ましい。これによりエンドプレート17、18やセパレータ34が露出する面へ優先的に冷却風を送ることができる。
【0048】
なお、以上の説明では、複数のMEA35を用い、MEA35同士の間にセパレータ34を配し、積層方向両端にエンドプレート17、18を配してセルスタック16を構成し、さらにその外側にバッキングプレート14、15を配した場合について説明した。しかしながら、本発明はこの構成に限定されない。単一のMEA35を、MEA35の積層方向両側からエンドプレート17、18で挟み、MEA35とエンドプレート17、18とを積層方向に第1板ばね11だけで締め付けてもよい。この場合、第1板ばね11はエンドプレート17、18の中央付近を押圧するように構成することが好ましい。もちろんこの構成にさらに第2板ばね12を用いてもよい。また図2では第1板ばね11、第2板ばね12をそれぞれ複数個用いているが、セルスタック16の大きさに応じて1個ずつ用いてもよい。このように押圧する対象は単セルでもセルスタックでもよい。板ばねは1個でも複数個でも、また1組でも複数組でもよい。
【0049】
しかしながら第1板ばね11に加え、第2板ばね12を用いることにより燃料電池スタック1を著しく大きくせずに確実にMEA35の面方向において燃料電池セルまたはセルスタックを均等に締結することができる。
【0050】
またバッキングプレート14、15を設け、エンドプレート17、18と異なる材料でバッキングプレート14、15を構成することが好ましい。これにより、第1板ばね11の押圧力を直接受けるバッキングプレート14、15と燃料や酸化剤の流路を兼ねるエンドプレート17、18とを最適化することができる。例えばエンドプレート17、18より硬い材料でバッキングプレート14、15を構成することで第1板ばね11の押圧力によるバッキングプレート14、15の変形を抑制することができる。その結果、MEA35の面方向において燃料電池セルまたはセルスタックをより均等に締結することができる。またバッキングプレート14、15を絶縁材料で構成することにより第1板ばね11の腕部11Bによる短絡を考慮する必要がなくなる。
【0051】
またこのようにバッキングプレート14、15を用いない場合には第1板ばね11(および第2板ばね12)の断面C字型の内側に絶縁膜を形成し第1板ばね11によって短絡が発生しないようにする。すなわちバッキングプレート14、15は必須ではない。バッキングプレート14、15を用いない場合、エンドプレート17、18に突起14A、15Aに相当する突起や、切り欠き部14B、15Bに相当する切り欠き部を設けることが好ましい。また第1板ばね11(および第2板ばね12)の腕部11Bの先端11Aが、エンドプレート17、18から離れていることが好ましい。
【0052】
また第1冷却用送風路である空間20Aの入り口側に、セルスタック16の積層方向において第1板ばね11の腕部11Bよりも上下方向の外側に位置する壁部(壁部14Cに相当)をエンドプレート17、18に設けることが好ましい。同様に、第2冷却用送風路である空間20Bの入り口側に、セルスタック16の積層方向において第2板ばね12の腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部(壁部14Cに相当)をエンドプレート17、18に設けることが好ましい。これによりエンドプレート17、18やセパレータ34が露出する面へ優先的に冷却風を送ることができる。
【0053】
本実施の形態ではDMFCを例に説明したが、セルスタック16と同様の発電素子を用いる燃料電池であれば本発明の構成は適用可能である。例えば、水素を燃料とする、いわゆる高分子固体電解質燃料電池やメタノール改質型の燃料電池などにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の燃料電池スタックおよびそれを用いた燃料電池では、燃料電池セルまたはセルスタックを板ばねで締結している。このような簡単な構成で燃料電池スタックをコンパクトに構成できるとともに膜電極接合体、または膜電極接合体とセパレータやエンドプレートを均等に締結することができる。このような燃料電池スタックおよびそれを用いた燃料電池は、特に小型電子機器の電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池の構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池スタックの斜視図
【図3】図2に示す燃料電池スタックの断面図
【図4】図2に示す燃料電池スタックの要部の概略構成を示す拡大断面図
【図5】図2に示す燃料電池スタックに用いる第1板ばねの側面図
【符号の説明】
【0056】
1 燃料電池スタック
2 正極端子
3 負極端子
4 燃料タンク
5 燃料ポンプ
6 空気ポンプ
7 制御部
8 蓄電部
9 DC/DCコンバータ
10A 第1送風部
10B 第2送風部
11 第1板ばね
11A 先端
11B 腕部
11C 連結部
11D 凸部
12 第2板ばね
14,15 バッキングプレート
14A,15A 突起
14B,15B 切り欠き部
14C 壁部
16 セルスタック
17,18 エンドプレート
17A,18A,34A フィン
20A,20B 空間
31 アノード電極
31A,32A 拡散層
31B,32B 微多孔層(MPL)
31C,32C 触媒層
32 カソード電極
33 電解質膜
34 セパレータ
35 膜電極接合体(MEA)
51 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、カソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に介在する電解質膜とを積層した膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を、前記膜電極接合体の積層方向両側から挟む一対のエンドプレートと、
前記膜電極接合体と前記エンドプレートとを前記積層方向に締め付ける第1板ばねと、を備え、
前記第1板ばねは、前記エンドプレートを押圧する2つの腕部と、前記2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状であり、
前記第1板ばねの前記連結部と前記膜電極接合体、前記エンドプレートとの間の空間を第1冷却用送風路としたことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
前記エンドプレートの前記第1板ばねに対向する側面にフィンを設けた請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記膜電極接合体を複数有するとともに、複数の前記膜電極接合体同士の間にセパレータを設けてセルスタックを構成した請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記セパレータの前記第1板ばねに対向する側面にフィンを設けた請求項3記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記第1板ばねを複数個備え、前記複数の前記第1板ばね同士の間を連結するシール部をさらに備えた請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記エンドプレートの、前記第1冷却用送風路の入り口側に、前記積層方向において前記第1板ばねの前記2つの腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部を設けた請求項1記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記膜電極接合体と前記エンドプレートとの積層方向に対して直交する方向に、前記第1板ばねに対向するように配置した第2板ばねをさらに備え、前記第2板ばねは、前記エンドプレートを押圧する2つの腕部と、前記2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状であり、
前記第2板ばねの前記連結部と前記膜電極接合体、前記エンドプレートとの間の空間を第2冷却用送風路とした請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池スタック。
【請求項8】
前記膜電極接合体と前記エンドプレートとの積層方向における前記エンドプレートの外側に、一対のバッキングプレートをさらに備え、前記第1板ばねは前記バッキングプレートを介して前記エンドプレートを押圧する請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池スタック。
【請求項9】
前記バッキングプレートの、前記第1冷却用送風路の入り口側に、前記積層方向において前記第1板ばねの前記2つの腕部よりも上下方向の外側に位置する壁部を設けた請求項8記載の燃料電池スタック。
【請求項10】
前記膜電極接合体と前記エンドプレートとの積層方向に対して直交する方向に、前記第1板ばねに対向するように配置した第2板ばねをさらに備え、前記第2板ばねは、前記バッキングプレートを押圧する2つの腕部と、前記2つの腕部をつなぐ連結部とを有し、断面がC字型形状であり、
前記第2板ばねの前記連結部と前記膜電極接合体、前記エンドプレートとの間の空間を第2冷却用送風路とした請求項8または9に記載の燃料電池スタック。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の燃料電池スタックと、
前記アノード電極に燃料を供給する燃料供給部と、
前記カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給部と、を備えた燃料電池。
【請求項12】
前記第1冷却用送風路に送風する第1送風部をさらに備えた請求項11記載の燃料電池。
【請求項13】
請求項7または10に記載の燃料電池スタックと、
前記アノード電極に燃料を供給する燃料供給部と、
前記カソード電極に酸化剤を供給する酸化剤供給部と、
前記第1冷却用送風路に送風する第1送風部と、
前記第2冷却用送風路に送風する第2送風部と、を備えた燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate