説明

燃料電池スタック

【課題】プレス成形された流体流路を有するセパレータの排水性能を向上させる。
【解決手段】セパレータ12aとは別体の変形部材80を凸リブ70aに嵌合させることにより、ガス流路31aの断面形状、特に、流路断面R角を90度以上に変形させる。プレス成形等の手段で加工されたセパレータ12aとは別体の変形部材80を用いてガス流路31aの断面形状を、その流路断面R角が90度以上になるように変形させることが可能となり、プレス成形等の手段では成形困難な流路形状を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のセルを積層して成る燃料電池スタックに関し、特に、セルに供給される反応ガス又は液体を流すための流体流路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池スタックは、膜−電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)とセパレータとから成るセルを積層して構成されている。MEAは、イオン交換膜から成る電解質膜とこの電解質膜の一方の面に配置された触媒層及びガス拡散層から成るアノード電極と、電解質膜の他方の面に配置された触媒層及びガス拡散層から成るカソード電極とから成る。セパレータの流路構造として、例えば、MEAに対向する面に凹溝と凸リブとが形成されており、凹溝がセルに反応ガスを供給するためのガス流路として機能する一方、凸リブが拡散層に接触し導電通路として機能するものが知られている。
【0003】
燃料電池スタックを効率よく運転するには、電解質膜を適度に加湿する必要がある。電解質膜への水分補給方法として、例えば、加湿装置を用いて反応ガスを加湿する方法が一般的である。
【0004】
ところが、セル面内での含水量分布が不均一であると、燃料電池スタックの出力電圧の安定性や耐久性に悪影響を与えかねない。特に、電池反応によって生じた生成水がガス流路に滞留すると、ガス拡散層におけるガス拡散が阻害され、燃料電池スタックの出力電圧の安定性が低下する。
【0005】
このような問題に鑑み、特開2004−247154号公報には、ガス流路溝の側面の傾斜角を変化させたり或いはガス流路溝に施された表面処理層の厚みを変化させたりすることで、セル全面での反応の均一性を保つセパレータ流路構造が提案されている。
【特許文献1】特開2004−247154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃料電池用セパレータの材質としては、車載用途等を考慮した省スペース化を図る上で、小型化・軽量化が求められている。靭性に劣るカーボン質セパレータでは、過度な応力や衝撃が加えられると、割れやすく、特に、過酷な振動に曝される車載用途では破損に至る亀裂が生じる可能性がある。セルの安全性を重視するならば、メタルセパレータの使用が望ましい。メタルセパレータは、材質に延性があるので、プレス成形が可能である。
【0007】
しかし、プレス成形は、量産化に適しているものの、繊細な加工を行うには不向きである。例えば、プレス成形によって、ガス流路溝の側面の傾斜角を変化させるのは非常に困難である。加えて、プレス成形でガス流路を形成すると、ガス流路の角部には、必然的にR角が形成される。R角には、曲げ応力が加えられるので、亀裂が生じやすく、故に面粗度も大きくなりやすいので、生成水が滞留しやすくなる。これでは、ガス拡散層におけるガス拡散が阻害され、燃料電池スタックの出力電圧の安定性が低下してしまう。更に、低温環境下では、ガス流路に滞留している生成水が凍結し、ガス流路の圧力損失を増大させる結果、電池運転に支障を与えかねない。
【0008】
また、アノード電極には酸化電流が流れるので、ガス流路溝に表面処理を施しても、表面層が剥離又は溶出してしまう可能性がある。
【0009】
そこで、本発明はプレス成形された流体流路を有するセパレータの排水性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係る燃料電池スタックは、膜−電極接合体と、膜−電極接合体に接し電気的に導通する凸リブと膜−電極接合体に供給される気体(例えば燃料ガス或いは酸化ガスなどの反応ガス、又は窒素ガスなどの不活性ガス)又は液体(例えば冷媒)を流すための流体流路(ガス流路又は冷媒流路)を形成する凹溝とが形成されたセパレータとを備えるセルを複数積層してなる。
【0011】
セパレータとは別体の変形部材が凸リブ又は凹溝に嵌合されることにより流体流路の断面形状が変形されている。プレス成形等の手段で加工されたセパレータとは別体の変形部材を用いて流体流路の断面形状を所望の形状に変形することにより、プレス成形等の手段では成形困難な流路形状を得ることができる。また、流体流路に表面処理を施すものではないので、表面層の剥離等の問題も生じない。
【0012】
例えば、変形部材が凸リブに嵌合することにより、膜−電極接合体と変形部材とが成す接触角を90度以上に補正することが望ましい。接触角を90度以上に補正することで、電池反応により生じた生成水が流体流路の角部に滞留することがなく、排水性能を向上させることができる。
【0013】
セパレータとしては、凸リブや凹溝をプレス成形によって容易に加工できる部材、例えば、メタルセパレータが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プレス成形された流体流路を有するセパレータの排水性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態について説明する。同一部材には同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。また、図面上の寸法比率はあくまでも説明の便宜上のものであり、図示の例に限られるものではない。
【0016】
図1は本実施形態に係る燃料電池スタック10の模式図である。燃料電池スタック10は、例えば、固体高分子型燃料電池スタックであり、基本単位である多数のセル2を積層してなるスタック本体3を有している。燃料電池スタック10は、スタック本体3の両端に位置するセル2の外側にカバープレート5、出力端子6付きのターミナルプレート7、絶縁プレート8、及びエンドプレート9を順次積層して構成されている。
【0017】
燃料電池スタック10は、スタック両端のそれぞれに配置されているエンドプレート9間を架け渡すようにして設けられたテンションプレート15がボルト16によって固定されることで、セル積層方向に締結荷重が加えられた状態となっている。尚、スタック本体3の一端側のエンドプレート9と絶縁プレート8との間には、プレッシャープレート17とばね機構14とが設けられており、スタック本体3に加えられる締結荷重の変動が吸収されるように構成されている。
【0018】
燃料電池スタック10内部には、各流体(燃料ガス、酸化ガス、及び冷媒)を流すためのマニホールド20a,20bがセル積層方向に貫通形成されている。各流体(燃料ガス、酸化ガス、及び冷媒)は、燃料電池スタック10の一端に配置されているエンドプレート9に設けられた流体配管18から入口側のマニホールド20aに供給され、セパレータに形成された流体流路を流れる。そして最終的に各流体は、出口側のマニホールド20bからエンドプレート9に設けられた流体配管19へと排出される。
【0019】
図2にセル2の分解斜視図を示す。セル2は、MEA11と、MEA11を挟持する一対のセパレータ12a,12bとで構成され、全体として積層形態を有している。MEA11と各セパレータ12a,12bとは、それらの間の周辺部がシール部材13a,13bによりシールされている。
【0020】
MEA11は、高分子材質のイオン交換膜からなる電解質膜21と、電解質膜21の一方の面に配置されたカソード電極22aと、電解質膜21の他方の面に配置されたアノード電極22bとが積層されてなる構造を有している。カソード極22aには、酸化ガス(空気)が供給され、アノード電極22bには、燃料ガス(水素ガス)が供給される。MEA11のアノード側及びカソード側のそれぞれでは、以下の電気化学反応が生じる。
アノード側: H2 → 2H++2e-
カソード側: (1/2)O2+2H++2e- → H2
【0021】
各セパレータ12a,12bは、ガス不透過性の導電性材料から構成されている。導電性材料としては、プレス成形が容易な材質、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属材質が好適である。各セパレータ12a,12bには、図3に示すようにカソード電極22a又はアノード電極22bに面する部分をプレス加工することで、表裏各面に複数の凸リブ70a及び凹溝70bが形成されている。これら複数の凸リブ70a及び凹溝80bは、一方向に延在しており、酸化ガスを流すためのガス流路31a、燃料ガスを流すためのガス流路31b、冷媒を流すための冷媒流路32を画成している。
【0022】
より詳細には、図2に示すようにセパレータ12aの両面のうちカソード電極22aに接する面には、酸化ガスが流れるストレート状のガス流路31aが複数形成され、その裏面側には、冷媒が流れるストレート状の冷媒流路32が複数形成されている。同様に、セパレータ12bの両面のうちアノード電極22bに接する面には、燃料ガスが流れるストレート状のガス流路31bが複数形成され、その裏面側には、冷媒が流れるストレート状の冷媒流路32が複数形成されている。
【0023】
セパレータ12a,12bの一方の端部には、酸化ガスの入口側のマニホールド41、燃料ガスの入口側のマニホールド42、冷媒の入口側のマニホールド43が矩形状に穿孔されている。セパレータ12a,12bの他方の端部には、酸化ガスの出口側のマニホールド51、燃料ガスの出口側のマニホールド52、冷媒の出口側のマニホールド53が矩形状に穿孔されている。
【0024】
セパレータ12aにおける酸化ガス用のマニホールド41,51は、セパレータ12aに溝状に形成された入口側の連絡通路61及び出口側の連絡通路62を介して酸化ガス用のガス流路31aに連通している。同様に、セパレータ12bにおける燃料ガス用のマニホールド42,52は、セパレータ12bに溝状に形成された入口側の連絡通路63及び出口側の連絡通路64を介して燃料ガス用のガス流路31bに連通している。
【0025】
また、各セパレータ12a,12bにおける冷媒用のマニホールド43,53は、各セパレータ12a,12bに溝状に形成された入口側の連絡通路65及び出口側の連絡通路66を介して冷媒流路32に連通している。このような各セパレータ12a,12bの流路構造により、セル2に、燃料ガス、酸化ガス、及び冷媒を適切に供給できる。例えば、酸化ガスは、セパレータ12aのマニホールド41から連絡通路61を介してガス流路31aに導入され、MEA11の発電に供された後、連絡通路62を介してマニホールド51に導出される。
【0026】
尚、ガス流路31a,31b,冷媒流路32は、ストレート流路に限らず、サーペンタイン流路であってもよい。
【0027】
図3にセパレータ12aの斜視図を示す。凸リブ70aには、断面略コの字型を有する変形部材80が嵌合することにより、ガス流路31aの断面形状を変形させている(図4参照)。変形部材80は、セパレータ12aとは別体の部材である。変形部材80は、カソード電極22aに接する平面部81と、ガス流路31aの側面を変形させる側面部82とから成る。平面部81は、導電性部材(例えば、ステンレス)から成り、側面部82は、好ましくは表面粗度の小さい部材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性を有する樹脂)から成る。尚、平面部81と側面部82とは、導電性部材により一体成形されてもよい。
【0028】
尚、変形部材80の長さは、凸リブ70aの長さと同程度でもよく、或いは凸リブ70aの長さよりも短くてもよい。変形部材80の長さが凸リブ70aの長さよりも短い場合には、複数の変形部材80を凸リブ70aの延在方向に沿って嵌合させてもよい。
【0029】
図4はセパレータ12aの断面図を示す。上述の如く、断面略コの字型の変形部材80は、凸リブ70aに嵌合された状態でセパレータ12aとカソード電極22aとの間に介挿されている。凸リブ70aは、変形部材80の平面部81を介してカソード電極22aに導通する。凸リブ70aの背面(凹溝)は、冷媒流路32として機能する。凹溝70b、変形部材80、及びカソード電極22aの間に画成されるストレート状の中空通路は、酸化ガスを流すためのガス流路31aとして機能する。凸リブ70aに変形部材80が嵌合することにより、ガス流路31aの断面形状、特に、流路断面R角が変形している。側面部82は、平面部81に対して直角に形成するか、又はやや内側に屈曲させることで、カソード電極22aと側面部82とが成す接触角Rを90度以上、好ましくは鈍角に補正する。接触角Rを90度以上に補正することで、ガス流路31aの角部に生成水が滞留し難くなり、円滑に排水されるようになる。更に、側面部82を表面粗度の小さい部材で形成することにより、ガス流路31aの排水能力を一層高めることができる。
【0030】
尚、図5に示すように変形部材80を凹溝70bに嵌合させてもよい。この場合、側面部82を平面部81に対して直角に形成するか、又はやや外側に屈曲させることで、平面部81と側面部82との成す接触角Rを90度以上、好ましくは鈍角に補正する。このとき、カソード電極22aに十分な酸化ガスを供給するために、平面部81は、ガス透過性材質、例えば、多孔質材質から構成するのが好ましい。
【0031】
尚、酸化ガスを流すためのガス流路31aの断面形状を変形させる例について説明したが、燃料ガスを流すためのガス流路31bや冷媒を流すための冷媒流路32についても変形部材80を用いてその断面形状、特に、流路断面R角を90度以上に補正してもよい。
【0032】
本実施形態によれば、セパレータ12aとは別体の変形部材80が凸リブ70a又は凹溝70bに嵌合されることによりガス流路31aの断面形状を変形させることができる。プレス成形等の手段で加工されたセパレータ12aとは別体の変形部材80を用いてガス流路31aの断面形状を所望の形状に変形することによりプレス成形等の手段では成形困難な流路形状を得ることができる。また、流体流路に表面処理を施すものではないので、表面層の剥離等の問題も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態に係る燃料電池スタックの模式図である。
【図2】セルの分解斜視図である。
【図3】セパレータの斜視図である。
【図4】セパレータの断面図である。
【図5】セパレータの断面図である。
【符号の説明】
【0034】
2…セル
10…燃料電池スタック
11…膜−電極接合体
12a,12b…セパレータ
22a…カソード電極
22b…アノード電極
31a,31b…ガス流路
32…冷媒流路
70a…凸リブ
70b…凹溝
80…変形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体に接し電気的に導通する凸リブと前記膜−電極接合体に供給される気体又は液体を流すための流体流路を形成する凹溝とが形成されたセパレータとを備えるセルを複数積層してなる燃料電池スタックであって、前記セパレータとは別体の変形部材が前記凸リブ又は凹溝に嵌合されることにより前記流体流路の断面形状が変形されてなる、燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックであって、前記変形部材が前記凸リブに嵌合することにより、前記膜−電極接合体と前記変形部材とが成す接触角は90度以上である、燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池スタックであって、前記セパレータは、メタルセパレータである、燃料電池スタック。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の燃料電池スタックであって、前記凸リブ及び前記凹溝は、プレス成形されたものである、燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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