説明

燃料電池セパレータおよびその製造方法

【課題】燃料電池セパレータに関する新しいコーティング技術を提供する。
【解決手段】燃料電池セパレータ10は、マニホールドとして機能する開口14を備えている。マスキング治具によって発電領域がマスキングされた状態で、燃料電池セパレータ10の周縁領域に樹脂コートが施される。その際、周縁領域の一部でセパレータの基材が露出するように樹脂コートが施される。そして、マスキング治具が取り外され、周縁領域が樹脂コートによりマスキングされた燃料電池セパレータ10に対して、その発電領域に導電性コートが施される。その際、周縁領域の一部でセパレータの基材が露出した部分を介して通電されることにより導電性コートが施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータに関し、特に燃料電池セパレータのコーティング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含有した燃料ガスと酸素を含有した酸化ガスとを反応させて得られる化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池が知られている。燃料電池は、例えば、車両などに搭載され、車両駆動用のモータの電力源などとして利用される。
【0003】
化学反応後に生じる生成水などによる腐食を防ぐために、燃料電池には、耐食性を必要とする部品が利用される。例えば、燃料電池に利用されるセパレータ(燃料電池セパレータ)には、耐食性を高めるために樹脂コートなどが施される。
【0004】
そのため、従来から、燃料電池セパレータのコーティングに関する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、燃料電池用のセパレータの外周部分に樹脂などのシール材を接着するためのプライマを電着塗装する技術が示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−80026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者らは、特許文献1に記載された画期的な技術を踏まえ、さらに新しいコーティング技術について研究と開発を続けてきた。特に、樹脂コートが施された後の燃料電池セパレータへの表面処理について、研究と開発を続けてきた。
【0007】
本発明は、このような背景において成されたものであり、その目的は、燃料電池セパレータに関する新しいコーティング技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である燃料電池セパレータは、板状のセパレータ基材に導電性コートと樹脂コートを施した燃料電池セパレータであって、前記セパレータ基材は、発電層に対向する発電領域とマニホールドとして機能する開口を含んだ周縁領域とを有し、前記周縁領域は、その少なくとも一部でセパレータ基材が露出するように樹脂コートが施されてマニホールドとして機能する開口が樹脂コートによってコーティングされ、前記発電領域は、前記周縁領域のセパレータ基材が露出した部分を介して通電されることにより導電性コートが施される、ことを特徴とする。
【0009】
上記態様において、導電性コートは、例えば、導電性と耐食性のうちの少なくとも一方がセパレータ基材の表面よりも良好な材料によって形成される。導電性コートの具体例は、金属めっきなどである。また、導電性コートと樹脂コートは、例えば、電着処理によって実現される。
【0010】
上記態様により、マニホールドとして機能する開口が樹脂コートによってコーティングされ、さらに、発電領域に導電性コートが施された燃料電池セパレータを提供することができる。また、周縁領域のセパレータ基材が露出した部分を介して通電して導電性コートを施すことにより、導電性コートのための通電が比較的容易になる。さらに、例えば、発電領域で電流集中などが発生しにくくなり、より均一かつ緻密に導電性コートを施すことが可能になる。
【0011】
望ましい態様において、前記周縁領域のセパレータ基材が露出した部分は、複数の電池セルを積層させて燃料電池を組み立てる際に、電池セル同士の位置決めに利用される位置決め部である、ことを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の好適な態様である製造方法は、板状のセパレータ基材に導電性コートと樹脂コートを施して燃料電池セパレータを製造する方法であって、マニホールドとして機能する開口を含んだセパレータ基材の周縁領域に対して、周縁領域の少なくとも一部でセパレータ基材が露出するように樹脂コートを施す第1コーティング工程と、前記周縁領域のうちのセパレータ基材が露出した部分からセパレータ基材を通電することにより、発電層に対向するセパレータ基材の発電領域に対して導電性コートを施す第2コーティング工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい態様において、前記第2コーティング工程は、前記第1コーティング工程の樹脂コートにより開口を含んだ周縁領域がマスキングされたセパレータ基材に対して、導電性コートとして、金属メッキを施す工程である、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい態様において、前記周縁領域のうちのセパレータ基材が露出した部分は、複数の電池セルを積層させて燃料電池を組み立てる際に、電池セル同士の位置決めに利用される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、燃料電池セパレータに関する新しいコーティング技術が提供される。これにより、例えば、マニホールドとして機能する開口が樹脂コートによってコーティングされ、さらに、発電領域に導電性コートが施された燃料電池セパレータを提供することができる。
【0016】
また、セパレータ基材の周縁領域に樹脂コートを施してから発電領域に導電性コートを施すことにより、樹脂コートが導電性コートを施す際のマスキングとして機能し、導電性コートのためのマスキング作業を省略することが可能になる。
【0017】
また、周縁領域のセパレータ基材が露出した部分を介して通電して導電性コートを施すことにより、導電性コートのための通電が比較的容易になる。さらに、例えば、発電領域で電流集中などが発生しにくくなり、より均一かつ緻密に導電性コートを施すことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の好適な実施形態を説明するための図であり、図1には、本発明に係る燃料電池セパレータ10の模式図が示されている。
【0020】
燃料電池セパレータ10は、表裏の面が略長方形の板状の部材である。燃料電池セパレータ10は、例えばSUS材やカーボンなどの導電性を備えた材料で形成される。
【0021】
燃料電池セパレータ10は、略長方形の面の中央部に、発電層に対向する発電領域12を備えている。例えば、発電層として機能するMEA(膜電極接合体)を2枚の燃料電池セパレータ10によって挟持して電池セルを形成する場合に、燃料電池セパレータ10の発電領域12に対向するようにMEAが積層される。
【0022】
ちなみに、2枚の燃料電池セパレータ10によってMEAを挟持した複数の電池セルが積層されることにより燃料電池が形成される。
【0023】
また、燃料電池セパレータ10は、略長方形の面の周縁部、つまり、発電領域12を取り囲む発電領域12以外の周縁領域に複数の開口14および短辺部分16を備えている。図1において、燃料電池セパレータ10は、その長手方向の両端側にそれぞれ3個の開口14を備えているとともに、その長手方向の両端(左右端)にそれぞれ短辺部分16を備えている。なお、図1に示す開口14及び/又は短辺部分16の位置や形状は、あくまでも一例に過ぎない。
【0024】
燃料電池セパレータ10に設けられた開口14は、この燃料電池セパレータ10によって燃料電池を形成した場合に、マニホールドとして機能する。マニホールド内には、燃料ガスと酸化ガスの化学反応後に生じる生成水などが流れる。そのため、マニホールドを形成する開口14には、生成水などによる腐食を防ぐために樹脂コートが施される。
【0025】
樹脂コートは、燃料電池セパレータ10の周縁領域の略全域に施される。つまり、図1において、燃料電池セパレータ10の発電領域12以外の領域(短辺部分16を除く)に樹脂コートが施される。一方、発電領域12には、その略全域に導電性コートが施される。そして、本実施形態では、燃料電池セパレータ10の周縁領域に樹脂コートを施す際に、樹脂コートを不要とする領域をマスキングするためのマスキング治具が利用される。
【0026】
図2および図3は、本実施形態で利用されるマスキング治具50を説明するための図である。マスキング治具50は、板状の燃料電池セパレータ10を表裏の両面から挟み込んで、燃料電池セパレータ10の表裏の面の樹脂コートが不要な領域をマスキングする。
【0027】
図2は、マスキング治具50によって燃料電池セパレータ10がマスキングされる様子を説明するための図である。図2は、2つのマスキング治具50によって燃料電池セパレータ10が挟み込まれる様子を燃料電池セパレータ10の側面側(長辺側)から示している。
【0028】
図2に示すように、マスキング処理の際には、燃料電池セパレータ10の表裏(上下)の両面に対応した2つのマスキング治具50が利用される。各マスキング治具50は、板状の樹脂製保護材52に枠状のフレーム54を積層させた構造であり、さらに、フレーム54にマスキング材56が積層されている。
【0029】
2つのマスキング治具50が燃料電池セパレータ10を挟み込んで燃料電池セパレータ10に密着すると、燃料電池セパレータ10の長手方向の両端側(左右)、すなわち短辺側から、2つの締め付け治具60が挿入される。これにより、2つのマスキング治具50が燃料電池セパレータ10を挟持した状態で、2つの締め付け治具60によってマスキング治具50が固定される。
【0030】
図3は、マスキング治具50の構造を説明するための図であり、図3は、燃料電池セパレータ10と接触する面側から見たマスキング治具50を示している。
【0031】
マスキング治具50の中央部には、枠状のマスキング材56aが設けられている。マスキング材56aは、マスキング治具50の中央の領域を取り囲むように設けられている。このマスキング材56aによって取り囲まれた領域は、燃料電池セパレータの発電領域(図1の符号12)に対応している。
【0032】
マスキング治具50が燃料電池セパレータを挟み込んだ際に、マスキング材56aは、燃料電池セパレータの発電領域の外周に沿って密着する。マスキング材56aは、全周に亘って隙間無く設けられており、マスキング材56aが発電領域の外周に沿って密着することにより、発電領域の全域がマスキングされる。
【0033】
なお、マスキング治具50は、マスキング材56aによって取り囲まれた領域内に、通電部58を備えている。通電部58は、マスキング材56aが発電領域の外周に沿って密着した際に、燃料電池セパレータに接触する。そして、マスキング材56aによるマスキングの際に通電部58から燃料電池セパレータに電圧が印加される。後に説明するように、通電部58から印加される電圧によって、燃料電池セパレータの表面に樹脂が電着される。
【0034】
また、マスキング治具50の長手方向の両端(左右端)には、棒状のマスキング材56bが短辺に沿って設けられている。そして、マスキング治具50が燃料電池セパレータを挟み込んだ際に、マスキング材56bは、燃料電池セパレータの長手方向の両端に、燃料電池セパレータの短辺に沿って密着する。
【0035】
本実施形態では、マスキング治具50を利用して燃料電池セパレータに樹脂コートが施される。さらに、樹脂コートが施された後、燃料電池セパレータに導電性コートが施される。そこで、次に、本実施形態におけるコーティング処理について説明する。
【0036】
図4は、燃料電池セパレータ10のコーティング処理を説明するための図である。図4(A)〜(D)には、コーティング処理の各工程ごとの燃料電池セパレータ10の表面部分が示されている。図4(A)〜(D)の各々は、燃料電池セパレータ10をその側面側(長辺側)から示している。なお、図4は、燃料電池セパレータ10の一方面(上面)のみのコーティング処理を示しているが、燃料電池セパレータ10の他方面(下面)についても一方面と同様にコーティングが施される。
【0037】
図4(A)は、燃料電池セパレータ10の表面にマスキングが施された状態を示している。つまり、燃料電池セパレータ10の表面にマスキング治具(図3の符号50)が積層され、マスキング治具のマスキング材56a,56bが燃料電池セパレータ10の表面に密着した状態を示している。
【0038】
先に説明したように(図2,図3参照)、マスキング材56aは、燃料電池セパレータ10の発電領域の外周に沿って密着することにより、発電領域の全域をマスキングする。つまり、図4(A)において、燃料電池セパレータ10のマスキング材56aに接する面がマスキングされる。また、マスキング材56bは、燃料電池セパレータ10の長手方向の両端(左右端)に、燃料電池セパレータ10の短辺に沿って密着する。つまり、図4(A)において、燃料電池セパレータ10のマスキング材56bに接する部分(図4(D)の短辺部分16)がマスキングされる。
【0039】
次に、図4(B)に示すように、マスキング材56a,56bによってマスキングされた状態で燃料電池セパレータ10の表面に樹脂膜70がコーティングされる。
【0040】
樹脂膜70のコーティングには、電着処理(例えば、ポリイミドまたはポリアミドイミド電着)が利用され、樹脂粉末の一部分をイオン化して得られる陽イオン性樹脂を燃料電池セパレータ10の表面に電着させる。電着処理の際には、陽イオン性樹脂が存在する溶液中で、燃料電池セパレータ10に負極電圧を印加して対極に正極電圧を印加することにより、燃料電池セパレータ10側に陽イオン性樹脂を引き寄せ、燃料電池セパレータ10の表面に陽イオン性樹脂を付着させる。その際、燃料電池セパレータ10には、マスキングが施されているため、マスキング材56a,56bによってマスキングされていない領域、つまり、燃料電池セパレータ10の周縁領域の略全域に陽イオン性樹脂が付着する。電着処理により、燃料電池セパレータ10の発電領域12及び短辺部分16を除く領域(図1参照)の表面には、均一かつ緻密に樹脂粉末がコートされる。
【0041】
なお、樹脂を電着させる際には、マスキング治具の通電部(図3の符号58)から燃料電池セパレータ10に負極電圧が印加される。先に説明したように(図3参照)、通電部は、マスキング材56aによってマスキングされた発電領域内で燃料電池セパレータ10と接触する。つまり、樹脂が電着されない発電領域から、樹脂を電着させるための電圧が印加される。
【0042】
ちなみに、樹脂が電着される領域で樹脂を電着させるための電圧を印加すると、電圧の印加部分で電流集中などが生じやすくなり、樹脂が均一に電着されない場合がある。これに対し、本実施形態では、樹脂が電着されない発電領域から電圧を印加するため、樹脂を電着させる領域で電流集中などが発生しにくくなり、より均一かつ緻密に樹脂を電着させることが可能になる。
【0043】
本実施形態では、燃料電池セパレータ10の表面に樹脂粉末がコートされた後、その燃料電池セパレータ10からマスキング治具を取り外し、樹脂粉末を燃料電池セパレータ10の表面に焼き付ける焼付処理を実行する。そして、燃料電池セパレータ10の表面に付着した樹脂粉末を溶かすことにより、樹脂のコートをさらに均一かつ緻密にした後、樹脂を硬化させ、燃料電池セパレータ10の表面に樹脂膜70が形成される。
【0044】
電着処理のみであっても樹脂の緻密なコートが可能であるが、焼付処理で樹脂を溶かすことにより、樹脂と樹脂の間に存在したごく僅かな孔が完全に塞がれ、極めて緻密で均一な樹脂膜70が形成される。
【0045】
こうして、図4(C)に示すように、燃料電池セパレータ10の周縁領域の略全域に樹脂膜70が形成されることにより、マニホールドとして機能する開口(図1の符号14)が樹脂膜70によってコーティングされる。
【0046】
次に、図4(D)に示すように、樹脂膜70が形成された燃料電池セパレータ10の表面にめっき膜80がコーティングされる。
【0047】
めっき膜80のコーティングにも、電着処理が利用され、イオン化した金属(例えば、金の錯イオン)を燃料電池セパレータ10の表面に電着させる。電着処理の際には、錯イオンが存在する溶液中で、燃料電池セパレータ10をカソード側にして電流を流すことにより、燃料電池セパレータ10側に錯イオンを引き寄せ、燃料電池セパレータ10の表面に錯イオン中の金属を付着させる。その際、燃料電池セパレータ10には、樹脂膜70が形成されているため、絶縁性を備えた樹脂膜70がマスキングとして機能する。そして、樹脂膜70が形成されていない領域、つまり、燃料電池セパレータ10の発電領域に錯イオン中の金属が付着して、めっき膜80が形成される。
【0048】
なお、金属の錯イオンを電着させる際には、燃料電池セパレータ10の短辺部分16から燃料電池セパレータ10にカソード電流が負荷される。短辺部分16は、樹脂電着の際にマスキング材56bによってマスキングされていたため、短辺部分16には樹脂が電着されていない。そのため、短辺部分16は、導電性を備えた材料で形成された燃料電池セパレータ10(セパレータの基材)が露出しており、その露出された短辺部分16から金属の錯イオンを電着させるための電流が負荷される。
【0049】
ちなみに、金属めっきをする領域、つまりセパレータ10の発電領域で電流を負荷すると、電流集中などが生じやすくなり、金属の錯イオンが均一に電着されない場合がある。これに対し、本実施形態では、発電領域から隔離した短辺部分16から電流を負荷するため、発電領域で電流集中などが発生しにくくなり、より均一かつ緻密に金属の錯イオンを発電領域に電着させることが可能になる。
【0050】
こうして、図4(D)に示すように、燃料電池セパレータ10の周縁領域(短辺部分16を除く)に樹脂膜70が形成され、燃料電池セパレータ10の発電領域にめっき膜80が形成される。
【0051】
本実施形態では、燃料電池セパレータ10に樹脂膜70が形成されてからめっき膜80が形成されており、燃料電池セパレータ10と樹脂膜70の間にめっき膜80が介在しない。そのため、燃料電池セパレータ10と樹脂膜70との間の密着耐久性が極めて高い。
【0052】
また、樹脂膜70がマスキングとして機能してめっき膜80が形成されており、樹脂膜70とめっき膜80の境界を互いに接触させた連続的なコートを形成している。そのため、樹脂膜70とめっき膜80の境界部分を起点として腐食が発生しにくい。また、樹脂膜70がマスキングとして機能するため、めっき膜80を形成するためのマスキング作業を省略することが可能になる。
【0053】
なお、燃料電池セパレータ10(セパレータの基材)が露出した短辺部分16は、この燃料電池セパレータ10によって形成された複数の電池セルを積層させて燃料電池を組み立てる際に、電池セル同士の位置決めに利用される位置決め部としての機能も担う。
【0054】
燃料電池を組み立てる際の位置決めについては、例えば、特開2005−243355号公報に記載された技術を応用することができる。この公報に記載された位置決め技術の概要は次のとおりである。なお、以下の説明における括弧内の符号は、当該公報に記載された符号である。
【0055】
第1金属セパレータ(符号14)の外周に金属露出部(符号46a,46b,46c)を設け、第2金属セパレータ(符号16)の外周に金属露出部(符号56a,56b,56c)を設ける。そして、第1金属セパレータと第2金属セパレータによって電解質膜・電極構造体(符号12)を挟持して燃料電池(符号10)を形成する。複数の燃料電池(符号10)を積層して燃料電池スタック(符号60)を組み付けるための組立装置(符号80)には、支持ロッド(符号106a,106b,108)が設けられている。そして、各燃料電池(符号10)の金属露出部がセパレータの積層方向に延在する支持ロッドに当接されることにより、複数の燃料電池(符号10)が正確に位置決めされる。
【0056】
本実施形態では、燃料電池セパレータ10が露出した短辺部分16(位置決め部)が、上記公報における金属露出部の機能を担う。つまり、2枚の燃料電池セパレータ10によってMEAを挟持して電池セルを形成し、その電池セルを複数積層する際に、燃料電池セパレータ10の短辺部分16(位置決め部)が、電池セル同士の位置決めに利用される。例えば、電池セルを積層させるための組立装置を用いて、その組立装置によって短辺部分16(位置決め部)が支持されることにより、各電池セルの位置が定められて、複数の電池セルが正確に位置決めされる。なお、セル同士の積層のみならず、膜電極接合体を一対のセパレータで挟持してセルを作製する場合のセパレータ同士の位置決めにも金属露出部を利用できる。いずれの場合にも、金属露出部は、セパレータの端面(側面)に樹脂が付着していないので、位置決め治具による位置決め精度が高い。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、上述した実施形態では、樹脂コートの際に電着処理を利用しているが、電着処理に換えて、射出成形などによって樹脂コートを実現してもよい。また、導電性コートについても、電着処理に換えて、塗布、蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどのコーティング処理を利用してもよい。また、導電性コートは、金(Au)の他、銅、銀、白金、パラジウム、カーボンなどによって実現されてもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、図4に示したように、マスキング材56bによってマスキングを施して短辺部分16を露出させているが、マスキング材56bを利用せずに短辺部分16にも樹脂膜70を形成し、その後、短辺部分16の樹脂膜70を部分的に除去することにより、短辺部分16を露出させてもよい。また、上述した実施形態では、図1及び図4(D)に示したように、燃料電池セパレータ10の短辺部分16を露出させているが、燃料電池セパレータ10の長辺部分の少なくとも一部を露出させてもよい。また、上述した実施形態では、図2に示したように、燃料電池セパレータ10短辺側から締め付け治具60を挿入しているが、燃料電池セパレータ10の長辺側から締め付け治具60を挿入してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る燃料電池セパレータ10の模式図である。
【図2】マスキング治具によって燃料電池セパレータがマスキングされる様子を説明するための図である。
【図3】マスキング治具の構造を説明するための図である。
【図4】燃料電池セパレータのコーティング処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0060】
10 燃料電池セパレータ、12 発電領域、14 開口、16 短辺部分(位置決め部)、50 マスキング治具、70 樹脂膜、80 めっき膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のセパレータ基材に導電性コートと樹脂コートを施した燃料電池セパレータであって、
前記セパレータ基材は、発電層に対向する発電領域とマニホールドとして機能する開口を含んだ周縁領域とを有し、
前記周縁領域は、その少なくとも一部でセパレータ基材が露出するように樹脂コートが施されてマニホールドとして機能する開口が樹脂コートによってコーティングされ、
前記発電領域は、前記周縁領域のセパレータ基材が露出した部分を介して通電されることにより導電性コートが施される、
ことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池セパレータにおいて、
前記周縁領域のセパレータ基材が露出した部分は、複数の電池セルを積層させて燃料電池を組み立てる際に、電池セル同士の位置決めに利用される位置決め部である、
ことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項3】
板状のセパレータ基材に導電性コートと樹脂コートを施して燃料電池セパレータを製造する方法であって、
マニホールドとして機能する開口を含んだセパレータ基材の周縁領域に対して、周縁領域の少なくとも一部でセパレータ基材が露出するように樹脂コートを施す第1コーティング工程と、
前記周縁領域のうちのセパレータ基材が露出した部分からセパレータ基材を通電することにより、発電層に対向するセパレータ基材の発電領域に対して導電性コートを施す第2コーティング工程と、
を含む、
ことを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法において、
前記第2コーティング工程は、前記第1コーティング工程の樹脂コートにより開口を含んだ周縁領域がマスキングされたセパレータ基材に対して、導電性コートとして、金属メッキを施す工程である、
ことを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の製造方法において、
前記周縁領域のうちのセパレータ基材が露出した部分は、複数の電池セルを積層させて燃料電池を組み立てる際に、電池セル同士の位置決めに利用される、
ことを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−65995(P2008−65995A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239442(P2006−239442)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【出願人】(598133528)日本ケミカル電子株式会社 (4)
【Fターム(参考)】