説明

燃料電池セルのシール構造

【課題】燃料電池セル10におけるセパレータ11,12同士の接触による電気的短絡を有効に防止する。
【解決手段】互いに厚さ方向に対向配置されたセパレータ11,12間に電気絶縁材料からなるガスケット13が介在された構造を有する燃料電池セル10において、ガスケット13が、一方のセパレータ11に一体的に接着された台座部131と、この台座部131から隆起形成されたシール突条132と、このシール突条132と並んで台座部131から隆起形成されセパレータ11,12の変形によるセパレータ11,12の周縁部11a,12a同士の接触を防止する短絡防止突起133とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池セルのシール構造であって、特に、セパレータの変形によるセパレータ間の電気的短絡を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料電池セルが多数積層されたセルスタック構造となっており、各燃料電池セルは、高分子電解質膜(イオン交換膜)の両面に一対の触媒電極層を設けた膜電極複合体(以下MEAという)の厚さ方向両側にセパレータを配置した構造となっている。そして、酸化ガス(酸素)が各セパレータの一方の面に形成された酸化ガス流路からMEAにおける一方の触媒電極層(カソード)に供給され、燃料ガス(水素)が各セパレータの他方の面に形成された燃料ガス流路からMEAにおける他方の触媒電極層(アノード)に供給され、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって、電力を発生するものである。
【0003】
燃料ガスや酸化ガスが外部へ漏洩したり、互いに混合したりしないように、各燃料電池セルにおける発電領域の周囲はガスケットによって密封されている。図6及び図7は、従来技術による燃料電池セルのシール構造の一例を示すもので、すなわち図示の例では、燃料電池セル100におけるセパレータ101,102の互いの対向面のうちの一方に、電気絶縁性を有するゴム状弾性材料からなるガスケット103が一体に設けられ、図7の積層状態ではガスケット103のシール突条103aが、適当な圧縮状態で他方の対向面に密接されることによって密封を行うものである(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
ところで、セパレータ101,102が薄肉の導電性金属からなるものである場合は、このセパレータ101,102は厚さ方向に変形しやすくなる。また、この種の燃料電池セル100では、ガスケット103は、金型による成形の際に必要な型締め幅wを考慮した形状となっており、すなわち図6に示されるように、ガスケット103はセパレータ101における周縁部101aの端面よりも前記型締め幅wに相当する分だけ離れた位置に設けられている。このため、積層の際に、セパレータ101,102に反りや歪みがあったり、積層過程で各セパレータ101,102に図8に示されるような積層ずれを生じてスタックの締結による積層荷重が不均一になったりすると、図9に示されるように、セパレータ101,102同士が平行に積層されず、厚さ方向に変形し、ガスケット103の外側でセパレータ101,102の周縁部101a,102a同士が接触して電気的短絡を生じてしまう。そしてこの種の燃料電池は、燃料電池セルを多数積層して電気的に直列に接続することによって、必要な起電力を得るものであるため、セパレータ101,102間で短絡すると、スタック全体としての起電力が低下してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−55428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、燃料電池セルにおけるセパレータ同士の接触による電気的短絡を有効に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る燃料電池セルのシール構造は、互いに厚さ方向に対向配置されたセパレータ間に電気絶縁材料からなるガスケットが介在された構造を有する燃料電池セルにおいて、前記ガスケットが、一方のセパレータに一体的に接着された台座部と、この台座部から隆起形成されたシール突条と、このシール突条と並んで前記台座部から隆起形成され前記セパレータの変形によるセパレータ同士の接触を防止する短絡防止突起とを有するものである。
【0008】
上記構成において、ガスケットは、その台座部に隆起形成されたシール突条が、他方のセパレータなど相手材に適当な圧縮状態で密接されることによって、密封機能を奏すると共に、電気絶縁材料からなるため、セパレータ間の電気的短絡を防止するものである。そして、セパレータに反りや歪があったり、積層ずれなどに起因してセパレータが厚さ方向に変形したりしても、ガスケットの台座部にシール突条と並んで隆起形成された短絡防止突起との接触によって前記反りや歪や変形が抑制され、セパレータ同士の接触による電気的短絡が防止される。
【0009】
請求項2の発明に係る燃料電池セルのシール構造は、請求項1に記載の短絡防止突起が、シール突条から見てセパレータの周縁部側に位置して形成されたものである。
【0010】
請求項3の発明に係る燃料電池セルのシール構造は、請求項1に記載の短絡防止突起の上面が平坦に形成されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料電池セルのシール構造によれば、ガスケットの台座部にシール突条と並んで隆起形成された短絡防止突起によって、セパレータの反りや歪や変形が抑制され、セパレータ同士の接触が防止されるので、セパレータ間の電気的短絡による燃料電池の発電効率の低下を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい形態を示す積層過程の部分断面図である。
【図2】本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい形態を示す積層状態の部分断面図である。
【図3】本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい形態において、積層過程でセパレータのずれを生じた状態を示す部分断面図である。
【図4】本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい形態において、積層によりセパレータが変形した状態を示す部分断面図である。
【図5】本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい他の形態を示す積層過程の部分断面図である。
【図6】従来技術による燃料電池セルのシール構造の一例を示す積層過程の部分断面図である。
【図7】従来技術による燃料電池セルのシール構造の一例を示す積層状態の部分断面図である。
【図8】従来技術による燃料電池セルのシール構造の一例において、積層過程でセパレータのずれを生じた状態を示す部分断面図である。
【図9】従来技術による燃料電池セルのシール構造の一例において、積層によりセパレータが変形した状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る燃料電池セルのシール構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい形態を示す積層過程の部分断面図、図2は、同じく積層状態の部分断面図である。
【0014】
図1及び図2に示される燃料電池セル10において、参照符号11,12は、互いに厚さ方向に対向配置された薄肉のステンレス鋼板など導電性を有する金属板からなるセパレータ、参照符号13は、セパレータ11,12間に介在され、電気絶縁性を有するゴム状弾性材料(ゴム又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケットである。
【0015】
ガスケット13は、例えば不図示の金型を用いてセパレータ11の表面に一体成形したものであって、成形の際に必要な型締め幅を考慮した形状となっており、すなわち図1に示されるように、型締め幅wは、ガスケット13の台座部131の外側端面と、セパレータ11における周縁部11aの端面との距離に相当するものであって、言い換えれば、ガスケット13はセパレータ11における周縁部11aの端面あるいは不図示の開口縁部の端面より幅wだけ離れた位置に設けられている。
【0016】
詳しくはこのガスケット13は、図1に示されるように、セパレータ11における周縁部11aあるいは不図示の開口縁部の端面より幅wだけ離れた位置に沿って、他方のセパレータ12との対向面に一体的に接着された扁平な帯状の台座部131と、この台座部131の幅方向中間部から隆起形成され断面が山形のシール突条132と、このシール突条132の両側に並んで前記台座部131から隆起形成された短絡防止突起133,133とを有する。短絡防止突起133,133は、セパレータ11の表面からの高さがシール突条132の高さよりも低く、上面が平坦に形成されている。
【0017】
また、シール突条132はその延長方向に連続しているのに対し、短絡防止突起133,133は、連続しているものであっても良く、あるいは断続しているものであっても良い。
【0018】
上記構成を備える燃料電池セル10は、先に背景技術において説明したように、酸化ガス(酸素)が各セパレータ11,12の一方の面に形成された酸化ガス流路から不図示のMEAにおける一方の触媒電極層(カソード)に供給され、燃料ガス(水素)が各セパレータ11,12の他方の面に形成された燃料ガス流路から前記MEAにおける他方の触媒電極層(アノード)に供給され、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって、電力を発生するものである。
【0019】
そしてセパレータ11に一体的に設けられたガスケット13は、シール突条132が、他方のセパレータ12に適当な圧縮状態で密接されることによって、反応ガスや冷却液などに対する密封機能を奏するものであると共に、電気絶縁材料からなるため、セパレータ11,12間の電気的短絡を防止する機能も兼備するものである。
【0020】
ここで、図2に示される正常な積層状態、すなわちセパレータ11,12に反りや歪、あるいは積層ずれなどに起因する厚さ方向の変形をほとんど生じていない積層状態では、ガスケット13は、シール突条132が適当に圧縮された状態でセパレータ12の表面に密接されると共に、短絡防止突起133,133が前記セパレータ12における周縁部12aの近傍あるいは不図示の開口縁部の近傍の表面に近接対向される。
【0021】
また図3に示されるように、積層過程で各セパレータ11,12に積層ずれがあると、スタックの締結によってシール突条132の圧縮反力による荷重が不均一になるので、図4に示されるように、セパレータ11,12同士が平行に積層されず、厚さ方向への変形を生じる。しかしながら本発明のシール構造によれば、セパレータ11,12の変形によって、その周縁部11a,12aがある程度接近すると、セパレータ12の周縁部12aがガスケット13の台座部131にシール突条132の外側に位置して隆起形成された短絡防止突起133に接触し、短絡防止突起133の上面が平坦に形成されていることによって接触による圧縮率が外側ほど大きくなるため、これによってセパレータ11,12の変形が抑制され、周縁部11a,12a同士の接触による電気的短絡が防止される。このため、燃料電池の発電効率の低下を有効に防止することができる。
【0022】
また、セパレータ11,12に加工誤差等による反りや歪がある状態で積層された場合も同様、セパレータ11,12の周縁部11a,12a同士の接触による電気的短絡が、短絡防止突起133によって有効に防止される。
【0023】
また図5は、本発明に係る燃料電池セルのシール構造の好ましい他の形態を示す積層過程の部分断面図である。この形態では、ガスケット13の台座部131にシール突条132の外側(図5における左側)に位置する短絡防止突起133のみが隆起形成されている。短絡防止突起133は、図1と同様のものである。
【0024】
すなわち、セパレータ11,12の間に、ガスケット13の内側(図5における右側)に位置して不図示のMEAやガス拡散層などが介在している場合は、セパレータ11,12同士がガスケット13の内側で接触することはないため、短絡防止用の短絡防止突起133は、この形態のようにシール突条132の外側のみに設けても良い。
【0025】
なお、上述の説明では、ガスケット13がセパレータ11に一体成形されたものとしたが、ガスケット13を単体で成形して、その台座部131の底面を、接着剤によりセパレータ11に貼着して一体化するものや、剥離フィルムを貼着した粘着剤層を片面に有する合成樹脂フィルムの、粘着剤層と反対側の面にガスケット13を一体成形し、剥離フィルムを剥離してから粘着剤層を介してセパレータ11に一体化するものにも適用することができる。
【0026】
また、上述の説明では、ガスケット13が他方のセパレータ12に密接されるものとしたが、MEAなどに密接されるものなどにも適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 燃料電池セル
11,12 セパレータ
11a,12a 周縁部
13 ガスケット
131 台座部
132 シール突条
133 短絡防止突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに厚さ方向に対向配置されたセパレータ間に電気絶縁材料からなるガスケットが介在された構造を有する燃料電池セルにおいて、前記ガスケットが、一方のセパレータに一体的に接着された台座部と、この台座部から隆起形成されたシール突条と、このシール突条と並んで前記台座部から隆起形成され前記セパレータの変形によるセパレータ同士の接触を防止する短絡防止突起とを有することを特徴とする燃料電池セルのシール構造。
【請求項2】
短絡防止突起が、シール突条から見てセパレータの周縁部側に位置して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セルのシール構造。
【請求項3】
短絡防止突起の上面が平坦に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セルのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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