説明

燃料電池セルの製造方法

【課題】燃料極を圧粉成形する工程を含む燃料電池セルの製造方法において、燃料極の上方に形成された層の剥離を抑制することのできる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池セルの製造方法は、以下の工程a)〜d)を含む。
a)圧粉成形によって燃料極を形成すること
b)工程d)の焼成前の前記燃料極の表面における凹部発生率を、2%以下に制御すること
c)工程b)を経た燃料極上に、電解質層を形成すること
d)工程c)を経た燃料極及び電解質層を焼成すること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。
【0003】
特許文献1には、支持体を備えると共に、支持体表面に、燃料極側電極、固体電解質、酸素側電極がこの順に設けられた燃料電池セルが記載されている。
また、特許文献1には、この燃料電池セルの製造方法として、以下の方法が記載されている。
【0004】
まず、NiO粉末、Ni粉末、Y粉末、Yb粉末、造孔剤、有機バインダ、水等を混合することで、支持体材料の混合物を作製する。この混合物を押出成形し、扁平状の支持体成形体を作製する。さらにこの支持体成形体を乾燥させる。
次に、支持体成形体の一方の平坦部の表面に、燃料側電極成形体及び固体電解質成形体を順次積層し、他方の平坦部の表面に中間膜成形体及びインターコネクタ成形体を積層する。さらに、こうしてできた積層成形体を脱脂処理し、焼成する。
次に、固体電解質及びインターコネクタの表面に、酸素側電極成形体及び集電膜成形体を形成する。
【0005】
以上の工程によって、特許文献1の燃料電池セルが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−234970号公報の段落[0050]〜[0072]等
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池セルの製造方法がいくつか提案されているものの、粉体を圧縮することで燃料極を形成する工程(圧粉成形)を含む製造方法においては、得られる燃料電池の品質は求められる水準を満たしておらず、改良の余地がある。
【0008】
本発明は、圧粉成形を含む燃料電池の製造方法において、より高品質な燃料電池の製造を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、焼成前の燃料極の表面の状態を制御することによって、燃料極の上方に設けられた構造体の燃料極からの剥離を抑制することができることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づいて完成されたものであり、下記工程a)〜d)を含む燃料電池セルの製造方法を含む。
a)圧粉成形によって燃料極を形成すること
b)前記燃料極の表面における凹部発生率を、2%以下に制御すること
c)上記工程b)を経た燃料極上に、電解質層を形成すること
d)上記工程c)を経た燃料極及び電解質層を焼成すること
この製造方法によれば、電解質層の燃料極からの剥離が抑制される。その結果、良好な発電効率が得られる。
【0010】
また、上記工程b)は、上記工程a)の圧粉成形における圧力を調整することを含んでもよい。つまり、圧粉成形時の圧力を調整することで、燃料極の表面の状態を制御することができる。
【0011】
また、上記工程b)は、上記工程a)により成形された成形体の表面を加工することを含んでもよい。圧粉成形による成形体の表面を加工することによって凹部発生率を制御することによっても、電解質層の剥離を抑制することができる。
【0012】
また、燃料電池セルの製造方法は、工程e)上記燃料極の材料の粉末から顆粒を調製すること、を含んでいてもよい。このとき、上記工程a)において、上記工程e)の顆粒を用いて圧粉成形を行ってもよい。材料を顆粒化することで、燃料極の材料を均一に混合することができる。
【0013】
また、上記工程b)は、上記工程e)において、顆粒の剛性を調整することを含んでいてもよい。つまり、顆粒の剛性を調整することで、燃料極の凹部発生率を制御することができる。
【0014】
また、上記工程b)は、上記工程e)において、顆粒の平均粒径を、50〜250μmとすることを含んでいてもよい。
【0015】
また、上記工程b)は、前記工程a)において、5〜150MPaの圧力で圧粉成形を行うことを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
焼成前の燃料極の表面の形状を制御することによって、電解質層の燃料極からの剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料電池セルの一例の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の燃料電池セルの内部構造を示す斜視図である。
【図3】図1の燃料電池セルの断面図である。
【図4】燃料電池セルの他の例を示す断面図である。
【図5】図1の燃料電池セルを備える燃料電池のスタック構造を示す斜視図である。
【図6】図5の燃料電池における導電接続部およびその周囲の構造を示す断面図である。
【図7】(a)〜(d)は、図1の燃料電池セルの製造過程を示す斜視図である。
【図8】(a)及び(b)は、図7の燃料電池セルへの部材の取り付け工程を示す斜視図である。
【図9】(a)は凹部発生率が2%以下である燃料極の圧粉成形体の表面の電子顕微鏡写真、(b)は(a)の圧粉成形体上に電解質層を形成した焼成体の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】(a)は凹部発生率が3.3%以上である燃料極の圧粉成形体の表面の電子顕微鏡写真、(b)は(a)の圧粉成形体上に電解質層を形成した焼成体の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
燃料電池の一例として、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を挙げる。特に以下では、複数の燃料電池セルが積層されたセルスタック構造を有するSOFCを中心として説明する。
【0019】
<1.燃料電池セル>
≪1−1.両面空気極の薄型セル≫
【0020】
図1に示すように、燃料電池セル(単に「セル」と称される)1は、全体として長方形の平板形状である。図1〜図3に示すように、セル1は、燃料極11、流路部12、電解質層13、空気極14、及び集電部16を備える。
【0021】
燃料極11は、後述するように圧粉成形によって形成された多孔質の焼成体である。燃料極11は、例えばNiO−YSZ(酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア)により構成される。燃料極11の材料としては他に、白金、白金‐ジルコニアサーメット、白金‐酸化セリウムサーメット、ルテニウム、ルテニウム‐ジルコニアサーメット等が挙げられる。燃料極11は、アノードとして機能するとともに、セル1に含まれる他の層を支持する基板(支持体と言い換えてもよい)としても機能する。燃料極11の厚みは、例えば0.5〜5mm程度である。
【0022】
また、燃料極11は、2層構造であってもよい。この場合は、燃料極11は、0.5〜5.0mm程度の厚みの基板と、その上に形成された5〜50μm程度の厚みの燃料極活性層(燃料側電極)と、を有する。基板及び燃料極活性層の材料としては、燃料極の材料として上述した通りである。
【0023】
燃料極11は、還元処理を受けることで、導電性が得られる。つまり、燃料極11が還元処理を受けることで、燃料電池セル1は、発電可能な状態となる。燃料極11中に含まれる材料は、還元処理によって、絶縁材料(例えばNiO)から導電材料(Ni)に変換される。この還元処理は、燃料極11と電解質層13との共焼成後に行われ、そのタイミングは、スタック構造の形成の前後、空気極及び集電膜等の形成の前後のいずれであってもよい。通常は空気極形成後、ガス流路を確保した後に、還元処理が実施される。すなわち、スタック構造の形成後、高温下で、後述の燃料電池10に還元ガス(具体的には水素を含有するガス)を通すことで、還元処理が行われてもよい。
【0024】
図2及び図3に示すように、流路部12は燃料極11の内部に設けられる。セル1は全体として長方形状である。流路部12は、図2に示すように、セル1の第1短辺の第1開口121から第2短辺の第2開口122まで連続する。なお、流路部12の形状は適宜変更可能である。
【0025】
電解質層13は、固体電解質層とも呼ばれる。図1及び図3に示すように、電解質層13は、燃料極11の両面に設けられる。電解質層13は、例えば、3YSZ、8YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;又はScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料の焼成体である。電解質層13の厚みは、例えば3〜20μm程度である。
【0026】
図1及び図3に示すように、空気極14は、電解質層13の上方に設けられる。つまり、電解質層13は、燃料極11と空気極14との間に配置される。空気極14を構成する材料としては、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンフェライト等のランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物(ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等がドープされていてもよい)が挙げられる。また、他に、パラジウム、白金、ルテニウム、白金‐ジルコニアサーメット、パラジウム‐ジルコニアサーメット、ルテニウム‐ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム‐酸化セリウムサーメット、ルテニウム‐酸化セリウムサーメット等が挙げられる。空気極14は、図1では矩形であるが、その形状は変更可能である。空気極14の厚みは、具体的には5〜50μm程度である。
【0027】
集電部16の厚みは、具体的には5〜200μm程度であり、その材料としては、酸化・還元雰囲気で安定な導電性セラミックスであるランタンクロマイト材料が好適に用いられる。図1では、空気極14よりもセル1の短辺側に2つずつ、セル1の片面に計4つの集電部16が設けられており、集電部16は矩形である。ただし、集電部の数及び形状は変更可能である。
【0028】
図示しないが、電解質層13と空気極層14との間に、反応防止層が設けられていてもよい。反応防止層の材料としては、セリア系酸化物であるガドリニウムドープセリア(GDC)が好適である。反応防止層の厚みは、具体的には20μm未満である。
セルの構成要素の詳細については、下記の製造方法の説明においても述べる。
【0029】
≪1−2.片面空気極の扁平型セル≫
空気極はセルの片面のみに設けられていてもよい。そのようなセルの例を、図4に示す。既に説明した部材と同等の機能を有する部材については、同符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0030】
図4に示すように、セル2において、空気極14は、セル2の片面(第1面)のみに設けられる。集電部16は、セル2の第2面に設けられる。電解質層13は、第1面において、燃料極11と空気極14との間には設けられるが、第2面には設けられない。つまり、集電部16は、燃料極11に直接設けられるか、または燃料極11との間に中間層(接合層)を介して設けられる。
【0031】
≪1−3.その他の形態≫
セルは、燃料極と、電解質層と、空気極とを有すればよく、その他の構成要素の有無、各構成要素の形状、材料、寸法等は、変更可能である。例えば、燃料電池セルの構成は、以下のように変更されてもよい。
【0032】
(1)セルの形状は、平板形に限らず、円筒形であってもよい。また、セルの断面は楕円形状であってもよい。
【0033】
(2)上述したセル1及び2とは逆に、燃料極がセルの外側に設けられ、空気極が内側に設けられていてもよい。
【0034】
(3)流路部は、セルに必須の構成ではない。すなわち、流路部を備えない平板型のセルもあり得る。この場合、セルにおいて燃料極は露出するように設けられる。また、流路の断面は矩形に限らず、円形、楕円形等の他の形状であってもよい。
【0035】
(4)流路部12は、複数の第1開口121及び複数の第2開口122を有してもよい。
【0036】
(5)異なる形態として挙げた構成は、互いに組み合わせ可能である。
【0037】
<2.燃料電池>
≪2−1.両端保持型≫
図5に示すように、セル1を備える燃料電池10は、セル1が積み重ねられたスタック構造を有する。具体的には、連結部品3がセル1の流路部の開口121及び122にそれぞれ取り付けられる。そして、インターコネクタ4が、セル1間に配置される。
連結部品3にはガス孔31が設けられ、連結部品3は、ガス孔31が開口121又は122に連結するように、セル1に取り付けられる。
インターコネクタ4には、導電接続部41及び集電孔42が設けられる。インターコネクタ4には、複数の導電接続部41が設けられている。
【0038】
図6に示すように、導電接続部41は、インターコネクタ4に設けられた凹部であり、その底部分が導電性接着剤411を介して空気極に接続されている。また、図6に示すように、インターコネクタ4において、導電接続部41とその周囲との間には、非連続な箇所が設けられている。つまり、インターコネクタ4の裏面(セル1と対向する面)から、表面(スタックされた他のインターコネクタ4に対向する面)まで連通する間隙が設けられている。
【0039】
図5に示すように、集電孔42は、集電部16をインターコネクタ4から露出させるように配置される。
【0040】
発電時には、第1開口121に固定された連結部品3のガス孔31から、燃料ガスが供給される。図2に点線で示すように、燃料ガスは第1開口121から流路部12に流入し、排ガスが第2開口122から排出される。排ガスは、第2開口122に固定された連結部品3のガス孔31を通って排出される。
【0041】
空気極14への空気の供給は、セルスタック構造の側面側(例えば図5の紙面手前側)から空気を吹き付けることでなされる。
なお、図示しないが、燃料電池10は、セルスタックで発生した電流を外部装置へ送るリード、燃料ガスを改質する触媒等を含んだガス改質部等の部材をさらに備えている。
【0042】
≪2−2.他の形態≫
(1)上述した両端保持型以外にも、燃料電池セルは、片端保持型の燃料電池に適用可能である。片端保持型の燃料電池では、スタックされた燃料電池セルの一端がガスマニホールドに固定される。スタックされたセル間は、インターコネクタによって接続される。ガスマニホールドが、セル内の流路部に燃料ガスを送り込むことで、発電が開始される。
【0043】
(2)両端保持型、片端保持型のいずれにおいても、片面空気極、両面空気極のいずれのセルも適用可能である。
【0044】
<3.燃料電池セルの製造方法>
以下の製造方法は、燃料電池セルの形状及び構成にかかわらず、用いることができる。つまり、平板形、円筒形、片端保持型スタック用のセル、両端保持型スタック用のセルのいずれの製造においても、以下の製造方法を適用することができる。
【0045】
〔製造方法の概要〕
≪3−1.燃料極の形成≫
本実施形態の製造方法は、圧粉成形によって燃料極を形成することを含む。すなわち、本実施形態の製造方法は、燃料極の材料が混合された粉末を型に入れ、圧縮して、圧粉体を成形することを含む。
【0046】
燃料極の材料は、燃料電池セルの構成についての上記説明で述べた通りである。材料としては、例えば、酸化ニッケル、ジルコニア、及び必要に応じて造孔剤が用いられる。各材料の粉末の粒径は、例えば燃料極の凹部発生率が後述の範囲になる程度に、設定される。
【0047】
なお、造孔剤とは、燃料極中に空孔を設けるための添加剤である。造孔剤としては、後の工程で消失する材料が用いられる。このような材料として、例えばセルロース粉末が挙げられる。
各材料の混合比は、特に限定されるものではなく、燃料電池に求められる特性等に応じて、適宜設定される。
【0048】
圧粉成形時に粉末にかけられる圧力も、燃料極が充分な剛性を有するように設定される。また、圧力は、後述の顆粒の剛性等に応じて、燃料極の表面における凹部発生率が後述の範囲内になるように設定されてもよい。圧力は、例えば、5〜150MPaに設定される。
【0049】
また、燃料極の形成時に、圧粉より後の工程で消失する部材を粉体の内部に配置した状態で、圧粉成形を行ってもよい。これによって、流路部を形成することができる。消失する部材とは、例えば後述の脱脂又は焼成時に焼失するセルロース等が挙げられる。具体的には、流路部の形状に形成されたセルロースシートを粉体内に配置して、圧粉成形を行うことができる。流路部に限らず、燃料極内の内部空間は、この方法によって形成可能である。
【0050】
≪3−2.燃料極の表面状態の制御≫
本実施形態の製造方法は、圧粉成形された燃料極の表面における凹部発生率を、2%以下に制御することを含む。
凹部発生率とは、燃料極の表面における単位面積当たりの凹部の面積である。なお、燃料極の表面のうち、少なくとも電解質層が形成される領域における凹部発生率が、上述の範囲であればよい。すなわち、燃料極の表面の全部における凹部発生率が上記範囲内に含まれることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
凹部発生率を上記範囲とすることで、燃料極上に形成される層(例えば電解質層)の剥離を抑制する、という効果を奏する。
【0052】
凹部発生率を上記範囲とする具体的な方法としては、下記i)及びii)のいずれか1つ又は両方の組み合わせが挙げられる。
【0053】
i)以下の1つ又は複数の条件を調整すること、
・燃料極材料の顆粒の剛性、
・圧粉時に上記顆粒にかかる圧力
・圧粉成形時の水分量
【0054】
ii)圧粉形成された燃料極の表面を加工すること
(例えば、圧粉形成体(燃料極)の表面の凹構造を、例えば燃料極を構成する材料等で埋めること、又は研磨すること等が挙げられる。)
ただし、本工程は、凹部発生率を制御できればよく、具体的な方法に限定されるものではない。
【0055】
以上の説明からも明らかであるが、燃料極の表面状態の制御は、他の工程(圧粉成形又は顆粒の調製)に組み込まれていてもよい。例えば、上記i)の方法であれば、圧粉成形の結果、燃料極の表面が所望の状態に制御される。また、上記ii)の方法であれば、圧粉成形後にさらなる工程が実行されることで、燃料極の表面が所望の状態に制御される。つまり、燃料極の成形または顆粒の調製と、燃料極の表面状態の調整とは、1の工程により実現されてもよいし、分離できる別個の工程において実現されてもよい。
【0056】
≪3−3.電解質層の形成≫
燃料電池セルの製造方法は、圧粉成形によって形成された燃料極の成形体上に、電解質層を形成することを含む。
電解質の形成方法としては、例えば、シート状に加工された電解質材料を用いるCIP(cold isostatic pressing)若しくは熱圧着;又はスラリー状に調製された電解質材料に燃料極を浸すスラリーディップ法が挙げられる。CIP法において、シートの圧着時の圧力は、好ましくは50〜300MPaである。
【0057】
≪3−4.焼成≫
燃料電池セルの製造方法は、圧粉成形された燃料極及び電解質層を、共焼成(共焼結)することを含む。焼成の温度及び時間は、セルの材料等に応じて設定される。
焼成によって(後述の脱脂を行うのであれば脱脂によって)、セルロースシート及び造孔剤が焼失し、流路部12及び気孔が形成される。
【0058】
≪3−5.脱脂≫
上記(3−4)の焼成の前に、脱脂を行ってもよい。脱脂は、加熱によって実行される。温度及び時間などの条件は、セルの材料等に応じて設定される。
【0059】
≪3−6.空気極の形成≫
空気極は、例えば、焼成後の基板(燃料極及び電解質層)上に、印刷法等によって空気極の材料の層を形成した後、焼成することで形成される。
【0060】
≪3−7.顆粒の調製≫
燃料電池セルの製造方法は、燃料共の材料の混合物を顆粒化することを含んでいてもよい。顆粒化には、SD(スプレードライ)法等の従来知られた方法を、好適に利用することができる。
【0061】
顆粒の粒径、顆粒の剛性(圧力をかけたときのつぶれやすさ)等の条件は、具体的な数値に限定されるものではなく、圧粉により燃料極の形成が可能な程度に設定される。顆粒の剛性(圧力をかけたときのつぶれやすさ)は顆粒の形態、中実/中空状態を制御する方法や、バインダ添加量等により制御可能である。)また、これらの条件は、燃料極の表面における凹部発生率が後述の範囲内になるように、設定されてもよい。例えば顆粒の平均粒径は、50〜250μm程度に設定されることが好ましい。顆粒の剛性は、圧粉成形時の圧力等に応じて、設定され得る。
【0062】
≪3−8.他の工程≫
燃料電池セルの構成に応じて、製造方法は他の工程をさらに含んでもよいし、上述の工程が変更されてもよい。例えば、製造方法は、電解質層と空気極との間に反応防止層を設ける工程を含んでもよいし、燃料極を基板と燃料極活性層との2層構造とする工程(基板を形成する工程及び燃料極活性層を形成する工程)を含んでもよい。反応防止層及び燃料極活性層は、シート貼付、印刷、又はスラリーディップ法等によって形成可能であり、燃料極及び電解質層と共焼成されてもよい。
【0063】
〔製造方法の具体例〕
製造方法の具体例として、図1のセルの製造方法の流れを以下に説明する。
燃料極11の材料の顆粒111を、内部にセルロースシート51を入れた状態で、圧粉成形する(図7(a))。
本例では、圧粉成形の条件及び顆粒の調製条件によって、圧粉によりできた成形体112の表面の凹部発生率が、上述の範囲に収まるように制御される。
【0064】
こうしてできた薄板形の圧粉成形体112の両面に、電解質材料のセラミックグリーンシート52を貼り付ける(図7(b))。セラミックグリーンシート52が成形体112よりも大きければ、成形体112の側部まで電解質で覆うことができる。なお、スラリーディップ法、筆塗り法、スタンプ法等でも、成形体112の側部を電解質でコーティングすることができる。
【0065】
こうして電解質層が形成された成形体112を、脱脂及び焼成することで、焼成体113を得る。焼成体113に開口121及び122を形成する等の加工を行う(図7(c))。
【0066】
次いで、空気極14及び集電部16を形成する(図7(d))。空気極14は、印刷法で空気極材料を焼成体113上に付与した後、1000℃で2時間焼成することで形成される。以上の工程により、セル1が完成する。
その後、連結部品3及びインターコネクタ4を取り付けて(図8(a)及び(b))、さらにスタックすることで、燃料電池10が製造される。
【実施例】
【0067】
a.圧粉成形体の作製
上記<3.>欄の〔製造方法の具体例〕で説明した方法によって、焼成体113を作製した。具体的な作製条件は以下の通りである。
NiOとして住友金属鉱山株式会社製のNiO粉末を、YSZとして、東ソー株式会社製のYSZ粉末を、造孔剤として日本製紙株式会社製のセルロース粉末を用いた。まず、NiO粉末とYSZ粉末とを、Ni体積比率が45体積%となる組成で混合した。これに、NiO粉末とYSZ粉末との総量の10重量%の造孔剤を添加した。こうして、焼成後の焼成体113におけるNi体積比率を、35〜55体積%の範囲に調整した。
【0068】
これらの粉末をSD法で顆粒化し、顆粒の剛性(潰れ易さ)の異なる3種類の顆粒A、B、Cを作製した。顆粒A剛性が最も低く(潰れ易く)、次に顆粒Bの剛性が低く、顆粒Cの剛性が最も高かった。また、顆粒A〜Cの平均粒径を、50〜250μmの範囲に調整した。これらの顆粒A〜Cを顆粒111としてそれぞれ用いて、圧粉成形を行うことで、厚さ1mmの圧粉成形体112を作成した。各顆粒A〜Cについて、圧粉成形時の圧力を5〜150MPaとした(表1)。
【0069】
b.圧粉成形体の表面観察
オリンパス製レーザー顕微鏡(型番:OLS1100システム)を用いて、圧粉成形体の表面観察を行った。OLS1100システムの画像解析ソフトを用い、成形体表面に形成された凹部の発生頻度を数値化した(表1)。
解析は、640μm×480μmの視野サイズにおいて実施され、1種(同種類の顆粒で成形時の圧力が同一)の試料について、解析数はn=10とであった。平坦な基準面に対して10μm以上凹んだ部分を検知する条件で、画像処理を実施した。(凹部面積/観察面積)×100により得られた凹部発生率を、表1に示す。
【0070】
c.焼成
上記a.で作製した成形体112の表面に、YSZからなるグリーンシート(焼成後厚:10μm)、GDCからなるグリーンシート(焼成後厚:10μm)を順次積層し、CIP法により成形体112に接合した。
YSZシート及びGDCシートが積層された成形体112を、脱脂及び焼成することで、焼成体113を作製した。脱脂条件としては10〜50℃/hrの速度で昇温した後、600℃で3時間保持することで完了した。この際に、造孔剤であるセルロース粉末と流路材であるセルロースシートは消失し、気孔と空間が形成された。その後、200℃/hrで昇温した後、1400℃で2時間保持することで焼成が完了した。
【0071】
d.焼成体の表面の観察
目視及び電子顕微鏡で、焼成体113の表面を観察した。各試料について、GDC膜の剥離の発生の有無を表1に示す。表1において、剥離の発生が見られなかった試料については○、剥離が発生した試料については×と評価している。
【0072】
OLS1100システムの画像解析ソフトを用い、成形体表面に形成された凸部の発生頻度を数値化した(表1)。解析は、640μm×480μmの視野サイズにおいて実施され、1種(同種類の顆粒で成形時の圧力が同一)の試料について、解析数はn=10であった。平坦な基準面に対して10μm以上突出した部分(凸部分)を検知する条件で、画像処理を実施した。(凸部面積/観察面積)×100により得られた凸部発生率を、表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、圧粉成形体の凹部発生率が2%以下である場合に、焼成体の凸部発生率は1.2%以下と低く抑えられた。焼成体において凸部発生率が低いということは、GDC膜の剥離の発生が抑制されていることを示す。
図9(a)に凹部発生率が2%以下の圧粉成形体の、図9(b)にこの圧粉成形体に電解質層が形成された焼成体の表面の写真を示す。図9(b)に示すように、焼成体の表面では実際に剥離の発生が抑制されていた。
【0075】
これに対して、3.3%以上の凹部発生率を示す圧粉成形体では、焼成体の凸部発生率が2%以上であった。図10(a)に凹部発生率が3.3%以上の圧粉成形体の、図10(b)に、この圧粉成形体に電解質層が形成された焼成体の表面の写真を示す。図10(b)に示すように、焼成体の表面には、燃料極から電解質層が剥離することで、燃料極と電解質層との間に隙間が生じることで凸部が形成されていた。また、薄膜の凸部が割れることで、電解質膜に欠陥が生じていた(例えば図10(b)に点線で示される領域R)。
【0076】
このように、圧粉成形体の凹部発生率が高いことで、電解質膜が剥離しやすくなる原因としては、次のように考えられる。燃料極とは異なる材料で形成された電解質膜との間には、焼成によって歪差が生じる。焼成時に、燃料極の圧粉成形体の表面の凹部が、歪差開放の起点になり、その結果として剥離が生じている可能性がある。
また、凹部発生率が大きい(3.3%以上)の圧粉成形体の表面に、燃料極活性層を印刷することで凹部を埋め、その上に電解質層のグリーンシートを貼り付けて焼成した場合も、剥離が抑制された(図示せず)。
【符号の説明】
【0077】
1、2 燃料電池セル
11 燃料極
12 流路部
121 第1開口
122 第2開口
13 電解質層
14 空気極
16 集電層
111 顆粒
112 圧粉成形体
113 焼成体
10 燃料電池
3 連結部品
31 ガス孔
4 インターコネクタ
41 導電接続部
42 集電孔
51 セルロースシート
52 セラミックグリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程a)〜d)を含む燃料電池セルの製造方法。
a)圧粉成形によって燃料極を形成すること
b)前記燃料極の表面における凹部発生率を、2%以下に制御すること
c)前記工程b)を経た前記燃料極上に、電解質層を形成すること
d)前記工程c)を経た燃料極及び電解質層を焼成すること
【請求項2】
前記工程b)は、前記工程a)の圧粉成形における圧力を調整することを含む
請求項1に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項3】
前記工程b)は、前記工程a)により成形された成形体の表面を加工することを含む
請求項1又は2に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項4】
下記工程e)をさらに含み、
e)前記燃料極の材料の粉末から顆粒を調製すること
前記工程a)において、前記工程e)の顆粒を用いて圧粉成形を行う
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項5】
前記工程b)は、前記工程e)において、顆粒の剛性を調整することを含む
請求項4に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項6】
前記工程b)は、前記工程e)において、顆粒の平均粒径を、50〜250μmとすることを含む
請求項4又は5に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項7】
前記工程b)は、前記工程a)において、5〜150MPaの圧力で圧粉成形を行うことを含む
請求項4〜6のいずれか1項に記載の燃料電池セルの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−129264(P2011−129264A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283945(P2009−283945)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】