説明

燃料電池セル

【課題】反応ガスがリブを超えてパスカットするのを十分に抑制できるようにする。
【解決手段】セパレータ20に設けられて反応ガスの流路を形成するリブ21と電極32とを液状封止材で固定し、電極32に含浸した当該液状封止材にて電極32の気孔率を他の部位よりも低減させる。セパレータ20は、液状封止材の余剰分を貯留しておくため、リブ21の頂部よりも厚み方向で窪んだ液状封止材溜まり部22を有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルに関する。さらに詳述すると、本発明は、燃料電池セルの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池(例えば固体高分子形燃料電池)は電解質をセパレータで挟んだセルを複数積層することによって構成されている。セパレータには、各反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)が流れる領域を仕切るようにして流路を形成するリブ(ガス流路リブ)が例えば互いに平行となるように設けられている。
【0003】
従来、このようなリブをセパレータに設ける場合、反応ガスの流れが同じ向きとなっている隣接流路を仕切るリブよりも、流れが逆向きとなっている隣接流路を仕切るリブの方が幅広となるようにしている場合がある(例えば、特許文献1参照)。これは、反応ガスが当該リブをすり抜けるようにして隣接する流路にショートカットしてしまう現象(いわゆるパスカット)を抑制することを主眼としているもので、いわゆるサーペンタイン型のガス流路を有する燃料電池などにおいて採用されていることがある。
【特許文献1】特開2001−76746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような構成のリブであっても反応ガスのパスカットを十分程度にまで抑制することは難しかった。このようなパスカットの現象が生じて反応ガスが途中でショートカットすると、各ガス流路に沿うようなガスの流れが阻害される結果、発電領域内におけるガスストイキが減少して発電性能が低下するという問題が起こる。
【0005】
そこで、本発明は、反応ガスがリブを超えてパスカットするのを十分に抑制することが可能な燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。上述のように反応ガスがリブを超えてパスカットしてしまうという現象は、特にMEA(膜−電極アッセンブリ)の電極部の周囲部分(電極外縁のすぐ外側の部分)において生じやすい。これは、セパレータとMEA間を例えばガスケット等を用いてシールする構造または接着してシールする構造のいずれにおいても、樹脂フレームなどの部品が配置される場合にはそれぞれの部品公差や組付公差の影響で流路最外周部に構造上隙間が生じうることが要因となっている。このように、MEAの電極外縁のすぐ外側の部分にてセパレータ間に隙間が生じやすく、当該隙間部分からガスが漏れ出て隣接する流路に抜け出てしまうことからすれば、このような現象を抑えてパスカットを効果的に抑制するには液状の封止材を有効に活用することが望ましいと考えられた。流動性を有し、ある程度周囲に拡がった後に固化する液状封止材であればガスケットやパッキンといった封止材よりも局所的な隙間を埋めやすく、尚かつ部品公差や組付公差に起因するセル毎の微妙な差異にも対応しやすい。この点に着目してさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくもので、電極とセパレータが積層されてなる燃料電池セルであって、前記セパレータに設けられて反応ガスの流路を形成するリブと前記電極とが液状封止材で固定され、前記電極に含浸した前記液状封止材にて前記電極の気孔率が他の部位よりも低減していることを特徴とするものである。例えば接着剤等からなる液状封止材は、電極に含浸された状態となって当該電極の気孔率(透気度)を低下させる。これによれば、反応ガスが通過可能な透孔が詰まる分だけ、当該電極を通じた反応ガスのパスカットを抑制することができる。
【0008】
このような燃料電池セルの場合、互いに同じ方向の流れの隣接する流路間を仕切る第1のリブと、逆向きの流れの隣接する流路間を仕切る第2のリブとを有し、前記液状封止材は前記第2のリブに対してのみ設けられていることが好ましい。例えば複数本の反応ガス流路が平行となるように形成されているような場合、同方向に流れる反応ガス流路間にて反応ガスのパスカットが生じたとしても、発電性能という観点からすれば問題とはなり難い。一方、逆向きの流れの隣接する流路間にて反応ガスのパスカットが生じるとガスストイキが減少して発電性能が低下するおそれがある。この点、流れが逆向きとなる流路間を仕切る第2のリブに対して液状封止材を設けることとした本発明によれば、このような発電性能の低下に結び付くようなパスカットを効果的に抑えることが可能である。
【0009】
さらに、このような燃料電池セルの場合、前記液状封止材は前記反応ガスが流れる領域の外郭と前記第2のリブとの接続部分にのみ選択的に設けられていることも好ましい。上述したように、電極外縁のすぐ外側の部分においてセパレータ間に隙間が生じることがあり、当該隙間にてパスカットが生じることがある。この点、ガスが流れる領域と第2のリブ(流れが逆向きとなっている隣接する流路間を仕切るリブ)との接続部分に液状封止材を選択的に設けることとした本発明の場合には、発電性能を低下させうるパスカットを効果的に抑えることが可能である。
【0010】
また、前記セパレータは、前記液状封止材の余剰分を貯留しておくための、リブの頂部よりも厚み方向で窪んだ液状封止材溜まり部を有していることが好ましい。上述したように、液状封止材は流動性を有するが故に塗布されてから固化するまでの間に流れ出るようにして拡がり、場合によっては所定の範囲を超えてMEA電極の表面を覆うこともある。この点、本発明にかかる燃料電池セルの場合には、セパレータが有する液状封止材溜まり部によって液状封止材の拡がりを一定範囲内に抑えることが可能であるから、MEA電極が不必要に覆われて発電領域が減少するのを抑えることが可能である。
【0011】
さらに、前記電極のうち、前記液状封止材との間に隙間を有している部分の少なくとも一部については当該電極の端部のみ厚く形成されていることが好ましい。MEA(膜−電極アッセンブリ)とセパレータとを重ね合わせた場合、このように厚く形成されている部分がセパレータ内側の面に密着して反応ガスが当該MEAの外側に漏れ出るのを抑制する。
【0012】
また、この場合においては、前記電極の端部のうち厚く形成された部分は、当該電極とは別の弾性を有する部材が設けられることによって形成されていることが好ましい。この場合、変形した弾性部材が弾性力を発揮しつつセパレータと密着することによって反応ガスが漏れ出るのをより効果的に抑制する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応ガスがリブを超えてパスカットするのを十分に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図9に本発明にかかる燃料電池セルの実施形態を示す。本実施形態における燃料電池セル(以下、単にセルともいう)2は、セパレータ20に設けられたリブ21と電極32(32a,32b)とが液状封止材で固定されているもので、電極32に含浸した液状封止材にて電極32の気孔率を他の部位よりも低減させている。そして、これにより、反応ガスが通過可能な透孔が詰まる分だけ当該電極32を通じた反応ガスのパスカットを抑制するようにしている。
【0016】
以下に説明する実施形態においては、まず、燃料電池1を構成するセル2および複数のセル2が積層されてなるセル積層体3の概略構成について説明し、その後、反応ガスのパスカットを効果的に抑制するための構成について説明する。
【0017】
図1に本実施形態における燃料電池1のセル2の概略構成を示す。図示するように構成されるセル2は、順次積層されてセル積層体3を構成している(図2参照)。また、このセル積層体3等で構成される燃料電池スタックは、例えばスタック両端を一対のエンドプレート8で挟まれ、さらにこれらエンドプレート8どうしを繋ぐようにテンションプレート9からなる拘束部材が配置された状態で積層方向への荷重がかけられて締結されている(図2参照)。
【0018】
なお、このような燃料電池スタック等で構成される燃料電池1は、例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電システムとして利用可能なものであるがこれに限られることはなく、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電システム、さらには定置の発電システムとしても用いることが可能である。
【0019】
セル2は、電解質、具体例として膜−電極アッセンブリ(以下MEA;Membrane Electrode Assemblyと呼ぶ)30、該MEA30を挟持する一対のセパレータ20(図1においてはそれぞれ符号20a,20bを付して示している)等で構成されている(図1参照)。MEA30および各セパレータ20a,20bはおよそ矩形の板状に形成されている。また、MEA30はその外形が各セパレータ20a,20bの外形よりも小さくなるように形成されている。
【0020】
MEA30は、高分子材料のイオン交換膜からなる高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ともいう)31と、電解質膜31を両面から挟んだ一対の電極(アノード側拡散電極およびカソード側拡散電極)32a,32bとで構成されている(図1参照)。電解質膜31は、各電極32a,32bよりも大きく形成されている。この電解質膜31には、その周縁部33を残した状態で各電極32a,32bが例えばホットプレス法により接合されている。
【0021】
MEA30を構成する電極32a,32bは、その表面に付着された白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材(拡散層)で構成されている。一方の電極(アノード)32aには燃料ガス(反応ガス)としての水素ガス、他方の電極(カソード)32bには空気や酸化剤などの酸化ガス(反応ガス)が供給され、これら2種類の反応ガスによりMEA30内で電気化学反応が生じてセル2の起電力が得られるようになっている。
【0022】
セパレータ20(20a,20b)はガス不透過性の導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えばカーボンや導電性を有する硬質樹脂のほか、アルミニウムやステンレス等の金属(メタル)が挙げられる。本実施形態のセパレータ20(20a,20b)の基材は板状のメタルで形成されているものであり(メタルセパレータ)、この基材の電極32a,32b側の面には耐食性に優れた膜(例えば金メッキで形成された皮膜)が形成されている。
【0023】
また、セパレータ20a,20bの両面には、複数の凹部によって構成される溝状の流路が形成されている。これら流路は、例えば板状のメタルによって基材が形成されている本実施形態のセパレータ20a,20bの場合であればプレス成形によって形成することができる。このようにして形成される溝状の流路は、酸化ガスのガス流路34や水素ガスのガス流路35、あるいは冷却水流路36を構成している。より具体的に説明すると、セパレータ20aの電極32a側となる内側の面には水素ガスのガス流路35が複数形成され、その裏面(外側の面)には冷却水流路36が複数形成されている(図1参照)。同様に、セパレータ20bの電極32b側となる内側の面には酸化ガスのガス流路34が複数形成され、その裏面(外側の面)には冷却水流路36が複数形成されている(図1参照)。例えば本実施形態の場合、隣接する2つのセル2,2に関し、一方のセル2のセパレータ20aの外面と、これに隣接するセル2のセパレータ20bの外面とを付き合わせた場合に両者の冷却水流路36が一体となり断面が例えば矩形あるいはハニカム形の流路が形成される構造となっている。
【0024】
さらに、上述したように各セパレータ20a,20bは、少なくとも流体の流路をなすための凹凸形状が表面と裏面とで反転した関係になっている。より具体的に説明すると、セパレータ20aにおいては、水素ガスのガス流路35を形成する凸形状(凸リブ)の裏面が冷却水流路36を形成する凹形状(凹溝)であり、ガス流路35を形成する凹形状(凹溝)の裏面が冷却水流路36を形成する凸形状(凸リブ)である。さらに、セパレータ20bにおいては、酸化ガスのガス流路34を形成する凸形状(凸リブ)の裏面が冷却水流路36を形成する凹形状(凹溝)であり、ガス流路34を形成する凹形状(凹溝)の裏面が冷却水流路36を形成する凸形状(凸リブ)である。
【0025】
また、セパレータ20a,20bの長手方向の端部付近(本実施形態の場合であれば、図1中向かって左側に示す一端部の近傍)には、酸化ガスの入口側のマニホールド15a、水素ガスの出口側のマニホールド16b、および冷却水の出口側のマニホールド17bが形成されている。例えば本実施形態の場合、これらマニホールド15a,16b,17bは各セパレータ20a,20bに設けられた略矩形ないしは台形の透孔によって形成されている(図1参照)。さらに、セパレータ20a,20bのうち反対側の端部には、酸化ガスの出口側のマニホールド15b、水素ガスの入口側のマニホールド16a、および冷却水の入口側のマニホールド17aが形成されている。本実施形態の場合、これらマニホールド15b,16a,17aも略矩形ないしは台形の透孔によって形成されている(図1参照)。なお、図2等においてはa,bの添字を省略した形で各マニホールドの符号を示している。
【0026】
上述のような各マニホールドのうち、セパレータ20aにおける水素ガスの入口側マニホールド16aと出口側マニホールド16bは、セパレータ20aに溝状に形成されている入口側の連絡通路61および出口側の連絡通路62を介してそれぞれが水素ガスのガス流路35に連通している。同様に、セパレータ20bにおける酸化ガスの入口側マニホールド15aと出口側マニホールド15bは、セパレータ20bに溝状に形成されている入口側の連絡通路63および出口側の連絡通路64を介してそれぞれが酸化ガスのガス流路34に連通している(図1参照)。さらに、各セパレータ20a,20bにおける冷却水の入口側マニホールド17aと出口側マニホールド17bは、各セパレータ20a,20bに溝状に形成されている入口側の連絡通路65および出口側の連絡通路66を介してそれぞれが冷却水流路36に連通している。ここまで説明したような各セパレータ20a,20bの構成により、セル2には、酸化ガス、水素ガスおよび冷却水が供給されるようになっている。ここで具体例を挙げておくと、セル2が積層された場合、例えば水素ガスは、セパレータ20aの入口側マニホールド16aから連絡通路61を通り抜けてガス流路35に流入し、MEA30の発電に供された後、連絡通路62を通り抜けて出口側マニホールド16bに流出することになる。
【0027】
第1シール部材13a、第2シール部材13bは、ともに複数の部材(例えば小型の4つの矩形枠体と、流体流路を形成するための大きな枠体)で形成されているものである(図1参照)。これらのうち、第1シール部材13aはMEA30とセパレータ20aとの間に設けられるもので、より詳細には、その一部が、電解質膜31の周縁部33と、セパレータ20aのうちガス流路35の周囲の部分との間に介在するように設けられる。また、第2シール部材13bは、MEA30とセパレータ20bとの間に設けられるもので、より詳細には、その一部が、電解質膜31の周縁部33と、セパレータ20bのうちガス流路34の周囲の部分との間に介在するように設けられる。
【0028】
さらに、隣接するセル2,2のセパレータ20bとセパレータ20aとの間には、複数の部材(例えば小型の4つの矩形枠体と、流体流路を形成するための大きな枠体)で形成された第3シール部材13cが設けられている(図1参照)。この第3シール部材13cは、セパレータ20bにおける冷却水流路36の周囲の部分と、セパレータ20aにおける冷却水流路36の周囲の部分との間に介在するように設けられてこれらの間をシールする部材である。
【0029】
なお、第1〜第3シール部材13a〜13cとしては、隣接する部材との物理的な密着により流体を封止する弾性体(ガスケット)や、隣接する部材との化学的な結合により接着する接着剤などを用いることができる。例えば本実施形態では各シール部材13a〜13cとして弾性によって物理的にシールする部材を採用しているが、この代わりに上述した接着剤のような化学結合によってシールする部材を採用することもできる。
【0030】
枠状部材40は、MEA30とともにセパレータ20a,20b間に挟持される例えば樹脂からなる部材(以下、樹脂フレームともいう)である。例えば本実施形態では、薄い枠形状の樹脂フレーム40をセパレータ20a,20b間に介在させ、当該樹脂フレーム40によってMEA30の少なくとも一部、例えば周縁部33に沿った部分を表側と裏側から挟持するようにしている。このように設けられる樹脂フレーム40は、締結力を支持するセパレータ20(20a,20b)間のスペーサとしての機能、絶縁部材としての機能、セパレータ20(20a,20b)の剛性を補強する補強部材としての機能を発揮する。
【0031】
次に、燃料電池1の構成について簡単に説明する(図2参照)。本実施形態における燃料電池1は、複数のセル2を積層してなるセル積層体3を有し、当該セル積層体3の両端に位置するセル2,2の外側に順次、出力端子付きの集電板、絶縁板およびエンドプレート8が各々配置された構造となっている(図2参照)。また、セル積層体3等を積層状態で拘束するテンションプレート9は、両エンドプレート8,8間を架け渡すようにして設けられているもので、例えば一対が当該スタックの両側に対向するように配置される(図2参照)。テンションプレート9は、各エンドプレート8,8に接続され、セル積層体3の積層方向に所定の締結力(圧縮荷重)を作用させた状態を維持する。また、テンションプレート9の内側面(セル積層体3を向く面)には漏電やスパークが生じるのを防止すべく絶縁膜(図示省略)が形成されている。絶縁膜は、例えば当該テンションプレート9の内側面に貼り付けられた絶縁テープ、あるいは当該面を覆うように塗布された樹脂コーティングなどによって形成されている。なお、符号12は、燃料電池スタックに締結力(圧縮荷重)を作用させる例えばコイルスプリング等からなる弾性モジュールを挟持するための一対の板状部材である(図2参照)。
【0032】
続いて、反応ガスのパスカットを効果的に抑制するようにした本実施形態にかかるセル(燃料電池セル)2の構成について説明する(図4等参照)。
【0033】
本実施形態の場合、セパレータ20(20a,20b)の両面には複数のリブ21が設けられており、これら複数のリブ21の間に形成される凹部によって酸化ガスのガス流路34や水素ガスのガス流路35、さらには冷却水流路36が構成されている。そして、上述したように、セル2においては、セパレータ20に設けられたリブ21と電極32(32a,32b)とが液状封止材で固定されており、電極32に含浸した液状封止材が当該電極32の気孔率(すなわち反応ガスが通過しうる気孔の割合)を低減させている。これによれば、液状封止材を含浸させた部分においては反応ガスの通過可能な気孔が少なくとも他の部分より少なく、反応ガスが通過し難くなっているからその分だけパスカットを抑制することが可能となっている。
【0034】
ここで用いられる液状封止材の一例としては例えば液体のいわゆる接着剤を挙げることができるが、具体例がこのようなものに特に限定されることはなく、また、その流動性(粘度)などの性状が特に限定されることもない。これ以外にも例えばシーラントと呼ばれるシール材はもちろんのこと、ゲル状の封止材や液状パッキンなどを用いることも可能である。
【0035】
以下では、いわゆるサーペンタイン型の流路35をもつセパレータ20に本発明を適用した実施形態を例示して説明する(図3、図4参照)。なお、図4においてはリブ21のうちサーペンタイン流路を形成している主要なもの(逆向きの流れの隣接する流路間を仕切る第2のリブ21b)を概略的に示しているだけだが、これら各リブ21の間にさらに別のリブ(互いに同じ方向の流れの隣接する流路間を仕切る第1のリブ21a)が設けられることは妨げられない(図3、図5参照)。
【0036】
ここで、本実施形態においては、上述のごとき第1のリブ21aと第2のリブ21bとがある場合に、液状封止材を第2のリブ21bに対してのみ設けることとしている。例えば複数本の水素ガス流路35が平行となるように形成されているような場合、同方向に流れるこれら水素ガス流路35間にて水素ガスのパスカットが生じたとしても発電性能という観点からすれば特に問題がないのに対し、逆向きの流れの隣接する水素ガス流路35間にて水素ガスのパスカットが生じるとガスストイキが減少して発電性能が低下するおそれがある。この点、流れが逆向きとなる流路35間を仕切る第2のリブ21bに対して液状封止材を設けることとすれば、このような発電性能の低下に結び付くようなパスカットを効果的に抑えることが可能である。しかも、このように液状封止材の適用箇所を特に必要な部位に絞ることとすれば材料のロスを減らしつつ所望の効果が得られるという点でも効果的である。
【0037】
また、このように液状封止材の適用箇所を絞る場合においては、当該液状封止材を、水素ガスが流れる領域の外郭と第2のリブ21bとの接続部分にのみ選択的に設けることも好ましい。電極32の外縁のすぐ外側の部分においてはセパレータ20間に隙間が生じることがあり、当該隙間にてパスカットが生じることがあるのに対し、水素ガスが流れる領域と第2のリブ21bとの接続部分に液状封止材を選択的に設けることとすれば、発電性能を低下させうるパスカットをさらに効果的に抑えることが可能である。
【0038】
さらに、本実施形態においては、液状封止材の余剰分を貯留しておくため、リブ21の頂部よりも厚み方向で窪んだ液状封止材溜まり部22を設けることとしている(図4参照)。液状封止材は、材質によっては塗布されてから固化するまでの間に流れ出るようにして大きく拡がることがあり、所定の範囲を超えて電極32の表面を覆うこともあるが、本実施形態においてはセパレータ20に設けたこの液状封止材溜まり部22によって液状封止材の拡がりを一定範囲内に抑えるようにしている。これによれば、所定範囲を超えて電極32が不必要に覆われるのを回避し、発電領域が減少するのを抑えることが可能となる。
【0039】
このような液状封止材溜まり部22の具体例が特に限定されることはないが、例えば本実施形態では、サーペンタイン型流路35のターン部、および水素ガスの入口(水素ガスの入口側マニホールド16a)と出口(水素ガスの出口側マニホールド16b)の各コーナ部に斜交いのリブ21cを設けて略三角形状のスペースを形成し、当該スペースを液状封止材溜まり部22としている(図4参照)。ちなみに、第2のリブ21bを挟んで両側に斜交いのリブ21cが設けられている部分においてはリブ形状が略Y字形となっており、およそ2倍の大きさの液状封止材溜まり部22が形成されている。
【0040】
また、水素ガスのパスカットをより効果的に抑制するという観点からすれば、別の構成をさらに組み合わせることも好適である。例えば本実施形態では、電極(拡散層)32のうち、液状封止材との間に隙間を有している部分の少なくとも一部については当該電極32の端部のみ厚く形成することとしている(図5参照)。こうした場合、電極(拡散層)32における透気度(ガスの通過しやすさ)を部分的に低下させ、電極32の周囲部分(電極外縁のすぐ外側の部分)に水素ガスが漏れ出て抜けるのをさらに抑制することが可能となる。
【0041】
具体例を示すと、例えば電極32の周囲(側面)に沿ってガスケット23を設け、当該ガスケット23の表裏それぞれに形成したビード23aの分だけ電極32の端部よりも厚く形成することを挙げることができる(図5、図6参照)。この場合、MEA30の両面に形成されたビード23aがセパレータ20の面に圧接するリップとして機能し、押し付けられ変形した状態となって電極32における透気度を部分的に低下させる。ガスケット23の材質は特に限定されることはないが、このようなリップとしての機能を長期的に維持するといった点ではゴム材料などが好適である。
【0042】
あるいは、電極32の外周に沿うようにしてその表面と裏面とにそれぞれガスケット23を設け、ビードを形成することとしてもよい(図7参照)。本実施形態においては、電極32の外周部分に液状封止材を含浸させ、さらに当該部分の両面にガスケット23を設けることによって透気度を相乗的に低下させるようにしている。
【0043】
なお、図6や図7では好適な例を示したにすぎず、この他、例えば電極32自体を部分的に厚く形成したり、電極32の外周(側面)に形成したビード無しのガスケット23の位置に合わせてセパレータ20の内周面にリブ状の突起20rを設けたり(図8参照)、あるいは液状封止材を含浸させた部分(図9において点を付している部分)に合わせてセパレータ20の内周面にリブ状の突起20rを設けたりすることによって電極32における透気度を部分的に低下させることもできる。ただし、セパレータ20に圧接するリップの高さやシール性といった観点からすれば、本実施形態にて示したように、当該電極32とは別個のシール材(例えば上述のようなガスケット23)を単独で設けることが好適である。
【0044】
ここまで説明したように、本実施形態のセル(燃料電池セル)2においては液状の封止材をMEA30の電極32の一部に含浸させて当該電極32の気孔率を低減させた構成となっている。例えばMEA30の電極外縁のすぐ外側の部分にてセパレータ20間に隙間が生じているような場合にも、このようなセル2によれば、水素ガスが当該隙間部分に漏れ出て隣接する流路35に抜け出てしまうこと、リブ21を超えるようにパスカットしてしまうことを抑制することが可能となる。
【0045】
しかも、上述したように本実施形態においてはリブ21の一部を仕切って液状封止材溜まり部22を設け、液状封止材の余剰分を貯留しておくことを可能としているために、所望の領域を超えて液状封止材が拡がるのを回避することができる。したがって、電極32の発電面が不必要に覆われて発電領域が減少してしまうのを抑制することができるから、液状封止材に起因して発電性能が低下してしまうのを避けることが可能である。
【0046】
加えて、例えばガスケット23のビード23aを設ける等により電極32の端部のみを厚く形成するようにした本実施形態のセル2によれば、水素ガスが電極32の外周部分における隙間に流れ出てショートカットする現象をさらに効果的に抑制することが可能となっている。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態ではサーペンタイン型の流路35を有するセル2に本発明を適用した場合について説明したが、本発明の適用範囲がこのようなサーペンタイン型の場合に限られることはなく、例えば流路35がストレート形状であるセル2に適用することももちろん可能である。ただし、反応ガスのパスカットは特に流路35のターン部にて生じやすいことからすると、図4に示したようなサーペンタイン型のセパレータ20からなるセル2に適用した場合に本発明は特に好適である。
【0048】
また、上述した実施形態においては反応ガスが水素ガスである場合について説明したがこれも一例に過ぎず、酸化ガスについても上述した実施形態と同様に本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態における燃料電池セルの構造例を示す分解斜視図である。
【図2】燃料電池スタックの構造例を概略的に示す斜視図である。
【図3】水素ガスの流路側におけるセパレータの形状例を概略的に示す平面図である。
【図4】リブに液状封止材溜まり部が設けられたセルの形状例を概念的に示す平面図である。
【図5】燃料電池セルの断面形状の一例を概略的に示す図である。
【図6】電極の外周(側面)に形成されたガスケットのビードの一例を示す図である。
【図7】電極の外周(側面)に形成されたガスケットのビードの他の例を示す図である。
【図8】電極における透気度を部分的に低下させるための構成の他の例を示す図である。
【図9】電極における透気度を部分的に低下させるための構成のさらに他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1…燃料電池、2…セル(燃料電池セル)、21…リブ、21a…第1のリブ、21b…第2のリブ、22…液状封止材溜まり部、23a…ガスケット23のビード(電極32の端部のうち厚く形成された部分)、32(32a,32b)…電極、34…酸化ガスのガス流路(流路)、35…水素ガスのガス流路(流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極とセパレータが積層されてなる燃料電池セルであって、
前記セパレータに設けられて反応ガスの流路を形成するリブと前記電極とが液状封止材で固定され、前記電極に含浸した前記液状封止材にて前記電極の気孔率が他の部位よりも低減していることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
互いに同じ方向の流れの隣接する流路間を仕切る第1のリブと、逆向きの流れの隣接する流路間を仕切る第2のリブとを有し、前記液状封止材は前記第2のリブに対してのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記液状封止材は前記反応ガスが流れる領域の外郭と前記第2のリブとの接続部分にのみ選択的に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記セパレータは、前記液状封止材の余剰分を貯留しておくための、リブの頂部よりも厚み方向で窪んだ液状封止材溜まり部を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記電極のうち、前記液状封止材との間に隙間を有している部分の少なくとも一部については当該電極の端部のみ厚く形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記電極の端部のうち厚く形成された部分は、当該電極とは別の弾性を有する部材が設けられることによって形成されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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