説明

燃料電池モジュール及びその組立方法

【課題】簡単且つ経済的な構成で、スタックの積層方向の温度を均一化し、均等な発電反応を遂行することを可能にする。
【解決手段】燃料電池モジュール10を構成する燃料電池スタック12は、電解質・電極接合体26とセパレータ28とを交互に積層する。燃料電池スタック12は、積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域170a、第2領域170b及び第3領域170cの順に区分されるとともに、前記第2領域170bに配置されるセパレータ28は、前記第1領域170a及び前記第3領域170cに配置される前記セパレータ28よりも燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質をアノード電極とカソード電極とで挟んで構成される電解質・電極接合体と、一方の面側に前記アノード電極の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路を設け、且つ他方の面側に前記カソード電極の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路を設けるセパレータとを有し、前記電解質・電極接合体と前記セパレータとを交互に積層する燃料電池スタックを備える燃料電池モジュール及びその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、固体電解質形燃料電池(SOFC)は、電解質に酸化物イオン導電体、例えば、安定化ジルコニアを用いており、この電解質の両側にアノード電極及びカソード電極を配設した電解質・電極接合体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。この燃料電池は、通常、電解質・電極接合体とセパレータとが所定の数だけ交互に積層された燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
ところで、上記のセパレータや電解質・電極接合体では、製造工程において歪みや寸法誤差が発生し易い。特に、セパレータでは、反応ガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)が流通されるため、作製されたセパレータ毎に反応ガスの圧力損失が異なるおそれがある。
【0004】
また、燃料電池スタックでは、発電反応によって発生する反応熱に曝されており、積層方向の段数によって熱影響が異なっている。従って、燃料電池スタックでは、積層方向に沿って発電状態が異なったり、熱歪みが発生したりするおそれがある。
【0005】
さらに、燃料電池スタックが配置される環境によっては、熱伝導による高熱等が発生し易く、前記燃料電池スタックの積層方向における温度分布が惹起されるという問題がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池では、燃料電池の構成要素を製造したときのばらつきの影響を抑えることを目的とし、燃料電池に複数個使用される構成要素につき、製造時における精度又は特性が略同等なものを集めて組み付けることを特徴としている。
【0007】
また、特許文献2では、燃料電池スタックの温度低下によるセル電圧の低下を防止し、各セル電圧を均一化することを目的としており、前記燃料電池スタックの端部に位置する発電セルへの燃料ガス供給量を他の発電セルに比べて多くすることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−151604号公報
【特許文献2】特開2008−218279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1では、精度又は特性が略同等な構成要素を集めて組み付けることにより燃料電池が構成されているため、前記燃料電池の積層方向における温度分布の発生を抑制することができない。従って、特許文献1では、燃料電池の積層方向で発電状態が異なったり、熱歪みが発生したりするという問題がある。
【0010】
また、上記の特許文献2では、燃料電池スタックの端部に位置する発電セルの燃料ガス流路に、該燃料ガス流路の流路抵抗を減少する流路抵抗緩和手段が設けられている。これにより、セパレータの製作工数が増加するとともに、製造コストが高騰するという問題がある。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単且つ経済的な構成で、スタックの積層方向の温度を均一化し、均等な発電反応を遂行することが可能な燃料電池モジュール及びその組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電解質をアノード電極とカソード電極とで挟んで構成される電解質・電極接合体と、一方の面側に前記アノード電極の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路を設け、且つ他方の面側に前記カソード電極の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路を設けるセパレータとを有し、前記電解質・電極接合体と前記セパレータとを交互に積層する燃料電池スタックを備える燃料電池モジュール及びその組立方法に関するものである。
【0013】
この燃料電池モジュールでは、燃料電池スタックは、積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域、第2領域及び第3領域の順に区分されるとともに、積層方向中央側の前記第2領域に配置されるセパレータは、前記第1領域及び前記第3領域に配置される前記セパレータよりも燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。
【0014】
また、この燃料電池モジュールでは、圧力損失は、燃料ガス通路に燃料ガスが供給される供給圧力と大気圧との差圧であることが好ましい。
【0015】
さらに、この燃料電池モジュールでは、セパレータは、燃料ガス通路に連通し、アノード電極に向かって燃料ガスを供給する燃料ガス供給孔を設けるとともに、供給圧力は、前記燃料ガスが前記燃料ガス供給孔を通過するための圧力であることが好ましい。
【0016】
さらにまた、この燃料電池モジュールでは、第1領域又は第3領域のスタック温度の低い一方の領域に配置されるセパレータは、他方の領域に配置される前記セパレータよりも圧力損失が小さく設定されることが好ましい。
【0017】
また、この燃料電池モジュールでは、第3領域に隣接して燃料電池スタックに積層方向の荷重を付与する加重付与機構を備え、前記第3領域に配置されるセパレータは、第1領域に配置される前記セパレータよりも圧力損失が小さく設定されることが好ましい。
【0018】
さらに、この燃料電池モジュールでは、第1領域に隣接して燃料ガス通路に燃料ガスを供給するための改質器を備え、前記第1領域に配置されるセパレータは、第3領域に配置される前記セパレータよりも圧力損失が小さく設定されることが好ましい。
【0019】
さらにまた、この組立方法は、燃料ガスの圧力損失に応じてセパレータを3つのグループに振り分ける工程と、燃料電池スタックの積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域、第2領域及び第3領域の順に区分する工程と、前記第1領域、第2領域及び第3領域に、各グループの前記セパレータを配置する工程とを有するとともに、積層方向中央側の前記第2領域に配置される前記セパレータは、前記第1領域及び前記第3領域に配置される前記セパレータよりも前記燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。
【0020】
また、この組立方法では、圧力損失は、燃料ガス通路に燃料ガスが供給される供給圧力と大気圧との差圧であることが好ましい。
【0021】
さらに、この組立方法では、セパレータは、燃料ガス通路に連通し、アノード電極に向かって燃料ガスを供給する燃料ガス供給孔を設けるとともに、供給圧力は、前記燃料ガスが前記燃料ガス供給孔を通過するための圧力であることが好ましい。
【0022】
さらにまた、この組立方法では、第1領域と第3領域とでスタック温度の低い領域に配置されるセパレータは、他の領域に配置される前記セパレータよりも圧力損失が小さく設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、燃料電池スタックでは、最も高温になり易い積層方向中央側の第2領域に配置されているセパレータは、第1領域及び第3領域の各セパレータよりも燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。従って、第2領域における燃料ガスの供給量が減少するため、発電反応量が第1領域及び第3領域に比べて相対的に減少する。
【0024】
このように、燃料電池スタックでは、最も高温になり易い第2領域の温度が低下するため、積層方向の温度を均一化することができる。これにより、簡単且つ経済的な構成で、燃料電池スタックの積層方向の温度を均一化し、均等な発電反応が遂行可能になるとともに、耐久性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池モジュールの断面説明図である。
【図2】前記燃料電池モジュールを構成する燃料電池スタックの概略斜視説明図である。
【図3】前記燃料電池スタックの、図2中、III−III線断面図である。
【図4】燃料電池の分解斜視説明図である。
【図5】前記燃料電池のガス流れ状態を示す一部分解斜視説明図である。
【図6】前記燃料電池の動作を説明する概略断面説明図である。
【図7】前記燃料電池を構成するセパレータの圧力損失を測定する際の説明図である。
【図8】前記燃料電池スタックの積層方向の温度分布と圧力損失との関係説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池モジュールの断面説明図である。
【図10】前記燃料電池スタックの積層方向の温度分布と圧力損失との関係説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜図3に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池モジュール10は、定置用の他、可搬用や車載用等の種々の用途に用いられている。
【0027】
燃料電池モジュール10は、燃料電池スタック12と、酸化剤ガスを前記燃料電池スタック12に供給する前に加熱する熱交換器14と、原燃料と水蒸気との混合燃料を生成するために、水を蒸発させる蒸発器15と、前記混合燃料を改質して改質ガスを生成する改質器16と、前記燃料電池スタック12、前記熱交換器14、前記蒸発器15、前記改質器16及び後述する荷重付与機構19を収容する筐体17とを備える。
【0028】
改質器16は、都市ガス(原燃料)中に含まれるエタン(C26)、プロパン(C38)及びブタン(C410)等の高級炭化水素(C2+)を、主としてメタン(CH4)、水素、COを含む燃料ガスに水蒸気改質するための予備改質器であり、数百℃の作動温度に設定される。
【0029】
筐体17内では、燃料電池スタック12の一方の側に、少なくとも熱交換器14、蒸発器15及び改質器16を含む流体部18が配置されるとともに、前記燃料電池スタック12の他方の側に、積層方向(矢印A方向)に締め付け荷重を付与する荷重付与機構19が配設される。荷重付与機構19及び流体部18は、燃料電池スタック12に対して軸対称に配置される。
【0030】
燃料電池スタック12は、矢印A方向に積層される複数の固体電解質形燃料電池12aを備える。燃料電池12aは、図4及び図5に示すように、例えば、安定化ジルコニア等の酸化物イオン導電体で構成される電解質(電解質板)20の両面に、カソード電極22及びアノード電極24が設けられた電解質・電極接合体(MEA)26を備える。
【0031】
電解質・電極接合体26は、円板状に形成されるとともに、少なくとも外周端面部には、酸化剤ガス及び燃料ガスの進入や排出を阻止するためにバリアー層(図示せず)が設けられている。各セパレータ28間には、4個の電解質・電極接合体26が、このセパレータ28の中心部である燃料ガス供給連通孔30と同心円上に配列される。
【0032】
セパレータ28は、図4に示すように、例えば、ステンレス合金等の板金で構成される1枚の金属プレートやカーボンプレート等で構成される。セパレータ28は、中央部に燃料ガス供給連通孔30を形成する燃料ガス供給部(反応ガス供給部)32を有する。この燃料ガス供給部32から外方に等角度間隔(90゜間隔)ずつ離間して放射状に延在する4本の第1橋架部34を介して比較的大径な挟持部36が一体的に設けられる。燃料ガス供給部32と各挟持部36との中心間距離は、同一距離に設定される。
【0033】
各挟持部36は、電解質・電極接合体26と略同一寸法の円板形状に設定されており、互いに分離して構成される。挟持部36には、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給孔38が、例えば、前記挟持部36の中心又は中心に対して酸化剤ガスの流れ方向上流側に偏心した位置に設定される。
【0034】
各挟持部36のアノード電極24に接触する面36aには、前記アノード電極24の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路40が形成される。面36aには、燃料ガス通路40を通って使用された燃料ガスを排出する燃料ガス排出通路42と、アノード電極24に接触するとともに、前記燃料ガスが燃料ガス供給孔38から前記燃料ガス排出通路42に直線状に流れることを阻止する迂回路形成用の円弧状壁部44とが設けられる。
【0035】
円弧状壁部44は、略馬蹄形状を有し、その内部に燃料ガス供給孔38が配置される一方、挟持部36の基端部側(第1橋架部34側)には、燃料ガス排出通路42が設けられる。面36aには、燃料ガス通路40側に突出してアノード電極24の外周縁部に接触する外縁周回用凸部46と、前記アノード電極24に接触する複数の突起部48とが設けられる。
【0036】
凸部46は、燃料ガス排出通路42に対応して一部が切り欠かれた略リング状を有するとともに、突起部48は、面36aに、例えば、エッチングにより形成される中実部、又はプレスにより形成される中空部で構成される。
【0037】
図6に示すように、各挟持部36のカソード電極22に接触する面36bは、略平坦面に形成されており、この面36bには、円板状のプレート50が、例えば、ろう付け、拡散接合やレーザ溶接等により固着される。このプレート50には、プレス等により複数の突起部52が設けられる。挟持部36の面36b側には、突起部52によりカソード電極22の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路54が形成されるとともに、前記突起部52は、集電部を構成する。
【0038】
各挟持部36の外周部には、電解質・電極接合体26の発電電力の取り出し及び計測を行うとともに、セパレータ28に位置決めや枚数検出等に利用可能な突出部56が形成される(図4及び図5参照)。
【0039】
図4に示すように、セパレータ28のカソード電極22に対向する面には、通路部材60が、例えば、ろう付け、拡散接合やレーザ溶接等により固着される。通路部材60は、平板状に構成されるとともに、中央部に燃料ガス供給連通孔30を形成する燃料ガス供給部62を備える。燃料ガス供給部62には、補強用のボス部63が所定数だけ設けられる。
【0040】
燃料ガス供給部62から放射状に4本の第2橋架部64が延在するとともに、各第2橋架部64は、セパレータ28の第1橋架部34から挟持部36の面36bに燃料ガス供給孔38を覆って固着される(図6参照)。
【0041】
燃料ガス供給部62から第2橋架部64には、燃料ガス供給連通孔30から燃料ガス供給孔38に連通する燃料ガス供給通路66が形成される。燃料ガス供給通路66は、例えば、エッチングにより形成される。
【0042】
図6に示すように、酸化剤ガス通路54は、電解質・電極接合体26の内側周端部と挟持部36の内側周端部との間から矢印B方向に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給連通孔68に連通する。この酸化剤ガス供給連通孔68は、各挟持部36の内方と第1橋架部34との間に位置して積層方向(矢印A方向)に延在している。
【0043】
各セパレータ28間には、燃料ガス供給連通孔30をシールするための絶縁シール70が設けられる。絶縁シール70は、例えば、マイカ材やセラミック材等、地殻成分系素材、硝子系素材、粘土とプラスチックの複合素材で形成されている。絶縁シール70は、燃料ガス供給連通孔30を電解質・電極接合体26に対してシールする機能を有する。燃料電池スタック12には、挟持部36の外方に位置して排ガス通路72が形成される。
【0044】
図4に示すように、隣り合う各挟持部36間には、酸化剤ガス供給連通孔68を介して各電解質・電極接合体26の面方向に沿って酸化剤ガス通路54を流通する酸化剤ガス及び燃料ガス通路40を流通する燃料ガスを整流するための整流部材74が配置される。整流部材74は、略扇方形状の板材で構成されており、矢印A方向に所定枚数だけ積層されるとともに、各挟持部36間に対応して平面視で4つ配設される。
【0045】
整流部材74は、絶縁部材、例えば、マイカをシリコーン樹脂で結合して構成される。整流部材74は、挟持部36の周縁部の一部及びセパレータ28の外接円の一部に沿って配置される。整流部材74の挟持部36の一部に沿う一端部は、前記挟持部36と第1橋架部34との連結部位の近傍に配置されるとともに、前記整流部材74の他端部である外周部78は、セパレータ28の外接円の一部を構成する。
【0046】
整流部材74の一端部には、酸化剤ガス供給連通孔68及び燃料ガス供給連通孔30から離間する方向に凹形状を有する凹部80が設けられる。整流部材74の両側部には、それぞれ挟持部36の外周形状に対応する円弧状部82が設けられる。
【0047】
図2及び図3に示すように、燃料電池スタック12の他方の端部には、端部セパレータ84に隣接して略円板状のエンドプレート88aが配置される。燃料電池スタック12の一方の端部には、端部セパレータ84に隣接して隔壁(ターミナルプレート)90が配置され、前記隔壁90に隣接して小径且つ略円板状の複数のエンドプレート88bと、大径且つ略リング状の固定リング88cとが配置される。隔壁90は、排ガスがセパレータ28の外部に拡散することを阻止する機能をも有する一方、エンドプレート88bは、各電解質・電極接合体26の積層位置に対応して4つ配設される。
【0048】
エンドプレート88a及び固定リング88cは、複数の孔部92を有するとともに、整流部材74には、積層方向にボルト挿入用カラー部材94が一体に挿入される。孔部92及びボルト挿入用カラー部材94に挿入されるボルト96及び前記ボルト96に螺合するナット98を介し、エンドプレート88aと固定リング88cとが締め付け固定される。
【0049】
エンドプレート88aには、燃料ガス供給連通孔30に連通する単一の燃料ガス供給パイプ100と、各酸化剤ガス供給連通孔68に連通するキャビティ102aを設けるケーシング102と、前記ケーシング102に接続されて前記キャビティ102aに連通する単一の酸化剤ガス供給パイプ104とが設けられる。
【0050】
エンドプレート88aには、複数のボルト96、ナット106a、106b及び板状カラー部材108を介して固定プレート部材110が固定される。固定プレート部材110とエンドプレート88aとの間には、燃料ガス供給部32、62(ガスシール部位)に第1締め付け荷重を付与する第1締め付け部112と、各電解質・電極接合体26に前記第1締め付け荷重よりも小さな第2締め付け荷重を付与する第2締め付け部114とが設けられ、これらにより荷重付与機構19が構成される。
【0051】
荷重付与機構19は、エンドプレート88b側に配置されるととともに、第1締め付け部112及び第2締め付け部114は、エンドプレート88aを介して積層方向の荷重を保持する。
【0052】
第1締め付け部112は、燃料ガス供給連通孔30から燃料ガスが漏れることを阻止するために、燃料電池スタック12の中央部(燃料ガス供給部32、62の中央部)に配置される押圧部材116を備え、この押圧部材116は、4つのエンドプレート88bの配列中心近傍に位置して前記燃料電池スタック12を押圧する。
【0053】
押圧部材116には、第1受け部材118a及び第2受け部材118bを介して第1スプリング120が配置される。第2受け部材118bには、第1押圧ボルト122の先端が当接する。第1押圧ボルト122は、固定プレート部材110に形成された第1ねじ孔124に螺合するとともに、第1ナット126を介して位置調整可能に固定される。
【0054】
第2締め付け部114は、エンドプレート88bに各電解質・電極接合体26に対応して配置される第3受け部材128aを備える。第3受け部材128aは、ピン130を介してエンドプレート88bに位置決め支持される。第3受け部材128aに第2スプリング132の一端が当接する一方、前記第2スプリング132の他端が第4受け部材128bに当接する。第4受け部材128bには、第2押圧ボルト134の先端が当接する。第2押圧ボルト134は、固定プレート部材110に形成された第2ねじ孔136に螺合するとともに、第2ナット138を介して位置調整可能に固定される。
【0055】
図1の発電使用時の姿勢に示すように、筐体17は、荷重付与機構19を収容する第1筐体部160aと、燃料電池スタック12を収容する第2筐体部160bとを上下に備える。第1及び第2筐体部160a、160b間は、隔壁90を介装してねじ162及びナット164により締め付けられる。隔壁90は、流体部18から荷重付与機構19に高温の排ガスや空気が流入することを阻止するガス遮蔽部を構成する。第2筐体部160bには、リング状壁板166の一端部が接合されるとともに、前記壁板166の他端部には、ヘッド板168が固着される。
【0056】
蒸発器15には、原燃料(メタン、エタン又はプロパン等)を供給する原燃料供給部(図示せず)に連結される燃料ガス供給管170が接続される。蒸発器15の出口は、改質器16の入口に連通する。燃料ガス供給管170に近接して、排ガス管172が配置される。
【0057】
ヘッド板168には、酸化剤ガス供給管174が連通するとともに、前記酸化剤ガス供給管174は、筐体17内の通路176を通って熱交換器14から酸化剤ガス供給連通孔68に連通する。
【0058】
次いで、燃料電池モジュール10を組み立てる工程について、以下に説明する。
【0059】
先ず、製造されたセパレータ28毎に圧力損失を測定し、測定された圧力損失に応じて前記セパレータ28が3つのグループに振り分けられる。具体的には、図7に示すように、測定用のガス、例えば、空気が、燃料ガス供給連通孔30に供給される。この空気は、セパレータ28の4つの第2橋架部64に設けられている各燃料ガス供給通路66を通って、各燃料ガス供給孔38から大気(燃料ガス通路40側)に放出される。
【0060】
従って、圧力損失ΔPは、ΔP=P1(燃料ガスの供給圧)−P2(大気圧)で算出される。
【0061】
ここで、圧力損失は、上記のように、燃料ガス通路40に燃料ガスが供給される供給圧力P1と、大気圧である圧力P2との差圧(ΔP)である。そして、供給圧力P1は、燃料ガスが燃料ガス供給孔38を通過するための圧力である。
【0062】
そして、全てのセパレータ28について、上記の圧力損失状態の測定が行われた後、それぞれの圧力損失が規定範囲以下、規定範囲内又は規定範囲以上のいずれかにあるかにより、3つのグループに振り分けられる。例えば、圧力損失が最も大きなグループを第1グループG1とし、圧力損失が中程度のグループを第2グループG2とし、圧力損失が最も小さいグループを第3グループG3とする。
【0063】
一方、燃料電池スタック12では、図8に示すように、積層方向(矢印A方向)に対して、温度分布が発生する。燃料電池スタック12の積層方向中央部は、積層方向両側に燃料電池12aが重なり合うため、最も高温になり易い領域である。一方、流体部18に近接する積層方向一端部側は、特に、改質器16の改質中(吸熱反応)に温度が低下し易く、前記改質器16への伝熱により最も温度低下が惹起する領域がある。
【0064】
そこで、燃料電池スタック12の積層方向に対し、積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域170a、第2領域170b及び第3領域170cの順に区分する。第2領域170bは、最も高温になり易い領域である一方、第1領域170aは、最も低温になり易い領域である。
【0065】
次に、第2領域170bには、圧力損失が最も大きな第1グループG1に区分されたセパレータ28が配置され、第1領域170aには、圧力損失が最も低い第3グループG3に区分されたセパレータ28が配置され、第3領域170cには、圧力損失が中程度の第2グループG2に区分されたセパレータ28が配置される。すなわち、燃料電池スタック12の積層方向に対する温度分布と圧力損失とは、図8に示す関係に設定される。
【0066】
このように構成される燃料電池モジュール10の動作について、以下に説明する。
【0067】
図1に示すように、エアポンプ(図示せず)により吐出された酸素含有ガスである空気は、酸化剤ガス供給管174から筐体17内の通路176に供給される。この空気は、熱交換器14により加熱された後、酸化剤ガス供給パイプ104からキャビティ102aを介して各酸化剤ガス供給連通孔68に供給される。
【0068】
一方、燃料ガス供給管170から改質器16に原燃料(メタン、エタン又はプロパン等)が供給されるとともに、前記燃料ガス供給管170から前記改質器16に水が供給される。原燃料が改質器16を通って改質されることにより燃料ガス(水素含有ガス)が得られ、この燃料ガスは、エンドプレート88aに接続されている燃料ガス供給パイプ100から燃料ガス供給連通孔30に供給される。
【0069】
図6に示すように、燃料ガスは、燃料電池スタック12の燃料ガス供給連通孔30に沿って積層方向(矢印A方向)に移動しながら、燃料ガス供給通路66に沿ってセパレータ28の面方向に移動する。
【0070】
燃料ガスは、燃料ガス供給通路66から挟持部36に形成された燃料ガス供給孔38を通って燃料ガス通路40に導入される。燃料ガス供給孔38は、各電解質・電極接合体26のアノード電極24の略中心位置に設定されている。このため、燃料ガスは、燃料ガス供給孔38からアノード電極24の略中心に供給された後、燃料ガス通路40に沿って前記アノード電極24の外周部に向かって移動する。
【0071】
一方、酸化剤ガス供給連通孔68に供給された空気は、整流部材74の整流作用下に、電解質・電極接合体26の内側周端部と挟持部36の内側周端部との間から矢印B方向に流入し、酸化剤ガス通路54に送られる。酸化剤ガス通路54では、電解質・電極接合体26のカソード電極22の内側周端部(セパレータ28の中央部)側から外側周端部(セパレータ28の外側周端部側)に向かって空気が流動する。
【0072】
従って、電解質・電極接合体26では、アノード電極24の電極面の中心側から周端部側に向かって燃料ガスが供給されるとともに、カソード電極22の電極面の一方向(矢印B方向)に向かって空気が供給される。その際、酸化物イオンが電解質20を通ってアノード電極24に移動し、化学反応により発電が行われる。
【0073】
なお、各電解質・電極接合体26の外周部に排出される主に発電反応後の空気を含む排ガスは、オフガスとして排ガス通路72を介して燃料電池スタック12から排出される(図1参照)。
【0074】
この場合、第1の実施形態では、燃料電池スタック12において、最も高温になり易い積層方向中央側である第2領域170bに配置されているセパレータ28は、他の領域である第1領域170a及び第3領域170cに配置されているそれぞれのセパレータ28よりも、燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。
【0075】
このため、第2領域170bでは、セパレータ28の燃料ガス供給孔38からアノード電極24に供給される燃料ガスの供給量が減少され、発電反応が第1領域170a及び第3領域170cに比べて相対的に抑制される。従って、第2領域170bにおける発電反応量が減少し、前記第2領域170bの温度を低下させることができる。これにより、燃料電池スタック12は、最も高温になり易い第2領域170bの温度が低下するため、積層方向の温度を均一化することが可能になる。
【0076】
しかも、第1の実施形態では、スタック温度が最も低温になり易いスタック上端部である第1領域170aに配置されるセパレータ28は、第3領域170cに配置されるセパレータ28よりも圧力損失が小さく設定されている。このため、第1領域170aでは、セパレータ28の燃料ガス供給孔38からアノード電極24に供給される燃料ガスの供給量を増加させることができ、発電反応を第1領域170a及び第3領域170cに比べて相対的に促進させることが可能になる。
【0077】
従って、特に、流体部18から流入する流体による温度低下や、改質器16の改質中の吸熱作用によって、第1領域170aの温度が必要以上に低下することがなく、前記第1領域170aの温度を良好に上昇させることができる。これにより、簡単且つ経済的な構成で、燃料電池スタック12の積層方向の温度分布を均一化することができ、耐久性の向上を図るとともに、均等な発電反応を遂行することが可能になるという効果が得られる。
【0078】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池モジュール180の断面説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池モジュール10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0079】
燃料電池モジュール180を構成する燃料電池スタック182では、積層方向中央側が最も高温になり易い一方、荷重付与機構19に隣接する積層方向他端部側が最も低温になり易い。
【0080】
すなわち、燃料電池スタック182の積層方向下端に隣接する荷重付与機構19側に、前記燃料電池スタック182に発生した熱が伝導し、積層方向下端側の温度が低下し易くなる。一方、燃料電池スタック182の積層方向上端側には、前記燃料電池スタック182で発生した熱が伝導されるとともに、排ガスからの熱の伝導がなされる。このため、燃料電池スタック182では、流体部18よりも荷重付与機構19側が低温になり易い。
【0081】
なお、燃料電池モジュール180は、第1の実施形態の燃料電池モジュール10と構成上の変更はないが、断熱構造や発熱量、構成部品の材質、又は設置箇所等の種々の環境条件によって、第2の実施形態では、積層方向下端側が最低温度になり易い(図10参照)。
【0082】
燃料電池スタック182は、図9に示すように、積層方向上端側から第1領域184a、第2領域184b及び第3領域184cの順に区分される。図10に示すように、第2領域184bには、圧力損失が最も高い第1グループG1のセパレータ28が配置され、第3領域184cには、圧力損失が最も低い第3グループG3のセパレータ28が配置され、さらに第1領域184aには、圧力損失が中程度の第2グループG2のセパレータ28が配置される。
【0083】
このように構成される第2の実施形態では、燃料電池スタック182の最も高温になり易い第2領域184bに配置されているセパレータ28は、第1領域184a及び第3領域184c(積層方向両端)にそれぞれ配置されているセパレータ28よりも、燃料ガスの圧力損失が大きく設定されている。従って、第2領域184bにおける燃料ガスの供給量が減少し、発電反応が相対的に減少する。
【0084】
一方、スタック温度が最も低温になり易い第3領域184c(荷重付与機構19側)に配置されているセパレータ28は、圧力損失が最も小さく設定されている。このため、第3領域184cでは、燃料ガスの供給量を増やして発電反応を相対的に促進させることができ、荷重付与機構19に伝熱することにより温度低下が惹起されていた第3領域184cの温度を有効に上昇させることが可能になる。
【0085】
これにより、簡単且つ経済的な構成で、燃料電池スタック182の積層方向の温度を均一化し、均等な発電反応が遂行可能になるとともに、耐久性の向上が図られる等、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0086】
10、180…燃料電池モジュール 12、182…燃料電池スタック
14…熱交換器 15…蒸発器
16…改質器 17…筐体
19…荷重付与機構 20…電解質
22…カソード電極 24…アノード電極
26…電解質・電極接合体 28…セパレータ
30…燃料ガス供給連通孔 32、62…燃料ガス供給部
34、64…橋架部 36…挟持部
38…燃料ガス供給孔 40…燃料ガス通路
54…酸化剤ガス通路 60…通路部材
66…燃料ガス供給通路 74…整流部材
170a、170b、170c、184a、184b、184c…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質をアノード電極とカソード電極とで挟んで構成される電解質・電極接合体と、一方の面側に前記アノード電極の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路を設け、且つ他方の面側に前記カソード電極の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路を設けるセパレータとを有し、前記電解質・電極接合体と前記セパレータとを交互に積層する燃料電池スタックを備える燃料電池モジュールであって、
前記燃料電池スタックは、積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域、第2領域及び第3領域の順に区分されるとともに、
積層方向中央側の前記第2領域に配置される前記セパレータは、前記第1領域及び前記第3領域に配置される前記セパレータよりも前記燃料ガスの圧力損失が大きく設定されることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池モジュールにおいて、前記圧力損失は、前記燃料ガス通路に前記燃料ガスが供給される供給圧力と大気圧との差圧であることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池モジュールにおいて、前記セパレータは、前記燃料ガス通路に連通し、前記アノード電極に向かって前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給孔を設けるとともに、
前記供給圧力は、前記燃料ガスが前記燃料ガス供給孔を通過するための圧力であることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池モジュールにおいて、前記第1領域又は前記第3領域のスタック温度の低い一方の領域に配置される前記セパレータは、他方の領域に配置される前記セパレータよりも前記圧力損失が小さく設定されることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池モジュールにおいて、前記第3領域に隣接して前記燃料電池スタックに前記積層方向の荷重を付与する加重付与機構を備え、
前記第3領域に配置される前記セパレータは、前記第1領域に配置される前記セパレータよりも前記圧力損失が小さく設定されることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項6】
請求項4記載の燃料電池モジュールにおいて、前記第1領域に隣接して前記燃料ガス通路に前記燃料ガスを供給するための改質器を備え、
前記第1領域に配置される前記セパレータは、前記第3領域に配置される前記セパレータよりも前記圧力損失が小さく設定されることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項7】
電解質をアノード電極とカソード電極とで挟んで構成される電解質・電極接合体と、一方の面側に前記アノード電極の電極面に沿って燃料ガスを供給するための燃料ガス通路を設け、且つ他方の面側に前記カソード電極の電極面に沿って酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス通路を設けるセパレータとを有し、前記電解質・電極接合体と前記セパレータとを交互に積層する燃料電池スタックを備える燃料電池モジュールの組立方法であって、
燃料ガスの圧力損失に応じて前記セパレータを3つのグループに振り分ける工程と、
前記燃料電池スタックの積層方向一端部から積層方向他端部にわたって、第1領域、第2領域及び第3領域の順に区分する工程と、
前記第1領域、第2領域及び第3領域に、各グループの前記セパレータを配置する工程と、
を有するとともに、積層方向中央側の前記第2領域に配置される前記セパレータは、前記第1領域及び前記第3領域に配置される前記セパレータよりも前記燃料ガスの圧力損失が大きく設定されることを特徴とする燃料電池モジュールの組立方法。
【請求項8】
請求項7記載の組立方法において、前記圧力損失は、前記燃料ガス通路に前記燃料ガスが供給される供給圧力と大気圧との差圧であることを特徴とする燃料電池モジュールの組立方法。
【請求項9】
請求項8記載の組立方法において、前記セパレータは、前記燃料ガス通路に連通し、前記アノード電極に向かって前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給孔を設けるとともに、
前記供給圧力は、前記燃料ガスが前記燃料ガス供給孔を通過するための圧力であることを特徴とする燃料電池モジュールの組立方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の組立方法において、前記第1領域又は前記第3領域のスタック温度の低い一方の領域に配置される前記セパレータは、他方の領域に配置される前記セパレータよりも前記圧力損失が小さく設定されることを特徴とする燃料電池モジュールの組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate