説明

燃料電池及び燃料電池装置

【課題】温度環境に影響されず、省スペースで、自動的に切り換えが可能となるスイッチ手段を備えた燃料電池及び燃料電池装置を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池は、酸化剤極と燃料極とが電解質膜を介して配置され、これらによって構成された電解質電極接合体による発電部を備えた燃料電池であって、
前記発電部で発生した水による含水状態に応じて切り替え可能なスイッチ手段を有する構成とする。
特に、上記スイッチ手段を、前記酸化剤極と前記燃料極の間に接続された短絡回路に設けることによって、
運転停止時に燃料電池の性能低下や劣化の原因となる残留ガスを消費し、低温起動時の暖機運転を行う際等に、短絡制御を効率良く行えるように構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池及び燃料電池装置に関するものであり、特に運転停止時における燃料電池の性能低下や劣化等を抑制し、低温起動時の暖機運転を行えるようにした燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、つぎのような多くの長所を有している。例えば、寿命が長い、出力が高い、起動・停止による劣化が少ない、運転温度が低い、起動・停止が容易である、等の長所を有している。
そのため、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器用電源、電気自動車用電源、業務用及び家庭用の分散電源等の幅広い用途が期待されている。
【0003】
これらの用途の中で、固体高分子型燃料電池を搭載した携帯機器(例えば、デジタルカメラ)は、現在主流のリチウムイオン電池を搭載したものより、長時間使用可能であるという利点がある。
昨今では、携帯機器の消費電力は増加の一途を辿っており、リチウムイオン電池では電力不足が懸念されてきているため、効率のよい燃料電池の早急な実現が望まれている。そのため、燃料電池では、膜−電極接合体、セル構成、発電条件、等において種々の改良が進められている。
【0004】
ところで、固体高分子型燃料電池を搭載した発電システムを停止させる場合、発電システムの起動−停止、すなわち固体高分子型燃料電池の起動−停止の繰り返しにより、その条件によって、出力低下が生じる場合がある。
特に、発電システムの停止時に、燃料電池内部に燃料ガス(可燃性ガス)が残留している場合には、出力電圧の低下を招き、あるいは構成部材の腐食の原因となることがある。
そのため、従来においては、例えば特許文献1のように、リン酸型燃料電池システムにおいて、不活性ガスを用いてパージするシステムの運転停止方法が提案されている。この運転停止方法では、運転停止時の燃料電池の劣化を防止するため、燃料通路に残っている燃料を窒素によりパージする一方、酸化剤極と燃料極を短絡することによって電解質層に含浸したリン酸に溶存した酸素を抜くようにされている。
その際、ここでは酸化剤極と燃料極を短絡し、あるいはそれを開放状態とするため、タイマーが利用されている。
また、このようなリン酸型燃料電池システムにおいては、高温状態で単位電池あたりの電池電圧が0.8V以上に維持されると、電極表面の触媒が凝集して活性面積が減少するシンタリングが増長し、電池電圧が低下する。
これを回避するため、例えば特許文献2では、不活性ガス(窒素ガス)をアノードとカソードにそれぞれ供給し、セル内に残留する水素と酸素を除去する一方、ダミー抵抗とセル間を接続して外部短絡させる構成により、電池電圧を管理する提案がなされている。
【0005】
一方、発電システムの省スペース化、設備の小形化のため、不活性ガスを用いない運転停止方法が有利なことから、例えば特許文献3では、燃料電池における各対のセパレータ間に微小電流を流すことができる外部抵抗を接続するようにした提案がなされている。
この提案では、外部抵抗にスイッチを設ける手段を採ることができ、燃料電池の運転停止時には外部抵抗のスイッチを閉じ、燃料電池における各対のセパレータ間に微小電流を流すことにより残留ガスを消費する一方、次の始動までスイッチを閉じたままにしておく。
これにより、次の運転始動時の暖機運転が可能とされる。
【0006】
また、燃料電池は、低温時における出力が非常に小さく、所望の出力が得られない。このため、燃料電池を暖機することが必要となる。
従来においてはその暖機手段として、例えば、加湿冷却水タンクや加熱冷却水系に加熱手段を設け、加熱された加湿冷却水をスタックへ供給して暖機する構成のものが知られている。或いは、発電始動する際の燃料電池自体の内部抵抗による発熱により暖機するもの、等が知られている。
しかしながら、上記従来例の暖機手段では、装置が大型化し、あるいは均一に暖気できないことから、例えば、特許文献4では燃料電池セルの電極を短絡させる短絡回路を構成し、この短絡回路を短絡させることにより燃料電池の暖機を行う提案がなされている。
その際、ここでは上記短絡回路を、所定温度以下になると短絡状態とし、所定温度以上になると開放状態とする構成が採られている。
【特許文献1】特開平2−33866号公報
【特許文献2】特開平10−144334号公報
【特許文献3】特開2003−115305号公報
【特許文献4】特開2003−109636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例の運転停止時における燃料電池の劣化防止や、低温起動時の暖機運転を行うための技術は、つぎのような問題を有している。
例えば、携帯機器搭載用の燃料電池においては、燃料電池を収納するスペースが限られており、可能な限りコンパクトな制御手段を採用する必要がある。
これに対して、上記従来例の特許文献1、特許文献2のように燃料通路に残っている燃料を窒素によりパージするものでは、パージガス供給手段が必要となるだけでなく、つぎのような手段を設けるための余分なスペースが必要となる。
すなわち、特許文献1では短絡手段の接続、解除にタイマー手段を設けることが必要となり、また特許文献2ではダミー抵抗の接続・解除手段が必要となる。
また、上記従来例の特許文献3のものでは、外部抵抗のスイッチを作動させる際に、その制御を行う手段が必要となることから、そのための余分なスペースが必要となる。
これらにより、上記従来例のものにおいては小型化を図る上で不都合が生じる。
【0008】
また、上記従来例の特許文献4の低温起動時の暖機運転を行うための技術では、使用環境の気温等に影響されるという課題を有している。
すなわち、ここでは暖機運転時に作動させるための短絡回路の接続、解除に、素子温度に応じて抵抗値が可逆的に変化する可変抵抗素子が用いられていることから、使用時の温度に左右されるという問題を有している。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、温度環境に影響されず、省スペースで、自動的に切り換えが可能となるスイッチ手段を備えた燃料電池及び燃料電池装置の提供を目的とするものである。
特に、運転停止時における燃料電池の性能低下や劣化等の原因となる残留ガスを消費し、低温起動時に暖機運転を行う際等に、上記スイッチ手段によって短絡制御を効率良く行うことが可能となる燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎのように構成した燃料電池及び燃料電池装置を提供するものである。
本発明の燃料電池は、酸化剤極と燃料極とが電解質膜を介して配置され、これらによって構成された電解質電極接合体による発電部を備えた燃料電池であって、
前記発電部で発生した水による含水状態に応じて切り替え可能なスイッチ手段を有することを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記スイッチ手段が、前記酸化剤極と前記燃料極の間に接続された短絡回路に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記スイッチ手段が、前記発電部で発生した水による含水状態に応じて体積を変化させる吸水性材料を備えていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記吸水性材料が、内部に導電性素子を含有していることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記吸水性材料が、前記電解質電極接合体と接するように配置されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記吸水性材料が、酸化剤ガス流路上に配置されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記吸水性材料が、前記酸化剤極と燃料極との間で挟持されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記吸水性材料が、前記電解質膜の一部に含有されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、上記したいずれかに記載の燃料電池が、2つ以上の燃料電池セルが積層され、直列につながれた燃料電池スタックで構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池装置は、上記したいずれかに記載の燃料電池によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度環境に影響されず、省スペースで、自動的に切り換えが可能となるスイッチ手段を備えた燃料電池及び燃料電池装置を実現することができる。
特に、上記スイッチ手段を、前記酸化剤極と前記燃料極の間に接続された短絡回路に設けることによって、運転停止時に燃料電池の性能低下や劣化の原因となる残留ガスを消費し、低温起動時の暖機運転を行う際等に、短絡制御を効率良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1に、本実施の形態における燃料電池装置の構成の概略図を示す。
図1において、1は酸化剤が供給される酸化剤極と燃料が供給される燃料極が電解質膜を介して配置された電解質電極接合体よりなる発電部である。
2は発電部の酸化剤極と燃料極を短絡させる短絡回路、3は短絡回路に設置されたスイッチである。スイッチ3は吸水性材料4と導電素子5から構成されている。
【0013】
発電部1の電解質電極接合体は、電解質膜の両側に触媒を含む電極が設けられた構造を有する。
電解質膜は、例えばプロトン伝導性の高分子材料、具体的にはパーフルオロカーボン系、非パーフルオロ系、ハイブリッド系等のイオン交換膜が用いられるが、本発明は特にこれらの材料に限定されるものではない。
触媒を含む電極としては、例えば白金微粒子を含む炭素粉末より構成されるものが挙げられる。
電解質電極接合体の一方の電極に燃料が供給され、他方に酸化剤が供給されることによって、電極間で起電力が発生し発電が行われる。
【0014】
短絡回路2は酸化剤極と燃料極を導電部材でつないだものである。短絡回路にはスイッチ3を有し、回路の開閉が可能になっている。
なお、本発明においては短絡回路2は必ずしも必要ではなく、後に説明する実施例2のように、配線を行わず、吸水性材料4に導電素子5を含有させたスイッチ自身を酸化剤極と燃料極に接触させる構成を採ることもできる。
【0015】
ここで、スイッチ3は短絡回路を開閉させる機能を有している。このスイッチ3の一部は吸水性材料4からなり、発電部の水分含有量に応じて開閉するように構成される。
具体的には、発電部で発電が起き、発電部内に水が発生すれば、吸水性材料4が水分を吸収し体積が膨張するとスイッチ3が開き、逆に発電が終了し発電部1が乾燥すると吸水性材料4が収縮しスイッチ3が閉じるようにする。
そのため、例えば乾燥状態では短絡させるのに十分な導電性を得られる程度の導電素子5を吸水性材料4に含有させ、吸水性材料4が水を吸って体積が膨張すると抵抗が増加するように構成することができる。
また、図2のように吸水性材料4に支持部材6を付けて吸水性材料4の体積変化により、スイッチ3の開口部を押し上げることでスイッチ3が開く構造にしても良い。
【0016】
吸水性材料4は発電部で発生した水の吸収が可能であるようにすることが必要であるが、発電部1から直接水を吸収できるように電解質電極接合体に接するように設置しても良い。
あるいは、図3のように酸化剤ガス7の流路上に設置して発電部1から排出されるガスに含まれる水分を吸収できるようにしても良い。
また、ここでの吸水性材料4は水を吸収することで体積を変化させる材料である。このような吸水性材料4としては、吸水率10〜90%の材料が好ましい。この吸水性材料の吸水率が10%未満では、吸水量が不足し、スイッチ3を開閉させるための体積変化を十分に得ることができない。
これに対し、吸水率が90%を超えるような材料では、気孔が多く、スイッチとしての強度を確保することが困難である。
ここで用いられる吸水性材料としては、例えば、アクリル酸エステル重合体、メタクリル酸エステル重合体、ハイドロゲル、水膨潤ゴム、ベントナイト等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
本実施の形態では、吸水性材料4は発電部1がフラッディングの状態になっている時には、発電部1から水を吸収し、逆に発電部1がドライな状況の時には吸水性材料4中の水を発電部1に供給することが可能となるように構成される。
これにより、吸水性材料4の種類や使用量を調節することにより、発電部1の含水量を制御することができる。
【0018】
導電素子5は、金属あるいは炭素であることが好ましい。形状はどのようなものでも良いが、粒子状、円柱状、円盤状、線状のものが好ましい。
導電素子5の吸水性材料4における含有率は、20重量%〜99重量%であることが好ましく50重量%〜97重量%であることがより好ましい。
導電素子5の含有率は少なすぎると、導電性が十分に得られず、多すぎると機械的強度が十分に得られないからである。
特に、電解質膜の一部に導電素子を含有させてスイッチの機能を持たせれば、発電部の外側に回路を設置しなくても良いので、回路を設けるためのスペースを増やす必要がなく、スペースを有効活用することができる。
【0019】
次に、燃料電池の起動または停止時の動作を説明する。
燃料電池の停止時においては、発電部1では水が発生しておらず、吸水性材料4は収縮しスイッチ3は閉じた短絡状態にある。
ここで、燃料電池が起動され、発電部1に燃料が供給されると発電が起こり、短絡回路2に電流が流れる。そして発電部1には水が発生する。
その発生した水を吸水性材料4が吸収することにより体積が膨張しスイッチ3が開き短絡が解除される。
次に、燃料電池が停止されると、水の生成が無くなり、発電部1が乾燥するに従って吸水性材料4も乾燥し、体積が収縮する。
それにより、スイッチ3が閉じて短絡状態になる。発電部1が短絡状態になれば、燃料極側に残留している燃料が速やかに消費され、それにより燃料電池の劣化を抑制することができる。
また、燃料電池が起動される場合には、その起動前の停止時には上記のようにスイッチが短絡状態となっていることから、速やかに暖機運転することができる。
【0020】
以上の本実施の形態の構成によれば、燃料電池起動時の暖機運転、終了時の燃料消費のための短絡回路への接続を、燃料電池の起動終了に合わせて、速やかに自動的に行うことができる。
なお、以上の説明では、水分含有量に応じて開閉するスイッチを、運転停止時に劣化の原因となる残留ガスの消費、あるいは低温起動時の暖機運転を行う際の短絡回路に用いた構成例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
これら以外にも、例えば、発電部がフラッディング状態になった時に始動し、ドライになると停止するファンのスイッチにも使用することができる。
あるいは、燃料電池の駆動状態を外部機器に伝える信号送信用回路のスイッチ等、様々な用途のスイッチとして使用することも可能である。
また、本発明の燃料電池は、直列または並列に2つ以上つないで使用しても良いし、他の電源、装置、回路を組み合わせた燃料電池システムとして使用することもできる。
その際、本発明のスイッチ手段を用いることで、燃料電池スタックや燃料電池システムの回路等を簡略化できることから、より小型な燃料電池システムを提供することが可能となる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明のスイッチ手段の構成を適用した燃料電池装置について説明する。
図4に、本実施例における燃料電池装置の構成の概略図を示す。図5は図4中の導電部材14の構成を示す断面図である。
なお、図4、図5において、上記した実施の形態と共通の構成には同一の符号が用いられている。
【0022】
本実施例の燃料電池装置においては、燃料として水素、酸化剤は大気を用いて発電を行う。
燃料である水素は、燃料タンク8に圧縮して貯蔵されている。また、水素の初期圧力は室温にて1MPa程度とされている。
燃料電池の出力を一定に保つために、本実施例では接続バルブより発電部側の燃料流路に圧力調整バルブ9が設けられている。
本圧力調整バルブ9は、燃料流路内が0.1MPaよりも低圧力で開き、それよりも高い圧力では閉じた状態となるように設計されている。
これによって、燃料流路内の圧力はほぼ0.1MPaに維持される。
【0023】
一方、発電部には電解質電極接合体11を複数積層した燃料電池スタック10が用意される。
燃料電池スタック10は、図4に示されるように電解質電極接合体11と大気取入れ層12、セパレータ13が積層された構造を有している。
導電素子5として、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ、大阪ガスケミカル社製、粒径約10μm)を10gと、吸水性材料4(住友精化株式会社製アクアコーク)のNMP10wt%溶液10gを遊星ボールミルで30分混合した。
その後導電材料15として厚さ16μmの銅箔を使用し、その表面に混合した材料を厚さ100μmで塗布することで図5に示されるようなシート状の導電部材14を作製した。
そのシートを高さが燃料電池スタックと同じ高さで、幅がスタック幅の10分の1程度の大きさになるように切り出した。
そして、燃料電池スタック10の大気取入れ層12と電解質膜16に触れるように貼付けて、120℃の温度をかけることによって溶剤を除去して接着し、短絡回路2とした。
【0024】
次に、本実施例における燃料電池の起動または停止時の動作を説明する。
以上のようにして作製した短絡回路2を備えた燃料電池スタック10は、初期状態では短絡している。
燃料極に水素を供給すると発電が起こり、電解質電極接合体11内で熱および水が発生する。
その水が燃料電池スタック10に接着した導電部材14中に含まれる吸水性材料4に吸収されると、それに伴って吸水性材料4の体積が膨張する。
それによって導電部材14中のMCMB間の導電性がなくなるため短絡状態が解除される。
逆に燃料供給を止めて、発電を終了すると発電による水の発生が無くなり吸水性材料4は次第に乾燥し体積が収縮するため、再び導電部材14中のMCMBが接触し導電性を持つようになる。
これにより燃料電池スタック10は短絡状態となり、流路に残留している燃料ガスを消費することができる。
【0025】
本実施例によれば、導電素子5を含有した吸水性材料4を短絡回路2に使用することにより、燃料電池スタック10の発電状態によって自動的に開閉可能なスイッチ3として機能させることができる。
このスイッチ3を利用すれば少ないスペースで、短絡回路への接続、解除を行うことができる短絡回路2を構成することができるため、燃料電池装置を小型化することが可能となる。
【0026】
[実施例2]
実施例2においては、吸水性材料4に導電素子5を含有させたスイッチ自身を酸化剤極と燃料極に接触させるようにし、実施例1とは異なるスイッチ手段を構成した。
図6に、本発明の実施例2における燃料電池装置の構成の断面概略図を示す。図7は図6中の電解質電極接合体11を示す概略図である。
なお、図6、図7において、上記した実施の形態と共通の構成には同一の符号が用いられている。
【0027】
次に、本実施例におけるスイッチ手段を備えた燃料電池装置の作製手順について説明する。
まず、3cm角のナフィオン電解質膜16に、図7のように直径5mmの貫通穴23をあける。
そして、5wt%ナフィオンIPA溶液5g中に導電素子5としてMCMB1gを加え、MCMBが均一に分散するまでよく攪拌しスラリーを作製する。
そのスラリーをナフィオン電解質膜16に開けた貫通穴23が埋まるように塗布し、溶剤を乾燥させる。
この層は導電素子5であるMCMBによって燃料極と酸化剤極を短絡させるための短絡層18である。
【0028】
次に、ナフィオン電解質膜16の中央両面に触媒層17を2cm角の面積に塗布することで、電解質膜電極接合体11を作製する。
その電解質電極接合体11をカーボンクロスで挟み込みガス拡散層19とした。さらに酸化剤極側にはSUSに金メッキを施した集電板20を積層し、燃料極側にはガス拡散層と触媒層が入る溝があり、燃料である水素が漏れないシールを施した集電板20を重ねた。
集電板20には酸化剤極、燃料極両方にガスを取り込むための通気口21が設けられている。
【0029】
次に、本実施例における燃料電池の起動または停止時の動作を説明する。
起動に際し、燃料ガス室22に燃料である水素が送り込まれると、短絡層18によって短絡状態であるために発電が起き、熱および水が発生する。
電解質膜16と短絡層18のナフィオンが発生した水を吸収し、体積が膨張すると導電素子5であるMCMBが離れるため絶縁状態となる。
また、発電を終了させて燃料ガスである水素の供給を停止すると、水の発生が止まりナフィオンも徐々に乾燥する。短絡層18のナフィオンが乾燥すると体積が収縮するので導電素子5であるMCMBが接触し短絡状態となる。
短絡状態になると、短絡層18に電流が流れて、燃料極流路上に残留した水素がなくなるまで消費させることができる。
【0030】
本実施例においては、以上のように電解質膜16の一部を導電部とした構成とすることができる。これにより、発電部の外側に回路を設置しなくても良いので、回路を設けるためのスペースを増やす必要がなく、スペースを有効活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態における燃料電池装置の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるスイッチの構成例として、吸水性材料に支持部材を付けて吸水性材料の体積変化により、スイッチの開口部を押し上げるようにしたスイッチの一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるスイッチの構成例として、酸化剤ガスの流路上に設置して発電部から排出されるガスに含まれる水分を吸収できるようにしたスイッチの一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例1における燃料電池装置を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例1における導電部材の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施例2における燃料電池を示す概略図である。
【図7】本発明の実施例2における電解質電極接合体を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1:発電部
2:短絡回路
3:スイッチ
4:吸水性材料
5:導電素子
6:支持部材
7:酸化剤ガス
8:燃料タンク
9:圧力調整バルブ
10:燃料電池スタック
11:電解質電極接合体
12:大気取入れ層
13:セパレータ
14:導電部材
15:導電材料
16:電解質膜
17:触媒層
18:短絡層
19:ガス拡散層
20:集電板
21:通気口
22:燃料ガス室
23:貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤極と燃料極とが電解質膜を介して配置され、これらによって構成された電解質電極接合体による発電部を備えた燃料電池であって、
前記発電部で発生した水による含水状態に応じて切り替え可能なスイッチ手段を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記スイッチ手段が、前記酸化剤極と前記燃料極の間に接続された短絡回路に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記スイッチ手段が、前記発電部で発生した水による含水状態に応じて体積を変化させる吸水性材料を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記吸水性材料が、内部に導電性素子を含有していることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記吸水性材料が、前記電解質電極接合体と接するように配置されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記吸水性材料が、酸化剤ガス流路上に配置されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記吸水性材料が、前記酸化剤極と燃料極との間で挟持されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記吸水性材料が、前記電解質膜の一部に含有されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の燃料電池。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池は、2つ以上の燃料電池セルが積層され、直列につながれた燃料電池スタックで構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池によって構成されていることを特徴とする燃料電池装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−317516(P2007−317516A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146200(P2006−146200)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】