説明

燃料電池及び燃料電池製造方法

【課題】排水性に優れて発電効率の高い燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池は、触媒粒子を有する触媒層と、撥水性部材を有するガス拡散層と、ガス拡散層と触媒層との間に配置され、撥水性部材と触媒粒子とが混在する中間層と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池における生成水の排出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池では、電解質膜と、電解質膜上に形成された触媒層と、触媒層上に形成されたガス拡散層とを有する膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下MEAと呼ぶ。)が用いられることがある。ガス拡散層は、MEAに供給される反応ガス(酸化ガス及び反応ガス)をMEAの全体に亘るように拡散させると共に、触媒層における電気化学反応によって生成された水を排出する役割を果たす。この生成水がガス拡散層や触媒層に留まると、いわゆるフラッディングが発生して発電効率が低下する。そこで、ガス拡散層として、カーボンペーパーやカーボンクロス等の導電性基材に撥水性部材を含むペーストを塗布した構成が提案されている(下記特許文献1参照)。また、このようなガス拡散層と触媒層との間に、伝導性部材(炭素粉末)と撥水性部材とからなる中間層を設けて、水の排出性を高めた構成が提案されている(下記特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−203646号公報
【特許文献2】特開2007−234359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、このような撥水性部材を用いたガス拡散層を適用した燃料電池や、中間層を設けた燃料電池においても十分な発電性能を得難く、生成水の排水性をより高めて発電効率をより高くしたいという要請があった。
【0005】
本発明は、排水性に優れて発電効率の高い燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池であって、触媒粒子を有する触媒層と、撥水性部材を有するガス拡散層と、前記ガス拡散層と前記触媒層との間に配置され、前記撥水性部材と前記触媒粒子とが混在する中間層と、を備える、燃料電池。
【0008】
適用例1の燃料電池では、電機化学反応によって生成水を生じる触媒粒子と、排水性を高める撥水性部材とが中間層において混在しているので、このような中間層がない構成に比べて触媒層や中間層に含まれる触媒粒子において生じた生成水の排水性を高めることができ、発電効率を高めることができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の燃料電池において、前記触媒層は、前記触媒粒子を含む第1の粉体を用いて構成され、前記ガス拡散層は、前記撥水性部材を含む第2の粉体を用いて構成され、前記中間層は、前記第1の粉体と前記第2の粉体との混合物を用いて構成されている、燃料電池。
【0010】
適用例2の燃料電池では、中間層は第1の粉体と第2の粉体を用いて構成されているので、各粉体間の空隙として形成される微細な気孔を中間層に多数設けることができる。また、中間層において、第1の粉体と第2の粉体とが3次元的に混在するので、触媒層とガス拡散層とが中間層を介して立体的に交じり合っているかのように構成することができる。したがって、触媒層(触媒粒子)とガス拡散層(撥水性部材)との接触面積を中間層がない構成に比べて大きくすることができ、生成水の排水性及びガス拡散性を高めることができる。また、触媒層及びガス拡散層についても、それぞれ粉体を用いて構成されているので、各層において粉体間の空隙を用いた微細な気孔を形成することができる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載の燃料電池において、前記第2の粉体の平均粒子径は、前記第1の粉体の平均粒子径よりも大きい、燃料電池。
【0012】
適用例3の燃料電池では、ガス拡散層は、平均粒子径のより大きな第2の粉体を用いて構成されるので、ガス拡散層の気孔を比較的大きくすることができ、優れたガス拡散性及び排水性を実現することができる。
【0013】
[適用例4]燃料電池の製造方法であって、(a)触媒粒子を用いて触媒層を形成する工程と、(b)前記触媒層の上に撥水性部材と前記触媒粒子とが混在する中間層を形成する工程と、(c)前記撥水性部材を用いて、前記中間層の上にガス拡散層を形成する工程と、を備える、燃料電池製造方法。
【0014】
適用例4の燃料電池製造方法では、電機化学反応によって生成水を生じる触媒粒子と、排水性を高める撥水性部材とが混在する中間層を形成するので、中間層がない構成に比べて触媒層や中間層に含まれる触媒粒子において生じた生成水の排水性に優れ、発電効率の高い燃料電池を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施形態:
B.実施例:
C.変形例:
【0016】
A.実施形態:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。燃料電池100は、膜電極接合体(以下、「MEA」(Membrane-Electrode Assembly)とも呼ぶ)15と、カソード側セパレータ16と、アノード側セパレータ17と、を備えている。カソード側セパレータ16とアノード側セパレータ17とは、MEA15を挟み込むように配置されている。
【0017】
MEA15は、電解質膜50と、カソード側触媒層62と、カソード側中間層72と、カソード側MPL層82と、カソード側拡散基礎層92と、アノード側触媒層63と、アノード側中間層73と、アノード側MPL層83と、アノード側拡散基礎層93と、を備えている。カソード側触媒層62は、電解質膜50上に形成されている。カソード側中間層72は、カソード側触媒層62の外側に形成されている。カソード側MPL層82は、カソード側中間層72の外側に形成されている。カソード側拡散基礎層92は、カソード側MPL層82の外側に形成されている。なお、アノード側の構成は、カソード側の構成と電解質膜50を挟んで対称になっている。
【0018】
電解質膜50は、スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜であり、デュポン社のナフィオン(登録商標)や、旭化成(株)のアシプレックス(登録商標)や、旭硝子(株)のフレミオン(登録商標)等を用いることができる。なお、電解質膜50としては、スルホン酸基に限らず、リン酸基やカルボン酸基など、他のイオン交換基を含む膜を用いることができる。
【0019】
カソード側拡散基礎層92とアノード側拡散基礎層93とは、いずれも多孔質の拡散層用基材で構成されている。このような拡散層用基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスやガラス状カーボン等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、撥水性を得るために、拡散層用基材を、撥水ペーストでコーティング(撥水処理)したものを用いることができる。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)との混合溶液を用いることができる。カソード側MPL層82とアノード側MPL層83とは、いずれも2つの拡散基礎層92,93よりも微細な気孔を有するいわゆるMPL層(Micro Porous Layer)である。この2つのMPL層82,83は、微細な気孔における毛細管現象を利用して、電気化学反応で生じた生成水を2つの拡散基礎層92,93へと排出する役割を果たす。このような役割からも理解できるように、カソード側MPL層82は、カソード側拡散基礎層92と共にカソード側のガス拡散層を形成する。同様にして、アノード側MPL層83はアノード側拡散基礎層93と共にアノード側のガス拡散層を形成する。このように、MEA15は拡散層も含むことから、MEGA(Membrane-Electrode&Gas. Diffusion Layer Assembly)と呼ぶこともできる。なお、2つのMPL層82,83の詳細構成と、2つの中間層72,73の詳細構成と、2つの触媒層62,63の詳細構成とについては後述する。
【0020】
カソード側セパレータ16は、ガス不透過の伝導性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板によって構成することができる。カソード側セパレータ16の表面は凸凹形状となっており、カソード側拡散基礎層92とカソード側セパレータ16との間には、酸化ガスが流れる酸化ガス流路18が形成されている。同様にして、アノード側拡散基礎層93とアノード側セパレータ17との間には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路19が形成されている。なお、図1の例では、カソード側セパレータ16は、互いに平行な複数の溝から成る凸凹形状を有しているが、これに限らず、カソード側セパレータ16とカソード側拡散基礎層92との間に酸化ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。また、アノード側セパレータ17についても同様に、アノード側セパレータ17とアノード側拡散基礎層93との間に燃料ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。
【0021】
図2は、図1に示す領域Xの模式的な拡大図である。この領域Xは、カソード側中間層72を中心として左側にカソード側触媒層62を、右側にカソード側MPL層82を、それぞれ含んでいる。なお、図2の例では、生成水の排水経路の例として3つの排水経路W1〜W3を示している。
【0022】
カソード側触媒層62は、多数の触媒層用粉体300が堆積して構成されている。この触媒層用粉体300は触媒を含む複合粉体であり、図2の例では平均粒子径がおよそ2μmである。カソード側MPL層82は、多数のMPL層用粉体600が堆積して構成されている。このMPL層用粉体600は撥水性部材を含む複合粉体であり、図2の例では平均粒子径がおよそ6μmである。カソード側MPL層82において、MPL層用粉体600間には空隙が生じており、かかる空隙が生成水を排出するための微細孔となる。なお、上述した触媒層用粉体300及びMPL層用粉体600の詳細な組成については後述する。カソード側中間層72は、前述の触媒層用粉体300とMPL層用粉体600とが混合して堆積した構成を有している。
【0023】
カソード側中間層72では、触媒層用粉体300とMPL層用粉体600とが互いに3次元的に交じり合っている。それゆえ、領域Xを全体として見ると、カソード側触媒層62とカソード側MPL層82とが、カソード側中間層72を介して立体的に交じり合っているかのように構成されている。したがって、カソード側中間層72がない構成に比べて、カソード側触媒層62とカソード側MPL層82との接触面積が比較的大きくなり、排出経路W1〜W3のように触媒層用粉体300で生じた生成水の排水経路が多数形成される。このような構成によって、カソード側触媒層62及びカソード側中間層72中の触媒層用粉体300で生じた生成水のカソード側拡散基礎層92への拡散が促され、カソード側において高い排水性を得ることができる。なお、生成水が発生するカソード側に本構成を適用すると効果が高いが、アノード側についても同様な構成としてもよい。したがって、アノード側においても、燃料ガス(水素ガス等)の加湿に用いられた水分や電解質膜50を浸透した水の排水性に優れる。なお、カソード側触媒層62及びカソード側MPL層82は複合粉体で構成されているので、これらの層62,83における生成水の排水性やガス拡散性に優れている。
【0024】
A2.燃料電池の製造方法:
図3は、図1に示すMEA15の製造手順を示すフローチャートである。ステップS105では、2つの触媒層62,63(図1)を形成するために用いる触媒層用粉体300(図2)を生成する。
【0025】
図4は、図3に示すステップS105の詳細手順を模式的に示す説明図である。まず、触媒担持粒子としての白金担持カーボン45(白金担持50wt%)と、電解質35としてのナフィオン(登録商標)とを、水とエタノールとの混合溶媒に加えて混合及び分散させて触媒層用スラリー500を得る。そして、触媒層用スラリー500を、スプレードライヤを用いたスプレードライ法によって噴霧乾燥させて触媒層用粉体300を生成する。具体的には、スプレードライヤ410の有するアトマイザ414によって触媒層用スラリー500をチャンバー412内に噴霧し、乾燥空気と接触させることによってミストを瞬間的に乾燥して触媒層用粉体300を得る。このようにして得られた触媒層用粉体300は、白金担持カーボン10と電解質15とが複合化された粉体である。
【0026】
なお、前述の触媒層用粉体300は、請求項における第1の粉体に相当する。また、白金担持カーボン内の白金粒子は、請求項における触媒粒子に相当する。
【0027】
ステップS110(図3)では、2つのMPL層82,83を形成するために用いるMPL層用粉体600(図2)を生成する。
【0028】
図5は、図3に示すステップS110の詳細手順を模式的に示す説明図である。図5の例では、導電性部材として球状カーボン20と、撥水材(バインダ)としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)25とを、溶媒としてのN−メチルピロリドン(NMP)に加え、混合及び分散させてMPL層用スラリー200を得る。そして、上述した触媒層用粉体300を生成するのと同様に、スプレードライ法によってMPL層用スラリー200を噴霧乾燥させてMPL層用粉体600を生成する。このようにして得られたMPL層用粉体600は、球状カーボン20とPVDF25とが複合化された粉体である。
【0029】
なお、導電性部材としては、前述の球状カーボンに代えて、例えば、電気化学工業株式会社製デンカブラック(アセチレンブラック)を用いることができる。また、アセチレンブラックに限らず、チャネルブラックやサーマルブラックやファーネスブラックなどの他の任意の種類のカーボンブラックを採用することができる。また、カーボンブラックに限らず、VGCF(登録商標)等のカーボンナノファイバや、カーボンナノチューブ(CNT)や、カーボンナノホーン(CNH)などを採用することもできる。また、炭素系部材に限らず、金属粉体(Ti粉体,Pt粉体,Au粉体)を用いることもできる。撥水材としては、上述したPVDFに限定されるものではなく、ポリフッ化ビニル(PVF)や、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)や、プリテトラフルオロエチレンなど、他の任意の撥水性(疎水性)を有する部材を採用することができる。
【0030】
なお、MPL層用粉体600は、請求項における第2の粉体に相当する。また、PVDF25は、請求項における撥水性部材に相当する。
【0031】
ステップS115(図3)では、ステップS105で生成した触媒層用粉体300と、ステップS110で生成したMPL層用粉体600とを混合して中間層用粉体を生成する。かかる混合は、例えば、ミキサーによって混ぜ合わせることで行うことができる。なお、上述したステップS105〜S115については、任意の順番で実行することもできる。ステップS120cでは、電解質膜50上に触媒層用粉体300を堆積させてカソード側触媒層62を形成する。
【0032】
図6(A)は、ステップS120cにおいて触媒層用粉体300を堆積させる方法を模式的に示す説明図である。スクリーンS1は、触媒層用粉体300が透過することができる大きさの開口を透過面全体に有するシート状部材である。スクリーンS1としては、ナイロン等の合成繊維や、ステンレス等の金属製の針金を織ったもの等を利用することができる。本実施例では、触媒層用粉体300を堆積させるのにスクリーンS1を用いた静電スクリーン方式を採用している。具体的には、電解質膜50から離れて配置したスクリーンS1に高電圧を印加してスクリーンS1と電解質膜50との間に静電界を設け、触媒層用粉体300をスクリーンS1を介して落下させる。そうすると、触媒層用粉体300は、対電極である電解質膜50に向かって落下する。このようにして、電解質膜50上にほぼ均一な厚みの触媒層用粉体300の層(カソード側触媒層62)が形成される。
【0033】
ステップS125c(図3)では、ステップS120cで形成されたカソード側触媒層62上に、ステップS115で生成した中間層用粉体を堆積させてカソード側中間層72を形成する。このとき、上述したステップS120cと同様に、静電スクリーン方式によって中間層用粉体をスクリーンを介して落下させてカソード側触媒層62の上に堆積させる。
【0034】
図6(B)は、ステップS125cにおいて中間層用粉体を堆積させる方法を模式的に示す説明図である。スクリーンS2は、触媒層用粉体300とMPL層用粉体600とが混合された中間層用粉体900が透過できる大きさの開口を透過面全体に有している。なお、MPL層用粉体600の平均粒子径(およそ6μm)は、触媒層用粉体300の平均粒子径(およそ2μm)に比べて大きいので、スクリーンS2の開口としては、MPL層用粉体600が透過可能な大きさであればよい。なお、スクリーンS2の素材は、前述のスクリーンS1(図6(A))と同様なものが利用可能である。このスクリーンS2を介して中間層用粉体900を落下させることで、カソード側触媒層62の上にカソード側中間層72が形成される。
【0035】
ステップS130c(図3)では、ステップS125cで形成されたカソード側中間層72上に、ステップS110で生成したMPL層用粉体600を堆積させてカソード側MPL層82を形成する。このとき、上述したステップS120c,125cと同様に、静電スクリーン方式によってMPL層用粉体600をスクリーンを介して落下させてカソード側中間層72の上に堆積させる。
【0036】
図6(C)は、ステップS130cにおいてMPL層用粉体600を堆積させる方法を模式的に示す説明図である。スクリーンS2は、図6(B)のスクリーンS2と同じである。このスクリーンS2を介してMPL層用粉体600を落下させることで、カソード側中間層72の上にカソード側MPL層82が形成される。
【0037】
ステップS135c(図3)では、カソード側MPL層82上に拡散層用基材を配置して、カソード側拡散基礎層92を形成する。ステップS140cでは、各層が形成されたカソード側をホットプレスする。以上の処理でMEA15のカソード側の各層が完成する。
【0038】
続いてアノード側について、ステップS120a〜140aを実行する。ここで、ステップS120aはステップS120cに対応する。同様に、ステップS125aはステップS125cに、ステップS130aはステップS130cに、ステップS135aはステップS135cに、ステップS140aはステップS140cに、それぞれ対応する。以上の手順を実行することにより、MEA15(図1)は完成する。そして、このMEA15をカソード側セパレータ16及びアノード側セパレータ17で挟み込み所定の荷重を加えることで燃料電池100を製造する。
【0039】
B.実施例:
図3に示した工程に従ってMEA15を製造し、このMEA15を用いて燃料電池100を製造した。ステップS105(図3)では、混合容器401(図4)に白金担持カーボン(白金担持50wt%)と、電解質としてのナフィオン(登録商標)と、水とエタノールとから成る混合溶媒に加えて攪拌して触媒層用スラリー500を生成した。このとき、触媒層用スラリー500の組成が以下となるように各部材を混合した。すなわち、白金担持カーボンは2.0wt%であり、電解質は1.0wt%,水は48.5wt%,エタノールは48.5wt%であった。また、以下の噴霧条件で、触媒層用スラリー500を噴霧乾燥させて触媒層用粉体300を生成した。すなわち、噴霧圧は0.1MPaであった。噴霧圧とは、アトマイザ414からチャンバー412内に触媒層用スラリー500を噴霧する際の圧力をいう。また、噴霧温度(入口部)は80℃であり、乾燥空気量は0.5m3/minであった。噴霧温度(入口部)とは、噴霧した触媒層用スラリー500を乾燥させるための乾燥空気をチャンバー412内に送り込む際の温度をいう。そして、アトマイザ414への触媒層用スラリー500の送液量は、10ml/minであった。このようにして生成された触媒層用粉体300の平均粒径は、およそ2μmであった。
【0040】
ステップS110(図3)では、混合容器400(図5)に球状ブラックと、撥水材としてのPVDFとを、溶媒としてのNMPに加えて拡散してMPL層用スラリー200を生成した。このとき、MPL層用スラリー200の組成が以下となるように各部材を混合した。すなわち、球状カーボンは5.0wt%,PVDFは5.0wt%,NMPは90.0wt%であった。そして、MPL層用スラリー200を、前述のステップS105におけるスプレー条件と同じ条件でスプレードライヤ410を用いてスプレーして、MPL層用粉体600を得た。生成されたMPL層用粉体600の平均粒径は、およそ6μmであった。
【0041】
ステップS120c(図3)では、スクリーンS1(図6(A))を用いて、白金含有密度が0.5mg/cm2となるように触媒層用粉体300を電解質膜50上に堆積させた。このとき、カソード側触媒層62の厚みはおよそ15μmであった。ステップS125c(図3)では、スクリーンS2(図6(B))を用いて、粉体の重量密度が0.5mg/cm2となるように中間層用粉体900を堆積させた。このとき、カソード側中間層72の厚みはおよそ5μmであった。ステップS130c(図3)では、スクリーンS2(図6(C))を用いて、粉体の重量密度が2.5mg/cm2となるようにMPL層用粉体600を堆積させた。このとき、カソード側MPL層82の厚みはおよそ40μmであった。
【0042】
ステップS140c(図3)では、面プレス機(図示省略)を用いて、以下の条件でホットプレスを行った。すなわち、温度を140℃とした。また、圧力を4MPaとし、加圧期間を4minとした。アノード側についても同じ条件でステップS120a〜S140aを実行した。そして、このようにして製造したMEA15(図1)を、カソード側セパレータ16とアノード側セパレータ17とで挟み込んで燃料電池100を構成した。
【0043】
図7は、本実施例において生成した燃料電池100のI(電流密度)−V(電圧)特性と、比較例で生成した燃料電池のI−V特性と、を示す説明図である。比較例の燃料電池(図示省略)は、燃料電池100と比べてMEAの構成が異なり、他の構成は燃料電池100と同じであった。具体的には、比較例の燃料電池では、2つの中間層72,73が省略されている。また、上述した本実施例における中間層72に含まれる触媒層用粉体300に相当する量の触媒層用粉体300が、カソード側触媒層62に加えて用いられている。また、上述した本実施例における中間層72に含まれるMPL層用粉体600に相当する量のMPL層用粉体600がカソード側MPL層82に加えて用いられている。すなわち、燃料電池100と比較例の燃料電池とで白金等の重量は等しくなるように構成した。
【0044】
図7の例では、上述した実施例及び比較例において製造したそれぞれの燃料電池を、以下の条件下で運転したI−V特性を得た。すなわち、アノード側の燃料ガス(水素ガス)の流量を500ncc/minとし、カソード側の酸化ガス(空気)の流量を1000ncc/minとした。また、セル温度を80℃とし、バブラ温度をアノード側及びカソード側のいずれも60℃とし、背圧をアノード側及びカソード側のいずれも0.05MPaとした。図7に示すように、同じ電流密度では、実施例の電圧値は、比較例における電圧値に比べて高い値を示していた。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、比較例における燃料電池では、触媒層とMPL層(拡散層)とが面で接することとなるため、実施例に比べて触媒層とMPL層(拡散層)との接触面積が小さい。したがって、実施例に比べて触媒層で生じた生成水の拡散基礎層への拡散や、ガスの拡散が滞ることとなる。これに対して、実施例の燃料電池100は、触媒層とMPL層とが、中間層を介して立体的に交じり合っているかのように構成されており、比較例に比べて触媒層とMPL層(拡散層)との接触面積大きい。したがって、比較例に比べて触媒層で生じた生成水の拡散基礎層への拡散が促され、高い排水性を得ることができる。その結果、フラッディングが抑制され、高電流密度領域で生じる濃度過電圧の増加が低減し、発電効率が向上したものと考えられる。
【0045】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0046】
C1.変形例1:
上述した実施形態では、触媒層用粉体300、MPL層用粉体600及び中間層用粉体900を堆積させるのに静電スクリーン方式を用いていたが、これに代えて、他の任意の堆積方式を採用することができる。例えば、スプレーにより粉体を吹き付けるスプレー方式や、帯電した粉体を所定パターンに帯電した感光ドラム上に静電付着させ、この感光ドラム上の粉体を転写する電子写真方式などを採用することもできる。すなわち、一般には、粉体を堆積させることが可能な任意の堆積方式を、本発明の燃料電池の製造において採用することができる。
【0047】
C2.変形例2:
上述した実施形態では、触媒層用粉体300及びMPL層用粉体600を生成するのに、スプレードライ法を用いていたが、これに代えて、他の方法を用いることができる。例えば、メカノケミカル法を採用することができる。メカノケミカル法では、導電性部材に機械的エネルギーを与えることで導電性部材同士を圧密結着させてガス拡散層用粉体を生成する。このようなメカノケミカル法を利用した粉体製造装置としては、例えば、ホソカワミクロン(株)のメカノフュージョンシステム(登録商標)や、(株)奈良機械製作所のメカノマイクロス(登録商標)等を用いることができる。
【0048】
C3.変形例3:
上述した実施形態では、2つの拡散基礎層92,93を除くMEA15を構成する各層は、いずれも粉体を堆積させて形成していたが、これらの各層のうち少なくとも一層を、他の方法により形成することもできる。例えば、カソード側触媒層62を形成するのに、触媒層用スラリー500を湿式塗布して乾燥させて形成することもできる。また、例えば、カソード側中間層72を形成するのに、触媒層用スラリー500とMPL層用スラリー200とを混合したスラリーを生成し、かかるスラリーを湿式塗布して乾燥させて形成することもできる。なお、この場合、触媒層用スラリー500を構成するエタノールについては、他の有機溶剤(エチレングリコール等)に置き換えることもできる。これらの構成においても、生成水を生じる触媒粒子(Pt等)と、排水性を高める撥水性部材(PVDF等)とが中間層において混じって存在することとなるので、触媒層や中間層に含まれる触媒で生じた生成水の排水性を高めることができる。なお、各層において、一部領域を粉体を堆積して形成し、他の領域をスラリーを湿式塗布して乾燥させて形成するなど、領域ごとに異なる方法で形成することもできる。すなわち、一般には、触媒層とガス拡散層との間に中間層を備え、中間層が触媒粒子と撥水性部材とを有する任意の構成を、本発明の燃料電池として採用することができる。
【0049】
C4.変形例4:
上述した実施形態では、MPL層用粉体600の平均粒子径は、触媒層用粉体300の平均粒子径に比べて大きくなるように構成されていたが、これに限らず、これら2種類の粉体の平均粒子径がほぼ同じである構成や、MPL層用粉体の平均粒子径が触媒層用粉体の平均粒子径に比べて小さくなる構成とすることもできる。
【0050】
C5.変形例5:
上述した実施形態では、2つの触媒層62,63における触媒は、白金(触媒粒子)をカーボンで担持して構成されていたが、他の任意の構成とすることができる。例えば、触媒粒子として白金に代えてパラジウムやイリジウム等の貴金属をはじめ、種々の金属、合金、酸化物を用いることができる。また、担持体として、カーボンに代えて、微粉末状で導電性を有し触媒に侵されない任意の物質(例えば、グラファイト、フラーレン、各種金属粉末等)を用いることができる。また、触媒粒子を担持体で担持せずに用いる構成とすることもできる。すなわち、一般には、触媒粒子を有する触媒層を本発明の燃料電池において用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図2】図1に示す領域Xの模式的な拡大図である。
【図3】図1に示すMEA15の製造手順を示すフローチャートである。
【図4】図3に示すステップS105の詳細手順を模式的に示す説明図である。
【図5】図3に示すステップS110の詳細手順を模式的に示す説明図である。
【図6】触媒層用粉体300、中間層用粉体、及びMPL層用粉体600をそれぞれ堆積させる方法を模式的に示す説明図である。
【図7】本実施例において生成した燃料電池100のI(電流密度)−V(電圧)特性と比較例で生成した燃料電池のI−V特性とを示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10…白金担持カーボン
15…電解質
16…カソード側セパレータ
17…アノード側セパレータ
18…酸化ガス流路
19…燃料ガス流路
20…球状カーボン
25…PVDF
45…白金担持カーボン
50…電解質膜
62…カソード側触媒層
63…アノード側触媒層
72…カソード側中間層
73…アノード側中間層
92…カソード側拡散基礎層
93…アノード側拡散基礎層
100…燃料電池
300…触媒層用粉体
400…混合容器
401…混合容器
410…スプレードライヤ
412…チャンバー
414…アトマイザ
500…触媒層用スラリー
600…MPL層用粉体
900…中間層用粉体
82…カソード側MPL層
83…アノード側MPL層
X…領域
W1〜W3…排出経路
S1…スクリーン
S2…スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
触媒粒子を有する触媒層と、
撥水性部材を有するガス拡散層と、
前記ガス拡散層と前記触媒層との間に配置され、前記撥水性部材と前記触媒粒子とが混在する中間層と、
を備える、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記触媒層は、前記触媒粒子を含む第1の粉体を用いて構成され、
前記ガス拡散層は、前記撥水性部材を含む第2の粉体を用いて構成され、
前記中間層は、前記第1の粉体と前記第2の粉体との混合物を用いて構成されている、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記第2の粉体の平均粒子径は、前記第1の粉体の平均粒子径よりも大きい、燃料電池。
【請求項4】
燃料電池の製造方法であって、
(a)触媒粒子を用いて触媒層を形成する工程と、
(b)前記触媒層の上に撥水性部材と前記触媒粒子とが混在する中間層を形成する工程と、
(c)前記撥水性部材を用いて、前記中間層の上にガス拡散層を形成する工程と、
を備える、燃料電池製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−193777(P2009−193777A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31766(P2008−31766)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】