説明

燃料電池用の電極、該電極を用いた燃料電池、及び該電極の製造方法

Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含むリン酸塩分子鎖からなる分散相と水からなる分散媒とを有するプロトン伝導ゲルと、触媒fを担持したカーボン粒子eとの混合物を作製し、該混合物を用いて電極形成した。かかるプロトン伝導ゲルは固体高分子電解質に比べ分子量が小さく、カーボン粒子eとの親和性も高いため、かかる電極aでは、プロトン伝導ゲルからなる電解質cがカーボン粒子eの凝集体b内の間隙gにまで浸入し、多くの三相界面を形成する。これにより触媒の利用効率の高い電極を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いる電極、該電極を備えた燃料電池、及び該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の種類によりいくつかに分類されるが、この中でも電解質膜に固体高分子を用いた固体高分子型燃料電池は、他のいずれの方式に比べても小型かつ高出力で、低温で作動するものであり、小規模オンサイト型、移動体(車載)用、携帯用の燃料電池として、次世代の主力とされている。固体高分子型燃料電池は実用開発段階に入り、試作、あるいはテスト段階で用いられている。この燃料電池の電解質膜には、化学的に安定で、室温でも高いプロトン伝導性を示すパーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部にパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を有するフッ素系高分子が用いられている。代表的なフッ素系高分子電解質として、ナフィオン(Nafion,登録商標)が知られている。
【0003】
一般的な固体高分子型燃料電池の主要部は、図4に示すように、電解質膜yと、その両面に接合される電極aと、該電極aの外側に接合されるカーボンペーパー等の集電体zとを一体化してなる膜電極接合体xにより構成される。
【0004】
燃料電池に用いる電極は、イオンが移動する経路としての電解質、電子が移動する経路としての導電体、及び電気化学反応を生じさせる触媒とからなり、その内部には、ガス(水素または酸素)の供給経路としての細孔が形成される。燃料極に水素、酸素極に酸素を供給した場合に、各電極で起こる電気化学反応(電極反応)を下記に示す。
燃料極:H→2H+2e
酸素極:1/2O+2H+2e→H
全反応:H+1/2O→H
【0005】
かかる反応は、ガス(水素または酸素)、プロトン(H)および電子(e)の授受を同時に行うことのできる三相界面(電解質と、触媒を担持した導電体と、細孔とが接する部分)でのみ進行可能である。また、この反応には触媒が不可欠であり、該三相界面の近傍に触媒が存在して初めて電極反応が起こる。
【0006】
具体的に説明すると、一般的な固体高分子型燃料電池の電極は、電解質として固体高分子が使用され、導電体としてはカーボン粒子が使われる。触媒は白金または白金を主成分とした合金からなりカーボン粒子に担持される。そして、触媒を担持した導電体と固体高分子電解質の溶液とを混合した後、層状に成形したり、該導電体の積層に固体高分子電解質溶液を含浸させたりして電極は製造される。かかる電極では、固体高分子電解質が、導電体の表面に付着し、カーボン粒子に担持された触媒を被覆することにより触媒近傍に三相界面構造を形成する。
【0007】
ところで、この固体高分子型燃料電池の電極では、触媒に白金(または白金合金)を用いているが、白金は希少元素で高価であり、触媒の材料費が電極の製造費の大きな割合を占めている。このため、少ない触媒量で、充分な電極反応を生じ得る、触媒の利用効率の高い電極の開発が盛んとなっている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−134996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の電極にあって、触媒の利用効率の改善を妨げる要因の一つに電極を構成する固体高分子電解質の問題がある。これを図1,2を用いて説明する。図1は固体高分子を電解質に用いた電極aの断面を示す概略模式図である。上述したように、電極aは、触媒を担持したカーボン粒子(導電体)eの凝集体bと、電解質cとからなり、内部にガスが通渦する細孔dが形成される。ここで、図示する凝集体bは、カーボン粒子e単体ではなく、カーボン粒子eが複数集合したものである。図2は、この凝集体bの内部を拡大して示す概略模式図である。このように、凝集体bは複数のカーボン粒子eにより構成されており、該凝集体bの外面に存する触媒fが直接電解質cと接触して三相界面を生成することとなる。一方、この凝集体b内部のカーボン粒子eにも触媒fが多数担持される。しかし、固体高分子電解質は分子量が大きいため、電解質cはカーボン粒子e間に形成される間隙g内に殆ど浸透することがない。したがって、従来の電極aでは、該凝集体bの内部の間隙gには僅かな三相界面しか存在せず、該間隙g内の触媒fの多くは電極反応に寄与することなく、無駄なものとなっていた。
【0009】
本発明は、かかる問題の解決を試みたものであり、触媒の利用効率の高い電極、及び該電極の製造方法、そして、該電極を用いた低廉で出力の高い燃料電池の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、燃料電池に用いられる電極であって、Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含むリン酸塩分子鎖からなる電解質と、触媒を担持した導電体とを有することを特徴とする電極である。
【0011】
かかるリン酸塩分子鎖からなる電解質は、本発明者らが以前、Chemisty Letters,820−821(2001)で報告したプロトン伝導性の「プロトン伝導ゲル」を原料とする。このプロトン伝導ゲルは、リン酸塩ガラスの粉末を常温で急速に水と反応させて得られる粘稠なゲル状のプロトン伝導体であって、溶融法によって得られたリン酸塩ガラスが水と反応することによりリン原子にOH基が結合してなる直鎖状構造又は/及び環状構造のリン酸塩分子鎖からなる分散相と、該リン酸塩分子鎖の各OH基の周囲に存在する水からなる分散媒とを有することを特徴とする。本発明者らは、このプロトン伝導ゲルの電極材料としての可能性に着目し、鋭意検討を行った結果、本発明に至った。
【0012】
プロトン伝導ゲルについて詳述すると、プロトン伝導ゲルは、Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含有したリン酸塩ガラスを粉末化し、これを水と反応させることにより得られる。このリン酸塩ガラスは、溶融法により、すなわちリン酸塩を溶融後、ガラス転移温度以下まで急冷することにより得られる。プロトン伝導ゲルを高収率で得るためには、プロトン伝導ゲルを構成するリン酸塩分子鎖が、リン酸をP換算で30〜75mol%の範囲で含有していることが望ましく、さらにはリン酸をP換算で40〜60mol%の範囲で含有しているとがより望ましい。一方、このリン酸塩分子鎖に含有するCaイオン、Mgイオン及びZnイオンのイオン合計量は、酸化物換算で25〜70mol%の範囲であることが望ましく、酸化物換算で40〜60mol%の範囲であることがより望ましい。
【0013】
そして、本発明の電極は、このプロトン伝導ゲルを電極の電解質材料として用いたものである。ここで、本発明の電極を構成する電解質は、プロトン伝導ゲルそのものであっても構わないし、プロトン伝導ゲルが熱処理等により乾燥して、分散媒であるリン酸塩分子鎖のみとなったものでも構わない。また、本発明の電極の電解質は、該リン酸塩分子鎖だけでなく、他の固体高分子電解質等との混合物であっても構わない。
【0014】
このプロトン伝導ゲルは、カーボン粒子との親和性が高く、また、プロトン伝導ゲル内のリン酸塩分子鎖は、種々の長さの直鎖状又は環状のリン酸塩分子鎖からなるが、その殆どは固体高分子電解質より低分子であるため、カーボン粒子の凝集体内に形成される間隙に浸透し易い。このため、本発明の電極では、従来の固体高分子電解質を用いた電極よりも多くの三相界面を形成することができる。すなわち、本発明の電極では、図3の概略模式図に示すように、凝集体bの内部の間隙g内に、多くの電解質cが浸入し、カーボン粒子eの表面に付着することとなり、凝集体b内部に存する触媒fの近傍に多くの三相界面が形成される。従って、本発明では、従来の電極で利用されることのなかった凝集体内の触媒が電極反応に用いられるため、触媒の利用効率が上昇することとなる。
【0015】
また、本発明の電極を構成する、リン酸塩分子鎖からなるプロトン伝導性の電解質はフッ素を含有しないため、合成時、廃棄時の環境への負荷が少ない。特に、従来のフッ素系固体高分子を電解質に用いた電極にあっては、特開昭61−138541に記載されるように、燃料電池の廃棄時に触媒に含まれる白金を回収する際に、該フッ素系固体高分子のために、電極を直接王水に浸漬して白金を溶かし出すことが困難であり、通常よりも複雑な回収方法を要していたが、本発明の電極はフッ素を含有させずに製造することが可能であり、電極を直接王水処理することにより白金を容易に回収し得る。
【0016】
本発明の電極内に形成される三相界面の量は、プロトン伝導ゲルの溶媒の量、溶媒の種類、電解質と導電体の比率、プロトン伝導ゲルの成分組成等によって調整される。例えば前記電解質と、導電体との構成割合は、電解質の割合が多すぎると、電極内の細孔部分が少なくなり、ガスの供給路を充分な確保するのが困難となる。一方で、電解質の構成割合が少なすぎると、電極内のプロトン伝導経路が減り、三相界面を作り難い。このため、電極内に充分な三相界面を形成するには、電解質と導電体との平均構成割合は、質量比で20:80〜80:20の範囲内であることが望ましい。さらに言えば、電解質と導電体との平均構成割合は、質量比で30:70〜70:30の範囲内であることがより望ましい。なお、かかる電解質の質量には水分は含めず、導電体の質量には担持した触媒の質量も含めるものである。
【0017】
本発明の電極の製造方法は、Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含むリン酸塩分子鎖からなる分散相と水からなる分散媒とを有するプロトン伝導ゲルと、触媒を担持した導電体との混合物を作製し、該混合物を用いて電極形成することを特徴とする。
【0018】
前記混合物は、上記プロトン伝導ゲルに、触媒を担持した導電体を十分に混練することにより得られる。この混合物内で、導電体とプロトン伝導ゲルが混じりあい、プロトン伝導ゲルのリン酸塩分子鎖が、カーボン粒子の凝集体の内部まで浸透することとなる。なお、プロトン伝導ゲルは、必要に応じて水や有機溶剤を加え希釈しておくとよい。また、かかる工程では、前記混合物に、他の電解質や撥水剤等を加えることも可能である。
【0019】
そして、電極形成は、カーボンペーパーや織物からなる集電体上、又は固体高分子等からなる電解質膜上に行う。すなわち、集電体若しくは電解質膜上に、該混合物を印刷または塗布するなどして、混合物を膜状に成形し、その後にこの膜状成形物を乾燥させて、混合物に含まれる水分や有機溶剤の一部または全てを除去することにより、電解質膜上又は集電体上に、内部に細孔を有する本発明の電極を形成する。なお、成形物を乾燥させる工程では、成形物を熱処理すれば強固な電極を短時間で得ることができる。この熱処理は130〜400℃の範囲内で実行すれば、電解質のリン酸塩分子鎖を大きく変質させることなく好適な電極を得ることができる。さらに言えば熱処理は150〜300℃の条件下で行うことがより望ましい。
【0020】
なお、本発明にかかる電極には、上記の電極形成のペーストにPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子を混合したり、上記の集電体へPTFEを塗布したりして撥水構造を形成するとよい。
【0021】
こうして製造した電極は、電解質膜上に形成したものは集電体と、集電体上に形成したものは電解質膜と加熱圧接し、電解質膜と集電体と一体化した電解質膜−電極接合体を形成する。この電解質膜−電極接合体は、従来の電解質膜−電極接合体と同様に、ガス流路溝が形成されたセパレータで挟持することにより燃料電池セルを構成し、燃料電池に組み込むことができる。なお、本発明の電極は、電解質膜の両面に接合する二枚の電極両方に用いることが望ましいが、一面だけに用いた構成でも構わない。そして、本発明の電極を電解質膜の少なくとも一面に接合した燃料電池では、触媒の利用効率が高いため、従来構成の電極のみを用いた燃料電池よりも、等量の触媒量でより高い出力を示し、また、少ない触媒量でも燃料電池として充分な出力が得ることが可能となる。
【0022】
なお、本発明の電極は、従来の固体高分子型燃料電池に限らず、低温で作動する燃料電池一般に利用可能である。例えば、本発明者らは、上述のプロトン伝導ゲルを電解質膜に用いた燃料電池も開発しているが、この燃料電池に本発明の電極を用いても高い出力が得られることを確認している。
【発明の効果】
【0023】
上述のリン酸塩分子鎖からなるプロトン伝導性の電解質を用いた本発明の電極では、電解質が、カーボン粒子の凝集体の内部に浸透して三相界面を形成しているため、従来の電極では無駄となっていた凝集体内部の触媒を電極反応に活用することができる。そして、かかる電極を用いた燃料電池では、電極の触媒量を減らすことにより、出力を維持したまま製造コストを低減することができ、一方、従来と等量の触媒量を用いた場合には、同じ触媒量でより高出力の燃料電池を実現できる。また、本発明の電極の電解質を構成するリン酸塩分子鎖は、フッ素を含有していないため、製造、廃棄時の環境負荷が少なく、触媒に含まれる白金も容易に回収し得る。
【0024】
かかる電極にあって、電解質と導電体との平均構成割合を、質量比で20:80〜80:20の範囲内とすれば、電解質と導電体とが適度な割合で混合することとなり、電極内に充分な三相界面が形成することができる。さらに、電解質と導電体との平均構成割合を、質量比で30:70〜70:30の範囲内とすれば、電極内により多量の三相界面が形成され、電極の触媒利用率を確実に向上させることができる。
【0025】
そして、上記プロトン伝導ゲルと、触媒を担持した導電体との混合物を作製し、該混合物を用いて電極形成する前記電極の製造方法にあっては、プロトン伝導ゲルを原料とする電解質と、触媒を担持した導電体とを混合し、導電体の凝集体内部まで電解質を好適に浸透させることができ、該凝集体内部に多くの三相界面を形成することができる。
【0026】
ここで、該混合物を膜状に成形した後に、130〜400℃で熱処理して電極形成する場合には、短時間で強固な電極を成形可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来構成の電極断面を拡大して示す概略模式図である。
【図2】従来構成の凝集体bの内部構成を拡大して示す概略模式図である。
【図3】本発明の凝集体bの内部構成を拡大して示す概略模式図である。
【図4】固体高分子型燃料電池の膜電極接合体xを示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
a 電極
b 凝集体
c 電解質
d 細孔
e カーボン粒子
f 触媒
g 間隙
x 膜電極接合体
y 電解質膜
z 集電体
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態を以下の実施例1〜3に従って説明する。
【実施例1】
【0030】
まず、本発明の電極である実施例電極1,2、及び比較用の電極である比較例電極1,2について説明する。
【0031】
正リン酸がP換算で48mol%の組成となるように、炭酸カルシウムと正リン酸の乾燥混合粉末を調製する。そして該乾燥混合粉末を電気炉中で、1300℃で0.5時間の熱処理を行い、溶融させる。その後、溶融物をカーボン板上に流し出し、室温まで急冷することによりリン酸カルシウムガラスを得た(溶融法)。このリン酸カルシウムガラスを乳鉢により粒子の直径が10μm以下になるまで粉砕する。そして、得られたガラス粉末をプラスチックシャーレに入れ、等重量の蒸留水を加えて攪拌した後、施蓋して乾燥を防いだ状態で約3日間室温放置することにより、リン酸塩分子鎖がリン酸をP換算で48mol%、カルシウムイオン量がCaO換算で52mol%からなる電解質50質量%と、分散媒の水50質量%からなるプロトン伝導ゲルAを得た。
【0032】
つづいて、プロトン伝導ゲルA17.3質量%に対しさらに分散媒のエチレングリコール82.7質量%加え、混練して、本発明の電極形成に使用するプロトン伝導ゲル希釈物Bを得た。
【0033】
カーボン粒子(Cabot社製 バルカンXC−72R)に、該カーボン粒子の重量に対して2/3倍量の白金(Pt)を触媒として担持させて、本発明の電極形成に使用する導電体Aとした。
【0034】
カーボンシート(東レ社製 TGP−H−060F T0.2mm×W110mm×L110mm、空隙率83%)に撥水処理を施し、本実施例に使用する集電体とした。
【0035】
プロトン伝導ゲル希釈物Bを2.2gと導電体Aを0.45gとを混練して、本発明の電極形成に使用するプロトン伝導ゲル希釈物Bと導電体Aとのペースト状の混合物を作製し、前記集電体面に該混合物をスクリーン印刷した後、大気中150℃で1時間熱処理し、混合物中のエチレングリコールの全て及び水の一部を除去し、集電体面にCaイオンを含むリン酸塩分子鎖からなるプロトン伝導性の電解質30質量%と、導電体A70質量%からなる本発明の実施例電極1を作製した。
【0036】
また、プロトン伝導ゲル希釈物B6.2gと導電体A0.23gとを混練し、本発明の電極形成に使用するプロトン伝導ゲル希釈物Bと導電体Aとのペースト状の混合物を作製し、実施例電極1と同様にして、前記集電体にCaイオンを含むリン酸塩分子鎖からなるプロトン伝導性の電解質70質量%と、導電体A30質量%からなる本発明の実施例電極2を作製した。
【0037】
25%の固体高分子電解質(ナフィオン)を含む溶液1.2g、と前記導電体A0.45gとを混合、混練し、固体高分子電解質と導電体Aとを含有するペースト状の混合物を作製した。この混合物を実施例電極1,2で用いた集電体に印刷した後、乾燥させて電極形成し、集電体面に固体高分子電解質40質量%と導電体A60質量%からなる比較例電極1を作製した。
【0038】
また、前記固体高分子電解質を含む溶液と導電体Aとの混合比率を変更し、以下は比較例電極1と同様の製造方法で、前記集電体に固体高分子電解質70質量%と、触媒を担持した導電体30質量%からなる比較例電極2を作製した。
【0039】
上記実施例電極1,2及び比較例電極1,2をそれぞれ25mm×25mmの大きさとして評価試験用試料とした。また、各電極のPt含有量を計測した結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
以下に上記実施例電極1,2及び比較例電極1,2の評価試験用試料を用いて作製した、本発明の燃料電池である実施例電池A〜D,及び比較例電池A,Bについて説明する。
【0042】
プロトン伝導ゲルAをPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内寸25mm×25mm、厚み0.8mmの容器に充填した後、乾燥させて、プロトン伝導ゲルAからなる電解質膜を作製した。
【0043】
前記電解質膜の両面に、実施例電極1の電極面を圧接して、電解質膜−電極接合体を作製した。この電解質膜−電極接合体を、ガス流路を有するセパレータで挟持して燃料電池セルを構成し、燃料極及び酸素極が実施例電極1からなる本発明の燃料電池である実施例電池Aを作製した。
【0044】
また、実施例電極1を実施例電極2に代える他は、実施例電池Aと同様にして、燃料極及び酸素極が実施例電極2からなる本発明の燃料電池である実施例電池Bを作製した。
【0045】
さらに、固体高分子膜(ナフィオン112)の両面に5%ナフィオン溶液を0.1mg/cm塗付し、70℃で30分間乾燥した後、その両面と実施例電極1の電極面とを160℃1分間の条件でホットプレスして接合した電解質膜−電極接合体を作製した。そして、実施例電池1と同様にして、この電解質膜−電極接合体により、燃料極及び酸素極が実施例電極1からなる本発明の燃料電池である実施例電池Cを作製した。
【0046】
また、実施例電極1を実施例電極2に代える他は、実施例電池Cと同様にして、燃料極及び酸素極が実施例電極2からなる本発明の燃料電池である実施例電池Dを作製した。
【0047】
比較例として、固体高分子膜(ナフィオン112)の両面と比較例電極1の電極面とを合わせ、160℃、1分間の条件で、ホットプレスし、電解質膜−電極複合体を作製した。そして、実施例電池Aと同様にして、燃料極及び酸素極が比較例電極1からなる比較用の燃料電池である比較例電池Aを作製した。
【0048】
また、比較例電極1を比較例電極2に代える他は、比較例電池Aと同様にして、燃料電池及び酸素極が比較例電極2からなる比較用の燃料電池である比較例電池Bを作製した。
【0049】
上記、実施例電池A〜D,比較例電池A,Bについて、電流−電圧特性を測定した。電流密度0.15A/cmにて得られた出力電圧を表2に示す。
【0050】
なお、測定条件は以下の通りである。
水素:0.1MPa(常圧)
酸素:0.1MPa(常圧)
流量:0.201/min
ガス加湿温度:35℃
電池作動温度:40℃
【0051】
【表2】

【0052】
この表2から明らかなように、本発明の電極を用いた実施例電池A〜Dにあっては、比較例電池A,Bよりも高い出力電圧を示した。特に、出力電圧の差はPt含有量(触媒量)の低い実施例電極2を用いた場合に顕著である。このように、本発明の電極を用いた燃料電池では、従来の電極を用いた燃料電池よりも高い出力を示し、また、触媒量を抑えたものでも出力の減少が少なく、充分に高い出力を得られることが分かる。
【実施例2】
【0053】
実施例1と同様のカーボン粒子にPtRu(Pt:Ru=64質量%:34質量%)を触媒として担持させて導電体B(PtRu触媒:カーボン粒子=61質量%:31質量%)を作製した。
【0054】
実施例1に記載したプロトン伝導ゲル希釈物B5.2gと、導電体B0.45gとを混練し、プロトン伝導ゲル希釈物Bと導電体Bとのペースト状の混合物を作製した。そして実施例電極1,2と同様にしてプロトン伝導性の電解質50質量%と、導電体B50質量%からなる実施例電極3を作製した。
【0055】
一方、25%の固体高分子電解質(ナフィオン)を含む溶液1.8gと前記導電体B0.45gとを混練し、固体高分子電解質と導電体Bとを含有するペースト状の混合物を作製した。この混合物を比較例電極1,2と同様にして、固体高分子電解質50質量%と、導電体B50質量%からなる比較例電極3を作製した。
【0056】
上記実施例電極3及び比較例電極3は、実施例1と同様に、それぞれ25mm×25mmの大きさとして評価試験用試料とした。また、各電極のPt含有量を計測した結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
次いで、固体高分子電解質膜(ナフィオン117)の両面に5質量%ナフィオン溶液を0.1mg/cm塗布し、70℃で30分間乾燥した後、その一方の面と実施例電極1とを、その反対面と電極3とをそれぞれ160℃、1分間の条件で、ホットプレスして接合した電解質膜−電極接合体を作製し、実施例1と同様にして、燃料極及び酸素極が、それぞれ実施例電極3と実施例電極1からなる本発明の燃料電池である実施例電池Eを作製した。
【0059】
また、固体高分子電解質(ナフィオン)膜の一方の面と比較例電極3とを、その反対面と比較例電極1とをそれぞれ160℃、1分間の条件で、ホットプレスして接合した電解質膜−電極接合体を作製し、実施例1と同様にして、燃料極及び酸素極が、それぞれ比較例電極3と比較例電極1からなる比較用の燃料電池である比較例電池Cを作製した。
【0060】
上記、実施例電池E、及び比較例電池Cについて、燃料極側にメタノール(CHOH)、酸素極側にOを供給し、それぞれの電流−電圧特性を測定した。出力電圧0.55Vにて得られた各電流値を表4に示す。
【0061】
測定条件は以下の通りである。
燃料極:50質量%CHOH+50質量%H
:0.10l/min
酸素極:O
:0.2MPa
:0.35l/min
ガス加湿温度:無加湿
電池作動温度:30℃
【0062】
【表4】

【0063】
この表4から明らかなように、本発明の電極を用いた実施例電池Eは、従来構成の電極を用いた比較例電池Dよりも高い出力を示している。かかる実施例電池Eと比較例電池Dに用いられる触媒量は略同じであるから、実施例電池Eは、比較例電池Dよりも、触媒の利用効率が高いことが分かる。このように本発明の電極は、燃料としてメタノールを燃料極側に供給した場合においても有効である。
【実施例3】
【0064】
実施例1で作製した実施例電池A、実施例電池C及び比較例電池Aを分解し、それぞれの電解質膜−電極接合体を取り出し、濃塩酸3容量と濃硝酸1容量の濃酸(王水)に入れ、60〜70℃の温度で2時間加熱した後、王水からPtの回収を行った。
【0065】
実施例電池A及び実施例電池Cについては、電解質膜−電極接合体が分解した。回収したPtの測定した結果、回収率{(回収したPt量)/(電極に使用したPt量)×100}はそれぞれ89%と72%であった。
【0066】
一方、比較例電池Aは、上述の王水処理でも電解質膜−電極接合体は分解せず、王水からのPtの回収率も1%未満であった。
【0067】
以上の結果により、燃料電池に用いた本発明の電極からは、電解質膜−電極接合体の焼却等を行うことなく、容易にPtを回収できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる電極であって、
Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含み、溶融法によって得られたリン酸塩ガラスが水と反応することによりリン原子にOH基が結合してなる直鎖状構造又は/及び環状構造のリン酸塩分子鎖からなる分散相と、該リン酸塩分子鎖の各OH基の周囲に存在する水からなる分散媒とを有するプロトン伝導ゲルからなるプロトン伝導性の電解質と、触媒を担持した導電体とを有することを特徴とする電極。
【請求項2】
前記電解質と前記導電体との平均構成割合が、質量比で20:80〜80:20の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記電解質と前記導電体との平均構成割合が、質量比で30:70〜70:30の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電極を、電解質膜の少なくとも一面に接合したことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含み、溶融法によって得られたリン酸塩ガラスが水と反応することによりリン原子にOH基が結合してなる直鎖状構造又は/及び環状構造のリン酸塩分子鎖からなる分散相と、該リン酸塩分子鎖の各OH基の周囲に存在する水からなる分散媒とを有するプロトン伝導ゲルと、触媒を担持した導電体との混合物を作製し、該混合物を用いて電極形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項6】
Caイオン、Mgイオン及びZnイオンの少なくとも一つを含むリン酸塩分子鎖からなる分散相と水からなる分散媒とを有するプロトン伝導ゲルと、触媒を担持した導電体との混合物を作製し、該混合物を膜状に成形した後に、130〜400℃で熱処理することにより電極形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/006470
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511560(P2005−511560)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009925
【国際出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(503070177)テクノ螺子工業株式会社 (10)
【出願人】(593218613)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】