説明

燃料電池用カソード圧力制御装置及び燃料電池用カソード圧力制御方法

【課題】制御上の全閉位置を実際の全閉位置に近づけて、カソードガス系の圧力を目標通りに制御できる燃料電池用カソード圧力制御装置を提供する。
【解決手段】空気極1b圧力を検出する圧力センサ3と、空気極1b内部の圧力を調整する圧力調整弁4と、圧力調整弁4の開度を検出する開度センサ5とを備え、圧力調整弁4が実際の全閉位置である時の開度センサ5の出力値を制御上の全閉位置とし、圧力センサ3の出力値と開度センサ5の出力値から制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断し、制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池のカソード圧力制御技術に関し、特に、圧力調整弁を用いて燃料電池のカソード内部の圧力を制御する燃料電池用カソード圧力制御装置及び燃料電池用カソード圧力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度などの環境変化によって内燃機関の電子制御式スロットル弁の開度センサに検出誤差が発生した場合の制御方法が盛んに研究されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、開度センサに検出誤差が発生した場合に生じるモータやその駆動回路が焼損するといった問題点を解決するための空気調圧弁制御方法が提案されている。特許文献1の空気調圧弁制御方法では、内燃機関の運転が停止したことを検出したときに、スロットル弁を全閉・全開に駆動して全閉位置・全開位置を学習することで、学習頻度を高くして精度を向上させている。
【0003】
また、全閉位置よりも所定角度開側へ全閉リミットを設定し、全開位置よりも所定角度閉側へ全開リミットを設定することで、多少スロットル開度センサに誤差が生じてもバルブを実際の全閉以上に閉めようとしたり実際の全開以上に開けようとしたりすることがなくなるように考慮している。
【特許文献1】特開2001−329867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の空気調圧弁制御方法を燃料電池の空気圧力制御弁の制御に適用した場合、以下のような問題点が発生する。即ち、燃料電池では、空気コンプレッサの効率向上及び水収支向上のため、空気圧力制御弁を機械的に全閉位置付近とし、空気流量を最低限に抑えることが望ましい。ところが、特許文献1に記載されているように全閉位置よりも所定角度開側へ全閉リミットを設定した場合、或いは、環境変化により制御上の全閉位置が開側へシフトした場合、空気流量を最低限に抑えることが困難となり、空気系の圧力を目標通りに制御することができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の特徴は、燃料電池のカソード内部の圧力を検出する圧力検出手段と、燃料電池のカソード下流に設けられた、カソード内部の圧力を調整する圧力調整弁と、圧力調整弁の開度を検出する弁開度検出手段と、圧力調整弁の閉方向の動きを制限する全閉位置制限手段と、圧力調整弁を全閉位置制限手段に接触させた時の弁開度検出手段の出力値を制御上の全閉位置とする制御上全閉位置決定手段と、圧力検出手段の出力値と弁開度検出手段の出力値から制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断する全閉位置異常判断手段と、全閉位置異常判断手段が制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断した時に、制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする全閉位置補正手段とを備える燃料電池用カソード圧力制御装置及び当該燃料電池用カソード圧力制御装置を用いた燃料電池用カソード圧力制御方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、圧力検出手段の出力値と弁開度検出手段の出力値から制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断し、制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とすることにより、制御上の全閉位置を実際の全閉位置に近づけることができるので、カソードガス系の圧力を目標通りに制御する燃料電池用カソード圧力制御装置及び燃料電池用カソード圧力制御方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図面の記載において同一あるいは類似の部分には同一あるいは類似な符号を付している。
【0008】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池用カソード圧力制御装置は、燃料電池スタック1(燃料電池)の空気極1b(カソード)内部の圧力を検出する圧力センサ3(圧力検出手段)と、燃料電池スタック1の空気極1b下流に設けられた圧力調整弁4と、圧力調整弁4の開度を検出する開度センサ5(弁開度検出手段)と、圧力調整弁4の閉方向の動きを制限する全閉位置制限手段と、圧力調整弁4の制御上の全閉位置を制御する制御部10と、空気極1bに空気を圧縮して供給するコンプレッサ2と、圧力調整弁4を駆動するモータ6と、熱媒体の温度を検出する熱媒体温度センサ7と、空気極1bに供給される空気の温度を検出する空気温度センサ8と、外気の温度を検出する外気温度センサ9とを備える。
【0009】
燃料電池スタック1は、水素ガスなどの燃料ガスが供給される燃料極1aと、酸化剤ガスとしての空気が供給される空気極1bと、燃料電池スタック1を冷却する熱媒体が流通する熱媒体流路1cとを備える。空気極1bには空気が流通する空気流路が配置され、燃料極1aには水素ガスが流通する燃料流路が配置され、燃料電池スタック1は供給される燃料ガスから空気を酸化剤として電気エネルギを取り出す。熱媒体は燃料電池内部の反応による熱を冷却する役目を担っている。圧力調整弁4は、その開度を操作することにより空気極1b内部の圧力を調整する機能を備える。
【0010】
圧力センサ3は、燃料電池スタック1の上流側に設けられている構成としたが、燃料電池スタック1内部もしくは下流の圧力調整弁4の上流でも構わない。熱媒体温度センサ7は熱媒体流路1cの上流側に配置されている。制御部10は、通常のコンピュータシステムからなり、各センサから受け取った各検出結果をもとにコンプレッサ2の回転数やモータ6の駆動力を制御する。
【0011】
なお、全閉位置制限手段については図2を参照して後述する。
【0012】
図2に示すように、図1の圧力調整弁4の内部には、圧力調整弁4の閉方向の動きを制限する全閉位置制限部11(全閉位置制限手段)と、圧力調整弁4の開方向の動きを制限する全開位置制限部12とが配置されている。全閉位置制限部11は、圧力調整弁4の実際の全閉位置において、これ以上圧力調整弁4が閉方向へ動かないように機械的に制限するストッパである。全開位置制限部12は、圧力調整弁4の実際の全開位置において、これ以上圧力調整弁4が開方向へ動かないように機械的に制限するストッパである。
【0013】
図3に示すように、制御部10は、制御上全閉位置決定部16(制御上全閉位置決定手段)と、全閉位置異常判断部13(全閉位置異常判断手段)と、全閉位置補正部14(全閉位置補正手段)と、空気量増量部15(カソードガス量増量手段)とを備える。
【0014】
制御上全閉位置決定部16は、圧力調整弁4を全閉位置制限部11に接触させた時、即ち圧力調整弁4が実際の全閉位置にある時の開度センサ5の出力値を制御上の全閉位置とする。
【0015】
全閉位置異常判断部13は、圧力センサ3の出力値と開度センサ5の出力値から制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたか否かを判断する。具体的には、全閉位置異常判断部13は、先ず、圧力センサ3の出力値と開度センサの出力値から空気の圧力が異常であるか否かを判定し、異常である場合、その原因が圧力調整弁4の制御上の全閉リミットが実際の全閉位置よりも開側へずれていることに起因しているのか、もしくは、漏れやコンプレッサ2の劣化などのその他の原因に起因しているのか判断する。
【0016】
全閉位置補正部14は、全閉位置異常判断部13が制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断した時に、制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする。
【0017】
空気量増量部15は、空気の圧力異常が漏れやコンプレッサ2の劣化などのその他の原因に起因していると判断した場合、空気量を所定量増量する。具体的には、制御上の全閉位置を変更する前に全閉指示を出したときの開度センサ5の出力値と、制御上の全閉位置を変更した後に全閉指示を出したときの開度センサ5の出力値とが実質的に同一の値である場合、変更後の制御上の全閉位置を変更前の制御上の全閉位置に戻し、空気の流量を増量する。
【0018】
次に、図4を参照して、図1に示した燃料電池用カソード圧力制御装置を用いたカソード圧力の制御方法について説明する。なお、図4のフローは所定の時間ごとに繰り返し実施される。
【0019】
(イ)先ずS1段階において、空気圧力の目標値TPと前回図4のフローを実施した時の空気圧力の目標値TPpの差の絶対値が所定値TPSLよりも大きいか否かを判定する。上記の差の絶対値が所定値TPSLよりも大きい場合(S1段階においてYES)、空気圧力の目標値が変化したと判定し、今後運転圧力が上昇もしくは減少する過渡運転状態となると判断し、過渡運転状態におけるバルブ開度異常判定を行うためにS10段階に進む。一方、上記の差の絶対値が所定値TPSL以下である場合(S1段階においてNO)、今後運転圧力が一定に保たれた定常状態となると判断し、定常運転状態におけるバルブ開度異常判定を行うためにS2段階に進む。
【0020】
(ロ)S2段階において圧力センサ3の出力Pを読み込み、S3段階において目標圧力TPと実際の圧力Pとの差が所定値PSLよりも小さいか否かを判定する。すなわち図5に示すような状況になっているか否かを判定する。図5は、目標圧力TP及び実際の圧力Pの時間変化を示し、目標圧力TPが実際の圧力Pよりも小さい場合を示している。目標圧力TPと実際の圧力Pとの差が所定値PSLよりも小さい場合(S3段階においてYES)良好に圧力制御ができているため問題なしと判断し、S9段階に進み、現在の目標圧力TPを前回の目標圧力TPpに置き換えて図4のフローを終了する。
【0021】
(ハ)目標圧力TPと実際の圧力Pとの差が所定値PSL以上である場合(S3段階においてNO)良好に圧力制御ができておらず目標圧力通りに圧力が上がっていないと判断し、S4段階に進み、圧力調整弁4の目標開度TGTVOが制御上の全閉位置(全閉リミット値LCTVO)となっているか否かを判定する。目標開度TGTVOが全閉リミット値LCTVOでない場合(S4段階においてNO)圧力調整弁4が開いている為に圧力が上がりきっていないと判定し、S9段階を実施して、図4のフローを終了する。その後は、一般的な圧力フィードバック制御を行っていれば圧力調整弁4が閉方向に制御されて圧力が上がることとなる。
【0022】
(ニ)一方、目標開度TGTVOが全閉リミット値LCTVOである場合(S4段階においてYES)全閉リミット値LCTVOが実際の全閉位置から開方向にずれている可能性があると判断し、S5段階に進み、開度センサ5の出力値を読み込み、S6段階において全閉リミット値LCTVOと比較し、圧力調整弁4の実際の開度(開度センサ5の出力値)も全閉リミット値LCTVO近傍となっていることを確認する。ここで、開度センサ5の出力誤差やビット誤差もあるので、ここでは微小値ASL分のずれは許容することとする。
【0023】
(ホ)圧力調整弁4の実際の開度が全閉リミット値LCTVO近傍となっている場合(S6段階においてNO)まだ圧力調整弁4は図2の全閉位置制限部11に当たっていない、即ち圧力調整弁4は実際の全閉位置でないと判断し、S7段階に進み、全閉リミット値LCTVOを所定量DTVOだけ小さくし、その後S9段階を実施して、図4のフローを終了する。
【0024】
(へ)圧力調整弁4の実際の開度が全閉リミット値LCTVO近傍となっていない場合(S6段階においてNO)、即ち、開度センサ5の出力値(圧力調整弁4の実際の開度)が全閉リミット値LCTVOよりも充分開方向に位置している場合、全閉リミット値LCTVOまで閉まるように指示しているにもかかわらず、全閉リミット値LCTVOまで閉まらないこととなり、既に全閉位置制限部11に接触していると判断する。すなわち、圧力異常は圧力調整弁4が閉まりきっていないからではないと判断し、S8段階に進み、所定量DTVO分全閉リミット値LCTVOをもどすとともに、フラグFLGTVOを1にして後述する空気量増量を行う準備をする。なお、フラグFLGTVOはシステム起動時に0としておくこととする。
【0025】
(ト)次に、過渡運転状態におけるバルブ開度異常判定を行うためにS1段階からS10段階に進んだ場合について説明する。現在の空気圧力の目標値TPと前回本フローを実施した時の空気圧力の目標値TPpとの差が所定値DTPよりも大きいか否かを判定する。所定値DTP以下である場合(S10段階においてNO)過渡運転ではあるが減圧運転であると判定し、S9段階を実施して本フローを終了する。現在の空気圧力の目標値TPと前回本フローを実施した時の空気圧力の目標値TPpとの差が所定値DTPよりも大きい場合(S10段階においてYES)昇圧運転であると判断し、S11段階に進み、タイマーTを始動するとともに後述するフラグFLGTVOmを0とする。
【0026】
(チ)S12段階において、現在の圧力調整弁4の目標開度TGTVOが制御上の全閉位置(全閉リミット値LCTVO)となっているか否か判定する。目標開度TGTVOが全閉リミット値LCTVOである場合(S12段階においてYES)S13段階に進み、圧力調整弁4が制御上の全閉位置となったことをあらわすフラグFLGTVOmを1に設定して、その後、S14段階に進む。一方、目標開度TGTVOが全閉リミット値LCTVOでない場合(S12段階においてNO)S14段階に直接進む。
【0027】
(リ)S14段階において圧力センサ3の出力値Pを読み込み、S15段階において現在の圧力目標値TPとの差の絶対値が所定値TPSL未満であるか否かを判定する。現在の圧力目標値TPとの差の絶対値が所定値TPSL未満である場合(S15段階においてYES)、長時間かからずに目標圧力に達した、即ち圧力異常はなく圧力調整弁4の開度に異常は認められないと判断し、S20段階に進み、S11段階で始動したタイマーTをリセットして本フローを終了する。
【0028】
(ヌ)現在の圧力目標値TPとの差の絶対値が所定値TPSL以上である場合(S15段階においてNO)、S16段階に進み、タイマーの値Tが所定時間TSLを超えたか否かを判定する。タイマーの値Tが所定時間TSLを超えていない場合(S16段階においてNO)S12段階に戻り、繰り返し図4のフローを実行する。一方、タイマーの値Tが所定時間TSLを超えている場合(S16段階においてYES)調圧不良と判断し、即ち図6に示す「異常」の状況であると判定し、S17段階に進む。そして、フラグFLGTVOmが1となっているか、即ち昇圧制御中に圧力調整弁4の開度が全閉リミット値LCTVOとなったことがあるか否かを判定する。
【0029】
(ル)昇圧制御中に圧力調整弁4の開度が全閉リミット値LCTVOとなったことがない場合(S17段階においてNO)全閉リミット値LCTVOが開側にすれたことが調圧不良の原因ではないと判断し、S18段階に進み、フラグFLGTVOを1にして後述する空気量増量を行う準備をする。その後、S20段階に進む。昇圧制御中に圧力調整弁4の開度が全閉リミット値LCTVOとなったことがある場合(S17段階においてYES)調圧不良の原因は全閉リミット値LCTVOが開側にずれたためと判断し、S19段階に進み、全閉リミット値LCTVOを所定量DTVOだけ閉側へ変更する。S18及びS19段階の後、S20段階に進み、タイマーTをリセットし、S9段階を実施して本フローを終了する。
【0030】
なお、図6に示す昇圧制御中の空気圧力の時間変化において、「目標」は最も望ましい空気圧力の時間変化であり、2値関数となる。「正常」は「目標」に対して一定時間の遅れをもって空気圧力が上昇している。「異常」は「正常」に対して更に一定時間の遅れをもって空気圧力が上昇している。
【0031】
図4のフローを実施することで、定常運転状態若しくは過渡運転状態で圧力異常があった場合、圧力調整弁4の全閉リミット値LCTVO(制御上の全閉位置)が開側へずれたために起こったのか別の原因なのか判定し、全閉リミット値LCTVOのずれが原因であれば全閉リミット値LCTVOを閉側へ修正できるとともに、別の原因であれば空気量増量を行う準備をすることができる。
【0032】
次に、図7を参照して、図3の空気量増量部15による空気量増量の制御の流れを説明する。
【0033】
(A)S31段階において、フラグFLGTVOが1であるか否かを判定する。フラグFLGTVOが1である場合(S31段階においてYES)空気増量を行うと判断し、S32段階に進む。フラグFLGTVOが1でない場合(S31段階においてNO)空気増量を行わないと判断し、そのまま図7のフローを終了する。
【0034】
(B)S32段階において、現在の空気流量目標値TGAGに所定倍率kを掛け合わせたものを新たな空気流量目標値TGAGとして、図7のフローを終了する。
【0035】
図7に示すフローが終了した後、図3の空気量増量部15は、空気流量目標値TGAGに合致する空気の流量を確保するためのコンプレッサ2の回転数を制御する。図7に示すフローを実施することで、圧力調整弁4の全閉リミット値LCTVOが開側へずれたために起こった調圧不良でない場合でも、運転継続不能によるシステム停止など起こすことなく運転を継続することが可能となる。
【0036】
以上説明したように、圧力センサ3の出力値と開度センサ5の出力値から全閉リミット値LCTVO(制御上の全閉位置)が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断し、全閉リミット値LCTVOから所定量DTVO(所定角度)減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする。このことにより、制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを検出することができ、制御上の全閉位置を実際の全閉位置に近づけることができるので、カソードガス系の圧力を目標通りに制御することができるという効果を奏する<請求項1及び2の効果>。
【0037】
開度センサ5の出力が実質的に制御上の全閉位置であり、かつ、圧力センサ3の出力値が目標圧力未満である場合、全閉リミット値LCTVOが実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断するため、定常運転中の弁開度と圧力の検出値から、制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを確実に判断でき、新たな手段を追加することなく、ずれを検出することができるという効果を奏する<請求項3の効果>。
【0038】
燃料電池システム内圧力を昇圧する際、昇圧制御を開始してから目標圧力となるまでの時間が所定時間以上であり、かつ、昇圧制御中に開度センサ5の出力値が全閉リミット値LCTVOとなる場合、全閉リミット値LCTVOが実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断するため、過渡運転中の弁開度と圧力の検出値から、全閉リミット値LCTVOが実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断でき、新たな手段を追加することなく、ずれを検出することができるという効果を奏する。請求項3に係わる発明と併用することで定常及び過渡であってもずれを検出できるようになるため、検出機会及び修正機会が増えるので、圧力制御性をさらに向上することができるという効果を奏する<請求項4の効果>。
【0039】
全閉リミット値LCTVOを変更する前に全閉指示を出したときの開度センサ5の出力値と、全閉リミット値LCTVOを変更した後に全閉指示を出したときの開度センサ5の出力値とが実質的に同一の値である場合、変更後の全閉リミット値LCTVOを変更前の全閉リミット値LCTVOに戻し、カソードガスの流量を増量する。これにより、空気系の圧力が制御不良となった原因は全閉リミット値LCTVOが実際の全閉位置よりも開方向へずれていることに起因しないと判断することができる。また同時に、そのような場合でも空気流量を増量して圧力を目標圧力とすることができるため、燃料電池スタック1の破損や燃料電池スタック1の保護のためのシステム停止を回避することができるという効果を奏する<請求項5の効果>。
【0040】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態では、図8を参照して、全閉位置異常判断部13及び全閉位置補正部14による制御手順の実施例を説明する。なお、図8は、図4と同じ部分は重複した記載を避け、異なる段階のみを示し、説明を省略する。
【0041】
(イ)図4のS6段階でNOと判定された場合、S41段階に進み、熱媒体温度センサ7が検出する熱媒体の温度Thを読み込み、S42段階において、全閉リミット値LCTVOを所定量DTVO閉側へ修正した時の熱媒体の温度Thpと比較して、温度Thから温度Thpへの変化量が基準値SLThよりも大きいか否かを判断する。基準値SLThよりも大きい場合(S42段階においてYES)S43段階に進み、全閉リミット値LCTVOを所定量DTVO閉側へ修正した時の熱媒体の温度Thpを熱媒体温度センサ7が検出する熱媒体の温度Thに設定する。その後、全閉リミット値LCTVOを所定量DTVO閉側へ修正するために図4のS7段階に進む。
【0042】
(ロ)一方、基準値SLTh未満である場合(S42段階においてNO)、熱媒体の温度に変化がなく、圧力異常は全閉リミット値LCTVOが開側へずれたために起こったのではないと判断し、S44段階に進む。S44段階においてフラグFLGTVOを1に設定して空気量増量を行う準備をして図4のS9段階に進む。図8のフローを実施することで、温度変化の少ないときは全閉リミット値LCTVOは開方向にずれることは無いので、これが原因で圧力異常が起きているわけではないと判断し、むだな全閉リミット値LCTVOの変更制御を行わないで済む。
【0043】
以上説明したように、燃料電池スタック1の温度を調整する熱媒体の温度Thから開度センサ5の温度を予測する。これによって、新たな検出手段を設けることなく開度センサ5の温度を把握することができるという効果を奏する<請求項7の効果>。
【0044】
開度センサ5の温度が所定温度以上変化した場合(S42段階においてYES)のみ全閉リミット値LCTVOの変更を許可する構成を有する。実際の全閉位置と制御上の全閉位置のずれは温度の影響が支配的と考えられるため、本構成としておけば実施しなくてもいい制御の実行を回避することができる<請求項6の効果>。
【0045】
なお、熱媒体の温度Thの代わりに、燃料電池スタック1内の空気の温度又は外気の温度から開度センサ5の温度を予測しても構わない。即ち、熱媒体の温度Th、燃料電池スタック1内の空気の温度、外気の温度のうち少なくとも1つから開度センサ5の温度を予測すればよい。
【0046】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態では、図9を参照して、全閉位置異常判断部13及び全閉位置補正部14による制御手順の実施例を説明する。なお、図9は、図4と同じ部分は重複した記載を避け、異なる段階のみを示し、説明を省略する。
【0047】
(A)図4のS6段階でNOと判定された場合、S51段階に進み、システム起動からの経過時間TIMEを読み込む。経過時間TIMEはシステム起動時にタイマーを起動しておけばよい。S52段階において、経過時間TIMEが所定時間SLTIMEよりも小さいか否かを判断する。経過時間TIMEが所定時間SLTIMEよりも小さい場合(S52段階においてYES)システム起動からの経過時間TIMEが短く、開度センサ5の温度も変化中であるため全閉リミット値LCTVOが変化する可能性は大きいとして全閉リミット値LCTVOを閉側へ修正するステップであるS7段階に移行する。
【0048】
(B)経過時間TIMEが所定時間SLTIME以上である場合(S52段階においてNO)システム起動から充分に時間が経過しており、開度センサ5の温度はほぼ一定となっているため全閉リミット値LCTVOが変化する可能性は低いと判断する。よって、全閉リミット値LCTVOを閉側へ修正するステップであるS7段階に進まずに、S53段階に進む。そして、フラグFLGTVOを1に設定して、空気量増量を行う準備をし、図4のS9段階を実施する。
【0049】
システム起動から十分時間が経過したあとは、開度センサ5の温度変化が少ないと考えられ、全閉リミット値LCTVOが開側へ変化しないと考えられる。よって、図9のフローを実施することにより、システム起動から十分時間が経過したあとは、開度センサ5の温度変化が少なく、全閉リミット値LCTVOが開側へ変化しないと判断して、全閉リミット値LCTVOの修正を回避することができ、むだな制御の実行を開始することが可能となる。
【0050】
以上説明したように、燃料電池システムの運転開始から所定時間経過後は全閉リミット値LCTVOの変更を禁止する構成とする。燃料電池システム運転開始から所定時間経過後は開度センサ5の温度は大きく変化しないと考えられるため、本構成によりむだな制御の実施を回避することができるという効果を奏する<請求項8の効果>。
【0051】
本発明の第1乃至第3の実施の形態によれば、以下に示すような、特許文献1に記載された従来技術が有する問題点を解決することが出来る。
【0052】
特許文献1に記載された内燃機関のスロットルを燃料電池システムの空気圧力制御弁として使用する場合、全閉付近の単位角度誤差あたりの圧力への影響は大きい。
【0053】
燃料電池システムを停止した瞬間はシステムが暖かく当然、開度センサ5も暖かい。そのため燃料電池システムを停止した瞬間に学習した値は冷間始動時には大きな誤差を持つ場合がある。
【0054】
例えば、図10(a)に示すように制御上の全閉リミット(制御上の全閉位置)が実際の全閉位置よりも閉側へずれた場合、実際の全閉位置以上に閉めようと制御してしまう。これにより、圧力調整弁4の実際の全閉位置と制御上の全閉リミットに差が生じ、実際の全閉位置以上に圧力調整弁4を閉めようとモータ6にトルクを加える。その結果、モータ6や駆動回路の焼損を招く場合があった。
【0055】
或いは、図10(b)に示すように全閉リミット値(制御上の全閉位置)が実際の全閉位置よりも開側へずれた場合、微小開度付近を使用できないという問題が発生する。特許文献1の制御方法のように制御上の全閉リミットを実際の全閉位置から所定角度開側に設定する場合は、実際の全閉位置以上に閉めようとする制御を回避するためには有効と考えられるが、微小角度付近を使用できないという問題点に関しては問題点を大きくすることとなる。
【0056】
このように、冷間始動まで考慮すると、機関停止時に学習しているだけでは問題点を解決できていないことになる。一方、燃料電池での問題点は微小開度付近を使用できない場合も大きい。なぜなら、燃料電池では高効率化や内部の湿度保持のため空気流量は必要最小限に制御しているが、それでも所定圧力まで昇圧する必要があるため圧力調整弁4の開度は全閉に近い非常に小開度が要求される場合がある。すなわち、小開度部が使用できないと空気極1bの圧力を所定圧力まで昇圧できなくなり、燃料極1aとの差圧が大きくなる結果、燃料電池スタック1が破損する場合があった。
【0057】
本発明の第1乃至第3の実施の形態によれば、圧力センサ3の出力値と開度センサ5の出力値から制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断し、制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とすることにより、制御上の全閉位置を実際の全閉位置に近づけることができるので、カソードガス系の圧力を目標通りに制御することができ、上記問題点を解消することが出来る。
【0058】
上記のように、本発明は、第1乃至第3の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池用カソード圧力制御装置を示すブロック図である。
【図2】図1の圧力調整弁の内部の詳細な構成を示す断面図である。
【図3】図1の制御部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係わる燃料電池用カソード圧力制御方法を示すフローチャートである。
【図5】目標圧力TP及び実際の圧力Pの時間変化を示すグラフである。
【図6】昇圧制御中の空気圧力(運転圧力)の時間変化を示すグラフである。
【図7】図3の空気量増量部による空気量増量の制御手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係わる、全閉位置異常判断部及び全閉位置補正部による制御手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係わる、全閉位置異常判断部及び全閉位置補正部による制御手順を示すフローチャートである。
【図10】図10(a)は全閉リミット値が全閉位置制限部で制限される実際の全閉位置よりも閉側にずれた状態をしめす簡略図であり、図10(b)は全閉リミット値が全閉位置制限部で制限される実際の全閉位置よりも開側にずれた状態をしめす簡略図である。
【符号の説明】
【0060】
1…燃料電池スタック
1a…燃料極
1b…空気極
1c…熱媒体流路
2…コンプレッサ
3…圧力センサ(圧力検出手段)
4…圧力調整弁
5…開度センサ(弁開度検出手段)
6…モータ
7…熱媒体温度センサ
8…空気温度センサ
9…外気温度センサ
10…制御部
11…全閉位置制限部(全閉位置制限手段)
12…全開位置制限部
13…全閉位置異常判断部(全閉位置異常判断手段)
14…全閉位置補正部(全閉位置補正手段)
15…空気量増量部
16…制御上全閉位置決定部(制御上全閉位置決定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のカソード内部の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記燃料電池のカソード下流に設けられた、前記カソード内部の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記圧力調整弁の開度を検出する弁開度検出手段と、
前記圧力調整弁の閉方向の動きを制限する全閉位置制限手段と、
前記圧力調整弁を前記全閉位置制限手段に接触させた時の前記弁開度検出手段の出力値を制御上の全閉位置とする制御上全閉位置決定手段と、
前記圧力検出手段の出力値と前記弁開度検出手段の出力値から前記制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断する全閉位置異常判断手段と、
前記全閉位置異常判断手段が前記制御上の全閉位置が前記実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断した時に、前記制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする全閉位置補正手段
とを備えることを特徴とする燃料電池用カソード圧力制御装置。
【請求項2】
燃料電池のカソード内部の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記燃料電池のカソード下流に設けられた、前記カソード内部の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記圧力調整弁の開度を検出する弁開度検出手段と、
前記圧力調整弁の閉方向の動きを制限する全閉位置制限手段とを備える装置を用いて前記燃料電池のカソード圧力を制御する方法であって、
前記圧力調整弁を前記全閉位置制限手段に接触させた時の前記弁開度検出手段の出力値を制御上の全閉位置とし、
前記圧力検出手段の出力値と前記弁開度検出手段の出力値から前記制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断し、
前記制御上の全閉位置から所定角度減算した値をあらたに制御上の全閉位置とする
ことを特徴とする燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項3】
前記圧力検出手段の出力値と前記弁開度検出手段の出力値から前記制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断することは、前記弁開度検出手段の出力値が実質的に前記制御上の全閉位置であり、かつ、前記圧力検出手段の出力値が目標圧力未満である場合、前記制御上の全閉位置が前記実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断することであることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項4】
前記圧力検出手段の出力値と前記弁開度検出手段の出力値から前記制御上の全閉位置が実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断することは、燃料電池システム内圧力を昇圧する際、昇圧制御を開始してから目標圧力となるまでの時間が所定時間以上であり、かつ、前記昇圧制御中に前記弁開度検出手段の出力値が制御上の全閉位置となる場合、前記制御上の全閉位置が前記実際の全閉位置から開方向にずれたことを判断することであることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項5】
前記制御上の全閉位置を変更する前に全閉指示を出したときの前記弁開度検出手段の出力値と、前記制御上の全閉位置を変更した後に全閉指示を出したときの前記弁開度検出手段の出力値とが実質的に同一の値である場合、変更後の前記制御上の全閉位置を変更前の前記制御上の全閉位置に戻し、カソードガスの流量を増量することを特徴とする請求項2乃至4何れか1項に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項6】
前記弁開度検出手段の温度が所定温度以上変化した場合のみ、前記制御上の全閉位置の変更を許可することを特徴とする請求項2乃至5何れか1項に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項7】
前記燃料電池の温度を調整する熱媒体の温度、前記燃料電池内のカソードガスの温度、外気の温度の少なくとも1つから前記弁開度検出手段の温度を予測することを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。
【請求項8】
燃料電池システムの運転開始から所定時間経過後は前記制御上の全閉位置の変更を禁止することを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用カソード圧力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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