説明

燃料電池用ガスケット及び燃料電池のシール構造

【課題】組付け時の取扱性に優れ、メンテナンスコスト等の増大をもたらさず、また信頼性の高いシール性能を備えた新規な燃料電池用ガスケット及びこれを用いた燃料電池のシール構造を提供する。
【解決手段】スタック部材2,3のシール対象部位21,31に沿った形状に形成された板状のフレーム体11と、該フレーム体11のシール側端縁部111に連結部12を介して固着一体に形成された弾性材製のシール部13とよりなり、当該燃料電池用ガスケット1を前記シール対象部位に配して前記スタック部材を所定の積層状態とした時には、両スタック部材のシール対象部位間に所定のクリアランスCが形成され、前記シール部は該クリアランスに圧縮状態で介在されるよう構成され、前記シール部の厚みD1は前記フレーム体の厚みD2より大とされ、且つ、前記連結部の厚みD3は前記フレーム体の厚みD2より小とされ、前記連結部は弾性材からなり、前記フレーム体における前記シール側端縁部の全周に亘って形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のスタック部材を積層して構成される燃料電池における隣接するスタック部材、例えばセパレータ間に介装される燃料電池用ガスケット及びこれを用いた燃料電池のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような燃料電池は、一対のセパレータ間に膜−電極複合体(MEA)を挟装したセルモジュールを多数積層してスタックとなし、このスタックの積層方向両端部に集電板を配し、これらをボルト・ナット等によって積層方向に締結一体として構成される。この締結一体状態における隣接するセルモジュール間では、それぞれのセパレータが背面同士で合体される。このセパレータ同士の合体面には、冷媒(水或いはエチレングリコールなど)の流路が形成される。また、各セルモジュールにおける一対のセパレータは、MEAを挟装した状態でその周縁部分が互いに合体される。そして、MEAの挟装部分の一方の面とセパレータとの間には水素ガスの流路が、他方の面とセパレータとの間には酸素ガスの流路が形成される。これら各機能媒体の流路は、前記スタックを積層方向に貫設された各媒体毎の供給用及び排出用マニホールドと連通するよう構成される。その為、前記スタックを構成するスタック部材(セパレータ、MEA)の各合体部分における前記マニホールド孔回り及び外周部分にはガスケットが介装され、これら機能媒体の外部漏出及び相互の混合干渉等の防止が図られるようになされている。前記のようなガスケットとしては、単体の所謂ラバーガスケット、セパレータに一体とされたガスケット、MEAに一体とされたガスケット(例えば、特許文献1参照)、更には、フレーム付のガスケット(例えば、特許文献2及び3参照)等に類別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−7328号公報
【特許文献2】特許第4066117号公報
【特許文献3】特許第3953771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記ラバーガスケットを用いる場合、ラバー(ゴム)単独の成型体である為軟弾性があり、組付時に捩れて脱落することがあるなど、作業性が悪く、また、装着部位の形状や経時的な相手部材の形状変化によって位置移動し、シール性能が低下する原因となることがある。また、セパレータに一体とされたガスケットや、特許文献1に示されたようなMEAに一体とされたガスケットの場合、セパレータやMEAにガスケットを一体とする為に接着剤が用いられるが、接着剤として前記冷媒や生成水に対する耐久性が求められ、接着剤の選択肢が制約されると共に、セパレータやMEAの強度或いは耐熱性を満たす加工条件にも適合する接着剤及びゴム材料の選択が必要とされる。加えて、セパレータやMEA毎にガスケットを一体化しなければならない為、その作製コストが嵩む上に、劣化したセルモジュールを交換する場合、隣接するセルモジュールのガスケットのみを交換することができず、隣接するセルモジュールも交換する必要があり、メンテナンスコストも嵩むことになる。
【0005】
また、特許文献2に開示された燃料電池用ガスケットの場合、フレーム体(特許文献2ではガスケット本体)の両面にシール部が配置形成されている為、シール部の反力が大きくなり、相手部品の製造公差が大きい場合等において、高圧縮での使用が難しいという欠点がある。また、特許文献3には、フレーム体(特許文献3では薄形キャリア)とシール部との間に隙間を形成し、これを柔軟な連結部で部分的に繋いだ燃料電池用ガスケットが開示されている。この場合、シール部はフレーム体に対して部分的に配される連結部で連結されているだけであるから、圧縮時に、平面方向(シール面方向)に変形し易く、その為シール部の圧縮量が不足し、低圧縮でのシールが困難となる欠点がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、組付け時の取扱性に優れ、メンテナンスコスト等の増大をもたらさず、また信頼性の高いシール性能を備えた新規な燃料電池用ガスケット及びこれを用いた燃料電池のシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る燃料電池用ガスケットは、多数のスタック部材を積層して構成される燃料電池における隣接するスタック部材間に介装される燃料電池用ガスケットであって、前記スタック部材のシール対象部位に沿った形状に形成された板状のフレーム体と、該フレーム体のシール側端縁部に連結部を介して固着一体に形成された弾性材製のシール部とよりなり、当該燃料電池用ガスケットを前記シール対象部位に配して前記隣接するスタック部材を所定の積層状態とした時には、両スタック部材のシール対象部位間に所定のクリアランスが形成され、前記シール部は該クリアランスに圧縮状態で介在されるよう構成され、前記シール部の厚みは前記フレーム体の厚みより大とされ、且つ、前記連結部の厚みは前記フレーム体の厚みより小とされ、前記連結部は弾性材からなり、前記フレーム体における前記シール側端縁部の全周に亘って形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の燃料電池用ガスケットにおいて、前記フレーム体の厚みは、前記クリアランスより小とされているものとしても良い。また、前記シール部及び連結部が、同材質の弾性体による一体成型体からなるものとしても良い。
【0009】
本発明の燃料電池用ガスケットにおいて、前記フレーム体が、前記スタック部材の所定の位置に位置付ける為の位置決手段を備え、該位置決手段が前記フレーム体の外周縁部に外向きに突設された突起からなるものとしても良い。この場合、前記突起が、前記フレーム体と同材質の部材からなり、該フレーム体に一体に形成されているもの、或いは、弾性体からなり、前記フレーム体に固着一体に形成されているものが望ましく採用される。
【0010】
本発明の燃料電池用ガスケットにおいて、前記隣接するスタック部材が、セパレータであり、前記所定のクリアランスを以って積層されたときには、両セパレータ間に機能媒体の流路が形成されるものとしても良い。
【0011】
第2の発明に係る燃料電池のシール構造は、前記いずれかの燃料電池用ガスケットを用いた燃料電池のシール構造であって、前記隣接するスタック部材の前記シール対象部位に当該燃料電池用ガスケットを介装し、前記多数のスタック部材を所定の積層状態とし、前記シール対象部位間に前記シール部を圧縮状態で介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係る燃料電池用ガスケット、或いは、第2の発明に係る燃料電池のシール構造において、当該燃料電池用ガスケットは、燃料電池を構成するスタック部材のシール対象部位に沿った形状に形成された板状のフレーム体と、該フレーム体のシール側端縁部に連結部を介して固着一体に形成された弾性材製のシール部とよりなる。そして、該燃料電池用ガスケットは、前記隣接するスタック部材のシール対象部位に介装され、各スタック部材が所定の積層状態の時には、形成される所定のクリアランスに前記シール部が圧縮状態で介在される。シール部の厚みは、フレーム体の厚みより大とされているから、シール部の圧縮時において、フレーム体が圧縮されず、或いはフレーム体に負荷がかからず、従って、この介在状態ではシール部の圧縮反力がシール対象部位間に作用し、これによってシール対象部位間が好適にシールされる。また、積層されたスタック部材(或は、前記セルモジュールも含む)のうちの損傷したスタック部材を交換する場合、隣接するスタック部材を交換することなく、同時に当該燃料電池用ガスケットも交換することができるから、メンテナンスコストの低減化も図ることができる。
【0013】
また、前記連結部は、前記シール側端縁部の全周に亘り形成されているから、シール部は、連結部を介してフレーム体によってその形状が保持され、前記シール対象部位に配する場合等に、捩れたりシール部が噛み込んだりすることがなく、組付時のハンドリング性が向上する。更には、シール部が弾性体によって構成され、芯材が介在しないため、シール部の圧縮率を高く設定することができる。従って、熱膨張収縮によるシール箇所の口開きを低減でき、また、製造公差の大きいスタック部材に対しても使用可能となる。加えて、連結部が弾性材からなり、その厚みがフレーム体の厚みより小とされているから、シール部の圧縮の際におけるシール部の変形移動を吸収し、この変形移動がフレーム体にまで及ばないようにすることができる。
尚、ここでの所定の積層状態とは、多数のスタック部材を積層してこれらを積層方向に締結して燃料電池を構成する場合、各スタック部材の厚み、締結度合、全体寸法等を勘案した設計上の概念である。また、所定のクリアランスとは、前記所定の積層状態において、シール部の適正な締め代等を勘案して設定されるシール対象部位間の設計上のクリアランスである。
【0014】
第1或いは第2の発明において、前記フレーム体の厚みが前記クリアランスより小とされている場合、スタック部材を所定の積層状態とする際にフレーム体が障害とならず、シール部の圧縮が適正になされ、シール対象部位間における所期のシール性が的確に発揮される。特に、前記隣接するスタック部材が、セパレータであり、前記所定のクリアランスを以って積層されたときに、両セパレータ間に機能媒体の流路が形成されるものに適用した場合には、フレーム体が機能媒体の流路の形成の障害とはならず、当該流路を流通する機能媒体による所期の機能が損なわれることがない。
【0015】
第1或いは第2の発明において、前記シール部及び連結部が、同材質の弾性体による一体成型体からなるものとした場合、フレーム体に対するシール部及び連結部の一体化が簡易になし得ると共に、シール部の圧縮時における変形移動分の連結部による吸収が、同材質であることによる馴染み性により円滑になされる。
【0016】
第1或いは第2の発明において、前記フレーム体を、金属板、合成樹脂板、繊維補強合成樹脂板、繊維補強ゴム板、又は紙のいずれかからなるものとすることができる。金属板からなる場合は、その剛直性により、シール部の優れた形状保持及び補強機能が得られる。また、合成樹脂板からなる場合は、フレーム体を成型により簡易に作製することができ、且つ、当該ガスケット及び燃料電池の軽量化及び低コスト化に寄与する。更に、繊維補強合成樹脂板からなる場合は、合成樹脂の特性に加え、剛性も付与され、シール部の形状保持性及び補強性が向上する。
【0017】
第1或いは第2の発明において、前記フレーム体が、前記スタック部材の所定の位置に位置付ける為の位置決手段を備えたものとした場合、当該燃料電池用ガスケットの組付時に、前記シール対象部位に対する適正位置への位置付けを的確に行うことができると共に、使用時における熱膨張収縮による位置ずれの防止を阻止することができる。そして、この位置決手段は、前記フレーム体の外周縁部に外向きに突設された突起からなるものとし、該突起を、前記フレーム体と同材質の部材からなり、該フレーム体に一体に形成されているもの、或いは、弾性体からなり、前記フレーム体に固着一体に形成されているものとすることができる。前者の場合は、突起の形成が極めて容易であり、また、後者の場合は突起が弾性体からなるから、この弾性体の弾性変形を伴うよう組付けることができ、スタック部材の製造公差を吸収して的確な位置決めがなされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る燃料電池用ガスケットの一実施形態の全体構成を示す概略的平面図である。
【図2】(a)は図1におけるX−X線矢視拡大断面図であり、(b)は同燃料電池用ガスケットを燃料電池のスタックを構成するセパレータ間に介装した状態の(a)に対応する部分の断面図である。
【図3】(a)は図1におけるY−Y線矢視拡大断面図であり、(b)は同燃料電池用ガスケットを同セパレータ間に介装した状態の(a)に対応する部分の断面図である。
【図4】(a)は図1におけるZ−Z線矢視拡大断面図であり、(b)は同燃料電池用ガスケットを同セパレータ間に介装した状態の(a)に対応する部分の断面図である。
【図5】(a)(b)は同燃料電池用ガスケットの変形例を示す図4(a)(b)に対応する図である。
【図6】本発明に係る燃料電池用ガスケットの他の実施形態の図2(a)に対応する図である。
【図7】本発明に係る燃料電池用ガスケットの更に他の実施形態の図2(a)に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1〜図5は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの第1の実施形態を示している。例示の燃料電池用ガスケット1は、燃料電池(不図示)を構成する前記セルモジュール(不図示)同士の界面、即ち、隣接するセルモジュール間におけるそれぞれのセパレータ(スタック部材)2,3が背面同士で合体される部分のシール対象部位21,31に介装されるものである。本燃料電池用ガスケット1は、前記シール対象部位21,31に沿った形状に形成された金属製のフレーム体11と、該フレーム体11のシール側端縁部111に連結部12を介して固着一体に形成されたエラストマー製のシール部13とよりなる。
【0020】
ここで、前記シール対象部位21,31は、燃料電池の機能媒体としての水素ガス供給用マニホールド孔11a、水素ガス排出用マニホールド孔11b、酸素ガス供給用マニホールド孔11c及び酸素ガス(生成水を含む)排出用マニホールド孔11dの夫々の周縁部、同じく機能媒体としての冷媒供給用マニホールド孔11e及び冷媒排出用マニホールド孔11fとセパレータ2,3における当該冷媒用マニホールド孔11e,11fに連通する冷媒(機能媒体)用流路22,32(図2(b)参照)が形成される部位を含む周縁部に沿った形状に形成される。従って、フレーム体11は、これらシール対象部位21,31に整合する部分を全て含んだ形状となるように形成される。図1に示す2点鎖線は、前述のように多数のスタック部材を積層してスタックを構成した場合に形成される冷媒用マニホールドの境界部を示している。図例のセパレータ2,3は、隣接するセルモジュール同士の界面に位置するが、各セルモジュールにおいては、一対のセパレータ間にMEA(不図示)が挟装されることは前述のとおりである。そして、このMEAの一方の面と一方のセパレータとの間に、前記水素ガス供給用及び排出用マニホールド孔11a,11bに連通する水素ガス(機能媒体)用の不図示の流路が形成され、MEAの他方の面と他方のセパレータとの間に、前記酸素ガス供給用及び排出用マニホールド孔11c,11dに連通する酸素ガス(機能媒体)用の不図示の流路が形成される。
【0021】
前記フレーム体11のシール側端縁部111とは、前記各マニホールド孔11a〜fに向く側の端縁部、及び前記冷媒用流路22,32が形成される部位に向く側の端縁部を意味する。前記フレーム体11は、ステンレスやSPCC等の鋼板を前記形状に打抜き加工して得たもので、該フレーム体11を、所望のガスケット1に対応する形状のキャビティを備えた金型内に配置し、エラストマーをキャビティ内に注入して加硫成型することによって、図示のようにフレーム体11の前記シール側端縁部111に、連結部12を介してシール部13が固着一体とされた燃料電池用ガスケット1が得られる。図例のフレーム体11には、後記するセパレータ2,3との合体の際に、前記所定のシール対象部位21,31に位置付ける為の2種の位置決手段113,114が形成されている。第1の位置決手段113は、フレーム体11の外周縁部112の数箇所(図例では3箇所)に外向きに形成された突起からなる。この第1の位置決手段としての突起113は、図例ではエラストマーの成型体からなり、前記フレーム体11と、連結部12及びシール部13とを一体成型する際に、同時にエラストマーによって成型される。従って、図例の燃料電池用ガスケット1の成型に用いられる金型のキャビティは、この第1の位置決手段としての突起113に対応する空所を備えている。また、第2の位置決手段114は、セパレータ2,3に形成される不図示の突子を嵌受するよう該フレーム体11に貫設された2個の孔からなる。図1では、位置決手段として、第1及び第2の位置決手段113,114を備えた例を示しているが、いずれか一方のみを備えるものであっても良い。
【0022】
ここで用いられるエラストマーとしては、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンジェン共重合ゴム(EPDM)等のゴム材、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系等)等が挙げられ、強度気体透過性、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、耐油性等の特性に応じて適宜選択される。ゴム材はミラブルでも液状でもよいが、成型加工性の点から液状が好ましい。
【0023】
前記シール部13、連結部12及び突起113を、前記エラストマーのうちの同材質のエラストマーにより一体成型することはもとより可能であるが、それぞれの部位に適正な弾力を備えたエラストマーを選択し、これらを同時成型によって形成することも可能である。ここでのそれぞれの部位に適正な弾力とは、シール部13では、前記スタック部材の積層体を締結一体とする際、各スタック部材間に介在される当該燃料電池用ガスケット1のシール部13が圧縮され、圧縮されることによる圧縮反力と、内圧により生じるセルフシール機能とにより、低圧縮でも適正なシール性が得られる弾力である。また、連結部12では、シール部13が圧縮された時或いは内圧を受けた際に、シール部13を変位しないよう保持し得ると共に、シール部13の流動変形部分を吸収し得る弾力である。更に、突起113では、本燃料電池用ガスケット1を、セパレータ2,3の所定のシール対象部位21,31に配置する際に、該シール対象部位21,31に形成された後記する段部210,310の段壁部211,311に弾接して、所定の位置に当該燃料電池用ガスケット1を保持し得る弾力である。
【0024】
第1の実施形態に係る燃料電池用ガスケット1の構造について更に詳細に説明する。図2(a)、図3(a)、図4(a)及び図5(a)に示すように、シール部13は、断面形状が円形に近い楕円形状であり、その長径がフレ−ム体11の面域方向に平行な形状とされ、当該ガスケット1の断面形状は、シール部13の長径を中心線とする線対称に形成されている。シール部13の最大厚み(山形部13a,13aの頂部間距離)D1は、セパレータ2,3が積層締結された状態における前記シール対象部位21,31間のクリアランスCより大きく設定される。前記フレーム体11の厚みD2は、前記クリアランスCよりやや小とされる。また、連結部13の厚みD3は、フレーム体11の厚みD2より小とされている。連結部13の厚みD3は、前記シール部13が所定の圧縮状態に至る過程で生じるシール部13の流動変形分を吸収してその厚みが増大しても、前記シール対象部位21,31に接触せず、且つ、シール部13の形状保持機能を維持するように設定される。
【0025】
図2(b)は、前記燃料電池用ガスケット1を、隣接するセルモジュール(不図示)間のセパレータ2,3におけるシール対象部位21,31間に配し、所定数のセルモジュールを前記所定の積層状態とした場合の図1におけるX−X線矢視部に相当する断面図である。セパレータ2,3におけるこの部分の前記シール対象部位21,31は、凹溝状の段部210,310によって形成され、また、両セパレータ2,3の相互の合体する側の面には、冷媒(機能媒体)の流路22,32が形成されている。この冷媒の流路22,32は、両セパレータ2,3が合体状態では両者が整合する蛇行形状とされ、その一端部(上流側端部)は前記冷媒供給用マニホールド孔11e(図1参照)に連通し、他端部(下流側端部)は前記冷媒排出用マニホールド孔11f(同上)に連通するよう形成されている。そして、不図示の冷媒供給用マニホールから冷媒供給用マニホールド孔11eを経て供給される冷媒は、流路22,32を流通して冷媒排出用マニホールド孔11fを経て不図示の冷媒排出用マニホールドに流出される。前記所定の積層状態では、両セパレータ2,3は、前記段部210,310及び流路22,32の形成部位以外の部分が相互に密着するよう合体される。従って、この合体状態で、前記凹溝状段部210,310のそれぞれの溝深さの合計が前記所定のクリアランスCとなるよう設定される。
【0026】
燃料電池用ガスケット1を、セパレータ2,3のシール対象部位21,31間に配置し、前記セルモジュールを締結により前記所定の積層状態とした時には、セパレータ2,3は互いに密接的に合体し、シール部13は、図2(b)に示すように、前記クリアランスC内で圧縮された状態で介在される。従って、シール部13の圧縮反力により、シール対象部位21,31と、シール部13との界面に面圧が作用し、この部分がシールされる。この場合、シール部13の前記圧縮は、クリアランスCで規制される為、シール部13の形状(前記厚みD1)とクリアランスCとの適宜設定により、過圧縮となることなく適正なシール性を発現させることができると共に、締結時におけるセパレータ2,3等のスタック部材の変形や割れの発生も防止することができる。しかも、フレーム体11の厚みD2が、クリアランスCより小とされているから、前記積層時においてフレーム体11が所定のクリアランスCを形成する上で障害とならず、前記セパレータ2,3の密接的な合体状態が確実に達成される。従って、前記流路22,32も位置ずれや隙間を生じることなく形成され、該流路22,32を流通する冷媒による冷却効果も所期どおり発揮される。そして、該流路22,32を流通する冷媒は、セパレータ2,3の合体面間に滲入するが、前記シール部13によってシール対象部位21,31がシールされるから、外部への冷媒の漏出が阻止される。
【0027】
前記シール部13の圧縮過程で、シール部13が圧縮方向と直交する方向(シール対象部位21,31の面域方向)に広がるように流動変形する。この流動変形は、連結部12にも及び、連結部12がこの流動変形分の一部を吸収し、図2(b)に示すように、その厚みが、初期の厚みD3より増大する。この実施形態では、シール部13の流動変形分の吸収によって連結部12の厚みが増大しても、シール対象部位21,31に接触しないよう初期の厚みD3が設定されている。従って、連結部12とシール対象部位21,31とが接触して圧縮反力が増大することによるセパレータ2,3の割れや変形、エラストマーの圧壊を防止できる。
【0028】
図3(a)は、図1におけるY−Y線矢視部の拡大断面図を示しており、フレーム体11の幅方向両端部がシール側端縁部111とされ、両シール側端縁部111に前記と同様にシール部13が連結部12を介して固着一体に形成されている。そして、一方のシール部13は、冷媒用流路22,32が形成される部位の周縁部に位置し、他方のシール部13は、酸素ガス供給用マニホールド孔11cの周縁部に位置するよう形成されている。ここでも、シール部13、フレーム体11及び連結部12のそれぞれの厚みは、前記と同様に設定される。図3(b)は、前記と同様に所定の積層状態におけるセパレータ2,3のシール対象部位21,31間での、図3(a)に示す部分の介在状態を示している。この部分でのセパレータ2,3のシール対象部位21,31は、凹溝形ではなく、セパレータ2,3のそれぞれに形成された酸素ガス供給用マニホールド孔23,33側が開放された段部210,310によって形成されている。
【0029】
セパレータ2,3を前記所定の積層状態とした時には、セパレータ2,3は互いに密接的に合体し、前記と同様に所定のシール対象部位21,31間に所定のクリアランスCが形成される。そして、両シール部13は、このクリアランスC内で図3(b)に示すように流動変形を伴った圧縮状態で介在される。従って、シール対象部位21,31間がシールされ、流路22,32を流通する冷媒及び酸素ガス供給用マニホールドを流通する酸素ガスが互いに混流するようなことがない。ここでも、前記各部位の寸法設定による作用効果が同様に発揮される。
尚、説明を割愛するが、水素ガス供給用マニホールド孔11a、水素ガス排出用マニホールド孔11b及び酸素ガス排出用マニホールド孔11dにおける図3(b)と同様の部位においても、当該燃料電池用ガスケット1の介在により同様の作用効果が得られる。
【0030】
図4(a)は、図1におけるZ−Z線矢視部の拡大断面図を示しており、フレーム体11の酸素ガス供給用マニホールド孔11cに向く側の端縁部がシール側端縁部111とされ、このシール側端縁部111に前記と同様にシール部13が連結部12を介して固着一体に形成されている。そして、フレーム体11の外周縁部112に、前記第1の位置決手段としての突起113が一体に形成されている。このような突起113は、図1に示すように、フレーム体11の外周縁部112のコーナ部若しくはその近傍の3箇所に設けられている。ここでも、シール部13、フレーム体11及び連結部12のそれぞれの厚みは、前記と同様に設定される。図4(b)は、前記と同様に所定の積層状態におけるセパレータ2,3のシール対象部位21,31間での、燃料電池用ガスケット1の図4(a)に示す部分の介在状態を示している。この部分でのセパレータ2,3のシール対象部位21,31は、図3(b)に示す部分と同様に、凹溝形ではなく、それぞれの酸素ガス供給用マニホールド孔23,33側が開放された段部210,310によって形成されている。
【0031】
セパレータ2,3は、前述の通り、前記燃料電池用ガスケット1を前記シール対象部位21,31に配して所定の積層状態とされる。この時、前記第2の位置決手段としての孔114(図1参照)に、セパレータ2,3に形成された突子(不図示)を嵌入させると共に、前記突起113を、前記段部210,310の段壁部211,311に密接或いは弾性的に圧接させるようにして、燃料電池用ガスケット1が前記シール対象部位21,31に配される。図4(b)は、突起113がフレーム体11の面域方向に圧縮され、弾性変形して段壁部211,311に弾接した状態を示している。従って、段部210,310における段壁部211,311の平面視した全体形状及び前記突起113の突出幅は、突起113が段壁部211,311に密接或いは弾性的に圧接し得るような寸法関係に設定される。このように、燃料電池用ガスケット1をシール対象部位21,31に配置する際に、第1及び第2の位置決手段113,114によって、燃料電池用ガスケット1が所定の位置に的確に位置決めされ、また、使用時における熱膨張収縮による位置ずれを防止することができる。特に、図4(b)のように、突起113が弾性変形して段壁部211,311に弾接するよう構成した場合は、セパレータ2,3に多少の製造上の公差があっても、弾性変形部分でこれを吸収することができる。更に、突起113の前記フレーム体11の面域方向に沿った方向の圧縮反力によって、当該燃料電池用ガスケット1が、前記段壁部211,311に弾力を持った状態で保持されるから、組付作業時における脱落の懸念が少なく、燃料電池の組立作業性の向上に寄与する。
【0032】
そして、セパレータ2,3を前記所定の積層状態とした時には、セパレータ2,3は互いに密接的に合体し、前記と同様に所定のシール対象部位21,31間に所定のクリアランスCが形成される。シール部13は、このクリアランスC内で図4(b)に示すように流動変形を伴った圧縮状態で介在される。従って、シール対象部位21,31間がシールされ、酸素ガス供給用マニホールドを流通する酸素ガスが外部に漏出することが防止される。ここでも、前記各部位の寸法設定による作用効果が同様に発揮される。その他の構成は、前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0033】
図5(a)(b)は、図4(a)(b)の例の変形例を示す。この例では、第1の位置決手段としての突起113が、フレーム体11と同材質の部材からなり、該フレーム体11に一体に形成されている。即ち、突起113は、シール部13の反対側のフレーム体11の縁部に形成されている。この例の場合、段部210,310における段壁部211,311の平面視した全体形状及び前記突起113の突出幅は、突起113が段壁部211,311に密接し得るような寸法関係に設定される。従って、燃料電池用ガスケット1をシール対象部位21,31に配する際における燃料電池用ガスケット1の位置決め、更には、使用時における熱膨張収縮による位置ずれ防止機能が同様に発揮される。そして、図5(b)に示すように、セパレータ2,3を前記所定の積層状態とした時には、セパレータ2,3は互いに密接的に合体し、前記と同様に所定のシール対象部位21,31間に所定のクリアランスCが形成される。シール部13は、このクリアランスC内で流動変形を伴った圧縮状態で介在される。従って、シール対象部位21,31間がシールされ、酸素ガス供給用マニホールドを流通する酸素ガスが外部に漏出することが防止される。ここでも、前記各部位の寸法設定による作用効果が同様に発揮される。その他の構成は、前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0034】
図6及び図7は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの他の実施形態を示している。図6に示す例の燃料電池用ガスケット1は、シール部13の断面形状が前記の例と同様に楕円形状であるが、その長径の長さが前記例より長いことで特徴付けられる。このように、長径が長い楕円形状のシール部13の場合、前記と同様に所定の積層状態でセパレータ2,3のシール対象部位21,31間に介在させた際、シール対象部位21,31との弾性的接触面が大きくなり、これによって、前記セルモジュールの位置ずれによるセパレータ2,3の割れや、変形が生じ難くなる。フレーム体11と、該フレーム体11のシール側端縁部111に連結部12を介して固着一体とされたシール部13とによる基本構成は前記例と同様である。また、これら各部位の厚み寸法(D2,D3,D1)と前記所定のクリアランスC(図2等参照)との寸法関係も前記例と同様に設定され、従って、これら寸法設定による作用効果も同様に発揮される。
【0035】
図7に示す例の燃料電池用ガスケット1は、シール部13の断面形状が倒Y字形であり、フレーム体11とは反対方向に開拡するよう上下対象に形成された一対のリップ部13bを備えていることで特徴付けられる。この例の場合、前記と同様に所定の積層状態でセパレータ2,3のシール対象部位21,31間に介在させた際、一対のリップ部13bが互いに接近するよう撓みながら圧縮される。従って、この撓み変形により、低反力によるシールが可能となる。この例においても、フレーム体11と、該フレーム体11のシール側端縁部111に連結部12を介して固着一体とされたシール部13とによる基本構成は前記例と同様である。そして、一対のリップ部13bの先端間距離がシール部13の最大厚みD1とされ、これら各部位の厚み寸法(D2,D3,D1)と前記所定のクリアランスC(図2等参照)との寸法関係も前記例と同様に設定され、従って、これら寸法設定による作用効果も同様に発揮される。
【0036】
図6及び図7は、図1のX−X線矢視部に対応する部分を示しているが、Y−Y線矢視部或いはZ−Z線矢視部においては、図3(a)或いは図4(a)、図5(a)に示すような構造となる。図6及び図7に示す例のその他の構成は前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0037】
尚、例示の実施形態では、隣接するセルモジュール同士における互いに合体関係となるセパレータ2,3間に本発明に係る燃料電池用ガスケット1を介装させる例について述べたが、各セルモジュールにおいて、セパレータとMEA(この場合、MEAの外周縁部に各マニホールド孔を含むMEA用フレーム体が一体とされている)との間に当該燃料電池用ガスケット1を介装させること、或いは、MEAを挟装した状態のセパレータ間に当該燃料電池用ガスケット1を介装させることは、もとより可能である。また、燃料電池用ガスケット1の各マニホールド孔を含む全体形状は、図1の例に限定されず、燃料電池の設計仕様等によって異なることは言うまでもない。更に、フレーム体11として金属板製のものを例示したが、合成樹脂製板或いは繊維補強合成樹脂板製のものであっても良い。加えて、シール部13の断面形状は、例示のものに限定されず、他の形状も採用可能であることも言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1 燃料電池用ガスケット
11 フレーム体
111 シール側端縁部
112 外周縁部
113 突起(位置決手段)
12 連結部
13 シール部
2,3 セパレータ(スタック部材)
21,31 シール対象部位
22,32 流路
D1 シール部の厚み
D2 フレーム部の厚み
D3 連結部の厚み
C 所定のクリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のスタック部材を積層して構成される燃料電池における隣接するスタック部材間に介装される燃料電池用ガスケットであって、
前記スタック部材のシール対象部位に沿った形状に形成された板状のフレーム体と、該フレーム体のシール側端縁部に連結部を介して固着一体に形成された弾性材製のシール部とよりなり、
当該燃料電池用ガスケットを前記シール対象部位に配して前記隣接するスタック部材を所定の積層状態とした時には、両スタック部材のシール対象部位間に所定のクリアランスが形成され、前記シール部は該クリアランスに圧縮状態で介在されるよう構成され、
前記シール部の厚みは前記フレーム体の厚みより大とされ、且つ、前記連結部の厚みは前記フレーム体の厚みより小とされ、
前記連結部は弾性材からなり、前記フレーム体における前記シール側端縁部の全周に亘って形成されていることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記フレーム体の厚みは、前記クリアランスより小とされていることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記シール部及び連結部が、同材質の弾性体による一体成型体からなることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記フレーム体が、金属板、合成樹脂板、繊維補強合成樹脂板、繊維補強ゴム板、又は紙のいずれかからなることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記フレーム体が、前記スタック部材の所定の位置に位置付ける為の位置決手段を備え、該位置決手段が前記フレーム体の外周縁部に外向きに突設された突起からなることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記突起が、前記フレーム体と同材質の部材からなり、該フレーム体に一体に形成されていることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項7】
請求項5に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記突起が、弾性体からなり、前記フレーム体に固着一体に形成されていることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記隣接するスタック部材が、セパレータであり、前記所定のクリアランスを以って積層されたときには、両セパレータ間に機能媒体の流路が形成されることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池用ガスケットを用いた燃料電池のシール構造であって、
前記隣接するスタック部材の前記シール対象部位に当該燃料電池用ガスケットを介装し、前記多数のスタック部材を所定の積層状態とし、前記シール対象部位間に前記シール部を圧縮状態で介在させたことを特徴とする燃料電池のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−238364(P2011−238364A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106420(P2010−106420)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】