燃料電池用セパレータ、燃料電池、および燃料電池用セパレータの製造方法
【課題】水の吸収性および排出性を向上させることが可能な直接メタノール型燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】流路が設けられた金属からなる成形体(301)、および、前記流路の底面に配置され、ベース層(302)とこの上に設けられた凹凸層(303)とを含む親水層(304)を具備する燃料電池用セパレータである。前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【解決手段】流路が設けられた金属からなる成形体(301)、および、前記流路の底面に配置され、ベース層(302)とこの上に設けられた凹凸層(303)とを含む親水層(304)を具備する燃料電池用セパレータである。前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池、および燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化させることにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して取り出すものである。燃料の燃焼によるNOxやSOxなどの発生がないため、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)においては、反応によってカソード極で水が生成される。親水性を高めたセパレータを用いることによって、こうして生成した水を取り除くことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、燃料ガスや酸化ガスと混合する水蒸気や,発電によって発生する水分(水蒸気)がセパレータ表面に結露した場合でも水滴とならず、燃料ガス、酸化剤ガスの流路面に薄く水膜として広がり流路を閉塞しないセパレータである。
【0004】
しかしながら、従来の構造では、水の透過を十分に行なうことができず、カソード電極に蓄積する水の排出が不十分である。このため、カソード電極への酸素の供給が滞り、燃料電池を長時間安定に稼動させるのは困難であった。ポンプを用いずに空気を送り込む拡散供給型セルの場合には、特に水を排出することが困難となって、出力の低下の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水の吸収性および排出性を向上させることが可能な直接メタノール型燃料電池用セパレータ、これを用いた直接メタノール型燃料電池、および、かかるセパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる燃料電池用セパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、
前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様にかかる燃料電池は、アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、前述の燃料電池用セパレータであることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様にかかる燃料電池用セパレータの製造方法は、流路および導通面を有する成形体の前記導通面を保護する工程、
前記成形体を40℃以上200℃以下に加熱しつつ、1重量%以上20重量%以下の親水材料を含む分散液を、マスクを介して前記流路の底にスプレーコーティングして、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を形成する工程を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様にかかる燃料電池用セパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、
前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水の吸収性および排出性を向上させることが可能な直接メタノール型燃料電池用セパレータ、これを用いた直接メタノール型燃料電池、および、かかるセパレータの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態にかかる直接メタノール型燃料電池のセルの断面図。
【図2】一実施形態にかかるセパレータの構成を表わす概略図。
【図3】一実施形態にかかるセパレータの製造方法の一工程を示す断面図。
【図4】図3に続く工程を示す断面図。
【図5】図4に続く工程の一例を示す断面図。
【図6】図5に続く工程を示す断面図。
【図7】図6に続く工程を示す断面図。
【図8】図4に続く工程の他の例を示す断面図。
【図9】図8に続く工程を示す断面図。
【図10】他の実施形態にかかるセパレータの構成を表わす概略図。
【図11】他の実施形態にかかるセパレータの製造方法の一工程を示す断面図。
【図12】成形体の流路の拡大図。
【図13】図11に続く工程を示す断面図。
【図14】図13に続く工程を示す断面図。
【図15】図14に続く工程を示す断面図。
【図16】他の実施形態にかかる親水層の被覆量と広がり面積との関係を表わすグラフ図。
【図17】一実施形態にかかる燃料電池の特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。図面においては、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものと異なる。さらに、図面相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1に示すように、一実施形態にかかる直接メタノール型燃料電池(DMFC)のセル100においては、燃料極としてのアノード電極20と酸化剤極としてのカソード電極30とにより電解質層10が挟持されて、膜電極接合体(MEA)40が構成される。アノード電極20は、アノード触媒層20aとアノード電極側ガス拡散層(GDL)20bとを含み、カソード電極30は、カソード触媒層30aとカソード電極側ガス拡散層(GDL)30bとを含む。いずれの電極においても、触媒層20aおよび30aが電解質層10に接している。
【0016】
図示していないが、アノード触媒層20aとアノードGDL20bとの間には、燃料調整層が存在し、カソード触媒層30aとカソードGDL30bとの間には、カソードMPL(電極側緻密撥水層)が存在する。
【0017】
触媒層20aおよび30aは、例えば、触媒活性物質と導電性物質とプロトン伝導性物質とを含有する多孔質層から構成される。例えば、導電性物質を担持体とした担持触媒と、プロトン伝導性物質とを含む多孔質層によって、触媒層を構成することができる。
【0018】
MEA40の外側には、アノードGDL20bに隣接してアノードセパレータ50が設けられる。カソードGDL30bの外側には、カソードセパレータ60が設けられる。
【0019】
上述したような構成のDMFCが動作される際には、液体燃料貯蔵部(図示せず)から、メタノールと水とが液体(メタノール水溶液)の状態でアノード電極20のアノード触媒層20aに供給される。カソード触媒層30aには、酸化剤としての空気が供給される。アノード触媒層20aにおいては、下記反応式(1)で表わされる触媒反応が生じ、カソード触媒層30aにおいては、下記反応式(2)で表わされる触媒反応が生じる。こうした反応が生じることから、触媒層は反応層とも呼ばれている。
【0020】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・(1)
6H++(3/2)O2+6e- → 3H2O ・・・(2)
アノード触媒層20aでは、メタノールと水とが反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。プロトンは、電解質膜10を通過してカソード電極30に到達する。一方、カソード触媒層30aでは、酸素およびプロトンに加えて、外部回路を経由してカソード触媒層30aに到達した電子が結合して、水が生成される。
【0021】
この際、アノード電極20およびカソード電極30を外部回路に電気的に接続することで、発生した電子により電力を取り出すことができる。生成した水は、カソード電極30から系外へ放出される。一方、アノード電極20で発生した二酸化炭素は、液体燃料を直接セルに供給する場合には燃料液相中を拡散し、ガスのみを透過するガス透過膜を介して燃料電池の系外へ排出される。
【0022】
本実施形態にかかるDMFCにおける電解質膜10は、例えば、所定の寸法のパーフルオロカーボンスルホン酸膜に、過酸化水素および硫酸で前処理を施すことによって作製することができる。パーフルオロカーボンスルホン酸膜としては、例えば、Nafion112(登録商標、Dupont社)を用いることができる。こうしたパーフルオロスルホン酸膜は、所定の寸法に切断して用いられる。また、前処理については、(G.Q.Lu,et al. Electrochimica Acta 49(2004)821〜828)等に記載されている。
【0023】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシート上に形成する。アノード触媒層の作製には、例えば、Johnson&Matthey社製のPt/Ru合金触媒(Pt/RuBlackHiSPEC6000)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldrich SE−29992 Nafion重量5wt%)とを混合分散して、アノード触媒材料を調製する。得られたアノード触媒材料をPTFEシートに塗布し、乾燥してアノード触媒層が得られる。乾燥後のアノード触媒層中のPt/Ruの塗布量(以後、Loading量と称する)は、例えば1〜30mg/cm2程度とすることができる。
【0024】
カソード触媒層の作製には、例えば、E−TEK社製のPt/C触媒(HP40wt%PtonVulcanXC−72R)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldich SE−20092、Nafion重量5wt%)とを混合分散して、カソード触媒材料を調製する。得られたカソード触媒材料をPTFEシートに塗布し、乾燥してカソード触媒層が得られる。乾燥後のカソード触媒層中のPtのLoading量は、例えば、0.5〜15mg/cm2程度とすることができる。
【0025】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシートに載置した状態で、所定の寸法に切断する。切断されたアノード触媒層およびカソード触媒層を電解質膜10に当接して熱圧着する。その後、PTFEシートを除去することによって、電解質膜10をアノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aで挟持することができる。こうして得られる積層体は、CCM(Catalyst Coated Membrane)と称される。
【0026】
CCMのアノード触媒層20aの上には、燃料調整層(図示せず)およびアノードGDL層20bを設ける。アノードGDL20bとしては、例えば東レ社製カーボンペーパーTGPH−090に対し、約30wt%のPTFEにより撥水処理が施されたE−TEK社製TGPH−090,30wt%.Wetproofedを用いることができる。アノードGDL層20bの上には、アノードGDL層20bに液体燃料を供給する燃料供給手段を配置する。燃料供給手段は、アノードセパレータ50を含む。
【0027】
CCMのカソード触媒層30aの上には、カソードMPL(図示せず)およびカソードGDL30bを設ける。本実施形態においては、MPL層付きカソードGDL層(例えばE−TEK社製Elat GDL LT−2500−W(厚さ約360μm))を、好適に用いることができる。カソードGDL30bの側には、カソードセパレータ60が配置される。
【0028】
このような燃料電池において、優れた電池特性を得るためには、それぞれの電極に、スムーズに適量な燃料が供給されることが求められる。また、触媒活性物質とプロトン伝導性物質と燃料との三相界面において、電極触媒反応が迅速に生じることも必要である。さらに、電子およびプロトンをスムーズに移動させることに加えて、反応生成物を素早く排出することが求められる。
【0029】
一実施形態においては、所定の寸法の凹凸を表面に有する親水層をセパレータの流路の底面に配置することによって、これを可能とした。具体的には、カソードセパレータ60は、流路が設けられた金属からなる成形体、および、前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、かつ最大高さSyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【0030】
こうしたセパレータの流路の底面の拡大図を図2に示す。図示するセパレータ300においては、金属からなる成形体301の流路の底面には、ベース層302と凹凸層303との積層体からなる親水層304が形成される。凹凸層303の平均間隔Smは2×102μm以上4×102μm以下であり、最大高さRyは5μm以上15μm以下である。
【0031】
ここで、平均間隔Smおよび最大高さRyは、JIS B 0601−1994に準拠して求めた値である。
【0032】
図示するセパレータは、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0033】
まず、図3に示すように、金属からなる成形体301を準備する。一定の導電性および熱伝導性を有するものであれば、任意の金属を用いることができ、その材料は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼板またはステンレス鋼を基材として、この上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理が施された材料用いることができる。なお、表面処理としては、例えば、めっき処理、金等の金属薄膜の蒸着、および金薄板とのクラッド化などが挙げられる。また、アルミニウムを基材として、表面にカーボンを被覆したカーボンアルミニウム複合材料等を用いてもよい。
【0034】
成形体301は、図4に示されるように、カバー305を取り付けて導通面を保護しておく。カバー305の材質としては、例えばアルミ材を用いることができる。
【0035】
次いで、図5に示すように、マスク306を介して親水材料の分散液307をスプレーコーティングする。図示していないが、分散液をスプレーコーティングする際には、成形体301をホットプレート等により40〜200℃に加熱しておく。
【0036】
分散液306は、親水材料を分散媒に分散させて調製することができる。親水材料としては、例えばシリカを用いることができ、分散媒としては、例えばメタノールと水との混合溶媒等が挙げられる。分散液における親水材料の濃度およびスプレー量は、所望の凹凸表面が得られるように適宜決定すればよい。親水材料の濃度は、1〜20重量%の範囲内が好ましい。
【0037】
成形体の流路にスプレーされた分散液が硬化後には、図6に示されるように、ベース層302と凹凸層303との積層体からなる親水層304が得られる。ベース層302の厚さは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、水の排出性をよりいっそう高めることができ、何等不都合を伴なうこともない。コーティング量によって、ベース層302の厚さを所定の範囲内に規定することができる。
【0038】
マスク306を除去し、成形体301の導電面からカバー305を取り除いて、図7に示すようなセパレータが得られる。
【0039】
場合によっては、図8に示されるように、マスク306を配置する前に、成形体301の流路の底面にベース層302を形成してもよい。次いで、図9に示すように、マスク306を介して所定の分散液307をスプレーコーティングする。これ以降の工程は、すでに説明したとおりである。
【0040】
本実施形態のセパレータにおいては、親水層304を構成する凹凸層303の表面形状が、次のように規定される。微細な凹凸の平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下であり、その最大高さRyが5μm以上15μm以下である。
【0041】
凹凸層303の凹凸の平均間隔Smが2×102μmより小さい場合、あるいはSmが4×102μmより大きい場合には、セパレータ表面の表面積を十分に大きくすることができない。その結果、セパレータにおける水の保水性が低下して親水性が低下する。凹凸の平均間隔Smは、例えばメッシュ寸法を適切に制御することにより所望の範囲に調節することができる。
【0042】
また、凹凸層303の表面の最大高さRyが5.0μmより小さくなると、セパレータ表面の表面積が減少し、親水性が低下する。一方、Ryが15.0μmより大きくなると、アンカー効果による水の移動抵抗が大きくなり、水の排出性が悪くなる。さらに、ガスケット面からのガスリークが生じることとなる。凹凸層の表面の最大高さRyは、例えばコーティング量を制御して所望の範囲に調節することができる。
【0043】
上述したように本実施形態においては、セパレータの流路の底面に設けられる親水層の表面状態を所定の範囲に規定する。具体的には、平均間隔が2×102μm以上4×102μm、最大高さが5μm以上15μm以下の凹凸を、親水層の表面に形成する。これによって、親水性を高めることが可能となった。こうした知見は、本発明者らによって始めて見出されたものである。
【0044】
なお、凹凸層303の表面における凹凸の算術平均面粗さRaは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲内であることが好ましい。この場合には、水の排出性をよりいっそう高めることができる。上述した凹凸の平均間隔Smおよび最大高さRyの場合と同様、凹凸の算術平均面粗さRaもまた、JIS B 0601−1994に準拠して求めることができる。
【0045】
次に、他の実施形態にかかるセパレータについて説明する。
【0046】
他の実施形態にかかるセパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および、前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする。
【0047】
こうしたセパレータの流路の底面の拡大図を図10に示す。図示するセパレータ400においては、金属からなる成形体401の流路の底面に酸化物層402が形成される。酸化物層402は、シリカと酸化スズとを含み、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下に規定される。
【0048】
図示するセパレータは、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0049】
まず、図11に示すように、金属からなる成形体401を準備する。一定の導電性および熱伝導性を有するものであれば、任意の金属を用いることができ、その材料は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼板またはステンレス鋼を基材として、この上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理が施された材料用いることができる。なお、表面処理としては、例えば、めっき処理、金等の金属薄膜の蒸着、および金薄板とのクラッド化などが挙げられる。さらに、アルミニウムを基材として、表面にカーボンを被覆したカーボンアルミニウム複合材料等を用いてもよい。
【0050】
成形体401における流路の底面は、平坦であってもよいが、図12に示されるように微細な凹凸が形成されていてもよい。凹凸は、平均間隔Smが1μm以上20μm以下、最大高さRyが1μm以上5μm以下であることが好ましい。こうした範囲内の凹凸が流路の底面に存在すれば、セパレータの表面積を十分に確保することができる。その結果、親水性をよりいっそう高めることができる。平均間隔Smおよび最大高さRyは、上述したようにJIS B 0601−1994に準拠して求められる。
【0051】
微細な凹凸は、例えば薬液処理といった手法により、流路の底面に形成することができる。
【0052】
成形体401は、図13に示されるようにカバー403を取り付けて導通面を保護しておく。カバー403の材質としては、例えばアルミ材を用いることができる。
【0053】
次いで、図14に示すように、流路の底面に酸化物層402を形成する。酸化物層402は、成形体401をホットプレート等により40〜200℃に加熱しつつ、所定の分散液をスプレーコーティングすることによって形成することができる。
【0054】
ここで用いられる分散液は、親水材料を分散媒に分散させて調製することができる。親水材料としては、シリカと酸化スズとの混合物が用いられ、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下に規定される。分散媒としては、例えばメタノールと水との混合溶媒等が挙げられる。分散液における親水材料の濃度は、1〜20重量%の範囲内が好ましい。
【0055】
成形体の流路にスプレーされた分散液が硬化後には、図14に示されるように、酸化物層402が得られる。酸化物層402の厚さは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、水の排出性を十分に確保することがき、何等不都合を伴なうこともない。コーティング量によって、酸化物層402の厚さを所定の範囲内に規定することができる。
【0056】
流路の底面に酸化物層402が形成された後、成形体401の導電面からカバー403を取り除いて、図15に示すようなセパレータが得られる。
【0057】
本実施形態のセパレータにおいては、所定の組成の酸化物層402が流路の底面に設けられる。酸化物層402はシリカと酸化スズとを含有し、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下である。
【0058】
酸化スズの含有量がシリカ重量の0.0001%未満の場合には、相対出力降下が大きくなって、相対出力が低下する。一方、酸化スズの含有量がシリカ重量の30%を越えると、水との親和性が小さくなって親水性が低下する。こうした知見は、本発明者らによって始めて見出されたものである。なお、酸化スズの含有量は、シリカ重量の0.1%以上3%以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明の実施形態においては、流路の底面に所定の親水処理を施したことによって、水の吸収性および排出性の優れたセパレータが得られた。
【0060】
以下に、本発明の具体例を示す。
【0061】
(実施形態I)
ステンレス製の成形体を用いて、以下の手法により本実施形態のセパレータを作製した。
【0062】
親水材料としてのシリカを、分散媒としてのメタノールと水との混合溶媒に5重量%の濃度で分散させて分散液を調製した。
【0063】
成形体301は、流路以外の導通面をアルミ製のカバー305で保護し、ホットプレート上に載置して150℃に加熱した。
【0064】
導通面が保護された成形体301上にマスク306を配置して、分散液307をスプレーコーティングした。マスク306としてはステンレス製メッシュを用い、スプレーされる分散液の量は、スプレーガンにより調節した。40mlの分散液がスプレーされた後、硬化させることにより、ベース層302と凹凸層303との積層からなる親水層304が、成形体301の流路の底面に形成された。
【0065】
マスク306を除去し、導通面からカバー305を取り外して、セパレータ300が得られた。ここで得られたセパレータを(I−1)とする。
【0066】
さらに、コーティング量、マスクメッシュ等の条件を変更して、(I−2)〜(I−9)のセパレータを作製した。得られたセパレータについて、凹凸の平均間隔Sm、最大高さRy、および算術平均面粗さRaを求めた。ここでの測定は、JIS B 0601−1994に準拠して行なった。その結果を、親水層の形成条件とともに、下記表1にまとめる。
【表1】
【0067】
上記表1に示される9種のセパレータのうち(I−1)〜(I−5)は、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、かつ最大高さRyが5〜15μmの凹凸が、親水層の表面に存在する。
【0068】
さらに、各セパレータの親水層について広がり面積比を求めた。広がり面積比は、次の手法により測定した。セパレータの1cm上方から0.1μLの水滴を滴下し、30秒経過時の水滴の広がり面積を写真撮影し、これを画像処理することにより測定した。(I−7)のセパレータの広がり面積を1として相対値を求めた。得られた結果を、下記表2にまとめる。
【表2】
【0069】
上記表2に示されるように、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、最大高さRyが5〜15μmの凹凸を表面に有する親水層は、こうした条件が欠如している親水層と比較して、高い親水性を有している。
【0070】
(燃料電池の作製方法)
得られたセパレータを用いて、DMFCを作製した。まず、Nafion112を準備し、縦40mm横50mm程度の寸法に切断した。(G.Q.Lu,etal Electrochimica Acta 49(2004)821〜828)にしたがって、過酸化水素および硫酸でNafion112に前処理を施して、電解質膜10を作製した。
【0071】
Johnson&Matthey社製のPt/Ru合金触媒(Pt/RuBlackHiSPEC6000)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldrich SE−29992 Nafion重量5wt%)とを混合分散して、アノード触媒材料を調製した。PTFEシート上に塗布し、乾燥してアノード触媒層を形成した。乾燥後のアノード触媒層中のPt/RuのLoading量は、約6mg/cm2程度であった。
【0072】
また、E−TEK社製のPt/C触媒(HP40wt%PtonVulcanXC−72R)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldich SE−20092、Nafion重量5wt%)とを混合分散して、カソード触媒材料を調製した。PTFEシート上に塗布し、乾燥してカソード触媒層を形成した。乾燥後のカソード触媒層中のPtのLoading量は、約2.6mg/cm2程度であった。
【0073】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシートに載置した状態で、縦14mm横100mmの寸法に切断した。切断されたアノード触媒層およびカソード触媒層を電解質膜10に押し当て、125℃にて、10kg/cm2で約3分間熱圧着した。PTFEシートを除去して、電解質膜10がアノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aに挟持された積層体からなるCCM(Catalyst Coated Membrane)を得た。アノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aの厚みは、いずれも約30μm程度であった。
【0074】
CCMのアノード触媒層20aの上には、燃料調整層(図示せず)を配置し、アノードGDL20bとして、東レ社製カーボンペーパーTGPH−090に対し、約30wt%のPTFEにより撥水処理が施されたE−TEK社製TGPH−090,30wt%.Wetproofedを設けた。さらに、アノードGDL20bの上には、アノードセパレータ50を配置した。
【0075】
CCMのカソード触媒層30aの上には、MPL層付きカソードGDL層(E−TEK社製Elat GDL LT−2500−W(厚さ約360μm))を配置した。カソードGDL30bの上には、カソードセパレータ60を配置した。
【0076】
(評価)
図示しない燃料供給手段を用いてアノードGDLに対して、濃度1.2M、燃料供給量を0.7cc/minの燃料を供給した。さらに、図示しない酸化剤ガス供給手段を用いてカソードGDLから、酸素濃度20.5%、湿度30%を供給し、500時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。
【0077】
この際、図示しない温度調節器により燃料供給手段および酸化剤ガス供給手段に設けられた図示しない温度センサで測定される温度を60℃とし、空気および燃料の予備加熱は行なわなかった。
【0078】
500時間後の電圧降下を、下記表3にまとめる。
【表3】
【0079】
以上の結果に示されるように、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、最大高さRyが5〜15μmの凹凸を表面に有する親水層が流路底面に設けられたセパレータを備えたDMFCは、500時間後の電圧降下が10%以下である。この程度の降下は、実質的に影響を及ぼさない。セパレータの親水性が向上し、燃料電池としての耐フラッディング性が大幅に向上したことが確認された。
【0080】
これに対し、所定の表面状態を有する親水層を含まないセパレータが用いられた場合には、500時間後の電圧降下が最大で50%にも及んでいる。
【0081】
(実施形態II)
ステンレス製の成形体を用いて、以下の手法により本実施形態のセパレータを作製した。ここで用いた成形体の流路の底面は、平坦であった。
【0082】
親水材料としてのシリカと酸化スズとを準備した。シリカの重量の0.0001%となる量で酸化スズを混合し、分散媒としてのメタノールと水との混合溶媒に分散させて分散液を調製した。なお、分散液中における親水材料の濃度は、5.0005重量%であった。
【0083】
成形体401は、流路以外の導通面をアルミ製のカバー403で保護し、ホットプレート上に載置して150℃に加熱した。
【0084】
導通面が保護された成形体401上に、分散液をスプレーコーティングした。スプレーされる分散液の量は、最終的にコーティングされる量により調節した。40mlの分散液がスプレーされた後、硬化させることにより、シリカと酸化スズとを含む酸化物層402が、成形体401の流路の底面に形成された。
【0085】
導通面からカバー403を取り外して、セパレータ400が得られた。ここで得られたセパレータを(II−1)とする。
【0086】
さらに、酸化スズの濃度を以下のように変更した分散液を用いて、(II−2)〜(II−7)のセパレータを作製した。なお、(II−6)および(II−7)においては、平均間隔Smが300μm、最大高さRyが10μmの凹凸を流路底面に有する成形体を用いた。
【表4】
【0087】
上記表4に示されるように7種類のセパレータのうち(II−1)〜(II−6)は、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズが酸化物層に含有される。
【0088】
さらに、各セパレータの親水層について広がり面積比を求めた。広がり面積比は、次の手法により測定した。セパレータの1cm上方から0.1μLの水滴を滴下し、30秒経過時の水滴の広がり面積を写真撮影し、これを画像処理することにより測定した。(II−7)のセパレータの広がり面積を1として相対値を求めた。得られた結果を、下記表5にまとめる。
【表5】
【0089】
上記表5に示されるように、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズが含有される酸化物層は、こうした条件が欠如している酸化物と比較して、高い親水性を有している。
【0090】
被覆量と相対広がり面積との関係を、図16のグラフに示す。図16のグラフに示されるように、被覆量が増加するにしたがって相対広がり面積も増大している。しかしながら、被覆量が2.5mg/cm2を越えると、相対広がり面積はそれ以上増加せずに一定となる。
【0091】
得られたセパレータを用いて、DMFCを作製した。ここでのDMFCは実施形態Iに記載した「燃料電池の作製方法」と同様に作製した。
【0092】
図示しない燃料供給手段を用いてアノードGDLに対して、濃度1.2M、燃料供給量を0.7cc/minの燃料を供給した。さらに、図示しない酸化剤ガス供給手段を用いてカソードGDLから、酸素濃度20.5%、湿度30%を供給し、500時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。
【0093】
この際、図示しない温度調節器により燃料供給手段および酸化剤ガス供給手段に設けられた図示しない温度センサで測定される温度を60℃とし、空気および燃料の予備加熱は行なわなかった。
【0094】
500時間後の電圧降下を、下記表6にまとめる。
【表6】
【0095】
以上の結果に示されるように、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズを含有する親水層が流路底面に設けられたセパレータを備えたDMFCは、300時間後の電圧降下が10%以下である。この程度の降下は、実質的に影響を及ぼさない。セパレータの親水性が向上し、燃料電池としての耐フラッディング性が大幅に向上したことが確認された。
【0096】
これに対し、所定量の酸化スズが含有されない親水層を含まないセパレータが用いられた場合には、300時間後の電圧降下が最大で40%にも及んでいる。
【0097】
上述の(II−6)と(II−7)とについて、相対出力の時間変化を図17のグラフに示す。親水層に所定の割合で酸化スズが含有された場合には、300時間経過後でも相対出力の低下は5%程度にとどまっている。さらに1000時間経過後においても、相対出力の低下は5%程度であった。これに対して、酸化スズが含有されない場合には、40時間経過にすでに、許容し得ない範囲まで出力が低下することがわかる。
【0098】
なお、本発明は上述した実施形態自体に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することが可能である。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせによって、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…電解質膜; 20…アノード; 20a…アノード触媒層
20b…アノード拡散層; 30…カソード; 30a…カソード触媒層
30b…カソード拡散層; 40…膜電極接合体; 50…アノードセパレータ
60…カソードセパレータ; 100…燃料電池セル; 300…セパレータ
301…成形体; 302…ベース層; 303…凹凸層; 304…親水層
305…カバー; 306…マスク; 307…分散液; 400…セパレータ
401…成形体; 402…酸化物層; 403…カバー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ、燃料電池、および燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電池内で水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化させることにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して取り出すものである。燃料の燃焼によるNOxやSOxなどの発生がないため、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)においては、反応によってカソード極で水が生成される。親水性を高めたセパレータを用いることによって、こうして生成した水を取り除くことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、燃料ガスや酸化ガスと混合する水蒸気や,発電によって発生する水分(水蒸気)がセパレータ表面に結露した場合でも水滴とならず、燃料ガス、酸化剤ガスの流路面に薄く水膜として広がり流路を閉塞しないセパレータである。
【0004】
しかしながら、従来の構造では、水の透過を十分に行なうことができず、カソード電極に蓄積する水の排出が不十分である。このため、カソード電極への酸素の供給が滞り、燃料電池を長時間安定に稼動させるのは困難であった。ポンプを用いずに空気を送り込む拡散供給型セルの場合には、特に水を排出することが困難となって、出力の低下の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水の吸収性および排出性を向上させることが可能な直接メタノール型燃料電池用セパレータ、これを用いた直接メタノール型燃料電池、および、かかるセパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる燃料電池用セパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、
前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様にかかる燃料電池は、アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、前述の燃料電池用セパレータであることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様にかかる燃料電池用セパレータの製造方法は、流路および導通面を有する成形体の前記導通面を保護する工程、
前記成形体を40℃以上200℃以下に加熱しつつ、1重量%以上20重量%以下の親水材料を含む分散液を、マスクを介して前記流路の底にスプレーコーティングして、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を形成する工程を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様にかかる燃料電池用セパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、
前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水の吸収性および排出性を向上させることが可能な直接メタノール型燃料電池用セパレータ、これを用いた直接メタノール型燃料電池、および、かかるセパレータの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態にかかる直接メタノール型燃料電池のセルの断面図。
【図2】一実施形態にかかるセパレータの構成を表わす概略図。
【図3】一実施形態にかかるセパレータの製造方法の一工程を示す断面図。
【図4】図3に続く工程を示す断面図。
【図5】図4に続く工程の一例を示す断面図。
【図6】図5に続く工程を示す断面図。
【図7】図6に続く工程を示す断面図。
【図8】図4に続く工程の他の例を示す断面図。
【図9】図8に続く工程を示す断面図。
【図10】他の実施形態にかかるセパレータの構成を表わす概略図。
【図11】他の実施形態にかかるセパレータの製造方法の一工程を示す断面図。
【図12】成形体の流路の拡大図。
【図13】図11に続く工程を示す断面図。
【図14】図13に続く工程を示す断面図。
【図15】図14に続く工程を示す断面図。
【図16】他の実施形態にかかる親水層の被覆量と広がり面積との関係を表わすグラフ図。
【図17】一実施形態にかかる燃料電池の特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
以下、図面を参照して実施形態を詳細に説明する。図面においては、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものと異なる。さらに、図面相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0015】
図1に示すように、一実施形態にかかる直接メタノール型燃料電池(DMFC)のセル100においては、燃料極としてのアノード電極20と酸化剤極としてのカソード電極30とにより電解質層10が挟持されて、膜電極接合体(MEA)40が構成される。アノード電極20は、アノード触媒層20aとアノード電極側ガス拡散層(GDL)20bとを含み、カソード電極30は、カソード触媒層30aとカソード電極側ガス拡散層(GDL)30bとを含む。いずれの電極においても、触媒層20aおよび30aが電解質層10に接している。
【0016】
図示していないが、アノード触媒層20aとアノードGDL20bとの間には、燃料調整層が存在し、カソード触媒層30aとカソードGDL30bとの間には、カソードMPL(電極側緻密撥水層)が存在する。
【0017】
触媒層20aおよび30aは、例えば、触媒活性物質と導電性物質とプロトン伝導性物質とを含有する多孔質層から構成される。例えば、導電性物質を担持体とした担持触媒と、プロトン伝導性物質とを含む多孔質層によって、触媒層を構成することができる。
【0018】
MEA40の外側には、アノードGDL20bに隣接してアノードセパレータ50が設けられる。カソードGDL30bの外側には、カソードセパレータ60が設けられる。
【0019】
上述したような構成のDMFCが動作される際には、液体燃料貯蔵部(図示せず)から、メタノールと水とが液体(メタノール水溶液)の状態でアノード電極20のアノード触媒層20aに供給される。カソード触媒層30aには、酸化剤としての空気が供給される。アノード触媒層20aにおいては、下記反応式(1)で表わされる触媒反応が生じ、カソード触媒層30aにおいては、下記反応式(2)で表わされる触媒反応が生じる。こうした反応が生じることから、触媒層は反応層とも呼ばれている。
【0020】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- ・・・(1)
6H++(3/2)O2+6e- → 3H2O ・・・(2)
アノード触媒層20aでは、メタノールと水とが反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。プロトンは、電解質膜10を通過してカソード電極30に到達する。一方、カソード触媒層30aでは、酸素およびプロトンに加えて、外部回路を経由してカソード触媒層30aに到達した電子が結合して、水が生成される。
【0021】
この際、アノード電極20およびカソード電極30を外部回路に電気的に接続することで、発生した電子により電力を取り出すことができる。生成した水は、カソード電極30から系外へ放出される。一方、アノード電極20で発生した二酸化炭素は、液体燃料を直接セルに供給する場合には燃料液相中を拡散し、ガスのみを透過するガス透過膜を介して燃料電池の系外へ排出される。
【0022】
本実施形態にかかるDMFCにおける電解質膜10は、例えば、所定の寸法のパーフルオロカーボンスルホン酸膜に、過酸化水素および硫酸で前処理を施すことによって作製することができる。パーフルオロカーボンスルホン酸膜としては、例えば、Nafion112(登録商標、Dupont社)を用いることができる。こうしたパーフルオロスルホン酸膜は、所定の寸法に切断して用いられる。また、前処理については、(G.Q.Lu,et al. Electrochimica Acta 49(2004)821〜828)等に記載されている。
【0023】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシート上に形成する。アノード触媒層の作製には、例えば、Johnson&Matthey社製のPt/Ru合金触媒(Pt/RuBlackHiSPEC6000)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldrich SE−29992 Nafion重量5wt%)とを混合分散して、アノード触媒材料を調製する。得られたアノード触媒材料をPTFEシートに塗布し、乾燥してアノード触媒層が得られる。乾燥後のアノード触媒層中のPt/Ruの塗布量(以後、Loading量と称する)は、例えば1〜30mg/cm2程度とすることができる。
【0024】
カソード触媒層の作製には、例えば、E−TEK社製のPt/C触媒(HP40wt%PtonVulcanXC−72R)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldich SE−20092、Nafion重量5wt%)とを混合分散して、カソード触媒材料を調製する。得られたカソード触媒材料をPTFEシートに塗布し、乾燥してカソード触媒層が得られる。乾燥後のカソード触媒層中のPtのLoading量は、例えば、0.5〜15mg/cm2程度とすることができる。
【0025】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシートに載置した状態で、所定の寸法に切断する。切断されたアノード触媒層およびカソード触媒層を電解質膜10に当接して熱圧着する。その後、PTFEシートを除去することによって、電解質膜10をアノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aで挟持することができる。こうして得られる積層体は、CCM(Catalyst Coated Membrane)と称される。
【0026】
CCMのアノード触媒層20aの上には、燃料調整層(図示せず)およびアノードGDL層20bを設ける。アノードGDL20bとしては、例えば東レ社製カーボンペーパーTGPH−090に対し、約30wt%のPTFEにより撥水処理が施されたE−TEK社製TGPH−090,30wt%.Wetproofedを用いることができる。アノードGDL層20bの上には、アノードGDL層20bに液体燃料を供給する燃料供給手段を配置する。燃料供給手段は、アノードセパレータ50を含む。
【0027】
CCMのカソード触媒層30aの上には、カソードMPL(図示せず)およびカソードGDL30bを設ける。本実施形態においては、MPL層付きカソードGDL層(例えばE−TEK社製Elat GDL LT−2500−W(厚さ約360μm))を、好適に用いることができる。カソードGDL30bの側には、カソードセパレータ60が配置される。
【0028】
このような燃料電池において、優れた電池特性を得るためには、それぞれの電極に、スムーズに適量な燃料が供給されることが求められる。また、触媒活性物質とプロトン伝導性物質と燃料との三相界面において、電極触媒反応が迅速に生じることも必要である。さらに、電子およびプロトンをスムーズに移動させることに加えて、反応生成物を素早く排出することが求められる。
【0029】
一実施形態においては、所定の寸法の凹凸を表面に有する親水層をセパレータの流路の底面に配置することによって、これを可能とした。具体的には、カソードセパレータ60は、流路が設けられた金属からなる成形体、および、前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、かつ最大高さSyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする。
【0030】
こうしたセパレータの流路の底面の拡大図を図2に示す。図示するセパレータ300においては、金属からなる成形体301の流路の底面には、ベース層302と凹凸層303との積層体からなる親水層304が形成される。凹凸層303の平均間隔Smは2×102μm以上4×102μm以下であり、最大高さRyは5μm以上15μm以下である。
【0031】
ここで、平均間隔Smおよび最大高さRyは、JIS B 0601−1994に準拠して求めた値である。
【0032】
図示するセパレータは、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0033】
まず、図3に示すように、金属からなる成形体301を準備する。一定の導電性および熱伝導性を有するものであれば、任意の金属を用いることができ、その材料は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼板またはステンレス鋼を基材として、この上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理が施された材料用いることができる。なお、表面処理としては、例えば、めっき処理、金等の金属薄膜の蒸着、および金薄板とのクラッド化などが挙げられる。また、アルミニウムを基材として、表面にカーボンを被覆したカーボンアルミニウム複合材料等を用いてもよい。
【0034】
成形体301は、図4に示されるように、カバー305を取り付けて導通面を保護しておく。カバー305の材質としては、例えばアルミ材を用いることができる。
【0035】
次いで、図5に示すように、マスク306を介して親水材料の分散液307をスプレーコーティングする。図示していないが、分散液をスプレーコーティングする際には、成形体301をホットプレート等により40〜200℃に加熱しておく。
【0036】
分散液306は、親水材料を分散媒に分散させて調製することができる。親水材料としては、例えばシリカを用いることができ、分散媒としては、例えばメタノールと水との混合溶媒等が挙げられる。分散液における親水材料の濃度およびスプレー量は、所望の凹凸表面が得られるように適宜決定すればよい。親水材料の濃度は、1〜20重量%の範囲内が好ましい。
【0037】
成形体の流路にスプレーされた分散液が硬化後には、図6に示されるように、ベース層302と凹凸層303との積層体からなる親水層304が得られる。ベース層302の厚さは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、水の排出性をよりいっそう高めることができ、何等不都合を伴なうこともない。コーティング量によって、ベース層302の厚さを所定の範囲内に規定することができる。
【0038】
マスク306を除去し、成形体301の導電面からカバー305を取り除いて、図7に示すようなセパレータが得られる。
【0039】
場合によっては、図8に示されるように、マスク306を配置する前に、成形体301の流路の底面にベース層302を形成してもよい。次いで、図9に示すように、マスク306を介して所定の分散液307をスプレーコーティングする。これ以降の工程は、すでに説明したとおりである。
【0040】
本実施形態のセパレータにおいては、親水層304を構成する凹凸層303の表面形状が、次のように規定される。微細な凹凸の平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下であり、その最大高さRyが5μm以上15μm以下である。
【0041】
凹凸層303の凹凸の平均間隔Smが2×102μmより小さい場合、あるいはSmが4×102μmより大きい場合には、セパレータ表面の表面積を十分に大きくすることができない。その結果、セパレータにおける水の保水性が低下して親水性が低下する。凹凸の平均間隔Smは、例えばメッシュ寸法を適切に制御することにより所望の範囲に調節することができる。
【0042】
また、凹凸層303の表面の最大高さRyが5.0μmより小さくなると、セパレータ表面の表面積が減少し、親水性が低下する。一方、Ryが15.0μmより大きくなると、アンカー効果による水の移動抵抗が大きくなり、水の排出性が悪くなる。さらに、ガスケット面からのガスリークが生じることとなる。凹凸層の表面の最大高さRyは、例えばコーティング量を制御して所望の範囲に調節することができる。
【0043】
上述したように本実施形態においては、セパレータの流路の底面に設けられる親水層の表面状態を所定の範囲に規定する。具体的には、平均間隔が2×102μm以上4×102μm、最大高さが5μm以上15μm以下の凹凸を、親水層の表面に形成する。これによって、親水性を高めることが可能となった。こうした知見は、本発明者らによって始めて見出されたものである。
【0044】
なお、凹凸層303の表面における凹凸の算術平均面粗さRaは、0.5μm以上1.5μm以下の範囲内であることが好ましい。この場合には、水の排出性をよりいっそう高めることができる。上述した凹凸の平均間隔Smおよび最大高さRyの場合と同様、凹凸の算術平均面粗さRaもまた、JIS B 0601−1994に準拠して求めることができる。
【0045】
次に、他の実施形態にかかるセパレータについて説明する。
【0046】
他の実施形態にかかるセパレータは、流路が設けられた金属からなる成形体、および、前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする。
【0047】
こうしたセパレータの流路の底面の拡大図を図10に示す。図示するセパレータ400においては、金属からなる成形体401の流路の底面に酸化物層402が形成される。酸化物層402は、シリカと酸化スズとを含み、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下に規定される。
【0048】
図示するセパレータは、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0049】
まず、図11に示すように、金属からなる成形体401を準備する。一定の導電性および熱伝導性を有するものであれば、任意の金属を用いることができ、その材料は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼板またはステンレス鋼を基材として、この上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理が施された材料用いることができる。なお、表面処理としては、例えば、めっき処理、金等の金属薄膜の蒸着、および金薄板とのクラッド化などが挙げられる。さらに、アルミニウムを基材として、表面にカーボンを被覆したカーボンアルミニウム複合材料等を用いてもよい。
【0050】
成形体401における流路の底面は、平坦であってもよいが、図12に示されるように微細な凹凸が形成されていてもよい。凹凸は、平均間隔Smが1μm以上20μm以下、最大高さRyが1μm以上5μm以下であることが好ましい。こうした範囲内の凹凸が流路の底面に存在すれば、セパレータの表面積を十分に確保することができる。その結果、親水性をよりいっそう高めることができる。平均間隔Smおよび最大高さRyは、上述したようにJIS B 0601−1994に準拠して求められる。
【0051】
微細な凹凸は、例えば薬液処理といった手法により、流路の底面に形成することができる。
【0052】
成形体401は、図13に示されるようにカバー403を取り付けて導通面を保護しておく。カバー403の材質としては、例えばアルミ材を用いることができる。
【0053】
次いで、図14に示すように、流路の底面に酸化物層402を形成する。酸化物層402は、成形体401をホットプレート等により40〜200℃に加熱しつつ、所定の分散液をスプレーコーティングすることによって形成することができる。
【0054】
ここで用いられる分散液は、親水材料を分散媒に分散させて調製することができる。親水材料としては、シリカと酸化スズとの混合物が用いられ、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下に規定される。分散媒としては、例えばメタノールと水との混合溶媒等が挙げられる。分散液における親水材料の濃度は、1〜20重量%の範囲内が好ましい。
【0055】
成形体の流路にスプレーされた分散液が硬化後には、図14に示されるように、酸化物層402が得られる。酸化物層402の厚さは、0.2μm以上3μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、水の排出性を十分に確保することがき、何等不都合を伴なうこともない。コーティング量によって、酸化物層402の厚さを所定の範囲内に規定することができる。
【0056】
流路の底面に酸化物層402が形成された後、成形体401の導電面からカバー403を取り除いて、図15に示すようなセパレータが得られる。
【0057】
本実施形態のセパレータにおいては、所定の組成の酸化物層402が流路の底面に設けられる。酸化物層402はシリカと酸化スズとを含有し、酸化スズの含有量は、シリカの重量の0.0001%以上30%以下である。
【0058】
酸化スズの含有量がシリカ重量の0.0001%未満の場合には、相対出力降下が大きくなって、相対出力が低下する。一方、酸化スズの含有量がシリカ重量の30%を越えると、水との親和性が小さくなって親水性が低下する。こうした知見は、本発明者らによって始めて見出されたものである。なお、酸化スズの含有量は、シリカ重量の0.1%以上3%以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明の実施形態においては、流路の底面に所定の親水処理を施したことによって、水の吸収性および排出性の優れたセパレータが得られた。
【0060】
以下に、本発明の具体例を示す。
【0061】
(実施形態I)
ステンレス製の成形体を用いて、以下の手法により本実施形態のセパレータを作製した。
【0062】
親水材料としてのシリカを、分散媒としてのメタノールと水との混合溶媒に5重量%の濃度で分散させて分散液を調製した。
【0063】
成形体301は、流路以外の導通面をアルミ製のカバー305で保護し、ホットプレート上に載置して150℃に加熱した。
【0064】
導通面が保護された成形体301上にマスク306を配置して、分散液307をスプレーコーティングした。マスク306としてはステンレス製メッシュを用い、スプレーされる分散液の量は、スプレーガンにより調節した。40mlの分散液がスプレーされた後、硬化させることにより、ベース層302と凹凸層303との積層からなる親水層304が、成形体301の流路の底面に形成された。
【0065】
マスク306を除去し、導通面からカバー305を取り外して、セパレータ300が得られた。ここで得られたセパレータを(I−1)とする。
【0066】
さらに、コーティング量、マスクメッシュ等の条件を変更して、(I−2)〜(I−9)のセパレータを作製した。得られたセパレータについて、凹凸の平均間隔Sm、最大高さRy、および算術平均面粗さRaを求めた。ここでの測定は、JIS B 0601−1994に準拠して行なった。その結果を、親水層の形成条件とともに、下記表1にまとめる。
【表1】
【0067】
上記表1に示される9種のセパレータのうち(I−1)〜(I−5)は、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、かつ最大高さRyが5〜15μmの凹凸が、親水層の表面に存在する。
【0068】
さらに、各セパレータの親水層について広がり面積比を求めた。広がり面積比は、次の手法により測定した。セパレータの1cm上方から0.1μLの水滴を滴下し、30秒経過時の水滴の広がり面積を写真撮影し、これを画像処理することにより測定した。(I−7)のセパレータの広がり面積を1として相対値を求めた。得られた結果を、下記表2にまとめる。
【表2】
【0069】
上記表2に示されるように、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、最大高さRyが5〜15μmの凹凸を表面に有する親水層は、こうした条件が欠如している親水層と比較して、高い親水性を有している。
【0070】
(燃料電池の作製方法)
得られたセパレータを用いて、DMFCを作製した。まず、Nafion112を準備し、縦40mm横50mm程度の寸法に切断した。(G.Q.Lu,etal Electrochimica Acta 49(2004)821〜828)にしたがって、過酸化水素および硫酸でNafion112に前処理を施して、電解質膜10を作製した。
【0071】
Johnson&Matthey社製のPt/Ru合金触媒(Pt/RuBlackHiSPEC6000)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldrich SE−29992 Nafion重量5wt%)とを混合分散して、アノード触媒材料を調製した。PTFEシート上に塗布し、乾燥してアノード触媒層を形成した。乾燥後のアノード触媒層中のPt/RuのLoading量は、約6mg/cm2程度であった。
【0072】
また、E−TEK社製のPt/C触媒(HP40wt%PtonVulcanXC−72R)と、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液(Dupont社製Nafion溶液 Aldich SE−20092、Nafion重量5wt%)とを混合分散して、カソード触媒材料を調製した。PTFEシート上に塗布し、乾燥してカソード触媒層を形成した。乾燥後のカソード触媒層中のPtのLoading量は、約2.6mg/cm2程度であった。
【0073】
アノード触媒層およびカソード触媒層は、それぞれPTFEシートに載置した状態で、縦14mm横100mmの寸法に切断した。切断されたアノード触媒層およびカソード触媒層を電解質膜10に押し当て、125℃にて、10kg/cm2で約3分間熱圧着した。PTFEシートを除去して、電解質膜10がアノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aに挟持された積層体からなるCCM(Catalyst Coated Membrane)を得た。アノード触媒層20aおよびカソード触媒層30aの厚みは、いずれも約30μm程度であった。
【0074】
CCMのアノード触媒層20aの上には、燃料調整層(図示せず)を配置し、アノードGDL20bとして、東レ社製カーボンペーパーTGPH−090に対し、約30wt%のPTFEにより撥水処理が施されたE−TEK社製TGPH−090,30wt%.Wetproofedを設けた。さらに、アノードGDL20bの上には、アノードセパレータ50を配置した。
【0075】
CCMのカソード触媒層30aの上には、MPL層付きカソードGDL層(E−TEK社製Elat GDL LT−2500−W(厚さ約360μm))を配置した。カソードGDL30bの上には、カソードセパレータ60を配置した。
【0076】
(評価)
図示しない燃料供給手段を用いてアノードGDLに対して、濃度1.2M、燃料供給量を0.7cc/minの燃料を供給した。さらに、図示しない酸化剤ガス供給手段を用いてカソードGDLから、酸素濃度20.5%、湿度30%を供給し、500時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。
【0077】
この際、図示しない温度調節器により燃料供給手段および酸化剤ガス供給手段に設けられた図示しない温度センサで測定される温度を60℃とし、空気および燃料の予備加熱は行なわなかった。
【0078】
500時間後の電圧降下を、下記表3にまとめる。
【表3】
【0079】
以上の結果に示されるように、平均間隔Smが2×102〜4×102μm、最大高さRyが5〜15μmの凹凸を表面に有する親水層が流路底面に設けられたセパレータを備えたDMFCは、500時間後の電圧降下が10%以下である。この程度の降下は、実質的に影響を及ぼさない。セパレータの親水性が向上し、燃料電池としての耐フラッディング性が大幅に向上したことが確認された。
【0080】
これに対し、所定の表面状態を有する親水層を含まないセパレータが用いられた場合には、500時間後の電圧降下が最大で50%にも及んでいる。
【0081】
(実施形態II)
ステンレス製の成形体を用いて、以下の手法により本実施形態のセパレータを作製した。ここで用いた成形体の流路の底面は、平坦であった。
【0082】
親水材料としてのシリカと酸化スズとを準備した。シリカの重量の0.0001%となる量で酸化スズを混合し、分散媒としてのメタノールと水との混合溶媒に分散させて分散液を調製した。なお、分散液中における親水材料の濃度は、5.0005重量%であった。
【0083】
成形体401は、流路以外の導通面をアルミ製のカバー403で保護し、ホットプレート上に載置して150℃に加熱した。
【0084】
導通面が保護された成形体401上に、分散液をスプレーコーティングした。スプレーされる分散液の量は、最終的にコーティングされる量により調節した。40mlの分散液がスプレーされた後、硬化させることにより、シリカと酸化スズとを含む酸化物層402が、成形体401の流路の底面に形成された。
【0085】
導通面からカバー403を取り外して、セパレータ400が得られた。ここで得られたセパレータを(II−1)とする。
【0086】
さらに、酸化スズの濃度を以下のように変更した分散液を用いて、(II−2)〜(II−7)のセパレータを作製した。なお、(II−6)および(II−7)においては、平均間隔Smが300μm、最大高さRyが10μmの凹凸を流路底面に有する成形体を用いた。
【表4】
【0087】
上記表4に示されるように7種類のセパレータのうち(II−1)〜(II−6)は、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズが酸化物層に含有される。
【0088】
さらに、各セパレータの親水層について広がり面積比を求めた。広がり面積比は、次の手法により測定した。セパレータの1cm上方から0.1μLの水滴を滴下し、30秒経過時の水滴の広がり面積を写真撮影し、これを画像処理することにより測定した。(II−7)のセパレータの広がり面積を1として相対値を求めた。得られた結果を、下記表5にまとめる。
【表5】
【0089】
上記表5に示されるように、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズが含有される酸化物層は、こうした条件が欠如している酸化物と比較して、高い親水性を有している。
【0090】
被覆量と相対広がり面積との関係を、図16のグラフに示す。図16のグラフに示されるように、被覆量が増加するにしたがって相対広がり面積も増大している。しかしながら、被覆量が2.5mg/cm2を越えると、相対広がり面積はそれ以上増加せずに一定となる。
【0091】
得られたセパレータを用いて、DMFCを作製した。ここでのDMFCは実施形態Iに記載した「燃料電池の作製方法」と同様に作製した。
【0092】
図示しない燃料供給手段を用いてアノードGDLに対して、濃度1.2M、燃料供給量を0.7cc/minの燃料を供給した。さらに、図示しない酸化剤ガス供給手段を用いてカソードGDLから、酸素濃度20.5%、湿度30%を供給し、500時間燃料電池を稼動させて出力電圧の電池特性を評価した。
【0093】
この際、図示しない温度調節器により燃料供給手段および酸化剤ガス供給手段に設けられた図示しない温度センサで測定される温度を60℃とし、空気および燃料の予備加熱は行なわなかった。
【0094】
500時間後の電圧降下を、下記表6にまとめる。
【表6】
【0095】
以上の結果に示されるように、シリカの重量の0.0001〜30%の酸化スズを含有する親水層が流路底面に設けられたセパレータを備えたDMFCは、300時間後の電圧降下が10%以下である。この程度の降下は、実質的に影響を及ぼさない。セパレータの親水性が向上し、燃料電池としての耐フラッディング性が大幅に向上したことが確認された。
【0096】
これに対し、所定量の酸化スズが含有されない親水層を含まないセパレータが用いられた場合には、300時間後の電圧降下が最大で40%にも及んでいる。
【0097】
上述の(II−6)と(II−7)とについて、相対出力の時間変化を図17のグラフに示す。親水層に所定の割合で酸化スズが含有された場合には、300時間経過後でも相対出力の低下は5%程度にとどまっている。さらに1000時間経過後においても、相対出力の低下は5%程度であった。これに対して、酸化スズが含有されない場合には、40時間経過にすでに、許容し得ない範囲まで出力が低下することがわかる。
【0098】
なお、本発明は上述した実施形態自体に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することが可能である。また、実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせによって、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…電解質膜; 20…アノード; 20a…アノード触媒層
20b…アノード拡散層; 30…カソード; 30a…カソード触媒層
30b…カソード拡散層; 40…膜電極接合体; 50…アノードセパレータ
60…カソードセパレータ; 100…燃料電池セル; 300…セパレータ
301…成形体; 302…ベース層; 303…凹凸層; 304…親水層
305…カバー; 306…マスク; 307…分散液; 400…セパレータ
401…成形体; 402…酸化物層; 403…カバー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、
前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記ベース層は、0.2μm以上3μm以下の厚さのシリカ層であり、前記凹凸層はシリカを含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
流路および導通面を有する成形体の前記導通面を保護する工程、
前記成形体を40℃以上200℃以下に加熱しつつ、1重量%以上20重量%以下の親水材料を含む分散液を、マスクを介して前記流路の底にスプレーコーティングして、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を形成する工程
を具備することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記マスクを介して前記分散液を前記流路の底にスプレーコーティングする前に、マスクを介さずに前記分散液を前記流路の底にスプレーコーティングする工程をさらに具備することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、
前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
前記酸化物層における前記酸化スズの量は、前記シリカの重量の0.1%以上3%以下であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
前記成形体の前記流路の底面は、平均間隔Smが1μm以上20μm以下、最大高さRyが1μm以上5μm以下の凹凸を有することを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
前記酸化物層は、0.2μm以上3μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項10】
アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置され、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を具備し、
前記凹凸層は、平均間隔Smが2×102μm以上4×102μm以下、最大高さRyが5μm以上15μm以下の凹凸を表面に有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記ベース層は、0.2μm以上3μm以下の厚さのシリカ層であり、前記凹凸層はシリカを含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
流路および導通面を有する成形体の前記導通面を保護する工程、
前記成形体を40℃以上200℃以下に加熱しつつ、1重量%以上20重量%以下の親水材料を含む分散液を、マスクを介して前記流路の底にスプレーコーティングして、ベース層とこの上に設けられた凹凸層とを含む親水層を形成する工程
を具備することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記マスクを介して前記分散液を前記流路の底にスプレーコーティングする前に、マスクを介さずに前記分散液を前記流路の底にスプレーコーティングする工程をさらに具備することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
流路が設けられた金属からなる成形体、および
前記流路の底面に配置された酸化物層を具備し、
前記酸化物層は、シリカとこのシリカの重量の0.0001%以上30%以下の酸化スズとを含むことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
前記酸化物層における前記酸化スズの量は、前記シリカの重量の0.1%以上3%以下であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
前記成形体の前記流路の底面は、平均間隔Smが1μm以上20μm以下、最大高さRyが1μm以上5μm以下の凹凸を有することを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
前記酸化物層は、0.2μm以上3μm以下の厚さを有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項10】
アノード触媒層およびカソード触媒層に挟持された電解質膜と、前記アノード触媒層に隣接するアノードガス拡散層と、前記カソード触媒層に隣接するカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体、
前記アノードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたアノードセパレータ、および
前記カソードガス拡散層に接して前記膜電極接合体の外側に配置されたカソードセパレータを具備し、
前記カソードセパレータは、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−225560(P2010−225560A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74709(P2009−74709)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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