説明

燃料電池用セパレータおよび燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】防食性に優れ耐久性がより向上した燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータは、SUS製セパレータ基材20のガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、SUS製セパレータ基材20の周縁部表面であってSUS製セパレータ基材20の不動態皮膜22上に鉄系水和酸化物皮膜24が形成され、さらに鉄系水和酸化物皮膜24上に水溶性電着樹脂層26が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよび燃料電池用セパレータの製造方法、特に、セパレータ基材と樹皮被覆層との密着性を向上させ耐久性に優れた燃料電池用セパレータおよび燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、図4に示すように、固体高分子膜からなる電解質膜52を燃料極50と空気極54との2枚の電極で挟んだ接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を、さらに2枚のセパレータ40に挟持してなるセルを最小単位とし、通常、このセルを複数積み重ねて燃料電池スタック(FCスタック)とし、高圧電圧を得るようにしている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の発電の仕組みは、一般に、燃料極(アノード側電極)50に燃料ガス、例えば水素含有ガスが、一方、空気極(カソード側電極)54には酸化剤ガス、例えば主に酸素(O2)を含有するガスあるいは空気が供給される。水素含有ガスは、セパレータ40の表面に加工された細かい溝を通って燃料極50に供給され、電極の触媒の作用により電子と水素イオン(H+)に分解される。電子は外部回路を通って、燃料極50から空気極54に移動し、電流を作り出す。一方、水素イオン(H+)は電解質膜52を通過して空気極54に達し、酸素および外部回路を通ってきた電子と結合し、反応水(H2O)になる。水素(H2)と酸素(O2)および電子の結合反応と同時に発生する熱は、冷却水によって回収される。また、空気極54のあるカソード側に生成した水(以下「反応水」という)は、カソード側から排出される。
【0004】
さらに、上述したMEAを挟持する2枚のセパレータは、水素ガスと酸素ガスとを隔てる役割をする仕切り板であるとともに、積み重ねられたセルを電気的に直列に接続する機能も有する。また、2枚のセパレータの表面には細かい凹凸の溝が形成され、この溝は水素含有ガスと酸素含有ガスまたは空気を流通させるガス流通路となっている。
【0005】
従来のセルの構造の一例が、図5および図6に示されている。なお、図6のA−A’線に沿った断面を図5に示す。
【0006】
図5、図6に示すように、2枚のセパレータ110,120の両端には、それぞれ、燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水を供給される供給連通孔12a,12b,12cおよび燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水が排出される排出連通孔14a,14b,14cが設けられ、さらに、セパレータ110,120には、供給連通孔12a,12bから供給された燃料ガスや酸化剤ガスをそれぞれ流通させるガス流路152,154が設けられている。また、セパレータ110,120の対向面にはそれぞれ凹部106,116が設けられ、接合体であるMEA30の両面周縁部には、それぞれ燃料ガスと酸化剤ガスとを隔てるためのシール材60a,60bが設けられおり、このシール材60a,60bは、それぞれ接着材70a,70bによって、2枚のセパレータ110,120に接着されて、セルが形成されている。
【0007】
しかしながら、セパレータとして、ステンレス鋼(いわゆる、SUS)である場合、図3に示すように、SUS製セパレータ基材20の表面に酸化クロム膜からなる不動態皮膜22が形成されている。一方、上述した接着剤およびシール材は、近年環境に優しい素材を用いる傾向にあり、例えば、従来の溶剤に可溶な親油性の樹脂から水溶性樹脂を用いる傾向になってきている。一方、上記不動態皮膜22は、親水性の水溶性樹脂との親和性が低い。したがって、上記水溶性樹脂を接着剤として、または接着剤を用いずシール材として直接SUS製セパレータ基材20上に接着させた場合、密着力が弱く、一対のセパレータ間に上記接合体を挟持した燃料電池用セルをスタック状に積層しマニホールドにて圧力をかけてスタック締結した際にずれ応力が発生し、樹脂の剥がれが生じたり、また、その他使用中に生じる熱膨張などにより樹脂の剥がれたり、場合によっては脱着が発生したりするおそれもあった。
【0008】
また、中央の燃料ガス流路に燃料ガスを流入・流出させるためのマニホールドを設けた金属薄板本体からなる固体高分子型燃料電池セパレータにおいて、上記マニホールドの端面にフッ素樹脂被覆層を設け、このフッ素樹脂被覆層により、金属薄板本体の露出面が保護されて、金属薄板本体の腐食を防止することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−25574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、益々燃料電池の需要が増すなか、燃料電池の耐久性向上が望まれている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、セパレータ基材上に予め樹脂層と密着性の高い鉄系水和酸化物皮膜を形成し、この鉄系水和酸化物皮膜上に樹脂層を形成させて耐久性に優れた燃料電池用セパレータおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の燃料電池用セパレータおよびその製造方法は、以下の特徴を有する。
【0013】
(1)ステンレス鋼からなる一対のセパレータ基材のそれぞれのガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、前記一対のセパレータ基材の周縁部表面に鉄系水和酸化物皮膜が形成され、前記一つのセパレータ基材の少なくとも一方の鉄系水和酸化物皮膜上に水溶性電着樹脂からなる樹脂層が形成された燃料電池用セパレータである。
【0014】
上記アルカリ溶液中で陰極電解処理により形成された鉄系水和酸化物皮膜は、ステンレス鋼からなるセパレータ基材の表面に存在する不動態皮膜上に形成されるため、上記電解処理されたセパレータ基材は、処理前のセパレータ基材の防食性を維持することが可能である。さらに、上記鉄系水和酸化物皮膜とセパレータ基材上の不動態皮膜とはその組成が近似するため金属結合により密着性が高い。一方、上記鉄系水和酸化物皮膜は、その上に形成される樹脂層を形成する水溶性電着樹脂の親水性官能基と例えば水素結合によって結合することができるため、上記鉄系水和酸化物皮膜と樹脂層との密着性も高い。したがって、一対のセパレータ間に上記接合体を挟持した燃料電池用セルをスタック状に積層しマニホールドにて圧力をかけてスタック締結した際に、ずれ応力が発生したとしても、樹脂の剥がれを防止することができ、また、その他使用中に生じる熱膨張などがあったとしても樹脂とセパレータ基材との密着性が高いため、樹脂剥がれたり、脱着するおそれもない。したがって、セパレータ同士のシール効果をより向上させることができる。
【0015】
(2)上記(1)に記載の燃料電池用セパレータにおいて、前記水溶性電着樹脂が、アミン系樹脂である燃料電池用セパレータである。
【0016】
アミン系樹脂は、親和性官能基であるアミン基を有することから、セパレータ基材上に形成された鉄系水和酸化物皮膜の親和性が高く、その結果、セパレータ基材上の鉄系水和酸化物皮膜との密着性も高い。特に、上記鉄系水和酸化物皮膜は、鉄の水酸化物と酸化物との混合組成であることから、アミン系樹脂におけるアミン基との水素結合可能な水酸基などがその表面に多く点在している。したがって、アミン系電着樹脂がセパレータ基材上の鉄系水和酸化物皮膜に馴染み易く、均一な厚みで樹脂層を形成することができるとともに、従来より薄い厚みの樹脂層であっても十分にセパレータのシール効果を得ることができる。また、上記鉄系水和酸化物皮膜とアミン系電着塗料との結合点が多いので、ピンホールが発生することを抑制することができる。
【0017】
(3)ステンレス鋼からなる一対のセパレータ基材のそれぞれのガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、前記一対のセパレータ基材の周縁部表面に鉄系水和酸化物皮膜を形成する工程と、前記一対のセパレータ基材の少なくとも一方の鉄系水和酸化物皮膜上に水溶性電着樹脂を電着する工程と、を有する燃料電池用セパレータの製造方法である。
【0018】
上述したように、アルカリ溶液中で陰極電解処理により形成された鉄系水和酸化物皮膜は、ステンレス鋼からなるセパレータ基材の表面に存在する不動態皮膜上に形成されるため、上記電解処理されたセパレータ基材は、処理前のセパレータ基材の防食性を維持することが可能である。さらに、上記鉄系水和酸化物皮膜とセパレータ基材上の不動態皮膜とはその組成が近似するため金属結合により密着性が高い。一方、上記鉄系水和酸化物皮膜は、その上に形成される樹脂層を形成する水溶性電着樹脂の親水性官能基と例えば水素結合によって結合することができるため、上記鉄系水和酸化物皮膜と樹脂層との密着性も高い。したがって、燃料電池用セルのスタック締結した際に、ずれ応力が発生したとしても、樹脂の剥がれを防止することができ、また、その他使用中に生じる熱膨張などがあったとしても樹脂とセパレータ基材との密着性が高いため、樹脂剥がれたり、脱着するおそれもない。したがって、樹脂層によるセパレータ同士のシール効果がより向上し、得られる燃料電池の耐久性がより向上する。
【0019】
(4)上記(3)に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、前記アルカリ溶液は電解処理溶液であって、前記電解処理溶液は、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液、または、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液に緩衝剤として0.2〜20重量%のリン酸三ナトリウム12水塩、0.2〜20重量%の炭酸ナトリウムを加えた水溶液で、液温が20℃〜95℃、電流密度0.5A/dm2以上、処理時間10秒以上である燃料電池用セパレータの製造方法である。
【0020】
上記条件にて陰極電解処理を行うことにより、均一な鉄系水和酸化物皮膜を形成することができる。
【0021】
(5)上記(3)または(4)に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、前記水溶性電着樹脂がアミン系樹脂である燃料電池用セパレータの製造方法である。
【0022】
上述したように、アミン系樹脂は、親和性官能基であるアミン基を有することから、セパレータ基材上に形成された鉄系水和酸化物皮膜の親和性が高く、その結果、セパレータ基材上の鉄系水和酸化物皮膜との密着性も高い。特に、上記鉄系水和酸化物皮膜は、鉄の水酸化物と酸化物との混合組成であることから、アミン系樹脂におけるアミン基との水素結合可能な水酸基などがその表面に多く点在する。したがって、アミン系電着樹脂がセパレータ基材上の鉄系水和酸化物皮膜に馴染み易く、均一な厚みで樹脂層を形成することができ、さらに従来より薄い厚みの樹脂層であっても十分にセパレータのシール効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、セパレータ同士の密着性の高いので、防食性に優れ、耐久性の高い燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0025】
[燃料電池用セパレータおよびその製造方法]
本発明の好適な実施の形態の燃料電池用セパレータについて、以下に説明する。
【0026】
図1に示すSUS製セパレータ基材としては、例えばSUS304、SUS305、SUS310、SUS316やSUSMX7などのオーステナイト系ステンレス、SUS430などのフィライト系ステンレス、SUS403、SUS410、SUS416やSUS420などのマルテンサイト系ステンレスと、SUS631などの析出硬化系ステンレスなどのステンレス鋼が挙げられる。
【0027】
本実施の形態において、図1に示すように、SUS製セパレータ基材20の両端には、それぞれ、燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水を供給される供給連通孔12a,12b,12cおよび燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水が排出される排出連通孔14a,14b,14cが設けられ、さらに、SUS製セパレータ基材20には、供給連通孔12a,12bから供給された燃料ガスや酸化剤ガスをそれぞれ流通させる凹凸溝のガス流路152,154が設けられている。
【0028】
本実施の形態では、マスキングを施したガス流路152,154を除くSUS製セパレータ20の周縁部28、すなわち、燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水を供給される供給連通孔12a,12b,12cおよび燃料ガスと酸化剤ガスと冷却水が排出される排出連通孔14a,14b,14cの周辺端部並びにセパレータ結合のためのシール領域に、陰極電解処理による鉄系水和酸化物皮膜を形成する。この鉄系水和酸化物皮膜は、鉄の水酸化物と鉄の酸化物の混合物からなる。電解処理済セパレータ100には、図1に示すように、ガス流路152,154を除く周縁部に鉄系水和酸化物皮膜24が形成される。
【0029】
上記マスキングは、電解液の浸透を阻止する略矩形のシール皮膜をSUSU製セパレータ基材20のガス流路上にのち脱離可能に接合してもよい。または、絶縁性の樹脂をSUSU製セパレータ基材20のガス流路上に塗布して固化させるなど、従来のマスキング方法を用いることができる。
【0030】
本実施の形態の陰極電解処理は、アルカリ溶液からなる電解処理溶液中に、図1に示すSUS製セパレータ基材20の電極接続部15にカソードに接続し、このSUS製セパレータ基材20からなるワークを陰極とし、鉄または上述したステンレス鋼を陽極として、所定の厚みの鉄系水和酸化物皮膜を形成する。なお、ステンレス鋼を陽極として用いる場合、ニッケル含有量が3重量%未満のフェライト系ステンレス鋼が好ましい。なお、陰極電解処理の詳細条件については後述する。
【0031】
本実施の形態の陰極電解処理において、セパレータ基材のガス流路領域をマスキングする理由は次の通りである。仮に、上述のマスキングを施すことなく陰極電解処理を行うと、セパレータ基材のガス流路領域にも、鉄系水和酸化物皮膜が形成されることとなる。一方、上述したように、一対のセパレータ間に接合体を挟持して燃料電池用セルを形成し、さらにこの燃料電池用セルを積層して燃料電池を形成する。この燃料電池を使用する際に、ガス流路に燃料ガスまたは酸化剤ガスを流通させると、ガス流路流域に形成された鉄系水和酸化物皮膜から水酸化鉄または酸化鉄が、固体高分子膜からなる電解質膜を燃料極と空気極との2枚の電極で挟んだ接合体に徐々に溶出してゆき、燃料電池の劣化を招くおそれがある。そこで、本実施の形態では、セパレータ基材のガス流路領域をマスキングして上記陰極電解処理時に鉄系水和酸化物皮膜が形成されないようにしている。
【0032】
また、本実施の形態では、アルカリ溶液においてSUS製セパレータ基材20からなるワークを陰極として陰極電解処理を行っている。したがって、図2に示すように、上記鉄系水和酸化物皮膜24は、SUS製セパレータ基材20表面の酸化クロム皮膜からなる不動態皮膜22上に形成される。この鉄系水和酸化物皮膜24の厚みは、最大10nmである。また、後述するアルカリ溶液中で陰極電解処理により形成された鉄系水和酸化物皮膜24は、SUS製セパレータ基材20の表面に存在する不動態皮膜22上に形成されるため、電解処理済セパレータ基材100(図1参照)は、処理前のSUS製セパレータ基材20の防食性を維持しつつ、さらに、上記鉄系水和酸化物皮膜24とセパレータ基材上の不動態皮膜22とはその組成が近似するため金属結合により密着性が高い。
【0033】
仮に、SUS製セパレータ基材20を陽極としてアルカリ溶液にて電解処理した場合には、SUS製セパレータ基材20に形成されている不動態皮膜が溶出し、さらにSUS中の鉄が溶出して酸化鉄皮膜が形成されることとなる。かかる場合、不動態皮膜が消失しているため、防食性が劣化するおそれが高い。また、SUS製セパレータ基材を陽極として酸性溶液にて電解処理した場合、やはり、不動態皮膜が溶出し、さらにSUS中のクロムが溶出して酸化クロム皮膜が形成されることとなる。かかる場合、酸化クロム皮膜は不動態皮膜であることから防食性はあるもの、水溶性樹脂に対する濡れ性が悪いままとなる。したがって、本実施の形態では、SUS製セパレータ基材20を陰極としてアルカリ溶液にて電解処理することが好適である。
【0034】
次に、上記鉄系水和酸化物皮膜24上には、水溶性電着樹脂層26が形成される。この場合は、電解処理済セパレータ基材100(図1)のガス流路部分および電解処理済セパレータ基材100の接合体挟持面と反対面である背面領域に、上述同様のマスキング処理を施した状態で樹脂層が形成される。
【0035】
マスキングを施した電解処理済セパレータ基材100(図1)を陰極とし、上記水溶性電着樹脂層26形成用の水溶性電着樹脂塗料中に浸漬し、対極との間に直流電流を印加することによって、カチオン電着により鉄系水和酸化物皮膜24上に水溶性電着樹脂層26を形成する。ここで、電解処理済みセパレータ基材100(図1)は、そのガス流路152,154の裏面に相当する領域の複数箇所、または、電解処理済セパレータ基材100のマスキングされた領域を除く全面の複数箇所を電極接合部として、カソードに接続され、電解処理済セパレータ基材100からなるワークを陰極として、水溶性電着樹脂塗料が、マスキング以外の領域に電着塗装される。
【0036】
上記水溶性電着樹脂層26を形成する水溶性電着樹脂塗料は、親水性官能基、例えばアミン基を有するアミン系樹脂を用いることができる。アミン系樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アミン硬化エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0037】
上記アミン系樹脂は、親和性官能基であるアミン基を有することから、セパレータ基材上に形成された鉄系水和酸化物皮膜24の親和性が高く、その結果、鉄系水和酸化物皮膜24との密着性も高い。この鉄系水和酸化物皮膜24は、上述したように、鉄の水酸化物と酸化物との混合組成であることから、アミン系樹脂におけるアミン基との水素結合可能な水酸基などがその表面に多く点在する。したがって、アミン系電着樹脂は、セパレータ基材上の鉄系水和酸化物皮膜24に馴染み易く、均一な厚みで水溶性電着樹脂層を形成することができ、さらに従来より薄い厚みの樹脂層であっても十分にセパレータのシール効果を得ることができる。
【0038】
本実施の形態の燃料電池用セパレータの製造方法は、ステンレス鋼からなる一対のセパレータ基材のそれぞれのガス流路をマスキングした後前記ガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、前記一対のセパレータ基材の周縁部表面に鉄系水和酸化物皮膜を形成する工程と、前記一対のセパレータ基材の少なくとも一方の鉄系水和酸化物皮膜上に水溶性電着樹脂を電着する工程と、を有する。
【0039】
上記陰極電解処理の条件は、前記アルカリ溶液は電解処理溶液であって、前記電解処理溶液は、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液、または、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液に緩衝剤として0.2〜20重量%のリン酸三ナトリウム12水塩、0.2〜20重量%の炭酸ナトリウムを加えた緩衝水溶液で、液温が20℃〜95℃、電流密度0.5A/dm2以上、処理時間10秒以上である。
【0040】
上記条件の範囲が好ましい理由は、以下の通りである。すなわち、5重量%未満の水酸化ナトリウム、0.2重量%未満のリン酸三ナトリウム12水塩、0.2重量%の炭酸ナトリウムではSUS製セパレータ基材20の表面に均一な有効な鉄系水和酸化物皮膜が得られにくく、後の水溶性電着樹脂との密着性が低くなるおそれがある。また、50重量%を超える水酸化ナトリウム、20重量%を超えるリン酸三ナトリウム12水塩、20重量%の炭酸ナトリウムでは、電解溶液の劣化が著しく、また、経済的にも不利である。また、液温が20℃未満の場合には、鉄系水和酸化物皮膜の形成が不十分となり、一方95℃を超える場合には、鉄系水和酸化物皮膜の形成時間が短縮し、消費電力が軽減されるものの、電解溶液濃度の管理が難しく、場合によって不均一な皮膜が形成されるおそれがある。また、電流密度0.5A/dm2未満、処理時間10秒未満の場合には、鉄系水和酸化物皮膜の形成が不十分となり、のちの水溶性電着樹脂との密着性が劣化するおそれがある。
【0041】
なお、陰極電解処理並びに電着塗装について、上述同様であるため、ここでの説明は省略する。また、ガス流路をマスキングした後、陰極電解処理を行う理由は上述同様である。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の燃料電池用セパレータについて、実施例を用いて説明する。なお、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制約されるものはない。
【0043】
[実施例1]
アルカリ溶液にて陰極電解処理を行ったSUS製セパレータ基材表面と未電解処理のSUS製セパレータの表面との濡れ性の比較:
オーステナイト系ステンレス鋼SUSからなるセパレータ基材のガス流路領域に、四隅に着脱可能な吸盤を有する略矩形のゴム製のシール部材を接合する。このマスキングされたセパレータ基材を陰極とし、フェライトステンレス鋼SUS430からなる板片を陽極として、水酸化ナトリウム20重量%、リン酸三ナトリウム12水塩5重量%、炭酸ナトリウム5重量%の電解水溶液とし、80℃の電解水溶液中で陰極電解電流密度6A/dm2で120秒処理した後、水洗し、上記シール部材を脱離させたのち、処理済みセパレータ基材を乾燥させた。得られた電解処理済みセパレータ基材を「セパレータ基材A」という。
【0044】
一方、上記電解処理を施していない未処理のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなるセパレータ基材を「セパレータ基材B」という。
【0045】
<濡れ性試験とその濡れ性の基準>
全自動接触角計「DM700」(協和界面科学株式会社製)を用いて、純水を用いて接触角θを測定した。接触角θは0°に近づくほど水濡れ性が高いことを示す。本発明では、接触角θが上記測定条件で、45°以下であることが望ましい。
【0046】
上記濡れ性試験の結果、上記セパレータ基材Aの鉄系水和酸化物皮膜表面の接触角θは2〜10°であった。一方、電解未処理のセパレータ基材B表面の接触角θは65〜75°であった。これらより、上記陰極電解処理により、親水性の高い鉄系水和酸化物皮膜が形成され、濡れ性が改善されたことが判明した。
【0047】
[実施例2]
上記陰極電解処理が施されたセパレータ基材Aのガス流路領域に、四隅に着脱可能な吸盤を有する略矩形のゴム製のシール部材を接合するとともに、セパレータAの接合体挟持面と反対面である背面全面に、同様にゴム製のシール部材を接続した。そののち、ポリアミドイミド樹脂塗料を含有する塗料濃度20重量%の電着浴に、上記マスキング済みのセパレータ基材Aを陰極として浸漬し、塗極比+/−:−1/2、極間距離:15cm、液温30℃に調整した。5秒で所定の電圧となるよう印加電圧を上げ、所定の電圧に達した後、115〜145秒間印加電圧を保持し、カチオン電着塗装を行った。得られた樹脂層形成セパレータ基材を「セパレータ基材C」という。
【0048】
上記電解未処理のセパレータ基材Bのガス流路領域に、四隅に着脱可能な吸盤を有する略矩形のゴム製のシール部材を接合するとともに、セパレータBの接合体挟持面と反対面である背面全面に、同様にゴム製のシール部材を接続した。そののち、上記同様の電解浴で同条件の電着塗装条件で樹脂層を形成した。ここで得られた樹脂形成セパレータ基材を「セパレータ基材D」という。
【0049】
<腐食性試験>
硫酸含有pH2.0の酸性溶液+Cl-(500ppm)中に樹脂形成基材を陽極として、対極との間に電圧を印加してゆき、上記陽極と対極との間に腐食電流が流れ出すときの電圧を測定する。
【0050】
上記腐食試験を行った結果、上記陰極電解処理を行う樹脂層が形成されたセパレータCの腐食電流が流れた時の電圧は、1.2V以上であった。一方、電解未処理で樹脂層が形成されたセパレータDの腐食電流が流れた時の電圧は、0.53〜0.55Vであった。上記結果より、明らかに本発明の陰極電解処理を施したのちに樹脂層を形成したセパレータ基材の方が防食性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の燃料電池用セパレータおよびその製造方法は、燃料電池を用いる用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、特に車両用の燃料電池に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の燃料電池用セパレータの陰極電解処理領域を説明するための図である。
【図2】本発明の燃料電池用セパレータにおける鉄系水和酸化物皮膜と水溶性電着樹脂層との密着力について説明する模式図である。
【図3】従来の燃料電池用セパレータにおけるSUS表面と水溶性電着樹脂との密着力について説明する模式図である。
【図4】燃料電池のセルの構成および発電時のメカニズムを説明する図である。
【図5】従来の燃料電池用のセルの一態様の構成を説明する断面図である。
【図6】従来の燃料電池用のセルにおけるセパレータに接着されるシール材の位置を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
20 SUS製セパレータ基材、22 不動態皮膜、24 鉄系水和酸化物皮膜、26 水溶性電着樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなる一対のセパレータ基材のそれぞれのガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、前記一対のセパレータ基材の周縁部表面に鉄系水和酸化物皮膜が形成され、前記一つのセパレータ基材の少なくとも一方の鉄系水和酸化物皮膜上に水溶性電着樹脂からなる樹脂層が形成された燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
前記水溶性電着樹脂が、アミン系樹脂である燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
ステンレス鋼からなる一対のセパレータ基材のそれぞれのガス流路を除く周縁部表面をアルカリ溶液中で陰極電解処理を行い、前記一対のセパレータ基材の周縁部表面に鉄系水和酸化物皮膜を形成する工程と、
前記一対のセパレータ基材の少なくとも一方の鉄系水和酸化物皮膜上に水溶性電着樹脂を電着する工程と、を有する燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記アルカリ溶液は電解処理溶液であって、
前記電解処理溶液は、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液、または、5〜50重量%の水酸化ナトリウム溶液に緩衝剤として0.2〜20重量%のリン酸三ナトリウム12水塩、0.2〜20重量%の炭酸ナトリウムを加えた水溶液で、液温が20℃〜95℃、電流密度0.5A/dm2以上、処理時間10秒以上である燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記水溶性電着樹脂がアミン系樹脂である燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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