説明

燃料電池用フレーム部材およびその製造方法

【課題】絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示す燃料電池用フレーム部材を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を30〜70質量部含み、25〜130℃における熱膨張係数が45×10−6/K以下、絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である炭素/樹脂硬化成形体からなることを特徴とする燃料電池用フレーム部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用フレーム部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するもので、電気エネルギーへの変換効率が高く、騒音や振動も少ないことから、携帯機器、自動車、鉄道、コジェネレーション等の多様な分野における電源として今後の発展が期待されている。
【0003】
燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)の両面を白金などの触媒を担持させたアノード電極板およびカソード電極板で挟み、その両外側に板状セパレータを配してなる単セルを基本構成単位とし、この単セルを数十〜数百個積層させたスタックとその外側に設けた2つの集電体等から構成されてなるものである。
PEFCのうち、車載用PEFCにおいては、1スタックあたり数百個の単セルが積層されることから、使用されるセパレータ数も数百枚に亘る。
【0004】
PEFC用のセパレータとしては、種々の形態を有するものが提案されているが、近年、アノード電極に対向する燃料ガスプレート(アノードプレート)と、カソード電極に対向する酸化剤ガスプレート(カソードプレート)と、これ等のプレートに挟持される中間プレート(フレーム部材)を備えてなるものが提案されるに至っている(特許文献1(特開2010−40450号公報)参照)。
上記セパレータにおいては、セパレータを構成する各プレートに、燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ外部から供給し排出するための貫通孔が設けられるとともに、フレーム部材を介してアノードプレートからアノード電極に燃料ガスを供給する連通孔と、フレーム部材を介してカソードプレートからカソード電極に酸化剤ガスを供給する連通孔とが設けられ、上記構造を有するために均一なガス供給が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−40450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PEFC用セパレータとしては、セル間の絶縁性の高いものが必要とされ、長期に亘って安定して発電を行うために、高度の耐食性を有し不純物溶出特性の低いものが求められている。
また、近年、車載用PEFCのセパレータとして、薄型で軽量なものが求められるようになっていることから、スタックを形成する個々のセパレータにおいて、組立時や締結時の荷重に耐え得る、より高い強度を有するものが求められるようになっており、さらに、車載用PEFCのセパレータとしては、PEFCの起動、停止による冷熱サイクルに伴う膨張収縮の繰り返しや、自動車の振動による負荷に耐え得る高度の耐久性(疲労特性)や信頼性を有するものが求められるようになっている。
【0007】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、燃料電池用フレーム部材として、特許文献1で提案されている無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、ガラス繊維等の繊維状フィラーおよびシランカップリング剤を含む材料からなるものを使用した場合、触媒活性を低減する等、発電性能の低下をもたらすことが判明した。これは、PEFCにおいて一般に固体高分子膜として使用されているフッ素系の固体高分子膜が熱水と反応して極微量のフッ化水素(フッ酸)を発生し、この微量のフッ酸によって、ガラス繊維やシランカップリング剤からSi成分が溶出してしまうためと考えられる。
【0008】
また、燃料電池用フレーム部材の形成材料として特許文献1で提案されているマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いた場合には、燃料電池の使用温度領域において、セパレータに充分な剛性を付与し難いことが判明した。
【0009】
このような状況下、本発明は、絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示す燃料電池用フレーム部材および該燃料電池用フレーム部材を簡便に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術課題を解決するために本発明者がさらに検討したところ、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を30〜70質量部含み、25〜130℃における熱膨張係数が45×10−6/K以下、絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である炭素/樹脂硬化成形体からなる燃料電池用フレーム部材および該燃料電池用フレーム部材を簡便に作製する方法を見出すことにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を30〜70質量部含み、
25〜130℃における熱膨張係数が45×10−6/K以下、絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である炭素/樹脂硬化成形体
からなることを特徴とする燃料電池用フレーム部材、
(2)上記(1)に記載の燃料電池用フレーム部材を製造する方法であって、
熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末30〜70質量部を乾式混合するともにさらに硬化促進剤を乾式混合し、
前記熱硬化性樹脂バインダーの融点以上、硬化促進剤の反応開始温度未満の温度下で混練して混練物を作製した後、
得られた混練物を成形金型に投入して、1〜20MPaの圧力下、硬化促進剤の反応開始温度以上の温度下で熱圧成形する
ことを特徴とする燃料電池用フレーム部材の製造方法
を提供するものである。
なお、以下、燃料電池用フレーム部材を、適宜フレーム部材と称することとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱硬化性樹脂バインダーを特定量含むとともに特定の物性を有する炭素粉末を特定量含む炭素/樹脂硬化成形体からなるものであることにより、絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示す燃料電池用フレーム部材を提供することができるとともに、該燃料電池用フレーム部材を簡便に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明のフレーム部材について説明する。
本発明の燃料電池用フレーム部材は、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を30〜70質量部含み、
25〜130℃における熱膨張係数が45×10−6/K以下、絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である炭素/樹脂硬化成形体
からなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のフレーム部材は、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を含む炭素/樹脂硬化成形体からなる。
【0015】
本発明のフレーム部材において、炭素粉末の熱膨張係数は、2.8×10−7/K〜5.2×10−7/Kであり、3.0×10−7/K〜4.5×10−7/Kであることが好ましい。
【0016】
セパレータを構成するアノードプレートやカソードプレートとしては、通常金属製のものが用いられるが、炭素粉末の熱膨張係数が上記範囲内にあることにより、アノードプレートやカソードプレートを構成する金属材料(SUS310、SUS304、SUS316等のステンレスや、チタン、アルミ等)との熱膨張係数の差を小さくすることができ、上記金属製のプレートとフレーム部材との熱膨張の差を抑制して、フレーム部材の割れや破断歪みの発生を抑制することができる。
【0017】
なお、本出願書類において、炭素粉末の熱膨張係数は、以下の方法により測定された値を意味する。
先ず、炭素粉末に対し、バインダーピッチを、該バインダーピッチの含有割合が30質量%になるように加えた後、押し出し成形器で円柱状物を作製し、次いで加熱炉にて不活性雰囲気下1000℃で焼成して、直径5mm、長さ10mmの円柱状試験片を作製する。
この円柱状試験片に対し、(株)島津製作所製 サーモメカニカルアナライザー TMA60を用いて、昇温速度5℃/分で室温から2800℃まで昇温したときに、30〜130℃における平均線膨張係数(1/K)を熱膨張係数とする。
【0018】
本発明のフレーム部材において、炭素粉末の平均粒径は、20μm以下であり、2〜18μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。
【0019】
炭素粉末の平均粒径が20μm以下であることにより、フレーム部材に所望の絶縁性を付与するとともに、セパレータを構成するアノードプレートやカソードプレート等の金属製プレートとの熱膨張差に耐え得る強度や、スタック組み立て時の締付け力等機械的な取り扱いに耐え得る程度の強度や、薄いために十分な剛性を有さない金属製プレートを補強し得る剛性を付与することができる。
炭素粉末の平均粒径が20μm超である場合、アノードプレートやカソードプレート等の金属製プレート間の絶縁性を十分に確保でき難く、充分な強度を担保でき難くなる。
【0020】
なお、本出願書類において、炭素粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を意味する。
【0021】
本発明のフレーム部材において、炭素粉末の結晶面間隔d(002)は、0.3360nm以上であり、0.3380nm以上であることが好ましく、0.3400nm以上であることがより好ましい。炭素粉末の結晶面間隔d(002)の上限は特に制限されないが、通常は0.3500nm以下である。
さらに、本発明のフレーム部材において、炭素粉末の結晶子厚さLc(002)は10nm以下であり、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがより好ましい。炭素粉末の結晶子厚さLc(002)の下限は特に制限されないが、通常は0.5nm以上である。
【0022】
炭素粉末の結晶面間隔d(002)が0.3360nm未満であったり、結晶子厚さLc(002)が10nm超である場合には、得られるフレーム部材の絶縁性を十分に確保でき難くなる。
【0023】
なお、本出願書類において、炭素粉末の結晶面間隔d(002)および結晶子厚さLc(002)は、(株)リガク製X線回折装置UltimaIVを用いて、学振法に準拠して測定された値を意味する。
【0024】
本発明のフレーム部材において、炭素粉末の真比重は2.10g/cm以上であり、2.12g/cm以上であることが好ましい。炭素粉末の真比重の上限は特に制限されないが、通常は2.20g/cm以下である。
炭素粉末の真比重が2.10g/cm以上であることにより、フレーム部材から有機物成分の溶出を抑制して、燃料電池の電池性能の低下を抑制することができる。
【0025】
なお、本出願書類において、炭素粉末の真比重は、JIS R 7212のきていに準拠し、比重瓶を用いたブタノール置換法により測定した値を意味する。
【0026】
本発明のフレーム部材において、炭素粉末として、具体的には、カーボンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛、仮焼コークス粉等から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等の炭素粉末のうち、上記熱膨張係数、平均粒径、結晶面間隔d(002)、結晶子厚さLc(002)、真比重を満たすものを適宜選択すればよい。
これ等の炭素粉末のうち、フレーム部材に要求される絶縁性とアノードプレートやカソードプレート等の金属製プレートとの熱膨張差に耐える強度、低溶出性、十分な剛性を付与し得ることから、ニードルコークスが好適である。
【0027】
ニードルコークスは以下の方法によって作製することができる。
先ず、多環芳香族に富むコールタール、コールタールピッチ等の石炭系重質油、または石油系重質油を原料として、ディレードコーキング法により400〜600℃程度の温度でコーキング反応を行うことによって生コークスを得る。この生コークスを、ロータリーキルン炉、リードハンマー炉、ロータリーハース炉等で、黒鉛化温度未満の1000〜1400℃で仮焼処理することにより、ニードルコークスを得ることができる。
【0028】
本発明のフレーム部材は、炭素/樹脂硬化成形体からなるものであり、炭素粉末を含むことにより、フレーム部材に高い耐薬品性を付与することができ、フッ酸や硫酸等の浸食性の高い薬品に対しても優れた耐食性を有することができる。
また、炭素粉末が上記熱膨張係数、平均粒径、結晶面間隔d(002)、結晶子厚さLc(002)、真比重を有するものであることにより、スタック締め付け時の荷重に耐え得る高い耐クリープ性を有するとともに、PEFCの起動、停止による冷熱サイクルに伴う膨張収縮の繰り返しや、自動車の振動による負荷に耐え得る高度の耐久性(疲労特性)や、高いガスシール性を有し、セパレータを構成するアノードプレートやカソードプレート等の金属製プレートとの熱膨張差を低減してフレーム部材の割れを低減し、フレーム部材に対して所望の絶縁性を付与することができる。
【0029】
本発明のフレーム部材は、熱硬化性樹脂バインダーを含む炭素/樹脂硬化成形体からなる。
本発明のフレーム部材において、熱硬化性バインダーとしては、pHが2〜3程度のスルホン酸などの電解質に対する耐酸性および60〜100℃程度の燃料電池の作動温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フルフリルアルコールフルフラール樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂などのフラン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ピレン−フェナントレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂や多官能フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂などが挙げられ、これらを単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
熱硬化性樹脂バインダーとしては、多官能フェノール型エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを組み合わせてなる混合樹脂であることが好ましい。
多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いた場合、成形性や耐熱性を向上させることができ、多官能フェノール型エポキシ樹脂にフェノール樹脂を組み合わせた混合樹脂を用いた場合、さらに耐酸性や耐熱性を向上させることができる。
【0031】
多官能フェノール型エポキシ樹脂は、分子中にフェノール骨格を有し、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
多官能フェノール型エポキシ樹脂としては、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0032】
オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、質量平均分子量が1000〜4000であるものが好ましく、1200〜3500であるものがより好ましく、1400〜2000であるものがさらに好ましい。
【0033】
フェノール樹脂としては、レゾールタイプのフェノール樹脂、ノボラックタイプのフェノール樹脂に代表される種々のフェノール樹脂を挙げることができる。
フェノール樹脂としては、質量平均分子量が400〜2000であるものが好ましく、500〜1200であるものがより好ましく、600〜1000であるものがさらに好ましい。
【0034】
熱硬化性樹脂バインダーとして、多官能フェノール型エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合樹脂を使用する場合、フェノール樹脂の含有割合は、多官能フェノール型エポキシ樹脂中における全エポキシ基に対するフェノール樹脂中における全フェノール性水酸基の当量比(フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基/エポキシ樹脂中における全エポキシ基)が0.5〜1.5となる割合であることが好ましく、0.7〜1.5となる割合であることがより好ましく、0.9〜1.1となる割合であることがさらに好ましく、1.0程度であることが特に好ましい。上記当量比が0.5未満であるか1.5を超えると、未反応の混合樹脂あるいはフェノール樹脂の残存量が多くなるため、効率が低下してしまう。
【0035】
本発明のフレーム部材において、熱硬化性樹脂バインダーは、融点が50〜100℃であるものが好ましく、60〜90℃であるものがより好ましく、65〜80℃であるものがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂バインダーを複数使用する場合は、各熱硬化性樹脂バインダーの融点がそれぞれ上記範囲内にあることが適当である。
熱硬化樹脂バインダーの融点が上記範囲内にあることにより、後述するフレーム部材の作製時において成形性を向上させることができる。
【0036】
本発明のフレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体は、硬化促進剤を含んでもよい。
【0037】
硬化促進剤としては、特に制限されないが、例えば、熱硬化性樹脂バインダーとして多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いた場合は、通常エポキシ樹脂のアニオン硬化に用いられるものを挙げることができ、具体的には、3級アミン、4級アンモニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、ホスフィン、ホスホニウム塩等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
上記硬化促進剤のうち、特にイミダゾール類は、少量の使用量でもエポキシ樹脂に対して高い活性を示し、比較的低い硬化温度でも短時間で、例えば、170℃程度でも10秒位で硬化させることができることから、好適に使用することができる。
【0038】
本発明のフレーム部材において、硬化促進剤は、反応開始温度が60〜160℃であるものが好ましく、70〜140℃であるものがより好ましく、90〜120℃であるものがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂バインダーを複数使用する場合は、各硬化促進剤の反応開始温度がそれぞれ上記範囲内にあることが適当である。
硬化促進剤の反応開始温度が上記範囲内にあることにより、後述するフレーム部材の作製時において成形性を向上させることができる。
【0039】
フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体は、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、炭素粉末を30〜70質量部含むものであり、35〜68質量部含むものであることが好ましく、40〜65質量部含むものであることがより好ましい。
【0040】
熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対する炭素粉末の含有量が30質量部以上であることにより、耐クリープ性に優れ、シール性を維持、向上させることができ、熱膨張を抑制して、セパレータを構成するアノードプレートやカソードプレート等の金属製プレートと接着させた後における熱膨張差による割れを抑制し、さらに燃料電池を長期間作動させた場合にフレーム部材の吸水による膨潤を抑制して、フレーム部材の割れを抑制することができる。また、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対する炭素粉末の含有量が70質量部以下であることにより、フレーム部材に所望の絶縁性を付与することができる。
【0041】
本発明のフレーム部材において、炭素/樹脂硬化成形体中の硬化促進剤の含有割合は、通常、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し0.05〜3質量部の範囲である。
【0042】
本発明のフレーム部材は、フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の熱膨張係数が45×10−6/K以下であるものであり、5×10−6/K〜45×10−6/Kであるものが好ましく、8×10−6/K〜40×10−6/Kであるものがさらに好ましい。
本発明のフレーム部材において、炭素/樹脂硬化成形体の熱膨張係数が45×10−6/K以下であることにより、セパレータを構成するアノードプレートやカソードプレート等の金属製プレートとの熱膨張係数の差を小さくすることができ、上記金属製プレートとフレーム部材の熱膨張の差を抑制して、フレーム部材の割れを抑制することができる。
フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の熱膨張係数の測定方法は、後述するとおりである。
【0043】
本発明のフレーム部材は、フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上であるものであり、1.0×10Ω・cm以上であるものがより好ましく、1.0×10Ω・cm以上であるものがさらに好ましい。絶縁抵抗率の上限は高い程よいが、通常1.0×1012Ω・cm以下である。
本発明のフレーム部材において、炭素/樹脂硬化成形体の絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上であることにより、燃料電池に使用したときにセル間を好適に絶縁することができる。
フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の絶縁抵抗率の測定方法は後述するとおりである。
【0044】
本発明のフレーム部材は、フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の曲げ強度が100〜140MPaであるものが好ましく、105〜140MPaであるものがより好ましく、110〜140MPaであるものがさらに好ましい。
本発明のフレーム部材において、炭素/樹脂硬化成形体の曲げ強度が上記範囲内にあることにより、スタック締め付け時等におけるフレーム部材の割れの発生を抑制することができる。
フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の曲げ強度の測定方法は後述するとおりである。
【0045】
本発明のフレーム部材は、フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の曲げ破断歪みが1.6〜2.5%であるものが好ましく、1.8〜2.4%であるものがより好ましい。
本発明のフレーム部材において、炭素/樹脂硬化成形体の曲げ破断歪みが上記範囲内にあることにより、高い曲げ強度を発揮することができる。
フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体の曲げ破断歪みの測定方法は後述するとおりである。
【0046】
本発明のフレーム部材は、フレーム部材を構成する炭素/樹脂硬化成形体として、特定の熱膨張係数、平均粒径、結晶面間隔d(002)、結晶子厚さLc(002)、真比重を有する炭素粉末を、熱硬化性樹脂バインダーに対して特定割合有するものを用いたものであるため、上記優れた物性を示すことができる。
【0047】
本発明のフレーム部材は、熱硬化性樹脂バインダーとともに特定の物性を有する炭素粉末を含む炭素/樹脂硬化成形体からなるものであることにより、絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示すことができる。
【0048】
次に、本発明のフレーム部材の製造方法について説明する。
本発明のフレーム部材の製造方法は、上記本発明の燃料電池用フレーム部材を製造する方法であって、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末30〜70質量部を乾式混合するともにさらに硬化促進剤を乾式混合し、前記熱硬化性樹脂バインダーの融点以上、硬化促進剤の反応開始温度未満の温度下で混練して混練物を作製した後、得られた混練物を成形金型に投入して、1〜20MPaの圧力下、硬化促進剤の反応開始温度以上の温度下で熱圧成形することを特徴とするものである。
【0049】
本発明の製造方法において、熱硬化性樹脂バインダー、炭素粉末の詳細は、上述したとおりである。
【0050】
本発明の製造方法においては、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、炭素粉末を30〜70質量部乾式混合し、35〜68質量部乾式混合することが好ましく、40〜65質量部乾式混合することがより好ましい。上記乾式混合は、通常、室温下で行われる。
【0051】
本発明の製造方法においては、上記熱硬化性樹脂バインダーおよび炭素粉末とともにさらに硬化促進剤を乾式混合する。上記乾式混合は、通常、室温下で行われる。
硬化促進剤の詳細は、上述したとおりである。
また、硬化促進剤の混合割合は、通常、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し0.05〜3質量部の範囲である。
【0052】
本発明の製造方法において、乾式混合は任意の混合機を用いて行うことができ、例えばヘンシェルミキサーを挙げることができる。
ヘンシェルミキサーを用いて乾式混合する場合、ヘンシェルミキサーの回転数は2000〜4000rpmであることが好ましく、攪拌時間は1〜10分間であることが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法においては、上記乾式混合後、得られた混合物を熱硬化性樹脂バインダーの融点以上硬化促進剤の反応開始温度未満の温度下で混練して混練物を作製する。
上記混練は、熱硬化性樹脂バインダーの融点以上硬化促進剤の反応開始温度未満の温度下で行うが、熱硬化性樹脂バインダーを複数用いる場合は、使用する各熱硬化性樹脂バインダーの融点のうち最も高い温度以上の温度であって、かつ使用する硬化促進剤の反応開始温度のうち最も低い温度以下の温度下で混練を行う。
【0054】
上記混練は、各種混練機を用いて行うことができ、混練機としては、スクリューの長さLと径Dとの比(L/D)が15〜60である二軸混練押出機(例えば、(株)東洋精機製作所 Labo Plastomill 4c150等)が好ましい。
上記混練機を、例えば、溶融温度50〜100℃、回転速度10〜300rpmで運転することにより、乾式混合により得られた混合物を混練することができる。
上記混練により、乾式混合した混合物を均一に混合し、樹脂バインダー中に炭素粉末を均質に分散して、炭素粒子をバインダー樹脂で覆った状態にすることにより、絶縁性を確保することができる。
【0055】
上記混練により得られる混練物の形態は特に制限されないが、次工程の熱圧成形処理を考慮した場合には、シート状であることが好ましい。
混練機として上述した二軸混練押出機を用いた場合には、混練後にT型ダイス等を用いて押出すことにより、シート状の混練物を得ることができる。このシート状の混練物の厚みは、通常0.5〜2mm程度である。
本発明の製造方法において、得られた混練物は、一旦室温まで冷却した後、次工程の熱圧成形処理に付すことが好ましい。
混練物の冷却は、自然放冷によって行ってもよいし、強制冷却によって行ってもよい。
【0056】
本発明の製造方法においては、上記方法により得られた混練物を成形金型に投入して、1〜20MPaの圧力下、硬化促進剤の反応開始温度以上の温度下で熱圧成形する。
【0057】
本発明の製造方法においては、1〜20MPaの圧力下で上記熱圧成形を行うが、5〜15MPaの圧力下で熱圧成形を行うことが好ましく、10〜15MPaの圧力下で熱圧成形を行うことがより好ましい。
【0058】
硬化促進剤を複数用いる場合は、使用する各硬化促進剤の反応開始温度のうち最も高い温度以上の温度下に熱圧成形を行う。
熱圧成形時の温度は、通常140〜200℃であり、150〜180℃であることが適当であり、150〜170℃であることがより適当である。
【0059】
熱圧成形時の加圧時間は、熱硬化性樹脂バインダーや硬化促進剤の種類によって適宜決定することができる。例えば熱硬化性樹脂バインダーとして、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびノボラック型フェノール樹脂を用い、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを用いた場合の熱圧成形加圧時間は、1秒〜600秒が好ましく、1秒〜300秒がより好ましく、1秒〜30秒がさらに好ましい。また、上記加圧時においては、加圧状態を連続的に維持するのではなく、適時加圧状態を開放して、ガス抜きを行ってもよい。加圧時の圧力が上記範囲内にあることにより、得られるフレーム部材に所望の強度を容易に付与することができる。
【0060】
成形金型としては、一対の上型と下型からなるものを挙げることができ、得ようとするフレーム部材の形状に応じた成形面形状を有するものを挙げることができる。
得ようとするフレーム部材の形状に対応した成形面形状を有する成形金型を用いることにより、所望形状を有するフレーム部材を作製することができる。
成形型の成形面には、適宜離型剤を塗布してもよい。
【0061】
熱圧成形方法としては、コンプレッション成形法が挙げられるが、炭素粉末の少ない配合では、樹脂溶融時の流動性が高くなるため、トランスファ成形法や射出成形法によって作製してもよい。
【0062】
得られた熱圧成形物は、必要に応じて更に機械加工を施してもよく、また、必要に応じて、適宜150〜200℃程度の温度でアフターキュアを行ってもよい。
本発明によれば、このようにして目的とするフレーム部材を製造することができる。
得られるフレーム部材の詳細については、上述したとおりである。
【0063】
本発明によれば、絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示す本発明の燃料電池用フレーム部材を簡便に製造する方法を提供することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
表1に示すように、熱硬化性樹脂バインダーである、エポキシ樹脂(日本化薬(株)製 オルトクレゾールノボラックエポキシ樹脂(EOCN−102S−70)、融点70℃)41質量部およびフェノール樹脂(明和化成(株)製 フェノールノボラック(H−4)、融点70℃)21質量部に対し、熱膨張係数が4.4×10−7/K、平均粒径が12μm、結晶面間隔d(002)が0.3452nm、結晶子厚さLc(002)が1.1nmかつ真比重が2.13g/cmである炭素粉末A(三菱化学株式会社 ニードルコークス(SPCN-K))を37質量部、硬化促進剤(四国化成(株)製2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、反応開始温度90℃)1質量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製FM10C/l)を用いて回転数2000rpmで2分間攪拌した後、2軸の押出混練機((株)東洋精機製作所製Labo Plastomill 4c150)を用いて、80℃の温度条件下回転速度50rpm、L/D=20にて加熱溶融混練し、次いでT型ダイスを通してシート状に成形して、室温まで十分に冷却した。
得られたシート状成形体を、成形面がフレーム部材形状に対応する形状に彫刻された金型内に投入し、180℃の温度条件下、20MPaの圧力で熱圧成形し、次いで160℃の温度条件下で1時間処理して後硬化することにより、縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0066】
(実施例2)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、熱膨張係数が3.4×10−7/K、平均粒径が5μm、結晶面間隔d(002)が0.3428nm、結晶子厚さLc(002)が0.9nmかつ真比重が2.13g/cmである炭素粉末B(三菱化学株式会社 ニードルコークス(SPCN-L))を用い、各成分の配合量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0067】
(実施例3)
各成分の配合量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0068】
(実施例4)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、熱膨張係数が3.4×10−7/K、平均粒径が15μm、結晶面間隔d(002)が0.3450nm、結晶子厚さLc(002)が1.2nmかつ真比重が2.13g/cmである炭素粉末C(ペトロコークス(株)製ニードルコークス(XS))を用い、各成分の配合量を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0069】
(比較例1)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、熱膨張係数が42.0×10−7/K、平均粒径が10μm、結晶面間隔d(002)が0.3368nm、結晶子厚さLc(002)が47nmかつ真比重が2.20g/cmである炭素粉末E(オリエンタル産業株式会社 人造黒鉛粉(AT-20))を用いた以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0070】
(比較例2)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、炭素粉末Aを篩分けして得られた、熱膨張係数が4.4×10−7/K、平均粒径が25μm、結晶面間隔d(002)が0.3452nm、結晶子厚さLc(002)が1.1nmかつ真比重が2.13g/cmである炭素粉末A1を用いた以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0071】
(比較例3)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、熱膨張係数が55.0×10−7/K、平均粒径が12μm、結晶面間隔d(002)が0.3477nm、結晶子厚さLc(002)が0.5nmかつ真比重が2.00g/cmである炭素粉末D(新日鉄化学(株)製モザイクコークス(LPC−S))を用いた以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0072】
(比較例4)
炭素粉末として、炭素粉末Aに代えて、熱膨張係数が3.4×10−7/K、平均粒径が8μm、結晶面間隔d(002)が0.3358nm、結晶子厚さLc(002)が177nmかつ真比重が2.21g/cmである炭素粉末F(オリエンタル産業株式会社 人造黒鉛粉(AT−40S))を用いた以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0073】
(比較例5)
各成分の配合量を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0074】
(比較例6)
各成分の配合量を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.0mm、最薄肉部厚さ0.20mmの燃料電池用フレーム部材を作製した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例6で得られた燃料電池用フレーム部材からテストピースを切り出し、以下の方法により、熱膨張係数(×10−6/K)、絶縁抵抗率(Ω・cm)、曲げ強度(MPa)および曲げ破断歪み(%)を測定した。結果を表3および表4に示す。
<熱膨張係数(×10−6/K)>
直径5mm、長さ10mmのテストピースに対し、(株)島津製作所製 サーモメカニカルアナライザー TMA60を用いて、昇温速度5℃/分で室温から200℃まで昇温したときに、30〜130℃における平均線膨張係数(×10−6/K)を熱膨張係数とした。
<絶縁抵抗率(Ω・cm)>
JIS K6911に準拠して測定した。
<曲げ強度(MPa)>
JIS R1601に準拠して室温下で測定した。
<曲げ破断歪み(%)>
JIS R1601に準拠して室温下で測定した。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
表1および表3より、実施例1〜実施例4で得られた燃料電池用フレーム部材は、黒鉛粉末を含有することによって高い耐食性や低不純物溶出特性を示し、また、表1より、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、特定の物性を有する炭素粉末を30〜70質量部含む炭素/熱硬化成形体からなるものであることから、絶縁特性に優れ、高い強度および耐久性を有するものであることが分かる。また、実施例1〜実施例4より、上記燃料電池用フレーム部材は、簡便に製造し得るものであることが分かる。
【0081】
一方、表2および表4より、比較例1および比較例3では、使用した炭素粉末の熱膨張係数が大きいため、得られるフレーム部材の熱膨張係数も大きくなり、アノードプレートやカソードプレート等の金属セパレータ材との熱膨張係数の差異が拡大することから、燃料電池の発電・停止などの冷熱サイクルにより発生するせん断応力により、フレーム部材に割れが生じ易く、セパレータの耐久性を低下させてしまうものであることが分かる。
【0082】
また、表2および表4より、比較例2では、使用した炭素粉末の平均粒径が大きいため、得られるフレーム部材の絶縁抵抗が十分でなく、セル間を十分に絶縁できないものであることが分かる。
【0083】
また、表2および表4より、比較例4では、使用した炭素粉末の黒鉛化度が大きいため、得られるフレーム部材の絶縁抵抗が十分でなく、セル間を十分に絶縁できないものであることが分かる。
【0084】
また、表2および表4より、比較例5では、炭素粉末の配合量が多いため、得られるフレーム部材の絶縁抵抗が十分でなく、セル間を十分に絶縁できないものであることが分かる。
【0085】
また、表2および表4より、比較例6では、炭素粉末の配合量が少ないため、得られるフレーム部材の熱膨張係数も大きくなり、アノードプレートやカソードプレート等の金属セパレータ材との熱膨張係数の差異が拡大することから、燃料電池の発電・停止などの冷熱サイクルにより発生するせん断応力により、フレーム部材に割れが生じ易く、セパレータの耐久性を低下させてしまうものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、熱硬化性樹脂バインダーとともに特定の物性を有する炭素粉末を含む炭素/樹脂硬化成形体からなるものであることにより、絶縁特性に優れ、耐食性が高く不純物溶出性が低いものであるとともに、高い強度および耐久性を示す燃料電池用フレーム部材を提供することができるとともに、該燃料電池用フレーム部材を簡便に製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末を30〜70質量部含み、
25〜130℃における熱膨張係数が45×10−6/K以下、絶縁抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である炭素/樹脂硬化成形体
からなることを特徴とする燃料電池用フレーム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用フレーム部材を製造する方法であって、
熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し、熱膨張係数が2.8×10−7〜5.2×10−7/K、平均粒径が20μm以下、結晶面間隔d(002)が0.3360nm以上、結晶子厚さLc(002)が10nm以下かつ真比重が2.10g/cm以上である炭素粉末30〜70質量部を乾式混合するともにさらに硬化促進剤を乾式混合し、
前記熱硬化性樹脂バインダーの融点以上、硬化促進剤の反応開始温度未満の温度下で混練して混練物を作製した後、
得られた混練物を成形金型に投入して、1〜20MPaの圧力下、硬化促進剤の反応開始温度以上の温度下で熱圧成形する
ことを特徴とする燃料電池用フレーム部材の製造方法。

【公開番号】特開2013−62106(P2013−62106A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199107(P2011−199107)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】