説明

燃料電池用プロトン伝導性膜

【課題】
耐熱性、耐久性、寸法安定性、可とう性、機械的強度および燃料バリア性に優れ、高温、低湿度でも優れたプロトン伝導性を示す燃料電池用プロトン伝導性膜を提供する。
【解決手段】
本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなるものである。また好ましくは、前記欠損型ヘテロポリ酸がM−O−Y結合により膜中に固定化されている。なお、Mは欠損型ヘテロポリ酸の骨格構成原子の一部であるWまたはMoの原子、Oは酸素原子、Yは金属アルコキシドの金属であるSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いることができるプロトン伝導性膜に関し、詳しくは耐熱性、耐久性、寸法安定性に優れ、高温、低湿度でも優れたプロトン伝導性を示す燃料電池用プロトン伝導性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、発電効率が高くかつ環境特性に優れているため環境問題やエネルギー問題の解決に貢献できる次世代の発電装置として注目されている。燃料電池は、一般にプロトン伝導性膜の種類によりいくつかのタイプに分類されるが、この中でも固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell;以下、「PEFC」と省略する)は、他のいずれのタイプに比べても小型かつ高出力であり、小規模オンサイト型、移動体(たとえば、車のパワーソース)用、携帯用等の電源として次世代の主力とされている。
【0003】
このようなことからPEFCは実用化に向けた開発が盛んに行われている。このPEFCでは燃料として通常水素を使用している。水素はPEFCのアノード側に設置された触媒によりプロトンと電子に分解される。このうち、電子は外部に供給されて電気として使用され、PEFCのカソード側へと供給される。また、プロトンはプロトン伝導性膜に供給されプロトン伝導性膜を通じてカソード側へと移動する。カソード側ではプロトンと循環されてきた電子、及び外部から導入される酸素が触媒により結合され、水が生じる。すなわちPEFC単体でみれば、PEFCは水素と酸素から水を作る際に電気を取り出す非常にクリーンなエネルギー源である。
【0004】
燃料電池に供給される水素は、何らかの方法(たとえばメタノール改質による水素抽出)で得た水素を使うのが通常であるが、直接メタノールからプロトンと電子を取り出す、直接型燃料電池も盛んに検討されつつある。
【0005】
ここで、プロトン伝導性膜はアノードで生じたプロトンをカソード側に伝える役割を持ち、PEFCにおいて、高い出力(すなわち高い電流密度)を得るためには、プロトン伝導を十分な量、高速に行う必要がある。したがって、プロトン伝導性膜のプロトン輸送能が高いほど燃料電池の出力も高くなる。
【0006】
現在PEFCにおいて使用されている主なプロトン伝導性膜は、パーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部にパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基を有するフッ素系樹脂からなるものである。このようなスルホン化フッ素樹脂系膜としては、たとえば、Nafion膜(Du Pont社)、Dow膜(Dow Chmeical社)、Aciplex膜(旭化成工業社)、Flemion膜(旭硝子社)等が知られている。これらのスルホン化フッ素樹脂系膜はプロトンの提供ソースとしてスルホン酸基が使用されている。プロトン伝導性能を上げるためにスルホン酸基以外の酸基を使用した検討も多い。
【0007】
スルホン酸よりも強力な酸として知られている固体酸としてヘテロポリ酸がある(非特許文献1)。しかし、ヘテロポリ酸は水、メタノール等の極性溶媒に易溶でありプロトン伝導性膜中に強固に固定化する必要がある。ヘテロポリ酸をプロトンの提供ソースとして使用した報告(特許文献1)があるが、ヘテロポリ酸の固定化が十分なものであるとはいいがたい。つまりフリーアシッド型のヘテロポリ酸を膜内部に共有結合で固定化できれば、ヘテロポリ酸の流出を防いだプロトン導電性膜を製造することができる。
【0008】
また、フッ素樹脂系膜はイオンクラスタ領域を通してプロトンを輸送するため加湿装置を使用して湿潤状態にして使用される。加湿装置を使用しない場合、燃料電池作動中の発熱や、周辺環境の変化によりフッ素樹脂系膜内部の水分が失われる場合がある。その結果、イオンクラスタ領域が一部崩壊してしまい膜のプロトン輸送能が低下してしまう。また、フッ素樹脂系膜は湿潤状態下において130℃付近にガラス転移点を有しているため、この温度近辺より膜中のプロトン伝導構造が変化し、安定的なプロトン伝導性能が発揮できないといった問題点がある。また高湿潤状態ではスルホン酸基の脱離が起こり、プロトン伝導性が大きく低下する。以上のような理由により、現在使用されている安定的に長期使用可能な最高温度は通常80℃とされている。
【0009】
一方、燃料電池の作動温度はエネルギー効率、触媒被毒の防止の点から通常100℃〜120℃以上が好ましいとされている。
【0010】
これらの理由からPEFC用プロトン伝導性膜のプロトン伝導性、耐熱性の向上を目的とした種々の耐熱性材料が検討、提案されてきている。代表的なものとしては従来のフッ素樹脂系膜の代わりとなる耐熱性の芳香族系高分子材料があり、例えばポリベンズイミダゾール(特許文献2)、ポリエーテルスルホン(特許文献3)、ポリエーテルケトン(特許文献4)等があげられる。これらの芳香族系高分子材料は高温時における構造変化が少ないという利点はある。しかし、芳香族に直接スルホン酸基、カルボン酸基などを導入したものが多くこの場合には高温において顕著な脱スルホン、脱炭酸が起こる可能性が高く、高温作動膜としては好ましくない。
【0011】
一方、プロトン伝導性膜としては無機材料も提案されており、例えば加水分解性シリル化合物中に種々の酸を添加することにより、プロトン伝導性の無機材料を得ている(非特許文献2)。しかしながら、これらの無機材料は高温でも安定的にプロトン伝導性を示すが、薄膜とした場合には割れやすく取り扱いや膜―電極接合体作成が困難であるという問題点がある。
【0012】
以上のように、従来のPEFCにおける問題点を改善するために、種々のプロトン伝導性膜についての研究開発が行われてきたにもかかわらず高温(例えば100℃以上)で十分な耐久性を有し機械的諸物性を満足したプロトン伝導性膜はいまだ存在しないのが現状であった。
【0013】
【非特許文献1】Y.IZUMI,K.MATSUO,K.URABE,J.Mol.Catal,18,299,1983
【特許文献1】特開2006−155999号公報(段落番号0037、0054)
【特許文献2】特開平9−110982号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平10−21943号公報(請求項1、請求項2)
【特許文献4】特開平9−87510号公報(段落番号0008)
【非特許文献2】Solid State Ionics 74(1994)(第105頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこのような従来の固体高分子型燃料電池における問題点に鑑み、耐熱性、耐久性、寸法安定性、可とう性、機械的強度および燃料バリア性に優れ、高温、低湿度でも優れたプロトン伝導性を示す燃料電池用プロトン伝導性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなるものである。
【0016】
また、本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、前記欠損型ヘテロポリ酸がM−O−Y結合により膜中に固定化されていることを特徴とするものである。なお、Mは欠損型ヘテロポリ酸の骨格構成原子の一部であるWまたはMoの原子、Oは酸素原子、Yは金属アルコキシドの金属であるSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜によれば、金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなるものであることから、耐熱性、耐久性、寸法安定性、可とう性、機械的強度に優れており、特に欠損型ヘテロポリ酸がスルホン酸基よりも強酸であり水の保水力が良好であるため、加湿装置が無くても高温、低湿度で優れたプロトン伝導性を示す。そのため優れたプロトン伝導性膜を有する固体高分子型燃料電池として使用することができる。
【0018】
また、本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜によれば、前記欠損型ヘテロポリ酸がM−O−Y結合により膜中に固定化されていることから、プロトン伝導性膜からのヘテロポリ酸のブリードアウトを長期的に防止することができる。そのため燃料電池の機能低下を防ぐことができ、長期にわたり使用可能な燃料電池の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなるものである。また、本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、前記欠損型ヘテロポリ酸がM−O−Y結合により膜中に固定化されたものである(Mは欠損型ヘテロポリ酸の骨格構成原子の一部であるWまたはMoの原子、Oは酸素原子、Yは金属アルコキシドの金属であるSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子である)。
【0020】
はじめに本発明で使用される欠損型ヘテロポリ酸について説明する。このヘテロポリ酸は広く知られている飽和型のヘテロポリ酸(Keggin型H3[PW1240]やDawson型H6[P21862])ではなく欠損型のヘテロポリ酸を用いる。欠損型のヘテロポリ酸中の欠損部位の末端酸素は、負電荷が十分高いためプロトネーションしやすい。そのため金属アルコキシドの加水分解物との縮合反応を行うことができ、ヘテロポリ酸にM−O−Y結合を導入することが可能となる。なお、前記Mは欠損型ヘテロポリ酸の骨格構成原子の一部であるWまたはMoの原子、Oは酸素原子、Yは金属アルコキシドの金属であるSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子である。飽和型のヘテロポリ酸を使用する場合、末端酸素の負電荷密度が十分に上がっていないためにM−O−Y結合を作ることは難しい。M−O−Y結合を通じて金属アルコキシドの加水分解物に固定化されたヘテロポリ酸は、プロトン伝導性膜中に共有結合を通じて固定化されるため、前記膜よりのブリードアウトを防ぐことができる。
【0021】
使用可能な欠損型へテロポリ酸としては例えばH10[P21761]、H7[PW1139]、H9[PW934]、H7[γ−PW1036]、H8[SiW1139]、H8[γ−SiW1036]、H10[SiW934]があげられる。前述の欠損種を使用する場合は欠損種の多くはK+、Na+のようなアルカリ金属をカウンターカチオンに有し塩として提供されているため、カウンターカチオンのH+への変更が必要である。カウンターカチオンの変更方法としては一般的に知られている陽イオン交換樹脂(例えば、AMBERLITE IR120BNA:ローム・アンド・ハース社)を使用する。
【0022】
次に本発明で使用される金属アルコキシドの加水分解物について説明する。本発明で使用される金属アルコキシドの加水分解物は金属アルコキシドを前駆体とする一般的に呼ばれているゾルゲル法により得られる。本発明に用いられる金属アルコキシドとしては、金属種がSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、得られる膜の物性により適宜選択して用いることができるが、特に好ましくはSiである。具体的には、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ−イソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、または、これらのモノアルキル、ジアルキル等のアルコキシシランやそのオリゴマー、フェニルトリエトキシシランや、それらを用いたシリコーン樹脂、テトラエトキシチタン、テトラ−イソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン、または、これらのモノアルキル、ジアルキル体、アセチルアセトン等を含むアルコキシチタンやそのオリゴマー、およびアルコキシジルコニウム等があげられ、これらを単独あるいは2種以上を用いることができる。また、そのほかプロトネーションした欠損型ヘテロポリ酸中の末端酸素と縮合反応を進行させることのできるアルコキシル基、ヒドロキシル基を有するシラン化合物を使用することができる。
【0023】
このような金属アルコキシドの加水分解物の硬化を促進させるための硬化剤として、信越化学工業社の商品名として、D−20、D−25、DX−9740、X−40−2309Aなどを用いることができる。
【0024】
次にこのような本発明の金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなる燃料電池用プロトン伝導性膜の製造方法について説明する。本発明の燃料電池用プロトン伝導性膜は、金属アルコキシドの加水分解物と欠損型へテロポリ酸を使用して溶液中で縮合反応を行うことで得られる。具体的には文献(R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990)にしたがって合成した欠損型へテロポリ酸塩K10[P21761]を陽イオン交換樹脂を使用してカウンターカチオンのK+をH+へと変換する。この工程により欠損部位の末端酸素がプロトネーションし金属アルコキシドの加水分解物との縮合反応が可能な状態になる。
【0025】
別途用意された金属アルコキシドの加水分解物をこの欠損型へテロポリ酸を含む溶液に加え室温で縮合反応させて、前記欠損型へテロポリ酸とM−O−Y結合を形成させる。または、金属アルコキシドを含有する溶液に前記欠損型へテロポリ酸を含む溶液を加え、触媒として後述する酸を加えるか、または欠損型ヘテロポリ酸のプロトンを作用させることにより金属アルコキシドの加水分解物を生成させ、前記金属アルコキシドの加水分解物と前記欠損型へテロポリ酸とを縮合反応させることにより、前記欠損型へテロポリ酸とM−O−Y結合を形成させることもできる。
【0026】
ここで形成されたM−O−Y結合を介して欠損型へテロポリ酸は膜中に固定化されることになる。同時に縮合反応が終了した溶液の溶媒を除去することで欠損型へテロポリ酸を含むプロトン伝導性膜を得ることができる。このとき縮合反応を十分に進行させるために触媒を加えても良い。触媒としては欠損型ヘテロポリ酸のプロトンが作用するが、適宜塩酸、硫酸、リン酸、カルボン酸等のブレンステッド酸を使用することができる。
【0027】
得られた燃料電池用プロトン伝導性膜の厚みは特に限定されるものではないが、膜の厚みが厚すぎるとプロトン伝導性能が低下し、逆に薄すぎると機械的強度が保てなくなるために30μm〜300μmとすることが好ましい。
【0028】
以上のように、本発明では、欠損型のヘテロポリ酸中の欠損部位の末端酸素の、負電荷が十分高いためプロトネーションしやすく金属アルコキシドの加水分解物との縮合反応を行うことができ、ヘテロポリ酸にM−O−Y結合を導入することが可能となるため、膜中に共有結合を通じてヘテロポリ酸を固定化することができ、膜よりのブリードアウトを防ぐことができる。また、膜中のヘテロポリ酸をプロトンの提供ソースとして使用することができるため、燃料電池用プロトン伝導性膜として使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0030】
[実施例1]
テトラエトキシシラン 1gとジメチルジメトキシシラン(KBM−22:信越化学工業社)4gをイソプロピルアルコール 25mLに溶解し、シランアルコキシドを含む溶液を調整した。
【0031】
別途文献(R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990)に従い合成した欠損型Dawson型ヘテロポリ酸塩K10[P21761]・19H2O 0.16gを純水5gに分散した。この分散液にH+チャージした陽イオン交換樹脂(AMBERLITE IR120BNA:ローム・アンド・ハース社) 2.5gを加えてゆっくりと撹拌した。
【0032】
溶液は均一になり、吸引ろ過により前記陽イオン交換樹脂を取り除きフリーアシッド型欠損型へテロポリ酸含有の水溶液を得た。この水溶液を上記シランアルコキシドを含む溶液に加えて、ゾルゲル反応によりシランアルコキシドの加水分解物を生成させながら、このシランアルコキシドの加水分解物と欠損型へテロポリ酸との縮合反応を25℃で15時間進行させた。
【0033】
なお、シランアルコキシドを含む溶液にフリーアシッド型ヘテロポリ酸含有の水溶液を加えた際に触媒を加えなかったが、欠損型ヘテロポリ酸のプロトンが触媒の作用を果たしゾルゲル反応によりシランアルコキシドの加水分解物を生成した。
【0034】
得られた反応溶液を5φのシャーレに10mL移し変えて、40℃で12時間、60℃で12時間、80℃で48時間乾燥を行い欠損型へテロポリ酸を含む厚み100μmの実施例1のプロトン伝導性膜を得た。
【0035】
[実施例2]
実施例1の欠損型Dawson型ヘテロポリ酸塩K10[P21761]・19H2O 0.16gを、欠損型Keggin型ヘテロポリ酸塩K7[PW1139]・12H2O 0.33gに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例2のプロトン伝導性膜を得た。
【0036】
[実施例3]
実施例1の欠損型Dawson型ヘテロポリ酸塩K10[P21761]・19H2O 0.16gを、欠損型Keggin型ヘテロポリ酸塩Na9[PW934]・9H2O 0.33gに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例3のプロトン伝導性膜を得た。
【0037】
[実施例4]
実施例1のジメチルジメトキシシラン(KBM−22:信越化学工業社)を、ジメチルジメトキシシランのオリゴマー(X−40−9250:信越化学工業社)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例4のプロトン伝導性膜を得た。
【0038】
[実施例5]
テトラエトキシシラン 4gとシリコーン樹脂(KF−9701:信越化学工業社)16gをイソプロピルアルコール50mLに溶解し、シランアルコキシドを含む溶液を調製した。この溶液に0.2M塩酸3.3mLを加えて25℃で15時間反応を進行させた。
【0039】
別途、欠損型Keggin型ヘテロポリ酸塩K7[PW1139]・12H2O 0.004gを純水5gに分散した。この分散液にH+チャージした陽イオン交換樹脂(AMBERLITE IR120BNA:ローム・アンド・ハース社) 2.5gを加えてゆっくりと撹拌した。
【0040】
溶液は均一になり、吸引ろ過により前記陽イオン交換樹脂を取り除きフリーアシッド型欠損型へテロポリ酸含有の水溶液を得た。このフリーアシッド型欠損型へテロポリ酸含有の水溶液を、上記シランアルコキシドを含む溶液5gに加えた。さらに硬化剤として信越化学工業社のD−20を0.01gを加え、30分攪拌後、得られた反応溶液を5φのシャーレに移し変えて、60℃で12時間、80℃で2時間、200℃で2時間乾燥を行い欠損型へテロポリ酸を含む厚み100μmの実施例5のプロトン伝導性膜を得た。
【0041】
[実施例6]
実施例5の硬化剤の量を0.02gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い実施例6のプロトン伝導性膜を得た。
【0042】
[実施例7]
実施例5の硬化剤の量を0.04gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い実施例7のプロトン伝導性膜を得た。
【0043】
[比較例1]
実施例1の欠損型Dawson型ヘテロポリ酸塩K10[P21761]・19H2O 0.16gを、飽和型Keggin型ヘテロポリ酸塩H3[PW1240]・12H2O 0.33gに変更し、イオン交換樹脂を使用しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例1のプロトン伝導性膜を得た。
【0044】
[比較例2]
105℃、4時間真空乾燥行った各試薬(ビス(4−クロロ−3−スルホフェニル)スルホン酸ナトリウム塩20.0g(39.3mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン11.3g(39.3mmol)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル 15.9g(78.5mmol)並びに炭酸カリウム13.0g(94.3mmol))を500mLのセパラブルフラスコに入れ、さらに真空乾燥1時間行った。その後すばやく系内を窒素置換し、窒素気流下、NMP200mL、トルエン150mL加え室温(25℃)で30分間撹拌した。その後、反応温度を160℃として、生成した水をトルエンと共沸し、水を系外に取り出した。この後反応温度を180℃として、50時間反応させた。反応混合物を5重量部塩酸水溶液中に加え、再沈殿させることによりポリマーを析出させた。析出したポリマーを精製水で洗浄し、ろ紙を用い吸引ろ過することにより得た残渣を110℃の乾燥機中で8時間乾燥させポリマーAを得た。
【0045】
次に、合成したポリマーAを用い30重量%のN−メチル−ピロリドン溶液を調製した(調製溶液−1)。別途、タングストケイ酸0.2gを精製水0.3mLに溶解した溶液を調製した(調製溶液−2)。調製溶液−1と調製溶液−2を混合後、60℃にて30分間攪拌し、ガラス板上にコータを用いギャップ100μmにて塗布し、150℃で1時間処理し膜を作製した。作製した膜を精製水300mLを用いて洗浄後、10重量%硫酸水溶液300mLに12時間浸した。次いで1000mLの精製水を用いて洗浄し、膜厚30μmの比較例2のプロトン導電性膜を得た。
【0046】
[固定化の評価]
実施例1〜7および比較例1〜2のプロトン伝導性膜、および比較例3として市販されているプロトン伝導性膜(Nafion膜:Dupont社、100μm)について、プロトン伝導性膜中にヘテロポリ酸が固定化されているかどうかの評価を行なった。比較例3のプロトン伝導性膜についてはスルホン酸基が固定化されているかどうかの評価を行った。評価は、Hammett指示薬(Dicinnamalacetone)のCH3CN溶液を使用した呈色反応により行い、膜表面のみに赤色の着色が見られたものを「○」、CH3CN溶液に赤色の着色が見られたものを「×」とした。なお、Hammett指示薬による呈色反応は、ヘテロポリ酸及びスルホン酸基がプロトン伝導性膜中に固定化されている場合はプロトン伝導性膜表面のみが赤色に呈色し、固定化されていない場合はCHCN中に溶け出したヘテロポリ酸及びスルホン酸基によりCH3CN溶液が赤色に着色されるものである。結果を表1に示す。
【0047】
[高温保水性の評価]
実施例1〜7および比較例1〜2のプロトン伝導性膜、および比較例3として市販されているプロトン伝導性膜(Nafion膜:Dupont社、100μm)について、高温での保水性の評価として、試料片約10mgを用い、TG/DTAの測定を行った。測定条件は昇温速度5℃/min、測定範囲は室温から300℃とした。室温から180℃までの重量減と180℃から300℃までの重量減を測定した。180℃までに水分の蒸発に伴う重量減が終了してしまったものを「×」、180℃以上になっても水分の蒸発に伴う重量減が引き続き観測されたものを「○」とした。
【0048】
[熱的安定性の評価]
実施例1〜7および比較例1〜2のプロトン伝導性膜、および比較例3として市販されているプロトン伝導性膜(Nafion膜:Dupont社、100μm)について、プロトン導電性膜の熱的安定性について評価した。評価は動的粘弾性測定により測定を行った。測定モードは引っ張り、測定条件は10Hz、昇温速度5℃/minsで250℃まで測定した。測定結果の代表として、実施例5〜7および比較例3について図1に示す。
評価は温度が上昇しても貯蔵弾性率(E’)が低下しなかったものを「○」温度上昇により貯蔵弾性率(E’)が低下したものを「×」とした。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1〜7のプロトン伝導性膜は、欠損型ヘテロポリ酸を使用しており、W−O−Si結合を通じて膜中に固定化されているためにヘテロポリ酸はプロトン伝導性膜中にH+を伴った状態で固定化されたものであった。比較例3についてはスルホン酸がポリマー中に固定化されていた。
【0051】
一方、比較例1、2のプロトン伝導性膜は、飽和型のヘテロポリ酸を使用しており、膜中に共有結合により固定化されていないために、膜よりブリードアウトしてしまうものとなった。
【0052】
また、実施例1〜7、比較例1〜2のプロトン伝導性膜は、吸湿性の高いフリーアシッド型へテロポリ酸を使用しているため高温(180℃以上)においても膜中のすべての水分が損失することがなかった。
【0053】
一方、比較例3のプロトン伝導性膜はフリーアシッド型のヘテロポリ酸を含有していないため180℃の時点で水分の蒸発に伴う重量減少が観察されなかった。そのため高温(180℃)では膜中の水分が損失してしまっていた。
【0054】
また、実施例1〜7、比較例1のプロトン伝導性膜は、主骨格が金属アルコキシドの加水分解物からなるものであるので高温になっても貯蔵弾性率(E’)の減少は確認されておらず、熱的安定性に優れたものであった。
【0055】
一方、比較例1、3のプロトン伝導性膜は、高温で貯蔵弾性率(E’)が低下しており、高温側での熱的安定性にかけるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例5〜7および比較例3のプロトン導電性膜の動的粘弾性測定結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシドの加水分解物と欠損型ヘテロポリ酸とからなる燃料電池用プロトン伝導性膜。
【請求項2】
前記欠損型ヘテロポリ酸がM−O−Y結合により膜中に固定化されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用プロトン伝導性膜。
[Mは欠損型ヘテロポリ酸の骨格構成原子の一部であるWまたはMoの原子、Oは酸素原子、Yは金属アルコキシドの金属であるSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子である。]

【図1】
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【公開番号】特開2009−54580(P2009−54580A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194254(P2008−194254)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】