説明

燃料電池用燃料ソフトカートリッジ、それを用いた燃料電池用燃料カートリッジ、ゲル化燃料の再液化方法、及び再液化燃料の取出し方法、並びにそれらに用いられる燃料電池燃料収納用ソフトケース

【課題】安全に取り扱うことができ、かつ一度ゲル化して貯蔵した燃料を素早く、高収率及び高純度で再液化して取り出すことができる燃料電池用燃料ソフトカートリッジを提供する。
【解決手段】ソフトケースの内部を隔部により2つの収納室に離隔し、一方の収納室にゲル化燃料を収納し、他方の収納室に再液化剤を収納し、さらに前記ソフトケースの隔部以外の部分に燃料取出し口を設け、前記隔部を外力により破断して、前記ゲル化燃料と再液化剤とを接触させ、前記燃料を再液化しうるようにした燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用燃料ソフトカートリッジ、それを用いた燃料電池用燃料カートリッジ、ゲル化燃料の再液化方法、及び再液化燃料の取出し方法、並びにそれらに用いられる燃料電池燃料収納用ソフトケースに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は次世代の電力供給システムとして注目されている。これは燃料電池が発電時の環境汚染ガス等をほぼ排出せず、さらにバイオ燃料を利用することができ、クリーン・エネルギーとして優れているためである。しかも十分な発電力を発揮し、軽量化や小型化が容易である等の利点を有する。このような背景から、昨今、燃料電池システム、そのアプリケーションの研究開発が精力的に進められている。
【0003】
一方、燃料電池に用いられる燃料は通常取扱いに注意を要する。例えばメタノールはそのままでは揮発性の可燃性物質であり、発火に対する慎重な管理を要する。例えば鉄道や航空運送において規制される場合があり、また人体に吸入されると影響を与えることもある。そこで安全に取り扱える燃料電池用燃料及びそれを用いるためのフェイルセーフ性の高いシステムの開発が求められている。
【0004】
この要望に応えるものとしてメタノールを包接化合物により包接して固形化し、貯蔵することが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、ここで開示されたものは燃料の取出し性が高いとはいえず、発電時に固形化物の内部から取り出しきれない燃料が残りやすい。また燃料を溶出するために多量の水等の溶出液を必要とし、また燃料と吸着剤との分離が困難である。そのソリッドな燃料を取り扱うカートリッジとして、水分を含んだスポンジや水を吸い取るスポイト等を利用するものが提案されているが(特許文献2〜5参照)、上記問題点は残る。
【0005】
最近これに対し燃料をゲル化して貯蔵し再液化剤と接触させて再液化しうる燃料混合物が開発された(特許文献5)。これにより燃料の取り扱い安全性が大幅に高まり、しかも高い発電効率を実現しうるが、それに好適に用いられる効果的なカートリッジはない。
【0006】
他方、消毒薬液と綿棒とを別々の収納室に入れ、投薬するときにその間に設けた弱シール部を剥がして、薬液を綿に含浸させる消毒用キットが開示されている(特許文献6)。これを用いれば医師ないし看護婦の手や指に消毒薬が付着することがなく、便利なキットではあるが、燃料電池用燃料に関する開示はない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−203335号公報
【特許文献2】特開2006−302639号公報
【特許文献3】特開2006−156197号公報
【特許文献4】特開2006−156198号公報
【特許文献5】特開2006−236969号公報
【特許文献6】特開2004−001784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全に取り扱うことができ、かつ一度ゲル化して貯蔵した燃料を素早く、高収率及び高純度で再液化して取り出すことができる燃料電池用燃料ソフトカートリッジの提供を目的とする。
また本発明は、上記の優れた性能を維持して、さらに収納した燃料の劣化を抑制し、交換式カートリッジとして好適な構造を有する燃料電池用燃料ソフトカートリッジ、それを用いた燃料電池用燃料カートリッジ、ゲル化燃料の再液化方法、及び再液化燃料の取出し方法、並びにそれらに用いられる燃料電池燃料収納用ソフトケースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は以下の手段により達成された。
(1)ソフトケースの内部を隔部により2つの収納室に離隔し、一方の収納室にゲル化燃料を収納し、他方の収納室に再液化剤を収納し、さらに前記ソフトケースの隔部以外の部分に燃料取出し口を設け、前記隔部を外力により破断して、前記ゲル化燃料と再液化剤とを接触させ、前記燃料を再液化しうるようにしたことを特徴とする燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(2)前記再液化した燃料を前記燃料取出し口から取り出す経路に内部フィルタを設けたことを特徴とする(1)記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(3)前記燃料取出し口に螺合式又は嵌合式の接続手段を設けたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(4)前記内部フィルタがイオン交換樹脂とテフロン(登録商標)製のろ紙とを組み合わせてなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(5)前記ソフトケースが紫外線遮断性の樹脂とアルミニウムシートとのラミネート材からなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(6)前記隔部の破断強度を前記ソフトケースの破断強度より低くしたことを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(7)前記隔部が前記ソフトケースの内面を剥離可能に接着してなることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(8)前記再液化剤がゲル状であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(9)前記燃料取出し口を前記再液化剤側の収納室に設けたことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
(10)前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載のソフトカートリッジをハードケースに収納したことを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
(11)前記ソフトカートリッジの燃料取出し口に当接し密着するよう、前記ハードケース側に逆止弁を設けた、あるいは、前記ハードケース側に、前記ソフトカートリッジ側からみて外部フィルタと逆止弁とをその順に設けたことを特徴とする請求項10に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
(12)前記ハードケースが、その内部に収納した前記ソフトカートリッジを押圧する弾性押圧手段を有することを特徴とする(10)又は(11)に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
(13)ソフトケース内部を隔部により2つに隔てた収納室にゲル化燃料と再液化剤とをそれぞれ内包させ、前記ソフトケースの外部から押圧力を加えて前記隔部を破断することにより、前記ゲル化燃料と前記再液化剤とを接触させることを特徴とするゲル化燃料の再液化方法。
(14)前記ゲル化燃料及び再液化剤を収納したソフトケースを手揉みにより押圧する、あるいは、前記ソフトケースをハードケースに収納し、該ハードケースに設けた弾性押圧手段により押圧することを特徴とする(13)に記載のゲル化燃料の再液化方法。
(15)前記ソフトケースの隔部以外の部分に燃料取出し口を設け、(13)又は(14)に記載の方法により燃料を再液化し、再液化燃料を前記燃料取出し口から取り出すことを特徴とする再液化燃料の取出し方法。
(16)(13)もしくは(14)に記載のゲル化燃料の再液化方法、又は(15)に記載の再液化燃料の取出し方法に用いることを特徴とする燃料電池燃料収納用ソフトケース。
【発明の効果】
【0010】
また本発明のソフトカートリッジによれば、ゲル化して貯蔵した燃料電池用燃料を収納して安全に取り扱うことができ、ゲル化燃料を素早く再液化し、該再液化燃料を高収率及び高純度で取り出すことができる。また、本発明のソフトカートリッジはハードケースと組み合わせて燃料電池用燃料カートリッジとし一層安全に取り扱うことができ、さらに多様な機能を付与することもできる。
さらにまた本発明のソフトカートリッジは、上記の優れた性能を維持して、さらに収納したゲル化燃料の劣化を抑制し、交換式カートリッジとして良好な構造、すなわち複雑な機構等を必要とせず安定した品質で効率的かつ大量に生産することができるという優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジについて、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明が図面に示された実施形態に限定して解釈されるものではない。
図1は本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジの好ましい実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は図1のII−II線断面を示す断面図である。本実施形態のソフトカートリッジ10においては、ソフトケース1にゲル化燃料11及び再液化剤12が収納されている(図2参照)。ここでソフトケース1には隔部(イージー・ピール・シール部)3が設けられ、その内部が図面左側の収納室9aと図面右側の収納室9bとに区分されている。そして、収納室9bにはゲル化燃料11が、収納室9aには再液化剤12がそれぞれ混合しないように充填されている。さらにソフトケース1の隔部3以外の部分に取出し口2が設けられており、具体的に図示したものにおいては収納室9aの一部に取出し口2が設けられている。
【0012】
本発明において、ゲル化燃料11及び再液化剤12をどちらの収納室に収納するかは特に限定されず、燃料の種類や用途等に応じて適宜定めればよいが、本実施形態のように、取り出し口2を設けた側の収納室(図示したものでは収納室9a)に再液化剤12を収納する態様が好ましい。そのようにすることで、後述するようにゲル化燃料11と再液化剤12とを混合したとき、ゲル化燃料11が確実に再液化剤12と接触し、燃料の再液化から取出しまでを、一層、効率的に素早くかつ取出し残しなく行うことができる。
【0013】
本発明において、隔部3の形態は特に限定されないが、隔部3を破断する前にはゲル化燃料11と再液化剤12とが接触せず、所定の外力を加えることにより隔部3が破断してゲル化燃料11と再液化剤12とが接触するような形態とすることが好ましい。より具体的には、本実施形態のようにソフトケース1の内面を適度な接着力で接着したイージー・ピール・シールとすることが好ましい。本発明においてソフトケース1の内面を接着してなした隔部とは、その接着界面だけではなく、接着した領域のソフトケース部分を含む意味に用いる。
なお、本発明のソフトケースカートリッジにおいては必要に応じて付加機能的収納室を追加した3つ以上の収納室を有するものとしてもよい。また、膈部3は上述したソフトケース内面を接着してなす膈部以外にも、破断しうる壁状の膈部、例えば隔壁であってもよい。
【0014】
ここで、ソフトケース1は通常のシート材から形成され、取り出し口シール部4(図1参照)をはじめ、本実施形態のソフトカートリッジ10の長手方向(X方向)の両側(取出し口2及び反対側の縁)にサイドシール部を設けることがある。このサイドシール部は内容物の漏洩などが生じないよう強固に接着し接合することが好ましい。
サイドシール部の接着強度は、特に限定されないが5kg/1cm2の圧力印加に耐えるであることが好ましく、10kg/1cm2の圧力印加に耐えることがより好ましい。
これに対し、上述した隔部3をなすイージー・ピール・シールにおいては、上記サイドシール部より弱い接着力であることが好ましく、握力により内容物を押圧したときに、その内容物の圧迫力により破断(剥離)する程度であることがより好ましい。このようにすることで、取出し口シール部4を含めたサイドシール部は剥離せずに、イージー・ピール・シール部のみが選択的に剥離し、ゲル化燃料11と再液化剤12とを外部に漏洩することなく確実に混合することができる。イージー・ピール・シールの接着強度は特に限定されないが、容器に0.5N〜2Nの力が印加された際に開封されることが好ましく、0.8N〜1Nの力が印加された際に開封されることがより好ましい。
【0015】
隔部3をイージー・ピール・シールにより形成するとき、イージー・ピール・シール部の幅(図1及び2におけるX方向の長さ)は特に限定されないが、通常のシールにおける内容物の遮断性及び外力による剥離性を考慮すると、3〜10mm程度とすることが実際的である。
【0016】
イージー・ピール・シールは通常のシール方法により形成すればよく限定されないが、ソフトケースとして樹脂材料を用いるようなときには、イージー・ピール性のフィルムや剤を接着界面に設ける方法や、熱接着する方法が挙げられる。熱接着するとき上述した強固なサイドシール部とは熱接着条件(例えば圧力や温度など)を変えて相対的に弱い接着力とするよう調節することが好ましい。
【0017】
本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジは、効率的かつ低コストに生産することができ大量生産に適している。燃料カートリッジは通常電子機器等において交換部品として使用される。このような使用実態からみて低価格でありシンプルな構造のものが好ましく、本発明によればこれらのニーズにも十分に応えることができる。さらに、後述するハードケースと組み合わせた燃料電池用燃料カートリッジとすれば、ハードケース側に機能性の部品を配置し、ソフトケースのみを交換することにより多機能なものであってもリプレースに適したカートリッジとして対応することができる。
【0018】
本実施形態のソフトカートリッジは、図示したように、前記の取出し口2に取出しチューブ7を配設することが好ましい。この取出しチューブ7は必要に応じて設ければよいが、所定の場所にまで外部開口端7bを延出させて配置し、確実にその場所に再液化燃料を送り出すことができる点で好ましい。また、チューブ7は図示したもののように収納室9aの内部に深く差し込み、内部開口端7cを隔部3の近くにまで届かせて配設することが好ましい。すなわち、ゲル化燃料と再液化剤との混合が隔部3付近から広がっていくことを考慮すると、そこで再液化された燃料を内部開口端7cよりそのままケース内部での大幅な移動を伴わずに取り出すことができるため好ましい。
【0019】
また、図示したもののように、チューブ7の内孔に内部フィルタ8を設けることが好ましい(図2参照)。これにより再液化した燃料が取出し口2ないし開口端7bから取り出される経路に内部フィルタ8が配設され、再液化した燃料以外のものを堰き止め、燃料のみを純度良く取り出すことができる。内部フィルタとしては、イオン交換樹脂及びテフロン(登録商標)製のろ紙の組み合わせからなるものを用いることが好ましい。イオン交換樹脂としては、後述するようなカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂等を用いることができる。
【0020】
取り出し口2及び取り出しチューブ7は、本実施形態のソフトカートリッジ10においては別体として取り付けられチューブ接着面4aにおいて封止接着されている。このとき接着面4a(図2参照)における接着力は先に述べたサイドシールと同様の強固な接着力であることが好ましい。これにより内容物の不用意な漏洩を防ぐことができる。ただし、取り出し口2及び取り出しチューブ7は、本実施形態とは異なり一体のものであってもよい。そこで、本発明においては、上記別体式取出し口及び一体式取出し口の両態様における取出し口を含むよう、特に「燃料取出し口」というときにはソフトケースに設けられた「取出し口2」を意味するだけではなく、「チューブ7」との組み合わせにより形成した取出し口構造部の意味を含む。
【0021】
上記燃料取出し口には螺合式又は嵌合式の接続手段を設けることが好ましく、図示したものにおいてはチューブ7の外部開口端7bの近傍に螺合式接続手段(雄ネジ部)7aが設けられている(図1参照)。このようにすることで、後述する逆止弁や外部フィルタと当接し密着するよう接続することができる。
【0022】
ソフトケースの材料は特に限定されないが、屈曲柔軟性を有する材料であることが好ましく、例えば握力程度の外力によって自由に変形する材料及び厚さであることが好ましい。また、後述するように所定の箇所をシールすることを考慮し熱接着性を有する材料であることが好ましい。ソフトケースの材料として、一般的には、包装ケースのシート又はフィルムとして通常用いられる材料が挙げられ、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの単体や積層体のシート、あるいはこれらにポリエステルやポリアミド等の延伸シートやアルミ箔やシリカ蒸着層、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリ塩化ビニリデンなどのガスバリア層などを積層した積層材が挙げられる。
【0023】
また、ゲル化燃料及び/又は再液化剤の劣化を抑制する観点から、紫外線遮断性のソフトケースとすることが好ましく、紫外線遮断性の樹脂とアルミニウムシートとからなるラミネートシートを用いることが好ましい。ここで紫外線遮断性のラミネートケースとしてとして具体的には、酸素と光線を遮断するためのアルミ箔(7μm、9μm)やアルミニウムを蒸着したポリエチレンテレフタラートなどを組み込んで構成することが可能である。
【0024】
ゲル化燃料は燃料がゲル化貯蔵されているため、液体燃料に比べてそれ自体安全性が高められている。例えば、メタノールでいうとゲル化することにより液体のときと比べ大幅に蒸発速度を下げることができる。そして本発明においは、さらに上述のソフトケースによりゲル化燃料を封入したため、一層安全性が高められ、広範な流通手段や交通機関への持ち込みに好適に対応することができる。例えば、上述した取出し口の螺合式及び/又は嵌合式接続手段に封止キャップを取り付け、さらに漏れ防止性を高めれば、極めて安全性・信頼性の高い態様として燃料を取り扱うことができる。
【0025】
ソフトケースのシート厚さは特に限定されないが、屈曲柔軟性及び内容物のシール性を考慮すると、100μm〜5mm程度であることが実際的である。ソフトケースの大きさも特に限定されないが、典型的なアプリケーションとして携帯電話や携帯型コンピュータに利用するサイズのカートリッジとするようなときには、例えば縦100mm×横50mm程度、縦200mm×横100mm程度などとすることが好ましい。
【0026】
本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジは、前記隔部を外力により破断して、前記ゲル化燃料と再液化剤とを接触させ、前記燃料を再液化しうるようにされている。図3は本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジにおけるゲル化燃料と再液化剤との混合形態を模式的に示した断面図である。同図に示したとおり、本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジにおいては、人の握力程度の力で押圧し(図示したものでは指31及び32により押圧行為を示しているが、指で押圧する態様に限られず、手掌を含めてより強く押圧してもよい。)、内容物が圧迫されて流動し、その圧迫力により隔部3を破断(剥離)することが好ましい。図3に示した混合態様においては、隔部3のイージー・ピール・シールが押圧されたゲル化燃料11の圧迫力により剥離し、再液化剤12側にゲル化燃料11が移行しながら接触させられている。そして図3に示したものにおいては、ゲル化燃料11と再液化剤12との混合が多少進行した状態を示しており、混合燃料33が隔部3のあった部分を中心に広がっており、この混合燃料33の領域において再液化燃料(図示せず)が生成される。
【0027】
このとき、両剤の混合を一層促進するために手揉みによりソフトカートリッジ全体を多くの位置で押圧することが好ましい。それによりソリッドな構造のハードカートリッジでは実現できない素早い再液化を実現することができ、高い燃料取出し収率を達成することができる(本発明において「燃料取出し収率」とは、一度ゲル化して貯蔵した燃料の質量で再液化後に取出した燃料の質量を除した値の百分率をいい、単に「収率」ということもある。「燃料取出し収率」は高いほど好ましく、「収率」が100%であればゲル化して貯蔵した燃料が全量取り出されたことを意味する。)。また、手揉みの具合により用途やニーズに応じて再液化の速度を調節することができる。また、このように手揉みといった特別なデバイスを携帯する必要がなく簡便に燃料を供給することができるため、必要なときに必要な場所で液体燃料を素早く確保しうる交換カートリッジのニーズに応えることができる。
【0028】
本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジは、これをハードケースに収納し燃料電池用燃料カートリッジとすることが好ましい。図4は本発明の燃料電池用燃料カートリッジの好ましい実施態様を模式的に示す分解斜視図である。同図に示した形態においては、上記ソフトカートリッジが、台座43及び蓋44からなるハードケースに収納されている。ここで、台座43にはソフトカートリッジ10の外形寸法にほぼ合わせた彫りこみ部43cが形成されている。そして、台座上面の縁43aと蓋の裏面44aとが合わされ、必要に応じて両者を固定手段(図示せず)により固定して封止することができる。それにより彫りこみ部43c内でソフトカートリッジ10がいたずらに動いてしまわず、例えば携帯デバイス内に装着したときの振動等によっても、ソフトカートリッジ10の適切な設置固定状態が維持されうる。
【0029】
本発明においては、上記ソフトカートリッジをハードケースに収納し、該ソフトカートリッジの燃料取出し口に当接し密着するよう、前記ハードケースに、逆止弁を設ける、あるいは前記ソフトカートリッジ側からみて外部フィルタと逆止弁とをその順に設けることが好ましい。図4に示した形態においては、ソフトカートリッジの取出し口チューブ7に、ゴム付きキャップ41を介して、逆止弁キャップ42が取り付けられた構成として示されている。
【0030】
図5は図4のV−V線断面を模式的に示した拡大断面図である(なお、逆止弁キャップ42については一部を切欠して示す部分断面図とされている)。本実施形態においては、チューブ7に設けられた雄ネジ部7aと、ゴム付きキャップの内側に設けられた雌ネジ部41cとを螺合し接続しうる。これによりチューブ7の開口端7bと、ゴム付きキャップの開口部41bとが接続され密閉固定される。さらにゴム付きキャップ41の外側には雄ネジ部41aが設けられており、逆止弁キャップ42の内側に設けられた雌ネジ部42cと螺合して接続しうる。これによりゴム付きキャップ41が逆止弁キャップ42の開口部42bに接続されて密閉固定される。上記の各接続により、ソフトカートリッジの取出し口チューブ7、ゴム付きキャップ41、及び逆止弁キャップ42が当接し密着して接続される。
【0031】
キャップ41にはゴム52が配設されており、未使用状態(後述する針が刺し込まれる前の状態)においてソフトケースの内容物が外部に漏洩しないようにされている。したがって、例えばキャップ41を取り付けた状態で漏洩防止され、上述したような高い取扱い安全性が確保される。そして、燃料を取り出して使用するときにキャップ42をねじ込むことにより、針53がゴム52を突き刺し、そこにあけられた細口から液体燃料を取出すことができる。
【0032】
ゴム52を通過してきた液体燃料は、逆止弁42の逆止弁構造部(図示せず)を通過して、出口57から取り出される。このようにして、取り出された燃料を燃料電池(図示せず)に供給することができる。
このような構造にすることで、未使用時には高い安全性を維持しながら、必要なときにのみ的確に再液化した燃料を取り出すことができる。さらには、燃料の逆戻りを抑えた良好な燃料供給を行うことができる。
【0033】
図6は、本発明の燃料電池用燃料カートリッジにおいてハードケース内に弾性押圧手段(ばね材)を設けた態様を図4に示したVI−VI線断面により模式的に示した断面図である(ただし、図4におけるVI−VI断面は分解図におけるものであるが、これを組み立てた状態で示している。)。図6に示した態様のように、ソフトカートリッジを挟み込むように板状のばね材をハードケース内に配設することにより、押圧方向61に押圧力を加えることが好ましい。このようにすることで、ソフトケース1内で隔部が破断されゲル化燃料11と再液化剤12とが混合され、その混合燃料33において再液化された燃料を取り出すに当り、方向34に燃料を送り出す放出力を高めることができる。カートリッジを装着する燃料電池ないしデバイス側に燃料吸引手段があり、それにより燃料の取出力を得るのであればよいが、そのような吸引手段がないようなときにも、上述したようなばね材で押圧することにより複雑な機構を要さずに適切な量の燃料を継続的に供給することができる。
【0034】
本発明において用いられる燃料は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、ジメチルエーテル、ギ酸、ホルマリン、ヒドラジン等の有機系の液体燃料、水素、アンモニア、天然ガス、ナフサ、石炭ガス、バイオマスガス等の発電の際に気体状態である気体燃料等が挙げられ、その他水素化ホウ素ナトリウム等も用いることができる。これらの中でも、発電効率が良いことからメタノール、および水素ガスが好ましく、小型化、軽量化できることから液体燃料がより好ましく、メタノールもしくはエタノールがさらに好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0035】
上述の水素をはじめとする気体燃料は液化して用いることができる。気体燃料の液化は、例えば、吸蔵物質にあらかじめ吸蔵させ、さらにこれを分散媒に分散させた分散流体燃料とすることが好ましい。気体燃料の吸蔵物質としては、例えば水素吸蔵合金、カーボンナノチューブ等の水素吸収剤や、ケミカルハイドライド(有機ハイドライド、ボロハイドライド、ナトリウムハイドライド)、金属錯体等が挙げられる。また、気体燃料を吸蔵させた水素吸蔵物質を分散する分散媒としては、例えば水や、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ギ酸、ホルマリン、ヒドラジン等の有機溶媒が挙げられる。
【0036】
[再液化態様1−1]
本再液化態様において、ゲル化燃料に用いるゲル化剤は、上記燃料と共存してゲル化しうるものであればよく、有機高分子等に燃料を吸収させた化学ゲルとなるものであっても、流体燃料とゲル化剤との相互作用によるチキソトロピー性を示す物理ゲルとなるものであってもよい。このとき、ゲル化剤が単独で又は燃料等とともに架橋、水素結合、分子の絡まりあいなどにより網目構造を構成し、そこに前記燃料を取込んだ状態でゲル構成体を形成するものであることが好ましい。
【0037】
ゲル化剤としては、例えば電解質ゲルを構成する電解質ゲル化剤が挙げられ、ゲル化剤が高分子化合物の場合、架橋型高分子ゲル化剤であっても、非架橋型高分子ゲル化剤であってもよい。架橋型高分子ゲル化剤とする場合、架橋密度を調節してゲル内に燃料を取り込もうとする吸収力(燃料となる物質との親和力、浸透圧等)と、吸収作用を止めようとする力(網目構造に基づく弾性力等)をバランスさせ、吸収量を制御してもよい。
【0038】
非架橋型高分子ゲル化剤としては、例えば、酸性および/または塩基性の極性基を有する高分子化合物が挙げられ、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、またはその誘導体などが好ましく、ポリアクリル酸またはその誘導体がより好ましく、ポリアクリル酸が特に好ましい。
【0039】
架橋型高分子ゲル化剤としては、上記の非架橋型高分子ゲル化剤を架橋したものやその誘導体(架橋型ポリアクリル酸やその誘導体、架橋型ポリアクリルアミド等)が挙げられ、架橋剤による網状化物、架橋性モノマー導入による網状化物、自己架橋による網状化物、光・放射線照射による網状化物、疎水性モノマーの共重合による不溶化(架橋)物、結晶性ポリマーブロックの導入による不溶化(架橋)物、多価金属陽イオンによる架橋物、水素結合等二次結合の導入による架橋物等が挙げられる。
ゲル化剤の分子量は特に制限されないが、100以上であることが好ましく、1000〜8000000がより好ましい(本発明において、分子量とは、特に断らない限り、質量平均分子量をいう。)。ただし架橋剤などを用いて架橋したさらに分子量の大きなゲル化剤を用いることもできる。
【0040】
燃料は通常ゲル化剤との相互作用により燃料の蒸発速度が減少して粘性が大きく増加する。ゲル化剤の添加量は特に限定されないが、ゲル化した燃料の粘度(本発明において、特に断らない限り、粘度は室温(25℃)における粘度を表す。)が0.02Pa・sec以上となるようにゲル化剤の種類に応じて適宜調整することが好ましく、例えばポリアクリル酸やポリアクリル酸の架橋体をゲル化剤として用いた場合、燃料100質量部に対して、3〜30質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。ゲル化剤の添加量は燃料の含有割合を低めないよう少ないことが好ましいが、少なすぎるとゲル化・再液化の反応性を確保しにくくなる。ゲル化した燃料の粘度が0.02Pa・sec以上であれば、タンクが壊れた場合や持ち運びの際に、流体の飛散を防止することができるので、高い安全性を確保することができる。
【0041】
再液化剤は、特に限定されないが、ゲル化した燃料の一部と水素結合をする物質や、ゲル化した燃料混合物の一部とイオン結合をする物質が挙げられ、例えば、高分子電解質(側鎖にノニオン基、カチオン基、またはその両者を含むイオン性高分子化合物であることが好ましい。)、タンパク質、ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、カンテン等が挙げられる。
再液化剤は、燃料及びゲル化剤から少なくともなるゲル化物と作用して燃料の再液化を起こさせるものであり、ゲル化物中のゲル化剤との親和力(水素結合力、イオン結合力、ファンデルワールス力等)を通じ、不溶塩の生成、pHの変動、分子の絡まりあい、それらの組み合わせの作用により、ゲル化物中で燃料の拘束を解き再液化するものであることが好ましい。
再液化剤は、自己の有する極性基とゲル化剤の有する極性基との関係で定めることができ、再液化剤の極性(高分子化合物であれば側鎖極性)とゲル化剤の極性(高分子化合物であれば側鎖極性)とが逆極性であっても、どちらか一方が両性の極性を備えていても再液化を起こさせるものとして用いることができ、再液化剤の極性とゲル化剤の極性とが逆極性であることが好ましく、それらの極性基の反応性が高いことがより好ましい。
再液化剤の平均分子量は、100以上であることが好ましく、1000〜8000000がより好ましい。ただし架橋剤などを用いて架橋したさらに分子量の大きな再液化剤を用いることも可能である。
再液化剤の平均分子量が小さすぎると、再液化後に燃料のみを取出す場合、燃料等の低分子量化合物との分離が難しくなり、安価なフィルタが入手しにくくなる。分子量が大きすぎると、ゲル化剤で構成されたゲル化物に再液化剤が浸透しにくくなる場合がある。
【0042】
さらに再液化剤はゲル状であることが好ましい。ゲル状の再液化剤は、粘度が0.01Pa・sec以上であることが好ましい。
【0043】
本発明において、再液化剤を添加する量(複数の場合はその総量)に特に制限はないが、ゲル化物を再液化するのに十分な量とすることが好ましく、燃料100質量部に対する量でいうと1〜30質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。再液化剤の添加量は、燃料の含有割合を低めないよう少ないことが好ましいが、少なすぎると再液化の反応性を確保しにくくなる。従って、燃料の含有割合と再液化反応性とを考慮して定めることが好ましい。
【0044】
[再液化態様1−2]
本再液化態様においては、再液化補助剤を前記ゲル化燃料に予め分散させておき、再液化剤を添加して燃料を再液化することができる。再液化補助剤は該混合物に対して実質的に不溶な状態で分散させることができるものが好ましく、あるいは僅かながら溶解した状態で分散させることができるものが好ましい。さらに再液化補助剤は、再液化剤の添加により再液化補助剤に作用して、具体的にはゲル化混合物中での再液化補助剤の溶解度を高める等して、ゲル化剤と再液化補助剤との間に生じる親和力を通じた作用を起こさせ、ゲル構成体の網目構造を崩してゲル構成体の網目構造から燃料を取出せるようにするものが好ましい。
【0045】
再液化補助剤は電解質からなるものであることが好ましく、再液化する前は電解質が低電離状態でゲル構成体に分散されていることが好ましい。この電解質の再液化補助剤は、好ましくは、高分子電解質、アスコルビン酸類(例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、D−アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、エリソルビン酸、それらの酸化還元誘導体(デヒドロアスコルビン酸)等)、ステアリン酸、タンパク質、ペプチド、コラーゲン、ゼラチン、カンテン、その他の固形ないし液状の有機酸が挙げられる。また、これらの電解質は金属イオン基等を含む塩として用いることも好ましい。さらにまた、再液化補助剤として炭酸水素ナトリウムを用いることも好ましい。
再液化補助剤は、単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよく、単独で用いる場合は、ペプチド、タンパク質、金属イオンを含む電解質などが好ましく、2種類を組み合わせて用いる場合はアスコルビン酸類とタンパク質との組み合わせ、アスコルビン酸類とペプチドとの組み合わせなどが好ましい。
【0046】
本発明において、再液化補助剤を燃料混合物に予め分散させて用いるとき、その形態は特に限定されないが、粉末状または微粒子状のものを用いることが好ましく、例えば、無機金属微粒子、高分子ビーズ等を用いて微粒子化してもよい。微粒子の粒径は特に制限されないが、平均粒径で0.01mm〜1mmであることが好ましく、0.1mm〜1mmであることがより好ましい。粒径が大きいほどフィルタにより燃料と分離することが容易であるが、大きすぎると再液化補助剤とゲルとの反応が遅くなり再液化しにくくなる。
【0047】
再液化補助剤を添加する量(複数の場合はその総量)に特に制限はないが、燃料100質量部に対する量でいうと1〜30質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。再液化補助剤の添加量は、燃料の含有割合を低めないよう少ないことが好ましいが、少なすぎると再液化の反応性を確保しにくくなる。従って、燃料の含有割合と再液化反応性とを考慮して定めることが好ましい。
【0048】
再液化補助剤を用いた本態様における再液化剤としては、再液化を促すことができるものであれば特に制限はないが、水または水性媒体が好ましく、水性媒体である場合は、低分子量(例えば、分子量100から1000)のpH調整剤(例えば、アミノ酸溶液、ペプチド溶液、燃料電池電解質類似の酸物質あるいはアルカリ物質で、例えばパーフルオロスルホン膜のセパレータ等に対しては硫酸等)、有機酸溶液(例えば、ステアリン酸溶液、アスコルビン酸溶液等)などが好ましく、アスコルビン酸は燃料電池の種類によっては燃料としても機能するためより好ましい。
【0049】
再液化補助剤を用いた本態様における再液化剤を添加する量に関して特に制限はないが、燃料100質量部に対する量でいうと1〜30質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。本態様における再液化剤の添加量は、燃料の含有割合を低めないよう少ないことが好ましいが、少なすぎると再液化誘発反応の反応性を確保しにくくなる。従って、燃料の含有割合と再液化反応性とを考慮して定めることが好ましい。
【0050】
また、気体燃料を流体化して用いる場合、例えば、水素吸蔵物質等を分散した分散流体燃料を用いる場合、そのゲル化及び再液化は、これまで述べてきたものと同様にして行うことができ、さらに再液化した後に加水分解・脱水反応・脱水素反応によって吸蔵物質から気体燃料(例えば水素)を取出して発電に用いることができ、皿田孝史、柳瀬考応他、「金属水素化物を用いたパッシブ方小型燃料電池の開発」、セイコーインスツル、第12回燃料電池シンポジウム講演予稿集;堤泰行、劉岩他、「脱水素反応型燃料電池」、第12回燃料電池シンポジウム講演予稿集等を参考にすることができる。
【0051】
再液化した燃料の粘度は特に限定されないが、0.02Pa・sec未満となるように再液化剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。再流動化した燃料の粘度が高すぎると効率良く燃料を取り出すことができない。
なお、上述のようなゲル化燃料、再液化剤、及び再液化補助剤の態様については特開2006−236969号公報を参考にすることもできる。
【0052】
[再液化態様2]
本再液化態様においては、メタノールと高分子電解質とゲル化イオンとを共存させて高分子電解質の解離度を高めてゲル化したゲル化燃料において、再液化イオン(再液化剤)の添加により高分子電解質の解離度を低下させて再液化することができる(本発明において、「剤」とは単一化合物だけではなく、樹脂や組成物及びイオンを含む意味に用いる。)。
ここで高分子電解質はその官能基の種類や樹脂内の官能基の量等により極性の強弱を調節することができ、その強度は例えば、強極性(強酸性、強塩基性)及び弱極性(弱酸性、弱塩基性)に区別することができる。官能基の解離性を表す尺度として、解離定数Kや解離定数を用いて導かれるpKなどの指標がある。酸性基はそのpK値よりも高いpHの溶液にて解離し、塩基性基はそのpK値よりも低いpHで解離することが知られている。高分子電解質の官能基の正確なpK値は測定できないが、見かけ上のpK値は計算により求められる。本発明において、その酸塩基強度は、例えば、所定濃度のメタノール水溶液に所定の高分子電解質を入れ、その電離度を測定しておおむね代用することができる。具体的には、1gの高分子電解質を1L(リットル)の水に投入した際のpHで求めることができる。必要に応じて、高分子電解質の交換容量や溶液組成などを考慮してもよい。本発明においては特に断らない限り、強酸性とは官能基として−SO3−基を有する樹脂に概ね相当する酸強度(例えば、三菱化学社製の強酸性イオン交換樹脂PK212(商品名)に相当する酸性強度)をいい、弱酸性とは官能基として−COO基を有する樹脂に概ね相当する酸強度(例えば、日本触媒社製の高分子吸収剤アクアリックCA(商品名)に相当する酸性強度)をいう。これに対し、強塩基性とは−NR基(Rはメチル基もしくはエチル基)を有する樹脂に概ね相当する塩基強度(例えば、三菱化学製の塩基性イオン交換樹脂PA308(商品名)に相当する塩基性強度)をいい、弱塩基性とは官能基として−NR基(Rはメチル基もしくはエチル基)を有する樹脂に概ね相当する塩基強度(例えば、ダウケミカル製の塩基性イオン交換樹脂マラソンWBA(商品名)に相当する塩基性強度)をいう。なお、後述するキレート系樹脂は上記の弱極性のものより、さらに弱い極性の樹脂として用いることができる。
本再液化態様のゲル化燃料においては、なかでも高分子電解質として、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸架橋体、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、ポリアクリルアミド、及びポリエチレンイミンからなる郡より選ばれた少なくとも1つの高分子電解質を用いることが好ましい。
【0053】
また、ポリアクリル酸を架橋した材料のなかで、ビーズ状の巨大な分子となった高分子吸収剤とよばれるものを好ましく用いることができる。高分子吸収剤はオムツなどに利用されている広く普及した材料の一つであり、安定的に供給され、比較的安価に入手することができる。高分子吸収剤は主鎖に例えばカルボキシル基などの官能基を備えたものが挙げられる。カチオン性高分子吸収剤は、出荷時の状態として、アンモニウム塩やナトリウム塩とされ、本来弱酸性であるが水酸化ナトリウムやアンモニア水などで中和処理が行われていることが多い。このとき、高分子吸収剤に結合しているアンモニウムイオンやナトリウムイオンを取り除く前処理を行うことが好ましい。この処理は、イオン交換樹脂のコンディショニングと呼ばれる処理と同様である。コンディショニング処理を行った高分子吸収剤は、膨潤しているため、室温で乾燥することが好ましい。
高分子吸収剤は、分子量が高い巨大分子であることが好ましく、例えば、質量分子量100,000〜10,000,000のものが好ましく、1,000,000以上のものがより好ましい。このような分子量の高い吸収剤を用いることで、例えば容器をさかさまにしても垂れ落ちることのない、硬質のゲル化燃料を得ることができる。ここで硬質のゲルとは、高い粘度、高い揮発抑制性、高い引火点、低い曳糸性、低い粘着性などを備えたゲルを示す。なお、このような高分子吸収剤を用いると、メタノール燃料と混合しただけではゲル化せず、ゲル化したとしても時間がかかりすぎる場合があるが、このような場合にも後述するゲル化イオンを作用させて効率的にゲル化することができる。
【0054】
上記の燃料組成物中に共存させるゲル化イオンは、前記高分子電解質(例えば燃料ゲル化樹脂)の種類やメタノール濃度等に応じて適宜定めればよいが、例えば、カチオンとしては、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ストロンチウムイオン、鉛イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。アニオンとしては例えば、オキソニウムイオン、硫酸イオン、リン酸イオン等が挙げられる。なかでも水から発生する、カチオンとしては、プロトンが好ましく、アニオンとしてはオキソニウムイオンが好ましい。水を添加することは、特定の燃料電池でクロスオーバの低減のために好ましい。なお、同種のゲル化イオンであっても、燃料ゲル化樹脂の種類やメタノール濃度によってゲル化の促進状態が変化する。
【0055】
ゲル化イオンは前記高分子電解質(例えば燃料ゲル化樹脂)によるゲル化を促進するイオンである。ここで、ゲル化樹脂とゲル化イオンとから構成される塩のメタノール水溶液への溶解量が、ゲル化樹脂とゲル化イオンとの組み合わせにより変動するため、ゲル化イオンの種類や濃度は、燃料ゲル化樹脂の種類に依存するのみならず、利用するメタノール水溶液の濃度にも依存する。多くの場合ゲル化イオンの極性は、燃料ゲル化樹脂の高分子電解質の極性との関係で定められる。一般に高分子電解質は、樹脂の主鎖に拘束された官能基と官能基に結合した対イオンとから構成される。そのため、ゲル化イオンは官能基と対イオンとの電離が促進されるイオンであり、該高分子電解質の官能基と同一の極性のものが用いられる。具体的には、高分子電解質としてカチオン性高分子電解質(ポリアクリル酸等)を用いたときには、主鎖に固定された官能基はカルボキシル基であるため、ゲル化イオンはアニオンとなる。より具体的には、カルボキシル基と結合したプロトンをカルボキシル基から引き離すアニオン(オキソニウム等)となる。逆に、高分子電解質としてアニオン性高分子電解質(ポリアクリルアミド等)を用いたときには、ゲル化イオンはカチオン(プロトン等)となる。
【0056】
ゲル化イオンを燃料組成物中に共存させる方法は特に限定されず、例えば、メタノール燃料中にゲル化イオンを仕込んでおいても、メタノール燃料と燃料ゲル化樹脂とを混合した後にゲル化イオン発生剤を添加してゲル化イオンを供給発生させ共存させてもよい。なお、このときゲル化イオンは、ゲル化イオン発生剤から直接供給され発生させたものであっても(例えば、COOH基から解離したプロトン)、ゲル化イオン発生剤が有する基が水(HO)と反応して間接的に発生したイオン(例えば、NH基が水からプロトンを引き抜きNH基となり、そのため発生したオキソニウムイオン)であってもよい。
【0057】
ゲル化イオン発生剤としては、例えば、ゲル化イオンを含有する剤(具体的には、中性塩、酸性塩、アルカリ性塩、高分子電解質樹脂、それらの水溶液、それらのメタノール溶液)などが挙げられる。特に、水溶液、ゲル化イオンを発生する樹脂(以下、「ゲル化補助樹脂」という。)等を用いることが好ましく、なかでもゲル化補助樹脂を用いることがより好ましい。すなわち、例えば低分子量の塩やその電解水をゲル化イオン発生剤として用いたときには、ゲル化イオンと共に対イオンが燃料組成物中に発生して拡散する。例えば、塩化アンモニウムを用いて、ゲル化イオンとしてアンモニウムイオンを発生させたとき、対イオンとして塩素イオンが発生する。この対イオンは、再液化したときにメタノール燃料中に混入してしまい、その除去は困難である。このような対イオン(副生物)は、メタノール燃料を取り出して発電に用いたとき、燃料電池の電極等を劣化させその耐久性を低下させることもある。したがって除去することが好ましい。これに対し、ゲル化イオン発生剤としてゲル化補助樹脂を用いれば、ゲル化イオン放出後の樹脂部分は組成物中に拡散してしまうことはなく、その混入を避け、容易に取り除くことができるため好ましい。
【0058】
ゲル化補助樹脂の膨潤強度は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の膨潤強度より低いことが好ましい。このようにすることで、ゲル化樹脂が膨潤する際にも、ゲル化補助樹脂の膨潤は抑えられ一定形状に保たれる。そのため、例えば取り除くときにも、容易に燃料ゲル化物と分離することができる。一般に樹脂の膨潤強度は、樹脂の組成で調節することができ、とくに官能基の種類と架橋量とで調節することができる。すなわち、ゲル化補助樹脂の官能基の種類を変えたり、架橋量を高めたりするなどして膨潤量を低下させて所望の膨潤強度の樹脂を得ることができる。本発明において、メタノール水溶液中での樹脂の膨潤強度(吸収倍率)は、ティーバック法(JIS規格K7223)により測定した値をいう。具体的には所定の樹脂を投入して、プロトン量を調整したメタノール水溶液で膨潤強度を測定した値であり、その値が大きいほど膨潤し易いことを示す。
【0059】
ゲル化イオン発生剤としてゲル化補助樹脂を用いるとき、その極性はゲル化イオンの極性との関係で定められ、ゲル化イオンと反対極性の官能基を備えたものが好ましい。ゲル化補助樹脂の酸塩基強度は特に限定されず、強極性イオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂)であっても、弱極性イオン交換樹脂(弱酸性カチオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂)であっても、キレート樹脂であってもよい(ここでの酸塩基強度は、先に燃料ゲル化樹脂において説明したものと同じである。)。なかでも燃料ゲル化樹脂として弱極性高分子電解質を用い、ゲル化補助樹脂としてそれと反対極性の強極性イオン交換樹脂を用いた組み合わせが好ましく、弱酸性高分子電解質と強塩基性アニオン交換樹脂との組み合わせがより好ましい。ゲル化補助樹脂は、メタノール燃料のゲル化を妨げなければ、単独で用いても、複数の樹脂を組み合わせて用いても、その他の添加剤と組み合わせて用いてもよい。
ゲル化補助樹脂の分子量は特に限定されないが、質量平均分子量100,000〜10,000,000が好ましく、1,000,000以上がより好ましい。特に架橋された樹脂が望ましい。このような範囲の樹脂とすることで再液化後にゲル化補助樹脂の外部への流失をフィルタすることが容易になるのみならず、ゲル化した燃料をカートリッジなどに格納する前に、ゲル化補助樹脂のみを取り除くなどを行うこともできる。
【0060】
本態様において、燃料ゲル化樹脂の添加量は特に限定されないが、燃料ゲル化物の粘度(本発明において、特に断らない限り、粘度は室温(25℃)における粘度を表す。)が8Pa・sec以上となるように燃料ゲル化樹脂の種類に応じて適宜調整することが好ましく、例えばポリアクリル酸やポリアクリル酸の架橋体をゲル化剤として用いた場合、メタノール燃料100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。このとき燃料ゲル化樹脂の添加量は燃料の含有量を確保するよう少ないことが好ましいが、少なすぎるとゲル化・再液化の反応性が低くなる。ゲル化した燃料の粘度が高ければより安全性を高めることができる。
【0061】
前記燃料組成物に共存させるゲル化イオンの量は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基を中和・反応する当量に対して0.1〜10倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であることがより好ましい。上記範囲のゲル化イオン共存量とすることで、ゲル化イオンの添加によって、燃料組成物のpHが不用意に高くなったり、低くなったりすることが防止され、また、反応時の緩衝液としての効果が期待できる。
【0062】
再液化イオンはゲル化燃料中に発生させると、その作用により、ゲル化物中の高分子電解質の解離度が低下して燃料ゲル化樹脂が収縮し、メタノール燃料が再液化し、放出されるものである。
再液化イオンの極性はとくに限定されないが、高分子電解質の官能基の解離度を低下させるため、高分子電解質の官能基と反対極性のものが望ましい。例えば、カオチン性高分子電解質を燃料ゲル化樹脂として用いた場合、再液化イオンはカオチンとなり、アニオン性高分子電解質を燃料ゲル化樹脂として用いた場合、再液化イオンはアニオンとなる。なかでも水から発生する、プロトンもしくはオキソニウムイオンが好ましい。再液化イオンがカオチンのとき、好ましくはプロトンである。再液化イオンがアニオンであるとき、好ましくはオキソニウムイオンである。水を添加することは、特定の燃料電池でクロスオーバの低減のために好ましい。
【0063】
再液化イオンをゲル化物中に発生させる量は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基を中和する当量に対して0.1〜10倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であることがより好ましい。ゲル化イオンの利用を考慮すれば、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基とゲル化イオンとの双方を中和する当量に対して0.1〜10倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であることがより好ましい。上記範囲のようにすることで、燃料組成物のpHが不用意に高くなったり、低くなったりすることが防止され、また、反応時の緩衝液としての効果が期待できる。
【0064】
再液化イオンをゲル化物中に発生させる方法はとくに限定されないが、例えば、再液化イオンを含有する剤(具体的には、中性塩、酸性塩、アルカリ性塩、高分子電解質樹脂、それらの水溶液、それらのメタノール溶液)などが挙げられる。特に、水溶液、再液化イオンを発生する樹脂(以下、「再液化イオン発生樹脂」という。)等を用いることが好ましく、なかでも再液化イオン発生樹脂を用いることがより好ましい。このように樹脂を用いることで、ゲル化補助樹脂において説明したのと同様に、再液化燃料中に再液化イオンの対イオンを発生・拡散してしまうことなく、再液化イオン放出後の樹脂部分を固体として分離し回収することができる。なお、再液化イオンは、ゲル化イオンのときと同様に、再液化イオン発生剤から直接発生させたものでも、間接的に発生させたものでもよい。
【0065】
再液化イオン発生樹脂の種類は特に限定されないが、上述したような再液化イオンの再液化作用の点から、ゲル化物中の高分子電解質の官能基と反対極性の再液化イオンを発生する樹脂、すなわち高分子電解質と同一極性の官能基を備えた樹脂が望ましい。また、再液化効率を高めるために、ゲル化物中の高分子電解質より強い極性の樹脂を用いることが好ましい。具体的にいえば、例えば、ゲル化樹脂として弱酸性高分子電解質を用いたとき、再液化イオン発生樹脂として強酸性カオチン交換樹脂を用いることが好ましい。また、ゲル化樹脂として弱塩基性高分子電解質を用いたときは、再液化イオン発生樹脂として強塩基性アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。ここで、極性の強弱は高分子電解質について説明したものと同様である。
【0066】
再液化イオン発生樹脂の分子量は特に限定されないが、質量平均分子量100,000〜10,000,000が好ましく、1,000,000以上がより好ましい。特に架橋された樹脂が好ましい。このような範囲の樹脂とすることで再液化後に再液化イオン発生樹脂の外部への流失をフィルタすることが容易になる。
【0067】
再液化イオン発生樹脂の膨潤強度は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の膨潤強度より低いことが好ましい。このようにすることで、先にもゲル化補助樹脂について述べたように、ゲル化樹脂が膨潤する際にも、再液化イオン発生樹脂の膨潤は抑えられ一定形状に保たれるため、例えば取り除くときにも、容易に燃料ゲル化物と分離することができる。樹脂の膨潤強度の調整、測定方法等はゲル化補助樹脂について説明したものと同じである。
【0068】
再液化イオン発生樹脂の量は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基を中和・反応する当量に対して、0.1〜10倍の範囲の再液化イオンを発生する量であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲の再液化イオンを発生する量であることがより好ましい。ゲル化イオンの利用を考慮すれば、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基とゲル化イオンとの双方を中和・反応する当量に対して上記範囲の再液化イオンを発生する量であることが好ましい。樹脂の質量は、必要な再液化イオン発生量と樹脂のイオン交換容量とから導かれる。
【0069】
再液化イオン発生樹脂を燃料ゲル化物に添加する態様は特に限定されず、再液化イオン発生樹脂を単独で添加しても、再液化イオン発生樹脂を他の化合物と混合しておき、その混合物をゲル化物に添加してもよい。なかでも、前記再液化イオン発生樹脂を含有する低濃度メタノール水溶液を燃料ゲル化物に添加し、燃料を取り出すにつれて高濃度メタノール燃料を放出させ、メタノール濃度を制御して燃料電池に供給することが好ましい。
特定の燃料電池では、発電時に生成する水を用いてメタノールの濃度を希釈し、燃料電池に最適なメタノール濃度を得ている。このような燃料電池では、起動時に濃度の高いメタノールが供給されると発電能力が低化することがある。起動時に低濃度メタノールを供給することで、そのような性能低化を防止することができる。さらに、再液化中に迅速にメタノールが供給されるようになる。このとき、再液化イオン発生樹脂と低濃度メタノール水溶液との混合割合は特に限定されないが、再液化イオン発生樹脂が10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。その低濃度メタノール水溶液のメタノール濃度は特に限定されないが、例えば3質量%以下であることが好ましい。こうして取り出される高濃度メタノールのメタノール濃度は上記低濃度メタノール水溶液の濃度より高ければ特に限定されないが、60質量%以上(80質量%以上がより好ましい。)のメタノール燃料として取り出し燃料電池に供給することが好ましい。
【0070】
一般的に市販されているイオン交換樹脂をゲル化補助樹脂もしくは再液化イオン発生樹脂として用いることができ、例えば下記のように分類される。
【0071】
【表1】

ここで、基体とは高分子化合物の骨格をいい、例えば、「スチレン系」とはスチレン骨格を有する高分子化合物を意味する。I型とは、II型よりも塩基度がやや高い樹脂をいう。また、I型はII型より化学的に安定であり、交換吸着する力(イオンの選択性)が強いという特徴があり、I型を最強塩基性陰イオン交換樹脂ということもある。
ゲル型とは粒子内部が均一な架橋高分子で構成されているもので、もっとも一般的なものである。透明感のある外観をしており、粒子の内部は橋架けされた高分子が均一な網目状の構造となっており、この編目の隙間を通って水やイオン、溶質分子が粒子内部まで自由に拡散できる。
ポーラス型は粒子内部に微細な粗密構造を有するもので、高分子の編目以外に、イオンや分子の拡散を促進する細孔が存在する。
ハイポーラス型は細孔をさらに発達させた構造を持っており、反応速度が向上する。
【0072】
以下に、イオン交換樹脂について、それを構成する官能基を有する繰り返し単位の具体例を示す(但し、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。)。ここで、C−1及びC−2が強酸性カチオン交換樹脂、C−5及びC−6が弱酸性イオン交換樹脂、K−1〜K−3がキレート樹脂、A−1及びA−2が強塩基性アニオン交換樹脂(A−1がI型、A−2がII型)、A−6〜A−8が弱塩基性アニオン交換樹脂にそれぞれ分類されるものである。なお、K−2とK−7とは同じ構造式を有するが、式中のnや分子中の官能基の数等を調節して塩基強度を変化させることができ、例えば総交換容量を小さくしてキレート系樹脂として用いても、その量を大きくして弱塩基性イオン交換樹脂として用いてもよい。
【0073】
【化1】

【0074】
キレート樹脂は、中心金属に配位して錯体となっていてもよく、その金属イオンとしては、Cr3+、In3+、Fe3+、Ce3+、Al3+、La3+、Hg3+、UO2+、Cu2+、VO2+、Pb2+、Ni2+、Cd2+、Cd2+、Zn2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、Be2+、Ca2+、Mg2+、St2+などが挙げられる。
また、樹脂の官能基を金属イオン塩として記載したものもあるが、必要によりコンディショニング処理等により所望のものとして用いることができる。
またゲル化補助樹脂や再液化イオン発生樹脂は、少なくとも、150μm間隔のメッシュ構造体を通過する割合が20%以下となる大きさを備えたビーズ形状が好ましいが、シート形状や繊維状あるいはパウダー状であってもよい。
【0075】
次に本実施態様の燃料貯蔵ゲルの膨潤(燃料貯蔵)・収縮(再液化)の1例について、下記の模式的反応スキームを用いて詳しく説明する。但し本発明は、これにより限定して解釈されるものではない。
【0076】
【化2】

【0077】
例えば、高分子電解質の官能基としてカルボキシル基を有する燃料ゲル化樹脂を用いる場合、ゲル化補助樹脂として例えばアミノ基を有する強塩基性アニオン交換樹脂を用いることができる。ここで両者の極性は逆であるため、高分子電解質のメタノール液中での解離、プロトンの放出は促進される。すなわち、アニオン性イオン交換樹脂は強塩基性であるため、メタノール液中で解離して水酸化物イオンを放出する。高分子電解質から放出されたプロトンは上記水酸化物イオンとメタノール液中で反応する。そしてその平衡を保つためプロトンの解離は促進される。その結果、ゲル化補助樹脂の添加により高分子電解質の官能基の解離度は高まり、燃料ゲル化樹脂はメタノール中でより効果的に膨潤しゲル化物となる(反応スキーム左側)。
【0078】
そこへ酸性カチオン交換樹脂を再液化イオン発生樹脂として添加する。すると、ゲル化物中にプロトンが放出され、そのプロトンの作用によってメタノール中で膨潤していた高分子電解質の官能基の解離度は低下し収縮する。このとき、高分子電解質よりも酸性カチオン交換樹脂が強い酸であると、その作用は、より促進される。その結果、高分子電解質は収縮し、メタノールが効果的に再液化して放出される(反応スキーム右側)。
【0079】
ここで高分子電解質の膨潤に利用された強塩基性アニオン交換樹脂は、先にも述べたとおり、その膨潤後に取り除くことが好ましい。例えばナイロンやテフロン(登録商標)繊維からなる袋に強塩基性アニオン交換樹脂を詰めてから、高分子電解質と混合し、メタノール燃料を投入する。強塩基性アニオン交換樹脂から放出される水酸化物イオンは繊維の隙間から外部に放出されるため、燃料ゲル化樹脂は膨潤することとなる。このようにすることで燃料ゲル化樹脂が十分に膨潤した後、袋ごとゲル化補助樹脂を取り出すことができる。
【0080】
上述したようなゲル化イオンと再液化イオンとの酸塩基反応を利用する再液化態様については特願2006−203600号明細書を参考にすることができる。
【0081】
[再液化態様3]
再液化の別の実施態様として、さらにカチオン性高分子電解質(燃料ゲル化樹脂)とメタノールとを含有させてゲル化燃料とし、該ゲル化燃料に再液化イオンを添加して、再液化イオンと高分子電解質との塩を形成させ、再液化する態様が挙げられる。
【0082】
本再液化態様3で用いられるカチオン性高分子電解質(燃料ゲル化樹脂)及びゲル化補助樹脂、並びにそれらを用いたゲル化燃料については、先に再液化態様2で挙げたものを用いることができる(但し、本再液化態様3においては高分子電解質がカチオン性のものである。)。
【0083】
このときの再液化イオンの極性はとくに限定されないが、高分子電解質の官能基の解離度を低下させるため、高分子電解質の官能基と反対極性のものが望ましい。すなわち、本実施態様においてはカオチン性高分子電解質を燃料ゲル化樹脂として用いるため、再液化イオンとしてはカオチンが望ましい。再液化イオンとして具体的には例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ストロンチウムイオン、鉛イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。好ましくはアンモニウムイオンである。
【0084】
再液化イオンをゲル化物中に発生させる量は特に限定されないが、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基を中和する当量に対して0.1〜10倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であることがより好ましい。ゲル化イオンの利用を考慮すれば、燃料ゲル化樹脂の持つ官能基とゲル化イオンとの双方を中和する当量に対して0.1〜10倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であることがより好ましい。上記範囲のようにすることで、燃料組成物のpHが不用意に高くなったり、低くなったりすることが防止され、また、反応時の緩衝液としての効果が期待できる。
【0085】
再液化イオンをゲル化物中に発生させる方法はとくに限定されないが、先に述べた再液化態様2と同様であり、再液化イオンを含有する剤、再液化イオン発生樹脂等を用いることが好ましい。なかでも再液化イオン発生樹脂を用いることがより好ましい。このように樹脂を用いることで、ゲル化補助樹脂において説明したのと同様に、再液化燃料中に再液化イオンの対イオンを発生・拡散してしまうことなく、再液化イオン放出後の樹脂部分を固体として分離し回収することができる。なお、再液化イオンは、ゲル化イオンのときと同様に、再液化イオン発生剤から直接発生させたものでも、間接的に発生させたものでもよい。
再液化イオン発生樹脂の種類や好ましい範囲については、再液化態様2で述べたのと同様である(但し、本再液化態様3においては、再液化イオン発生樹脂は酸性のものである。)
【0086】
次に本実施態様におけるゲル化燃料の膨潤(燃料貯蔵)・収縮(再液化)態様例(塩化アンモニウムのような化合物塩を燃料貯蔵ゲルに添加する態様例、アンモニウム塩となったイオン交換樹脂(以下、「樹脂塩」ともいう。)を燃料貯蔵ゲルに添加する態様例)について詳しく説明する。但し本発明は、これにより限定して解釈されるものではない。
【0087】
メタノール液や水溶液中で、酸性高分子電解質に再液化イオンを含む化合物塩を添加して、フリーカチオン(例えば、アンモニウムイオン)を発生共存させると、そのフリーカチオンは酸性(マイナス電荷)を有する高分子電解質と反応する。本再液化態様においては、このようなイオン交換作用を利用する。このとき、先にも述べたとおり、再液化イオンを含む化合物塩に代えて、樹脂塩を添加して再液化イオンを含有させた水溶液、樹脂塩を添加して再液化イオンを含有させたメタノール溶液、もしくは樹脂塩を添加して再液化イオンを含有させたメタノール水溶液を用いることも好ましい。
【0088】
イオン交換樹脂どうしにおいても上記のようなイオン交換を行うことができる。例えば、フリーカチオン塩(例えば、アンモニウム塩)となった酸性のイオン交換樹脂を、コンディショニング処理してプロトン化したより強い酸性を有する高分子電解質のメタノール膨潤ゲル化物に添加する。すると、上記酸性イオン交換樹脂(樹脂塩)からより強い酸性の高分子電解質へフリーカチオンが選択的に置換される。このイオン交換作用により燃料ゲル化樹脂は収縮固形化し、メタノール燃料が放出され、再液化が実現される。
【0089】
このことを下記反応スキームによりさらに具体的に説明する(但し本発明はこれにより限定されるものではない。)。この例示スキームでは、高分子電解質はカルボキシル基を有する。これを燃料ゲル化樹脂としてメタノールに膨潤させゲル化物とする(状態1)。このとき、上述したとおり、硬質ゲルを得るために分子量の大きい高分子吸収剤を用いた場合など、そのゲル化樹脂がメタノール中に膨潤しない場合がある。そのようなときには、膨潤を補助するゲル化補助樹脂を共存させてメタノール燃料と燃料ゲル化樹脂との混合物中にゲル化イオンを発生させ膨潤ゲル化を促してもよい。このときゲル化イオンは前記高分子電解質とは逆極性のものが用いられ、本例示スキームでは強塩基性イオン交換樹脂により発生させたオキソニウムイオンが用いられている。
上記のゲル化物に、前記高分子電解質より弱い酸性のイオン交換樹脂のアンモニウム塩(本例示スキームでは、キレート樹脂アンモニウム塩が用いられている。)を添加する。するとより弱い酸性のキレート樹脂から、高分子電解質にアンモニウムイオンが置換する。アンモニウム塩となった高分子電解質はメタノールに不溶であり、その樹脂は収縮しメタノール燃料を放出する(状態2)。
【0090】
【化3】

本再液化態様については特願2006−203601号明細書の記載を参考にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジの好ましい実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面を示す断面図である。
【図3】本発明の燃料電池用燃料ソフトカートリッジにおけるゲル化燃料と再液化剤との混合形態を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の燃料電池用燃料カートリッジの好ましい実施態様を模式的に示す分解斜視図である。
【図5】図4のV−V線断面を模式的に示した拡大断面図である
【図6】図4に示した燃料電池用燃料カートリッジに内設したソフトカートリッジを押圧するばね材を設けた態様を図4に示したVI−VI線断面により模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0092】
1 ソフトケース
2 取出し口
3 隔部(イージー・ピール・シール部)
4 取出し口シール部
4a 取出し口とチューブとのシール面
7 チューブ
7a 雄ネジ部
7b 外部開口端
7c 内部開口端
8 内部フィルタ
9a、9b 収納室
10 燃料電池用燃料ソフトカートリッジ
11 ゲル化燃料
12 再液化剤
31、32 指
33 混合燃料
34 再液化燃料の取り出し方向
41 ゴム付きキャップ
41a 雄ネジ部
41b 開口部
41c 雌ネジ部
42 逆止弁キャップ
42b 開口部
42c 雌ネジ部
52 ゴム
53 針
57 出口
61 押圧方向
63 板状押圧弾性材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトケースの内部を隔部により2つの収納室に離隔し、一方の収納室にゲル化燃料を収納し、他方の収納室に再液化剤を収納し、さらに前記ソフトケースの隔部以外の部分に燃料取出し口を設け、前記隔部を外力により破断して、前記ゲル化燃料と再液化剤とを接触させ、前記燃料を再液化しうるようにしたことを特徴とする燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項2】
前記再液化した燃料を前記燃料取出し口から取り出す経路に内部フィルタを設けたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項3】
前記燃料取出し口に螺合式又は嵌合式の接続手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項4】
前記内部フィルタがイオン交換樹脂とテフロン(登録商標)製のろ紙とを組み合わせてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項5】
前記ソフトケースが紫外線遮断性の樹脂とアルミニウムシートとのラミネート材からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項6】
前記隔部の破断強度を前記ソフトケースの破断強度より低くしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項7】
前記隔部が前記ソフトケースの内面を剥離可能に接着してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項8】
前記再液化剤がゲル状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項9】
前記燃料取出し口を前記再液化剤側の収納室に設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池用燃料ソフトカートリッジ。
【請求項10】
前記1〜9のいずれか1項に記載のソフトカートリッジをハードケースに収納したことを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項11】
前記ソフトカートリッジの燃料取出し口に当接し密着するよう、前記ハードケース側に逆止弁を設けた、あるいは、前記ハードケース側に、前記ソフトカートリッジ側からみて外部フィルタと逆止弁とをその順に設けたことを特徴とする請求項10に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項12】
前記ハードケースが、その内部に収納した前記ソフトカートリッジを押圧する弾性押圧手段を有することを特徴とする請求項10又は11に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項13】
ソフトケース内部を隔部により2つに隔てた収納室にゲル化燃料と再液化剤とをそれぞれ内包させ、前記ソフトケースの外部から押圧力を加えて前記隔部を破断することにより、前記ゲル化燃料と前記再液化剤とを接触させることを特徴とするゲル化燃料の再液化方法。
【請求項14】
前記ゲル化燃料及び再液化剤を収納したソフトケースを手揉みにより押圧する、あるいは、前記ソフトケースをハードケースに収納し、該ハードケースに設けた弾性押圧手段により押圧することを特徴とする請求項13に記載のゲル化燃料の再液化方法。
【請求項15】
前記ソフトケースの隔部以外の部分に燃料取出し口を設け、請求項13又は14に記載の方法により燃料を再液化し、再液化燃料を前記燃料取出し口から取り出すことを特徴とする再液化燃料の取出し方法。
【請求項16】
請求項13もしくは14に記載のゲル化燃料の再液化方法、又は請求項15に記載の再液化燃料の取出し方法に用いることを特徴とする燃料電池燃料収納用ソフトケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−251289(P2008−251289A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89556(P2007−89556)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】