燃料電池用触媒電極
【課題】電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を提供する。
【解決手段】SbがドープされたSnO2を含有する複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物が非晶質であり、かつ該複合酸化物においてSbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲であるか、又は、前記複合酸化物が結晶質であり、かつ該複合酸化物においてSbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である前記触媒電極。
【解決手段】SbがドープされたSnO2を含有する複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物が非晶質であり、かつ該複合酸化物においてSbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲であるか、又は、前記複合酸化物が結晶質であり、かつ該複合酸化物においてSbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である前記触媒電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に使用される触媒電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得るため、発電に伴って生じる生成物は原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどないクリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)等に分類される。このうち、PEFCやPAFCは、触媒を担持した多孔質のカーボンを触媒電極として使用することが一般的である。
【0004】
上記のように、燃料電池用触媒電極の材料としてカーボンを使用する場合、電解質に含有される水との電気化学的反応によって、該カーボンがCO2にまで酸化される反応が進行する。かかる反応は、平衡論的には0.2 V(SHE基準)以上の電位で進行し、電位が高くなるほど反応速度も向上することが知られている。
【0005】
それ故、カソード電極においては、通常の燃料電池使用環境(0.3〜0.9 V)で上記の反応が徐々に進行する。また、起動・停止時には、カソード電極に1 V以上の電位が発生することがあるため、このような条件では上記の反応が著しく速く進行する。結果として、長期に亘って使用された燃料電池においては、カソード電極のカーボンが減少することによる、触媒電極の「痩せ」が観察されることがある。触媒電極の「痩せ」が発生すると、燃料電池の性能は著しく劣化する。
【0006】
現在のところ、上記の問題を解決する決定的な手段はなく、専らハード(排気バルブ)及びソフト(制御)の両面でその発生を抑制しているのが現状である。それ故、カーボンに替わる新たな触媒電極材料の開発が求められている。
【0007】
特許文献1は、主として酸化物からなる担体材料に、触媒材料が担持されてなる触媒電極材料を記載している。当該文献は、酸化物として、チタン酸化物、バナジウム酸化物、タンタル酸化物、タングステン酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物、スズ酸化物、エルビウム酸化物、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、シリコン酸化物、亜鉛酸化物、マグネシウム酸化物、ニオブ酸化物及びアルミニウム酸化物を記載している。
【0008】
特許文献2は、酸化物担持体と、前記酸化物担持体の表面に担持された触媒粒子と、前記酸化物担持体の表面の前記触媒粒子の間に位置し、Mo、W、Sn及びRuからなる群より選択される少なくとも一種を含有する酸化物又は複合酸化物を含む融点が1500℃未満の触媒層と、前記酸化物担持体と前記触媒粒子と前記触媒層とが共有する界面とを具備することを特徴とする燃料電池用担持触媒を記載している。当該文献は、酸化物担持体の酸化物として、TiO2、ZrO2、SnO2、WO3、Al2O3、Cr2O3、Nb2O5、SiO2を記載している。
【0009】
特許文献3は、SnドープIn2O3、FドープSnO2及びSbドープSnO2よりなる群から選択される少なくとも一種類からなる触媒担体と、前記触媒担体表面に化学的に結合した、W、Mo、Cr、V及びBよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素を含む酸化物粒子相とを具備してなるプロトン伝導性無機酸化物と、前記触媒担体に、直接あるいは前記酸化物粒子相を介して担持された酸化還元触媒相とを具備してなる触媒複合体、及びバインダーを含んでなる触媒層を具備してなることを特徴とする燃料電池用電極を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-210135号公報
【特許文献2】特開2007-5136号公報
【特許文献3】特開2008-34300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3は、酸化スズ(SnO2)を金属の酸化物として使用することを記載している。SnO2は酸化物半導体の一種であって、それ自体、一定の条件下で電子伝導性を示す。しかしながら、触媒電極の担体材料のような用途に使用する場合には、電子伝導性を向上させるために、SnO2に対して各種の微量成分をドープする必要がある。例えば、特許文献1は、伝導助剤として炭素材料を少量添加することを記載している。この場合、添加された炭素材料において上記で述べた酸化反応が進行しうるため、耐久性の面で問題がある。また、特許文献3は、アンチモン(Sb)をドープしたSnO2を含有する触媒担体を記載している。当該文献に記載の電極の場合、触媒担体の表面はプロトン伝導性を有する無機酸化物によって完全に又は部分的に覆われるため、電極の電子伝導性を向上させることが困難となる。
【0012】
以上のように、金属の酸化物又は複合酸化物を燃料電池の触媒電極の担体として使用する技術はいくつか提案されているが、耐久性及び/又は出力特性の面で満足できる触媒電極は未だ開発されていない。触媒電極の担体に適した金属の酸化物又は複合酸化物を開発するためには、金属の種類やドーパントの含有量等の条件について、様々な組み合わせを検討する必要がある。それ故、本発明は、SbがドープされたSnO2を含有する触媒電極において、コンビケムアレイ技術によって作成されるライブラリを用いてSbの最適な含有量をスクリーニングすることにより、燃料電池に適した特性を備える触媒電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、SbがドープされたSnO2を含有する結晶質又は非晶質の複合酸化物を触媒電極の担体とすることにより、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) SbがドープされたSnO2を含有する非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲である、前記触媒電極。
(2) SbがドープされたSnO2を含有する結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である、前記触媒電極。
(3) 触媒がPtである、前記(1)又は(2)の触媒電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】500℃で6時間アニールした本発明の複合酸化物膜のXRDパターンを示す図である。
【図2】4点式伝導度測定法により測定された、非晶質の複合酸化物膜の抵抗を示す図である。
【図3】4点式伝導度測定法により測定された、結晶質の複合酸化物膜の抵抗を示す図である。
【図4】酸処理後の非晶質の複合酸化物膜の膜厚ロス(%)を示す図である。
【図5】カーボン支持膜上に担持されたPt粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。
【図6】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の酸素還元活性を示す図である。
【図7】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の酸素還元開始電位を示す図である。
【図8】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の安定性を示す図である。
【図9】Pt粒子が担持された結晶質の触媒電極のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図10】図9のサイクリックボルタモグラムから決定された、各Sb添加量における酸素還元開始電位を示す図である。
【図11】触媒電極を調製する際のアニール温度と触媒電極の酸素還元活性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.複合酸化物
本明細書において、「複合酸化物」は、酸化スズ(SnO2)にアンチモン(Sb)をドープすることによって形成される化合物を意味する。SnO2にSbをドープすると、SnO2結晶中のSn4+のサイトがSb5+により置換される。Sb5+に置換されたサイトは、電荷のバランスが崩れ、一電子が欠損した状態になる。この電子が欠損したサイトが電子伝導パスとなるため、本発明の複合酸化物は導電性を発現することとなる。
【0018】
本発明の複合酸化物の結晶構造は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。これらの複合酸化物の製造方法については以下で詳述する。
【0019】
結晶質の複合酸化物は、非晶質の複合酸化物よりも高い酸化還元開始電位を示すことから、触媒電極に含有される担体として使用することが好ましい。また、より高いアニール温度で加熱処理した複合酸化物は結晶性が高くなり、結果として高い酸化還元開始電位を示すことから、触媒電極に含有される担体として使用することが好ましい。この場合、500〜800℃の範囲のアニール温度で加熱処理することにより、結晶性の高い複合酸化物を得ることが出来る。なお、本明細書において、「担体」は、上記で説明した非晶質又は結晶質の複合酸化物を含有する、触媒を担持するための触媒電極の材料を意味する。
【0020】
上記の結晶構造を有する複合酸化物を担体として用いることにより、優れた電気化学的特性を有する触媒電極を得ることが可能となる。
【0021】
なお、複合酸化物の結晶構造及び結晶性の状態は、限定するものではないが、例えば、X線回折(XRD)スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0022】
SbがドープされたSnO2を含有する本発明の複合酸化物の場合、SnO2にドープされるSb添加量と、結果として得られる複合酸化物の抵抗値との間には、極小値を有する二次相関の関係が成立する(図2及び3)。また、上記の極小値を示すSb添加量は、結晶質の複合酸化物と非晶質の複合酸化物との間で互いに異なる値となる。抵抗の極小値を示すSb添加量が両者で異なる理由としては、複合酸化物に含有される酸素原子が結晶化の際の加熱処理により一部除去されて、両者の酸素両論比に差が生じたためと考えられる。
【0023】
さらに、非晶質の複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲でSbをドープすると、結果として得られる複合酸化物の耐酸性は向上する(図4)。
【0024】
それ故、非晶質の複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合は2〜10 at. %の範囲であることが好ましく、より好ましくは8〜10 at. %の範囲である。また、結晶質の結晶構造を有する複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合は1〜3 at. %の範囲であることが好ましい。上記の範囲の割合となるようにSbをドープすることで、耐酸性が高く、かつ高い導電率を有する複合酸化物を得ることが可能となる。
【0025】
なお、複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合(at. %)は、限定するものではないが、例えば、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)スペクトルを測定することにより同定することができる。
【0026】
本発明の複合酸化物は、膜状又は粉末状の形態を有する。膜状の場合、100〜1000 nmの平均膜厚であることが好ましい。また、粉末状の場合、球形又は略球形であって、10〜50 nmの平均粒径であることが好ましい。
【0027】
上記の膜厚を有する複合酸化物の膜を触媒電極の担体として用いることにより、強度が高く、かつ表面積の大きい触媒電極を作製することが可能となる。また、上記の粒径を有する複合酸化物の粉末を触媒電極の担体として用いることにより、電解質との接合が容易で、かつ表面積の大きい触媒電極を作製することが可能となる。
【0028】
なお、複合酸化物の平均膜厚は、蛍光X線式膜厚計、エリプソメトリー等により、平均粒径は、透過型電子顕微鏡 (TEM)、走査型電子顕微鏡 (SEM)等により、それぞれ測定することができる。
【0029】
2.触媒電極
本明細書において、「触媒電極」は、上記で説明した複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する、触媒活性を有する電極材料を意味する。
【0030】
本発明の触媒電極に使用される触媒としては、白金(Pt)、又はPtとPtを除く貴金属(及び/若しくは遷移金属)とからなる白金合金を含有する触媒を挙げることが出来る。ここで、Ptを除く貴金属としては、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)を挙げることが出来る。また、遷移金属としては、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を挙げることが出来る。好ましくは、Ptを含有する触媒である。
【0031】
複合酸化物を含有する担体と該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極は、以下で説明する触媒担持工程によって得ることが出来る。なお、触媒の担持密度は、触媒電極の総重量に対する担持された触媒の重量%で定義される。かかる担持密度は、触媒がPtである場合には、Pt重量/(Pt重量+複合酸化物重量)×100の計算式により算出される。また、触媒が白金合金である場合には、(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量+複合酸化物重量)×100の計算式により算出される。本発明の触媒電極において、触媒の担持密度は1〜50重量%であることが好ましい。なお、触媒電極に担持されているPt重量、Ptを除く貴金属重量、遷移金属重量及び複合酸化物重量は、酸等を用いて触媒電極を処理することにより、Pt、Ptを除く貴金属、遷移金属及び複合酸化物を溶解させた後、該溶液中の金属成分をICP等で定量することにより測定することができる。
【0032】
触媒に白金合金を使用する場合、その組成は、担持された白金合金の総重量に対するPt、Ptを除く貴金属又は遷移金属の重量%で定義される。かかる組成は、Pt重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100、Ptを除く貴金属重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100、又は遷移金属重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100の計算式により算出される。本発明の触媒電極において、白金合金の組成は、Ptが50〜95重量%に対してPtを除く貴金属又は遷移金属が5〜50重量%であることが好ましい。なお、Pt重量、Ptを除く貴金属重量、遷移金属重量及び複合酸化物重量は、上記の方法により測定することができる。
【0033】
上記の触媒の形態は、球形又は略球形であることが好ましい。この場合、1〜10 nmの平均粒径であることが好ましい。なお、平均粒径は、XRDにより測定される結晶子サイズに基づき算出することができる。
上記の触媒を用いることにより、高い触媒活性を有する触媒電極を得ることが可能となる。
【0034】
非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜20 at. %の範囲である複合酸化物を使用すると、その触媒電極は高い酸素還元開始電位を示す(図7)。但し、すでに説明したように、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合が12.5 at. %以上の範囲では、該複合酸化物の耐酸性が顕著に低下するため好ましくない(図4)。それ故、非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合は0〜20 at. %の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜10 at. %の範囲である。上記の割合となるようにSbがドープされた複合酸化物を含有する担体を触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0035】
一方、上記の触媒電極に電位サイクル負荷を与える処理を施し、酸素還元特性の変化を測定した場合、SbとSnの和に対するSbの割合が高い複合酸化物を含有する触媒電極ほど、処理後の電流密度が低下する(図8)。この現象は、電位サイクル負荷によって複合酸化物の溶解が発生することが一因と考えられる。上記の電位サイクル負荷処理は、燃料電池を長期に亘って運転した場合の影響を評価する模擬的処理であって、電流密度等の酸素還元特性の変化を指標に、触媒電極としての安定性を評価するものである。すなわち、酸素還元特性の変化が少ないほど、安定性に優れた触媒電極とみなすことが出来る。それ故、非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜10 at. %の範囲である複合酸化物を触媒電極に用いることにより、安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。
【0036】
結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜5 at. %の範囲である複合酸化物を使用すると、その触媒電極は高い酸素還元開始電位を示す(図10)。それ故、結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合は0〜5 at. %の範囲であることが好ましい。上記の割合となるようにSbがドープされた複合酸化物を含有する担体を触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0037】
また、結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物を結晶化させる加熱処理におけるアニール温度が高いほど、結果として得られる触媒電極の酸素還元開始電位は向上する(図11)。それ故、アニール温度は500〜800℃の範囲であることが好ましい。上記の条件で複合酸化物を結晶化させて触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0038】
以上のように、上記の構成の複合酸化物を触媒電極の担体として用いることによって、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。それ故、かかる触媒電極を燃料電池の触媒電極に用いることにより、長期に亘って安定した発電性能を発揮する燃料電池を得ることが可能となる。
【0039】
3.触媒電極の製造方法
本発明の触媒電極は、膜状の形態であり、かつ非晶質の複合酸化物を担体として含有する場合、SnO2にSbをドープして非晶質の複合酸化物を合成する合成工程と、複合酸化物に触媒を担持する触媒担持工程を含む製造方法により製造することができる。
【0040】
また、本発明の触媒電極は、膜状の形態であり、かつ結晶質の複合酸化物を担体として含有する場合、SnO2にSbをドープして非晶質の複合酸化物を合成する合成工程と、非晶質の複合酸化物を加熱処理することによって結晶化させる結晶化工程と、複合酸化物に触媒を担持する触媒担持工程を含む製造方法により製造することができる。
各工程について、以下に説明する。
【0041】
3−1.合成工程
SbがドープされたSnO2を含有する複合酸化物は種々の方法により合成出来ることが知られており、本工程において用いる合成方法も特に限定されるものではない。当業界で慣用される様々な合成方法を採用することができる。
【0042】
膜状の形態を有する複合酸化物を合成する場合、本工程は物理蒸着(PVD)法によって実施することが出来る。PVD法により本工程を実施する場合、Si, ガラス, Si/TiW, 電気化学アレイ(electrochemical array)及び回転ディスク電極を基板として、分子線蒸着、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の当業界で慣用される手段を用いればよい。分子線蒸着を用いることが好ましい。分子線蒸着を用いる場合、供給される酸素ガスは、1.0×10-6〜5.0×10-5 Torrの圧力であることが好ましく、300〜600 Wの印加電力であることが好ましい。
上記の方法を用いることにより、所望の平均膜厚を有する膜状の形態であり、かつ非晶質の複合酸化物を合成することが可能となる。
【0043】
3−2.結晶化工程
上記の合成工程によって調製される膜状の形態を有する複合酸化物は、通常は非晶質である。それ故、本工程は、合成工程において得られる膜状の形態を有する非晶質の複合酸化物を加熱処理することによって結晶化させ、膜状の形態を有する結晶質の複合酸化物を調製することを目的とする。
【0044】
本工程は、上記の合成工程で得られる複合酸化物を、酸素雰囲気下で加熱処理することにより実施することができる。この場合、加熱処理する際のアニール温度は500〜800℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは500〜600℃の範囲である。また、アニール時間は2〜10時間であることが好ましく、より好ましくは6時間である。
【0045】
上記の条件で本工程を実施することにより、ドープされたSbのロスを生じさせることなく、所望の割合を保持しつつ、膜状の形態であり、かつ結晶質の複合酸化物を得ることが可能となる。
【0046】
3−3.触媒担持工程
本工程は、合成工程において得られる非晶質の複合酸化物、又は結晶化工程において得られる結晶質の複合酸化物に触媒を担持させ、触媒電極を調製することを目的とする。
【0047】
本工程は、上記の合成工程と同様の物理蒸着(PVD)法によって実施することが出来る。分子線蒸着を用いることが好ましい。分子線蒸着を用いる場合、1.0×10-2〜2.0×10-2 nm s-1の最大蒸発速度であることが好ましい。上記の方法を用いることにより、所望の平均粒径を有し、触媒が担持されている触媒電極を作製することが可能となる。
【0048】
以上の製造方法を実施することにより、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い本発明の触媒電極を製造することが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
実施例1: SnSbOx 担体
[SnSbOx担体の調製]
SbがドープされたSnO2の薄膜を、測定法に関連して一連の基板(シリコン(Si), ガラス, Si/TiW, 電気化学アレイ(electrochemical array)及び回転ディスク電極)上に調製した。シリコン基板は、結晶化前後のEDX及びXRD(必要であれば)だけでなく、結晶化前の耐酸性試験において、完全な10×10マクロを実施するための、Sn及びSbの酸化物(SnSbOx)薄膜を蒸着させるために用いた。ガラス基板は、Sn及びSbの酸化物の結晶化前後に、4点式電極を用いる伝導度測定を行うために必要となった。Si/TiW基板は、非晶質及び結晶質サンプルのいずれもについて、酸化物膜を介する伝導度測定を行うために必要となった。電気化学(E-chem)アレイは、非晶質酸化物上に蒸着した白金粒子の酸化還元反応(ORR)を調べるために用いた。回転ディスク電極(RDE)基板は、結晶質酸化物膜上に蒸着したPt粒子のORRを調べるために用いた。さらに、RDEは、非晶質酸化物膜の安定性試験に用いた。
【0051】
SnSbOx担体の蒸着は、ILIKAテクノロジーズLTDによって確立された、ハイスループット物理蒸着(High Throughput Physical Vapour Deposition; HT-PVD)のために改変された分子線エピタキシーシステムにおいて実施された。それぞれの基板は、基板アレイを斜め方向に横切るSn原子の勾配を有する流れ、又は基板アレイを水平方向に横切るSb原子の勾配を有する流れの中でSn及びSbを蒸着する間、400 Wの印加電力及び5.0 × 10-5 Torrの圧力で酸素を導入することにより、SnSbOxの層でコーティングされた。上記の勾配を有する流れは、Sn及びSb及びO源のクヌーセンセル(Knudsen cell)源の配置によって調節した。
【0052】
薄膜中のSn及びSbの原子パーセントは、JSM 5910走査型電子顕微鏡を用いるEDX分析によって決定した。全ての薄膜中のSn及びSbの原子パーセントは、75〜100 at. % Sn及び25〜0 at. % Sbであった。
【0053】
GADDS 検出器を備えたBruker D8回折計(40 kV及び20 mA)を用いて、酸化物担体のX線回折を得た。19°〜58°の2θの範囲を毎分3.4°でスキャンした(各組成物について合計10分間のデータ取得時間)。
【0054】
シリコン基板に蒸着した全てのサンプルをXRDで解析した。一般に、室温の基板上から酸化スズを蒸発させることによる薄膜形成では、非晶質となる。スズ及びアンチモンの酸化物を蒸着した薄膜でも同様の結果が確認された。実際、蒸着サンプルでは、XRDの特徴が全く見られなかった(データは示していない)。
【0055】
何らの組成変化を伴うことなくスズ及びアンチモンの酸化物の結晶構造を得る最良のアニーリング条件を同定するために、いくつかの試験を行った。酸素雰囲気下、500℃で6時間アニーリングした後、いくつかのブロードピークが観測された。酸素雰囲気下、600℃でさらに6時間アニーリングしても、スペクトル中に顕著な変化は全くなかったが、アンチモンの欠失がEDX測定によって検出された。それ故、全てのシリコン基板を、酸素雰囲気下、加熱炉内で、500℃で6時間アニーリングすることに決定した。純粋なSnOx及び純粋なSbOxのスペクトル、並びに調査した組成範囲のSnSbOxのスペクトルを図1に示す。全ての2成分酸化物及び純粋なSnOxをシリコン基板上に、純粋なSbOxをガラス基板上に、それぞれ蒸着した。
【0056】
図1に示すように、SnOxに由来するいくつかのブロードピークが観測されたが、SbOxの明らかな結晶化は認められなかった。SbOxは、結晶化するのに十分な程度の高温でアニールされていなかった可能性がある。しかしながら、アンチモンの酸化物の特徴を示すピークは、ガラス基板に起因するブロードなXRDピークの陰に隠れ得るので、結論を下す場合には留意する必要がある。これらの結果は、500℃で6時間アニーリングしたSnSbOx担体が結晶形態であることを示唆している。
【0057】
得られたXRDデータから、続いてRDE基板として使用する結晶性酸化物膜を調製するために、O2雰囲気下、500℃で6時間結晶化させる条件を使用した。
【0058】
[SnSbOx担体の伝導度測定]
4点式伝導度(4PP)測定法により、蒸着薄膜の抵抗を調べた。測定は、非晶質薄膜、及びそれをO2雰囲気下、500℃で6時間結晶化させた薄膜のいずれにおいても実施した。非晶質膜及び結晶質膜のいずれもについて、平均抵抗とSbの原子パーセント(at. %)との関係を、図2及び3にそれぞれ示す。個々のデータ点は、1つのサンプルの平均組成に対する抵抗の平均値を示す。一方、等価なSiサンプル上でEDXによって得られた組成の測定値に対する(ガラス基板上の酸化物膜から)収集された実際のデータ点も含む。
【0059】
図2のデータの一般的な傾向は、純粋なSnO2膜について得られた値からまず減少し、8〜10 at. %のSb付近で最小ポテンシャルを示す。15 at. %のSbを超えると、薄膜の抵抗はかなり急激な増加を示す。
【0060】
図3に示すように、500℃で結晶化した膜でもよく似た傾向が認められる。しかしながら、Sb濃度が高い程、それに対する抵抗は、非晶質のサンプルと比較してかなり高い。最適な抵抗はやや低濃度のSbにシフトしたように見える(約1-3 at. %)。
【0061】
[酸におけるSnSbOx担体の安定性]
対象となる組成の全範囲(0〜25 at. % Sb)に亘る、非晶質の化学量論的なSn及びSbの酸化物における安定性試験を実施した。シリコン基板を、200 mLの0.1M H2SO4中に80℃で24時間、個々に懸濁させた。それぞれの基板を、酸処理の前後に撮影し、EDX測定も酸処理の前後に実施した。
【0062】
シリコン基板への酸化物膜の弱い付着とは対照的に、段階的な膜の分解が起こるかどうかを決定するために、酸処理開始から2, 4及び6時間後の基板の写真を撮影した。
【0063】
酸化物膜は、ガラス基板上で観察された全組成範囲に亘って透明なままであり、観察された色の変化だけが膜厚の変化に起因することが見出された。この色は、アンチモンのドープによる物質誘導的な、可視領域における吸収には関連がない(すなわち、kはゼロと考えられる)。
【0064】
分光学的エリプソメトリーを用いて、類似の蒸着条件下でガラス基板上に蒸着した酸化物の厚さを得た。ほとんどのアレイが、酸処理前は緑白色(whitish-green)を示した。これは、約122 nmの厚さに相当することが分かった。
【0065】
酸化物薄膜に対する色フリンジチャートを用いて、且つ2.90の屈折率(緑白色の酸化物についての122 nm未満の厚さに相当する)と仮定して、安定性試験の各段階においてそれぞれの酸化物膜の厚さの視覚的評価を実施した。様々な酸処理時間における膜厚ロスとSn及びSbの酸化物中のSbの原子パーセントとの関係を図4に示す。図4中、膜厚ロスは、下記の式で算出した値をプロットしている。
[厚さ(0時間)-厚さ(i時間)]×100 / 厚さ(0時間)
(式中、iは、基板を酸溶液槽中に保持した時間である。)
【0066】
図4に示すように、純粋なSnOx膜は酸の中では不安定であった。また、Snマトリックス中10 at. %を超える(12.5 at. %以上)原子パーセントのSbを有するドープされた酸化物もまた不安定であった。2〜10 at. %の原子パーセントのSbを有する膜のみが、24時間後でも比較的安定だった。
【0067】
実施例2: SnSbOx/Pt触媒電極
[SnSbOx/Pt触媒電極の調製]
電気化学的スクリーニングのために、白金粒子を、電子銃から酸化物で被覆された基板上に蒸着した(電気化学アレイ及び回転ディスク電極)。最大蒸発速度は1.5×10-2 nm s-1)だった。これは、水晶振動子マイクロバランス(quartz microbalance)によって決定し、膜の蒸着とそれに続くAFM及びエリプソメトリーによって確認した。
【0068】
酸化物担体で使用されたのと同じ蒸着条件を用いて、カーボンTEMグリッド上に調製された膜の透過型電子顕微鏡(TEM)分析によって、Pt粒子を解析した。
【0069】
2つの異なる酸化物組成を含むそれぞれの電気化学アレイのために、それぞれ1及び2分の対応する蒸着時間で2つの異なる粒径の粒子を蒸着した(それぞれアレイの半分)。回転ディスク電極については、全てのサンプルに対して1分の蒸着時間を用いた。典型的なTEM画像を図5に示す。
【0070】
自社用ソフトウェアを用いて画像解析を実施した。しかしながら、異なるSnSbOx担体上で得られた粒子の粒径は、粒子―担体の相互作用によって、標準のTEMグリッド上で得られたものと若干異なる可能性があることに留意すべきである。
【0071】
図5に示すように、蒸着時間1分では、2.0 nm未満の平均粒径となるのに対し、より高い蒸着時間2分では、2.4 nm未満の平均粒径となる。
【0072】
実施例3:非晶質SnSbOx/Ptの電気化学スクリーニング
ハイスループットスクリーニングのためにILIKAテクノロジーズLTDによって特別に開発されたセルハードウェア、装置及びソフトウェアを用いて、電気化学的解析及び活性評価を実施した。ハイスループットスクリーニングプロトコールの詳細を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
電位ステップ実験で観測された定常状態の電流値から酸素還元反応(ORR)の活性を評価した。また、酸素還元活性の発現を評価するために、酸素飽和電解質中のサイクリックボルタモグラムを実施した。全ての電気化学的実験は、サーモスタット制御された電気化学セル中で、25℃、0.5 M HClO4中で実施した。実験的には水銀/硫酸水銀参照電極を使用したが、本実施例の結果においては、全ての電位をSHEに対する値で換算している。
【0075】
電気化学アレイで調製した全ての酸化物担体を、原子ソースを用いて得たので、該酸化物は、化学量論的であるか又は略化学量論的であると考えられる。この基板は、Sn及びSb酸化物の結晶化に必要な温度の熱処理に曝すことが出来ないので、調査した全ての酸化物は非晶質であった。
【0076】
[ORRの活性及び比活性]
ORRの活性を測定するために実施される電位ステップ実験のために、電解質(0.5 M HClO4)を、まず10分間、0.50 Vで、O2で飽和させた。0.50 Vでの飽和後、90秒のインターバルで50 mVずつ増加させて電位を0.50 Vから1.00 Vへとステップさせ、再び初期電位に戻した。その間、電流値を記録した。このプロトコールは、触媒の活性を、カーボンに担持されたPtのような周知の触媒と比較するために興味ある方法である。この0.50 Vの電位は、脱酸素された溶液中での合金のサイクリックボルタモメトリーにしたがって選択され、これは、酸化物還元領域の範囲内である。このようにして、我々は、触媒表面で起きる酸素還元反応(ORR)による酸化物の干渉を最小限にすることが出来る。
【0077】
調査した全ての電気化学アレイから得られたデータ(0.52, 0.62, 0.72及び0.82 V vs. SHEにおけるORR)とあわせて、1分間のPt蒸着(2.0 nm粒子)に対するSnSbOx/Ptの活性を図6に示す。0〜13.0 at. % Sbの範囲で、ORRは比較的一定であり、その後急激に減少し始め、25 at. % Sb付近で0.0 A近い値に到達する。
【0078】
[酸素飽和電極におけるサイクリング]
1分間のPt蒸着時間(2.0 nm粒子)に使用される組成の範囲に対する様々な開始(点火)電位を図7に示す。20 at. % Sbを超えるまでは、調査された担体組成の範囲に亘って開始電位がほとんどシフトしないことを見出すことができる。約12.5 at. % Sbで、不連続性が観察される。12.5 at. % Sb (図7中、グレーで示す領域)超の膜は酸性条件下で非常に不安定であることが観察されたので、上記の範囲で得られたデータは注意して考慮する必要がある(図4参照)。それ故、好適であるのは、Snマトリックス中に原子パーセントが0〜10 at. %の範囲のSbを有する非晶質SnSbOx上に担持されたPt粒子である。
【0079】
[安定性試験]
回転ディスク電極(RDE)上に調製されたPt粒子を有する非晶質酸化物サンプルを用いて、脱酸素した0.5 M HClO4中で、100サイクル(100 mV s-1で0.025〜1.200 V)のRDE実験を行った。観察された典型的な結果を図8に示す。
【0080】
この結果から、高Sb担体について得られた総電流が、かなりの低下を示すことが明らかである。しかしながら、より高Sb濃度の2サンプルにおいて、担体がサイクル実験の間に腐食しており、それにより総電流密度の低下が引き起こされていることが明確に観察された。それ故、高濃度のSbは、不安定な非晶質担体となると結論づけることが出来る。
【0081】
実施例4: 結晶質SnSbOx/Ptの電気化学スクリーニング
基板の耐熱性から電気化学アレイ上の酸化物担体を結晶化させることが出来なかったので、一連の回転ディスク電極(ベース材料:Ti)を、必要となる組成の酸化物基板で被覆し、O2下、500℃で6時間結晶化させた。
【0082】
結晶化後、RDE電極上に、所望の粒径(〜2.0 nm, 1分間導入)のPt粒子を蒸着した。よって、示されている電流密度は、Pt表面積がTEMデータから算出された比電流密度である。O2で飽和した0.5M HClO4中における、様々な結晶質担体上のPt粒子(TEMグリッド上で2.0 nmの粒子を得るのに必要となる1分間の導入)の最初のサイクル(20 mV s-1)を図9に示す。これらのサンプルは、いずれも、O2下、500℃で6時間(O2下、600℃で6時間結晶化させた純粋なSnO2を除く)で結晶化した。Sn及びSbの酸化物マトリックス中のSbパーセンテージの増加に伴う酸素還元における開始電位のシフトを図10に示す。
【0083】
Sbの増加に伴ってより低い電位にシフトしていることが認められるが、このシフトは低Sb濃度では顕著ではない。好適であるのは、Snマトリックス中に原子パーセントが0〜5 at. %の範囲のSbを有する結晶質SnSbOx上に担持されたPt粒子である。
【0084】
非晶質酸化物上に担持されたPt粒子のO2還元特性と、結晶質酸化物上に担持されたPt粒子のO2還元特性とを比較するために、異なる条件下でほぼ同一の酸化物組成の3つの電極を調製した。結果を図11に示す。
【0085】
担体を結晶化させると、酸素還元ピークはより高い電位にシフトすることが認められる。結晶化温度を500℃から600℃に上昇させると、さらなる向上が観察される。しかしながら、この高温での酸化は、アンチモンの欠失に繋がることが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明により、電気化学的特性に優れ、かつ耐酸性や長期に亘る電位サイクル負荷に対する耐久性を有する安定性の高い触媒電極を得ることが出来る。本発明の触媒電極を用いることにより、長期に亘って安定した発電性能を発揮する燃料電池を製造することが可能となる。
【0087】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に使用される触媒電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得るため、発電に伴って生じる生成物は原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどないクリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)等に分類される。このうち、PEFCやPAFCは、触媒を担持した多孔質のカーボンを触媒電極として使用することが一般的である。
【0004】
上記のように、燃料電池用触媒電極の材料としてカーボンを使用する場合、電解質に含有される水との電気化学的反応によって、該カーボンがCO2にまで酸化される反応が進行する。かかる反応は、平衡論的には0.2 V(SHE基準)以上の電位で進行し、電位が高くなるほど反応速度も向上することが知られている。
【0005】
それ故、カソード電極においては、通常の燃料電池使用環境(0.3〜0.9 V)で上記の反応が徐々に進行する。また、起動・停止時には、カソード電極に1 V以上の電位が発生することがあるため、このような条件では上記の反応が著しく速く進行する。結果として、長期に亘って使用された燃料電池においては、カソード電極のカーボンが減少することによる、触媒電極の「痩せ」が観察されることがある。触媒電極の「痩せ」が発生すると、燃料電池の性能は著しく劣化する。
【0006】
現在のところ、上記の問題を解決する決定的な手段はなく、専らハード(排気バルブ)及びソフト(制御)の両面でその発生を抑制しているのが現状である。それ故、カーボンに替わる新たな触媒電極材料の開発が求められている。
【0007】
特許文献1は、主として酸化物からなる担体材料に、触媒材料が担持されてなる触媒電極材料を記載している。当該文献は、酸化物として、チタン酸化物、バナジウム酸化物、タンタル酸化物、タングステン酸化物、アンチモン酸化物、モリブデン酸化物、スズ酸化物、エルビウム酸化物、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、シリコン酸化物、亜鉛酸化物、マグネシウム酸化物、ニオブ酸化物及びアルミニウム酸化物を記載している。
【0008】
特許文献2は、酸化物担持体と、前記酸化物担持体の表面に担持された触媒粒子と、前記酸化物担持体の表面の前記触媒粒子の間に位置し、Mo、W、Sn及びRuからなる群より選択される少なくとも一種を含有する酸化物又は複合酸化物を含む融点が1500℃未満の触媒層と、前記酸化物担持体と前記触媒粒子と前記触媒層とが共有する界面とを具備することを特徴とする燃料電池用担持触媒を記載している。当該文献は、酸化物担持体の酸化物として、TiO2、ZrO2、SnO2、WO3、Al2O3、Cr2O3、Nb2O5、SiO2を記載している。
【0009】
特許文献3は、SnドープIn2O3、FドープSnO2及びSbドープSnO2よりなる群から選択される少なくとも一種類からなる触媒担体と、前記触媒担体表面に化学的に結合した、W、Mo、Cr、V及びBよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素を含む酸化物粒子相とを具備してなるプロトン伝導性無機酸化物と、前記触媒担体に、直接あるいは前記酸化物粒子相を介して担持された酸化還元触媒相とを具備してなる触媒複合体、及びバインダーを含んでなる触媒層を具備してなることを特徴とする燃料電池用電極を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-210135号公報
【特許文献2】特開2007-5136号公報
【特許文献3】特開2008-34300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3は、酸化スズ(SnO2)を金属の酸化物として使用することを記載している。SnO2は酸化物半導体の一種であって、それ自体、一定の条件下で電子伝導性を示す。しかしながら、触媒電極の担体材料のような用途に使用する場合には、電子伝導性を向上させるために、SnO2に対して各種の微量成分をドープする必要がある。例えば、特許文献1は、伝導助剤として炭素材料を少量添加することを記載している。この場合、添加された炭素材料において上記で述べた酸化反応が進行しうるため、耐久性の面で問題がある。また、特許文献3は、アンチモン(Sb)をドープしたSnO2を含有する触媒担体を記載している。当該文献に記載の電極の場合、触媒担体の表面はプロトン伝導性を有する無機酸化物によって完全に又は部分的に覆われるため、電極の電子伝導性を向上させることが困難となる。
【0012】
以上のように、金属の酸化物又は複合酸化物を燃料電池の触媒電極の担体として使用する技術はいくつか提案されているが、耐久性及び/又は出力特性の面で満足できる触媒電極は未だ開発されていない。触媒電極の担体に適した金属の酸化物又は複合酸化物を開発するためには、金属の種類やドーパントの含有量等の条件について、様々な組み合わせを検討する必要がある。それ故、本発明は、SbがドープされたSnO2を含有する触媒電極において、コンビケムアレイ技術によって作成されるライブラリを用いてSbの最適な含有量をスクリーニングすることにより、燃料電池に適した特性を備える触媒電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、SbがドープされたSnO2を含有する結晶質又は非晶質の複合酸化物を触媒電極の担体とすることにより、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) SbがドープされたSnO2を含有する非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲である、前記触媒電極。
(2) SbがドープされたSnO2を含有する結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である、前記触媒電極。
(3) 触媒がPtである、前記(1)又は(2)の触媒電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】500℃で6時間アニールした本発明の複合酸化物膜のXRDパターンを示す図である。
【図2】4点式伝導度測定法により測定された、非晶質の複合酸化物膜の抵抗を示す図である。
【図3】4点式伝導度測定法により測定された、結晶質の複合酸化物膜の抵抗を示す図である。
【図4】酸処理後の非晶質の複合酸化物膜の膜厚ロス(%)を示す図である。
【図5】カーボン支持膜上に担持されたPt粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。
【図6】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の酸素還元活性を示す図である。
【図7】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の酸素還元開始電位を示す図である。
【図8】非晶質のコンビケムアレイ電極を用いて形成された、Pt粒子が担持された触媒電極の安定性を示す図である。
【図9】Pt粒子が担持された結晶質の触媒電極のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図10】図9のサイクリックボルタモグラムから決定された、各Sb添加量における酸素還元開始電位を示す図である。
【図11】触媒電極を調製する際のアニール温度と触媒電極の酸素還元活性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.複合酸化物
本明細書において、「複合酸化物」は、酸化スズ(SnO2)にアンチモン(Sb)をドープすることによって形成される化合物を意味する。SnO2にSbをドープすると、SnO2結晶中のSn4+のサイトがSb5+により置換される。Sb5+に置換されたサイトは、電荷のバランスが崩れ、一電子が欠損した状態になる。この電子が欠損したサイトが電子伝導パスとなるため、本発明の複合酸化物は導電性を発現することとなる。
【0018】
本発明の複合酸化物の結晶構造は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。これらの複合酸化物の製造方法については以下で詳述する。
【0019】
結晶質の複合酸化物は、非晶質の複合酸化物よりも高い酸化還元開始電位を示すことから、触媒電極に含有される担体として使用することが好ましい。また、より高いアニール温度で加熱処理した複合酸化物は結晶性が高くなり、結果として高い酸化還元開始電位を示すことから、触媒電極に含有される担体として使用することが好ましい。この場合、500〜800℃の範囲のアニール温度で加熱処理することにより、結晶性の高い複合酸化物を得ることが出来る。なお、本明細書において、「担体」は、上記で説明した非晶質又は結晶質の複合酸化物を含有する、触媒を担持するための触媒電極の材料を意味する。
【0020】
上記の結晶構造を有する複合酸化物を担体として用いることにより、優れた電気化学的特性を有する触媒電極を得ることが可能となる。
【0021】
なお、複合酸化物の結晶構造及び結晶性の状態は、限定するものではないが、例えば、X線回折(XRD)スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0022】
SbがドープされたSnO2を含有する本発明の複合酸化物の場合、SnO2にドープされるSb添加量と、結果として得られる複合酸化物の抵抗値との間には、極小値を有する二次相関の関係が成立する(図2及び3)。また、上記の極小値を示すSb添加量は、結晶質の複合酸化物と非晶質の複合酸化物との間で互いに異なる値となる。抵抗の極小値を示すSb添加量が両者で異なる理由としては、複合酸化物に含有される酸素原子が結晶化の際の加熱処理により一部除去されて、両者の酸素両論比に差が生じたためと考えられる。
【0023】
さらに、非晶質の複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲でSbをドープすると、結果として得られる複合酸化物の耐酸性は向上する(図4)。
【0024】
それ故、非晶質の複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合は2〜10 at. %の範囲であることが好ましく、より好ましくは8〜10 at. %の範囲である。また、結晶質の結晶構造を有する複合酸化物の場合、SbとSnの和に対するSbの割合は1〜3 at. %の範囲であることが好ましい。上記の範囲の割合となるようにSbをドープすることで、耐酸性が高く、かつ高い導電率を有する複合酸化物を得ることが可能となる。
【0025】
なお、複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合(at. %)は、限定するものではないが、例えば、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)スペクトルを測定することにより同定することができる。
【0026】
本発明の複合酸化物は、膜状又は粉末状の形態を有する。膜状の場合、100〜1000 nmの平均膜厚であることが好ましい。また、粉末状の場合、球形又は略球形であって、10〜50 nmの平均粒径であることが好ましい。
【0027】
上記の膜厚を有する複合酸化物の膜を触媒電極の担体として用いることにより、強度が高く、かつ表面積の大きい触媒電極を作製することが可能となる。また、上記の粒径を有する複合酸化物の粉末を触媒電極の担体として用いることにより、電解質との接合が容易で、かつ表面積の大きい触媒電極を作製することが可能となる。
【0028】
なお、複合酸化物の平均膜厚は、蛍光X線式膜厚計、エリプソメトリー等により、平均粒径は、透過型電子顕微鏡 (TEM)、走査型電子顕微鏡 (SEM)等により、それぞれ測定することができる。
【0029】
2.触媒電極
本明細書において、「触媒電極」は、上記で説明した複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する、触媒活性を有する電極材料を意味する。
【0030】
本発明の触媒電極に使用される触媒としては、白金(Pt)、又はPtとPtを除く貴金属(及び/若しくは遷移金属)とからなる白金合金を含有する触媒を挙げることが出来る。ここで、Ptを除く貴金属としては、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)を挙げることが出来る。また、遷移金属としては、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を挙げることが出来る。好ましくは、Ptを含有する触媒である。
【0031】
複合酸化物を含有する担体と該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極は、以下で説明する触媒担持工程によって得ることが出来る。なお、触媒の担持密度は、触媒電極の総重量に対する担持された触媒の重量%で定義される。かかる担持密度は、触媒がPtである場合には、Pt重量/(Pt重量+複合酸化物重量)×100の計算式により算出される。また、触媒が白金合金である場合には、(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量+複合酸化物重量)×100の計算式により算出される。本発明の触媒電極において、触媒の担持密度は1〜50重量%であることが好ましい。なお、触媒電極に担持されているPt重量、Ptを除く貴金属重量、遷移金属重量及び複合酸化物重量は、酸等を用いて触媒電極を処理することにより、Pt、Ptを除く貴金属、遷移金属及び複合酸化物を溶解させた後、該溶液中の金属成分をICP等で定量することにより測定することができる。
【0032】
触媒に白金合金を使用する場合、その組成は、担持された白金合金の総重量に対するPt、Ptを除く貴金属又は遷移金属の重量%で定義される。かかる組成は、Pt重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100、Ptを除く貴金属重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100、又は遷移金属重量/(Pt重量+Ptを除く貴金属重量+遷移金属重量)×100の計算式により算出される。本発明の触媒電極において、白金合金の組成は、Ptが50〜95重量%に対してPtを除く貴金属又は遷移金属が5〜50重量%であることが好ましい。なお、Pt重量、Ptを除く貴金属重量、遷移金属重量及び複合酸化物重量は、上記の方法により測定することができる。
【0033】
上記の触媒の形態は、球形又は略球形であることが好ましい。この場合、1〜10 nmの平均粒径であることが好ましい。なお、平均粒径は、XRDにより測定される結晶子サイズに基づき算出することができる。
上記の触媒を用いることにより、高い触媒活性を有する触媒電極を得ることが可能となる。
【0034】
非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜20 at. %の範囲である複合酸化物を使用すると、その触媒電極は高い酸素還元開始電位を示す(図7)。但し、すでに説明したように、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合が12.5 at. %以上の範囲では、該複合酸化物の耐酸性が顕著に低下するため好ましくない(図4)。それ故、非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合は0〜20 at. %の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜10 at. %の範囲である。上記の割合となるようにSbがドープされた複合酸化物を含有する担体を触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0035】
一方、上記の触媒電極に電位サイクル負荷を与える処理を施し、酸素還元特性の変化を測定した場合、SbとSnの和に対するSbの割合が高い複合酸化物を含有する触媒電極ほど、処理後の電流密度が低下する(図8)。この現象は、電位サイクル負荷によって複合酸化物の溶解が発生することが一因と考えられる。上記の電位サイクル負荷処理は、燃料電池を長期に亘って運転した場合の影響を評価する模擬的処理であって、電流密度等の酸素還元特性の変化を指標に、触媒電極としての安定性を評価するものである。すなわち、酸素還元特性の変化が少ないほど、安定性に優れた触媒電極とみなすことが出来る。それ故、非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜10 at. %の範囲である複合酸化物を触媒電極に用いることにより、安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。
【0036】
結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、SbとSnの和に対するSbの割合が0〜5 at. %の範囲である複合酸化物を使用すると、その触媒電極は高い酸素還元開始電位を示す(図10)。それ故、結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物におけるSbとSnの和に対するSbの割合は0〜5 at. %の範囲であることが好ましい。上記の割合となるようにSbがドープされた複合酸化物を含有する担体を触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0037】
また、結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている上記の触媒とを含有する触媒電極の場合、複合酸化物を結晶化させる加熱処理におけるアニール温度が高いほど、結果として得られる触媒電極の酸素還元開始電位は向上する(図11)。それ故、アニール温度は500〜800℃の範囲であることが好ましい。上記の条件で複合酸化物を結晶化させて触媒電極に用いることにより、電気化学的特性に優れた触媒電極を得ることが可能となる。
【0038】
以上のように、上記の構成の複合酸化物を触媒電極の担体として用いることによって、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い触媒電極を得ることが可能となる。それ故、かかる触媒電極を燃料電池の触媒電極に用いることにより、長期に亘って安定した発電性能を発揮する燃料電池を得ることが可能となる。
【0039】
3.触媒電極の製造方法
本発明の触媒電極は、膜状の形態であり、かつ非晶質の複合酸化物を担体として含有する場合、SnO2にSbをドープして非晶質の複合酸化物を合成する合成工程と、複合酸化物に触媒を担持する触媒担持工程を含む製造方法により製造することができる。
【0040】
また、本発明の触媒電極は、膜状の形態であり、かつ結晶質の複合酸化物を担体として含有する場合、SnO2にSbをドープして非晶質の複合酸化物を合成する合成工程と、非晶質の複合酸化物を加熱処理することによって結晶化させる結晶化工程と、複合酸化物に触媒を担持する触媒担持工程を含む製造方法により製造することができる。
各工程について、以下に説明する。
【0041】
3−1.合成工程
SbがドープされたSnO2を含有する複合酸化物は種々の方法により合成出来ることが知られており、本工程において用いる合成方法も特に限定されるものではない。当業界で慣用される様々な合成方法を採用することができる。
【0042】
膜状の形態を有する複合酸化物を合成する場合、本工程は物理蒸着(PVD)法によって実施することが出来る。PVD法により本工程を実施する場合、Si, ガラス, Si/TiW, 電気化学アレイ(electrochemical array)及び回転ディスク電極を基板として、分子線蒸着、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の当業界で慣用される手段を用いればよい。分子線蒸着を用いることが好ましい。分子線蒸着を用いる場合、供給される酸素ガスは、1.0×10-6〜5.0×10-5 Torrの圧力であることが好ましく、300〜600 Wの印加電力であることが好ましい。
上記の方法を用いることにより、所望の平均膜厚を有する膜状の形態であり、かつ非晶質の複合酸化物を合成することが可能となる。
【0043】
3−2.結晶化工程
上記の合成工程によって調製される膜状の形態を有する複合酸化物は、通常は非晶質である。それ故、本工程は、合成工程において得られる膜状の形態を有する非晶質の複合酸化物を加熱処理することによって結晶化させ、膜状の形態を有する結晶質の複合酸化物を調製することを目的とする。
【0044】
本工程は、上記の合成工程で得られる複合酸化物を、酸素雰囲気下で加熱処理することにより実施することができる。この場合、加熱処理する際のアニール温度は500〜800℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは500〜600℃の範囲である。また、アニール時間は2〜10時間であることが好ましく、より好ましくは6時間である。
【0045】
上記の条件で本工程を実施することにより、ドープされたSbのロスを生じさせることなく、所望の割合を保持しつつ、膜状の形態であり、かつ結晶質の複合酸化物を得ることが可能となる。
【0046】
3−3.触媒担持工程
本工程は、合成工程において得られる非晶質の複合酸化物、又は結晶化工程において得られる結晶質の複合酸化物に触媒を担持させ、触媒電極を調製することを目的とする。
【0047】
本工程は、上記の合成工程と同様の物理蒸着(PVD)法によって実施することが出来る。分子線蒸着を用いることが好ましい。分子線蒸着を用いる場合、1.0×10-2〜2.0×10-2 nm s-1の最大蒸発速度であることが好ましい。上記の方法を用いることにより、所望の平均粒径を有し、触媒が担持されている触媒電極を作製することが可能となる。
【0048】
以上の製造方法を実施することにより、電気化学的特性に優れ、かつ安定性の高い本発明の触媒電極を製造することが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
実施例1: SnSbOx 担体
[SnSbOx担体の調製]
SbがドープされたSnO2の薄膜を、測定法に関連して一連の基板(シリコン(Si), ガラス, Si/TiW, 電気化学アレイ(electrochemical array)及び回転ディスク電極)上に調製した。シリコン基板は、結晶化前後のEDX及びXRD(必要であれば)だけでなく、結晶化前の耐酸性試験において、完全な10×10マクロを実施するための、Sn及びSbの酸化物(SnSbOx)薄膜を蒸着させるために用いた。ガラス基板は、Sn及びSbの酸化物の結晶化前後に、4点式電極を用いる伝導度測定を行うために必要となった。Si/TiW基板は、非晶質及び結晶質サンプルのいずれもについて、酸化物膜を介する伝導度測定を行うために必要となった。電気化学(E-chem)アレイは、非晶質酸化物上に蒸着した白金粒子の酸化還元反応(ORR)を調べるために用いた。回転ディスク電極(RDE)基板は、結晶質酸化物膜上に蒸着したPt粒子のORRを調べるために用いた。さらに、RDEは、非晶質酸化物膜の安定性試験に用いた。
【0051】
SnSbOx担体の蒸着は、ILIKAテクノロジーズLTDによって確立された、ハイスループット物理蒸着(High Throughput Physical Vapour Deposition; HT-PVD)のために改変された分子線エピタキシーシステムにおいて実施された。それぞれの基板は、基板アレイを斜め方向に横切るSn原子の勾配を有する流れ、又は基板アレイを水平方向に横切るSb原子の勾配を有する流れの中でSn及びSbを蒸着する間、400 Wの印加電力及び5.0 × 10-5 Torrの圧力で酸素を導入することにより、SnSbOxの層でコーティングされた。上記の勾配を有する流れは、Sn及びSb及びO源のクヌーセンセル(Knudsen cell)源の配置によって調節した。
【0052】
薄膜中のSn及びSbの原子パーセントは、JSM 5910走査型電子顕微鏡を用いるEDX分析によって決定した。全ての薄膜中のSn及びSbの原子パーセントは、75〜100 at. % Sn及び25〜0 at. % Sbであった。
【0053】
GADDS 検出器を備えたBruker D8回折計(40 kV及び20 mA)を用いて、酸化物担体のX線回折を得た。19°〜58°の2θの範囲を毎分3.4°でスキャンした(各組成物について合計10分間のデータ取得時間)。
【0054】
シリコン基板に蒸着した全てのサンプルをXRDで解析した。一般に、室温の基板上から酸化スズを蒸発させることによる薄膜形成では、非晶質となる。スズ及びアンチモンの酸化物を蒸着した薄膜でも同様の結果が確認された。実際、蒸着サンプルでは、XRDの特徴が全く見られなかった(データは示していない)。
【0055】
何らの組成変化を伴うことなくスズ及びアンチモンの酸化物の結晶構造を得る最良のアニーリング条件を同定するために、いくつかの試験を行った。酸素雰囲気下、500℃で6時間アニーリングした後、いくつかのブロードピークが観測された。酸素雰囲気下、600℃でさらに6時間アニーリングしても、スペクトル中に顕著な変化は全くなかったが、アンチモンの欠失がEDX測定によって検出された。それ故、全てのシリコン基板を、酸素雰囲気下、加熱炉内で、500℃で6時間アニーリングすることに決定した。純粋なSnOx及び純粋なSbOxのスペクトル、並びに調査した組成範囲のSnSbOxのスペクトルを図1に示す。全ての2成分酸化物及び純粋なSnOxをシリコン基板上に、純粋なSbOxをガラス基板上に、それぞれ蒸着した。
【0056】
図1に示すように、SnOxに由来するいくつかのブロードピークが観測されたが、SbOxの明らかな結晶化は認められなかった。SbOxは、結晶化するのに十分な程度の高温でアニールされていなかった可能性がある。しかしながら、アンチモンの酸化物の特徴を示すピークは、ガラス基板に起因するブロードなXRDピークの陰に隠れ得るので、結論を下す場合には留意する必要がある。これらの結果は、500℃で6時間アニーリングしたSnSbOx担体が結晶形態であることを示唆している。
【0057】
得られたXRDデータから、続いてRDE基板として使用する結晶性酸化物膜を調製するために、O2雰囲気下、500℃で6時間結晶化させる条件を使用した。
【0058】
[SnSbOx担体の伝導度測定]
4点式伝導度(4PP)測定法により、蒸着薄膜の抵抗を調べた。測定は、非晶質薄膜、及びそれをO2雰囲気下、500℃で6時間結晶化させた薄膜のいずれにおいても実施した。非晶質膜及び結晶質膜のいずれもについて、平均抵抗とSbの原子パーセント(at. %)との関係を、図2及び3にそれぞれ示す。個々のデータ点は、1つのサンプルの平均組成に対する抵抗の平均値を示す。一方、等価なSiサンプル上でEDXによって得られた組成の測定値に対する(ガラス基板上の酸化物膜から)収集された実際のデータ点も含む。
【0059】
図2のデータの一般的な傾向は、純粋なSnO2膜について得られた値からまず減少し、8〜10 at. %のSb付近で最小ポテンシャルを示す。15 at. %のSbを超えると、薄膜の抵抗はかなり急激な増加を示す。
【0060】
図3に示すように、500℃で結晶化した膜でもよく似た傾向が認められる。しかしながら、Sb濃度が高い程、それに対する抵抗は、非晶質のサンプルと比較してかなり高い。最適な抵抗はやや低濃度のSbにシフトしたように見える(約1-3 at. %)。
【0061】
[酸におけるSnSbOx担体の安定性]
対象となる組成の全範囲(0〜25 at. % Sb)に亘る、非晶質の化学量論的なSn及びSbの酸化物における安定性試験を実施した。シリコン基板を、200 mLの0.1M H2SO4中に80℃で24時間、個々に懸濁させた。それぞれの基板を、酸処理の前後に撮影し、EDX測定も酸処理の前後に実施した。
【0062】
シリコン基板への酸化物膜の弱い付着とは対照的に、段階的な膜の分解が起こるかどうかを決定するために、酸処理開始から2, 4及び6時間後の基板の写真を撮影した。
【0063】
酸化物膜は、ガラス基板上で観察された全組成範囲に亘って透明なままであり、観察された色の変化だけが膜厚の変化に起因することが見出された。この色は、アンチモンのドープによる物質誘導的な、可視領域における吸収には関連がない(すなわち、kはゼロと考えられる)。
【0064】
分光学的エリプソメトリーを用いて、類似の蒸着条件下でガラス基板上に蒸着した酸化物の厚さを得た。ほとんどのアレイが、酸処理前は緑白色(whitish-green)を示した。これは、約122 nmの厚さに相当することが分かった。
【0065】
酸化物薄膜に対する色フリンジチャートを用いて、且つ2.90の屈折率(緑白色の酸化物についての122 nm未満の厚さに相当する)と仮定して、安定性試験の各段階においてそれぞれの酸化物膜の厚さの視覚的評価を実施した。様々な酸処理時間における膜厚ロスとSn及びSbの酸化物中のSbの原子パーセントとの関係を図4に示す。図4中、膜厚ロスは、下記の式で算出した値をプロットしている。
[厚さ(0時間)-厚さ(i時間)]×100 / 厚さ(0時間)
(式中、iは、基板を酸溶液槽中に保持した時間である。)
【0066】
図4に示すように、純粋なSnOx膜は酸の中では不安定であった。また、Snマトリックス中10 at. %を超える(12.5 at. %以上)原子パーセントのSbを有するドープされた酸化物もまた不安定であった。2〜10 at. %の原子パーセントのSbを有する膜のみが、24時間後でも比較的安定だった。
【0067】
実施例2: SnSbOx/Pt触媒電極
[SnSbOx/Pt触媒電極の調製]
電気化学的スクリーニングのために、白金粒子を、電子銃から酸化物で被覆された基板上に蒸着した(電気化学アレイ及び回転ディスク電極)。最大蒸発速度は1.5×10-2 nm s-1)だった。これは、水晶振動子マイクロバランス(quartz microbalance)によって決定し、膜の蒸着とそれに続くAFM及びエリプソメトリーによって確認した。
【0068】
酸化物担体で使用されたのと同じ蒸着条件を用いて、カーボンTEMグリッド上に調製された膜の透過型電子顕微鏡(TEM)分析によって、Pt粒子を解析した。
【0069】
2つの異なる酸化物組成を含むそれぞれの電気化学アレイのために、それぞれ1及び2分の対応する蒸着時間で2つの異なる粒径の粒子を蒸着した(それぞれアレイの半分)。回転ディスク電極については、全てのサンプルに対して1分の蒸着時間を用いた。典型的なTEM画像を図5に示す。
【0070】
自社用ソフトウェアを用いて画像解析を実施した。しかしながら、異なるSnSbOx担体上で得られた粒子の粒径は、粒子―担体の相互作用によって、標準のTEMグリッド上で得られたものと若干異なる可能性があることに留意すべきである。
【0071】
図5に示すように、蒸着時間1分では、2.0 nm未満の平均粒径となるのに対し、より高い蒸着時間2分では、2.4 nm未満の平均粒径となる。
【0072】
実施例3:非晶質SnSbOx/Ptの電気化学スクリーニング
ハイスループットスクリーニングのためにILIKAテクノロジーズLTDによって特別に開発されたセルハードウェア、装置及びソフトウェアを用いて、電気化学的解析及び活性評価を実施した。ハイスループットスクリーニングプロトコールの詳細を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
電位ステップ実験で観測された定常状態の電流値から酸素還元反応(ORR)の活性を評価した。また、酸素還元活性の発現を評価するために、酸素飽和電解質中のサイクリックボルタモグラムを実施した。全ての電気化学的実験は、サーモスタット制御された電気化学セル中で、25℃、0.5 M HClO4中で実施した。実験的には水銀/硫酸水銀参照電極を使用したが、本実施例の結果においては、全ての電位をSHEに対する値で換算している。
【0075】
電気化学アレイで調製した全ての酸化物担体を、原子ソースを用いて得たので、該酸化物は、化学量論的であるか又は略化学量論的であると考えられる。この基板は、Sn及びSb酸化物の結晶化に必要な温度の熱処理に曝すことが出来ないので、調査した全ての酸化物は非晶質であった。
【0076】
[ORRの活性及び比活性]
ORRの活性を測定するために実施される電位ステップ実験のために、電解質(0.5 M HClO4)を、まず10分間、0.50 Vで、O2で飽和させた。0.50 Vでの飽和後、90秒のインターバルで50 mVずつ増加させて電位を0.50 Vから1.00 Vへとステップさせ、再び初期電位に戻した。その間、電流値を記録した。このプロトコールは、触媒の活性を、カーボンに担持されたPtのような周知の触媒と比較するために興味ある方法である。この0.50 Vの電位は、脱酸素された溶液中での合金のサイクリックボルタモメトリーにしたがって選択され、これは、酸化物還元領域の範囲内である。このようにして、我々は、触媒表面で起きる酸素還元反応(ORR)による酸化物の干渉を最小限にすることが出来る。
【0077】
調査した全ての電気化学アレイから得られたデータ(0.52, 0.62, 0.72及び0.82 V vs. SHEにおけるORR)とあわせて、1分間のPt蒸着(2.0 nm粒子)に対するSnSbOx/Ptの活性を図6に示す。0〜13.0 at. % Sbの範囲で、ORRは比較的一定であり、その後急激に減少し始め、25 at. % Sb付近で0.0 A近い値に到達する。
【0078】
[酸素飽和電極におけるサイクリング]
1分間のPt蒸着時間(2.0 nm粒子)に使用される組成の範囲に対する様々な開始(点火)電位を図7に示す。20 at. % Sbを超えるまでは、調査された担体組成の範囲に亘って開始電位がほとんどシフトしないことを見出すことができる。約12.5 at. % Sbで、不連続性が観察される。12.5 at. % Sb (図7中、グレーで示す領域)超の膜は酸性条件下で非常に不安定であることが観察されたので、上記の範囲で得られたデータは注意して考慮する必要がある(図4参照)。それ故、好適であるのは、Snマトリックス中に原子パーセントが0〜10 at. %の範囲のSbを有する非晶質SnSbOx上に担持されたPt粒子である。
【0079】
[安定性試験]
回転ディスク電極(RDE)上に調製されたPt粒子を有する非晶質酸化物サンプルを用いて、脱酸素した0.5 M HClO4中で、100サイクル(100 mV s-1で0.025〜1.200 V)のRDE実験を行った。観察された典型的な結果を図8に示す。
【0080】
この結果から、高Sb担体について得られた総電流が、かなりの低下を示すことが明らかである。しかしながら、より高Sb濃度の2サンプルにおいて、担体がサイクル実験の間に腐食しており、それにより総電流密度の低下が引き起こされていることが明確に観察された。それ故、高濃度のSbは、不安定な非晶質担体となると結論づけることが出来る。
【0081】
実施例4: 結晶質SnSbOx/Ptの電気化学スクリーニング
基板の耐熱性から電気化学アレイ上の酸化物担体を結晶化させることが出来なかったので、一連の回転ディスク電極(ベース材料:Ti)を、必要となる組成の酸化物基板で被覆し、O2下、500℃で6時間結晶化させた。
【0082】
結晶化後、RDE電極上に、所望の粒径(〜2.0 nm, 1分間導入)のPt粒子を蒸着した。よって、示されている電流密度は、Pt表面積がTEMデータから算出された比電流密度である。O2で飽和した0.5M HClO4中における、様々な結晶質担体上のPt粒子(TEMグリッド上で2.0 nmの粒子を得るのに必要となる1分間の導入)の最初のサイクル(20 mV s-1)を図9に示す。これらのサンプルは、いずれも、O2下、500℃で6時間(O2下、600℃で6時間結晶化させた純粋なSnO2を除く)で結晶化した。Sn及びSbの酸化物マトリックス中のSbパーセンテージの増加に伴う酸素還元における開始電位のシフトを図10に示す。
【0083】
Sbの増加に伴ってより低い電位にシフトしていることが認められるが、このシフトは低Sb濃度では顕著ではない。好適であるのは、Snマトリックス中に原子パーセントが0〜5 at. %の範囲のSbを有する結晶質SnSbOx上に担持されたPt粒子である。
【0084】
非晶質酸化物上に担持されたPt粒子のO2還元特性と、結晶質酸化物上に担持されたPt粒子のO2還元特性とを比較するために、異なる条件下でほぼ同一の酸化物組成の3つの電極を調製した。結果を図11に示す。
【0085】
担体を結晶化させると、酸素還元ピークはより高い電位にシフトすることが認められる。結晶化温度を500℃から600℃に上昇させると、さらなる向上が観察される。しかしながら、この高温での酸化は、アンチモンの欠失に繋がることが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明により、電気化学的特性に優れ、かつ耐酸性や長期に亘る電位サイクル負荷に対する耐久性を有する安定性の高い触媒電極を得ることが出来る。本発明の触媒電極を用いることにより、長期に亘って安定した発電性能を発揮する燃料電池を製造することが可能となる。
【0087】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SbがドープされたSnO2を含有する非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲である、前記触媒電極。
【請求項2】
SbがドープされたSnO2を含有する結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である、前記触媒電極。
【請求項3】
触媒がPtである、請求項1又は2の触媒電極。
【請求項1】
SbがドープされたSnO2を含有する非晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が2〜10 at. %の範囲である、前記触媒電極。
【請求項2】
SbがドープされたSnO2を含有する結晶質の複合酸化物を含有する担体と、該担体に担持されている触媒とを含有する触媒電極であって、前記複合酸化物において、SbとSnの和に対するSbの割合が1〜3 at. %の範囲である、前記触媒電極。
【請求項3】
触媒がPtである、請求項1又は2の触媒電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−514287(P2012−514287A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513802(P2011−513802)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/JP2010/054164
【国際公開番号】WO2011/108121
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/JP2010/054164
【国際公開番号】WO2011/108121
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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