説明

燃料電池用電極およびその製造方法

【課題】本発明は、燃料電池用電極およびその製造方法に関し、カーボンの一次凝集体に形成される細孔に、酸素を良好に到達させることが可能な燃料電池用電極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態のカソード電極は、ミセル径の異なる2種類のアイオノマーを用いる。カーボンの一次凝集体140間に形成される空洞148の入口径よりも小さいミセル径のアイオノマー(アイオノマー146A)と、それよりも大きいミセル径のアイオノマー(アイオノマー146B)を用いる。これにより、空洞148の内壁や、一次凝集体140の外表面をアイオノマー146A,146Bで万遍なく被覆することができる。アイオノマー146Aには、アイオノマー146Bよりも高い酸素透過性の高分子材料を用いる。これにより、空洞148内における酸素透過性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用電極およびその製造方法に関し、より詳細には、固体高分子型燃料電池に用いる電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、アイオノマーとカーボンとの質量比Pと、電気化学反応に関与できる触媒の表面積(電気化学的表面積:ECA)との間に成立する関係を調べる工程と、この関係から導出したECAの最大値Xに対して0.8X以上X以下を満たすような質量比Pで、アイオノマーと、触媒担持カーボンとを混合し溶媒中に分散させて第1インク状物質を作製する工程と、その後、更にアイオノマーを加えて分散させて第2インク状物質を作製する工程と、第2インク状物質を電解質膜上に塗工する工程を備える電極の製造方法が開示されている。
【0003】
電極を製造する際には、上記特許文献1の様に、触媒担持カーボンと、アイオノマーとを溶媒中に分散させるのが一般的である。分散の目的は、カーボンに担持させた触媒をアイオノマーで被覆することにある。しかしながら、カーボンは分散時に凝集する性質がある。カーボンが凝集した場合には、それ以上分離できない最小単位としての一次凝集体を形成する。また、一次凝集体の間には細孔が形成され、この細孔は、アイオノマーが入り込みにくい構造を取る。そのため、細孔の内壁に存在する触媒の被覆が困難となる。上述した特許文献1によれば、0.8X以上X以下を満たすような質量比Pとすることで、上記細孔にアイオノマーを入り込ませることができるとしている。また、第1インク状物質に、更にアイオノマーを加えて分散させることで、上記細孔以外の一次凝集体の外表面にアイオノマーを配置できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−300272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際のところ、一次凝集体の外表面や、その間に形成される細孔がどの程度アイオノマーで被覆されているかを直接的に確認することは困難であった。また、仮に、一次凝集体間の細孔の内壁がアイオノマーで十分に被覆されていたとしても、細孔の構造上、その細孔に担持された触媒の近傍に、電気化学反応に必要なガスを到達させることが難しいという問題があった。特に、カソード側の電極においては、電極の外部から分子サイズの大きい酸素ガスが供給される。そのため、細孔に設けられるアイオノマーの種類によっては、その内壁に担持された触媒の近傍まで酸素が到達できない可能性がある。従って、一次凝集体間の細孔に対するアイオノマーの被覆に関しては、依然として改善の余地があった。
【0006】
この発明は、上述の課題の少なくとも一つを解決するためになされたもので、カーボンの一次凝集体間に形成される細孔に、酸素を良好に到達させることが可能な燃料電池用電極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、触媒担持カーボンの一次凝集体を含む燃料電池用電極の製造方法であって、
酸素透過性を有し、所定の溶媒中における分散粒子径が、前記一次凝集体の凝集体間に形成される細孔径よりも大きい第1のアイオノマーと、前記一次凝集体と、を前記所定の溶媒に分散させる工程と、
前記第1のアイオノマーを分散させる前に、前記アイオノマーよりも高い酸素透過性を有し、前記所定の溶媒中における分散粒子径が、前記細孔径よりも小さい第2のアイオノマーと、前記一次凝集体と、を前記所定の溶媒に分散させる工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、上記の目的を達成するため、触媒担持カーボンの一次凝集体を含む燃料電池用電極であって、
酸素透過性を有し、前記一次凝集体の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられた第1のアイオノマーと、
前記第1のアイオノマーよりも高い酸素透過性を有し、前記一次凝集体の凝集体間に形成される細孔の内壁の少なくとも一部を覆うように設けられた第2のアイオノマーと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1または第2の発明によれば、触媒担持カーボンの一次凝集体間に形成される細孔に酸素を良好に到達させることが可能な燃料電池用電極およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のカソード電極を含む固体高分子型の燃料電池の断面構成の模式図である。
【図2】図1のカソード電極14の電解質膜12近傍の一部拡大模式図である。
【図3】触媒被覆率の算出方法の概要を説明するための図である。
【図4】図3の破線Aで囲まれた領域の拡大模式図である。
【図5】図2の破線Aで囲まれた領域の拡大模式図である。
【図6】アイオノマー146Aの分散後の触媒インクの状態を示す図である。
【図7】アイオノマー146Bの分散後の触媒インクの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1〜図7を参照しながら、本実施形態のカソード電極およびその製造方法について説明する。
【0012】
(燃料電池の構造)
先ず、図1を用いて、本実施形態のカソード電極を含む固体高分子型の燃料電池10の構造について説明する。図1に示すように、燃料電池10は、電解質膜12を備えている。電解質膜12は、プロトン伝導性を有する高分子材料から構成される。プロトン伝導性を有する高分子材料としては、側鎖にリン酸基、スルホン酸基やホスホン酸基といった酸性官能基を有する炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質が挙げられる。電解質膜12の両側には、これを挟むようにカソード電極14およびアノード電極16が、それぞれ設けられている。
【0013】
カソード電極14の外側には、ガス拡散層18が設けられている。ガス拡散層18は、カーボン、チタン、ステンレス等の電子伝導性の多孔質材料から構成される。ガス拡散層18の外側には、セパレータ20が設けられている。セパレータ20のガス拡散層18側には、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気を流通させるための流路や、冷却水路が形成されている。
【0014】
アノード電極16の外側には、カソード電極14の外側と同様に、ガス拡散層22、セパレータ24が設けられている。セパレータ24のガス拡散層22側には、燃料ガスとしての水素を流通させるための燃料流路や、冷却水を流通させるための冷却水路が形成されている。
【0015】
電解質膜12と、これを挟む一対のカソード電極14、アノード電極16とにより、MEA26が構成される。MEA26とガス拡散層18,22とからMEGA28が構成される。図1においては、上記のように構成されたMEGA28とその両側に配置された一対のセパレータ20,24を1組のみ図示したが、実際の燃料電池は、MEGA28がセパレータ20,24を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0016】
(カソード電極の構造)
次に、図2を用いて、本実施形態のカソード電極14の構造について説明する。図2は、図1のカソード電極14の電解質膜12近傍の一部拡大模式図である。図2に示すように、カソード電極14は、カーボン粒子142を含んでいる。カーボン粒子142の外表面には、触媒144が担持されている。触媒144としては、アルミニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、オスニウム、イリジウム、白金等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。また、触媒144を覆うように、カーボン粒子142の外表面にはアイオノマー146が設けられている。アイオノマー146は、電解質膜12と同様、プロトン伝導性を有する高分子材料から構成される。
【0017】
(触媒被覆率について)
ところで、触媒144が、アイオノマー146にどの程度被覆されているか(どの程度有効利用されているか)を測定できることが望ましい。この点に関し、本発明者は、アイオノマー146によって被覆されている触媒144がどの程度存在するかを表す、触媒被覆率の算出法を開発した。この算出法について、図3〜図5を用いて簡単に説明する。
【0018】
図3は、触媒被覆率の算出方法の概要を説明するための図である。触媒被覆率は、サイクリックボルタンメトリー(以下、CVと称す。)測定により求めた2つの吸着電気量Q(吸着電気量QH2O、吸着電気量Q)に基づいて算出される。尚、CV測定によって吸着電気量Qを求める手法については、公知の手法を適宜活用できるので、本明細書においてはその説明を省略し、CV測定の説明と、CV測定より求めた吸着電気量Qに基づいて触媒被覆率を算出する方法について説明する。
【0019】
図3に示すように、CV測定に際しては、先ず、吸着電気量Qを測定すべき測定対象電極30、その対向電極としての対向電極32、電解質膜12と同様、プロトン伝導性を有する高分子材料から構成される電解質膜34からなる試験体を準備する。試験体には、例えば図1のMEA26をそのまま用いることができる。即ち、本実施形態においては、カソード電極を対象としているので、測定対象電極30としてカソード電極14、対向電極32としてアノード電極26、電解質膜34として電解質膜12からなるMEA26を用いることができる。
【0020】
CV測定は、先ず、測定対象電極30側を純水(HO)に浸し、対向電極32側から水素ガスを加湿供給する。これにより、対向電極32でプロトンを発生させ、測定対象電極30に伝導させる。このような状態において、測定対象電極30と対向電極32との間に予め設定した範囲の電位を掃引し、掃引電位に対応する電流をプロットする。これにより、電流−電位曲線(サイクリックボルタモグラム)を得る。得られたサイクリックボルタモグラムから、純水中における吸着電気量QH2Oを求める。尚、電位掃引後、測定対象電極30を浸していた純水は、乾燥等により除去される。
【0021】
続いて、測定対象電極30側をプロトン非伝導性のF溶媒(例えば、住友スリーエム社製のフロリナート(商品名)。以下、F溶媒という。)に浸し、他は同一の条件で、CV測定してサイクリックボルタモグラムを得る。得られたサイクリックボルタモグラムから、F溶媒中における吸着電気量Qを求める。尚、測定対象電極30を先にF溶媒に浸した後に、純水に浸してもよい。即ち、CV測定の順番は、どちらを先にしても構わない。
【0022】
ここで、測定対象電極30側を、純水/F溶媒に浸す理由について図4を用いて説明する。図4は、図3の破線Aで囲まれた領域の拡大模式図である。図4に示す測定対象電極30は、カーボン粒子302を含む。カーボン粒子302の外表面には、触媒304a,304bが担持されている。ここで、触媒304aと触媒304bとの違いは、アイオノマー306に被覆されているか否かの違いである。即ち、触媒304aが被覆されている(一部被覆されている場合も含む)もの、触媒304bが非被覆のものである。また、図4に示す矢印は、プロトンの流れを示したものである。
【0023】
図4(a)に示すように、測定対象電極30側を純水に浸した場合、電解質膜34側から移動してきたプロトンは、アイオノマー306内を移動可能なだけでなく、水中をも移動可能である。そのため、触媒304b上にも移動可能となるので、CV測定に際し、触媒304bにプロトンが吸着できる。プロトンが吸着すれば、測定対象電極30と、対向電極32との間に電流が生じるので吸着電気量Qが上昇する。従って、測定対象電極30を純水に浸した場合、吸着電気量Qを求めるに際し、触媒304a、触媒304bがカウントされることになる。
【0024】
一方、図4(b)に示すように、測定対象電極30側をプロトン非伝導性のF溶媒に浸した場合、電解質膜34側から移動してきたプロトンは、アイオノマー306内部のみ移動できる。そのため、CV測定に際し、触媒304bにプロトンが吸着することはない。従って、吸着電気量Qを求めるに際し、触媒304bのみがカウントされることになる。
【0025】
触媒被覆率の算出方法は、これらの特性を利用したものである。即ち、測定対象電極30側を、純水/プロトン非伝導性のF溶媒に浸してCV測定して吸着電気量QH2O、吸着電気量Qをそれぞれ求め、吸着電気量QH2Oに対する吸着電気量Qの百分率を触媒被覆率として算出する。これにより、測定対象電極30の被覆特性を客観的に評価できる。
【0026】
(一次凝集体の構造)
本発明者は、公知の製法に基づいて作製した電極について、上記の算出方法を用いて被覆特性を評価した。その結果、触媒被覆率が何れも100%よりも小さいデータを得た。これは、触媒の被覆が不十分であることを裏付けるものであった。
【0027】
図5は、一次凝集体の構造を説明するための図である。図6は、図2の破線Aで囲まれた領域の拡大模式図である。図5に示す一次凝集体140は、カーボン粒子142の最小単位の凝集体である。図5に示すように、一次凝集体140間には、空洞148が形成されている。一次凝集体140の粒子径(平均)は30nmである。一次凝集体140の外表面には、空洞148を覆うようにアイオノマー146が設けられている。
【0028】
ここで、一次凝集体140の表面に担持されている触媒に着目すると、アイオノマー146に被覆されている触媒144aと、アイオノマー146に被覆されていない触媒144bとが存在することになる。このような触媒144bが存在してしまうのは、第1の要因として、空洞148の入口径(平均)が約5nmと非常に小さいことが考えられた。また、第2の要因として、分散時においては、アイオノマー146を構成する高分子材料も凝集する性質があり、凝集した高分子材料のサイズが、空洞148の入口径よりも大きくなっていることが考えられた。
【0029】
そこで、本実施形態のカソード電極においては、ミセル径の異なる2種類のアイオノマーを用いることとした。即ち、空洞148の入口径よりも小さいミセル径のアイオノマー(以下、アイオノマー146Aともいう。)と、それよりも大きいミセル径のアイオノマー(以下、アイオノマー146Bともいう。)と、を用いる。これにより、空洞148の内壁や、一次凝集体140の外表面をアイオノマー146A,146Bで万遍なく被覆することができる。
【0030】
アイオノマーのミセル径は、アイオノマーの濃度、分散させる溶媒の種類や分散させる条件で変化する。そのため、アイオノマー146A,146Bのミセル径は、アイオノマー146A,146Bを、触媒インクの調製時と同一の条件で分散させ、光散乱法で測定した値を基準とする。このような基準でアイオノマー146A,146Bを選定すれば、アイオノマー146Aを空洞148の内壁に、アイオノマー146Bを一次凝集体140の外表面に、それぞれ配置することが可能となる。
【0031】
アイオノマー146Aの一例としては、アイオノマー146Bよりも分子量(重量平均分子量Mw)の小さい高分子材料を用いることができる。一般に、分子量の小さい高分子材料は、ミセル径が小さくなる傾向を示すからである。分子量の小さい高分子材料は、分子量が既知のものを用いてもよいし、例えば特開2009−231084号公報に記載されているように、プロトン伝導性を有する高分子材料に対し、照射量(エネルギー量および照射時間)を調節した電離性放射線を照射したものを用いてもよい。
【0032】
また、アイオノマー146A、146Bには、プロトン伝導性を有するだけでなく、酸素透過性を有する高分子材料が用いられる。酸素透過性を有する高分子材料を用いることで、触媒近傍の反応サイトに、より多くの酸素を供給することができる。
【0033】
酸素透過性を有する高分子材料としては、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の構造中に、脂肪族環状構造を有する繰り返し単位を導入したものや、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の側鎖に、ケイ素に炭化水素が結合した化合物を導入したものや、上述した炭化水素系又はフッ素系の高分子電解質の分子鎖間を、ケイ素に炭化水素が結合した構造で架橋したものが挙げられる。例えば、特開2003−36856号公報、特開2004−144857号公報に記載された高分子材料が該当する。
【0034】
また、アイオノマー146Aには、アイオノマー146Bよりも相対的に高い酸素透過性の高分子材料を用いる。一次凝集体140の構造上、その外表面に比べて空洞148の内壁には、多くの触媒144が担持されることになる。そのため、空洞148内における酸素の拡散は、電気化学反応に大きな影響を及ぼすことが考えられる。そこで、アイオノマー146Aに相対的に高い酸素透過性の高分子材料を用いる。これにより、空洞148の内壁に担持された触媒の近傍へ酸素を円滑に到達させることができる。
【0035】
ここで、プロトン伝導性と、酸素透過性とを有する高分子材料の特性としては、一般に、酸素透過性が高くなるとプロトン伝導性が低くなる傾向を示すことが分かっている。その点、一次凝集体140の構造上、空洞148内でのプロトン伝導距離は、外表面に比べて短いことが考えられる。従って、アイオノマー146Aのプロトン伝導性がある程度低いとしても、電圧特性の低下に繋がるような影響は小さい。
【0036】
一方、アイオノマー146Bには、アイオノマー146Aよりも相対的に高いプロトン伝導性の高分子材料を用いる。一次凝集体140の外表面は、空洞148内に比べ、プロトン伝導距離が長いからである。このことは、プロトン伝導性と、酸素透過性とを有する高分子材料の特性と矛盾しないといえる。
【0037】
以上、本実施の形態のカソード電極によれば、空洞148の内壁および一次凝集体140の外表面をそれぞれ被覆するようにアイオノマー146Aおよびアイオノマー146B設けているので、次のような効果が期待できる。即ち、空洞148の内壁における酸素透過性を十分に確保し、プロトン伝導性をも担保できる。また、一次凝集体140の外表面におけるプロトン伝導性を十分に確保し、酸素透過性をも担保できる。従って、カソード電極14における電気化学反応を活性化させることが可能となるので、燃料電池の電圧特性を向上させることができる。
【0038】
(カソード電極の製造方法)
次に、本実施形態のカソード電極の製造方法について、図6および図7を用いて説明する。カソード電極の製造に際しては、先ず、触媒を担持するためのカーボンを用意する。次に、このカーボンを、触媒を含む化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行う方法が挙げられる。その後、溶媒を乾燥・焼成することで、カーボンに触媒を担持させる。
【0039】
例えば、触媒に白金を用いる場合、触媒を含む化合物の溶液としては、テトラアミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液、白金硝酸塩溶液、塩化白金酸溶液などを用いることができる。そして、例えば、含浸法による場合では、カーボン粒子を、上記白金塩溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理する。これにより、カーボン粒子に白金を担持させることができる。
【0040】
続いて、触媒を担持させたカーボンを適当な水および溶剤中に投入し、アイオノマー146Aを含む溶液を更に混合して分散させる。分散させることで、カーボンは一次凝集体を形成する。また、アイオノマー146Aは、一次凝集体間に形成された空洞内に入り込む。図6は、アイオノマー146Aの分散後の触媒インクの状態を示す図である。図6に示すように、カーボンの一次凝集体140間には空洞148ができ、その内壁には、触媒144bが担持される。アイオノマー146Aは、空洞148の入口から入り込み、触媒144bを被覆する。尚、アイオノマー146Aの分散方法は特に限定されず、超音波ホモジナイザーやジェットミル、ビーズミル等を用いた各種公知の方法を利用できる。
【0041】
次に、アイオノマー146Aでの分散を安定させて、更にアイオノマー146Bを含む溶液を混合して分散させる。図7は、アイオノマー146Bの分散後の触媒インクの状態を示す図である。図7に示すように、アイオノマー146Bを分散させることで、一次凝集体140の外表面に担持された触媒144aを被覆できる。尚、アイオノマー146Bの分散方法も特に限定されず、上記同様、各種公知の方法を利用できる。
【0042】
尚、アイオノマー146Aの分散を安定させた後、アイオノマー146Bを含む溶液を混合する前に、アイオノマー146Aを不溶化または難溶化させてもよい。不溶化、難溶化する方法としては、例えば、アイオノマー146Aが分散された溶媒を乾燥し又は乾燥させずに不溶化剤とともに加熱する方法が挙げられる。不溶化剤としては、水酸化ナトリウム水溶液といったアイオノマー146Aの側鎖の酸性官能基とイオン交換可能な金属イオンを含む溶液を用いることができる。尚、不溶化剤の添加量は、アイオノマー146Aの側鎖の酸性官能基と反応して、不溶化または難溶化のみに寄与させるべく、アイオノマー146Aのイオン交換当量よりも少なくなるように決定することが望ましい。
【0043】
続いて、触媒インクをポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンといった基材上に塗布する。塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等により塗布できる。触媒インクを基材上に塗布した後は、触媒インクを乾燥させる。これにより、カソード電極14が作製できる。尚、触媒インクを電解質膜上やガス拡散層上に直接塗布し、その後乾燥させることでカソード電極を作製してもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 燃料電池
14 カソード電極
140 一次凝集体
142 カーボン粒子
144 触媒
146 アイオノマー
148 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持カーボンの一次凝集体を含む燃料電池用電極の製造方法であって、
酸素透過性を有し、所定の溶媒中における分散粒子径が、前記一次凝集体の凝集体間に形成される細孔径よりも大きい第1のアイオノマーと、前記一次凝集体と、を前記所定の溶媒に分散させる工程と、
前記第1のアイオノマーを分散させる前に、前記アイオノマーよりも高い酸素透過性を有し、前記所定の溶媒中における分散粒子径が、前記細孔径よりも小さい第2のアイオノマーと、前記一次凝集体と、を前記所定の溶媒に分散させる工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
触媒担持カーボンの一次凝集体を含む燃料電池用電極であって、
酸素透過性を有し、前記一次凝集体の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられた第1のアイオノマーと、
前記第1のアイオノマーよりも高い酸素透過性を有し、前記一次凝集体の凝集体間に形成される細孔の内壁の少なくとも一部を覆うように設けられた第2のアイオノマーと、
を備えることを特徴とする燃料電池用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−222192(P2011−222192A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87944(P2010−87944)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】