説明

燃料電池用電極とその製造方法、膜電極接合体および燃料電池

【課題】高温の作動条件下において、長期間にわたり電極触媒層内の構造を安定化し、発電性能を長期間維持するという耐久性を向上させることが可能な、燃料電池用電極とその製造方法、膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜に水溶性遊離酸を含浸させた電解質膜110を有する運転温度が100℃以上の燃料電池100に用いられ、電極触媒層121およびガス拡散層123を備える燃料電池用電極120において、電極触媒層121に、少なくとも1種の燃料電池用触媒と、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマーと、を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極とその製造方法、膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池用電解質膜として、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のパーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜を用いた燃料電池が利用されている。また、この電解質膜の場合、疎水性の主鎖と親水性の側鎖が相分離し、いわゆるイオンクラスター構造を形成する。プロトン輸送形態としては、この電解質膜構造中に多くの水分子が取り込まれ、スルホン酸基の解離を促進すると同時に水分子の高い運動性を利用することにより、高いプロトン伝導性を発現させることがわかっている。
【0003】
ただし、上述のような燃料電池は、水に依存するプロトン伝導がゆえに運転作動温度が70℃〜80℃に制限されることに加え、加湿器といった補助装置が必要となり、水分管理システム等が複雑になってしまう。また、燃料電池システムの観点からは、上記作動温度が大きな制約となり、水素ガスを製造する際に発生する副生成物の一酸化炭素による触媒の被毒などの問題が生じることに加え、一酸化炭素除去装置も必要不可欠となり、燃料電池システム全体として非常に高価になってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に鑑み、次世代のクリーンエネルギーとして注目されている燃料電池においては、100℃以上の高温における運転が可能となるような無加湿または低加湿下でプロトンが伝導可能な電解質膜の開発が活発に行われている。このように、水に依存しない高温下でプロトン伝導が可能な電解質膜が提供されれば、燃料電池システムの簡略化が図られることから、家庭用コジェネレーション用途または自動車用用途として普及することが期待できる。
【0005】
近年、100℃以上で駆動する固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)に関する様々な提案がなされている。一般に、100℃以上での発電においては触媒活性が向上することから、一酸化炭素による被毒の程度が軽減される可能性が示唆され、ひいては燃料電池寿命が向上するとされている。ところが、150℃程度といった中温域における運転においては水分子が安定に存在できないことから、例えば、以下の特許文献1のような、リン酸を含浸したポリベンズイミダゾールを中心とした、水媒体に依存しない電解質系を用いた燃料電池が提案されている。このような燃料電池では、150℃程度といった中温域でも発電が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5525436号明細書
【特許文献2】特表2010−508619号公報
【特許文献3】特開2005−276602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リン酸を含浸したポリベンズイミダゾール系電解質を用いた燃料電池は、リン酸をプロトン伝導体として用いているため、発電特性を向上させる上では、電解質内だけでなく、電極触媒層内にもリン酸が存在し、これらのリン酸がプロトン伝導の役割をはたす必要がある。そのため、電極触媒層内でのリン酸の分散度合いやリン酸の存在量が発電性能を左右してしまうという問題があった。
【0008】
また、リン酸を含浸した電解質膜を用いた燃料電池においては、長時間発電すると、電解質膜中からリン酸が浸出して外部へ流出したり、電極触媒層中に存在しているリン酸が発電時に生成される水とともに経時的に外部へ流出したりしてしまう可能性があるため、長時間にわたって十分な発電性能を維持することが困難となるという問題があった。さらに、このようなリン酸流出過程において電解質膜中から浸出したリン酸が電極触媒層中のガス拡散のための空隙を塞いでしまい、すなわち、触媒と電解質(アイオノマー)と反応ガスとの三相界面である電極反応領域を低減していき、発電性能を長期間維持するという耐久性面に問題が生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、高温の作動条件下において、長期間にわたり電極触媒層内の構造を安定化し、発電性能を長期間維持するという耐久性を向上させることが可能な、燃料電池用電極とその製造方法、膜電極接合体および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、塩基性ポリマーに酸を含浸させた酸含浸型電解質膜を用いた高温型燃料電池において、電極触媒層内のプロトン伝導の役割を果たす酸アイオノマーを固定化した電極を用いることにより、長期間にわたり安定した電極触媒層内の三相界面構造を保持し、電極触媒層内からの酸の流出によるプロトン伝導の役割を果たす物質の低減を防止でき、かつ、酸含浸型電解質膜からの経時的な酸浸出を抑制でき、これにより、発電性能の耐久性を向上できることを見出した。また、本発明者らは、酸アイオノマーの固定化手段として、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを、電極触媒層にて重合および架橋処理する方法を見出した。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明のある観点によれば、高分子電解質膜に水溶性遊離酸を含浸させた電解質膜を有する運転温度が100℃以上の燃料電池に用いられ、電極触媒層およびガス拡散層を備える燃料電池用電極であって、前記電極触媒層は、少なくとも1種の燃料電池用触媒と、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマーと、を含有する、燃料電池用電極が提供される。
【0012】
前記燃料電池用電極において、前記酸性基が、ホスホン酸基またはスルホン酸基であることが好ましい。
【0013】
前記燃料電池用電極において、前記重合可能な官能基が、ビニル基であることが好ましい。
【0014】
前記燃料電池用電極において、前記重合性酸モノマーが、ビニルホスホン酸であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の別の観点によれば、電極基材であるガス拡散層上に、少なくとも1種の燃料電池用触媒を含む触媒ペーストを塗布して乾燥することにより、電極触媒層を製膜する工程と、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーと架橋剤とを少なくとも含む水溶液を前記電極触媒層に添加し、前記電極触媒層内で、前記重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を前記架橋剤により架橋したポリマーを生成する工程と、を含む、燃料電池用電極の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明のさらに別の観点によれば、上述した燃料電池用電極と、塩基性ポリマーに液体酸を含浸させた電解質膜と、を備える、膜電極接合体が提供される。
【0017】
また、本発明のさらに別の観点によれば、上述した膜電極接合体を備える、燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温の作動条件下において、酸性基を官能基として有し、かつ、重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを、電極触媒層内にて重合させた後に架橋させたものを酸アイオノマーとして用いることにより、長期間にわたり電極触媒層内の構造を安定化し、発電性能を長期間維持するという耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る燃料電池用電極を備える膜電極接合体の構成を示す説明図である。
【図2】同実施形態に係る燃料電池用電極の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施例1および比較例1の燃料電池の発電試験評価の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1の燃料電池の長期耐久性試験の評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
[膜電極接合体の構造]
まず、図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る燃料電池用電極を備える膜電極接合体の構造について説明する。図1は、本実施形態に係る燃料電池用電極を備える膜電極接合体の構成を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る膜電極接合体100は、電解質膜110と、アノード120Aと、カソード120Bと、を主に備える(以下、アノード120Aとカソード120Bをまとめて「燃料電池用電極120」と記載する場合もある)。より具体的には、膜電極接合体100は、アノード120Aとカソード120Bの2つの燃料電池用電極120により、電解質膜110が挟持された構造を有している。言い換えると、燃料電池用電極120は、電解質膜110の厚み方向両側に配置されている。
【0023】
(電解質膜110)
電解質膜110は、燃料である水素ガスと酸化剤である空気中の酸素ガスが混ざり合わないように隔離するとともに、アノードで生成されるプロトンをカソードまで移送する役割を有し、プロトン伝導可能な高分子電解質で形成される。本実施形態に係る高分子電解質としては、この高分子電解質に含浸(ドープ)される酸との極性溶媒への相溶性や成膜の際の加工性、耐熱性等を考慮すると、主骨格が芳香族系エンジニアリングプラスチックであることが好ましい。このような芳香族エンジニアリングプラスチックとしては、芳香族性を有するエンジニアリングプラスチックであれば特に限定はされないが、例えば、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリイミド等を挙げることができる。
【0024】
このような高分子電解質を用いた電解質膜10には、水溶性遊離酸が含浸されている。本実施形態に係る水溶性遊離酸としては特に限定はされず、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、硫酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホニルアミドスルホン酸など様々な酸を挙げることができる。本実施形態に係る水溶性遊離酸は、上述の酸の中でも、熱安定性の観点から、特に、酸性無機リン化合物又は酸性有機リン化合物であることが好ましい。
【0025】
上記酸性無機リン化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、縮合リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等を挙げることができる。また上記酸性有機リン化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸に代表されるアリルホスホン酸、メチルホスホン酸やエチルホスホン酸等に代表されるアルキルホスホン酸、メチルリン酸エステル、エチルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル等に代表される酸性リン酸エステル等を挙げることができる。
【0026】
また、水溶性遊離酸として、遊離酸とルイス塩基との混合物、又は、遊離酸と有機塩との混合物を用いても良い。
【0027】
遊離酸と混合して使用可能なルイス塩基としては、例えば、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾールのようなアゾール系化合物、ピリジン、ピリダジン、ピリミジ、ピラジン、トリアジン等の含窒素複素六員環化合物、キノリン、キノキサリン、インドール、フェナジン等の含窒素縮合多環複素環化合物、プリン、ウラシル、チミン、シトシン、アデニン、グアニン等の核酸塩基等を挙げることができる。
【0028】
また、遊離酸と混合して使用可能な有機塩としては、例えば、有機化合物カチオン及びオキソ酸アニオンからなる中性塩を挙げることができる。有機化合物カチオンとしては、通常、ヘテロ環式化合物のカチオン類、特には1〜5個のヘテロ原子を含む3〜6員環のヘテロ環式化合物のカチオン類、殊にはヘテロ原子として1〜5個の窒素原子を含む3〜6員環化合物のカチオン類等を挙げることができ、中でもイミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン等が好ましい。また、鎖状の第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン等も用いることができる。
【0029】
以上のような高分子電解質と水溶性遊離酸とを含む電解質膜110は、公知の方法により製造することが可能である。電解質膜の製造方法を簡単に説明すると、以下の通りである。まず、公知の溶媒を用いて上記高分子電解質溶液を調整し、調整した溶液を公知のコーティング方法を用いて基材上にキャスティング製膜し、乾燥させる。その後、製膜された高分子電解質膜を水溶性遊離酸を含む溶液に浸漬し、水溶性遊離酸によって膨潤した酸ドープ膜を得ることで、本実施形態に係る電解質膜110を製造することができる。
【0030】
また、上記方法以外にも、例えば、以下のような方法で電解質膜110を製造することも可能である。すなわち、公知の溶媒を用いて上記高分子電解質及び水溶性遊離酸を含む溶液を調整し、調整した溶液を公知のコーティング方法を用いて基材上にキャスティングする。その後、基材上にキャスティングされた電解質膜を乾燥させることで、本実施形態に係る電解質膜110を製造することができる。
【0031】
なお、水溶性遊離酸の高分子電解質へのドープ量は、電解質膜に求められる性能に応じて、適宜設定すればよい。
【0032】
(燃料電池用電極120)
燃料電池用電極120は、アノード120Aとカソード120Bの2つの電極からなる。アノード120Aは、電極触媒層121Aとガス拡散層123Aとからなり、燃料ガス(H)が供給され、電極反応(H→2H+2e)が進行する。また、カソード120Bは、電極触媒層121Bとガス拡散層123Bとからなり、酸化剤ガス(O)が供給され、電極反応(1/2O+2H+2e→HO)が進行する。以下、電極触媒層121A,121Bとガス拡散層123A,123Bの構成について詳細に説明する。
【0033】
(電極触媒層121A,121B)
本実施形態に係る電極触媒層121A,121Bは、少なくとも1種の燃料電池用触媒と、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマーと、を含む層である。
【0034】
<燃料電池用触媒>
本実施形態に係る燃料電池用触媒は、導電性担体と、この導電性担体に担持された触媒粒子とからなる。
【0035】
本実施形態に係る導電性担体は、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、導電性を有する炭素材料を主体とする多孔質体を用いることが好ましい。このような炭素材料の例として、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭および黒鉛等を挙げることができる。
【0036】
ここで、上記導電性担体の比表面積は、本実施形態に係る電解質膜110の特性にあわせて適宜選択すればよい。例えば、電解質膜110に含まれる水溶性遊離酸の含有量が相対的に低いものである(以下、低ドープ状態とも称する。)場合には、導電性担体の比表面積は小さくてもよい。また、電解質膜110に含まれる水溶性遊離酸の含有量が相対的に高いものである(以下、高ドープ状態とも称する。)場合には、経時的に高ドープ状態の電解質膜中から浸出した酸をトラップするためにも導電性担体の比表面積は大きいことが好ましい。また、導電性担体である炭素の酸化耐性の観点からは、高温下で運転する固体高分子形燃料電池における触媒の担体として、一般的なカーボンブラック類を用いるよりは、黒鉛化させたカーボンブラック類を用いることが好ましい。
【0037】
このような比表面積の1つにBET比表面積があるが、本実施形態に係る導電性担体のBET比表面積は、例えば、50〜1500m/gであることが好ましい。なお、BET比表面積は、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を低温で吸着させて、その吸着量から測定する吸着法、または、湿潤熱法、透過法及び拡散速度法等の公知の方法を利用して測定可能である。
【0038】
また、上記導電性担体に担持される触媒粒子は、特に限定されるわけではないが、例えば、白金、又は、白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金を用いることが好ましい。白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金の例としては、白金とコバルトとを含むPt−Co合金、白金とルテニウムとを含むPt−Ru合金、白金と鉄とを含むPt−Fe合金等を挙げることができる。
【0039】
なお、白金又は白金を含む少なくとも1種以上の卑金属を有する合金以外にも、金、鉛、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ガリウム、バナジウム、タングステン、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、又は、これらの合金等を挙げることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る導電性担体に担持されている触媒粒子の担持量は、本実施形態に係る燃料電池用電極120に求められる性能に応じて適宜決定されればよく、触媒粒子の導電性担体への担持方法も、公知の方法を適宜利用すればよい。
【0041】
<電極触媒層のプロトン伝導に関する検討>
ここで、本実施形態に係る燃料電池は、上述したように、高分子電解質に水溶性遊離酸を含浸させた酸含浸型電解質膜を用いており、高温(100℃以上)かつ低加湿下で運転可能なものである。このような酸含浸型電解質膜を用いた燃料電池においては、一般には、電極触媒層内のプロトン伝導を担う電解質として、リン酸等の酸を使用している。このような燃料電池は、100℃以上・無加湿という環境下においてプロトン伝導性を発現することはできるが、電極触媒層における電解質として使用しているリン酸等の酸は、運転環境下において液体であるという性質上、長期的にリン酸の分布を制御することが困難であり、電池の特性を維持する耐久性に問題があった。
【0042】
この問題については、第1の要因として、電極触媒層内のプロトン伝導の役割を担う電解質である酸(例えば、液体のリン酸)が、発電時に生成される水とともに経時的に外部へ排出され、有効な触媒活性面積が低減することが挙げられる。また、第2の要因として、電解質膜中に含浸された酸が電極触媒層中に経時的に浸出するとともに、ガス拡散層中のガス拡散のための空隙を阻害していき、有効な触媒活性面積が低下することが挙げられる。これらの2つの要因により、電極触媒層内における触媒/電解質/反応ガスの三相界面の構造を長期的に安定して維持することが非常に困難であった。
【0043】
そこで、本発明者らは、燃料電池特性の耐久性に着目して、電極触媒層内における三相界面構造を長期的に安定して維持するための手法について、鋭意検討を行った。その結果、電極触媒層内におけるプロトン伝導の役割を果たす電解質として、リン酸等の酸(燃料電池の運転温度下において液体状態)を使用するのではなく、ホスホン酸等の酸性基を官能基として有し、かつ、ビニル基等の重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを、電極触媒層内にて重合させるとともに架橋処理を施し、電極触媒層内において電解質を固体化および固定化した酸アイオノマーを使用することに想到した。この固体化及び固定化された酸アイオノマーを電極触媒層内の電解質として使用することにより、長期間にわたり安定な電極触媒層内の三相界面構造を保つことができる。また、本発明者らは、酸アイオノマーが固体化することにより、電極触媒層内のプロトン伝導性が低減されるおそれがあるが、電極触媒層にさらに固体酸を添加することにより、低減されたプロトン伝導性を補うことができ、燃料電池の発電特性も損なわれることがない、という知見も得た。
【0044】
なお、ビニル基含有酸モノマーを重合及び架橋することにより固体化する技術に関しては、高分子電解質膜の製法として、特表2010−508619号公報(特許文献2)に記載されている。しかしながら、固体化された酸アイオノマーを電極触媒層内における電解質として用いることにより、燃料電池の発電特性の耐久性を向上させる効果を得ることについては一切開示も示唆もされていない。
【0045】
また、特開2005−276602号公報(特許文献3)には、電極触媒層中における電解質ポリマーとしてビニルモノマーを重合させる技術が記載されている。しかしながら、電池の特性を維持する耐久性を向上させるという課題は、電解質膜として高分子電解質に水溶性遊離酸を含浸させたものを使用した場合に特有のものであり、特許文献3では、このような電解質膜の使用には限定されていない。また、特許文献3におけるビニルモノマーの種類については限定されておらず、本実施形態に係る燃料電池用電極120のように、酸性基を有する点については言及されていない。本実施形態に係る燃料電池用電極120では、単にビニルモノマーなら任意のものを用いればよいというわけではなく、酸アイオノマーとして、ビニル基のような重合可能な官能基に加えて、酸性基を有するモノマーを重合および架橋する必要がある。酸アイオノマーを生成するためのモノマーが酸性基を有していなければ、燃料電池の発電特性の耐久性を向上させることはできない。
【0046】
<酸アイオノマー>
以上のように、本実施形態に係る電極触媒層121A、121Bは、酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマー(酸アイオノマー)を、電極触媒層内のプロトン伝導の役割を担う電解質として含有する。このように、電極触媒層内の電解質として、重合性酸モノマーを重合および架橋させて固定化して安定固定化させた酸アイオノマーを使用することにより、高い発電特性を維持しつつ、液体状である無機酸(例えば、リン酸)を均質分散した電極に比べ、著しく発電特性の耐久性を向上させることができる。
【0047】
上記重合性酸モノマーに含まれる酸性基としては、特に限定はされないが、例えば、ホスホン酸基、スルホン酸基、リン酸基、スルホニルアミド基、カルボン酸基等が挙げられる。これらのうち、プロトン伝導性に優れることから、上記酸性基は、ホスホン酸基またはスルホン酸基であることが好ましい。
【0048】
また、上記重合性酸モノマーに含まれる重合可能な官能基としては、特に限定はされないが、例えば、炭素間二重結合、炭素間三重結合、窒素炭素間二重結合、エポキシ環、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基等の付加重合反応や縮合反応によって原子間で結合を生成する機能を有する官能基が挙げられる。これらのうち、炭素間二重結合は、容易に一般的な種々の方法で重合反応を行うことが可能なことから、上記重合可能な官能基は、ビニル基であることが好ましい。また、ビニル酸モノマーを使用することにより、重合後のポリマーにおいて、プロトンのキャリア密度を高く(プロトンソースを多く、すなわち、酸性基を多く)することができる。
【0049】
従って、高い耐熱性を持ち、発電特性の耐久性を最も効果的に向上させるという観点から、上記重合性酸モノマーは、ビニルホスホン酸であることが最も好ましい。
【0050】
<固体酸>
電極触媒層121A、121Bは、少なくとも1種の固体酸をさらに含有していてもよい。このように、電極触媒層121A、121Bが固体酸を含有していることにより、電解質の固定化(固体化)により低減するプロトン伝導性を補うことができ、燃料電池の発電特性の低下を効果的に補うことが可能となる。従って、電解質(酸アイオノマー)の固定化により低減したプロトン伝導性を固体酸を添加することにより補った電極触媒層121A、121Bを用いることにより、燃料電池の発電性能を維持し、耐久性を大幅に向上させ得る。
【0051】
上記固体酸としては、固体状の酸であれば特に限定はされないが、例えば、アミノホスホン酸、アミノジホスホン酸(アレンドロン酸)等、および、これらの混合物からなる酸を使用することができる。
【0052】
<その他の添加剤>
なお、電極触媒層121A、121Bは、導電剤をさらに含有していてもよい。導電剤としては、電気伝導性物質であればどのようなものでも利用可能であり、各種金属や炭素材料等を挙げることができる。このような炭素材料の例としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭及び黒鉛等を挙げることができ、これら炭素材料及び各種金属を単独又は混合して使用することができる。
【0053】
(ガス拡散層123A,123B)
本実施形態に係るガス拡散層123A,123Bは、ガス透過性と電子伝導性に優れた厚さ100〜300μm程度のカーボンペーパーやカーボンクロスなどのカーボン繊維によって構成されている。カーボン繊維は、孔径が数十〜数百・N程度の気孔を有している。このガス拡散層123A,123Bは、セパレータ(バイポーラプレート)を介して供給された燃料ガスや酸素ガスを電極触媒層121A,121Bに拡散させる役割と、電極反応によって生成された水をセパレータに形成された流路に排出役割を担っている。
【0054】
[燃料電池用電極の製造方法]
続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係る燃料電池用電極120の製造方法の流れについて、順を追って説明する。図2は、本実施形態に係る燃料電池用電極の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0055】
(触媒ペーストの作製)
本実施形態に係る燃料電池用電極120の製造方法では、図2に示すように、まず、燃料電池用触媒をペースト化して触媒ペーストを作製する(S101)。燃料電池用触媒は、上述した導電性担体と触媒粒子とを用い、導電性担体に触媒粒子を担持させることにより得られる。導電性担体に触媒粒子を担持させる方法としては、公知の方法を利用可能であるため、ここでは詳細な説明を省略する。次に、得られた燃料電池用触媒を、溶液状態のバインダ中に分散させて攪拌し、触媒ペーストを作製する。
【0056】
この際に用いるバインダとしては、例えば、耐熱性に優れたフッ素樹脂を用いることができる。バインダとしてフッ素樹脂を用いる場合には、融点が400℃以下のフッ素樹脂が好ましく、そのようなフッ素樹脂として、ポリ四フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、パーフルオロエチレン等の疎水性及び耐熱性に優れた樹脂を用いることができる。疎水性バインダを添加することにより、発電反応に伴って生成した水によって電極触媒層が過剰に濡れるのを防止することができ、アノード(燃料極)及びカソード(酸素極)内部における燃料ガス及び酸素の拡散阻害を防止することができる。
【0057】
また、バインダを溶解するための溶媒の種類や量は、燃料電池用触媒及びバインダ組成物との相溶性や得られる触媒ペーストの粘度等を考慮して決定することが好ましい。バインダとして上記で例示したフッ素樹脂を用いる場合には、溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオアミド、2−ピロリジノン、N−メチルピロリドン等を用いることが好ましい。
【0058】
(触媒ペーストの塗布)
続いて、上記のようにして得られた触媒ペーストを、公知のコーティング方法を用いて、電極基材であるガス拡散層上に塗布(キャスティング)することにより、電極触媒層を製膜する(S103)。コーティング方法としては、例えば、ダイコータ、コンマコータ(登録商標)、ドクターブレード、アプリケーションロールなどを使用して電極基材にキャスティングする方法が挙げられる。
【0059】
(溶媒除去乾燥)
次に、製膜後の電極触媒層電極触媒層を、溶媒の沸点以上(好ましくは150℃程度)で少なくとも20分以上(好ましくは1時間程度)乾燥させる(S105)。この乾燥工程は、電極触媒層中に含まれる溶媒や水分の除去を目的としている。上述の温度範囲で所定時間乾燥させることで、電極触媒層中に含まれる溶媒や水分が揮発し、電極触媒層を十分に乾燥させることができる。以上のステップS101〜S105の各工程を経ることで、本実施形態に係る電極触媒層を得ることができる。
【0060】
なお、上記乾燥工程に先立ち、電極触媒層の表面を形成させるとともに、電極触媒層中に含まれる溶媒の粗除去を目的とした予備乾燥工程を実施してもよい。
【0061】
(重合性酸モノマーの添加)
続いて、上述した重合性酸モノマーと、架橋剤と、必要に応じて重合開始剤とを含む水溶液を調製し、この水溶液を電極触媒層に添加し、電極触媒層内に均質分散させる(S107)。
【0062】
ここで、架橋剤としては、例えば、重合可能な二重結合をその構造中に2つ以上含む化合物であることが好ましい。このような架橋剤の具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N’,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジウレタンジメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、エバクリルのようなエポキシアクリレート、カルビノール、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、ビスフェノールAジメチルアクリレート、ジビニルスルホン、ジエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。なお、これらの化合物は単独で、または、複数種を混合して用いることができる。また、架橋剤の重合性酸モノマーに対する質量比は、後述するように、1質量%〜30質量%が好ましい。
【0063】
また、重合開始剤としては、特に限定はされないが、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸、アゾビスイソブチルニトリル、ジメチル2,2’−アゾイソブチレートに代表されるアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシドに代表される過酸化物系重合開始剤、2,2,6,6−テトラピペリジニルオキシルに代表されるラジカルリビング重合開始剤、紫外光による重合においては、Irgacure651,184,369に代表される光重合開始剤等を使用できる。
【0064】
また、重合性酸モノマーの添加量は、触媒金属(例えば、Pt)の担持量によっても変わるが、燃料電池の発電特性の耐久性の向上効果を十分に発揮させるためには、概ね、電極触媒層の単位面積当たり、1mg/cm〜10mg/cmであることが好ましい。なお、固体酸を添加する場合には、重合性酸モノマーと固体酸の添加量の合計が2mg/cm〜6mg/cmとなるようにすることが好ましい。
【0065】
また、重合性酸モノマーを含む水溶液の添加方法も特に限定はされないが、例えば、スプレー塗布、液滴下法等の方法により添加することができる。
【0066】
(重合・架橋処理)
次に、重合性酸モノマー、架橋剤等を含有する水溶液が添加された電極触媒層から水分を揮発させるために乾燥させ(乾燥条件は、例えば、80℃程度で1時間程度)、その後、不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気または真空雰囲気下において重合および架橋処理を行う(S109)。この重合および架橋処理においては、重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマー(固定化された酸アイオノマー)が生成される。
【0067】
重合性酸モノマーの重合方法としては、特に限定されないが、例えば、重合開始剤を用いて熱を加えて重合(熱重合)させる方法、紫外線を照射して重合させる方法、プラズマを照射して重合させる方法、電離性放射線(例えば、α線,β線,陽子線,電子線,中性子線等の粒子線や、γ線,X線等の電磁放射線)を照射して重合させる方法などを用いることができる。熱重合では、重合性酸モノマーと架橋剤の混合水溶液中に重合開始剤を添加して作製された溶液を触媒層内に分散添加し作成された電極をオーブン等で加熱する。加熱温度、加熱時間等の加熱条件は、得られる電極の触媒層内で形成される電解質の特性を見ながら調整することが可能である。例えば、100℃程度で12時間程度とすることが可能である。紫外線による重合では、作成された前駆体電極に紫外線を照射する。プラズマによる重合では、作成された前駆体電極にプラズマを照射する。電離性放射線による重合では、作成された前駆体電極に電離性放射線を照射する。紫外線による重合、プラズマによる重合、電離性放射線による重合において、紫外線、プラズマ、電離性放射線の強度、照射時間等の照射条件は、得られる電極の触媒層内で形成される電解質の特性を見ながら調整することが可能である。
【0068】
以上の工程(S101〜S109)により、触媒層内における電解質として固定化された酸アイオノマーを有する本実施形態に係る燃料電池用電極120を得ることができる。
【0069】
[燃料電池の構成および動作]
本実施形態に係る燃料電池は、複数の単セルが一対のホルダに狭持されている。単セルは、上述した膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)100と、膜電極接合体100の厚み方向両側に配置されたセパレータ(バイポーラプレートともいう。図示せず。)とからなり、作動温度100℃〜200℃、湿度が無加湿又は相対湿度50%以下の条件で作動するものである。セパレータは、導電性を有する金属またはカーボン等で形成されており、膜電極接合体100にそれぞれ接合することで、集電体として機能するとともに、膜電極接合体100の電極触媒層121A,121Bに対して、燃料ガス(H)及び酸化剤ガス(O)を供給する。
【0070】
この膜電極接合体100を備える燃料電池は、100℃〜200℃の温度で作動し、一方の電極触媒層121A側にセパレータを介して燃料ガスとして例えば水素ガスが供給され、他方の電極触媒層121B側にはセパレータを介して酸化剤として例えば酸素ガスが供給される。そして、一方の電極触媒層121Aにおいて水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンが電解質膜110を伝導して他方の電極触媒層121Bに到達し、他方の電極触媒層121Bにおいてプロトンと酸素が電気化学的に反応して水を生成するとともに、電気エネルギーを発生させる。
【0071】
なお、燃料として供給される水素は、炭化水素もしくはアルコールの改質により発生された水素でもよく、また、酸化剤として供給される酸素は、空気に含まれる状態で供給されても良い。
【0072】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係る燃料電池用電極によれば、電極触媒層内のプロトン伝導の役割を担う酸成分を固体化(酸アイオノマー)することにより、発電中における生成水による酸成分の流出を抑制する効果が得られる。これにより、長期にわたり安定した触媒層内の構造(三相界面構造)を保つことができるので、電解質膜からの経時的な酸の浸出を抑制する効果も併せ持つ。
【0073】
また、酸成分の固体化により低減したプロトン伝導性を、固体酸を添加することにより補うことにより発電性能も維持することができる。
【0074】
上記に挙げた効果の相乗効果により、発電特性の耐久性を大幅に向上させることが可能となり、酸含浸型電解質膜を使用した燃料電池においても、長期にわたって安定した運転が可能となる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0076】
(燃料電池用電極の作製)
まず初めに、本実施例で用いた電極触媒層の形成方法について説明する。
【0077】
<1.電極触媒層の形成(一次工程)>
触媒質量に対してバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと表記する。)を5質量%の固形量になるようN−メチルピロリドン(以下、NMPと表記する。)に溶解し、触媒に投入後、混練し、適当なペースト粘度になるようNMP溶媒で調整し、電極触媒層用の触媒ペーストを得た。得られた触媒ペーストを、微細カーボン層を有するカーボンペーパー(SGLカーボン社製:GDL34BC)上に塗布し、塗布後、150℃で約1時間乾燥して溶媒を除去し、一次工程段階の電極触媒層を形成した。なお、触媒としては、カーボン(ケッチェンブラック)に白金コバルト合金を担持させた白金コバルト担持触媒(白金含有率46質量%)を用いた。
【0078】
<2.酸アイオノマーの形成(二次工程)>
次いで、二次工程段階として、酸アイオノマー(酸成分)を以下のように調整して添加した。まず、重合性酸モノマーとしてビニルホスホン酸(東京化成工業製)(以下、VPAと表記する。)、架橋剤としてポリエチレングリコールジメタクリレート(Aldrich製)(以下、PEGDMと表記する。)、重合開始剤として2,2’−アゾビズ(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業製)(以下、V50と表記する。)が固形分質量比で100:3:0.3となる水溶液を調整し、一次工程で形成された電極触媒層にスプレー塗布し、電極触媒層内に水溶液を均質分散させた。その後、電極触媒層を80℃で1時間乾燥させ、不活性ガス(N)雰囲気下において100℃で12時間重合・架橋処理を行い、固定化された酸アイオノマーを有する燃料電池用電極を作製した。
【0079】
(重合性酸モノマーを電極触媒層内に固定化した電極を用いた燃料電池試験)
以上のようにして得られた燃料電池用電極を用いて以下の実施例1の燃料電池を作製するとともに、実施例1の燃料電池と比較するための比較例1の燃料電池を作製した。
【0080】
<実施例1>
電解質膜として85%リン酸を350質量%含浸した下記に示すPBI電解質膜の両面に、上記二次工程により得られた固定化された酸アイオノマーを有する燃料電池用電極を重ね合わせ、さらに各電極の外側に酸化剤配流板および燃料配流板を配置することにより、実施例1の燃料電池を作製した。
【0081】
【化1】

【0082】
<比較例1>
上記実施例1の燃料電池用電極と比較するため、上記二次工程を経ない一次工程段階の燃料電池用電極(触媒とPVdFバインダーのみ)に85%リン酸溶液をスプレー塗布し、燃料電池用電極を作製した(リン酸量として5mg/cm)。そして、実施例1と同様に、電解質膜として85%リン酸を350質量%含浸したPBI電解質膜の両面に上記電極を重ね合わせ、比較例1の燃料電池を作製した。
【0083】
(燃料電池の発電試験評価)
上記のように作製した実施例1と比較例1の燃料電池に対して、カソード電極に空気を供給するとともにアノード電極に水素を供給し、作動温度150℃、無加湿の条件で発電を行い、発電特性を評価した。なお、発電特性は、耐久性の比較評価を実施するため、自己発電と停止との繰り返しによって外部環境制御によらず高分子電解質膜に湿潤環境と乾燥環境とを強制的に与え、高温作動時の高分子電解質膜の機械的ストレス耐性と、電極触媒層内の構造安定性を評価する加速的試験手法を用い、出力電流密度が0A/cm、0.8A/cmの負荷を各6分のサイクル試験を実施した。
【0084】
(測定結果)
図3に、実施例1および比較例1での加速試験手法を用いた、単セルの電流密度0.8A/cm時での発電特性の経時変化を示す。なお、ガス流量は、電流密度0.8A/cmにおけるHガス利用率80%、酸素ガス利用率50%にて一定とした。
【0085】
図3に示すように、実施例1で作製した電極を用いたMEAは、リン酸(発電環境下において液体)を含浸した比較例1で作製した電極を用いたMEAに比べ、発電特性の耐久性が著しく向上した。比較例1の電極を用いたMEAでは、加速サイクル試験開始とともに、電池性能の低下現象があらわれ、1500サイクル時点で、0.19mV/hrsの劣化率(運転時間に対する電圧降下の割合)であった。一方、実施例1の電極を用いたMEAでは、2000サイクル時点でも電圧の低下がほとんど見られず、0.011mV/hrsの劣化率であった。
【0086】
このように、酸アイオノマー(酸成分)を触媒層内に固定化処理(重合・架橋)工程を施すことにより、触媒層内のプロトンパスである酸成分を均質に固体化形成でき、かつ安定的に触媒層内に固定化させ得ることが可能となり、長期間にわたり安定な三相界面(有効触媒反応面積)を確保できた触媒層構造を維持することができる。これらの要因としては、酸成分を重合して固定化することにより、発電時に生成される水と共に流出することを抑制することが可能となり、かつ、電解質膜からの経時的な酸浸出によるガス拡散のための空隙減少を抑制することが可能となり、発電性能の耐久性を著しく向上させ得たと考えられる。
【0087】
(長期耐久性試験の評価)
また、実施例1で作製した電極を用いたMEAの耐久性を確認するため、加速試験によらず、燃料電池の通常の運転を長期間行う長期耐久性試験を行った。燃料電池の運転条件は、上記試験と同様である。その結果を図4に示す。
【0088】
図4に示すように、実施例1で作製した電極を用いたMEAでは、7000時間経過後においても、セル抵抗はほぼ一定で安定的に推移していた。また、電圧の劣化率は、0.58μV/hrsで微少であり、安定的に推移していた。
【0089】
このことから、電極触媒層内のアイオノマーの固体化(固定化)により、電極触媒層の構造が長期的に安定化し、さらに、電解質膜からの酸浸出が抑制されていることが起因しているものと考えられる。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0091】
100 膜電極接合体
110 電解質膜
120 燃料電池用電極
120A アノード
120B カソード
121A、121B 電極触媒層
123A、123B ガス拡散層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜に水溶性遊離酸を含浸させた電解質膜を有する運転温度が100℃以上の燃料電池に用いられ、電極触媒層およびガス拡散層を備える燃料電池用電極であって、
前記電極触媒層は、
少なくとも1種の燃料電池用触媒と、
酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を架橋剤により架橋したポリマーと、
を含有することを特徴とする、燃料電池用電極。
【請求項2】
前記酸性基が、ホスホン酸基またはスルホン酸基であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記重合可能な官能基が、ビニル基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
前記重合性酸モノマーが、ビニルホスホン酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
電極基材であるガス拡散層上に、少なくとも1種の燃料電池用触媒を含む触媒ペーストを塗布して乾燥することにより、電極触媒層を製膜する工程と、
酸性基および重合可能な官能基を有する重合性酸モノマーと架橋剤とを少なくとも含む水溶液を前記電極触媒層に添加し、前記電極触媒層内で、前記重合性酸モノマーを重合させて得られるポリマー鎖を前記架橋剤により架橋したポリマーを生成する工程と、
を含むことを特徴とする、燃料電池用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極と、
高分子電解質膜に水溶性遊離酸を含浸させた電解質膜と、
を備える、膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−221620(P2012−221620A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83632(P2011−83632)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】