説明

燃料電池用電極を製造するための触媒インクの評価方法

【課題】燃料電池用電極を製造するための触媒インクにおいて、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価する。
【解決手段】燃料電池用電極を製造するための、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とを混合して成る触媒インクにおける、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、測定の結果の解析により、高分子電解質を、横(スピン−スピン)緩和時間(T2)が比較的短いハード成分と緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分とに分離し、ハード成分の存在比に基づいて、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価する評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用電極を製造するための触媒インクにおける、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の性能を向上させるための方法の一つとして、電極の改良を挙げることができる。電極を改良するためには、電極を評価することが必要である。このような電極の評価方法の一つとして、電極を構成する触媒の性能評価の方法が知られている。具体的には、分子シミュレーション解析から得られる触媒金属表面における酸素原子吸着エネルギを性能評価の指標とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−273099
【特許文献2】特開平7−333178
【特許文献3】特開2003−254907
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池用電極は、触媒を担持した導電性粒子と高分子電解質とが混在して成るため、電極としての性能を評価するためには、導電性粒子と高分子電解質とが混在する状態で評価することが望ましい。このような導電性粒子と高分子電解質とが混在する状態を表わす性質の中で、特に、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態は、燃料電池の出力や電極の耐久性に大きく影響する性質であるといえる。そのため、燃料電池用電極における触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態の評価方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池用電極を製造するための触媒インクにおいて、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池用電極を製造するための、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とを混合して成る触媒インクにおける、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、前記測定の結果の解析により、前記高分子電解質を、横(スピン−スピン)緩和時間(T2)が比較的短いハード成分と緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分とに分離し、前記ハード成分の存在比に基づいて、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態を評価する評価方法。
【0008】
適用例1に記載の評価方法では、触媒インクを対象としてパルスNMR法により測定して求められる、緩和時間(T2)が比較的短いハード成分の存在比に基づいて、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価している。そのため、ハード成分の存在比は、触媒担持導電性粒子に対する高分子電解質の吸着状態を反映する値であることにより、触媒インクにおける触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を、特に触媒担持導電性粒子に対する高分子電解質の吸着の程度の観点から評価することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記触媒担持導電性粒子を含有することなく前記触媒インクと同等の濃度で前記高分子電解質を含有する高分子電解質溶液を対象としてパルスNMR法により測定して求められる前記ハード成分の存在比に対する、前記触媒インクにおける前記ハード成分の存在比の増加率により、前記混合状態を評価する評価方法。適用例2の評価方法によれば、高分子電解質溶液におけるハード成分の存在比は、高分子電解質の触媒担持導電性粒子への吸着には関わらない値であるため、このような値に対するハード成分の存在比の増加率を用いることで、高分子電解質の触媒担持導電性粒子への吸着の影響を、より明確に評価することが可能になる。
【0010】
[適用例3]
適用例1または2記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記パルスNMR法による測定は、前記燃料電池の運転温度に対応する温度条件下で行なわれる評価方法。適用例3の評価方法によれば、発電時の燃料電池の電極における触媒担持導電性粒子と高分子電解質との吸着状態により近い状態に基づいて、上記混合状態の評価を行なうことができる。
【0011】
[適用例4]
適用例1ないし3いずれか記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記高分子電解質は、フッ素系高分子電解質であり、前記触媒担持導電性粒子は、実質的にフッ素を含有しない粒子であり、前記緩和時間(T2)は、19F核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)である評価方法。適用例4の評価方法によれば、高分子電解質のみが有するフッ素に対応する測定核を選択してハード成分の存在比を求めることにより、高分子電解質の運動性に着目して、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を評価することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例4記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記パルスNMR法は、ソリッドエコー法である評価方法。適用例5の評価方法によれば、高分子電解質が、運動性が比較的低いフッ素系高分子電解質である場合に、高分子電解質の運動性に基づいて、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を、良好に評価することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例1ないし3いずれか記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であり、前記触媒担持導電性粒子は、実質的に水素を含有しない粒子であり、前記緩和時間(T2)は、1H核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)である評価方法。適用例6の評価方法によれば、高分子電解質のみが有する水素に対応する測定核を選択してハード成分の存在比を求めることにより、高分子電解質の運動性に着目して、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を評価することができる。
【0014】
[適用例7]
燃料電池用電極を製造するための、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とを混合して成る触媒インクにおける、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記触媒インクにおいて前記触媒担持導電性粒子に吸着する前記高分子電解質の吸着状態に基づいて、吸着の量および/または吸着の程度が大きいほど、前記混合状態が良好であると評価する評価方法。
【0015】
適用例7に記載の評価方法では、触媒インクにおいて触媒担持導電性粒子に吸着する高分子電解質の吸着状態に基づいて、吸着の量および/または吸着の程度が大きいほど、混合状態が良好であると評価している。上記した触媒担持導電性粒子に対する高分子電解質の吸着状態は、電池反応が進行する際の電極性能に直接影響する性質であるため、このような方法を用いて触媒インクの混合状態を評価することにより、触媒インクから作製される電極の性能を予測し、あるいは評価することが可能になる。
【0016】
[適用例8]
適用例7記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、前記触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、前記測定の結果の解析により、前記高分子電解質を、横(スピン−スピン)緩和時間(T2)が比較的短いハード成分と緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分とに分離し、前記ハード成分の存在比が高いほど、前記高分子電解質が前記触媒担持導電性粒子に吸着する量および/または吸着する程度が大きいと判断する評価方法。適用例8記載の評価方法によれば、触媒インクをそのままの状態で測定の対象とすることができるため、触媒インクにおける実際の吸着状態に基づいて、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価することができる。
【0017】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本願の評価方法を用いた燃料電池用電極の設計方法や、本願の評価方法により評価された触媒インクを用いて製造された燃料電池用電極、あるいは、このような燃料電池用電極を備える燃料電池などの形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
A.電極の構成:
図1は、燃料電池の電極の一例として、電極10の概略構成を模式的に表わす説明図である。図1に表わす電極10を備える燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、高分子電解質から成る電解質膜20を備えている。燃料電池においては、電解質膜20の両面に、アノードあるいはカソードとして、一対の電極が形成されている。図1では、一方の電極10の様子のみを拡大して示しているが、他方の電極も同様の構造を有している。
【0019】
電極10は、触媒金属(例えば、白金、あるいは白金合金)である触媒12を担持した複数の導電性粒子(例えばカーボン粒子)14と、高分子電解質16とを備え、ガスが流通する空間が内部に形成された多孔質な層である。高分子電解質16は、フッ素を含有する樹脂であり、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を備えるフッ素系樹脂とすることができる。この高分子電解質16は、上記複数の触媒担持導電性粒子14間に介在すると共に、各々の触媒担持導電性粒子14の表面の少なくとも一部を被覆する。なお、図1では、電極10上に、さらに、ガス透過性を有する導電性部材から成るガス拡散層22が配置される様子を示している。
【0020】
図2は、電極10の製造工程を表わす説明図である。電極10を作製する際には、まず、カーボン粒子(カーボン粉末)を用意する(ステップS100)。ここでは、種々のカーボン粒子を選択可能であり、例えば、カーボンブラックやグラファイトを用いることができる。
【0021】
次に、ステップS100で用意したカーボン粒子上に、触媒金属(ここでは白金(Pt))を液中で担持させる(ステップS110)。Ptを担持させるには、上記カーボン粒子を、Pt化合物の溶液中に分散させて、含浸法や共沈法、あるいはイオン交換法を行なえばよい。Pt化合物の溶液としては、例えば、テトラアンミン白金塩溶液やジニトロジアンミン白金溶液や白金硝酸塩溶液、あるいは塩化白金酸溶液などを用いることができる。このとき、白金担持カーボン粒子重量全体に対する担持された触媒金属の重量の割合、すなわち、触媒担持率は、例えば、10〜80wt%とすることができる。
【0022】
ステップS110において、Pt化合物溶液中にカーボン粒子を分散させてカーボン粒子にPtを担持させると、次にこれを乾燥・焼成させる(ステップS120)。これによって、Pt微粒子を分散担持するカーボン粒子が得られる。例えば、含浸法による場合には、カーボン粒子を、上記した量のPtを含有する溶液中に分散させた後に、溶媒を蒸発させて乾燥し、還元処理(還元雰囲気下での焼成)を行なえばよい。
【0023】
その後、ステップS120で得たPt担持カーボン粒子を、適当な水及び有機溶剤中に分散させると共に、既述したプロトン伝導性を有する電解質を含有する電解質溶液(例えば、DuPont社、Nafion PFSA Polymer Dispersions)をさらに混合して、触媒インクを作製する(ステップS130)。そして、上記触媒インクを電解質膜20上に塗布する(ステップS140)。
【0024】
触媒インクの電解質膜20上への塗布は、例えば、ドクターブレード法により行なうことができる。また、触媒インクを用いた電解質膜20上へのスクリーン印刷により行なうこととしてもよい。あるいは、スプレー印刷法や、インクジェット法により行なうこともできる。さらに、触媒インクを塗布する他の方法として、触媒インクを他の基材(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成る基材)上に塗布した後に、この塗布した触媒インクを電解質膜20に熱圧転写し、その後基材を剥離して除去する方法も可能である。また、ガス拡散層22上に触媒インクを塗布後、このガス拡散層22と電解質膜20とを熱圧接合しても良い。
【0025】
その後、電解質膜20上に塗布した触媒インクを乾燥させることで(ステップS150)、内部に微細な細孔を有する多孔質な電極10が完成する。
【0026】
ここで、燃料電池において発電が行なわれる際には、以下の(1)および(2)式に示す反応が進行する。(1)式はアノードにおける反応を示し、(2)式はカソードにおける反応を示す。
【0027】
2 → 2H+ + 2e- …(1)
2H+ + 2e- + (1/2)O2 → H2O …(2)
【0028】
水素が供給されて上記(1)式に示す反応が進行するアノードでは、触媒12上で、供給された水素からプロトンおよび電子が生じる。触媒12上で生じたプロトンは、アノードが備える高分子電解質16を介して電解質膜20へと移動する。また、触媒12上で生じた電子は、複数の触媒担持導電性粒子14を介してガス拡散層22側へと移動する。これに対して、酸素が供給されて上記(2)式に示す反応が進行するカソードでは、電解質膜20から触媒12へと、カソードが備える高分子電解質16を介してプロトンが移動する。また、ガス拡散層22側から触媒12へと、複数の触媒担持導電性粒子14を介して電子が移動する。そして、触媒12上では、電解質膜20から移動したプロトンと、ガス拡散層22側から移動した電子とが、供給された酸素と反応して水を生じる。
【0029】
上記のような反応が進行するためには、いずれの電極においても、触媒12に対してガスが効率良く供給される必要があると共に、触媒12と電解質膜20との間のプロトンの移動、および、触媒12とガス拡散層22側との間の電子の移動が、スムーズに行なわれる必要がある。ここで、電極において高分子電解質16の存在部位に偏りがあると、高分子電解質16に厚く覆われる触媒12では、この触媒12に対するガスの供給が阻害される可能性があり、また、表面を覆う高分子電解質16が少ない触媒担持導電性粒子14では、触媒12と高分子電解質16との間のプロトンの受け渡しが不十分になる可能性がある。また、複数の触媒担持導電性粒子14間が、偏りなく互いに充分に近接していないと、電極内における電子の移動効率が抑えられる可能性がある。そのため、燃料電池の電極10においては、触媒12を担持した複数の導電性粒子14と高分子電解質16とが充分に良く混ざり合っていること、具体的には、触媒担持導電性粒子14、特に触媒12と高分子電解質16とが充分に接触しつつ、電極全体として良好に分散していることが、電極の性能を確保する上で重要といえる。
【0030】
B.評価方法の概要:
本実施例の評価方法は、このような複数の触媒担持導電性粒子14と高分子電解質16との混合状態を評価するための方法である。上記混合状態が良好であるということは、触媒担持導電性粒子14と高分子電解質16との分散状態が良好であるということであり、両者の分散状態が良好であるならば、触媒担持導電性粒子14表面への高分子電解質16の吸着状態が良好になると考えられる。本実施例の評価方法は、パルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance、核磁気共鳴)法の測定結果から、上記吸着状態を間接的に評価することにより、このような吸着状態に基づいて、触媒担持導電性粒子14と高分子電解質16との混合状態を評価するものである。
【0031】
本実施例の評価方法では、燃料電池用電極を作製するための既述した触媒インクを対象として、パルスNMR法を用いて19F核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)を測定している。パルスNMR法としては、例えば、ソリッドエコー(Solid Echo)法を用いることができる。触媒インクを対象として測定する際には、燃料電池の運転温度に対応する80℃の温度条件下で、緩和時間(T2)を測定している。パルスNMR法によれば、運動性に差がある複数の成分が存在すれば、成分ごとに減衰の速さ(横緩和時間T2)が異なるため、緩和時間(T2)の違いを利用して、運動性の異なる各成分の量を求めることが可能になる。本実施例の評価方法は、高分子電解質16を構成する19Fを測定核としている。高分子電解質16は、触媒担持導電性粒子14に吸着することにより運動性が低下するため、高分子電解質16が触媒担持導電性粒子14と良く混合されて、触媒担持導電性粒子14への高分子電解質16の吸着量が増加すると、このような運動性の低下に対応する成分が増加する。
【0032】
既述した構成の触媒インクを対象として、ソリッドエコー法により得られた信号の一例を図3に示す。触媒インクを対象にしてソリッドエコー法による測定を行なうと、図3に示すように、緩和時間(T2)が比較的短いハード成分(運動性が比較的低く、水溶液でも完全に膨潤されていない固体状態に近い樹脂に該当する成分)と、緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分(運動性が比較的高い成分)の2成分が得られる。測定結果は、以下の(3)式に示す多成分のカーブフィッティングにより解析を行なっている。
【0033】
M(t)=A・exp(-1/2・(t/T2A)2)+B・(-1/2・(t/T2B)2)+… …(3)
ただし、A,Bは存在比、T2A,T2Bは横緩和時間、MはNMR信号(磁化)、tは測定時間、である。
【0034】
本実施例では、種々の条件で触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、測定結果の解析により、高分子電解質16をハード成分とソフト成分とに分離し、ハード成分の存在比によって、高分子電解質16の吸着状態を評価している。すなわち、触媒担持導電性粒子14に高分子電解質16が吸着する程度が向上するほど、あるいは、触媒担持導電性粒子14に吸着する高分子電解質16の量が増加するほど、高分子電解質16において運動性が低いハード成分が増加するため、このようなハード成分の割合に基づいて、高分子電解質16の吸着状態を評価している。なお、本実施例では、触媒担持導電性粒子14に対する高分子電解質16の吸着状態が向上すると、運動性が低いハード成分が増加することから、ハード成分の存在比およびその増加率に基づいて吸着状態、すなわち触媒インクにおける混合状態を評価しているが、異なる構成としても良い。例えば、ソフト成分の存在比およびその減少率に基づいて、同様の評価を行なうこととしても良い。
【0035】
C.19F核磁気緩和時間(T2)の解析結果:
(C−1)触媒インク等の調製:
触媒インク等、条件の異なる種々のインクを調製し、パルスNMR法を用いて19F核磁気緩和時間(T2)を測定した結果を以下に示す。触媒インクとしては、触媒担持導電性粒子14を構成するカーボン粒子の種類を異ならせた3種類の触媒インクを調製した。さらに、触媒担持導電性粒子14に代えて、触媒を担持しないカーボン粒子を備えるカーボンインクを調製すると共に、カーボン粒子を含有せず高分子電解質16のみを含有する樹脂インクを調製した。各インクの作製条件を以下に説明する。
【0036】
図4は、触媒インクの製造工程を表わす説明図である。触媒インクを製造するには、まず、触媒担持導電性粒子14を乾燥状態で用意した(ステップS200)。本実施例では、異なる3種類のカーボン粒子を用いて、触媒担持導電性粒子14としてのPt担持カーボン粒子を作製した。各々のPt担持カーボン粒子におけるPt担持量は、50wt%とした。ここで、3種類用意したカーボン粒子の一種としては、ケッチェンブラック(以下、カーボンKと表わす)を用いた。他の2種のカーボン粒子は、以下、カーボンG1およびG2と表わす。なお、カーボンKは、カーボンG1およびG2に比べて結晶性が顕著に低いことが、ラマン分析によるR値から確認されている(データ示さず)。
【0037】
次に、ステップS200で用意したカーボン粒子に水を加えて攪拌し(ステップS210)、減圧デシケータにて脱泡した(ステップS220)。その後、さらに高分子電解質溶液を加えて攪拌し(ステップS230)、減圧デシケータにて脱泡した(ステップS240)。ここで、高分子電解質としては、デュポン社製Nafion(登録商標)DE1020を用いた。また、本実施例では、カーボン粒子のうち、カーボンKを用いる触媒インクを作製する際に、ステップS230で混合する高分子電解質量を異ならせて、高分子電解質の割合の異なる4種類の触媒インクを作製した。このとき、ステップS210で加える水の量を調節することによって、最終的に得られるすべての触媒インクにおいて、高分子電解質の濃度を同じにしている。なお、ステップS210およびS230では、遠心脱泡機を用いて攪拌を行なった。その後、直径1mmのジルコニア(ZrO2)ボールを用い、遊星ビーズミルにて攪拌し(ステップS250)、減圧デシケータにて脱泡して(ステップS260)、触媒インクを完成した。
【0038】
カーボンインクを作製する際には、図4のステップS200において、Pt担持カーボン粒子に代えて、Ptを担持しないカーボン粒子を乾燥状態で用意した。そして、ステップS210以降の工程を同様に行なって、カーボンインクを作製した。このとき、カーボンインクを作製する際にも、触媒インクと同様に、K、G1、G2の3種類のカーボン粒子を用意して、それぞれについてカーボンインクを作製した。また、いずれのカーボンインクにおいても、インク中の高分子電解質の濃度を、触媒インクと同じにした。
【0039】
また、樹脂インクを作製する際には、ステップS200ないしS220の工程を行なうことなく、ステップS230において、既述した電解質溶液に対して、高分子電解質の濃度が他のインクと同じ濃度になるように水を加えた。すなわち、樹脂インクにおいても、インク中の高分子電解質の濃度を、触媒インクと同じにした。そして、ステップS240以降の工程を同様に行なって、樹脂インクを作製した。
【0040】
図5は、上記のようにして作製した触媒インクとカーボンインクと樹脂インクにおける、高分子電解質およびカーボン粒子の割合を表わす説明図である。図5では、それぞれのインクについて、高分子電解質の濃度(樹脂濃度)と、触媒を含むカーボン粒子濃度(粒子濃度)とを示している。試料(1)ないし(3)は、それぞれカーボンの種類の異なるカーボンインクであり、試料(4)ないし(6)は、それぞれカーボンの種類の異なる触媒インクである。また、試料(7)ないし(9)は、備えるカーボンの種類が試料(1)および(4)と同じカーボンKであって、高分子電解質重量のカーボン粒子重量(触媒を含まないカーボン重量)に対する割合(以下、樹脂/カーボン比という)がそれぞれ異なる触媒インクである。試料(10)は、樹脂インクである。ここで、試料名に付した数字は、樹脂/カーボン比を表わす。カーボンインクである試料(1)ないし(3)では、樹脂/カーボン比は0.75である。触媒インクである試料(4)ないし(6)も、樹脂/カーボン比は0.75であるが、カーボン粒子がPtを担持しているため、カーボン粒子濃度(wt%)は試料(1)ないし(3)よりも高くなっている。試料(7)ないし(9)は、樹脂/カーボン比が、それぞれ、0.5、1.0、1.5となっている。
【0041】
(C−2)パルスNMRによる緩和時間(T2)の測定結果:
上記した試料(1)ないし(10)を用いて、パルスNMR法、詳しくはソリッドエコー(Solid Echo)法により、80℃の温度条件下で、19F核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)を測定した。詳細な測定条件を、図6に示す。
【0042】
試料(1)ないし(10)の各々について、上記のようにソリッドエコー法による測定を行ない、ハード成分とソフト成分の各々について存在比と緩和時間(T2)とを算出した結果を、図7に示す。図7に示すように、触媒担持カーボン粒子が存在する試料(試料(4)〜(9))、あるいはカーボン粒子が存在する試料(試料(1)〜(3))では、高分子電解質のみを含有する樹脂インク(試料(10))に比べて、ハード成分の存在比が増加した。
【0043】
ここで、試料(10)は、カーボン粒子を含有しない樹脂インクであるため、試料(10)におけるハード成分の存在比は、高分子電解質のカーボン粒子への吸着には関わらない値である。そのため、カーボン粒子を含有する試料(1)〜(9)においては、試料(10)におけるハード成分の存在比に対する、各々の試料におけるハード成分の存在比の増加分が、高分子電解質のカーボン粒子への吸着を反映する値であるといえる。本実施例では、高分子電解質のカーボン粒子への吸着の影響をより明らかにするために、試料(10)におけるハード成分の存在比に対する、各々の試料におけるハード成分の存在比の増加率に基づいて、高分子電解質の吸着状態を評価している。試料(1)〜(9)について、試料(10)におけるハード成分比に対する、各々の試料のハード成分比の増加率を算出した結果を、ハード成分増加率として図8に示す。ハード成分増加率は、以下の(4)式で表わすことができる。
【0044】
ハード成分増加率=(各試料のハード成分比 − 試料(10)のハード成分比)/
(試料(10)のハード成分比)×100 …(4)
【0045】
図8に、試料(4)および(7)〜(9)の結果として示すように、同じ種類のカーボン粒子を備える触媒担持カーボンを用いた触媒インクでは、樹脂/カーボン比が大きいほど、ハード成分比は樹脂インクの値に近づき、ハード成分増加率は小さくなった。ここで、樹脂/カーボン比が大きいということは、高分子電解質が吸着する対象となるカーボン粒子が相対的に少ないということであり、カーボン粒子に吸着する高分子電解質量が相対的に少なくなるということである。図8に示すように、ハード成分増加率を比較することにより、同じ種類のカーボン粒子を備える触媒担持カーボンを用いた触媒インクでは、樹脂/カーボン比が低いほど、ハード成分増加率が大きくなり、高分子電解質の吸着状態が良好であることが実際に確認できた。
【0046】
また、図8に、試料(1)〜(3)の結果として示すように、触媒を担持しないカーボン粒子を用いたカーボンインクでは、樹脂/カーボン比を揃えて比較すると、カーボンの種類によって、ハード成分増加率に違いが見られた。具体的には、結晶性が顕著に低いカーボンKから成るカーボン粒子を備える試料(1)では、結晶性が高い他のカーボンG1あるいはG2から成るカーボン粒子を備える試料(2)、(3)に比べて、ハード成分増加率が非常に高かった。ここで、カーボンにおいては、結晶性が低いほど、その表面積が大きいということができる。カーボン粒子の表面積が大きいということは、高分子電解質が吸着する対象となる面積が大きいということであり、高分子電解質がカーボン粒子へとより多く吸着し易くなる。また、カーボンの結晶性の違いにより、カーボン粒子の表面と高分子電解質との間の相互作用の力が異なり、カーボン粒子に吸着する高分子電解質の量や、高分子電解質がカーボン粒子に吸着する程度(吸着力)が異なるとも考えられる。図8に示すように、ハード成分増加率を比較することにより、種類の異なるカーボン粒子を備えるカーボンインクでは、結晶性の低いカーボン粒子を備えるインクほど、ハード成分増加率が大きくなり、高分子電解質の吸着状態が良好であることが実際に確認できた。
【0047】
これに対して、図8に、試料(4)〜(6)の結果として示すように、触媒担持カーボン粒子を用いた触媒インクでは、樹脂/カーボン比を同様の値に揃えて比較すると、カーボンの種類の違いによるハード成分増加率の違いは、触媒を備えないカーボンインクの場合とは異なる傾向を示した。具体的には、結晶性が低いカーボンKでは、カーボンインクである試料(1)と触媒インクである試料(4)とで、ハード成分増加率の差は小さかった。一方、結晶性が高いカーボンG1あるいはG2では、カーボンインクである試料(2)、(3)に比べて、触媒インクである試料(5)、(6)では、ハード成分増加率が大きく増加していた。このような、カーボンインクと触媒インクの間でのハード成分増加率の違いは、触媒担持カーボンが担持する触媒(Pt)の影響によるものと考えられる。すなわち、カーボンインクにおけるハード成分増加率に対する、触媒インクにおけるハード成分増加率の増加量は、触媒に吸着した高分子電解質量を反映すると考えられる。いずれの触媒インクが備える触媒担持カーボンにおいても、同量の触媒をカーボン上に担持させているが、カーボンの種類によってカーボン上の触媒の表面状態が異なり、その結果、触媒と高分子電解質との間の相互作用の状態が異なって、触媒に吸着する高分子電解質量が変化すると考えられる。Ptは、磁性を有するため、Ptに充分に近接して高分子電解質が存在すれば、高分子電解質の磁気緩和が促進されることになる。結晶性が高いカーボンを備える触媒インクである試料(5)、(6)では、Ptに充分に近接して高分子電解質が吸着することにより、ハード成分増加率がさらに高まったと考えられる。カーボンの種類を異ならせた触媒インクである試料(4)〜(6)では、ハード成分増加率は同程度であるが、対応するカーボンインクである試料(1)〜(3)のハード成分増加率と比較することにより、結晶性が高いカーボンG1およびG2を用いる場合には、カーボンKに比べて、Ptに近接して吸着する高分子電解質量が多く、吸着状態がより良好であると評価することができる。
【0048】
以上のように構成された本実施例の評価方法によれば、パルスNMR法による測定から求められる19F核磁気緩和時間(T2)を用いることで、触媒インクにおける触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を、特に触媒担持導電性粒子に対する高分子電解質の吸着の程度の観点から評価することができる。すなわち、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とが良く混合されており、分散状態が良好であると、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とが充分に接触し、触媒担持導電性粒子に吸着する高分子電解質量が増加する。そのため、触媒担持導電性粒子に吸着する高分子電解質量を反映する値であるハード成分量やハード成分比、あるいはハード成分増加率を比較することによって、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価することができる。
【0049】
特に、本実施例の評価方法は、燃料電池用電極を形成するための触媒インクをそのまま用いて測定を行なうことができる点で優れている。触媒インクにおける分散状態を評価する他の方法としては、例えば、触媒インクの粒度分布を測定する方法も考えられる。しかしながら、例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて触媒インクの粒度分布を測定する場合には、測定に先立って、水などの適当な溶媒に触媒インクを分散させる必要があり、電極における分散状態の測定とは言い難い場合がある。これに対して本実施例の評価方法は、触媒インクをそのまま測定対象とするため、電極における触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態により近い状態として、混合状態を評価することが可能になる。このとき、パルスNMR法による測定時の温度条件を、既述したように燃料電池の運転温度に対応する温度とすることで、発電時の燃料電池の電極における状態により近い状態として、評価を行なうことができる。
【0050】
また、本実施例の評価方法によれば、高分子電解質が触媒担持導電性粒子上に吸着して運動性が低下する程度に基づいて、混合状態・分散状態を評価しているため、電極性能に直接的に影響する指標として、評価結果を用いることができる。すなわち、触媒インクにおいて、高分子電解質や触媒担持導電性粒子が、単に細かい粒子となって良く混ざり合っている程度を評価しているのではなく、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とが実際に接触して、電池性能に寄与し得る状態であることを評価することができる。例えば、試料(4)、(7)〜(9)について、既述したレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて触媒インクの粒度分布を測定すると、樹脂/カーボン比が大きい触媒インクほど、粒径が小さい、すなわち、分散度が高いという結果が得られた(データ示さず)。これに対して本実施例の評価方法によれば、図8に示したように、樹脂/カーボン比が小さい触媒インクほどハード成分増加率が高くなり、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とが電極内で機能し得るように吸着している状態に着目して、樹脂/カーボン比が小さいほど混合状態が良好であると評価することが可能になる。
【0051】
また、本実施例の触媒インクの評価方法によれば、評価の対象となる触媒インクを用いて形成した電極の性能を評価する際に、電池性能に直接影響する性質として、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との吸着状態を独立して評価することができる。そのため、電極全体としての性能を向上させるために触媒インクの条件を検討する際に、上記吸着状態による影響を踏まえて、他の条件に起因する影響を検討することが可能になる。異なる条件の触媒インクを用いて形成した電極同士の性能を直接比較するには、他の条件を揃えて各々の触媒インクを用いて燃料電池を組み立てて、発電性能(電流−電圧特性など)を比較すれば良い。例えば、図8において試料(4)、(7)〜(9)として示したように、カーボンの種類を同じにして樹脂/カーボン比を異ならせた触媒インクを作製して、それぞれを用いて燃料電池を組み立てて発電を行なわせると、各々の電極性能を比較することができる。このような電極では、既述したように、樹脂/カーボン比が低いほどハード成分増加率が高くなり、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態は良好であると評価される。しかしながら、樹脂/カーボン比を小さくして高分子電解質の割合を抑えすぎると、電極においては、触媒と高分子電解質との間のプロトンの受け渡し効率が低下して、このことは電池性能の低下につながる。本実施例の評価方法を用いて、高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を独立して評価しつつ、電極全体の評価結果を検討すれば、上記混合状態以外の他の要因、すなわち上記したプロトンの受け渡し効率の低下を含む他の要因の影響を、評価することも可能になる。
【0052】
このように高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を評価できることにより、例えば燃料電池の開発時においては、触媒インクを作製するために用いるカーボンの種類や高分子電解質の種類、触媒の種類や触媒の担持量、あるいは触媒の混合方法などを異ならせて比較を行なえば良い。上記のように条件を異ならせた触媒インクについて、ハード成分量やハード成分比、あるいはハード成分増加率を比較することによって、触媒担持導電性粒子と高分子電解質との混合状態を評価して、混合状態がより良好になる条件を設定することができる。あるいは、設定した条件で触媒インクを作製して実際に燃料電池を製造する際には、製造過程の触媒インクについて測定を行ない、ハード成分比を求めることにより、製造過程の触媒インクにおける混合状態のチェックを行なうことも可能である。
【0053】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0054】
D1.変形例1:
実施例では、触媒インクを対象としてパルスNMR法によって19F核磁気緩和時間(T2)を求める際に、ソリッドエコー法を用いたが、異なる構成としても良い。例えば、異なる種類の高分子電解質を用いる場合や、異なる種類の触媒担持導電性粒子を用いる場合には、ソリッドエコー法に代えて、CPMG法やCP法、あるいはスピンエコー法を用いることとしても良い。ハード成分とソフト成分の量に基づいて、触媒担持導電性粒子に吸着する高分子電解質の状態を評価可能であれば良く、対象となる触媒担持導電性粒子や高分子電解質の種類に対応した時間レンジに応じて、適宜、用いるパルスNMR法の種類を選択すれば良い。
【0055】
D2.変形例2:
実施例では、フッ素系高分子電解質から成る電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池における電極を製造するための触媒インクを評価の対象としたが、異なる構成としても良い。例えば、炭化水素系高分子電解質から成る電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池における電極を製造するための触媒インクを評価の対象としても良い。このとき、触媒インクが備える高分子電解質として、フッ素系の固体高分子を用いる場合には、実施例と同様にパルスNMR法によって19F核磁気緩和時間(T2)を求めて評価を行えばよい。これに対して、触媒インクが備える高分子電解質として、電解質膜と同じ炭化水素系の高分子電解質を用いる場合には、パルスNMR法によって1H核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)を求めて評価を行えばよい。このように、触媒インクにおいて高分子電解質のみが有する水素に対応する測定核を選択してハード成分の存在比を求めることにより、触媒インクにおける高分子電解質と触媒担持導電性粒子との混合状態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】電極10の概略構成を模式的に表わす説明図である。
【図2】電極10の製造工程を表わす説明図である。
【図3】ソリッドエコー法により得られた信号の一例を示す説明図である。
【図4】触媒インクの製造工程を表わす説明図である。
【図5】試料(1)〜(10)の組成を表わす説明図である。
【図6】ソリッドエコー法による測定条件を示す説明図である。
【図7】ハード成分とソフト成分の存在比と緩和時間(T2)とを算出した結果を示す説明図である。
【図8】各試料についてハード成分増加率を求めた結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
10…電極
12…触媒
14…触媒担持導電性粒子
16…高分子電解質
20…電解質膜
22…ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電極を製造するための、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とを混合して成る触媒インクにおける、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、前記測定の結果の解析により、前記高分子電解質を、横(スピン−スピン)緩和時間(T2)が比較的短いハード成分と緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分とに分離し、前記ハード成分の存在比に基づいて、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態を評価する評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記触媒担持導電性粒子を含有することなく前記触媒インクと同等の濃度で前記高分子電解質を含有する高分子電解質溶液を対象としてパルスNMR法により測定して求められる前記ハード成分の存在比に対する、前記触媒インクにおける前記ハード成分の存在比の増加率により、前記混合状態を評価する評価方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記パルスNMR法による測定は、前記燃料電池の運転温度に対応する温度条件下で行なわれる
評価方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記高分子電解質は、フッ素系高分子電解質であり、
前記触媒担持導電性粒子は、実質的にフッ素を含有しない粒子であり、
前記緩和時間(T2)は、19F核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)である
評価方法。
【請求項5】
請求項4記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記パルスNMR法は、ソリッドエコー法である
評価方法。
【請求項6】
請求項1ないし3いずれか記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であり、
前記触媒担持導電性粒子は、実質的に水素を含有しない粒子であり、
前記緩和時間T2は、1H核磁気横(スピン−スピン)緩和時間(T2)である
評価方法。
【請求項7】
燃料電池用電極を製造するための、触媒担持導電性粒子と高分子電解質とを混合して成る触媒インクにおける、前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記触媒インクにおいて前記触媒担持導電性粒子に吸着する前記高分子電解質の吸着状態に基づいて、吸着の量および/または吸着の程度が大きいほど、前記混合状態が良好であると評価する評価方法。
【請求項8】
請求項7記載の前記触媒担持導電性粒子と前記高分子電解質との混合状態の評価方法であって、
前記触媒インクを対象としてパルスNMR法による測定を行ない、前記測定の結果の解析により、前記高分子電解質を、横(スピン−スピン)緩和時間(T2)が比較的短いハード成分と緩和時間(T2)が比較的長いソフト成分とに分離し、前記ハード成分の存在比が高いほど、前記高分子電解質が前記触媒担持導電性粒子に吸着する量および/または吸着する程度が大きいと判断する
評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−301938(P2009−301938A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156704(P2008−156704)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】