説明

燃料電池用電極及びその製造方法

【課題】適度な保水性及び排水性を有しつつ、電極性能の低下を防止した燃料電池用電極と、上記電極を簡易な方法で製造する製造方法を提供することにある。
【解決手段】第一電極粒子11と第一溶媒とを含有する第一触媒インクを電解質膜2上に湿式塗布し、緻密層3aを形成する。次に上記緻密層3aに第一溶媒が残存している状態で、第二電極粒子12と第二溶媒とを含有する第二触媒インクを上記緻密層3a上に湿式塗布し、上記第一及び第二溶媒を蒸発させることにより、凹凸層3bを形成する。得られた凹凸層の表面全体には、第二電極粒子12からなる凹凸が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極及びその製造方法に関する。具体的には、本発明は、適度な保水性及び排水性を有しつつ、電極性能の低下を防止した燃料電池用電極と、前記電極を簡易な方法で製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側にアノード及びカソードを備えた膜電極接合体を備え、平板形状をとるのが一般的である。そして上記燃料電池において、供給口から導入された反応ガスは電極上で反応し、反応済みのガスは排出口から排出される。
【0003】
上記アノード及びカソードは、白金等を含む触媒粒子を担持したカーボン粒子と、イオン伝導性を示すアイオノマとを含有している。そして、上記反応ガスは触媒粒子上で電子の授受を伴う電気化学反応を起こし、これにより生成した電子はカーボン粒子中を伝導し、さらにイオンはアイオノマ中を伝導する。そのため、反応ガスは、触媒粒子、カーボン粒子及びアイオノマの三相全てに接していることが必要であり、電極のミクロ構造は電池性能に影響する重要な因子である。
【0004】
そして、従来、燃料電池が大面積化すればするほど反応ガスの濃度や電池反応に伴う生成水量の偏りが生じ、発電量の分布が大きくなる。特に、カソードのガス下流において、酸素濃度の低下と生成水による酸素供給阻害が起こりやすく、電流密度の低下が起こっている。一方、カソードのガス上流においては生成水が少ないため、電解質膜及び触媒層の乾燥が起こりやすく、十分な水素イオン伝導が得られないため、性能低下が起こる。
【0005】
このような問題を解決するために、従来、触媒層が二層から成る燃料電池用電極が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電極は、それぞれ含水率の異なるイオン交換樹脂を添加することにより、電解質膜側の触媒層の含水率を、ガス拡散層側の触媒層の含水率より大きくして、触媒層の保水性と排水性の両方を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−048643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、含水率の異なるイオン交換樹脂を触媒層に含有しており、この樹脂は電極反応に関与しない材料であるため、電極性能が低下する恐れがある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、適度な保水性及び排水性を有しつつ、電極性能の低下を防止した燃料電池用電極を提供することにある。さらに本発明の目的は、上記電極を簡易な方法で製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池用電極の製造方法は、まず、第一電極粒子と第一溶媒とを含有する第一触媒インクを電解質膜上に湿式塗布し、緻密層を形成する。次に上記緻密層に第一溶媒が残存している状態で、第二電極粒子と第二溶媒とを含有する第二触媒インクを上記緻密層上に湿式塗布し、上記第一及び第二溶媒を蒸発させることにより、凹凸層を形成する。
【0010】
本発明の燃料電池用電極は、電解質膜に接触し、第一電極粒子を含有する緻密層と、上記緻密層における電解質膜と接触する面と反対側の面上に一体的に形成され、第二電極粒子を含有する凹凸層と、を備えている。さらに、上記凹凸層の表面全体に上記第二電極粒子からなる凹凸が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用電極の製造方法によれば、電解質膜側に形成される緻密層では、電極粒子と電解質膜が溶媒により親和することから電極粒子が緻密に配列する。さらにガス拡散層側に形成される凹凸層では電極粒子が凝集するため、凹凸形状を形成することが出来る。
【0012】
また、本発明の燃料電池用電極によれば、、電解質膜側の緻密層により生成水を保持する構造が形成され、ガス拡散層側の凹凸層により生成水を排水する構造が形成される。そのため、イオン交換樹脂等を含有させなくとも電極性能を低下させることなく、生成水量の分布を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池単セルの模式的な断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る燃料電池用電極を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、電極及びセパレータを示す平面図である。
【図4】図4は、本実施形態の電極の効果を説明するためのグラフである。
【図5】図5は、本実施形態の電極の製造工程を示す概略図である。
【図6】図6は、実施例の電極の断面を示す写真である。
【図7】図7は、実施例及び比較例の電極の電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
[燃料電池用電極]
図1では、本実施形態に係る電極(以下、触媒層ともいう。)を備えた燃料電池の単セルの構成を示す。図1に示すように、単セル1は、固体高分子電解質膜2の両側に、カソード3及びアノード4を備える。さらにカソード3の外側にはカソード側ガス拡散層3Aを備え、アノード4の外側にはアノード側ガス拡散層4Aを備える。これら固体高分子電解質膜2、カソード3、アノード4、カソード側ガス拡散層3A及びアノード側ガス拡散層4Aにより膜電極接合体5が構成される。また、カソード側ガス拡散層3A及びアノード側ガス拡散層4Aの外側には、カソード側セパレータ6及びアノード側セパレータ7が各々設置されている。そして、カソード側セパレータ6及びアノード側セパレータ7により、酸化剤ガス流路6a、燃料ガス流路7a及び図示しない冷却水流路が形成されている。
【0016】
上記単セル1は、固体高分子電解質膜2の両側にカソード3及びアノード4を配置して、通常、ホットプレス法等により一体に接合して膜電極接合体5を形成し、次に膜電極接合体5の両側にカソード側セパレータ6及びアノード側セパレータ7を配置して製造する。単セル1では、アノード側に水素を含有した燃料ガスを供給し、カソード側に酸素を含有した空気などの酸化剤ガスを供給する。これにより、固体高分子電解質膜2と、カソード3及びアノード4との間の接触面において電気化学反応が起こる。
【0017】
そして、本実施形態に係る燃料電池用電極は、上記カソード3及びアノード4のいすれにも用いることができるが、以下、カソード3を例に説明する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態の燃料電池用電極に係るカソード3は、電解質膜の表面2aに接触する緻密層3aと、上記緻密層3a上に形成され、表面全体に微細な凹凸を有した凹凸層3bとを備えている。また、上記緻密層3aは複数の第一電極粒子11を含有し、さらに上記凹凸層3bは複数の第二電極粒子12を含有する。そして、上記カソード3において、電解質膜2に接触している緻密層3aは第一電極粒子が密に詰まった構造をなしており、さらに凹凸層3bは第二電極粒子12が凝集し、表面全体に微細な凸部3cと凹部3dとが形成され、粗面化されている。
【0019】
このように、本実施形態の電極は、緻密層上と凹凸層の少なくとも二層からなり、さらに緻密層上に凹凸層が一体的に形成されている。このような構成とすることにより、電解質膜2の近傍に形成された緻密層によって、カソードガスの上流側など湿度の低い条件においても触媒層は適度な保水性を有する。そのため、電解質膜の乾燥が起こりにくく、性能の低下を防ぐことができる。また、電極表面に形成された凹凸層3b中の凹部3dは反応によって生成した水分を排出する流路としても機能するため、水詰まり(フラッディング)による性能低下を抑えることができる。
【0020】
より具体的に説明すると、図3に示すように、カソード3においては、セパレータ6の酸化剤ガス供給口21から酸化剤ガスが供給され、酸化剤ガスがカソード3及びガス拡散層3Aを通過した後、酸化剤ガス排出口22から排出される。この際、酸化剤ガス供給口21の近傍では、酸化剤ガス中の酸素濃度は空気中の酸素濃度とほぼ同じ20%程度であり、さらに低湿度の状態である。しかし、酸化剤ガス排出口22の近傍では、カソード3にて酸素が消費され、水が生成するために、酸化剤ガス中の酸素濃度は数%となり、さらに湿度は100%程度になる。
【0021】
そして、このようなカソード雰囲気において、電極粒子が緻密に配置されている緻密層を設けることにより、緻密層中の微細な空孔内に生成水を多く保持できることから、酸化剤ガス供給口21の近傍でも適度に生成水が存在し、電解質膜の乾燥を防止することができる。さらに上記緻密層上に凹凸層を一体形成することにより、酸化剤ガス排出口22の近傍でも凹部を通じて生成水を効率良く排出することができる。
【0022】
さらに、電解質膜近傍の電極粒子は緻密な構造となっているため、電極粒子の表面積が増加する。そのため、セル全面に渡って電極粒子の利用効率が増加し、発電特性が向上する。これは微細な電極粒子間の微小な空孔を反応ガスが移動する間に、反応ガスと電極粒子が効率良く接触し、発電消費されていくためである。
【0023】
また、電解質膜から離れるにしたがって、電極粒子の凝集により触媒層を凹凸形状とすることによって、凹部を伝って反応ガスを低抵抗で触媒層全体に供給することができる。これにより、反応ガス濃度が低下しやすい下流域(酸化剤ガス排出口22の近傍)に未反応ガスを効率良く送り込むことができ、セル性能を向上させることができる。
【0024】
ここで、上記緻密層3aの厚さは3μm〜7μmであることが好ましい。上記緻密層の膜厚がこの範囲内にあることにより、未反応ガスが電極粒子の表面に低抵抗で行きわたり、その表面で効率よく反応させることができる。また、反応によって発生した水分(生成水)は緻密層3aの中に留まり、水分の薄膜を形成することができる。そして、この薄膜により水分が必要以上に蒸発することを防ぐことができる。なお、緻密層3aの厚さが7μmを超えた場合、緻密層3a中で反応ガスが拡散する抵抗が大きくなり、電極反応に関与しない電極粒子が増加する可能性がある。また、生成水の膜が増大し、未反応ガスが電解質膜近傍に到達する際の障壁となる可能性がある。
【0025】
また、上記凹凸層の表面粗さは最大高さ(Rz)で9μm〜12μmであることが好ましい。表面粗さがこの範囲内であることにより、供給口から供給された反応ガスが凹凸層3bの凹部3dを通じて電極全体に効率良く分散でき、電極反応を向上させることができる。また、凹部3dを通じて生成水(液水)も効率良く排出することができる。さらに、凹凸層3bにおいて、隣接する凸部3cの山頂間の間隔(W)は35μm〜50μmであることが好ましい。凸部3cの山頂間の間隔がこの範囲内にあることにより、反応ガスの分散性と液水の排出性をより向上させることが可能となる。なお、緻密層の厚さや表面粗さ、凸部の山頂間の間隔は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、電極の表面及び断面を観察することにより、求めることができる。
【0026】
本実施形態の電極において、上記緻密層と凹凸層を設けたことによる効果を図4を用いて更に詳細に説明する。図4は、単セルの位置と、セル特性(電圧特性)との関係を示す。上記緻密層及ぶ凹凸層を有しない従来の電極では、グラフ31で示すように、ガス上流域(酸化剤ガス供給口21の近傍)では電解質膜の乾燥が発生しやすく、電圧特性が低下する傾向にある。また、ガス下流域(酸化剤ガス排出口22の近傍)では、生成水によるフラッディングが発生し、電圧特性が大幅に低下する。しかし、本実施形態の電極では、グラフ32で示すように、電解質膜近傍に緻密層を設けたことにより、電解質膜の乾燥を防止することができ、図中の矢印Aで示すように、ガス上流域での電圧特性を大幅に向上させることができる。さらに、緻密層上に凹凸層を一体形成したことにより、ガス下流域に未反応ガスを効率的に供給することができると共に、ガス下流域での排水性も向上させることができるため、図中の矢印Bで示すように、ガス下流域での電圧特性を大幅に向上させることができる。また、緻密層及び凹凸層では、電極粒子が微細な空孔を形成するように緻密化されているため、電極粒子と反応ガスの接触率が増大し、ガス上流域の電圧を大幅に向上させることができる。
【0027】
ここで、上記緻密層3a及び凹凸層3bにおける第一電極粒子11及び第二電極粒子12としては、触媒粒子、導電性粒子及びアイオノマを含有することが好ましい。そして、第一及び第二電極粒子11,12中の触媒粒子、導電性粒子及びアイオノマは、それぞれ異なっても良く、全く同一であっても良い。なお、後述するように、上記緻密層3a及び凹凸層3bは同じ触媒インクにより作成される得ることから、緻密層3a及び凹凸層3bは同じ成分から成ることができる。
【0028】
本実施形態の電極において、触媒粒子の形状や大きさは特に制限されず、公知の触媒成分と同様の形状及び大きさのものが使用できる。触媒粒子の平均粒子径は小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため触媒活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さ過ぎるとかえって触媒活性が低下する現象が見られる。したがって、触媒粒子の平均粒子径は1.5nm〜15nmであることが好ましく、2nm〜10nmであることがより好ましく、2nm〜5nmであることがさらに好ましい。担持の容易さという観点から1.5nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から15nm以下であることが好ましい。なお、触媒粒子の平均粒子径は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径又は透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値により測定することができる。
【0029】
触媒粒子の材料は、カソード3においては酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば良く、アノード4においては水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば良い。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。白金を含む合金の場合、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのが良い。
【0030】
電極の導電性粒子は、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子伝導性を有しているものであれば良い。導電性粒子の比表面積は、20〜1000m/gであることが好ましく、80〜800m/gであることがより好ましい。比表面積が20m/g以上であることにより導電性粒子上の触媒粒子及びアイオノマの分散性が低下せず十分な発電性能が得られる。また、比表面積が1000m/g以下であることにより比表面積の増大に伴う触媒粒子及びアイオノマの有効利用率の低下が避けられる。
【0031】
導電性粒子は、カーボン又は主成分がカーボンであるものが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。燃料電池の特性を向上させるために、必要に応じて、導電性粒子に炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。また、2〜3質量%程度以下の不純物の混入は許容される。
【0032】
また、導電性粒子の大きさは特に限定されないが、触媒粒子の担持の容易さ、触媒利用率、電極の厚みを適切な範囲で制御する等の観点からは、平均粒子径が5nm〜200nmであることが好ましく、10nm〜100nm程度であることがより好ましい。
【0033】
導電性粒子に触媒粒子が担持された触媒担持導電性粒子における、触媒粒子の担持量は、触媒担持導電性粒子よりなる電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜75質量%、より好ましくは20〜50質量%とするのが良い。触媒粒子の担持量が75質量%以下であることにより、導電性粒子上での触媒成分の十分な分散性が得られ、高い発電性能が得られる。担持量が10質量%以上であることにより、単位質量当たりの触媒活性が低下することなく、さらに所望の発電性能を得るために多量の電極触媒を要しない。なお、触媒粒子の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0034】
上記電極に含まれるアイオノマ(高分子電解質)としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくともプロトン伝導性を有するのが好ましい。プロトン伝導性を有する高分子電解質を用いることにより、高い発電性能を有する電極が得られる。使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、などが挙げられる。
【0035】
高分子電解質のイオン交換基としては、特に制限されないが、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH等(R、R’、R’’は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0036】
フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0037】
また、炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0038】
上掲した高分子電解質のなかでも、フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質は、高いイオン交換能を有し、化学的耐久性・力学的耐久性、などに優れることから好ましく、特に、ナフィオン、アシプレックス、フレミオンなどのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0039】
電極に含まれる高分子電解質の含有量は、電解質抵抗値を所望の値とする観点からは、電極を構成する成分の全質量、すなわち、電極触媒の質量と高分子電解質の質量との総和に対して、好ましくは0.15〜0.45質量%、より好ましくは0.25〜0.40質量%とするのがよい。高分子電解質の含有量が、0.15質量%以上であれば触媒層中に高分子電解質を均一に保持できる効果が得られ、0.45質量%以下であれば反応ガスの十分な拡散性を得られる。
【0040】
[燃料電池用電極の製造方法]
次に、上記燃料電池用電極の製造方法について説明する。上記電極は、まず、上記第一電極粒子11と第一溶媒とを含有する第一触媒インクを電解質膜2上に湿式塗布し、上記緻密層3aを形成する。次に、上記緻密層3aに第一溶媒が残存している状態で、第二電極粒子12と第二溶媒とを含有する第二触媒インクを上記緻密層3a上に湿式塗布する。そして、上記第一及び第二溶媒を蒸発させることにより、凹凸層3bを形成することができる。
【0041】
具体的には、まず、上記第一電極粒子と第一溶媒とを混合し、緻密層用の第一触媒インクを調製する。さらに、上記第二電極粒子と第二溶媒とを混合し、凹凸層用の第二触媒インクを調製する。第一及び第二電極粒子としては、上記触媒粒子、導電性粒子及びアイオノマを使用することができる。また、上述したように、第一及び第二電極粒子中の触媒粒子、導電性粒子及びアイオノマは、それぞれ異なっても良く、全く同一であっても良い。上記第一及び第二溶媒としては、プロピレングリコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、メタノール、エタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびこれらの混合溶媒を適宜使用することができる。また、第一及び第二溶媒は、それぞれ異なっても良く、同一であっても良い。混合手段としては、ホモジナイザ、超音波分散装置、ジェットミル、ビーズミルなどの公知の手段が挙げられる。
【0042】
次に、上記第一触媒インクを電解質膜上に湿式塗布するが、本実施形態では、パルススプレイ法により、第一触媒インクを塗布することが好ましい。パルススプレイ法は、スプレーガンとパルスコントローラを組み合わせ、触媒インクを断続的に吐出させることにより、上記緻密層及び凹凸層を形成する方法である。パルススプレイ法により塗布する際は、ノードソン株式会社製のパルススプレイコーティング(登録商標)システムを使用することができる。本実施形態では、まず、図5(a)に示すように、スプレーガン41より第一触媒インクを断続的に吐出して電解質膜上に塗布し、緻密層3aを形成する。
【0043】
次に、上記緻密層3a上に第二触媒インクを塗布するが、第二触媒インクもまた、パルススプレイ法により塗布することが好ましい。ここで本実施形態では、第一触媒インクが完全に乾燥する前、つまり上記緻密層中に第一溶媒が残存している状態で第二触媒インクを塗布することが好ましい。第一触媒インクを電解質上に塗布し、第一触媒インクを完全に乾燥させてしまった後に第二触媒インクを塗布した場合、凹凸層の表面粗さが9μm未満になり、ガス下流域での排水性と未反応ガス拡散性が向上しない恐れがある。なお、第一触媒インクを電解質上に塗布した後、第一触媒インクを安定化させ、第一触媒インク上に第二触媒インクを積層させる観点から、第一溶媒を若干蒸発させる必要がある。しかし、第一溶媒を完全に蒸発させると、凹凸が十分に形成されないため、第一溶媒が残存している間に第二触媒インクを塗布する必要がある。
【0044】
そして、図5(b)に示すように、スプレーガンより第二触媒インクを断続的に吐出して第二触媒インクを上記緻密層3a上に塗布した後、緻密層中に残存している第一溶媒と、第二触媒インク中の第二溶媒を完全に蒸発させることにより、上記凹凸層3bを形成することができる。このように、本実施形態の製造方法では、上記第一触媒インクを、電解質に到達してはじめてインク中の溶媒が蒸発するウエットな塗工で塗布することが好ましい。このようにウエットな塗布をすることにより、第一溶媒の蒸発時に第一電極粒子間が引き締まり、空気の混入が少ない緻密な薄膜を作製することができる。また、第一溶媒と電解質材料の親和性が良好なため、第一触媒インクを一様に塗布することができる。
【0045】
さらに、本製造方法では、緻密層中に第一溶媒が残存している状態で、第二触媒インクを塗布している。そのため、第二触媒インク中の第二溶媒が蒸発するに従い、第二電極粒子が凝集し、凹凸形状が形成されると考える。
【0046】
なお、本実施形態では、上記第一触媒インクを構成する成分が、上記第二触媒インクを構成する成分と同じであることが好ましい。つまり、第一触媒インク中の触媒粒子、導電性粒子、アイオノマ及び溶媒が第二触媒インクと同じであることが好ましい。これにより、緻密層と凹凸層を同じ触媒インクで形成することができるため、コスト削減を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態では、上記第一触媒インクを塗布する際の塗布条件が、第二触媒インクを塗布する際の塗布条件と同じであることが好ましい。つまり、第一及び第二触媒インクを塗布する際、上記パルススプレイ法における材料圧力、霧化圧及びスワール圧を同一とすることが好ましい。これにより、触媒インクの種類に応じて塗布条件を変更する必要がないため、塗布工程の簡略化を図ることができる。また、上記第一触媒インクの塗布量は、第二触媒インクの塗布量と同じであることが好ましい。この場合も、触媒インクの種類に応じて塗布量を変更する必要がないため、塗布工程の簡略化を図ることができる。
【0048】
本実施形態では、上記第一及び第二触媒インクが同一のインクであり、第一及び第二触媒インクを塗布する際の材料圧力、霧化圧及びスワール圧が同じであり、さらに塗布量も同じであることが最も好ましい。つまり、上記緻密層上に、緻密層と同じインクで、さらに同じの塗布条件にて塗り足しを行い、緻密層の構造を保持したまま、第二触媒インク中の電極粒子を凝集させ、凹凸形状を作製することが好ましい。緻密層は溶媒と電解質膜材料との親和性が良く、一様に塗布ができ、一方、電解質膜から離れるにしたがって、触媒インク粒子の凝集が起こるため、凹凸形状ができる。また、緻密層及び凹凸層を同じ製造ラインで製造することができ、さらに塗布条件も変更する必要がないため、低コストで大量生産することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、触媒インクを少なくとも2回塗布することにより、緻密層及び凹凸層を形成することができるが、触媒インクを3回以上塗布することにより、緻密層及び凹凸層を形成しても良い。ただ、この際も、下層の触媒インク中の溶媒が完全に蒸発する前に、上層の触媒インクを塗布することが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本実施形態を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例]
まず、以下の方法で電解質膜に塗布する触媒インクを調製した。
(1)水及びn−プロピルアルコール等のアルコールの混合溶媒と、白金微粒子を表面に担持したカーボン粉末(粒径0.5〜10μm程度)と、アイオノマ粉末とを混合した。
(2)遊星式真空脱泡装置を用い、成分が均一になるように混合及び攪拌を3分間行った。
(3)(2)で得られた混合物を自己循環型ビーズミルに移し、φ2mmのジルコニアビーズを入れて15分間粉砕及び分散を行った。
(4)(3)で得られたインクの粒度分布を計測し、粉砕不足の無いことを確認した。なお、得られた触媒インクの粒子径は0.1〜1μmであった。
【0052】
次に、上記触媒インクを、ノードソン株式会社製のパルススプレイコーティング(登録商標)システムを使用し、パルススプレイ法により電解質膜上に塗布した。まず、塗布条件として材料圧力を15kPaに設定し、さらに霧化圧及びスワール圧をそれぞれ0.2MPa程度に設定した。次に、電解質膜を60℃に保温した基盤上に置いた後、上記塗布条件にて電解質膜上に触媒インクを塗布し、緻密層を作成した。この際、触媒インクの塗布量をセル部位によらず一定となるように、70mm/sの速度を基本としたスプレイノズル移動速度を微調整して塗布した。
【0053】
さらに、上記緻密層中の溶媒が残存している状態で、下層と同一の塗布条件にて上記触媒インクをさらに塗布し、乾燥することにより、凹凸層を形成した。なお、下層の触媒インクと上層の触媒インクの塗布量が同じになるように、スプレイノズルの開度と開時間を微調整した。このようにして、電解質膜上の両面に上記触媒インクを塗布し、アノード及びカソードを作製した。
【0054】
作製された実施例の電極を、走査型電子顕微鏡で観察した写真を図6に示す。図6に示すように、電解質膜に接する緻密層が膜厚5μm程度で一様に緻密な構造を持つ膜となった。さらに、上記緻密層上に塗布された触媒インクにおいては、溶媒が揮発する段階で電極粒子が凝集し、膜厚が変化した。このようにしてできた凹凸層は、凸部の高さが9〜12μmであり、最大高さRzが12μmであった。また、電極全体の厚さは、5μm〜20μmの幅を持つ触媒層となった。
【0055】
[比較例]
上記実施例で使用した触媒インクを用い、さらに実施例と同様のパルススプレイ法により触媒インクを電解質膜上に塗布して、電解質膜の両面に電極を作成した。ここで、実施例との違いは、まず、実施例と同様の塗布条件にて電解質膜上に触媒インクを塗布し、緻密層を作成したが、この際、緻密層を加熱し、緻密層の溶媒を完全に除去した。そして、溶媒が残存しておらず、固化した状態の緻密層上に、実施例1と同様の方法で上記触媒インクをさらに塗布し、乾燥することにより、凹凸層を形成した。なお、比較例の凹凸層における最大高さ(Rz)は9μm未満であった。
【0056】
[性能評価]
次の方法により、実施例及び比較例の電極の電流電圧特性(IV特性)を評価した。まず、実施例及び比較例で作製した単セルを1対のセパレータで挟み、アノードガスとして相対湿度40%の水蒸気を含む水素ガスを用い、カソードガスとして相対湿度70%の水蒸気を含む空気を用い、いずれも常圧で供給した。なお、ガスは、各電流設定において反応に必要なガス量の1.5倍量を供給した。セルの温度は80℃とし、一定の条件にて所望の電流密度に対するセルの電流値を設定し、そのときのセル電圧を測定した。電流はゼロから増加する方向に印加した。
【0057】
このようにして求めた実施例及び比較例の電極のIV曲線を図7に示す。従来法によるセルの発電性能と比較して、実施例では特に高電流域で顕著な性能向上が見られた。これは従来法によるセルに発生していたガス上流での電解質膜の乾燥と、ガス下流側における生成水の詰まり等が緩和された結果だと考えられる。
【0058】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
2 電解質膜
3 カソード
3a 緻密層
3b 凹凸層
3c 凸部
3d 凹部
11 第一電極粒子
12 第二電極粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極粒子と第一溶媒とを含有する第一触媒インクを電解質膜上に湿式塗布し、緻密層を形成する工程と、
前記緻密層に第一溶媒が残存している状態で、第二電極粒子と第二溶媒とを含有する第二触媒インクを前記緻密層上に湿式塗布し、前記第一及び第二溶媒を蒸発させることにより、凹凸層を形成する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第一触媒インク中の第一電極粒子及び第一溶媒は、前記第二触媒インク中の第二電極粒子及び第二溶媒と同じであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記第一触媒インクを塗布する際の塗布条件は、前記第二触媒インクを塗布する際の塗布条件と同じであり、
前記第一触媒インクの塗布量は、前記第二触媒インクの塗布量と同じであることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項4】
電解質膜に隣接して配置される燃料電池用電極において、
前記電解質膜に接触し、第一電極粒子を含有する緻密層と、
前記緻密層における電解質膜と接触する面と反対側の面上に一体的に形成され、第二電極粒子を含有する凹凸層と、
を備え、
前記凹凸層の表面全体に前記第二電極粒子からなる凹凸が形成されていることを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項5】
前記緻密層の厚さが3〜7μmであり、さらに前記凹凸層の表面粗さが最大高さ(Rz)で9〜12μmであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
前記緻密層中の第一電極粒子は、前記凹凸層の第二電極粒子と同じであることを特徴とする請求項4又は5に記載の燃料電池用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−29013(P2011−29013A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173986(P2009−173986)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】