説明

燃料電池用電極拡散層の製造装置および製造方法

【課題】自然乾燥によるものと比較して少なくとも同程度の通気性を有し、かつ短時間で製造可能な燃料電池用電極触媒層の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造装置は、少なくとも溶媒とバインダとを含むペースト10を、カーボン繊維12を含みシート状に成形された基材に塗布する塗布手段と、カーボン繊維を発熱させる発熱手段と、を備える。発熱手段は、基材と接触して発熱させる直接発熱手段でもよく、基材と接触せずに発熱させる間接発熱手段でもよい。直接発熱手段は、好ましくは基材のカーボン繊維に直接通電させる通電部材を備え、間接発熱手段は、好ましくは誘導加熱装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極拡散層の製造装置および製造方法に関し、詳細には、拡散層の基材として、例えばカーボン繊維のような高導電性基材を含む燃料電池用電極拡散層の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題や資源問題への対策の一つとして、酸素や空気等の酸化性ガスと、水素やメタン等の還元性ガス(燃料ガス)あるいはメタノール等の液体燃料等とを原料として電気化学反応により化学エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する燃料電池が注目されている。燃料電池は、電解質膜の一方の面に燃料極(アノード触媒層)と、もう一方の面に空気極(カソード触媒層)とを電解質膜を挟んで対向するように設け、電解質膜を挟持した各触媒層の外側に拡散層をさらに設け、これらを原料供給用の通路を設けたセパレータで挟んで電池が構成され、各触媒層に水素、酸素等の原料を供給して発電する。
【0003】
燃料電池の発電時には、燃料極に供給する原料を水素ガス、空気極に供給する原料を空気とした場合、燃料極において、水素ガスから水素イオンと電子とが発生する。電子は外部端子から外部回路を通じて空気極に到達する。空気極において、供給される空気中の酸素と、電解質膜を通過した水素イオンと、外部回路を通じて空気極に到達した電子により、水が生成する。このように燃料極及び空気極において化学反応が起こり、電荷が発生して電池として機能することになる。この燃料電池は、発電に使用される原料のガスや液体燃料が豊富に存在すること、また、上記発電原理より燃料電池から排出される物質が水であること等より、クリーンなエネルギー源として様々な検討がされている。
【0004】
ところで、この燃料電池において、空気極および燃料極に設けられた各電極拡散層は、一般にカーボンペーパーやカーボンクロス等、シート状に成形されたカーボン繊維を基材とし、所望の通気性や電子伝導性を確保するとともに、触媒層や拡散層内での水分の滞留によるフラッディングを防止するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の疎水性バインダにより処理し、疎水性を付与したものが好適に使用されている。また、必要に応じてカーボン粒子等の導電性粒子を併用し、疎水性バインダ添加による導電性低下を防止する場合もある。
【0005】
各電極拡散層の作成方法としては種々の方法があるが、例えば、疎水性バインダや、導電性粒子を、界面活性剤等の分散媒を添加して水に分散させたペーストを、シート状に成形されたカーボン繊維の片面または両面に塗布し、常温での自然乾燥により水分を蒸発させて、カーボン繊維に疎水性バインダや導電性粒子を定着させ、その後、分散媒を熱分解させるために焼成する方法が従来採られてきた。このとき、ペーストを塗布した電極拡散層を常温で自然乾燥させるのに、24時間程度要していたため、コストや手間を削減するという観点から、より短時間で乾燥させたいという要望があった。
【0006】
シート上に塗布したペーストを単に短時間で乾燥させることを目的とするのであれば、一般には、熱風乾燥により溶媒の気化を加速させる方法が、自然乾燥による方法の代替として好ましいが、これを上述のような電極拡散層の作成に採用すると、最終的に形成される拡散層の通気性が低下してしまうおそれがあった。熱風乾燥による通気性の低下には、いくつかの要因が想定されるが、主として、次のような現象によるものであると考えられている。
【0007】
ここで、ペーストを塗布した基材を用いた、電極拡散層の作製について、以下、図面に基づいて説明する。なお、各図面において同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0008】
図7は、電極拡散層の作成時における、基材14上に塗布したペースト10における、水分の蒸発の様子を模式化したものである。基材14上に塗布したペースト10は、カーボン繊維の空間内を通過可能であるため、実際には基材14の下部にも存在しているが、簡単のため省略する。
【0009】
ペースト10は、水分等の蒸発状況を考慮すると、外気に面した付近の表面16と、基材14に近い位置の内部22との二層に分けて考えることができる。表面16では、水分が直接大気中に蒸発することで、表面16の水分量が減少する。一方、内部22では、水分が表面16に向かって拡散していき、結果として内部22の水分量が減少する。
【0010】
従来の自然乾燥による場合には、ペースト10の表面16付近の乾燥は緩やかであり、ペースト10全体の水分量がほぼ一定となるよう、徐々に乾燥が進行していく。このため、乾燥時においてもほぼ一定にカーボン粒子等が分散された状態のまま保たれ、通気性を維持することができるものと考えられる。これに対し、熱風による乾燥の場合には、表面16付近から大気中に蒸発する単位時間当たりの水分量aが、内部22から表面16に向かって拡散していく単位時間当たりの水分量bに対して大きいため、表面16が内部22に優先して乾燥し、その結果、後述する図8(A)に示すカーボン繊維12間の空間18が目詰まりしてしまい、通気性が低下したものと考えることができる。図8を用いて、熱風乾燥によるペースト10の乾燥工程のメカニズムについて概説する。
【0011】
図8は、水に不溶な粒子を分散させたペースト10を、カーボン繊維12を含む基材14に塗布した状態(A)から、ペースト10中に含まれる水分を、熱風により乾燥させている状態(B)を経由し、ペースト10中に含まれる水分を、熱風60により乾燥させた状態(C)までの、電極拡散層製造時におけるペースト10の乾燥の様子を示した、概略図である。なお、図8は、シート状の基材14の断面から見た図に相当する。基材14は、簡単のためカーボン繊維12を格子状に並べた織布として模式的に示したものであり、断面形状は、図8に示すようにカーボン繊維12が所定の間隔の空間18を隔てて並んだ形状となっている。また、ペースト10において、水に分散した導電性粒子やバインダ、および分散媒については簡単のため図示していない。
【0012】
図8に示したような熱風乾燥の場合には、熱風60にさらされたペースト10の表面16からの水分の蒸発が促進される。したがって、ペースト10に分散している図示しない固形分の、ペースト10の表面16付近での濃度が急速に高まり、ペースト10の表面16に、あたかも皮膜が形成されたかのように固形分が凝集しながら乾燥する。このため、状態(C)に示したように、ペースト10の表面16付近において凝集して皮膜状となった固形分により、カーボン繊維12間の空間18に充填されたペースト10中の水分蒸発が阻害され、ペースト10中のバインダ等の濃度増加に伴うペースト10の見かけの体積収縮が生じにくくなる。一旦、空間18におけるペースト10の見かけの体積未収縮が生じると、その形状はほとんど変化せずに空間18が閉塞した状態のまま乾燥が終了してしまうため、熱風乾燥により得られた電極拡散層の通気性が低下するものと考えられる。
【0013】
ところで、燃料電池用の電極を作製する際の乾燥手段の適用について、以下に示す特許文献に記載されている。特許文献1には、燃料電池用電極の製造方法に関し、一方の電極層、イオン交換膜、他方の電極層を積層させた状態において、電磁波加熱(遠赤外線加熱)により、イオン交換膜内部を効率よく、速やかに加熱乾燥させる方法について開示されている。
【0014】
また、特許文献2には、燃料電池の触媒層等の塗膜シートを乾燥させる際に、赤外線ヒータを適用する乾燥方法について開示されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−346821号公報
【特許文献2】特開2004−71472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1、2においては、熱風により乾燥させる場合と比較すると、ガス流路の閉塞は抑制されるものの、ガス流路の確保という観点での積極的な検討がなされておらず、また微視的に見るとペースト中の熱の分布に偏りがあるとも考えられ、やはり常温での自然乾燥と比較すると通気性に乏しいと考えられる。
【0017】
本発明はかかる課題に鑑み、従来の自然乾燥によるものと比較して少なくとも同程度の通気性を有し、かつ短時間で製造可能な燃料電池用電極触媒層の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、燃料電池用電極拡散層の製造装置であって、少なくとも溶媒とバインダとを含むペーストを、カーボン繊維を含みシート状に成形された基材に塗布する塗布手段と、カーボン繊維を発熱させる発熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、上記燃料電池用電極拡散層の製造装置において、発熱手段は、好ましくは基材に接触して発熱させる直接発熱手段である。
【0020】
また、上記燃料電池用電極拡散層の製造装置において、発熱手段は、基材に非接触で発熱させる間接発熱手段であってもよい。
【0021】
上記燃料電池用電極拡散層の製造装置において、直接発熱手段は、好ましくは基材に直接通電させる通電部材を備える。
【0022】
上記燃料電池用電極拡散層の製造装置において、間接発熱手段は、好ましくは誘導加熱装置を備える。
【0023】
また、上記燃料電池用電極拡散層の製造装置において、さらに、焼成手段を備えてもよい。
【0024】
また、本発明は、燃料電池用電極拡散層の製造方法であって、少なくとも溶媒とバインダとを含むペーストを、カーボン繊維を含みシート状に成形された基材に塗布する塗布工程と、カーボン繊維を発熱させる発熱工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
上記燃料電池用電極拡散層の製造方法において、発熱工程は、好ましくは基材に接触して発熱させる直接発熱工程である。
【0026】
上記燃料電池用電極拡散層の製造方法において、発熱工程は、基材に非接触で発熱させる間接発熱工程であってもよい。
【0027】
上記燃料電池用電極拡散層の製造方法において、直接発熱工程は、好ましくは基材のカーボン繊維に直接通電させる通電工程を含む。
【0028】
また、上記燃料電池用電極拡散層の製造方法において、間接発熱工程は、好ましくは誘導加熱工程である。
【0029】
上記燃料電池用電極拡散層の製造方法において、上記発熱工程にて、さらにカーボン繊維の隣接する繊維間に、孔を形成してもよく、またさらに、焼成工程を有してもよい。
【0030】
さらに、本発明の燃料電池用電極拡散層は、上記方法により製造されたものであって、本発明の燃料電池は、上記電極拡散層を含む。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、通気性良好な燃料電池用電極拡散層を短時間で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施の形態について、以下、図面に基づいて説明する。なお、各図面において同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
上述したように、燃料電池の電極拡散層を作製する際には、カーボン繊維を使用して、通気性を有し、厚さが約100μm〜約300μm程度の、例えばカーボンクロスやカーボンペーパー等、シート状に成形されたものが基材として好適に使用される。このとき使用される基材の通気性は、酸化性ガスや燃料ガス等が通過できるものであればよく、特に限定されないが、高い導電性を同時に有する必要があるため、例えば、基材の厚さ方向の透気度が約1×10−4〜約10×10−4m/(Pa・sec)程度、基材の面方向への電気抵抗が約5〜約20mΩ・cmのものが好適に使用される。このとき、カーボン繊維の太さは、成形方法によりばらつきがあるものの、約1μm〜約10μm程度であり、また隣接するカーボン繊維により形成された空間の大きさは、成形方法によりばらつきがあるものの、平均すると、好ましくは外寸約10μm〜約50μm程度であるが、これに限定しない。
【0034】
この基材に、導電性粒子および疎水性バインダが分散されたペーストを塗布する。導電性粒子の大きさは、外寸約0.1μm〜約10μm程度であるのが好ましく、例えば、デンカブラック(商品名)等の高導電性カーボン粒子が好適に使用される。また、疎水性バインダの大きさは、ペースト分散・塗布時には外寸約0.1μm〜約10μm程度であるのが好ましいが、一般に、高温領域、例えば、約320℃以上になると溶融し、変形するため、これに限らない。必要に応じて使用される分散媒は、導電性粒子や疎水性バインダを水に分散させることができるものであればいかなるものを使用してもよいが、例えば界面活性剤等のような、水溶性であって、高温にすることで容易に熱分解されるものが好ましい。
【0035】
基材に対する疎水性バインダの塗布量は、燃料電池用電極拡散層として使用される際に、水の排出が速やかに行なわれればよく、特に限定されないが、例えば、基材の重量に対し、約30〜約70%程度のPTEFが基材に残留するように塗布される。また、基材に対する導電性粒子の塗布量は、疎水性バインダの添加による導電性低下の影響を緩和すればよく、必要に応じて適宜添加すればよいが、例えば、基材の重量に対し、約50〜約80%程度の高導電性カーボン粒子が基材に残留するように塗布される。
【0036】
先に説明した図7において、基材14にペースト10を塗布した後に燃料電池用電極拡散層を得る本発明の実施の形態においては、表面16付近から大気中に蒸発する単位時間当たりの水分量aを、内部22から表面16に向かって拡散していく単位時間当たりの水分量bに対して少なくなるようにするとよい。これにより、表面16付近の乾燥を防ぐことができるため、表面16に被膜が形成されず、通気性良好な電極拡散層を得ることができると考えられる。
【0037】
ここで、表面16付近から大気中に蒸発する水分量aを、内部22から表面16に向かって拡散していく水分量bに対して少なくするには、大きく分けて二つの方法が考えられる。まず、第1の方法は、表面16に接している大気の湿度を高くして、表面16付近から大気中に蒸発する水分量aを小さくする方法である。しかしながら、この方法によれば、自然乾燥よりもさらに乾燥時間が長くなってしまうため、好ましくない。そこで、第2の方法として、内部22から表面16に向かって拡散していく水分量bを増加させるために、ペースト10の内部22の温度を上昇させる方法について検討した。
【0038】
基材14にペースト10を塗布した状態における全体の厚さは、約100〜約350μm程度と薄く、そのうちペースト10自身の厚さはほとんどないため、単純にペースト10の内部22の温度を、表面16に優先させて上昇させるために、例えば、ヒータ等を直接接触させて加熱する等の方法を行なおうとすると、非常に微細な装置を必要とし、容易でない。そこで、カーボン繊維12を発熱させることによりカーボン繊維12の温度をペースト10に先んじて上昇させ、カーボン繊維12に近接する内部22の温度を上昇させる方法を採用した、カーボン繊維12およびペースト10を含む電極拡散層が形成される状態について、以下に説明する。
【0039】
図1は、水に不溶な粒子を分散させたペースト10を、カーボン繊維12を含む基材に塗布した状態(A)から、本発明の実施の形態として、カーボン繊維12を発熱させている状態(B)を経由し、ペースト10中に含まれる水分を乾燥させた状態(C)までの、電極拡散層製造時におけるペースト10の水分乾燥の様子を示した、概略図である。なお、状態(B)、(C)における乾燥の状態を除いて、あとは図8に示した概念図と同様である。
【0040】
図1に示したような本実施の形態の場合には、状態(B)に示したように、発熱したカーボン繊維12から、ペースト10の内部に熱が伝わって温度が上昇していき、ペースト10の内部から表面に向けて水分の移動が促進される。このため、カーボン繊維12に近接する部分において、ペースト10中のバインダ等の濃度が高まってペースト10の見かけの体積収縮が生じ、カーボン繊維12の周囲に、固形分が凝集するようにして乾燥する。このため、状態(C)に示したように、ペースト10がカーボン繊維12の周囲において凝集した固形分により、カーボン繊維12間の空間18の一部に孔20が形成され、その後、次第にペースト10の表面に向けて乾燥が進行する。また、状態(A)におけるカーボン繊維12間の空間18の幅Dは、水分の蒸発に伴いカーボン繊維12もまた収縮するため、状態(C)においては、空間18の幅はdとなる。一旦形成された孔20は、閉塞されることなく乾燥終了まで保持され、本発明により最終的に得られる電極拡散層の通気性が向上するものと想定される。なお、一般には、D>dとなるが、これに限定されず、例えば、D=dでもよい。
【0041】
ところで、カーボン繊維12を含む基材14は、導電性が高く、基材面方向の電気抵抗は約5〜約20mΩ・cm程度であるのに対し、ペースト10は、そのほとんどが水であるため、電気抵抗が大きく、約1×10〜約10×10mΩ・cm程度であって、基材14と比較すると導電性が低い。この性質を利用して、特に以下の方法により、基材14を発熱させることが好適である。
【0042】
本発明の実施の形態として、ペースト10を塗布した基材14を有する電極拡散層作製の際に基材14を発熱させるには、誘導加熱方式を適用するのが好ましい。ここで、誘導加熱とは、一般に交流電源に接続されたコイル等を用いて発生させた磁場によって導体内に渦電流が流れ、これにより導体が渦電流に沿うように発熱するという原理を利用したものである。本発明の電極拡散層の製造においては、上述のように基材14の導電性を、ペースト10の導電性より高くなるように条件設定しているため、誘導加熱により基材14を発熱させることが可能である。また誘導加熱装置自身は、ペースト10ばかりでなく、基材14にも直接接触させる必要がないため、電極拡散層が変形するおそれも少なく、有効な手法である。
【0043】
図2は、本発明の実施の形態における、誘導加熱方式を適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。シート状の基材にペーストを塗布した電極拡散層24を、コンベア52のような搬送手段を用いて矢印の方向に送る。搬送された電極拡散層24の上下に対をなしているコイルユニット26それぞれには、図示しない高周波発振器に接続された、図示しないコイルが、フェライトや、ケイ素鋼板等を材料とする、図示しないコアとともに備えられており、高周波発振器を作動させることにより、被処理の発熱部位28において、基材のカーボン繊維を発熱させる。高周波発振器からの出力や周波数は、諸条件により異なるが、好ましくは、約0.1〜約100kW程度、周波数は、約10〜約500kHz程度であり、このとき、コイル電流は、好ましくは約10〜約100A Rms程度である。
【0044】
なお、基材全体を均一に発熱させるためには、ペーストを塗布した基材と誘導加熱装置による発熱部位28との相対位置を所定の速度で移動させる移動手段を備えることが好ましいが、上述したようなコンベア52を用いることに限定されず、例えば、コイルユニット26を所定の速度で移動させるようにしてもよい。基材と、発熱部位28との相対的な移動速度は、1メートル/分以上、好ましくは約1メートル/分〜約10メートル/分程度である。1メートル/分よりも遅いと乾燥時間の延長に繋がるため、好ましくない。また、例えば、電極拡散層24の大きさに対して発熱部位28の方が大きい等の理由により、発熱部位28において基材を均一に発熱させることができるのであれば、移動手段はなくてもよい。
【0045】
コイルの材質は、銅製の中空形状のパイプが好適に使用されるが、例えば、アルミパイプや、中実の銅線等を使用してもよい。また、コイルの形状は、基材に対して所望の渦電流を生じさせ、発熱させるものであればいかなる形状のものでもよい。
【0046】
また、図示しないコイルを含むコイルユニット26は、図2に示すように必ずしも上下に備えることを要さず、どちらか一方でもよい。さらに、複数のコイルユニット26を電極拡散層24の搬送方向50に沿って直列に備えてもよい。
【0047】
また、本発明の他の実施の形態として、基材のカーボン繊維に直接交流または直流電圧を印加させ、通電させることによりカーボン繊維を発熱させる通電手段を用いた方法も有効である。なお、本実施の形態で使用される通電手段としては、通電ローラやクランプ等を用いて通電させる、簡易なものでよい。
【0048】
図3は、本発明の実施の形態において、通電手段として通電ローラ30を適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。先に述べたように、ペーストは、カーボン繊維の空間およびカーボン繊維面に塗布されるため、通電ローラ30と、基材とを当接させるためには、通電ローラ30との接触部分として、予め基材上にペーストを塗布しない、未塗布部分32,34を残しておくとよい。
【0049】
図3において、通電ローラ30は、図示しない支持部に対し、矢印の方向に回転可能に軸支されている。また、通電ローラ30は、交流または直流、好ましくは交流の電源装置36に接続されており、電極拡散層24の、ペースト塗布部分を挟むように設けられた未塗布部分32,34双方に当接した通電ローラ30により、未塗布部分32,34を含む基材に電圧が印加され、通電ローラとの接触部を含む、発熱部位38内に位置する基材が発熱する。電極拡散層24を所定の速度で移動させることにより、基材全体を発熱させることが可能となる。通電ローラ30は、金属製のものであればいかなるものを用いてもよいが、少なくとも基材と当接する部分については、金メッキ等を施し、接触抵抗を低減することが好ましい。また、通電ローラ30により基材に印加される電圧は、好ましくは約1〜約100ボルト程度であり、また電極拡散層24の移動速度は、好ましくは、約1〜約100メートル/分程度であるがこれに限らず、基材の発熱をほぼ一定に行なうことができるのであれば特に制約されない。
【0050】
図4は、本発明の他の実施の形態において、通電手段としてクランプを適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。基材にペーストを塗布した電極拡散層24において、両端にペーストの未塗布部分40,42を設け、双方をクランプ形状の電極44,46で挟持する。電極44,46は、交流または直流、好ましくは交流の電源装置48に接続されており、電極拡散層24の、ペースト塗布部分を挟んだ両端の未塗布部分40,42双方を挟持した電極44,46により、基材全体に電圧が印加され、発熱する。このとき印加される電圧は、好ましくは約1〜約100ボルト程度である。本実施の形態においては、電極44,46により挟持された電極拡散層24により、基材全体を一度に発熱させ、電極拡散層24を作製することが可能であるため、好ましく、電極44,46で挟持する電極拡散層24の幅が約10〜約100cm程度の電極拡散層24の作製において、特に好適に採用することができる。
【0051】
上述したように、本発明の各実施の形態において、基材を発熱させることによりペーストに含まれる水分を蒸発させるため、必要に応じて蒸気を外部へ排出させる機構を設けてもよい。また、ペーストには、必ずしも水を含む必要はなく、揮発性の溶媒であればいかなるものを用いてもよい。
【0052】
本発明の実施の形態において、上述の各方法によるペースト塗布後の水分除去の後、好ましくは、焼成装置によって焼成が行われる。この焼成の工程は、主としてペーストに含まれる界面活性剤等の分散媒を分解除去することを目的としており、約320〜約380℃の高温で、約10分〜約20時間程度行なわれる。例えば、ペーストに分散媒が含まれていない場合や、水分を除去する際に同じ装置を用いて分散媒の熱分解も同時に行なうことが可能な場合には、焼成工程は必要なく、省くことができる。
【実施例】
【0053】
[透気度の測定]
透気度は、試料(ここではカーボンペーパー)に乾燥窒素ガスを一定流量で通過させたときの圧力損失を測定することによって得られるものであり、具体的には、次のようにして行なった。
【0054】
直径51.5mmの円形に加工した被験試料を準備し、3.925cmの透過面積を確保させつつ、Oリングでシールした通気ブロックにより、面の両方向から1260ニュートンの荷重を加えて挟持した。ガス流量を一定としたときの圧力損失を圧力計により測定し、以下の数式を用いて透気度を算出した。ガス流量は、1.0リットル/分、2.0リットル/分、3.0リットル/分(1リットル/分は、1/60 dm/sec)の3条件で測定し、得られた値の平均値を被験試料の透気度とした。
【0055】
[数1]
透気度[m/(Pa・sec)]=流量(m/sec)/圧力損失(Pa) × 1/透過面積(m)
【0056】
[基材の選定]
基材として、15cm×15cm角のカーボンペーパー(カーボンペーパー TGP−H−060、東レ株式会社製)を使用した。このカーボンペーパーの、面方向への電気抵抗は、5.8mΩ・cmであり、厚さは0.19mm、厚さ方向への透気度は、500×10−6m/(Pa・sec)程度であった。
【0057】
[ペーストの調製]
また、ペーストとして、カーボン粒子(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)10重量%、PTFE粒子(31−3、三井デュポンフロロケミカル株式会社製)7重量%、界面活性剤適量を水に混合分散させて、全量を100とした。このペーストの電気抵抗を測定すると、6.9×10mΩ・cmであった。
【0058】
[ペーストの塗布]
PTFE製のアプリケータフレームを用い、塗布クリアランスを0μmに調整して、ペーストを基材上に塗布し、これを電極拡散層材料とし、以下の方法により電極拡散層を作製した。
【0059】
[誘導加熱方式の導入]
図5に、今回使用した装置の概略を示した。銅製の中空コイル(外径4mm、内径3mm)を用い、図5に示したように2巻き配置し、使用した。外側コイル54の直径は7cm、内側コイル56の直径は3cmとした。コイル54、56の上方10mmの位置に電極拡散層材料を保持し、高周波発振器により発振される周波数は316kHzに設定した。1分間、高周波を発振させ、このとき、コイルを流れる電流は52.5A Rmsであった。基材の発熱により蒸発する水蒸気は、図示しない排気ダクトにより吸引した。
【0060】
[焼成および評価]
焼成炉を用いて、360℃、14時間の焼成を行った。焼成後、放冷し、得られた電極拡散層の透気度および電気抵抗を測定した。基材の測定と同様の方法により測定を行なった結果、透気度は135×10−6〜175×10−6m/(Pa・sec)程度であった。
【0061】
[比較例]
誘導加熱方式の導入に替えて温風乾燥することを除いて、あとは実施例1と同様にして電極拡散層を作製した。温風乾燥は、80℃の温風を基材の上方より1分間当てて、乾燥させた。その後焼成、放冷し、得られた電極拡散層の透気度および電気抵抗を測定した。基材の測定と同様の方法により測定を行なった結果、透気度は95×10−6〜145×10−6m/(Pa・sec)程度であった。
【0062】
[参考例]
誘導加熱方式の導入に替えて自然乾燥することを除いて、あとは実施例1と同様にして電極拡散層を作製した。自然乾燥は、常温にて24時間放置し、乾燥させた。その後焼成、放冷し、得られた電極拡散層の透気度および電気抵抗を測定した。基材の測定と同様の方法により測定を行なった結果、透気度は130×10−6〜170×10−6m/(Pa・sec)程度であった。
【0063】
実施例(A)、比較例(B)および参考例(C)により得られた電極拡散層の透気度について、図6にまとめた。本実施例によれば、従来の温風乾燥を行なう場合と比較して高い透気度を確保することができ、自然乾燥による場合と同等の電極拡散層を、短時間で得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、燃料電池の電極拡散層およびこれを使用する燃料電池の作製に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】電極拡散層の作製時における、本発明の実施の形態におけるペースト10の乾燥の様子を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態における、誘導加熱方式を適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態において、通電手段として通電ローラ30を適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。
【図4】本発明の他の実施の形態において、通電手段としてクランプを適用した電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。
【図5】本発明の実施例における電極拡散層作製装置の構成の概略を示す図である。
【図6】実施例(A)、比較例(B)および参考例(C)により得られた電極拡散層の透気度についてまとめたグラフである。
【図7】電極拡散層の作製時における、基材14上に塗布したペースト10における、水分の蒸発の様子を模式化した図である。
【図8】電極拡散層製造時における、従来の熱風乾燥を利用したペースト10の乾燥の様子を示す概略図である。
【符号の説明】
【0066】
10 ペースト、12 カーボン繊維、14 基材、16 表面、18 空間、20 孔、22 内部、24 電極拡散層、26 コイルユニット、28,38 発熱部位、30 通電ローラ、32,34,40,42 未塗布部分、36,48 電源装置、44,46 電極、50 搬送方向、52 コンベア、54 外側コイル、56 内側コイル、60 熱風。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも溶媒とバインダとを含むペーストを、カーボン繊維を含みシート状に成形された基材に塗布する塗布手段と、
前記カーボン繊維を発熱させる発熱手段と、
を備える、燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項2】
前記ペーストは、前記カーボン繊維と比較して、電気抵抗が大きい、請求項1に記載の燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項3】
前記発熱手段は、前記基材と接触して発熱させる直接発熱手段である、請求項1または2に記載の燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項4】
前記発熱手段は、前記基材と接触せずに発熱させる間接発熱手段である、請求項1または2に記載の燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項5】
前記直接発熱手段は、前記カーボン繊維に直接通電させる通電部材を備える、請求項3に記載の燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項6】
前記間接発熱手段は、誘導加熱装置を備える、請求項4に記載の燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の製造装置において、
さらに、焼成手段を備える、燃料電池用電極拡散層の製造装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の装置により製造される、燃料電池用電極拡散層。
【請求項9】
少なくとも溶媒とバインダとを含むペーストを、カーボン繊維を含みシート状に成形された基材に塗布する塗布工程と、
前記カーボン繊維を発熱させる発熱工程と、
を有する、燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項10】
前記発熱工程は、前記基材に接触して発熱させる直接発熱工程である、請求項9に記載の燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項11】
前記発熱工程は、前記基材に非接触で発熱させる間接発熱工程である、請求項9に記載の燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項12】
前記直接発熱工程は、前記基材のカーボン繊維に通電させる通電工程を含む、請求項10に記載の燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項13】
前記間接発熱工程は、誘導加熱工程である、請求項11に記載の燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載の製造方法において、
前記発熱工程にて、さらにカーボン繊維の隣接する繊維間に、孔を形成する、燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか1項に記載の燃料電池用電極拡散層の製造方法において、
さらに、焼成工程を有する、燃料電池用電極拡散層の製造方法。
【請求項16】
請求項9から15のいずれか1項に記載の方法により製造される、燃料電池用電極拡散層。
【請求項17】
請求項8または16に記載の電極拡散層を含む、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−59246(P2007−59246A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244218(P2005−244218)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】