説明

燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法

【課題】簡単な工程で、多孔質拡散層を高精度に位置決めすることができ、高品質な電解質膜・電極構造体を効率的且つ確実に製造することを可能にする。
【解決手段】電解質膜・電極構造体10の製造方法は、ロール状に巻回された長尺状のガス拡散層28a、28bの外周縁部に位置決め部を設ける工程と、前記位置決め部を基準にして、前記ガス拡散層28a、28bの表面に下地層26a、26bを塗布する工程と、前記位置決め部を基準にして、一対の前記ガス拡散層28a、28bの間に固体高分子電解質膜18を挟持して積層体を得る工程と、前記積層体をホットプレスすることにより、一対の前記ガス拡散層28a、28bと前記固体高分子電解質膜18とを一体化させる工程と、前記ガス拡散層28aの外周縁部70を、予め設けられた分離部位から切り離す工程と、一体化された前記積層体の外周トリミング部を、前記位置決め部を含んで除去する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられ、前記電極触媒層の外側に一対の多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ触媒層(電極触媒層)とガス拡散層(多孔質カーボン)とからなるアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。通常、この燃料電池を所定数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の電解質膜・電極構造体では、固体高分子電解質膜の表面積が、この固体高分子電解質膜の両面に積層されているガス拡散層の表面積よりも大きく構成され、前記固体高分子電解質膜の外周端面が各ガス拡散層の外周端面よりも外方に突出する膜突出型MEAや、一方のガス拡散層が固体高分子電解質膜よりも小さな表面積に設定され、他方のガス拡散層が前記固体高分子電解質膜と同一の表面積に設定される、所謂、段差型MEAを構成する場合がある。
【0004】
このため、電解質膜・電極構造体を製造する際に、それぞれ寸法の異なる固体高分子電解質膜とガス拡散層とを互いに位置決めして接合する必要がある。従って、電解質膜・電極構造体の製造作業が煩雑化している。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている作製方法が知られている。この作製方法は、図16に示すように、位置決め用のガイドピン1aが四隅に設けられた平板状の第1治具1の上面に、前記ガイドピン1aを挿通させるための孔2aが四隅に設けられ、中央部に触媒層付きガス拡散層を配するための開口2bが形成された第1枠体2が配設されている。第1枠体2の開口2bには、電極触媒付きガス拡散層である第1電極3が配設されている。
【0006】
そして、第1電極3の上面から第1枠体2の上面まで延在して、電解質膜4が配設された後、前記電解質膜4には、第2電極5が第2枠体6を介して配設されている。この第2枠体6には、ガイドピン1aが挿入される孔6aが四隅に設けられるとともに、中央には、第2電極5が配設される開口6bが形成されている。
【0007】
さらに、第2枠体6には、第2治具7が積層されるとともに、この第2治具7の四隅に設けられている孔7aに、ガイドピン1aが挿入されている。第1治具1と第2治具7とにより、第1電極3、電解質膜4及び第2電極5が挟持された後、ホットプレスによってこれらが一体に接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−303627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1では、第1電極3及び第2電極5は、それぞれ第1治具1に対して4本のガイドピン1aを介して配設される第1枠体2及び第2枠体6を介して位置決めされている。このため、実際上、第1枠体2の4つの孔2aにそれぞれガイドピン1aを挿入して、前記第1枠体2を第1治具1上に配置する作業と、第2枠体6の4つの孔6aに各ガイドピン1aを挿入して、前記第2枠体6を電解質膜4上に配置する作業とが必要となっている。
【0010】
従って、前記第1及び第2枠体2、6の着脱作業は、相当に煩雑化するという問題がある。これにより、MEAの製作作業に相当の時間を要してしまい、効率的な作製作業が遂行されないという問題がある。
【0011】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、多孔質拡散層を高精度に位置決めすることができ、高品質な電解質膜・電極構造体を効率的且つ確実に製造することが可能な燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられ、前記電極触媒層の外側に一対の多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法に関するものである。
【0013】
この製造方法は、ロール状に巻回された長尺状多孔質拡散層を繰り出して、前記長尺状多孔質拡散層に位置決め部を設ける工程と、前記位置決め部を基準にして、前記長尺状多孔質拡散層の表面に電極触媒層に接合される下地層を塗布する工程と、ロール状に巻回された長尺状固体高分子電解質膜を繰り出して、前記位置決め部を設けるとともに、両面に前記電極触媒層を塗布する工程と、前記位置決め部を基準にして、一対の前記長尺状多孔質拡散層の間に前記長尺状固体高分子電解質膜を挟持して互いに位置決めすることにより、積層体を得る工程と、前記位置決め部を基準にして、前記積層体にホットプレス処理を施すことにより、一対の前記長尺状多孔質拡散層と前記長尺状固体高分子電解質膜とを連続的に一体化させる工程と、一体化された前記積層体を、前記燃料電池用電解質膜・電極構造体の外形寸法に倣って切断する工程と、切断された少なくとも一方の前記長尺状多孔質拡散層の外周縁部を、予め設けられた分離部位に沿って切り離すとともに、切断された前記積層体の外周トリミング部を、前記位置決め部を含んで除去する工程とを有している。
【0014】
また、この製造方法では、分離部位は、少なくとも一方の長尺状多孔質拡散層に断続的又は連続的に設けられた切り込み形状を有することが好ましい。
【0015】
さらに、この製造方法では、多孔質拡散層の外周縁部となる部位に位置決め部を設けると同時に、少なくとも一方の前記多孔質拡散層の外周縁部となる部位に、後に切り離される分離部位を設けることが好ましい。
【0016】
さらにまた、この製造方法では、位置決め部は、少なくとも2つの孔部を有することが好ましい。
【0017】
また、この製造方法では、位置決め部は、長尺状多孔質拡散層及び長尺状固体高分子電解質膜の送り方向に交差する幅方向の両端縁部に、それぞれ所定の間隔ずつ離間して設けられるスプロケット係合用孔部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ロール状の長尺状多孔質拡散層及びロール状の長尺状固体高分子電解質膜が用いられるとともに、前記長尺状多孔質拡散層及び前記長尺状固体高分子電解質膜には、それぞれ位置決め部が設けられている。このため、位置決め部を基準にして、長尺状多孔質拡散層及びロール状の長尺状固体高分子電解質膜に対し種々の工程が連続的に且つ高精度に遂行可能になる。
【0019】
これにより、簡単な工程で、長尺状多孔質拡散層及び長尺状固体高分子電解質膜を高精度に位置決めすることができ、高品質な電解質膜・電極構造体を効率的且つ確実に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る製造方法が適用される電解質膜・電極構造体が組み込まれる固体高分子型燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面説明図である。
【図3】前記電解質膜・電極構造体の一部断面説明図である。
【図4】アノード側長尺状カーボンペーパの製造ラインの説明図である。
【図5】カソード側長尺状カーボンペーパの製造ラインの説明図である。
【図6】前記アノード側長尺状カーボンペーパの説明図である。
【図7】前記カソード側長尺状カーボンペーパの説明図である。
【図8】下地層印刷工程の説明図である。
【図9】接着層印刷工程の説明図である。
【図10】長尺状固体高分子電解質膜の製造ラインの説明図である。
【図11】長尺状積層体の製造ラインの説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体の製造方法において、前記アノード側長尺状カーボンペーパの製造ラインの説明図である。
【図13】前記カソード側長尺状カーボンペーパの製造ラインの説明図である。
【図14】前記長尺状固体高分子電解質膜の製造ラインの説明図である。
【図15】前記長尺状積層体の製造ラインの説明図である。
【図16】特許文献1に開示されたMEAの作製方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る製造方法が適用される電解質膜・電極構造体10が組み込まれる固体高分子型燃料電池12は、前記電解質膜・電極構造体10を挟持する第1及び第2セパレータ14、16を備える。第1及び第2セパレータ14、16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板や、カーボン部材等で構成されている。
【0022】
図2及び図3に示すように、電解質膜・電極構造体10は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18と、前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード側電極20及びカソード側電極22とを備える。
【0023】
アノード側電極20は、固体高分子電解質膜18及びカソード側電極22よりも小さな表面積を有する。なお、アノード側電極20とカソード側電極22とは、同一の表面積であってもよく、また、前記カソード側電極22が前記アノード側電極20よりも小さな表面積を有していてもよい。
【0024】
アノード側電極20は、図3に示すように、固体高分子電解質膜18の一方の面18aに配置されるとともに、前記固体高分子電解質膜18の外周を額縁状に露呈させる。カソード側電極22は、上記のアノード側電極20と同様に、固体高分子電解質膜18の他方の面18bに配置される。
【0025】
アノード側電極20及びカソード側電極22は、固体高分子電解質膜18の両方の面18a、18bに接合される電極触媒層24a、24bと、前記電極触媒層24a、24bに下地層26a、26bを介して積層されるガス拡散層(多孔質拡散層)28a、28bと、前記固体高分子電解質膜18に前記ガス拡散層28a、28bを接合する接着層29a、29bとを設ける。
【0026】
電極触媒層24a、24bは、カーボンブラックに白金粒子を担持した触媒粒子を含み、イオン導伝性バインダーとして高分子電解質を使用し、この高分子電解質の溶液中に前記触媒粒子を均一に混合して作製された触媒ペーストを、固体高分子電解質膜18の両面に印刷、塗布又は転写することによって構成される。高分子電解質としては、例えば、デュポン社製のナフィオンが用いられる。
【0027】
下地層26a、26bは、カーボンブラック及びFEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体)粒子とカーボンナノチューブをペースト状にした後、ガス拡散層28a、28bに塗布される。ガス拡散層28a、28bは、カーボンペーパ等からなる。
【0028】
ガス拡散層28bの平面は、ガス拡散層28aの平面よりも大きく設定されるとともに、前記ガス拡散層28bは、電極触媒層24b及び下地層26bの外周端面から突出して固体高分子電解質膜18の他方の面18b全体を覆う。ガス拡散層28aの外周端面には、後述するように、固体高分子電解質膜18にホットプレスにより一体化された後、外周縁部70が切り離された分離面66aが形成される。
【0029】
図1に示すように、燃料電池12の矢印B方向(図1中、水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔32a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔34bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0030】
燃料電池12の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔34a、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔32b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0031】
第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体10に向かう面16aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路36が設けられる。
【0032】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体10に向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路38が形成される。第1セパレータ14の面14bと第2セパレータ16の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとに連通する冷却媒体流路40が形成される。
【0033】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材42が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材44が一体化される。
【0034】
図2に示すように、第1シール部材42は、電解質膜・電極構造体10の外部に露呈する固体高分子電解質膜18に当接する第1凸状シール42aと、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間に介装される第2凸状シール42bとを有する。第2シール部材44は、平面シールを構成する。なお、第2凸状シール42bに代えて、第2シール部材44に凸状シール(図示せず)を設けてもよい。
【0035】
第1及び第2シール部材42、44には、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0036】
図1に示すように、第1セパレータ14には、燃料ガス入口連通孔34aを燃料ガス流路38に連通する複数の供給孔部46と、前記燃料ガス流路38を燃料ガス出口連通孔34bに連通する複数の排出孔部48とが形成される。
【0037】
このように構成される燃料電池12において、電解質膜・電極構造体10を製造する方法について、以下に説明する。
【0038】
先ず、図4及び図5に示すように、ガス拡散層28a、28bを構成する基材としてロール状カーボンペーパ50a(roll)、50b(roll)が用意される。図4に示すように、アノード側のロール状カーボンペーパ50a(roll)からアノード側長尺状カーボンペーパ(長尺状多孔質拡散層)50aが繰り出されるとともに、前記アノード側長尺状カーボンペーパ50aの搬送方向(矢印T方向)に沿って、後述するようにアノード側電極20のガス拡散層28aの外径寸法に沿ってミシン目である分離部位66及び前記ガス拡散層28aの外部領域に対応して位置決め部68a、68bを設けるミシン目及び加工工程52、下地層印刷工程54及び接着層印刷工程56が、順次、設けられる。
【0039】
図5に示すように、カソード側のロール状カーボンペーパ50b(roll)からカソード側長尺状カーボンペーパ(長尺状多孔質拡散層)50bが繰り出されるとともに、前記カソード側長尺状カーボンペーパ50bの搬送方向(矢印T方向)に沿って、後述するようにカソード側電極22のカソード側長尺状カーボンペーパ50bに位置決め部68a、68bを設ける加工工程58、下地層印刷工程60及び接着層印刷工程62が、順次、設けられる。
【0040】
ミシン目及び加工工程52では、加工型、例えば、ピナクルダイ64によるアノード形状ミシン目加工と組み立て基準加工の同時加工が行われる。なお、ピナクルダイ64に代えて、例えば、トムソン刃等を使用してもよい。ピナクルダイ64は、図示しないが、一対の両刃とミシン刃とを備え、アノード側長尺状カーボンペーパ50aにアノード側の加工処理が施される。
【0041】
このため、図6に示すように、アノード側長尺状カーボンペーパ50aには、ガス拡散層28aの外径寸法に沿ってミシン刃による分離部位66が設けられると同時に、前記ガス拡散層28aの外部領域(トリミングラインの外方)に対応して複数、例えば、2つの孔部である位置決め部68a、68bが一対の両刃により形成される。
【0042】
分離部位66は、例えば、アノード側長尺状カーボンペーパ50aの厚さ方向に断続的に切り欠いて形成されるミシン目を有する。なお、後述するように、ホットプレス処理後に、外周縁部70を分離部位66から切り離すことができるものであればよく、種々の構成が採用可能である。
【0043】
一方、図5に示すように、カソード側の加工工程58では、加工型、例えば、ピナクルダイ72による組み立て基準加工の同時加工が行われる。カソード側のピナクルダイ72は、一対の両刃を備え、カソード側長尺状カーボンペーパ50bにカソード側の加工処理が施される。従って、図7に示すように、カソード側長尺状カーボンペーパ50bには、製品形状を構成するトリミングライン74の外方に対応して複数、例えば、2つの位置決め部68a、68bが一対の両刃により形成される。
【0044】
アノード側長尺状カーボンペーパ50a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bには、それぞれの表面に撥水液による撥水化処理が施される。
【0045】
次いで、アノード側長尺状カーボンペーパ50aは、図8に示すように、下地層印刷工程54に移送される。アノード側長尺状カーボンペーパ50aは、静電吸着テーブル78上に保持されるとともに、前記アノード側長尺状カーボンペーパ50aに設けられている位置決め部68a、68bがカメラ(図示せず)により撮影される。このため、スクリーン印刷装置80は、位置決め部68a、68bを認識する。
【0046】
スクリーン印刷装置80は、認識した位置決め部68a、68bを基準にして、静電吸着テーブル78とスクリーン82との相対位置を調整する。そして、ペースト84がスキージ86を介して印刷処理される。これにより、アノード側長尺状カーボンペーパ50aには、電極触媒層24aの領域内に対応して撥水剤とカーボン粒子の混合物からなる下地層26aが塗布される。
【0047】
下地層26aが塗布されたアノード側長尺状カーボンペーパ50aは、図9に示すように、接着層印刷工程56に移行される。アノード側長尺状カーボンペーパ50aは、静電吸着テーブル88上に保持されるとともに、前記アノード側長尺状カーボンペーパ50aに設けられている位置決め部68a、68bがカメラ(図示せず)により撮影される。このため、スクリーン印刷装置90は、位置決め部68a、68bを認識する。
【0048】
スクリーン印刷装置90は、認識した位置決め部68a、68bを基準にして、静電吸着テーブル88とスクリーン92との相対位置を調整する。そして、ペースト94がスキージ96を介して印刷処理されることにより、アノード側長尺状カーボンペーパ50aには、下地層26aの外周縁部と前記アノード側長尺状カーボンペーパ50aの表面とにわたって接着層29aが塗布される。
【0049】
また、カソード側長尺状カーボンペーパ50bは、上記のアノード側長尺状カーボンペーパ50aと同様に、下地層印刷工程60により電極触媒層24bの領域内に対応して撥水剤とカーボン粒子の混合物からなる下地層26bが塗布される。さらに、カソード側長尺状カーボンペーパ50bは、接着層印刷工程62により接着層29bが塗布される。
【0050】
一方、図10に示すように、ロール状固体高分子電解質膜100から長尺状固体高分子電解質膜100aが繰り出されるとともに、前記長尺状固体高分子電解質膜100aの搬送方向(矢印T方向)に沿って、アノード側マスキング工程102、アノード電極塗布及び加工工程104、カソード側マスキング工程106及びカソード電極塗布工程108が、順次、設けられる。
【0051】
アノード側マスキング工程102では、アノード側電極20の電極触媒層24aに対応する窓部110aが設けられたマスキング部材110により長尺状固体高分子電解質膜100aが被覆される。アノード電極塗布及び加工工程104では、マスキング部材110を介して長尺状固体高分子電解質膜100aに電極触媒層24aが塗布されるとともに、位置決め部68a、68bが形成される。
【0052】
次いで、カソード側マスキング工程106では、カソード側電極22の電極触媒層24bに対応する窓部112aが設けられたマスキング部材112により長尺状固体高分子電解質膜100aが被覆される。そして、カソード電極塗布工程108では、位置決め部68a、68bにより位置決めした状態で、マスキング部材112を介して長尺状固体高分子電解質膜100aに電極触媒層24bが塗布される。
【0053】
図11に示すように、アノード側長尺状カーボンペーパ50a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bは、長尺状固体高分子電解質膜100aを挟んだ状態で、位置決め工程114、ホットプレス工程116、トリミング工程118及び分離工程120に、順次、移送される。
【0054】
位置決め工程114では、アノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bが、それぞれに設けられた位置決め部68a、68bをカメラ(図示せず)で撮像することにより、互いに位置決めされる。なお、位置決め工程114では、必要に応じて段差調整シート121が用いられる。この段差調整シート121は、後述するホットプレス工程116において、複数のローラ124の表面から距離のばらつきを吸収する機能を有する。
【0055】
位置決めされたアノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50b(及び段差調整シート121)は、ホットプレス工程116に移送される。
【0056】
ホットプレス工程116には、カソード側長尺状カーボンペーパ50bに摺接して矢印T方向に連続搬送するための搬送部122と、アノード側長尺状カーボンペーパ50aに圧接される複数のローラ124とが配設される。ローラ124は、表面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が設けられており、高温雰囲気中に配置され、又は前記ローラ124自体が加熱される。アノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bは、例えば、120℃〜150℃の温度でホットプレスされる。
【0057】
これにより、アノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bが一体化された長尺状積層体126が得られる。
【0058】
長尺状積層体126は、トリミング工程118に移送され、カソード側長尺状カーボンペーパ50bのトリミングライン74に沿ってトリミングされる。さらに、分離工程120に移送され、アノード側長尺状カーボンペーパ50aの外周縁部70は、分離部位66に沿って切り離される。この分離工程120において、廃材が分離されることにより、電解質膜・電極構造体10が製造される(図1及び図3参照)。
【0059】
この場合、第1の実施形態では、ロール状カーボンペーパ50a(roll)から繰り出されたアノード側長尺状カーボンペーパ50a及びロール状カーボンペーパ50b(roll)から繰り出されたカソード側長尺状カーボンペーパ50bには、トリミングライン74の外方に対応して位置決め部68a、68bが設けられている。
【0060】
そして、図4に示すように、アノード側長尺状カーボンペーパ50aには、位置決め部68a、68bを基準にして、下地層印刷工程54及び接着層印刷工程56が、連続して行われている。同様に、図5に示すように、カソード側長尺状カーボンペーパ50bには、位置決め部68a、68bを基準にして、下地層印刷工程60及び接着層印刷工程62が、連続して行われている。
【0061】
さらに、図11に示すように、アノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bには、位置決め部68a、68bを基準にして、位置決め工程114、ホットプレス工程116及びトリミング工程118が、連続して行われている。このため、位置決め部68a、68bを基準にして、種々の工程が連続的に且つ高精度に行われる。
【0062】
これにより、第1の実施形態では、簡単な工程で、アノード側長尺状カーボンペーパ50a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bを高精度に位置決めすることができ、高品質な電解質膜・電極構造体10を効率的且つ確実に製造することが可能になるという効果が得られる。
【0063】
このように構成される燃料電池12の動作について、以下に説明する。
【0064】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔34aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔32aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0065】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔30aから第2セパレータ16の酸化剤ガス流路36に導入され、矢印B方向に移動して電解質膜・電極構造体10のカソード側電極22に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔34aから供給孔部46を通って第1セパレータ14の燃料ガス流路38に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路38に沿って矢印B方向に移動し、電解質膜・電極構造体10のアノード側電極20に供給される。
【0066】
従って、各電解質膜・電極構造体10では、カソード側電極22に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極20に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0067】
さらに、カソード側電極22に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード側電極20に供給されて消費された燃料ガスは、排出孔部48を通り燃料ガス出口連通孔34bに沿って矢印A方向に排出される。
【0068】
また、冷却媒体入口連通孔32aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路40に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体10を冷却した後、冷却媒体出口連通孔32bから排出される。
【0069】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体10の製造方法について、以下に説明する。なお、第1の実施形態に係る製造方法と同一の工程の説明は省略する。
【0070】
図12に示すように、アノード側長尺状カーボンペーパ50aの製造ラインには、ロール状カーボンペーパ50a(roll)の搬送方向(矢印T方向)に沿って、ミシン目及び加工工程52a、下地層印刷工程54a及び接着層印刷工程56aが、順次、設けられる。
【0071】
ミシン目及び加工工程52aでは、位置決め部として、アノード側長尺状カーボンペーパ50aの送り方向に交差する幅方向の両端縁部に、それぞれ所定の間隔ずつ離間してスプロケット係合用孔部130a、130bを形成する。
【0072】
アノード側長尺状カーボンペーパ50aの製造ラインには、孔部130a、130bに係合して回転するスプロケット132a、132bが、所定の部位に配設される。スプロケット132a、132bは、回転駆動源(図示せず)に連結されており、アノード側長尺状カーボンペーパ50aを矢印T方向に正確に搬送することができる。
【0073】
図13に示すように、カソード側長尺状カーボンペーパ50bの製造ラインには、ロール状カーボンペーパ50b(roll)の搬送方向(矢印T方向)に沿って、加工工程58a、下地層印刷工程60a及び接着層印刷工程62aが、順次、設けられる。加工工程58aでは、位置決め部として、カソード側長尺状カーボンペーパ50bの幅方向の両端縁部に、それぞれ所定の間隔ずつ離間してスプロケット係合用孔部130a、130bを形成する。カソード側長尺状カーボンペーパ50b(roll)の製造ラインには、孔部130a、130bに係合して回転するスプロケット132a、132bが設けられる。
【0074】
図14に示すように、長尺状固体高分子電解質膜100aの製造ラインでは、前記長尺状固体高分子電解質膜100aの搬送方向(矢印T方向)に沿って、アノード側マスキング工程102a、アノード電極塗布及び加工工程104a、カソード側マスキング工程106a及びカソード電極塗布工程108aが、順次、設けられる。
【0075】
アノード電極塗布及び加工工程104aでは、位置決め部として、ロール状固体高分子電解質膜100の幅方向の両端縁部に、それぞれ所定の間隔ずつ離間してスプロケット係合用孔部130a、130bを形成する。長尺状固体高分子電解質膜100aの製造ラインには、孔部130a、130bに係合して回転するスプロケット132a、132bが設けられる。
【0076】
図15に示すように、長尺状積層体126の製造ラインでは、前記長尺状積層体126の搬送方向(矢印T方向)に沿って、位置決め工程114a、ホットプレス工程116a、トリミング工程118a及び分離工程120aが、順次、設けられる。
【0077】
位置決め工程114aでは、アノード側長尺状カーボンペーパ50a、長尺状固体高分子電解質膜100a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bが、それぞれに設けられた孔部130a、130bに係合して回転するスプロケット132a、132bを介して位置決めされており、カメラを不要にすることができる。長尺状積層体126の製造ラインには、孔部130a、130bに係合して回転するスプロケット132a、132bが設けられる。
【0078】
このように、第2の実施形態では、アノード側長尺状カーボンペーパ50a、カソード側長尺状カーボンペーパ50b、長尺状固体高分子電解質膜100a及び長尺状積層体126の製造ラインにおいて、位置決め部として、それぞれ所定の間隔ずつ離間して設けられる孔部130a、130bを用い、前記孔部130a、130bに係合するスプロケット132a、132bの回転作用下に、位置決めが行われている。
【0079】
従って、第2の実施形態では、簡単な工程で、アノード側長尺状カーボンペーパ50a及びカソード側長尺状カーボンペーパ50bを高精度に位置決めすることができ、高品質な電解質膜・電極構造体10を効率的且つ確実に製造することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0080】
10…電解質膜・電極構造体 12…燃料電池
14、16…セパレータ 18…固体高分子電解質膜
20…アノード側電極 22…カソード側電極
24a、24b…電極触媒層 26a、26b…下地層
28a、28b…ガス拡散層 29a、29b…接着層
30a…酸化剤ガス入口連通孔 30b…酸化剤ガス出口連通孔
32a…冷却媒体入口連通孔 32b…冷却媒体出口連通孔
34a…燃料ガス入口連通孔 34b…燃料ガス出口連通孔
36…酸化剤ガス流路 38…燃料ガス流路
40…冷却媒体流路 50a、50b…長尺状カーボンペーパ
52、52a…ミシン目及び加工工程
54、54a、60、60a…下地層印刷工程
56、56a、62、62a…接着層印刷工程
58、58a…加工工程 66…分離部位
68a、68b…位置決め部 100a…長尺状固体高分子電解質膜
102、102a…アノード側マスキング工程
104、104a…アノード電極塗布及び加工工程
106、106a…カソード側マスキング工程
108、108a…カソード電極塗布工程
114、114a…位置決め工程 116、116a…ホットプレス工程
118、118a…トリミング工程 120、120a…分離工程
126…長尺状積層体 130a、130b…孔部
132a、132b…スプロケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられ、前記電極触媒層の外側に一対の多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法であって、
ロール状に巻回された長尺状多孔質拡散層を繰り出して、前記長尺状多孔質拡散層に位置決め部を設ける工程と、
前記位置決め部を基準にして、前記長尺状多孔質拡散層の表面に前記電極触媒層に接合される下地層を塗布する工程と、
ロール状に巻回された長尺状固体高分子電解質膜を繰り出して、前記位置決め部を設けるとともに、両面に前記電極触媒層を塗布する工程と、
前記位置決め部を基準にして、一対の前記長尺状多孔質拡散層の間に前記長尺状固体高分子電解質膜を挟持して互いに位置決めすることにより、積層体を得る工程と、
前記位置決め部を基準にして、前記積層体にホットプレス処理を施すことにより、一対の前記長尺状多孔質拡散層と前記長尺状固体高分子電解質膜とを連続的に一体化させる工程と、
一体化された前記積層体を、前記燃料電池用電解質膜・電極構造体の外形寸法に倣って切断する工程と、
切断された少なくとも一方の前記長尺状多孔質拡散層の外周縁部を、予め設けられた分離部位に沿って切り離すとともに、切断された前記積層体の外周トリミング部を、前記位置決め部を含んで除去する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記分離部位は、少なくとも一方の前記長尺状多孔質拡散層に断続的又は連続的に設けられた切り込み形状を有することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法において、前記長尺状多孔質拡散層の外周縁部となる部位に前記位置決め部を設けると同時に、少なくとも一方の前記長尺状多孔質拡散層の外周縁部となる部位に、後に切り離される前記分離部位を設けることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法において、前記位置決め部は、少なくとも2つの孔部を有することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法において、前記位置決め部は、前記長尺状多孔質拡散層及び前記長尺状固体高分子電解質膜の送り方向に交差する幅方向の両端縁部に、それぞれ所定の間隔ずつ離間して設けられるスプロケット係合用孔部を有することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−226952(P2012−226952A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93175(P2011−93175)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】