燃料電池用電解質膜・電極構造体
【課題】簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層から外方に延在する固体高分子電解質膜の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止することを可能にする。
【解決手段】電解質膜・電極構造体12は、固体高分子電解質膜18と前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード側電極20及びカソード側電極22とを備える。アノード側電極20は、電極触媒層20a及びガス拡散層20bを設ける一方、カソード側電極22は、電極触媒層22a及びガス拡散層22bを設ける。固体高分子電解質膜18は、アノード側電極20の外周部から外部に露呈する端面18ae及びカソード側電極22側の端面18beに、電極触媒層20a及び22aの形成時に使用される溶剤と同一の溶剤28a及び28bが塗布される。
【解決手段】電解質膜・電極構造体12は、固体高分子電解質膜18と前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード側電極20及びカソード側電極22とを備える。アノード側電極20は、電極触媒層20a及びガス拡散層20bを設ける一方、カソード側電極22は、電極触媒層22a及びガス拡散層22bを設ける。固体高分子電解質膜18は、アノード側電極20の外周部から外部に露呈する端面18ae及びカソード側電極22側の端面18beに、電極触媒層20a及び22aの形成時に使用される溶剤と同一の溶剤28a及び28bが塗布される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ触媒層(電極触媒層)とガス拡散層(多孔質カーボン)とからなるアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。通常、この燃料電池を所定数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の電解質膜・電極構造体では、固体高分子電解質膜の表面積が、この固体高分子電解質膜の両面に積層されているガス拡散層及び触媒層の表面積よりも大きく構成され、前記固体高分子電解質膜の外周端面が、各ガス拡散層及び前記触媒層の外周端面よりも外方に突出する、所謂、膜突出型MEAを構成する場合がある。
【0004】
また、この種の電解質膜・電極構造体では、一方の電極の面積が他方の電極の面積よりも大きく構成され、前記一方の電極の端部が前記他方の電極の端部から外方に突出する、所謂、段差型MEAを構成する場合がある。
【0005】
上記のMEAでは、固体高分子電解質膜の面方向外方に突出する外周部からのガス透過量が、面方向内方側の触媒層が塗布された部分のガス透過量に比べて多くなり易い。このため、固体高分子電解質膜の外周縁部では、該固体高分子電解質膜の両側に存在する燃料ガスと酸化剤ガスとの混在が惹起され易く、前記固体高分子電解質膜の劣化が促進されるという問題がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている固体高分子電解質膜電極接合体が知られている。この固体高分子電解質膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に配設される触媒を含む触媒層と該触媒層を周縁部の内側に支持するガス拡散層とを備える電極と、からなっている。
【0007】
固体高分子電解質膜は、膜の厚さ方向全体にプロトン導電性を有する第1の領域と、該第1の領域の外周部に位置し無孔のシートが配置されることにより、膜の厚さ方向全体にはプロトン導電性を有しない第2の領域とを有している。そして、触媒層の外縁からガス拡散層の外縁までは、第2の領域に位置するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−100267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1では、固体高分子電解質膜に、別材質で構成された無孔のシートが配置されているため、発電中の前記固体高分子電解質膜には、部分的に、含水環境の相違する領域が発生してしまう。これにより、固体高分子電解質膜には、反応ガスが透過する透過量に分布が惹起され易く、発電性能が低下するという問題がある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層から外方に延在する固体高分子電解質膜の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止することが可能な燃料電池用電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体に関するものである。この電解質膜・電極構造体では、固体高分子電解質膜の外周部には、電極触媒層から外方に延在する突出端部が設けられるとともに、前記突出端部の少なくとも一方の面には、溶剤が塗布されている。
【0012】
また、この燃料電池用電解質膜・電極構造体では、溶剤は、電極触媒層に使用された溶剤と同一の溶剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体高分子電解質膜の外周部には、溶剤が塗布されている。このため、固体高分子電解質膜では、触媒領域と突出端部領域とにおける反応ガス透過量を同等にすることができる。これにより、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層から外方に延在する固体高分子電解質膜の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体を組み込む燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面説明図である。
【図3】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の一部断面説明図である。
【図4】前記電解質膜・電極構造体の正面説明図である。
【図5】固体高分子電解質膜に電極触媒層を塗布する際の説明図である。
【図6】固体高分子電解質膜の外周端部に溶剤を塗布する際の説明図である。
【図7】固体高分子電解質膜にガス拡散層を接合する際の説明図である。
【図8】前記電解質膜・電極構造体を製造するための工程説明図である。
【図9】従来の前記電解質膜・電極構造体の膜強度の説明図である。
【図10】第1の実施形態の前記電解質膜・電極構造体の膜強度の説明図である。
【図11】前記電解質膜・電極構造体を製造するための別の工程説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体を組み込む燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図13】前記燃料電池の、図12中、XIII−XIII線断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び図2に示すように、固体高分子型燃料電池10は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体12を組み込むとともに、前記燃料電池10は、前記電解質膜・電極構造体12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16により挟持する。
【0016】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板等で構成されている。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、平面が矩形状を有するとともに、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状に成形される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、カーボンセパレータにより構成してもよい。
【0017】
電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18と、前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード側電極20及びカソード側電極22とを備える。アノード側電極20は、カソード側電極22及び固体高分子電解質膜18よりも小さな表面積を有する(段差MEA)。
【0018】
固体高分子電解質膜18は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。第1の実施形態では、固体高分子電解質膜18は、例えば、主鎖がポリフェニレン構造であり、スルホン酸基を有する側鎖と含窒素複素環基を有する側鎖とを有する構造でもよい。
【0019】
図3に示すように、アノード側電極20は、固体高分子電解質膜18の一方の面18aに当接し、且つ前記固体高分子電解質膜18の外周を額縁状に露呈させる電極触媒層20a及びガス拡散層20bを設ける。ガス拡散層20bは、カーボンペーパやカーボンクロス等からなり、前記ガス拡散層20bの表面に白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が一様に塗布されて電極触媒層20aが形成される。
【0020】
カソード側電極22は、上記のアノード側電極20と同様に、固体高分子電解質膜18の他方の面18bに当接する電極触媒層22a及びガス拡散層22bを設ける。なお、電極触媒層20a、22aは、複数の層から構成してもよい。
【0021】
ガス拡散層22bの平面は、ガス拡散層20bの平面よりも大きく設定されるとともに、前記ガス拡散層22bは、電極触媒層22aの外周から突出して固体高分子電解質膜18の他方の面18b全体を覆う。
【0022】
電極触媒層20aの端部は、電極触媒層22aの端部よりも固体高分子電解質膜18の面方向外側全周にわたって距離Hだけ突出した位置に設定される。なお、電極触媒層20aの端部と電極触媒層22aの端部とは、隣り合った辺で寸法の大小関係が逆に設定されてもよい。また、アノード側電極20とカソード側電極22の大小関係が逆であってもよい。電極触媒層20aの外周から突出するガス拡散層20bと、固体高分子電解質膜18との間には、接着層26aが設けられる。電極触媒層22aの外周から突出するガス拡散層22bと、固体高分子電解質膜18との間には、接着層26bが設けられる。接着層26a、26bは、例えば、フッ素系接着剤を用いることができる。
【0023】
固体高分子電解質膜18は、アノード側電極20の電極触媒層20aの外周部から外部に露呈する端面18ae及びカソード側電極22の電極触媒層22a側の端面18beに、後述するように、電極触媒層20a及び22aの形成時に使用される溶剤と同一の溶剤28a及び28bが塗布される(図4参照)。その際、溶剤28a及び28bは、電極触媒層20a、22aの端部から隙間なく塗布される。
【0024】
溶剤28a及び28bは、例えば、アルコール系溶媒が使用され、具体的には、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液である。なお、電極触媒層20a、22aに用いられた溶媒と異なった溶媒を用いてもよい。また、固体高分子電解質膜18の側の端面18beには、必要に応じて溶剤28bを塗布すればよく、不要にすることもできる。少なくとも一方の側に塗布すればよい。
【0025】
図1に示すように、燃料電池10の矢印B方向(図1中、水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔32a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔34bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0026】
燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔34a、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔32b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0027】
第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路36が設けられる。
【0028】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路38が形成される。第1セパレータ14の面14bと第2セパレータ16の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとに連通する冷却媒体流路40が形成される。
【0029】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材42が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材44が一体化される。
【0030】
図2に示すように、第1シール部材42は、電解質膜・電極構造体12の外部に露呈する固体高分子電解質膜18に当接する第1凸状シール42aと、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間に介装される第2凸状シール42bとを有する。第2シール部材44は、平面シールを構成する。なお、第2凸状シール42bに代えて、第2シール部材44に凸状シール(図示せず)を設けてもよい。
【0031】
第1及び第2シール部材42、44には、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0032】
図1に示すように、第1セパレータ14には、燃料ガス入口連通孔34aを燃料ガス流路38に連通する供給孔部46と、前記燃料ガス流路38を燃料ガス出口連通孔34bに連通する排出孔部48とが形成される。
【0033】
このように構成される燃料電池10において、電解質膜・電極構造体12を製造する方法について以下に説明する。
【0034】
先ず、図5に示すように、固体高分子電解質膜18が長方形状に作製された後、この固体高分子電解質膜18の面18a及び面18bには、それぞれ触媒ペーストを塗布することにより、電極触媒層20a及び電極触媒層22aが形成される。
【0035】
電極触媒層20a及び電極触媒層22aは、例えば、イオン導電性バインダと、Ptを担持したカーボン粒子からなる触媒粒子とを、アルコール系溶媒、例えば、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液に、一定の割合で混合して触媒ペーストを作成する。さらに、この触媒ペーストを固体高分子電解質膜18の両面にスクリーン印刷した後、前記触媒ペーストを乾燥させることにより形成される。
【0036】
次いで、図6に示すように、固体高分子電解質膜18の面18aにおいて電極触媒層20aの外方に露呈する端面18ae、及び必要に応じて面18bの電極触媒層22aの端部から外方に露呈する18beに、それぞれアルコール系触媒、例えば、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液からなる溶剤28a及び28bが塗布される。なお、アルコール系の溶剤であれば、必ずしも成分は限定されない。
【0037】
そして、溶剤28a、28bに乾燥処理が施された後、図7に示すように、ガス拡散層20b、22bには、それぞれ外周縁部に接着層26a、26bがスクリーン印刷により塗布される。
【0038】
ガス拡散層20bは、固体高分子電解質膜18の面18a側に押圧される一方、ガス拡散層22bは、前記固体高分子電解質膜18の面18b側に押圧される。ガス拡散層20b、22bは、ホットプレス処理が施されることによって、固体高分子電解質膜18に一体化され、電解質膜・電極構造体12が製造される(図3参照)。
【0039】
電解質膜・電極構造体12を製造する工程は、図8に示すように、固体高分子電解質膜18の面18a、18bに電極触媒層20a、22aを形成する電極塗布工程(ステップS1)、前記電極触媒層20a、22aを乾燥させる乾燥工程(ステップS2)、前記固体高分子電解質膜18の端面18ae、18beに溶剤28a、28bを塗布する溶剤塗布工程(ステップS3)、前記溶剤28a、28bを乾燥させる乾燥工程(ステップS4)及びガス拡散層20b、22bを一体化させるガス拡散層合体工程(ステップS5)を基本的に有する。
【0040】
ここで、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の一方の面18a(アノード側面)の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布する工程(ステップS11)を有してもよい。また、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の他方の面18b(カソード側面)の端面18beにのみ溶剤28bを塗布してもよい(ステップS21)。
【0041】
さらに、ステップS3では、一方の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布し(ステップS31)、この溶剤28aを乾燥させた後(ステップS32)、他方の端面18beにのみ溶剤28bを塗布(ステップS33)してもよい。
【0042】
さらにまた、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の他方の端面18beにのみ溶剤28bを塗布し(ステップS41)、この溶剤28bを乾燥させた後、一方の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布(ステップS43)してもよい。
【0043】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0044】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔34aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔32aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0045】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔30aから第2セパレータ16の酸化剤ガス流路36に導入され、矢印B方向に移動して電解質膜・電極構造体12のカソード側電極22に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔34aから供給孔部46を通って第1セパレータ14の燃料ガス流路38に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路38に沿って矢印B方向に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極20に供給される。
【0046】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード側電極22に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極20に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0047】
次いで、カソード側電極22に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード側電極20に供給されて消費された燃料ガスは、排出孔部48を通り燃料ガス出口連通孔34bに沿って矢印A方向に排出される。
【0048】
また、冷却媒体入口連通孔32aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路40に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12を冷却した後、冷却媒体出口連通孔32bから排出される。
【0049】
この場合、第1の実施形態では、固体高分子電解質膜18の少なくともアノード側電極20の外部に露呈する端面18ae(必要に応じてカソード側電極22の外部に露呈する端面18be)に、電極触媒層20a(22a)の成形時に使用される溶剤と同一の溶剤28a(28b)、又は異なる溶剤が塗布されている。このため、固体高分子電解質膜18では、アノード側電極20(及びカソード側電極22)の触媒領域と端面18ae(及び18be)の突出端部領域とにおける燃料ガス(及び酸化剤ガス)のガス透過量を同等にすることができる。
【0050】
ここで、図9には、通常の固体高分子電解質膜18prの外周部に溶剤が塗布されていない電解質膜・電極構造体12prの膜強度分布が示されている。電解質膜・電極構造体12prでは、電極塗布工程で、溶剤が固体高分子電解質膜18prに浸み込むことにより、この固体高分子電解質膜18prの分子配向が変化する。
【0051】
従って、固体高分子電解質膜18prの電極塗布範囲内では、電極塗布工程前の前記固体高分子電解質膜18prとガス拡散性が変化する。一方、固体高分子電解質膜18prの外周部(電極塗布範囲外)には、電極塗布工程前と同一のガス拡散性が維持されている。これにより、従来の固体高分子電解質膜18prでは、面内にガス拡散性の異なる箇所が存在し、燃料ガスである水素ガスと空気の混在比率が変化し、局所的な劣化が発生してしまう。
【0052】
図9において、面内膜強度は、TF1<TF2<TF3<TF4<TF5の関係を有する。このため、固体高分子電解質膜18prでは、特に外周縁部に最も強度低下(TF1)が顕著に表れており、前記固体高分子電解質膜18prの耐久性が低下するという現象が顕在化している。
【0053】
これに対して、第1の実施形態では、図10に示すように、固体高分子電解質膜18の全面におけるガス透過性が均一化されている。従って、この固体高分子電解質膜18には、局所的な劣化が発生することがなく、耐久性の向上が図られる。
【0054】
これにより、第1の実施形態では、簡単且つ経済的な構成で、固体高分子電解質膜18の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止し、耐久性の向上を図ることができるという効果が得られる。
【0055】
ところで、第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体12は、図11に示す製造工程により製造することができる。
【0056】
この製造工程は、先ず、固体高分子電解質膜18の両方の面18a、18bには、それぞれ全面にわたって溶剤28a、28bを塗布する全面溶剤塗布工程(ステップS101)、前記溶剤28a、28bを乾燥させる乾燥工程(ステップS102)、各面18a、18bに電極触媒層20a、22aを塗布する電極塗布工程(ステップS103)、前記電極触媒層20a、22aを乾燥させる乾燥工程(ステップS104)及びガス拡散層20b、22bを前記固体高分子電解質膜18の両面に接着させて、電解質膜・電極構造体12を製造するガス拡散層合体工程(ステップS105)を有している。
【0057】
これにより、図8に示す製造工程と同様に、所望の電解質膜・電極構造体12を効率的に製造することができる。
【0058】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体60を組み込む固体高分子型燃料電池62の要部分解斜視説明図である。
【0059】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0060】
燃料電池62は、電解質膜・電極構造体60を第1セパレータ64及び第2セパレータ66により挟持する。燃料電池62の矢印C方向(鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体入口連通孔32a及び燃料ガス入口連通孔34aが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0061】
燃料電池62の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガス出口連通孔34b、冷却媒体出口連通孔32b及び酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0062】
第1セパレータ64の電解質膜・電極構造体60に向かう面64aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路36が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0063】
第2セパレータ66の電解質膜・電極構造体60に向かう面66aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路38が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0064】
互いに隣接する燃料電池62を構成する第1セパレータ64の面64bと、第2セパレータ66の面66bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとを連通する冷却媒体流路40が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0065】
第1セパレータ64の面64a、64bには、第1シール部材68が、一体的又は個別に設けられるとともに、第2セパレータ66の面66a、66bには、第2シール部材70が、一体的に又は個別に設けられる。
【0066】
図13に示すように、電解質膜・電極構造体60は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜74と、前記固体高分子電解質膜74を挟持するカソード側電極76及びアノード側電極78とを備える。固体高分子電解質膜74は、第1の実施形態の固体高分子電解質膜18と同様に、例えば、主鎖がポリフェニレン構造であり、スルホン酸基を有する側鎖と含窒素複素環基を有する側鎖とを有する構造でもよい。
【0067】
カソード側電極76及びアノード側電極78は、同一の表面積(外形寸法)を有するとともに、固体高分子電解質膜74は、前記カソード側電極76及び前記アノード側電極78よりも大きな表面積(外形寸法)を有する。固体高分子電解質膜74の両端面74ae、74beは、カソード側電極76及びアノード側電極78の端部から外方に延在する。
【0068】
カソード側電極76及びアノード側電極78は、固体高分子電解質膜74の両方の面74a、74bに接合される電極触媒層76a、78aと、前記電極触媒層76a、78aに積層されるガス拡散層(多孔質拡散層)76b、78bとを設ける。
【0069】
電極触媒層76aの外周から突出するガス拡散層76bと、固体高分子電解質膜74との間には、接着層80aが設けられる。電極触媒層78aの外周から突出するガス拡散層78bと、固体高分子電解質膜74との間には、接着層80bが設けられる。
【0070】
このように構成される電解質膜・電極構造体60は、上記の電解質膜・電極構造体12と同様に製造される。具体的には、電解質膜・電極構造体60は、図8に示す製造工程、又は図11に示す製造工程によって製造されるものであり、固体高分子電解質膜74の端面74ae、74beに、それぞれ溶剤28a、28bが塗布された後、乾燥処理が施されている。
【0071】
従って、固体高分子電解質膜74は、電極触媒層76a、78aが塗布された触媒領域と前記電極触媒層76a、78aが設けられていない突出端部領域とにおいて、反応ガス透過量を同等にすることができる。
【0072】
これにより、第2の実施形態では、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層76a、78aから外方に延在する固体高分子電解質膜74の外周端面74ae、74beに劣化が発生することを可及的に阻止することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0073】
10、62…燃料電池 12、60…電解質膜・電極構造体
14、16、64、66…セパレータ 18、74…固体高分子電解質膜
18ae、18be、74ae、74be…端面
20、78…アノード側電極
20a、22a、76a、78a…電極触媒層
20b、22b、76b、78b…ガス拡散層
22、76…カソード側電極
26a、26b、80a、80b…接着層
28a、28b…溶剤 30a…酸化剤ガス入口連通孔
30b…酸化剤ガス出口連通孔 32a…冷却媒体入口連通孔
32b…冷却媒体出口連通孔 34a…燃料ガス入口連通孔
34b…燃料ガス出口連通孔 36…酸化剤ガス流路
38…燃料ガス流路 40…冷却媒体流路
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ触媒層(電極触媒層)とガス拡散層(多孔質カーボン)とからなるアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。通常、この燃料電池を所定数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の電解質膜・電極構造体では、固体高分子電解質膜の表面積が、この固体高分子電解質膜の両面に積層されているガス拡散層及び触媒層の表面積よりも大きく構成され、前記固体高分子電解質膜の外周端面が、各ガス拡散層及び前記触媒層の外周端面よりも外方に突出する、所謂、膜突出型MEAを構成する場合がある。
【0004】
また、この種の電解質膜・電極構造体では、一方の電極の面積が他方の電極の面積よりも大きく構成され、前記一方の電極の端部が前記他方の電極の端部から外方に突出する、所謂、段差型MEAを構成する場合がある。
【0005】
上記のMEAでは、固体高分子電解質膜の面方向外方に突出する外周部からのガス透過量が、面方向内方側の触媒層が塗布された部分のガス透過量に比べて多くなり易い。このため、固体高分子電解質膜の外周縁部では、該固体高分子電解質膜の両側に存在する燃料ガスと酸化剤ガスとの混在が惹起され易く、前記固体高分子電解質膜の劣化が促進されるという問題がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている固体高分子電解質膜電極接合体が知られている。この固体高分子電解質膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両面に配設される触媒を含む触媒層と該触媒層を周縁部の内側に支持するガス拡散層とを備える電極と、からなっている。
【0007】
固体高分子電解質膜は、膜の厚さ方向全体にプロトン導電性を有する第1の領域と、該第1の領域の外周部に位置し無孔のシートが配置されることにより、膜の厚さ方向全体にはプロトン導電性を有しない第2の領域とを有している。そして、触媒層の外縁からガス拡散層の外縁までは、第2の領域に位置するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−100267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1では、固体高分子電解質膜に、別材質で構成された無孔のシートが配置されているため、発電中の前記固体高分子電解質膜には、部分的に、含水環境の相違する領域が発生してしまう。これにより、固体高分子電解質膜には、反応ガスが透過する透過量に分布が惹起され易く、発電性能が低下するという問題がある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層から外方に延在する固体高分子電解質膜の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止することが可能な燃料電池用電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体に関するものである。この電解質膜・電極構造体では、固体高分子電解質膜の外周部には、電極触媒層から外方に延在する突出端部が設けられるとともに、前記突出端部の少なくとも一方の面には、溶剤が塗布されている。
【0012】
また、この燃料電池用電解質膜・電極構造体では、溶剤は、電極触媒層に使用された溶剤と同一の溶剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体高分子電解質膜の外周部には、溶剤が塗布されている。このため、固体高分子電解質膜では、触媒領域と突出端部領域とにおける反応ガス透過量を同等にすることができる。これにより、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層から外方に延在する固体高分子電解質膜の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体を組み込む燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面説明図である。
【図3】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の一部断面説明図である。
【図4】前記電解質膜・電極構造体の正面説明図である。
【図5】固体高分子電解質膜に電極触媒層を塗布する際の説明図である。
【図6】固体高分子電解質膜の外周端部に溶剤を塗布する際の説明図である。
【図7】固体高分子電解質膜にガス拡散層を接合する際の説明図である。
【図8】前記電解質膜・電極構造体を製造するための工程説明図である。
【図9】従来の前記電解質膜・電極構造体の膜強度の説明図である。
【図10】第1の実施形態の前記電解質膜・電極構造体の膜強度の説明図である。
【図11】前記電解質膜・電極構造体を製造するための別の工程説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体を組み込む燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図13】前記燃料電池の、図12中、XIII−XIII線断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び図2に示すように、固体高分子型燃料電池10は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体12を組み込むとともに、前記燃料電池10は、前記電解質膜・電極構造体12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16により挟持する。
【0016】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板等で構成されている。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、平面が矩形状を有するとともに、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状に成形される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、カーボンセパレータにより構成してもよい。
【0017】
電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18と、前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード側電極20及びカソード側電極22とを備える。アノード側電極20は、カソード側電極22及び固体高分子電解質膜18よりも小さな表面積を有する(段差MEA)。
【0018】
固体高分子電解質膜18は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。第1の実施形態では、固体高分子電解質膜18は、例えば、主鎖がポリフェニレン構造であり、スルホン酸基を有する側鎖と含窒素複素環基を有する側鎖とを有する構造でもよい。
【0019】
図3に示すように、アノード側電極20は、固体高分子電解質膜18の一方の面18aに当接し、且つ前記固体高分子電解質膜18の外周を額縁状に露呈させる電極触媒層20a及びガス拡散層20bを設ける。ガス拡散層20bは、カーボンペーパやカーボンクロス等からなり、前記ガス拡散層20bの表面に白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が一様に塗布されて電極触媒層20aが形成される。
【0020】
カソード側電極22は、上記のアノード側電極20と同様に、固体高分子電解質膜18の他方の面18bに当接する電極触媒層22a及びガス拡散層22bを設ける。なお、電極触媒層20a、22aは、複数の層から構成してもよい。
【0021】
ガス拡散層22bの平面は、ガス拡散層20bの平面よりも大きく設定されるとともに、前記ガス拡散層22bは、電極触媒層22aの外周から突出して固体高分子電解質膜18の他方の面18b全体を覆う。
【0022】
電極触媒層20aの端部は、電極触媒層22aの端部よりも固体高分子電解質膜18の面方向外側全周にわたって距離Hだけ突出した位置に設定される。なお、電極触媒層20aの端部と電極触媒層22aの端部とは、隣り合った辺で寸法の大小関係が逆に設定されてもよい。また、アノード側電極20とカソード側電極22の大小関係が逆であってもよい。電極触媒層20aの外周から突出するガス拡散層20bと、固体高分子電解質膜18との間には、接着層26aが設けられる。電極触媒層22aの外周から突出するガス拡散層22bと、固体高分子電解質膜18との間には、接着層26bが設けられる。接着層26a、26bは、例えば、フッ素系接着剤を用いることができる。
【0023】
固体高分子電解質膜18は、アノード側電極20の電極触媒層20aの外周部から外部に露呈する端面18ae及びカソード側電極22の電極触媒層22a側の端面18beに、後述するように、電極触媒層20a及び22aの形成時に使用される溶剤と同一の溶剤28a及び28bが塗布される(図4参照)。その際、溶剤28a及び28bは、電極触媒層20a、22aの端部から隙間なく塗布される。
【0024】
溶剤28a及び28bは、例えば、アルコール系溶媒が使用され、具体的には、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液である。なお、電極触媒層20a、22aに用いられた溶媒と異なった溶媒を用いてもよい。また、固体高分子電解質膜18の側の端面18beには、必要に応じて溶剤28bを塗布すればよく、不要にすることもできる。少なくとも一方の側に塗布すればよい。
【0025】
図1に示すように、燃料電池10の矢印B方向(図1中、水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔32a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔34bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0026】
燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔34a、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔32b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0027】
第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路36が設けられる。
【0028】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路38が形成される。第1セパレータ14の面14bと第2セパレータ16の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとに連通する冷却媒体流路40が形成される。
【0029】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材42が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材44が一体化される。
【0030】
図2に示すように、第1シール部材42は、電解質膜・電極構造体12の外部に露呈する固体高分子電解質膜18に当接する第1凸状シール42aと、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間に介装される第2凸状シール42bとを有する。第2シール部材44は、平面シールを構成する。なお、第2凸状シール42bに代えて、第2シール部材44に凸状シール(図示せず)を設けてもよい。
【0031】
第1及び第2シール部材42、44には、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0032】
図1に示すように、第1セパレータ14には、燃料ガス入口連通孔34aを燃料ガス流路38に連通する供給孔部46と、前記燃料ガス流路38を燃料ガス出口連通孔34bに連通する排出孔部48とが形成される。
【0033】
このように構成される燃料電池10において、電解質膜・電極構造体12を製造する方法について以下に説明する。
【0034】
先ず、図5に示すように、固体高分子電解質膜18が長方形状に作製された後、この固体高分子電解質膜18の面18a及び面18bには、それぞれ触媒ペーストを塗布することにより、電極触媒層20a及び電極触媒層22aが形成される。
【0035】
電極触媒層20a及び電極触媒層22aは、例えば、イオン導電性バインダと、Ptを担持したカーボン粒子からなる触媒粒子とを、アルコール系溶媒、例えば、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液に、一定の割合で混合して触媒ペーストを作成する。さらに、この触媒ペーストを固体高分子電解質膜18の両面にスクリーン印刷した後、前記触媒ペーストを乾燥させることにより形成される。
【0036】
次いで、図6に示すように、固体高分子電解質膜18の面18aにおいて電極触媒層20aの外方に露呈する端面18ae、及び必要に応じて面18bの電極触媒層22aの端部から外方に露呈する18beに、それぞれアルコール系触媒、例えば、水とn−プロピルアルコールとエタノールとの混合液からなる溶剤28a及び28bが塗布される。なお、アルコール系の溶剤であれば、必ずしも成分は限定されない。
【0037】
そして、溶剤28a、28bに乾燥処理が施された後、図7に示すように、ガス拡散層20b、22bには、それぞれ外周縁部に接着層26a、26bがスクリーン印刷により塗布される。
【0038】
ガス拡散層20bは、固体高分子電解質膜18の面18a側に押圧される一方、ガス拡散層22bは、前記固体高分子電解質膜18の面18b側に押圧される。ガス拡散層20b、22bは、ホットプレス処理が施されることによって、固体高分子電解質膜18に一体化され、電解質膜・電極構造体12が製造される(図3参照)。
【0039】
電解質膜・電極構造体12を製造する工程は、図8に示すように、固体高分子電解質膜18の面18a、18bに電極触媒層20a、22aを形成する電極塗布工程(ステップS1)、前記電極触媒層20a、22aを乾燥させる乾燥工程(ステップS2)、前記固体高分子電解質膜18の端面18ae、18beに溶剤28a、28bを塗布する溶剤塗布工程(ステップS3)、前記溶剤28a、28bを乾燥させる乾燥工程(ステップS4)及びガス拡散層20b、22bを一体化させるガス拡散層合体工程(ステップS5)を基本的に有する。
【0040】
ここで、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の一方の面18a(アノード側面)の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布する工程(ステップS11)を有してもよい。また、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の他方の面18b(カソード側面)の端面18beにのみ溶剤28bを塗布してもよい(ステップS21)。
【0041】
さらに、ステップS3では、一方の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布し(ステップS31)、この溶剤28aを乾燥させた後(ステップS32)、他方の端面18beにのみ溶剤28bを塗布(ステップS33)してもよい。
【0042】
さらにまた、ステップS3では、固体高分子電解質膜18の他方の端面18beにのみ溶剤28bを塗布し(ステップS41)、この溶剤28bを乾燥させた後、一方の端面18aeにのみ溶剤28aを塗布(ステップS43)してもよい。
【0043】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0044】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔34aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔32aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0045】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔30aから第2セパレータ16の酸化剤ガス流路36に導入され、矢印B方向に移動して電解質膜・電極構造体12のカソード側電極22に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔34aから供給孔部46を通って第1セパレータ14の燃料ガス流路38に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路38に沿って矢印B方向に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード側電極20に供給される。
【0046】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード側電極22に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極20に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0047】
次いで、カソード側電極22に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード側電極20に供給されて消費された燃料ガスは、排出孔部48を通り燃料ガス出口連通孔34bに沿って矢印A方向に排出される。
【0048】
また、冷却媒体入口連通孔32aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路40に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12を冷却した後、冷却媒体出口連通孔32bから排出される。
【0049】
この場合、第1の実施形態では、固体高分子電解質膜18の少なくともアノード側電極20の外部に露呈する端面18ae(必要に応じてカソード側電極22の外部に露呈する端面18be)に、電極触媒層20a(22a)の成形時に使用される溶剤と同一の溶剤28a(28b)、又は異なる溶剤が塗布されている。このため、固体高分子電解質膜18では、アノード側電極20(及びカソード側電極22)の触媒領域と端面18ae(及び18be)の突出端部領域とにおける燃料ガス(及び酸化剤ガス)のガス透過量を同等にすることができる。
【0050】
ここで、図9には、通常の固体高分子電解質膜18prの外周部に溶剤が塗布されていない電解質膜・電極構造体12prの膜強度分布が示されている。電解質膜・電極構造体12prでは、電極塗布工程で、溶剤が固体高分子電解質膜18prに浸み込むことにより、この固体高分子電解質膜18prの分子配向が変化する。
【0051】
従って、固体高分子電解質膜18prの電極塗布範囲内では、電極塗布工程前の前記固体高分子電解質膜18prとガス拡散性が変化する。一方、固体高分子電解質膜18prの外周部(電極塗布範囲外)には、電極塗布工程前と同一のガス拡散性が維持されている。これにより、従来の固体高分子電解質膜18prでは、面内にガス拡散性の異なる箇所が存在し、燃料ガスである水素ガスと空気の混在比率が変化し、局所的な劣化が発生してしまう。
【0052】
図9において、面内膜強度は、TF1<TF2<TF3<TF4<TF5の関係を有する。このため、固体高分子電解質膜18prでは、特に外周縁部に最も強度低下(TF1)が顕著に表れており、前記固体高分子電解質膜18prの耐久性が低下するという現象が顕在化している。
【0053】
これに対して、第1の実施形態では、図10に示すように、固体高分子電解質膜18の全面におけるガス透過性が均一化されている。従って、この固体高分子電解質膜18には、局所的な劣化が発生することがなく、耐久性の向上が図られる。
【0054】
これにより、第1の実施形態では、簡単且つ経済的な構成で、固体高分子電解質膜18の外周端部に劣化が発生することを可及的に阻止し、耐久性の向上を図ることができるという効果が得られる。
【0055】
ところで、第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体12は、図11に示す製造工程により製造することができる。
【0056】
この製造工程は、先ず、固体高分子電解質膜18の両方の面18a、18bには、それぞれ全面にわたって溶剤28a、28bを塗布する全面溶剤塗布工程(ステップS101)、前記溶剤28a、28bを乾燥させる乾燥工程(ステップS102)、各面18a、18bに電極触媒層20a、22aを塗布する電極塗布工程(ステップS103)、前記電極触媒層20a、22aを乾燥させる乾燥工程(ステップS104)及びガス拡散層20b、22bを前記固体高分子電解質膜18の両面に接着させて、電解質膜・電極構造体12を製造するガス拡散層合体工程(ステップS105)を有している。
【0057】
これにより、図8に示す製造工程と同様に、所望の電解質膜・電極構造体12を効率的に製造することができる。
【0058】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池用電解質膜・電極構造体60を組み込む固体高分子型燃料電池62の要部分解斜視説明図である。
【0059】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0060】
燃料電池62は、電解質膜・電極構造体60を第1セパレータ64及び第2セパレータ66により挟持する。燃料電池62の矢印C方向(鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体入口連通孔32a及び燃料ガス入口連通孔34aが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0061】
燃料電池62の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガス出口連通孔34b、冷却媒体出口連通孔32b及び酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0062】
第1セパレータ64の電解質膜・電極構造体60に向かう面64aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路36が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0063】
第2セパレータ66の電解質膜・電極構造体60に向かう面66aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路38が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0064】
互いに隣接する燃料電池62を構成する第1セパレータ64の面64bと、第2セパレータ66の面66bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとを連通する冷却媒体流路40が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0065】
第1セパレータ64の面64a、64bには、第1シール部材68が、一体的又は個別に設けられるとともに、第2セパレータ66の面66a、66bには、第2シール部材70が、一体的に又は個別に設けられる。
【0066】
図13に示すように、電解質膜・電極構造体60は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜74と、前記固体高分子電解質膜74を挟持するカソード側電極76及びアノード側電極78とを備える。固体高分子電解質膜74は、第1の実施形態の固体高分子電解質膜18と同様に、例えば、主鎖がポリフェニレン構造であり、スルホン酸基を有する側鎖と含窒素複素環基を有する側鎖とを有する構造でもよい。
【0067】
カソード側電極76及びアノード側電極78は、同一の表面積(外形寸法)を有するとともに、固体高分子電解質膜74は、前記カソード側電極76及び前記アノード側電極78よりも大きな表面積(外形寸法)を有する。固体高分子電解質膜74の両端面74ae、74beは、カソード側電極76及びアノード側電極78の端部から外方に延在する。
【0068】
カソード側電極76及びアノード側電極78は、固体高分子電解質膜74の両方の面74a、74bに接合される電極触媒層76a、78aと、前記電極触媒層76a、78aに積層されるガス拡散層(多孔質拡散層)76b、78bとを設ける。
【0069】
電極触媒層76aの外周から突出するガス拡散層76bと、固体高分子電解質膜74との間には、接着層80aが設けられる。電極触媒層78aの外周から突出するガス拡散層78bと、固体高分子電解質膜74との間には、接着層80bが設けられる。
【0070】
このように構成される電解質膜・電極構造体60は、上記の電解質膜・電極構造体12と同様に製造される。具体的には、電解質膜・電極構造体60は、図8に示す製造工程、又は図11に示す製造工程によって製造されるものであり、固体高分子電解質膜74の端面74ae、74beに、それぞれ溶剤28a、28bが塗布された後、乾燥処理が施されている。
【0071】
従って、固体高分子電解質膜74は、電極触媒層76a、78aが塗布された触媒領域と前記電極触媒層76a、78aが設けられていない突出端部領域とにおいて、反応ガス透過量を同等にすることができる。
【0072】
これにより、第2の実施形態では、簡単且つ経済的な構成で、電極触媒層76a、78aから外方に延在する固体高分子電解質膜74の外周端面74ae、74beに劣化が発生することを可及的に阻止することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0073】
10、62…燃料電池 12、60…電解質膜・電極構造体
14、16、64、66…セパレータ 18、74…固体高分子電解質膜
18ae、18be、74ae、74be…端面
20、78…アノード側電極
20a、22a、76a、78a…電極触媒層
20b、22b、76b、78b…ガス拡散層
22、76…カソード側電極
26a、26b、80a、80b…接着層
28a、28b…溶剤 30a…酸化剤ガス入口連通孔
30b…酸化剤ガス出口連通孔 32a…冷却媒体入口連通孔
32b…冷却媒体出口連通孔 34a…燃料ガス入口連通孔
34b…燃料ガス出口連通孔 36…酸化剤ガス流路
38…燃料ガス流路 40…冷却媒体流路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体であって、
前記固体高分子電解質膜の外周部には、前記電極触媒層から外方に延在する突出端部が設けられるとともに、
前記突出端部の少なくとも一方の面には、溶剤が塗布されることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用電解質膜・電極構造体において、前記溶剤は、前記電極触媒層に使用された溶剤と同一の溶剤であることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられる燃料電池用電解質膜・電極構造体であって、
前記固体高分子電解質膜の外周部には、前記電極触媒層から外方に延在する突出端部が設けられるとともに、
前記突出端部の少なくとも一方の面には、溶剤が塗布されることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用電解質膜・電極構造体において、前記溶剤は、前記電極触媒層に使用された溶剤と同一の溶剤であることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−226847(P2012−226847A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90722(P2011−90722)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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