説明

燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池

【課題】再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明による燃料電池用電解質膜1は、プロトン伝導性を有する固体酸により構成される電解質と、イオン交換基当量重量が1000g/eq未満であるフッ素系アイオノマーとを少なくとも含んだ材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、COや汚染物質を排出しないクリーンエネルギー として燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子形電解質を用いたPEFC(固体高分子形燃料電池)の開発に注力がなされている。しかし、用いる電解質膜の耐熱性の観点から、作動温度は100℃以下に限られている。
【0003】
作動温度が100℃以上になると、排熱利用により総合的なエネルギー変換効率の向上、触媒白金電極のCO被毒の軽減、触媒使用量の低減など様々な利点が期待されていることから、中温領域(100℃〜300℃)で作動可能な燃料電池の開発が強く求められている。
【0004】
現在、プロトンを伝導する高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、耐熱性が100℃以下であるため中温領域での使用が困難であり、耐熱性の優れた新規の電解質膜の開発が強く望まれている。またPEFCではプロトン伝導機構が、Hの 状態でプロトンを伝導するVehicle(運搬)機構であるため、プロトン伝導性を維持するために飽和水蒸気圧に近い加湿機構を備える必要がある。このため加湿システムが煩雑になり、小型化が困難であるといった問題点がある。
【0005】
一方、高温作動型であるSOFC(固体酸化物形燃料電池)と比較すると、温度サイクルへの対応が容易になり、安価な金属材料や樹脂の使用による製造コスト削減が見込まれる。
【0006】
加湿の問題を改善した電解質としては、リン酸を含浸させたPBI(ポリベンズイミダゾール)膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この膜は90%以上が液体リン酸で構成されているため、強酸であるリン酸がしみ出しやすいことや、液体シールを厳密に行わなければならないこと、さらにセルを作製する際にリン酸のしみ出しによりMEA(膜・電極接合体)の作製が困難であること、等の問題点がある。
【0007】
他方、無加湿状態でプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質として金属リン酸塩が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、金属リン酸塩の一部に別種の金属をドープしたものも開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−510931号公報
【特許文献2】特開2005−294245号公報
【特許文献3】特開2008−53224号公報
【特許文献4】特開2008−53225号公報
【特許文献5】特開2008−84788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記金属リン酸塩は粉体であるため、成形性が困難であり、バインダーを添加しないとフィルム化しない。
【0010】
一方、フッ素系樹脂をバインダーとして用いた電解質膜が開示されている(例えば、特許文献3,4参照。)。しかしながら、特許文献3,4で提案された複合膜の場合、電解質としての無機粉体とバインダーとしてのPTFE粉末を混錬し、圧延して押し固めたものであるため成形性・自立性・強度に問題がある。
【0011】
また、電解質としてリン酸スズと、バインダーとして無機材料であるインジウムスズ酸化物/リン酸複合体を用いた電解質膜が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、特許文献5で提案された複合膜の場合、インジウムスズ酸化物/リン酸複合体が粉体であるため、結着性に乏しく成形性・自立性・強度に問題がある。
【0012】
このように、金属リン酸塩等の固体酸をプロトン伝導性電解質に用いた場合、バインダーを添加しただけでは成形性・自立性に問題がある。また、仮に成形できたとしても、十分な膜強度が得られず、膜・電極接合体形成の際、破損などの可能性が高くなる等、機械的性能を満足することはできないといった問題点がある。
【0013】
本発明の目的は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、プロトン伝導性を有する固体酸により構成される電解質と、イオン交換基当量重量が1000g/eq未満であるフッ素系アイオノマーとを少なくとも含んだ材料で構成されたことを特徴とする燃料電池用電解質膜である。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記フッ素系アイオノマーがテトラフルオロエチレンとスルホニルフロリドビニルエーテルの共重合体及び該共重合体の−SOF基を−SOH基に変換した共重合体の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記スルホニルフロリドビニルエーテルが1,1,2,2,−テトラフルオロ−2−[(トリフルオロエチニル)−オキシ]エタンスルホニルフロリドであることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記固体酸が無機固体酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記無機固体酸がヘテロポリ酸と無機塩の複合体からなることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記無機固体酸が、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体、タングストリン酸と硫酸水素セシウムの複合体、タングストリン酸と硫酸セシウムの複合体のいずれかの複合体であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、プロトン伝導度が、温度160℃及び無加湿雰囲気下において、1.0×10−3S/cm以上になることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、プロトン伝導性を有する固体酸とフッ素系バインダーとを混合してペーストを作成する第1の工程と、前記ペーストをキャスト基材上に塗布して成形する第2の工程と、前記第2の工程の後に、前記ペーストを乾燥させる第3の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、一対の触媒層とを備え、前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層に挟持されたことを特徴とする燃料電池用触媒層・電解質膜積層体である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、一対の触媒層付電極とを備え、前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層付電極に挟持されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体である。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、1対のセパレータとを備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜、燃料電池用触媒層・電解質膜積層体、燃料電池用膜・電極接合体、燃料電池及び燃料電池用電解質膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体の模式的断面図。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体の模式的断面図。
【図3】本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1乃至第3の実施の形態を説明する。以下に示す第1乃至第3の実施 の形態は、本発明を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、本発明について、材料や製造方法等を下記のものに特定するものでない。
【0028】
[第1の実施の形態]
(燃料電池用電解質膜)
本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池用電解質膜(以下、単に「電解質膜」ともいう)は、固体酸と、イオン交換性の尺度であるイオン交換基当量重量を示すEW値が1000g/eq未満であるフッ素系アイオノマーとで形成された固体酸型プロトン伝導性電解質膜により構成されている。
【0029】
ここで、フッ素系アイオノマーとは、イオン交換基及びイオン交換基前駆体の少なくともひとつを有するフッ素系樹脂を意味するものとする。イオン交換基としては、例えば、−SOH、−COOHなどが、イオン交換基前駆体としては、−SOF、−SR、−COOR、−COF、−CNなどが挙げられる。ただしRは炭化水素基を示す。
【0030】
また、イオン交換基当量重量(EW値)とは、プロトン伝導性を有するイオン交換基(又はその前駆体、以下同様とする)の当量重量を示す。当量重量は、イオン交換基1当量あたりの陽イオン交換膜、もしくは陽イオン交換樹脂の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。このEW値が小さくなるにしたがって、イオン交換基が増加する。すなわち、EW値が小さくなるにしたがって、プロトン伝導性が高くなる。
【0031】
EW値の測定方法としては特に限定されないが、EW値は、例えばプロトンNMRスペクトル、元素分析、酸-塩基滴定等が挙げられる。この中でも、酸-塩基滴定を用いることがより好ましい。本実施の形態に係るEW値の測定方法として、希NaOH水溶液で滴定し求めることができる。また、フッ素系アイオノマーとして、例えばテトラフルオロエチレンとスルホニルフロリドビニルエーテルの共重合体のようにイオン交換基前駆体を有するフッ素系アイオノマーを使用する場合は、−SOF基を対応するスルホン酸−SOH基に変換し、希NaOH水溶液で滴定し求めることができる。
【0032】
図1〜図3に示される燃料電池用電解質膜1が本実施の形態に係るプロトン伝導性を有する固体酸型プロトン伝導性電解質膜であり、その厚みは限定的ではないが、通常約20〜1000μm程度、強度の点から、好ましくは、約30〜400μm程度であるのが良い。
【0033】
(固体酸)
固体酸としては、無機固体酸だけでなく有機固体酸であっても良いが、室温から200℃までの温度範囲、かつ無加湿雰囲気下であってもプロトン伝導性を有する固体酸を用いる。ここで、無加湿雰囲気下とは、固体酸が置かれた雰囲気中に意図的な加湿を行わないことを意味する。
【0034】
有機固体酸としては、スルホン酸基を有する有機酸であれば、特に限定されないが、有機固体酸として、例えば、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸等が挙げられる。あるいは複数のスルホン酸基を有する有機酸から選ばれる少なくとも一つであってもよい。またこれら2つ以上の混合物であってもよい。
【0035】
一方、無機固体酸は、プロトン伝導性を有する電解質であれば、特に限定されないが、無機固体酸として、ヘテロポリ酸と無機塩の複合体であるのが好ましい。
【0036】
上記複合体に用いられる無機塩としては、硫酸水素塩もしくはリン酸水素塩が挙げられる。硫酸水素塩としては、硫酸水素セシウム、硫酸水素カリウム等を挙げることができる。リン酸水素塩としては、リン酸水素セシウム等を挙げることができる。ヘテロポリ酸としてはタングストリン酸(HPW1240:WPA)等が挙げられる。また、硫酸水素塩やリン酸水素塩の代わりに炭酸セシウム(CsCO)、硫酸セシウム(CsSO)を用いてもよい。より好ましくは、硫酸水素塩とヘテロポリ酸の複合体であり、さらに好ましくは硫酸水素カリウムとタングストリン酸のメカノケミカル法による複合体である。また硫酸水素塩とリン酸水素塩を用いた硫酸水素セシウム−リン酸水素セシウム系複合体等も挙げられる。
【0037】
また本実施の形態に係る無機固体酸が、無機塩であっても良い。このような無機塩としては、例えば、金属リン酸塩、金属硫酸塩等が挙げられる。それらの中でも、特に、下記式(1)で表される金属リン酸塩であることが好ましい。
1−X ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti ,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、Nはドーピング 金属元素であり、Al,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0038】
上記(1)式に基づく金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。具体的には、リン酸スズ、リン酸ジルコニウム、リン酸セシウム 、リン酸タングステン等を挙げることができる。好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム、アルミニウムやアンチモン等のドーピング金属元素で置換されたピロリン酸塩であるのが良い。
【0039】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、1種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0040】
金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであれば、特に限定されない 。例えば、以下の金属元素からなる酸化物を挙げることができる。すなわち、Zr,Cs ,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg,W及びAl等の金属元素である。
【0041】
上記金属を主金属として、主金属と異なる金属をドープしてもよい。ドープ金属を用いた場合、上記主金属のうちリン酸塩としての安定性の点から、Sn,Cs,Ti及びZr を用いるのが望ましい。
【0042】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[M]及び[N]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[P]とした場合、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0043】
2<[P]/([M]+[N])≦4 ・・・(2)
より好ましくは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0044】
2.4≦[P]/([M]+[N])≦3.2 ・・・(3)
【0045】
上記式(2)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。上記式[P]/([M]+[N])の値が、2以下であると、金属リン酸塩上のリン酸量が少なくなり、プロトン伝導性が向上しない。一方、4を越えると、リン酸量が多すぎて大気中の水分の吸湿が高く成形体が脆くなるので形状が維持できないおそれがある。
【0046】
また、上記固体酸としては、セシウムリン酸、リン酸ケイ素(SiP27)又はセシウムリン酸とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いても良い。上記セシウムリン酸としては、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)等を挙げることができる。なお、セシウムリン酸、リン酸ケイ素及びそれらの複合体は、例えば、“Toshiaki Matsui, Tomokazu Kukino, Ryuji Kikuchi,and koichi Eguchi, The Electrochemical Society 153 (2) A339-A342頁(2006)”、或いは、“Toshiaki Matsui, Tomokazu Kukino, Ryuji Kikuchi, and koichi Eguchi, Electrochemical Acta 51 (2006) 3719-3723頁”等を参照して製造することができる。
【0047】
リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体は、例えば、以下のようにして作製する。
【0048】
まず、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を、以下のようにして作製する。炭酸セシウム(Cs2CO3)及び水を混合し、スターラー等を用いて撹拌子で撹拌する。次いで、液体リン酸を少量ずつ滴下し、100〜150℃の温度で、1〜3時間、撹拌しながら水を蒸発させる。その後、オーブンに入れて、例えば、100〜150℃の温度で乾燥する。乾燥する時間は、例えば、1日〜数日である。次いで、得られた生成物をめのう鉢で粉砕して粉末状にし、所望のリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を得ることができる。
【0049】
次に、リン酸ケイ素(SiP27)は、以下のようにして作製する。二酸化ケイ素(SiO2)と液体リン酸を混合した混合物をめのう鉢に入れ、水あめ状になるまで混ぜた後、アルミナ坩堝に入れて、100〜700℃の温度で焼成する。焼成する時間は、例えば、30〜80時間である。次いで、得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望のリン酸ケイ素(SiP27)を得ることができる。
【0050】
次に、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)と、リン酸ケイ素(SiP27)を所定のモル数で配合する。得られた混合物をポッドミルやボールミル等で分散させて、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を得る。分散時間は、例えば、1〜30時間である。リン酸二水素セシウム又は二リン酸五水素セシウムとリン酸ケイ素の配合量は、モル比で1:4〜2:1であることが好ましい。
【0051】
また、上記固体酸としては、カリウムリン酸、リン酸ケイ素(SiP27)又はカリウムリン酸とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いても良い。上記カリウムリン酸としては、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、二リン酸五水素カリウム(KH5(PO42)等を挙げることができる。リン酸二水素カリウム(KH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素カリウム(KH5(PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体は、炭酸セシウム(Cs2CO3)の替わりに炭酸カリウム(K2CO3)を用いる以外は、それぞれ上述したリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0052】
(バインダー)
バインダーは、イオン交換基当量重量が1000g/eq未満であるフッ素系アイオノマーを少なくとも含んだ材料であれば、特に限定されない。それらの中でも、pHが約1〜3程度における耐酸性、温度が約50〜300℃程度における耐熱性を有するものが好ましい。
【0053】
また、本実施形態に係るフッ素系アイオノマーのEW値は、1000g/eq未満であることが好ましく、950g/eq以下であることがより好ましい。プロトン伝導性を有する固体酸とEW値が1000未満のフッ素系アイオノマーを組み合わせた場合は、無加湿雰囲気下であっても電解質膜は良好なプロトン伝導性を示す。しかし、EW値が1000以上のフッ素系アイオノマーを組み合わせた場合、電解質膜のプロトン伝導性は、無加湿雰囲気下で使用可能な数値を示さない。このため、フッ素系アイオノマーのEW値は、1000g/eq未満であることが好ましい。
【0054】
フッ素系アイオノマーとしては、フマテック社のFumion(登録商標)、デュポン社のNafion(登録商標)、旭硝子社のフレミオン(登録商標)、旭化成社のアシプレックス(登録商標)、ソルベイソレクシス社のアクイヴィオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸系の共重合体及び該共重合体の前駆体であるテトラフルオロエチレンとスルホニルフロリドビニルエーテルの共重合体などが挙げられる。
【0055】
上記の各フッ素系アイオノマーのEW値を例示しておくと、フマテック社のFumion(登録商標)は800〜1200g/eq、Nafion(登録商標)は1000g/eq以上、旭硝子社のフレミオン(登録商標)は800〜900g/eq、ソルベイソレクシス社のアクイヴィオン(登録商標)は、800〜840g/eq等となっている。
【0056】
フッ素系アイオノマーとしては、テトラフルオロエチレンと、スルホニルフロリドビニルエーテルの一種であり下記式(4)で示される構造を有する1,1,2,2,−テトラフルオロ−2−[(トリフルオロエチニル)−オキシ]エタンスルホニルフロリドとの共重合体及び該共重合体の−SOF基が−SOH基に変換された共重合体を使用することが特に好ましい。
CF=CF(−O−CF−CF−SOF) ・・・(4)
例えば上述のアクイヴィオン(登録商標)は、テトラフルオロエチレンと式(4)で示されるモノマーとの共重合体において、−SOF基が−SOH基の形態となっている共重合体である。
【0057】
フッ素系アイオノマーのEW値は、アイオノマー中に占めるイオン交換基またはイオン交換基の前駆体を有するモノマー成分の比率を調整したり、短い側鎖を有するモノマーを使用したりする等、周知の方法により調整できる。例えばテトラフルオロエチレンと式(4)で示されるモノマーとの共重合体であれば、該共重合体における式(4)に示されるモノマーの含有量を14〜19モル%に調整することによってEW値を700〜900g/eqに調整することができる。
【0058】
バインダーは、1種類のみを用いても良いし、複数の種類を使用してもよい。
【0059】
バインダーとしてイオン交換基の前駆体を有するフッ素系アイオノマーを使用する場合は、電解質膜の製膜後にイオン交換基の形態の変換を行う。イオン交換基の形態の変換は、水酸化カリウム水溶液によって加水分解し、次いで硝酸によって再酸性化するなどの周知の方法により行うことが好ましい。さらに好ましくは、バインダーとして使用する前に予め変換を完了させておくのが良い。
【0060】
(燃料電池用電解質膜の製造方法)
本実施の形態に係る燃料電池用電解質膜の製造方法は、固体酸とフッ素系アイオノマーを混合してペーストを作成する工程と、ペーストをキャスト基材上に塗布して成形した後、乾燥する工程とを備える。以下、詳細に説明する。
【0061】
本実施の形態に係る無機固体酸として、例えば、ヘテロポリ酸の一種であるタングストリン酸と硫酸水素塩である硫酸水素カリウム(KHSO)の複合体を用いて、これを粉末状にしてバインダーを加えてペースト状にし、上記と同様の方法で電解質膜を製造することができる。タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体は、以下のようにして作製する。
【0062】
WPA(HPW1240:12タングスト(VI)リン酸n水和物)をあらかじめ温度60℃で約5〜24時間乾燥することにより、6水和物(WPA・6HO)にする。次いで、硫酸水素カリウム(KHSO)と前記WPA・6HOとボールをポットに入れる。その後、ボールミルで約720rpm、約10分混合することにより、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体が得られる。タングストリン酸と硫酸水素カリウムの配合量のモル比は、例えば、1:99〜40:60にして混合したものがよい。
【0063】
次に、上記で得られたタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を粉末状にし、バインダーを加えてペーストを作製することができる。
【0064】
上記ペーストは、バインダーの溶液もしくはディスパージョンに溶剤を加えて作製しても良い。溶剤は、バインダーを凝集させないものが用いられる。具体的にはメタノール、1−ブタノール、1−プロパノール等を挙げることができる。
【0065】
上記ペーストの配合比は、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体とバインダーの質量固形分比が10:1.5〜10:6であることが、自立性と性能の観点から好ましい。
【0066】
得られたペーストを分散機で混合・分散して電解質ペーストを得る。分散手法としては、スターラー分散、超音波分散、ホモゲナイザー分散、遊星ボールミル分散、ボールミル分散等を用いることができる。
【0067】
ところで、メカノケミカル法では、ボールミル等を用いたミリングによって得られる衝撃や磨砕等の大きな機械的エネルギーを利用することによって、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を合成している。したがって、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を作製する場合には、金属リン酸塩等のように高温プロセスを必要としないため、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0068】
上記ミリング処理により、WPAのケギンアニオンPW12403−とKHSOのHSOアニオンがブレンステッド酸−塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。硫酸水素塩とヘテロポリ酸をメカノケミカル法により複合化し、無機固体表面に欠陥構造やランダム構造を高密度に導入し、水素結合ネットワークを設計することが、広い温度範囲で高いプロトン伝導性を示す複合体を合成するための一つの重要な指針となる。
【0069】
次に、得られた電解質ペーストをキャスト基材上に所望の形状に塗布して成形した後、乾燥を行うことにより、燃料電池用電解質膜が得られる。
【0070】
電解質ペーストのキャスト基材上への形成方法としては、特に限定されるものではなく例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷、圧延法等の一般的な方法を適用することができる。厚塗りの場合は、圧延法を用いるのが好ましい。
【0071】
乾燥温度は、約50〜300℃程度、好ましくは約100〜250℃であるのが良い。乾燥温度が、約50℃程度より低いとペースト中に含まれる溶剤が除去できず、約300℃程度を超えるとバインダーが熱分解するおそれがあり好ましくない。また、乾燥時間は、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0072】
キャスト基材としては、電解質ペーストを塗工する支持体であれば、特に限定されないが、耐酸性・耐熱性に優れたものであるのが好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等が用いられる。このうち、後述する電解質膜の製造工程における寸法安定性、剥離性の点よりPTFE、ポリエステルが望ましい。また、電解質膜への剥離性を向上させるため、離型層・剥離層などを設けても良い。
【0073】
上記電解質膜のプロトン伝導性は、1.0×10−3 S/cm以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.0×10−2 S/cm以上である。電解質膜のプロトン伝導性が1.0×10−3 S/cm未満だと、燃料電池の電解質膜としての実用性が不十分となる。
【0074】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を提供することができる。
【0075】
[第2の実施の形態]
(燃料電池用触媒層・電解質膜積層体)
本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体は、図1に示すように、第1の実施の形態で示した燃料電池用電解質膜1と、一対の触媒層2、3とを備えており、燃料電池用電解質膜1が触媒層2、3に挟持されている。
【0076】
電解質膜としては、第1の実施の形態で示したプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を用いれば良いので、この説明は省略する。
【0077】
(触媒層)
本実施の形態における触媒層2、3は、触媒を含有した層であれば、特に限定されないが、第1の実施の形態で示した固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒で構成されるのが好ましい。
【0078】
本実施の形態に係る触媒層2、3は、前記で示した固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒で構成される。また、バインダーを含有してもよい。触媒層2、3の形成には、上記固体酸型プロトン伝導性電解質と触媒のみでも成形可能であるが、これらにバインダーを添加してペースト化したものを塗工・形成することにより、機械強度に優れた触媒層を得ることができる。固体酸型プロトン伝導性電解質、バインダーは、上記第1の実施の形態の説明でした材料と同じものを用いれば良いので、説明は省略する。
【0079】
触媒層2、3の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよいが、通常約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜1000μm程度であるのがよい。
【0080】
(触媒)
本実施の形態における触媒は、燃料電池におけるアノード及びカソード反応を促進する物質であれば、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン、白金―ルテニウム担持カーボン、金担持カーボン、銀担持カーボン、鉄―コバルト−ニッケル担持カーボンなどの金属担持カーボンやモリブデンカーバイド等の無機物質を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0081】
本実施の形態に係る燃料電池用触媒層・電解質膜積層体10は、ペースト状にした触媒を電解質膜上の両面に形成し、熱処理することにより触媒層を形成して製造することができる。
【0082】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜1.0mg/cm程度、好ましくは、約0.3〜0.6mg/cm程度であるのがよい。
【0083】
電解質膜への触媒ペーストの塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷、ブレードコート、ダイコート、スプレー塗工、ディスペンサー塗工、インクジェット塗工を用いることができる。このうち触媒ペーストの簡便さによりスクリーン印刷、ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0084】
熱処理温度は、約50〜300℃程度、好ましくは約100〜250℃であるのが良い。熱処理温度が、約50℃程度より低いと触媒ペーストに含まれる溶剤が除去できない。また約300℃を超えるとバインダーが熱分解するおそれがあり好ましくない。また、熱処理時間は、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0085】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層・電解質膜積層体10を提供することができる。
【0086】
[第3の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体)
本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体は、図2に示すように第1の実施の形態に記載の燃料電池用電解質膜1と、一対の触媒層付電極11、12とを備えており、燃料電池用電解質膜1が触媒層付電極11、12に挟持されている。
【0087】
電解質膜としては、第1の実施の形態において示した燃料電池用電解質膜1を用いればよい。
【0088】
触媒層付電極11、12は、図2に示すようにガス拡散層4、5と触媒層2、3の2層から構成されている。ガス拡散層4,5としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が用いられる。また、これらに撥水処理を行ったものを用いても良い。
【0089】
触媒層付電極11、12は、例えば、上記触媒ペーストをガス拡散層4、5上に塗布して形成することができ、燃料ガス、あるいは酸化剤ガスが流通できるようになっている。アノード極側触媒層付電極12は、燃料極であり、カソード側触媒層付電極11は、酸化剤極である。燃料極には水素の酸化反応を促進する触媒金属が付着されており、酸化剤極には酸素の還元反応を促進する触媒金属が付着している。
【0090】
触媒層付電極11、12の厚みは、ガス拡散層4、5の種類、電解質膜1の厚み等を考慮して適宜決定すれば良い。その厚みは、例えば、約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜1000μm程度である。
【0091】
また、ガス拡散層4,5に触媒ペーストを塗工した場合のしみこみを防ぐため平坦化層を設けたガス拡散層を用いることが望ましい。例えば、ガス拡散層の上に平坦化層を設け、平坦化層の上に触媒層を塗工形成することにより、触媒層付電極を得ることができる。
【0092】
本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体13は、第1の実施の形態で示したのと同様の燃料電池用電解質膜1を用いて、その両面に触媒層付電極11、12を圧着等により形成して製造することができる。
【0093】
本実施の形態によれば、再現性に優れ、良好な成形性を有し、機械強度に優れ、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体13を提供することができる。
【0094】
[第4の実施の形態]
(燃料電池)
本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池は、図3に示すように、第3の実施の形態で示した燃料電池用膜・電極接合体13と、一対のセパレータ6、7とを備える。燃料電池用膜・電極接合体13がセパレータ6、7に挟持されている。
【0095】
セパレータ6、7以外は、第3の実施の形態で示した燃料電池用膜・電極接合体13と同じであるので、説明は省略する。
【0096】
セパレータ6は、燃料をアノード側触媒層付電極12に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路8を有する。一方、セパレータ7は、酸化剤ガスをカソード側触媒層付電極11に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路9を有する。
【0097】
セパレータ6、7の材質としては、燃料電池21内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ6、7は、ステンレススチール等の金属により構成し、その金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0098】
なお、セパレータ6、7は、燃料電池21を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0099】
(動作原理)
燃料流路8に水素ガスあるいはメタノールなどの水素供給可能な燃料が、アノード側触媒層付電極12に供給され、この燃料からプロトン(H)と電子(e)が生成される。生成されたプロトンはプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1によってカソード側触媒層付電極11へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路9には空気あるいは酸素ガス等の酸化剤ガスがカソード側触媒層付電極11に供給され、燃料電池用電解質膜1によって搬送されてきたプロトンと外部回路30からくる電子と酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0100】
本実施の形態に係る燃料電池21は、第3の実施の形態で記載した燃料電池用膜・電極接合体に、公知の技術を用いて、触媒層付電極11上にセパレータ7を、触媒層付電極12上にセパレータ6を積層することにより、図3に示す燃料電池21を製造することができる。
【0101】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用電解質膜1を用いるので、安定性に優れ、高性能な燃料電池21を提供することができる。
【0102】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【実施例】
【0103】
[実施例1]
まず、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を以下のようにして作製した。タングストリン酸(WPA(12タングスト(VI)リン酸n水和物:ナカライテスク社製))をあらかじめ温度60℃で乾燥し、6水和物(WPA・6HO)とする。次いで、硫酸水素カリウム(KHSO:ナカライテスク社製)4gと前記タングストリン酸6水和物(WPA・6HO)4.458gとボールをポットに入れ、ボールミルで約720rpm、約10分混合し、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を得た。
【0104】
次に、得られたタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83-10E:Solvay Solexis社製)7.5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み350μmの電解質膜1を得た。
【0105】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。なお、JARIセル標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Auto mobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究及びPEFC材料(膜、触媒層付電極、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルである。
【0106】
[実施例2]
実施例1と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83-10E:Solvay Solexis社製)10gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み90μmの電解質膜1を得た。
【0107】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0108】
[実施例3]
実施例1と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5 gに、10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83−10E:Solvay Solexis社製)15gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み120μmの電解質膜1を得た。
【0109】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0110】
[実施例4]
実施例1と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5 gに、10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83-10E:Solvay Solexis社製)20gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み80μmの電解質膜1を得た。
【0111】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルをセル組みした。
【0112】
[実施例5]
実施例1と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83-10E:Solvay Solexis社製)30gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み155μmの電解質膜1を得た。
【0113】
得られた電解質膜1の両面に触媒層付電極11、12を接合して、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0114】
[比較例1]
10%アクイヴィオン(登録商標)ディスパージョン(DE83-10E:Solvay Solexis社製)を基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み22μmの電解質膜を得た。
【0115】
[比較例2]
20%Nafion溶液(登録商標:DuPont社、DE2020CS)を基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み30μmの電解質膜を得た。
【0116】
[比較例3]
タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を以下のようにして作製した。タングストリン酸(WPA(12タングスト(VI)リン酸n水和物:ナカライテスク社製))をあらかじめ温度60℃で乾燥し、6水和物(WPA・6HO)とする。次いで、硫酸水素カリウム(KHSO:ナカライテスク社製)4gと前記タングストリン酸6水和物(WPA・6HO)4.458gとボールをポットに入れ、ボールミルで約720rpm、約10分混合し、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体(WPA−KHSO)を得た。
【0117】
次に、得られたタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、20%Nafion(登録商標:DuPont社、DE2020CS)5gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み145μmの電解質膜を得た。
【0118】
[比較例4]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)0.83gと水20gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0119】
[比較例5]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)1.66gと水20gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0120】
[比較例6]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)2.49gと水20gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0121】
[比較例7]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)3.32gと水20gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0122】
[比較例8]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%酢酸セルロース溶液(ダイセル化学工業社製、LT-35)5.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0123】
[比較例9]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%酢酸セルロース溶液(ダイセル化学工業社製、LT-35)10.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0124】
[比較例10]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%エチルセルロース溶液(日新化成社製、EC100FTR)5.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0125】
[比較例11]
比較例3と同様のタングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体5gに、10%エチルセルロース溶液(日新化成社製、EC100FTR)10.0gを加えて、分散機で分散し電解質ペーストを作製した。この電解質ペーストを基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、厚み50μm)上にブレードコーターで塗工し、約70℃、約30分程度、乾燥し厚み100μmの電解質膜を得た。
【0126】
(自立性評価)
実施例1〜5、及び比較例1〜11で得られた電解質膜について、自立性を以下の方法により評価した。電解質膜を幅10mm、長さ50mmに切り抜き、基材から剥離できないものを自立性がないとし、剥離が可能なものは自立性があるとした。基材から膜として剥離できないと判定した電解質膜は、基材上の電解質が粘土状になっており、成形できていない状態であった。
【0127】
(プロトン伝導度測定)
実施例1〜5、及び比較例1〜11で得られた電解質膜について、プロトン伝導度を以下の方法により測定した。電解質膜を幅10mm、長さ50mmに切り抜き、電気化学測定装置(12528WB型:Solartron社)で交流インピーダンス負荷を行い、160℃かつ無加湿雰囲気下でのプロトン伝導度を測定した。この結果を表1に示す。
【表1】

【0128】
表1には、実施例1〜5、及び比較例1〜11の各例について、それぞれ固体酸、バインダー、種類、メーカー、EW値、バインダーの固形分、固体酸/バインダーの固形分比率、自立膜化、膜厚、プロトン伝導度の各項目が示されている。ここで、バインダーの欄に表示されているBD1はアクイヴィオン(登録商標)ディスパージョンを、BD2はNafion(登録商標)を、BD3はPTFEディスパージョンを、BD4は酢酸セルロースを、BD5はエチルセルロースを示す。また、EW値はバインダーのEW値を示す。自立膜化の欄でAを付しているのが、上記自立性の評価において自立性があると判定した電解質膜を、Bを付しているのが自立性がないと判定した電解質膜を示す。また、プロトン伝導度は、上記プロトン伝導度測定により測定された電解質膜のプロトン伝導度を示す。
【0129】
本発明の範囲内にある実施例1〜5で得られた電解質膜では、1.0×10−3S/cm以上のプロトン伝導度を示し、いずれの電解質膜も使用可能な性能を持つことを確認した。これに対して、比較例4〜11で得られた電解質膜は、自立膜化せず、プロトン伝導度を測定することが困難であることを確認した。
【0130】
また、比較例1〜3で得られた電解質膜は、自立膜化するものの、温度160℃、かつ無加湿雰囲気下において良好な性能を示さないことを確認した。
【0131】
比較例1〜2については、電解質膜にプロトン伝導性を有する固体酸が含まれていないため、表1からわかるように、プロトン伝導度が実施例1〜5と比較して数値が1桁〜2桁程度小さくなっている。また、比較例3では、電解質膜に実施例1〜5と同じ種類のプロトン伝導性を有する固体酸が含まれているが、EW値が1000g/eq以上のフッ素系アイオノマーのバインダーを用いているため、実施例1〜5と比較してプロトン伝導度の数値が1桁〜2桁程度小さくなっている。
【0132】
以上のように、プロトン伝導性を有する固体酸及びイオン交換基当量重量が1000g/eq未満のフッ素系アイオノマーの両方を用いていない比較例2は、無加湿雰囲気下では燃料電池として使用可能な数値を示さなかった。また、プロトン伝導性を有する固体酸、又はイオン交換基当量重量が1000g/eq未満のフッ素系アイオノマーのいずれかを用いていない比較例1、3も、無加湿雰囲気下では燃料電池として使用可能な数値を示さなかった。
【0133】
すなわち、EW値が1000g/eq未満のフッ素系アイオノマーとプロトン伝導性を有する固体酸とを組み合わせると、フッ素系アイオノマーと固体酸との相乗効果により、実施例1〜5のように、無加湿雰囲気下であっても燃料電池として使用可能なプロトン伝導性が現われるものと考えられる。
【0134】
また、これを理論的に考察すると、プロトン伝導性を有する固体酸にEW値が1000g/eq未満のフッ素系アイオノマーを添加した場合、フッ素系アイオノマーの−SOのアニオン量が、EW値が1000g/eq以上のフッ素系アイオノマーを添加した場合より多いため、−SOのアニオンと固体酸のKHSOのKカチオンとWPAのケギンアニオンPW12403−がネットワークを形成しやすくなり、これがプロトン伝導性の向上に寄与していると考えられる。
【0135】
以上のことから、本発明によるプロトン伝導性を有する電解質膜は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、機械強度に優れた、無加湿雰囲気下で高いプロトン伝導性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0136】
1 燃料電池用電解質膜
2 触媒層(カソード極側)
3 触媒層(アノード極側)
4 ガス拡散層(カソード極側)
5 ガス拡散層(アノード極側)
6 セパレータ(アノード極側)
7 セパレータ(カソード極側)
8 燃料流路
9 酸化剤ガス流路
10 燃料電池用触媒層・電解質膜積層体
11 触媒層付電極(カソード極側)
12 触媒層付電極(アノード極側)
13 燃料電池用膜・電極接合体
21 燃料電池
30 外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する固体酸により構成される電解質と、イオン交換基当量重量が1000g/eq未満であるフッ素系アイオノマーとを少なくとも含んだ材料で構成されたことを特徴とする燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
前記フッ素系アイオノマーがテトラフルオロエチレンとスルホニルフロリドビニルエーテルの共重合体及び該共重合体の−SOF基を−SOH基に変換した共重合体の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
前記スルホニルフロリドビニルエーテルが1,1,2,2,−テトラフルオロ−2−[(トリフルオロエチニル)−オキシ]エタンスルホニルフロリドであることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
前記固体酸が無機固体酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項5】
前記無機固体酸がヘテロポリ酸と無機塩の複合体からなることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項6】
前記無機固体酸が、タングストリン酸と硫酸水素カリウムの複合体、タングストリン酸と硫酸水素セシウムの複合体、タングストリン酸と硫酸セシウムの複合体のいずれかの複合体であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項7】
プロトン伝導度が、温度160℃及び無加湿雰囲気下において、1.0×10−3S/cm以上になることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜。
【請求項8】
プロトン伝導性を有する固体酸とフッ素系バインダーとを混合してペーストを作成する第1の工程と、
前記ペーストをキャスト基材上に塗布して成形する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記ペーストを乾燥させる第3の工程とを有することを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、
一対の触媒層とを備え、
前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層に挟持されたことを特徴とする燃料電池用触媒層・電解質膜積層体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質膜と、
一対の触媒層付電極とを備え、
前記燃料電池用電解質膜が前記触媒層付電極に挟持されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、
1対のセパレータとを備え、
前記燃料電池用膜・電極接合体が前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−49116(P2012−49116A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160784(P2011−160784)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】