説明

燃料電池用電解質膜

【課題】燃料電池用電解質膜において、含水量の変化や温度の変化による膨張・収縮を抑制しつつ、プロトン伝導性を向上させる。
【解決手段】燃料電池用電解質膜は、内部の空間を形成する外殻を貫通する複数の貫通孔を有する中空状の無機微粒子2と、無機微粒子2の内部および貫通孔に充填された電解質樹脂1と、無機微粒子2の内部に充填された電解質樹脂1と接触し、かつ、外殻の少なくとも一部を被覆する電解質層110と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行う燃料電池が注目されている。この燃料電池には、プロトン伝導性を有する電解質膜が用いられる。そして、電解質として、固体高分子を用いる場合、この電解質膜は、含水量の変化や温度の変化によって膨張・収縮し、これらは、電解質膜の劣化を招く。このため、電解質膜では、含水量の変化や温度の変化による膨張・収縮を抑制することが求められる。
【0003】
そこで、下記特許文献1に記載された技術では、燃料電池用電解質膜が、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填されたプロトン伝導性材料、および非プロトン伝導性ポリマーを含有することによって、水及び熱の収支変化による寸法変化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−117212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載された燃料電池用電解質膜では、電解質樹脂が充填された無機微粒子の内部におけるプロトン伝導性は高いものの、無機微粒子自体はプロトン伝導性を有していない。そして、互いに隣接するプロトン伝導性材料において、無機微粒子における貫通孔が形成された部位同士が接触していなければ、プロトンは、プロトン伝導性材料間を移動することができない。このため、互いに隣接するプロトン伝導性材料間におけるプロトン伝導性が低かった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池用電解質膜において、含水量の変化や温度の変化による膨張・収縮を抑制しつつ、プロトン伝導性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]燃料電池用電解質膜であって、中空状の無機微粒子であって、内部の空間を形成する外殻を貫通する複数の貫通孔を有する無機微粒子と、前記無機微粒子の内部および前記貫通孔に充填された電解質樹脂と、前記貫通孔に充填された前記電解質樹脂と接触し、かつ、前記外殻の少なくとも一部を被覆する電解質層と、を備える燃料電池用電解質膜。
【0009】
適用例1の燃料電池用電解質膜では、プロトン伝導性を有する電解質樹脂が無機微粒子の内部に充填されている。そして、無機微粒子は、含水量の変化によって、ほとんど膨張・収縮しない。また、一般に、無機微粒子の熱膨張係数は、電解質樹脂の熱膨張係数よりも低い。したがって、適用例1の燃料電池用電解質膜によって、含水量の変化や温度の変化による膜の膨張・収縮を抑制することができる。また、適用例1の燃料電池用電解質膜では、無機微粒子の外殻の少なくとも一部が電解質層によって被覆されており、この電解質層が貫通孔に充填された電解質樹脂と接触している。このため、無機微粒子の内部および貫通孔に充填された電解質樹脂中を通って、無機微粒子の内部から表面に移動したプロトンは、電解質層中を通って、隣接する無機微粒子の表面に移動し、さらに、その無機微粒子の貫通孔を通って、その内部に移動することができる。したがって、適用例1の燃料電池用電解質膜によって、電解質膜のプロトン伝導性を向上させることができる。つまり、適用例1の燃料電池用電解質膜によって、含水量の変化や温度の変化による膨張・収縮を抑制しつつ、プロトン伝導性を向上させることができる。
【0010】
なお、本適用例の燃料電池用電解質膜において、無機微粒子は、燃料電池用電解質膜の膜厚と比較して、十分に小さい粒径を有していればよく、例えば、無機微粒子の平均粒径は、0.05〜10(μm)とすることが好ましい。また、電解質層の厚さは、含水量の変化や温度の変化による膨潤・収縮が、燃料電池用電解質膜の膜厚にほとんど影響を与えない程度に薄くすることが好ましい。
【0011】
[適用例2]適用例1記載の燃料電池用電解質膜であって、前記電解質層は、前記外殻の全面を被覆する、燃料電池用電解質膜。
【0012】
こうすることによって、燃料電池用電解質膜のプロトン伝導性を、さらに向上させることができる。
【0013】
[適用例3]適用例1または2記載の燃料電池用電解質膜であって、前記無機微粒子は、シリカマイクロカプセルであり、前記電解質樹脂は、シリカ系電解質樹脂である、燃料電池用電解質膜。
【0014】
適用例3の燃料電池用電解質膜では、無機微粒子として、シリカマイクロカプセルを用いることによって、無機微粒子を、化学的に安定、かつ、剛直にすることができる。また、適用例2の燃料電池用電解質膜では、電解質樹脂として、シリカ系電解質樹脂を用いることによって、シリカマイクロカプセルの内部および貫通孔に電解質樹脂を充填する際に、電解質樹脂の原料となるモノマーを充填して、容易に重合反応を起こし、電解質樹脂を合成することができる。また、シリカ系電解質樹脂の原料となるモノマーは、シリカマイクロカプセルとの親和性が高いので、シリカマイクロカプセルの内部および貫通孔に、容易に充填することができる。
【0015】
[適用例4]適用例3記載の燃料電池用電解質膜であって、前記電解質層は、ユニット中に2つ以上のSi−O結合を有するSi系材料からなる、燃料電池用電解質膜。
【0016】
上記電解質層として、ユニット中に2つ以上のSi−O結合を有するSi系材料を用いることによって、電解質層とシリカマイクロカプセルとの親和性を向上させることができる。
【0017】
本発明は、上述の燃料電池用電解質膜としての構成の他、燃料電池用電解質膜の製造方法の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池用電解質膜の一部を模式的に示す説明図である。
【図2】プロトン伝導性材料100の構造を示す説明図である。
【図3】プロトン伝導性材料100を被覆する電解質層110におけるスルホン酸の密度が異なる電解質膜についての相対湿度と電解質膜のプロトン伝導率との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.燃料電池用電解質膜:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池用電解質膜の一部を模式的に示す説明図である。本実施例の燃料電池用電解質膜は、微粒子状のプロトン伝導性材料100と、プロトン伝導性材料100の表面を被覆する電解質層110と、を備えている。なお、本実施例では、電解質層110は、プロトン伝導性材料100の表面のほぼ全面を被覆するものとしたが、プロトン伝導性材料100の表面の一部を被覆するものとしてもよい。
【0020】
プロトン伝導性材料100は、電解質樹脂1と、無機微粒子2とからなる。無機微粒子2は、中空形状を有するとともに、内部の空間を形成する外殻に、この外殻を貫通する無数の貫通孔を有している。そして、無機微粒子2の内部および貫通孔には、電解質樹脂1が充填されている。なお、プロトン伝導性材料100において、無機微粒子2の貫通孔に充填された電解質樹脂1と電解質層110とは、接触している。電解質樹脂1、および、無機微粒子2については、後から詳述する。
【0021】
電解質層110に用いられる電解質材料としては、種々の固体高分子電解質を用いることができる。本実施例では、後述するように、無機微粒子2として、シリカマイクロカプセルを用いており、シリカマイクロカプセルと電解質層110との親和性を向上させるために、電解質材料として、ユニット中に2つ以上のSi−O結合を有するSi系材料である(HO)Si(CHSOHを用いるものとした。
【0022】
B.プロトン伝導性材料:
図2は、プロトン伝導性材料100の構造を示す説明図である。プロトン伝導性材料100を輪切りにしたときの様子を示した。また、図2の右下円内に、プロトン伝導性材料100の断面を拡大して示すとともに、併せて、電解質樹脂1の構造式を模式的に示した。この図において、ケイ素原子(Si)とスルホン酸基(−SOH)とをつなぐ折れ線はアルキル鎖を表している。
【0023】
図示するように、電解質樹脂1は、Si−O骨格を有している。また、電解質樹脂1は、プロトン伝導性を有するスルホン酸基を備えている。スルホン酸基は、図2の右下円内に示したように、無機微粒子2の貫通孔を通じてプロトン伝導性材料100表面に露出している。
【0024】
Si−O骨格を有する電解質樹脂としては、例えば、モノマーを重合することによってSi−O骨格が形成されるポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、無機微粒子2に電解質樹脂の原料となるモノマーを充填し、重合して電解質樹脂1を合成する際に、重合反応を容易に起こすことができる。また、このモノマーは、無機微粒子2との親和性が高く、無機微粒子2に充填することが容易であるため、プロトン伝導性材料100の作製を迅速に行うことができる。さらに、電解質樹脂1がSi−O骨格という強固なポリマー鎖を有することで、プロトン伝導性基(スルホン酸基)がプロトン伝導性材料100の外へ漏れ出すことを抑制することができる。ここでいうモノマーの重合は、付加重合、および、重縮合を含む。
【0025】
上述したモノマーとしては、中空状の無機微粒子2の内部および貫通孔内に充填すべき電解質樹脂1の繰り返し単位となる化合物が用いられる。例えば、従来から固体高分子型燃料電池の分野で用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸を無機微粒子2に充填したい場合には、フルオロエチレン等のフルオロカーボン骨格を形成するモノマーを用いることができる。
【0026】
Si−O骨格を有する電解質樹脂1を無機微粒子2に充填したい場合には、スルホン酸基、または、その前駆体基を有するヒドロカーボンオキシシラン化合物、および/または、シラノール化合物を用いることができる。ここで用い得るヒドロカーボンオキシシラン化合物とは、スルホン酸基、または、その前駆体基がケイ素原子に、直接的、または、間接的に結合すると共に、異種原子を含んでいてもよいヒドロカーボンオキシ基が同じケイ素原子に結合した構造を有する化合物である。ヒドロカーボンオキシ基とは、例えば、アルコキシ基、または、アリールオキシ基のように、脂肪族、または、芳香族の炭化水素基に酸素原子が結合した構造を有し、酸素原子がケイ素原子に対し結合する基である。ヒドロカーボンオキシ基は、異種原子を含んでいてもよい。スルホン酸基、または、その前駆体基がケイ素原子に間接的に結合する場合には、例えば、脂肪族、または、芳香族の炭化水素基を介して結合していてもよく、この炭化水素基は、異種原子を含んでいてもよい。また、ここで用い得るシラノール化合物とは、スルホン酸基、または、その前駆体基がケイ素原子に、直接的、または、間接的に結合すると共に、水酸基が同じケイ素原子に結合した構造を有する化合物である。
【0027】
上記ヒドロカーボンオキシシラン化合物、および/または、上記シラノール化合物としては、例えば、Si原子に、スルホン酸炭化水素基(異種原子を含んでいてもよい)と、水酸基(−OH)、および/または、アルコキシ基、若しくは、アリールオキシ基(異種原子を含んでいてもよい)とが結合したケイ素化合物が好ましく用いられる。より具体的には、下記式(1)、式(2)および式(3)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0028】
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であり、かつ、n=1〜4である。)
【0029】
スルホン酸基の前駆体基を有するモノマーとしては、上述したスルホン酸基を有するモノマーに誘導可能な化合物を用いることができ、例えば、上記式(1)、式(2)、および、式(3)に対応するモノマーとしては、下記式(4)、式(5)、および、式(6)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0030】
【化2】

(式中、R〜Rは、互いに独立であり、水素原子、異種原子を含んでいてもよく、好ましくは、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、および、異種原子を含んでいてもよく、好ましくは、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される官能基である。また、n=1〜4である。X1〜X4は、互いに独立であり、チオール基、スルフィニル基、スルホン酸フルオリド、スルホン酸クロリド、スルホン酸ブロミド、スルホン酸ヨージド、スルホン酸リチウム、スルホン酸カリウム、または、スルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基の前駆体基のうちのいずれかから選択される官能基である。)
【0031】
なお、前記電解質樹脂1の合成に際し、2種類以上のモノマーを用いるようにしてもよい。
【0032】
スルホン酸基の前駆体基をスルホン酸基に変換する方法としては、種々の方法が挙げられる。例えば、前駆体基がチオール基、スルフィニル基の場合には、これらに過酸化水素水等の酸化剤を加えることによって、スルホン酸基に変換することができる。また、前駆体基がスルホン酸フルオリド、スルホン酸クロリド、スルホン酸ブロミド、スルホン酸ヨージド、スルホン酸リチウム、スルホン酸カリウム、または、スルホン酸ナトリウム等の場合には、これらに、塩酸若しくは硫酸等の酸、または、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基を加えることによって、スルホン酸基に変換することができる。スルホン酸基の前駆体基は、上述したものに限らず、例えば、上記式(4)ないし(6)中のX1〜X4が末端オレフィンである場合も含む。この場合には、三酸化硫黄を作用させた後塩基処理することによって、末端にスルホン酸基を有するアルキル基へと変換することができる。
【0033】
電解質樹脂1としては、その他にも、通常、燃料電池において使用される高分子電解質を用いることができる。ここでいう高分子電解質とは、ナフィオン(商品名)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のようなフッ素系高分子電解質の他、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラフェニレン等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用プラスチック等の炭化水素系高分子にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ボロン酸基等のプロトン酸基(プロトン伝導性基)を導入した炭化水素系高分子電解質が挙げられる。
【0034】
無機微粒子2は、粒子内部に十分な充填量を確保することができ、かつ、電解質樹脂1の原料となるモノマーの充填時に、流動に対する内部抵抗が小さく、充填しやすいことが好ましい。なお、無機微粒子2は、完全な中空体に限定されるわけではなく、柱上、隔壁状の内部組織を若干有していてもよい。
【0035】
また、無機微粒子2が有する貫通孔は、電解質樹脂1の原料となるモノマーの充填時に流動に対する抵抗が小さくて充填しやすいこと、かつ、粒子内部でモノマーが付加重合、または、重縮合されて生成した電解質樹脂1が流出し難い、適切な範囲の大きさを有することが好ましい。
【0036】
上述した無機微粒子2の内部および貫通孔の性質を満たすために、無機微粒子2は、SiOであることが好ましい。プロトン伝導性材料100は、SiOによる剛直な殻を有することから機械的特性に優れるという利点もある。
【0037】
無機微粒子2としては、主成分がSiOであるシリカマイクロカプセル(商品名:ワシンマイクロカプセル)を用いるのが好ましいが、無機微粒子2として、他の無機微粒子多孔質中空体を用いてもよい。具体的には、SiOの他に、シルセスオキサンやゼオライト等が挙げられる。
【0038】
無機微粒子2は、例えば、以下の工程によって作製される。すなわち、カチオン界面活性基を有するビニルモノマー共存下で、スチレンモノマーを重合させて、表面にイオン性基を有するポリスチレン微粒子を得る。そのポリスチレン微粒子にテトラエトキシシランを加水分解縮合反応させ、ポリスチレン微粒子表面にシリカを形成する。次にポリスチレンを溶媒で溶解除去することによって、中空のシリカマイクロカプセルを得る。
【0039】
なお、プロトン伝導性材料100の平均粒径は、0.05〜10(μm)であることが好ましい。プロトン伝導性材料100の平均粒径が0.05(μm)未満では、十分量充填された電解質樹脂を保持するだけの十分な大きさではない。一方、プロトン伝導性材料100の平均粒径が10(μm)を超えると、適切な厚さの電解質膜を作製することが困難になる。さらに、粒子の破壊を回避する観点から、無機微粒子2のかさ密度を、無機微粒子2の真密度の5(%)以上とすることが好ましい。
【0040】
C.非プロトン伝導性ポリマー:
本実施例の電解質膜は、上述したプロトン伝導性材料100と共に、プロトン伝導性基を有しない非プロトン伝導性ポリマーを含んでいる。この非プロトン伝導性ポリマーは特定のポリマーに限られないため、ポリマー選択の自由度が高い。
【0041】
非プロトン伝導性ポリマーの種類は、燃料電池の用途・目的に合わせて、適宜、選択することによって、最適な電解質膜を得ることができる。非プロトン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラフェニレン等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の汎用プラスチック等の炭化水素系高分子、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)等のフッ素樹脂等を用いることができる。また、これらのうち複数種類をプロトン伝導性材料100と混合して電解質膜に用いることもできる。
【0042】
電解質膜の製膜方法としては、適切な溶媒に非プロトン伝導性ポリマー等を溶解した後、プロトン伝導性材料100を加え、超音波ホモジナイザー等で単分散させ、その溶液をガラス板等の平滑面上にキャストした後に、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス気流下において乾燥を行うのが好ましい。なお、溶媒が膜内に残る場合には、高温真空乾燥を行うこともできる。この時、溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)等、または、これらの混合溶媒を用いることができる。電解質膜の製膜方法としては、この他にも、従来用いられている方法を採用することができ、その主なものとしては、溶融押し出し法、ドクターブレード法等が挙げられる。
【0043】
このような構成の電解質膜は、電解質膜が含有するプロトン伝導性材料100において、プロトン伝導性材料100の外殻である無機微粒子2の内部および貫通孔内に充填された電解質樹脂1の末端の無数のプロトン伝導性基が、無機微粒子2の貫通孔から露出しているので、プロトン伝導性が高い。また、電解質樹脂1が無機微粒子2に閉じ込められているので、プロトン伝導性材料100の膨潤・収縮がほとんど無く、電解質膜の水及び熱の収支による寸法変化を抑制することができる。また、プロトン伝導基を電解質樹脂1の構造中に多量に導入するというような、通常ならば流動性が高い状態であっても、本実施例では、無機微粒子2の内部および貫通孔内に保持されるので、プロトン伝導性材料100において、形状保持性、および、プロトン伝導性の両方の向上を達成することができる。
【0044】
さらに、電解質膜を製膜するためのバインダー樹脂として、水による膨潤・収縮のおそれがない非プロトン伝導性ポリマーを用いることによって、電解質膜の水及び熱の収支による寸法変化を抑制することができる。また、非プロトン伝導性ポリマーは、特定のポリマーに限られないため、ポリマー選択の自由度が高く、ポリマーの種類を適宜選択することによって、燃料電池の用途・目的に合わせて最適な電解質膜を得ることができる。
【0045】
さらに、プロトン伝導性材料100の外殻である無機微粒子2を、化学的に安定かつ剛直な無機材料であるSiOとすることによって、水及び熱の収支によって膨張・収縮することなく、プロトン伝導性材料100の形状を保持することができる。
【0046】
そして、先に説明した平均粒径を有するプロトン伝導性材料100は、適切な厚さの電解質膜等への利用に最適であり、かつ、無機微粒子2の内部および貫通孔に、十分量の電解質樹脂1を充填することができる。
【0047】
D.プロトン伝導性材料の製造方法:
本実施例のプロトン伝導性材料100の製造方法の一例について説明する。無機微粒子2としてのシリカマイクロカプセルを、イオン交換水に分散させる。この溶液に、スルホン酸基を有するモノマーとして、3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパンスルホン酸溶液(Gelest製)を加える。その後、シリカマイクロカプセルに上記モノマーを充填するために、加熱減圧処理を行う。続いて、溶液中の水を常温で減圧除去し、加熱処理を行い、モノマーの重合を行う。その後、イオン交換水による洗浄を行い、減圧乾燥を行う。以上の工程によって、プロトン伝導性材料100を製造することができる。
【0048】
E.電解質膜の製造方法:
本実施例の燃料電池用電解質膜の製造方法の一例について説明する。上述したプロトン伝導性材料100と、電解質材料としての(HO)Si(CHSOHとを水に分散させる。そして、これらを撹拌して、(HO)Si(CHSOHを加水分解処理することによって、プロトン伝導性材料100の表面に電解質層110を形成する。その後、これらを加熱乾燥する。
【0049】
このようにして得られたサンプル(電解質層110が形成されたプロトン伝導性材料100)を、ポリビニリデンフルオライド・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)をジメチルアセトアミド(DMA)に溶解させた溶液に加えて撹拌する。その後、上記サンプルが分散した溶液をテフロンシャーレ(テフロンは、登録商標)にキャストして乾燥させる。以上の工程によって、本実施例の燃料電池用電解質膜を製造することができる。
【0050】
F.電解質膜のプロトン伝導率:
図3は、プロトン伝導性材料100を被覆する電解質層110におけるスルホン酸の密度が異なる電解質膜についての相対湿度と電解質膜のプロトン伝導率との関係を示す説明図である。電解質層110が被覆されていないプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜と、スルホン酸の密度が比較的低い電解質層110が被覆されたプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜と、スルホン酸の密度が比較的高い電解質層110が被覆されたプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜についてのプロトン伝導率σを示した。
【0051】
図から分かるように、相対湿度が40(%)以上の場合、電解質層110が被覆されていないプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜よりも、電解質層110が被覆されたプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜の方が、プロトン伝導率σが高くなった。また。スルホン酸の密度が比較的低い電解質層110が被覆されたプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜よりも、スルホン酸の密度が比較的高い電解質層110が被覆されたプロトン伝導性材料100を用いて製造された電解質膜の方が、プロトン伝導率σが高くなった。これは、電解質層110に含まれるスルホン酸よって、隣接するプロトン伝導性材料100間におけるプロトンの移動抵抗が低下するためと考えられる。
【0052】
以上説明した本実施例の燃料電池用電解質膜では、プロトン伝導性を有する電解質樹脂1が無機微粒子2の内部に充填されている。そして、無機微粒子2は、含水量の変化によって、ほとんど膨張・収縮しない。また、一般に、無機微粒子2の熱膨張係数は、電解質樹脂1の熱膨張係数よりも低い。したがって、本実施例の燃料電池用電解質膜によって、含水量の変化や温度の変化による膜の膨張・収縮を抑制することができる。また、本実施例の燃料電池用電解質膜では、無機微粒子2の外殻が電解質層110によって被覆されており、この電解質層110が無機微粒子2の貫通孔に充填された電解質樹脂1と接触している。このため、無機微粒子2の内部および貫通孔に充填された電解質樹脂1中を通って、無機微粒子2の内部から表面に移動したプロトンは、無機微粒子2の表面を被覆する電解質層110中を通って、隣接する無機微粒子2の表面に移動し、さらに、その無機微粒子2の貫通孔を通って、その内部に移動することができる。したがって、本実施例の燃料電池用電解質膜によって、電解質膜のプロトン伝導性を向上させることができる。つまり、本実施例の燃料電池用電解質膜によって、含水量の変化や温度の変化による膨張・収縮を抑制しつつ、プロトン伝導性を向上させることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…電解質樹脂
2…無機微粒子
100…プロトン伝導性材料
110…電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電解質膜であって、
中空状の無機微粒子であって、内部の空間を形成する外殻を貫通する複数の貫通孔を有する無機微粒子と、
前記無機微粒子の内部および前記貫通孔に充填された電解質樹脂と、
前記貫通孔に充填された前記電解質樹脂と接触し、かつ、前記外殻の少なくとも一部を被覆する電解質層と、
を備える燃料電池用電解質膜。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用電解質膜であって、
前記電解質層は、前記外殻の全面を被覆する、
燃料電池用電解質膜。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池用電解質膜であって、
前記無機微粒子は、シリカマイクロカプセルであり、
前記電解質樹脂は、シリカ系電解質樹脂である、
燃料電池用電解質膜。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池用電解質膜であって、
前記電解質層は、ユニット中に2つ以上のSi−O結合を有するSi系材料からなる、
燃料電池用電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−134462(P2011−134462A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290433(P2009−290433)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】