燃料電池素材の加圧方法
【課題】膜電極接合体またはガス拡散層の空気出口側の気孔率が、空気入口側よりも相対的に高めに維持することができ、空気出口側の水の排出性を確保することができ、燃料電池の発電性能を向上させるのに有利な燃料電池素材の加圧方法を提供する。
【解決手段】MEA30を第1加圧体300及び第2加圧体400で挟んで厚み方向に加圧する。加圧工程では、膜電極接合体100またはガス拡散層の空気出口側の加圧量を、MEA30の空気入口側の加圧量よりも少なく設定する。第1加圧体300と第2加圧体400との間にスペーサ60を介在させることができる。
【解決手段】MEA30を第1加圧体300及び第2加圧体400で挟んで厚み方向に加圧する。加圧工程では、膜電極接合体100またはガス拡散層の空気出口側の加圧量を、MEA30の空気入口側の加圧量よりも少なく設定する。第1加圧体300と第2加圧体400との間にスペーサ60を介在させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜電極接合体やガス拡散層等の燃料電池素材を製造する加圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極接合体(以下、MEA(membrane electrode assembly)ともいう)は、酸化剤含有ガスとしての空気が導入される空気極(酸化剤極)と、燃料が導入される燃料極とで電解膜を挟持したものである。空気極は、空気が拡散されるガス拡散層を備える。燃料極は、燃料が拡散されるガス拡散層を備える。
【0003】
燃料電池においては、発電時に電解質膜を透過してきたプロトンは、電解質膜と空気極との界面に存在する触媒層で酸素との反応が進む。空気極側では発電反応に起因して水が生成される。特に、燃料電池の高電流密度領域では、空気極側において水が増加するため、フラッディング現象が生じることがある。フラッディング現象は水がガス流路を塞ぐことをいう。この現象が生じると、空気極内を拡散してきた酸素ガスと触媒との反応性が低下し、燃料電池の出力密度が低下し、電池性能が不安定化される要因となる。このフラッディング現象を抑制するために、従来、電解質膜と接触する触媒層側からガス拡散層側に向かって、撥水剤濃度を減少させる方法(特許文献1)、空気極の触媒層の撥水性を低くして水の排出を容易にする方法(特許文献2)が開発されている。
【特許文献1】特開2003−109604号公報
【特許文献2】特開平6−52871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池によれば、前述したように、MEAの空気出口側においては水の量が増加するため、フラッディング現象が生じやすい。即ち、MEAの空気出口側において、触媒が水没したり、ガス拡散層の空気流路、触媒層の空気流路が水により閉塞される傾向がある。このため燃料電池の発電性能の向上には限界がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、膜電極接合体(MEA)またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率を、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定することができ、これにより酸化剤ガス出口側の水の排出性を確保することができ、燃料電池の発電性能を向上させるのに有利な燃料電池素材の加圧方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、加圧工程では、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とするものである。燃料電池素材としては膜電極接合体またはガス拡散層が挙げられる。
【0007】
第1発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定される。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【0008】
(2)第2発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、加圧に先立ち、スペーサをこれが第1加圧体と第2加圧体との間に位置するように膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置し、加圧工程では、スペーサにより、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とするものである。
【0009】
第2発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、加圧に先立ち、スペーサをこれが第1加圧体と第2加圧体との間に位置するように膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置する。そして加圧工程では、スペーサにより、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定される。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【0010】
スペーサの形状、構造、材質としては特に限定されるものではなく、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定できるものであれば、何でも良い。スペーサの材質は特に限定されないが、金属(例えばステンレス等の合金)、セラミックス(例えば窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素等)等のように硬い材質、耐食性が良い材質をもつものを例示できる。スペーサとしては、加圧方向と交差する方向(例えば、酸化剤ガス出口側と酸化剤ガス入口側とを仮想的に結ぶ方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。この場合、酸化剤ガス出口側の加圧量を調整するのに有利である。
【0011】
(3)第3発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、第1加圧体の第1加圧面及び第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
第3発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように、第1加圧体の第1加圧面及び第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は設定されている。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率を、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに維持することができる。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側において、水の排出性を確保することができ、フラッディング現象を抑制することができる。よって燃料電池の発電性能の向上に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
各本発明によれば、好ましくは、第1加圧体及び第2加圧体は、上下方向に開閉可能な構造、または、回転ロール構造とされている。以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は実施形態1の概念を示す。図1に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Aを有する第1加圧体300Aと、第2加圧面410Aを有する第2加圧体400Aとを用意する。第1加圧体300Aは昇降可能である。第2加圧体400Aは固定されている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300Aの第1加圧面310A及び第2加圧体400Aの第2加圧面410Aで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。加圧に先立ち、加圧量を規制する加圧量規制手段として機能するスペーサ60Aを、第1加圧体300Aと第2加圧体400Aとの間に位置させる。スペーサ60Aは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側(酸化剤ガス入口側)ではなく、空気出口側(酸化剤ガス出口側)に配置される。スペーサ60Aの上面60uは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の上面よりも上方に突出している。
【0016】
そして加圧工程では、スペーサ60Aによる加圧量規制効果に基づき、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量(圧縮量)Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量(圧縮量)Pinよりも少なく設定される。
【0017】
これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって空気出口側のフラッディング現象が抑制される。スペーサ60Aは、加圧方向と交差する方向(矢印X1,X2方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。これにより空気出口側の加圧量を調整できる。矢印X1方向は膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央に近づく方向を示す。矢印X2方向は膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央から離間する方向を示す。スペーサ60Aの材質は特に限定されないが、金属、セラミックス等のように硬い材質をもつものを例示できる。膜電極接合体100またはガス拡散層200について、(空気出口部の気孔率/空気入口部の気孔率)の比率をβとすると、βとしては、1.02〜2、あるいは1.02〜1.4、あるいは1.02〜1.2とすることができる。
【0018】
(実施形態2)
図2は実施形態2の概念を示す。図2に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Bを有する第1加圧体300Bと、第2加圧面410Bを有する第2加圧体400Bとを用意する。第1加圧体300B及び第2加圧体400Bはロール状とされており、回転ロール方式とされている。一般的には、第1加圧体300Bを矢印K1方向に回転させつつ第2加圧体400Bを矢印K2方向に回転させる。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を、第1加圧体300Bの第1加圧面310B及び第2加圧体400Bの第2加圧面410Bとの間に挿入することにより、厚み方向(矢印T方向)にロール加圧する加圧工程を実施する。ロール加圧にあたり、スペーサ60Bをこれが第1加圧体300Bと第2加圧体400Bとの間に位置させる。スペーサ60Bは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側に配置される。
【0019】
そして加圧工程では、スペーサ60Bによる加圧量規制効果に基づいて、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。スペーサ60Bは、加圧方向と交差する方向(矢印Y1,Y2方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。これにより空気出口側の加圧量を調整できる。矢印Y1方向は、第1加圧体300B及び第2加圧体400Bの軸長方向に沿って膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央に近づく方向を示す。矢印Y2方向は、第1加圧体300B及び第2加圧体400Bの軸長方向に沿って膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央から離間する方向を示す。スペーサ60Bの材質は特に限定されないが、金属、セラミックス等のように硬い材質をもつものを例示できる。
【0020】
(実施形態3)
図3は実施形態3の概念を示す。図3に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Cを有する第1加圧体300Cと、第2加圧面410Cを有する第2加圧体400Cとを用意する。第1加圧体300Cは昇降可能である。第2加圧体400Cは固定されている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300C及び第2加圧体400Cで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されている。この結果、第1加圧面310Cについては、空気出口側を加圧する部分312Cは、空気入口側を加圧する部分313Cよりも、上方(矢印U方向)に退避している。第2加圧体400Cの第2加圧面410Cは、仮想水平線P1に沿っている。
【0021】
このように角度θ1傾斜しているため、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。即ち、前述したように、第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側が上方(矢印U方向)に退避するような表面を有するように設定されている。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保され、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。なお、図3では第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されているが、これに限らず、空気出口側の加圧量(圧縮量)を小さくするように、第2加圧体400Cの第2加圧面410Cが仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されていても良い。
【0022】
(実施形態4)
図4は実施形態4の概念を示す。図4に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Dを有する第1加圧体300Dと、第2加圧面410Dを有する第2加圧体400Dとを用意する。第1加圧体300D及び第2加圧体400Dはロール状であり、回転ロール方式とされている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を、第1加圧体300D及び第2加圧体400Dで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。第1加圧体300Dの軸芯M1と、第2加圧体400Dの軸芯M2とは、相対的に角度θ2傾斜している。従って、第1加圧体300Dの第1加圧面310Dと第2加圧体400Dの第2加圧面410Dとの隙間をαとすると、隙間αは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側において、空気入口側よりも相対的に大きく設定されている。この結果、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保され、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。
【0023】
(実施形態5)
図5は実施形態5の概念を示す。図5に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Eを有する第1加圧体300Eと、第2加圧面410Eを有する第2加圧体400Eとを用意する。第1加圧体300Eは昇降可能である。第2加圧体400Eは固定されている。第1加圧体300Eの第1加圧面310Eについては、空気出口側に対面する面312Eは、空気入口側に対面する面313Eよりも上方(矢印U方向)にΔγ退避している。第2加圧体400Eの第2加圧面410Eは、仮想水平線P1に沿っている。
【0024】
そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300E及び第2加圧体400Eで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。このようにΔγ退避しているため、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって空気出口側のフラッディング現象が抑制される。なお、図5では第1加圧体300Eの第1加圧面310Eのうち面312Eは、上方(矢印U方向)にΔγ退避しているが、これに限らず、空気出口側の加圧量を小さくさせるように、第2加圧体400Eの第2加圧面410Eが下方(矢印D方向)にΔγ退避していても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。本実施例は固定高分子型の燃料電池に適用している。
(1)ガス拡散層の形成
1000gの水に300gのカーボンブラック(導電性物質)を混入し、混入液を形成した。この混入液を攪拌機により10分間攪拌した。更に、撥水剤として機能できるPTFE(ダイキン工業株式会社製のテトラフルオロエチレン)を含有する濃度が60重量%のディパージョン原液(商品名:POLYFLON Dlグレード)250gを、混入液に添加した。これを更に10分間攪拌して、カーボンインクを形成した。そして、ガス拡散層の基材であるカーボンペーパー(東レ株式会社製、トレカTGP−060、厚さ180μm)を上記カーボンインクに投入した。これによりカーボンペーパーに充分に、PTFEを含むディスパージョン原液(撥水剤)を含浸させた。次に、80℃の温度に保った乾燥炉を用い、ディスパージョン原液(撥水剤)を含浸したカーボンペーパーの余分な水分を乾燥炉で蒸発させた。その後、焼結温度390℃で60分間保持して、PTFEを焼結し、撥水カーボンペーパーを2個作製し、図6(A)に示すように、燃料極用のガス拡散層10及び酸化剤極用のガス拡散層11とした。
【0026】
(2)触媒ペーストの形成
白金担持濃度が55wt%の白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製、TEClOE60E)を用いた。白金担持カ一ボンは、触媒である白金を担持したカーボン微小体(導電性微小体)である。そして白金担持カーボン12gと、5wt%濃度のイオン交換樹脂溶液(旭化成工業株式会社製、SS−1080)127gと、溶媒としての水23gと、成形助剤としてのイソプロピルアルコール23gとを充分に混合し、酸化剤極用の触媒ペーストを製作した。前記したイオン交換樹脂溶液は、イオン伝導性(プロトン伝導性)をもつ炭化フッ素系の電解質ポリマー(ガラス転移温度:120℃)を主要成分としており、これを液状媒体としての水とエタノールとの混合溶液に溶解または分散させたものである。具体的には、本実施例によれば、炭化フッ素系の電解質ポリマーは、パーフルオロスルホン酸を主成分としている。
【0027】
(3)積層体の形成
ドクターブレード法によリ、上記した触媒ペーストをフッ素樹脂製のシート13に塗布して酸化剤極用の触媒層14を形成した(図6(B)参照)。この場合、触媒層14において、単位面積当たりの白金担持量が0.6mg/cm2になるようにした。その後、触媒層14を乾燥させて、酸化剤極シート15とした(図6(B)参照))。
【0028】
また、燃料極用の触媒金属として、白金担持カーボンの代わりに白金ルテニウム合金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製、TEC61E54)を用いた。そして白金ルテニウム合金担持カーボンを用い、前述と同様な方法によって、燃料極用の触媒ペーストを形成した。この場合、白金ルテニウム合金担持カーボンにおいて、白金の担持濃度は30wt%であり、ルテニウムの担持濃度は23wt%である。これは、白金とルテニウムとを担持したカーボン微小体(導電性微小体)である。この触媒ペーストをドクタープレード法によリフッ素樹脂製のシート17に塗布し、燃料極用の触媒層18(図6(B)参照)を形成した。この場合、触媒層18において、単位面積当たりの白金担持量が0.6mg/cm2になるようにした。その後、燃料極用の触媒層18を乾燥させ、燃料極シート19(図6(B)参照)とした。更に、イオン伝導性をもつイオン交換膜(厚みが25μm,デュポン社製、商品名 Nafion 111)からなる電解質膜20を用いた。電解質膜20は端面20fをもつ。そして、図6(C)に示すように、電解質膜20の厚み方向の両側に上記の酸化剤極シート15及び燃料極シート19を配置した。これによりシート状の中間積層体25を形成した。この場合、触媒層14、18と電解質膜20の表出面とが接触するように積層した。そして温度120℃、圧力8MPa、時間1分間という条件で中間積層体25を予備的に厚み方向にホットプレスし、電解質膜20に触媒層14、18を転写した。その後、フッ素樹脂製のシート13、17を中間積層体25から剥離した(図6(D)参照)。
【0029】
(4)加圧工程
図6(E)に示すように、中間積層体25の厚み方向の両側に、それぞれ、燃料極用のガス拡散層10と酸化剤極用のガス拡散層11とを配置し、MEA30を形成した。MEA30の厚みは、全域にわたり実質的に等しいと考えられる。そして、温度140℃、圧力8MPa、時間3分間というホットプレス条件で、ホットプレス型50を用い、MEA30を厚み方向に加熱加圧してホットプレスした(図7参照)。
【0030】
図7に示すように、ホットプレス型50は、平坦な第1加圧面310を有する上型として機能する第1加圧体300と、平坦な第2加圧面410を有する下型として機能する第2加圧体400とを備えている。第1加圧体300及び第2加圧体400はそれぞれヒータを有する。そして、第2加圧体400が固定されている状態において、第1加圧体300を矢印D1方向に下降させることにより、MEA30をこれの厚み方向に加圧する。これによりMEA30の一体化を進めた。
【0031】
このようにホットプレスするにあたり、図7に示すように、第1加圧体300と第2加圧体400との間に、つまり、金属製(例えばステンレス等の合金)の第1中間板501と第2中間板502との間に、ステンレス製のスペーサ60を配置してプレスした。スペーサ60は、MEA30の空気出口側に配置されているが、空気入口側には配置されていない。
【0032】
図7は加圧する前の状態を示す。図7はあくまでも概念を示すものであり、厚み方向において拡大して示す。図7は細部のサイズまで規定するものでない。上から下にかけて、第1加圧体300、第1中間板501、MEA30、第2中間板502、第2加圧体400の順に配置されている。MEA30は、これの厚み方向において、ガス拡散層10、触媒層14,電解質膜20,触媒層18,ガス拡散層11の順に配置されている。触媒層14,18は、触媒を担持したカーボン微小体と、プロトン伝導性をもつ電解質成分とを有するとともに、ガス透過性を確保するように多孔質とされている。図7に示すように、スペーサ60の上端面60uは、加圧する前のMEA30の上面30uよりも上方にΔh突出している。スペーサ60は加圧量規制効果を有する。このためMEA30のうち空気出口部32(酸化剤ガス出口部)の加圧量は、空気入口部(酸化剤ガス入口部)31の加圧量よりも制限されて小さくなる。その理由としては、加圧工程において、スペーサ60の影響により第1加圧体300が変位したもの等によると推定される。従って、厚み方向において、MEA30の空気出口部32の加圧量Poutは、MEA30の空気入口部31の加圧量Pinよりも少なく設定される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutが、空気入口部31の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このためMEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。
【0033】
以上説明したよう本実施例によれば、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量は、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口部31の厚み方向の加圧量よりも少なく設定される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率が、空気入口部31の気孔率よりも相対的に高めに設定される。このためMEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。
【0034】
更に、MEA30を加圧するときにスペーサ60を用いるため、電解質膜20に接合されているガス透過性を有する触媒層14、18それ自体についても、空気出口部の気孔率Voutが、空気入口部の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定されると考えられる。従って、触媒層14、18についても、空気出口部のフラッディング現象が抑制される。
【0035】
なおスペーサ60を、加圧方向と交差する方向つまり矢印X1,X2方向に位置調整すれば、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量を可変的に調整することができる利点が得られる。この場合、MEA30の空気出口部32の気孔率を調整することができ、MEA30における空気出口部32の水排出性が確保される。スペーサ60は平坦な上面60u及び平坦な下面60dを有するため、加圧の際における受圧面積が確保され、スペーサ60の変形、摩耗、損傷等の低減に有利である。図7はMEA30、スペーサ60については厚み方向に拡大して図示しているが、スペーサ60は板状であるため、加圧の際における受圧面積が確保され、スペーサ60の変形、摩耗、損傷等の低減に有利である。
【0036】
(5)試験例
スペーサ60の厚みを表1に示すように20〜100μmにおいて変更し、気孔率を変えたMEA30の試験片を形成した。他の条件は上記と同様とした。この場合、図8はプレスする状態の平面視を示す。図8及び図9は試験例で用いた試験片のサイズも併せて示す。図8において、スペーサ60の寸法L1は50ミリメートル、ガス拡散層10の寸法L2は170ミリメートル、ガス拡散層10の寸法L3は130ミリメートルとされている。本試験例では、MEA30において空気入口部31及び空気出口部32の定義としては、図9に示すように、寸法L4として規定される領域を空気入口部31とし、寸法L5として規定される領域を空気出口部32とした。寸法L4は50ミリメートル、寸法L5は50ミリメートルとした。このように形成したMEA30について、気孔率、ガス拡散層と触媒層との密着度、発電性能をそれぞれ測定した。更に、(空気出口部32の気孔率/空気入口部31の気孔率)の比率を計算で求め、これをβとした。βとしては約1.05〜1.2の範囲内とされている。
【0037】
(気孔率の評価)
MEA30の気孔率については、MEA30のうち空気入口部31と空気出口部32との2箇所について測定した。気孔率測定装置は、Mic r ome ritic社製 AutoPore IV9500を用い、水銀圧入法に基づいて測定した。測定結果を表1に示す。
【0038】
(ガス拡散層と触媒層との密着度の評価)
ホットプレス後のMEA30を手作業ではがして、ガス拡散層と触媒層との密着度、触媒層の表面状態を外観目視により観察し、密着度を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
(発電性能試験)
図10は発電性能試験に使用した単セルの断面図を示す。30はMEAを示す。MEA30は固体高分子電解質膜20を厚み方向に一対の電極(酸化剤極と燃料極)で挟持接合されて構成されている。このMEA30の厚み方向の両側を、カーボン製のセパレータ150とセパレータ180で挟んで、単セル100を作製した。一方のセパレータ150には酸化剤ガス供給口151、酸化剤ガス通流溝152、酸化剤ガス排出口153が設けられている。他方のセパレータ180には燃料ガス供給口181、燃料ガス通流溝182、燃料ガス排出口183が設けられている。酸化剤ガス供給口151より酸化剤ガス通流溝152を介して酸化剤極に2.5atm(252kPa)の空気を供給した。また、燃料ガス供給口181より燃料ガス通流溝182を介して燃料極に2.5atm(252kPa)の水素ガスを供給した。水分の加湿はバブリンク法により空気および水素ともに加湿して行った。セパレータ150とセパレータ180の電気端子から発電した電気を取り出し、外部の可変抵抗190で抵抗値を変えて電流密度とセル電圧とを測定した。測定結果を図11に示す。
【0040】
(比較例〉
比較例は上記した実施例1と基本的には同様の条件で形成されている。但し、比較例は、ホットプレス時にホットプレス型50の間にステンレス製のスペーサを入れないでプレスされている。表1は、比較例について気孔率、ガス拡散層と触媒層との密着度に示す。比較例について発電性能試験を実施して行った結果を図11に示す。
【0041】
表1に示すように、ホットプレス時に第1加圧体300と第2加圧体400との間にスペーサ60を介在させると、MEA30において、空気出口部32の気孔率は空気入口部31の気孔率よりも大きくなる。これは、スペーサ60の圧縮量規制効果により、MEA30のうちスペーサ30が遠い位置とされている空気入口部31の方が加圧量が大きくなり、MEA30のうちスペーサ30が近い位置とされている空気出口部32の方が加圧量が小さくなるためと考えられる。ガス拡散層と触媒層との密着度の評価としては、実施例1,実施例2,実施例3については◎であり、かなり良好であった。また実施例4,実施例5については密着度の評価は○であった。
【0042】
図11に示すように、実施例1〜実施例3では、スペーサ60を使用しない比較例よりも、燃料電池の出力が高くなっている。これは表1で示したように、実施例1〜実施例3では空気出口部32の気孔率が高くなっているため、フラッディング現象が発生しにくくなっているためと推察される。実施例4,実施例5についても、発電性能試験を行っていないものの同様と推察される。
【0043】
(その他)
図12に示す他の実施例のように、スペーサ60の位置決めを行う凸状の位置決め部480を第2加圧体400の側の第2中間板502に設けることができる。この場合、矢印X1、X2方向におけるスペーサ60の位置が確定されるため、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量Poutのバラツキが抑制される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutのバラツキが抑制され、MEA30の空気出口部32における水の排出性のバラツキ低減に有利となる。
【0044】
図13(A)(B)はMEA30のうちセパレータに形成されているガス通流溝を模式的に投影したものである。ガス通流溝は各種のパターンをもつが、いずれも、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量Poutは、MEA30の空気入口部31の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定されている。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutは、空気入口部31の気孔率Vinよりも相対的に高めに維持されている。このため前述同様に、MEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態、実施例のみに限定されるものではなく、ホットプレスする場合に限らず、場合によっては常温領域でプレスすることにしても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は固体高分子型の燃料電池に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態1に係る断面図である。
【図2】実施形態2に係る斜視図である。
【図3】実施形態3に係る断面図である。
【図4】実施形態4に係る断面図である。
【図5】実施形態5に係る断面図である。
【図6】実施例に係り、(A)〜(E)は製造過程を示す工程図である。
【図7】実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す断面図である。
【図8】実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す平面図である。
【図9】MEAの空気入口部及び空気出口部を示す構成図である。
【図10】単位セルの断面図である。
【図11】発電試験の結果を示すグラフである。
【図12】他の実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す断面図である。
【図13】MEAにおけるガス流れを模式的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0047】
図中、30はMEA、31は空気入口部、32は空気出口部、100は膜電極接合体、200はガス拡散層、300は第1加圧体、310は第1加圧面、400は第2加圧体、410は第2加圧面を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は膜電極接合体やガス拡散層等の燃料電池素材を製造する加圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極接合体(以下、MEA(membrane electrode assembly)ともいう)は、酸化剤含有ガスとしての空気が導入される空気極(酸化剤極)と、燃料が導入される燃料極とで電解膜を挟持したものである。空気極は、空気が拡散されるガス拡散層を備える。燃料極は、燃料が拡散されるガス拡散層を備える。
【0003】
燃料電池においては、発電時に電解質膜を透過してきたプロトンは、電解質膜と空気極との界面に存在する触媒層で酸素との反応が進む。空気極側では発電反応に起因して水が生成される。特に、燃料電池の高電流密度領域では、空気極側において水が増加するため、フラッディング現象が生じることがある。フラッディング現象は水がガス流路を塞ぐことをいう。この現象が生じると、空気極内を拡散してきた酸素ガスと触媒との反応性が低下し、燃料電池の出力密度が低下し、電池性能が不安定化される要因となる。このフラッディング現象を抑制するために、従来、電解質膜と接触する触媒層側からガス拡散層側に向かって、撥水剤濃度を減少させる方法(特許文献1)、空気極の触媒層の撥水性を低くして水の排出を容易にする方法(特許文献2)が開発されている。
【特許文献1】特開2003−109604号公報
【特許文献2】特開平6−52871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池によれば、前述したように、MEAの空気出口側においては水の量が増加するため、フラッディング現象が生じやすい。即ち、MEAの空気出口側において、触媒が水没したり、ガス拡散層の空気流路、触媒層の空気流路が水により閉塞される傾向がある。このため燃料電池の発電性能の向上には限界がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、膜電極接合体(MEA)またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率を、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定することができ、これにより酸化剤ガス出口側の水の排出性を確保することができ、燃料電池の発電性能を向上させるのに有利な燃料電池素材の加圧方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、加圧工程では、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とするものである。燃料電池素材としては膜電極接合体またはガス拡散層が挙げられる。
【0007】
第1発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定される。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【0008】
(2)第2発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、加圧に先立ち、スペーサをこれが第1加圧体と第2加圧体との間に位置するように膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置し、加圧工程では、スペーサにより、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とするものである。
【0009】
第2発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、加圧に先立ち、スペーサをこれが第1加圧体と第2加圧体との間に位置するように膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置する。そして加圧工程では、スペーサにより、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定される。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【0010】
スペーサの形状、構造、材質としては特に限定されるものではなく、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定できるものであれば、何でも良い。スペーサの材質は特に限定されないが、金属(例えばステンレス等の合金)、セラミックス(例えば窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素等)等のように硬い材質、耐食性が良い材質をもつものを例示できる。スペーサとしては、加圧方向と交差する方向(例えば、酸化剤ガス出口側と酸化剤ガス入口側とを仮想的に結ぶ方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。この場合、酸化剤ガス出口側の加圧量を調整するのに有利である。
【0011】
(3)第3発明に係る燃料電池素材の加圧方法は、膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、膜電極接合体またはガス拡散層を第1加圧体及び第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、第1加圧体の第1加圧面及び第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
第3発明に係る燃料電池素材の加圧方法によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように、第1加圧体の第1加圧面及び第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は設定されている。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率が、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体またはガス拡散層における酸化剤ガス出口側の水排出性が確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側の気孔率を、酸化剤ガス入口側よりも相対的に高めに維持することができる。これにより膜電極接合体またはガス拡散層の酸化剤ガス出口側において、水の排出性を確保することができ、フラッディング現象を抑制することができる。よって燃料電池の発電性能の向上に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
各本発明によれば、好ましくは、第1加圧体及び第2加圧体は、上下方向に開閉可能な構造、または、回転ロール構造とされている。以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は実施形態1の概念を示す。図1に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Aを有する第1加圧体300Aと、第2加圧面410Aを有する第2加圧体400Aとを用意する。第1加圧体300Aは昇降可能である。第2加圧体400Aは固定されている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300Aの第1加圧面310A及び第2加圧体400Aの第2加圧面410Aで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。加圧に先立ち、加圧量を規制する加圧量規制手段として機能するスペーサ60Aを、第1加圧体300Aと第2加圧体400Aとの間に位置させる。スペーサ60Aは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側(酸化剤ガス入口側)ではなく、空気出口側(酸化剤ガス出口側)に配置される。スペーサ60Aの上面60uは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の上面よりも上方に突出している。
【0016】
そして加圧工程では、スペーサ60Aによる加圧量規制効果に基づき、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量(圧縮量)Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量(圧縮量)Pinよりも少なく設定される。
【0017】
これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって空気出口側のフラッディング現象が抑制される。スペーサ60Aは、加圧方向と交差する方向(矢印X1,X2方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。これにより空気出口側の加圧量を調整できる。矢印X1方向は膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央に近づく方向を示す。矢印X2方向は膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央から離間する方向を示す。スペーサ60Aの材質は特に限定されないが、金属、セラミックス等のように硬い材質をもつものを例示できる。膜電極接合体100またはガス拡散層200について、(空気出口部の気孔率/空気入口部の気孔率)の比率をβとすると、βとしては、1.02〜2、あるいは1.02〜1.4、あるいは1.02〜1.2とすることができる。
【0018】
(実施形態2)
図2は実施形態2の概念を示す。図2に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Bを有する第1加圧体300Bと、第2加圧面410Bを有する第2加圧体400Bとを用意する。第1加圧体300B及び第2加圧体400Bはロール状とされており、回転ロール方式とされている。一般的には、第1加圧体300Bを矢印K1方向に回転させつつ第2加圧体400Bを矢印K2方向に回転させる。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を、第1加圧体300Bの第1加圧面310B及び第2加圧体400Bの第2加圧面410Bとの間に挿入することにより、厚み方向(矢印T方向)にロール加圧する加圧工程を実施する。ロール加圧にあたり、スペーサ60Bをこれが第1加圧体300Bと第2加圧体400Bとの間に位置させる。スペーサ60Bは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側に配置される。
【0019】
そして加圧工程では、スペーサ60Bによる加圧量規制効果に基づいて、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。スペーサ60Bは、加圧方向と交差する方向(矢印Y1,Y2方向)に位置調整可能とされていることが好ましい。これにより空気出口側の加圧量を調整できる。矢印Y1方向は、第1加圧体300B及び第2加圧体400Bの軸長方向に沿って膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央に近づく方向を示す。矢印Y2方向は、第1加圧体300B及び第2加圧体400Bの軸長方向に沿って膜電極接合体100またはガス拡散層200の中央から離間する方向を示す。スペーサ60Bの材質は特に限定されないが、金属、セラミックス等のように硬い材質をもつものを例示できる。
【0020】
(実施形態3)
図3は実施形態3の概念を示す。図3に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Cを有する第1加圧体300Cと、第2加圧面410Cを有する第2加圧体400Cとを用意する。第1加圧体300Cは昇降可能である。第2加圧体400Cは固定されている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300C及び第2加圧体400Cで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されている。この結果、第1加圧面310Cについては、空気出口側を加圧する部分312Cは、空気入口側を加圧する部分313Cよりも、上方(矢印U方向)に退避している。第2加圧体400Cの第2加圧面410Cは、仮想水平線P1に沿っている。
【0021】
このように角度θ1傾斜しているため、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。即ち、前述したように、第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側が上方(矢印U方向)に退避するような表面を有するように設定されている。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保され、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。なお、図3では第1加圧体300Cの第1加圧面310Cは、仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されているが、これに限らず、空気出口側の加圧量(圧縮量)を小さくするように、第2加圧体400Cの第2加圧面410Cが仮想水平線P1に対して角度θ1傾斜されていても良い。
【0022】
(実施形態4)
図4は実施形態4の概念を示す。図4に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Dを有する第1加圧体300Dと、第2加圧面410Dを有する第2加圧体400Dとを用意する。第1加圧体300D及び第2加圧体400Dはロール状であり、回転ロール方式とされている。そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を、第1加圧体300D及び第2加圧体400Dで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。第1加圧体300Dの軸芯M1と、第2加圧体400Dの軸芯M2とは、相対的に角度θ2傾斜している。従って、第1加圧体300Dの第1加圧面310Dと第2加圧体400Dの第2加圧面410Dとの隙間をαとすると、隙間αは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側において、空気入口側よりも相対的に大きく設定されている。この結果、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保され、空気出口側のフラッディング現象が抑制される。
【0023】
(実施形態5)
図5は実施形態5の概念を示す。図5に示すように、実質的に均等厚みをもつ膜電極接合体100またはガス拡散層200と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧面310Eを有する第1加圧体300Eと、第2加圧面410Eを有する第2加圧体400Eとを用意する。第1加圧体300Eは昇降可能である。第2加圧体400Eは固定されている。第1加圧体300Eの第1加圧面310Eについては、空気出口側に対面する面312Eは、空気入口側に対面する面313Eよりも上方(矢印U方向)にΔγ退避している。第2加圧体400Eの第2加圧面410Eは、仮想水平線P1に沿っている。
【0024】
そして、膜電極接合体100またはガス拡散層200を第1加圧体300E及び第2加圧体400Eで挟んで厚み方向(矢印T方向)に加圧する加圧工程を実施する。このようにΔγ退避しているため、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の厚み方向の加圧量Poutは、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口側の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定される。これにより膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気出口側の気孔率Voutが、空気入口側の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このため膜電極接合体100またはガス拡散層200における空気出口側の水排出性が確保される。よって空気出口側のフラッディング現象が抑制される。なお、図5では第1加圧体300Eの第1加圧面310Eのうち面312Eは、上方(矢印U方向)にΔγ退避しているが、これに限らず、空気出口側の加圧量を小さくさせるように、第2加圧体400Eの第2加圧面410Eが下方(矢印D方向)にΔγ退避していても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。本実施例は固定高分子型の燃料電池に適用している。
(1)ガス拡散層の形成
1000gの水に300gのカーボンブラック(導電性物質)を混入し、混入液を形成した。この混入液を攪拌機により10分間攪拌した。更に、撥水剤として機能できるPTFE(ダイキン工業株式会社製のテトラフルオロエチレン)を含有する濃度が60重量%のディパージョン原液(商品名:POLYFLON Dlグレード)250gを、混入液に添加した。これを更に10分間攪拌して、カーボンインクを形成した。そして、ガス拡散層の基材であるカーボンペーパー(東レ株式会社製、トレカTGP−060、厚さ180μm)を上記カーボンインクに投入した。これによりカーボンペーパーに充分に、PTFEを含むディスパージョン原液(撥水剤)を含浸させた。次に、80℃の温度に保った乾燥炉を用い、ディスパージョン原液(撥水剤)を含浸したカーボンペーパーの余分な水分を乾燥炉で蒸発させた。その後、焼結温度390℃で60分間保持して、PTFEを焼結し、撥水カーボンペーパーを2個作製し、図6(A)に示すように、燃料極用のガス拡散層10及び酸化剤極用のガス拡散層11とした。
【0026】
(2)触媒ペーストの形成
白金担持濃度が55wt%の白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製、TEClOE60E)を用いた。白金担持カ一ボンは、触媒である白金を担持したカーボン微小体(導電性微小体)である。そして白金担持カーボン12gと、5wt%濃度のイオン交換樹脂溶液(旭化成工業株式会社製、SS−1080)127gと、溶媒としての水23gと、成形助剤としてのイソプロピルアルコール23gとを充分に混合し、酸化剤極用の触媒ペーストを製作した。前記したイオン交換樹脂溶液は、イオン伝導性(プロトン伝導性)をもつ炭化フッ素系の電解質ポリマー(ガラス転移温度:120℃)を主要成分としており、これを液状媒体としての水とエタノールとの混合溶液に溶解または分散させたものである。具体的には、本実施例によれば、炭化フッ素系の電解質ポリマーは、パーフルオロスルホン酸を主成分としている。
【0027】
(3)積層体の形成
ドクターブレード法によリ、上記した触媒ペーストをフッ素樹脂製のシート13に塗布して酸化剤極用の触媒層14を形成した(図6(B)参照)。この場合、触媒層14において、単位面積当たりの白金担持量が0.6mg/cm2になるようにした。その後、触媒層14を乾燥させて、酸化剤極シート15とした(図6(B)参照))。
【0028】
また、燃料極用の触媒金属として、白金担持カーボンの代わりに白金ルテニウム合金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製、TEC61E54)を用いた。そして白金ルテニウム合金担持カーボンを用い、前述と同様な方法によって、燃料極用の触媒ペーストを形成した。この場合、白金ルテニウム合金担持カーボンにおいて、白金の担持濃度は30wt%であり、ルテニウムの担持濃度は23wt%である。これは、白金とルテニウムとを担持したカーボン微小体(導電性微小体)である。この触媒ペーストをドクタープレード法によリフッ素樹脂製のシート17に塗布し、燃料極用の触媒層18(図6(B)参照)を形成した。この場合、触媒層18において、単位面積当たりの白金担持量が0.6mg/cm2になるようにした。その後、燃料極用の触媒層18を乾燥させ、燃料極シート19(図6(B)参照)とした。更に、イオン伝導性をもつイオン交換膜(厚みが25μm,デュポン社製、商品名 Nafion 111)からなる電解質膜20を用いた。電解質膜20は端面20fをもつ。そして、図6(C)に示すように、電解質膜20の厚み方向の両側に上記の酸化剤極シート15及び燃料極シート19を配置した。これによりシート状の中間積層体25を形成した。この場合、触媒層14、18と電解質膜20の表出面とが接触するように積層した。そして温度120℃、圧力8MPa、時間1分間という条件で中間積層体25を予備的に厚み方向にホットプレスし、電解質膜20に触媒層14、18を転写した。その後、フッ素樹脂製のシート13、17を中間積層体25から剥離した(図6(D)参照)。
【0029】
(4)加圧工程
図6(E)に示すように、中間積層体25の厚み方向の両側に、それぞれ、燃料極用のガス拡散層10と酸化剤極用のガス拡散層11とを配置し、MEA30を形成した。MEA30の厚みは、全域にわたり実質的に等しいと考えられる。そして、温度140℃、圧力8MPa、時間3分間というホットプレス条件で、ホットプレス型50を用い、MEA30を厚み方向に加熱加圧してホットプレスした(図7参照)。
【0030】
図7に示すように、ホットプレス型50は、平坦な第1加圧面310を有する上型として機能する第1加圧体300と、平坦な第2加圧面410を有する下型として機能する第2加圧体400とを備えている。第1加圧体300及び第2加圧体400はそれぞれヒータを有する。そして、第2加圧体400が固定されている状態において、第1加圧体300を矢印D1方向に下降させることにより、MEA30をこれの厚み方向に加圧する。これによりMEA30の一体化を進めた。
【0031】
このようにホットプレスするにあたり、図7に示すように、第1加圧体300と第2加圧体400との間に、つまり、金属製(例えばステンレス等の合金)の第1中間板501と第2中間板502との間に、ステンレス製のスペーサ60を配置してプレスした。スペーサ60は、MEA30の空気出口側に配置されているが、空気入口側には配置されていない。
【0032】
図7は加圧する前の状態を示す。図7はあくまでも概念を示すものであり、厚み方向において拡大して示す。図7は細部のサイズまで規定するものでない。上から下にかけて、第1加圧体300、第1中間板501、MEA30、第2中間板502、第2加圧体400の順に配置されている。MEA30は、これの厚み方向において、ガス拡散層10、触媒層14,電解質膜20,触媒層18,ガス拡散層11の順に配置されている。触媒層14,18は、触媒を担持したカーボン微小体と、プロトン伝導性をもつ電解質成分とを有するとともに、ガス透過性を確保するように多孔質とされている。図7に示すように、スペーサ60の上端面60uは、加圧する前のMEA30の上面30uよりも上方にΔh突出している。スペーサ60は加圧量規制効果を有する。このためMEA30のうち空気出口部32(酸化剤ガス出口部)の加圧量は、空気入口部(酸化剤ガス入口部)31の加圧量よりも制限されて小さくなる。その理由としては、加圧工程において、スペーサ60の影響により第1加圧体300が変位したもの等によると推定される。従って、厚み方向において、MEA30の空気出口部32の加圧量Poutは、MEA30の空気入口部31の加圧量Pinよりも少なく設定される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutが、空気入口部31の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定される。このためMEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。
【0033】
以上説明したよう本実施例によれば、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量は、膜電極接合体100またはガス拡散層200の空気入口部31の厚み方向の加圧量よりも少なく設定される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率が、空気入口部31の気孔率よりも相対的に高めに設定される。このためMEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。
【0034】
更に、MEA30を加圧するときにスペーサ60を用いるため、電解質膜20に接合されているガス透過性を有する触媒層14、18それ自体についても、空気出口部の気孔率Voutが、空気入口部の気孔率Vinよりも相対的に高めに設定されると考えられる。従って、触媒層14、18についても、空気出口部のフラッディング現象が抑制される。
【0035】
なおスペーサ60を、加圧方向と交差する方向つまり矢印X1,X2方向に位置調整すれば、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量を可変的に調整することができる利点が得られる。この場合、MEA30の空気出口部32の気孔率を調整することができ、MEA30における空気出口部32の水排出性が確保される。スペーサ60は平坦な上面60u及び平坦な下面60dを有するため、加圧の際における受圧面積が確保され、スペーサ60の変形、摩耗、損傷等の低減に有利である。図7はMEA30、スペーサ60については厚み方向に拡大して図示しているが、スペーサ60は板状であるため、加圧の際における受圧面積が確保され、スペーサ60の変形、摩耗、損傷等の低減に有利である。
【0036】
(5)試験例
スペーサ60の厚みを表1に示すように20〜100μmにおいて変更し、気孔率を変えたMEA30の試験片を形成した。他の条件は上記と同様とした。この場合、図8はプレスする状態の平面視を示す。図8及び図9は試験例で用いた試験片のサイズも併せて示す。図8において、スペーサ60の寸法L1は50ミリメートル、ガス拡散層10の寸法L2は170ミリメートル、ガス拡散層10の寸法L3は130ミリメートルとされている。本試験例では、MEA30において空気入口部31及び空気出口部32の定義としては、図9に示すように、寸法L4として規定される領域を空気入口部31とし、寸法L5として規定される領域を空気出口部32とした。寸法L4は50ミリメートル、寸法L5は50ミリメートルとした。このように形成したMEA30について、気孔率、ガス拡散層と触媒層との密着度、発電性能をそれぞれ測定した。更に、(空気出口部32の気孔率/空気入口部31の気孔率)の比率を計算で求め、これをβとした。βとしては約1.05〜1.2の範囲内とされている。
【0037】
(気孔率の評価)
MEA30の気孔率については、MEA30のうち空気入口部31と空気出口部32との2箇所について測定した。気孔率測定装置は、Mic r ome ritic社製 AutoPore IV9500を用い、水銀圧入法に基づいて測定した。測定結果を表1に示す。
【0038】
(ガス拡散層と触媒層との密着度の評価)
ホットプレス後のMEA30を手作業ではがして、ガス拡散層と触媒層との密着度、触媒層の表面状態を外観目視により観察し、密着度を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
(発電性能試験)
図10は発電性能試験に使用した単セルの断面図を示す。30はMEAを示す。MEA30は固体高分子電解質膜20を厚み方向に一対の電極(酸化剤極と燃料極)で挟持接合されて構成されている。このMEA30の厚み方向の両側を、カーボン製のセパレータ150とセパレータ180で挟んで、単セル100を作製した。一方のセパレータ150には酸化剤ガス供給口151、酸化剤ガス通流溝152、酸化剤ガス排出口153が設けられている。他方のセパレータ180には燃料ガス供給口181、燃料ガス通流溝182、燃料ガス排出口183が設けられている。酸化剤ガス供給口151より酸化剤ガス通流溝152を介して酸化剤極に2.5atm(252kPa)の空気を供給した。また、燃料ガス供給口181より燃料ガス通流溝182を介して燃料極に2.5atm(252kPa)の水素ガスを供給した。水分の加湿はバブリンク法により空気および水素ともに加湿して行った。セパレータ150とセパレータ180の電気端子から発電した電気を取り出し、外部の可変抵抗190で抵抗値を変えて電流密度とセル電圧とを測定した。測定結果を図11に示す。
【0040】
(比較例〉
比較例は上記した実施例1と基本的には同様の条件で形成されている。但し、比較例は、ホットプレス時にホットプレス型50の間にステンレス製のスペーサを入れないでプレスされている。表1は、比較例について気孔率、ガス拡散層と触媒層との密着度に示す。比較例について発電性能試験を実施して行った結果を図11に示す。
【0041】
表1に示すように、ホットプレス時に第1加圧体300と第2加圧体400との間にスペーサ60を介在させると、MEA30において、空気出口部32の気孔率は空気入口部31の気孔率よりも大きくなる。これは、スペーサ60の圧縮量規制効果により、MEA30のうちスペーサ30が遠い位置とされている空気入口部31の方が加圧量が大きくなり、MEA30のうちスペーサ30が近い位置とされている空気出口部32の方が加圧量が小さくなるためと考えられる。ガス拡散層と触媒層との密着度の評価としては、実施例1,実施例2,実施例3については◎であり、かなり良好であった。また実施例4,実施例5については密着度の評価は○であった。
【0042】
図11に示すように、実施例1〜実施例3では、スペーサ60を使用しない比較例よりも、燃料電池の出力が高くなっている。これは表1で示したように、実施例1〜実施例3では空気出口部32の気孔率が高くなっているため、フラッディング現象が発生しにくくなっているためと推察される。実施例4,実施例5についても、発電性能試験を行っていないものの同様と推察される。
【0043】
(その他)
図12に示す他の実施例のように、スペーサ60の位置決めを行う凸状の位置決め部480を第2加圧体400の側の第2中間板502に設けることができる。この場合、矢印X1、X2方向におけるスペーサ60の位置が確定されるため、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量Poutのバラツキが抑制される。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutのバラツキが抑制され、MEA30の空気出口部32における水の排出性のバラツキ低減に有利となる。
【0044】
図13(A)(B)はMEA30のうちセパレータに形成されているガス通流溝を模式的に投影したものである。ガス通流溝は各種のパターンをもつが、いずれも、MEA30の空気出口部32の厚み方向の加圧量Poutは、MEA30の空気入口部31の厚み方向の加圧量Pinよりも少なく設定されている。これによりMEA30の空気出口部32の気孔率Voutは、空気入口部31の気孔率Vinよりも相対的に高めに維持されている。このため前述同様に、MEA30における空気出口部32の水排出性が確保され、空気出口部32のフラッディング現象が抑制される。その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施形態、実施例のみに限定されるものではなく、ホットプレスする場合に限らず、場合によっては常温領域でプレスすることにしても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は固体高分子型の燃料電池に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態1に係る断面図である。
【図2】実施形態2に係る斜視図である。
【図3】実施形態3に係る断面図である。
【図4】実施形態4に係る断面図である。
【図5】実施形態5に係る断面図である。
【図6】実施例に係り、(A)〜(E)は製造過程を示す工程図である。
【図7】実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す断面図である。
【図8】実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す平面図である。
【図9】MEAの空気入口部及び空気出口部を示す構成図である。
【図10】単位セルの断面図である。
【図11】発電試験の結果を示すグラフである。
【図12】他の実施例に係り、スペーサを用いつつ第1加圧体及び第2加圧体でMEAをプレスする状態を示す断面図である。
【図13】MEAにおけるガス流れを模式的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0047】
図中、30はMEA、31は空気入口部、32は空気出口部、100は膜電極接合体、200はガス拡散層、300は第1加圧体、310は第1加圧面、400は第2加圧体、410は第2加圧面を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
前記加圧工程では、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項2】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
加圧に先立ち、スペーサをこれが前記第1加圧体と前記第2加圧体との間に位置するように前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置し、
前記加圧工程では、前記スペーサにより、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項3】
請求項2において、前記スペーサは、加圧方向と交差する方向に位置調整可能とされていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項4】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
前記第1加圧体の第1加圧面及び前記第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように設定されていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、前記第1加圧体及び前記第2加圧体は、上下方向に開閉可能な構造、または、回転ロール構造とされていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項1】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
前記加圧工程では、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項2】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
加圧に先立ち、スペーサをこれが前記第1加圧体と前記第2加圧体との間に位置するように前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側に配置し、
前記加圧工程では、前記スペーサにより、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定することを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項3】
請求項2において、前記スペーサは、加圧方向と交差する方向に位置調整可能とされていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項4】
膜電極接合体またはガス拡散層と、これらを厚み方向に加圧可能な第1加圧体及び第2加圧体とを用意する工程と、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層を前記第1加圧体及び前記第2加圧体で挟んで厚み方向に加圧する加圧工程とを実施する燃料電池素材の加圧方法において、
前記第1加圧体の第1加圧面及び前記第2加圧体の第2加圧面のうちの少なくとも一方は、
前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス出口側の加圧量を、前記膜電極接合体または前記ガス拡散層の酸化剤ガス入口側の加圧量よりも少なく設定する表面を有するように設定されていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、前記第1加圧体及び前記第2加圧体は、上下方向に開閉可能な構造、または、回転ロール構造とされていることを特徴とする燃料電池素材の加圧方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−4808(P2006−4808A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180958(P2004−180958)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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