説明

燃料電池膜電極接合体の製造方法

【課題】燃料電池膜電極接合体の製造に必要となるエネルギー消費を抑えつつ、触媒層とガス拡散層との接合を確実に行う。
【解決手段】積層工程前に、MEA12及びガス拡散層14の各接合面12a、14aに、ラビング処理を施すことで、一方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成する。積層工程で、表面荒れを生じた各接合面12a、14a同士を直接的に噛合わせ、いわゆる面ファスナーの要領で両者を接合する。その結果、熱圧プレスを行うことなく、或いは、補助的にのみ熱圧プレスを行うことで、燃料電池膜電極接合体を製造することができる。しかも、MEA12とガス拡散層14とが直接的に接合されるので、両者の接合不良による発電性能の低下を防ぐことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池膜電極接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、図3に示されるように、複数種類のセル構成部材が積層されることによって、セル(単セル)10が構成され、なおかつ、セル10が複数枚積層された燃料電池スタック11を構成することで、必要な電圧が確保されるものである。セル10の構造例としては、図4に示されるように、膜電極接合体12(Membrane Electrode Assembly:以下、「MEA」という。)がセル10の厚み方向の中心部に配置され、その両面に、ガス拡散層14(アノード側/カソード側のガス拡散層14A、14C)、ガス流路16(アノード側/カソード側のガス流路16A、16C)、セパレータ18が夫々配置された構造となっている。なお、MEA12とガス拡散層14とが一体となった形態を、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode &Gas Diffusion Layer Assembly)と称することもある。
【0003】
又、MEA12は、電解質膜と触媒層とを含むものであり、通常は電解質膜の表面に触媒を塗布することで触媒層を形成する。又、ガス拡散層14は、カーボンペーパ、カーボン不織布又はカーボンクロス等の基材に、PTFE等の撥水性樹脂とカーボンブラックなどの導電性材料を主成分とする材料をコーティングし、乾燥若しくは焼成して構成されるものである。そして、MEA12とガス拡散層14とを積層して互いに固定するために、熱圧プレスを行っている。しかしながら、MEA12とガス拡散層14とは、これらの組成からして本来的に熱圧プレスによって接合するものではなく、熱圧プレスはMEA12とガス拡散層14の周囲の樹脂同士を接合するものであり、MEA12とガス拡散層14とは、単に接触しているに過ぎない。従って、MEA12とガス拡散層14との周囲の樹脂部分に十分に熱及び圧力を付与し確実に圧着するために、熱圧プレス工程に要する時間も自ずと長くなり、燃料電池の製造工程におけるエネルギー効率の向上を阻害する一因となっている。
【0004】
そこで、MEA12及びガス拡散層14の表面に繊維状物質を配置し、この繊維状物質同士を接触させることで両者を接合することにより、熱圧プレスに代えて若しくは熱圧プレスによる接合を補助する方法が発明されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−157582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、MEA12及びガス拡散層14の表面に繊維状物質を配置し、この繊維状物質同士を接触させることで両者を接合する方法は、熱圧プレス工程に要する時間の短縮が可能となり、或いは熱圧プレス工程が不要となることから、燃料電池の製造工程におけるエネルギー消費量の削減を図るための一手法として期待されるものである。しかし、MEA12及びガス拡散層14の表面に、繊維状物質を配置するという準備工程が必要となることから、燃料電池の製造効率の観点からすれば効率低下は避けられず、燃料電池の製造コストの増大を招くものである。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱圧プレスに頼ることなく燃料電池膜電極接合体の製造を可能とし、製造に必要となるエネルギー消費を抑えつつ、触媒層とガス拡散層との接合を確実に行うことを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、燃料電池膜電極接合体として積層状態で互いに隣接する位置関係で、触媒層とガス拡散層との積層を行う積層工程以前に、触媒層及びガス拡散層の各接合面自体に、相対向する方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成し、この表面荒れを生じた各接合面同士を直接的に噛合わせるようにして、接合するものである。
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)燃料電池膜電極接合体の製造方法であって、触媒層及びガス拡散層の積層を行う積層工程以前に、前記触媒層及び前記ガス拡散層の各接合面に、ラビング処理により、一方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成する工程を含む燃料電池膜電極接合体の製造方法。
本項に記載の燃料電池の製造方法は、触媒層及びガス拡散層の各接合面に、ラビング処理(表面を一方向に擦る処理)を施すことで、一方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成し、積層工程で、表面荒れを生じた各接合面同士を直接的に噛合わせるようにして、いわゆる面ファスナーの要領で両者を接合する。そして、熱圧プレスを行うことなく或いは補助的にのみ熱圧プレスを行うことで、燃料電池膜電極接合体を製造するものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記ラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちを、前記積層工程において、前記触媒層と前記ガス拡散層とで相対向する方向となるように対面させて、前記触媒層及び前記ガス拡散層を積層する燃料電池膜電極接合体の製造方法(請求項1)。
本項に記載の燃料電池の製造方法は、積層工程において、ラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちを、前記触媒層とガス拡散層とで相対向する方向となるように対面させて、積層を行うことで、表面荒れを生じた各接合面同士を確実に噛合わせるものである。
【0010】
(3)上記(2)項において、前記積層工程において、前記触媒層及び前記ガス拡散層の各接触面を密着させ、かつ、前記触媒層及び前記ガス拡散層を相対向する面方向に位置をずらす操作を含む燃料電池膜電極接合体の製造方法(請求項2)。
本項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法は、積層工程において、前記触媒層及び前記ガス拡散層を各接触面の相対向する面方向に位置をずらす操作を加えることで、表面荒れを生じた各接合面同士を強固に噛合わせ、いわゆる面ファスナーの要領で接合するものである。
【0011】
(4)上記(1)から(3)項において、前記接合面にラビング処理により相対向する方向の表面荒れを形成する工程を、少なくとも前記ガス拡散層の乾燥若しくは焼成工程前に行う燃料電池膜電極接合体の製造方法(請求項3)。
本項に記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法は、ガス拡散層の乾燥若しくは焼成により表面が脆くなる前に、ラビング処理を施すことで、毛羽立つ態様の表面荒れを確実に形成するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明はこのように構成したので、熱圧プレスに頼ることなく燃料電池膜電極接合体の製造が可能となり、製造に必要となるエネルギー消費を抑えつつ、触媒層とガス拡散層との接合を確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略する。
図1には、本発明の実施の形態に係る燃料電池膜電極接合体の製造方法に係る製造ライン20が概略的に示されている。この製造ライン20は、触媒膜ロール22をセットする軸24、触媒膜ロール22から巻き出された触媒膜26のガイドローラ28、触媒膜26に形成されたMEA12にガス拡散層14を積層するための積層ロボット30、触媒膜26に形成されたMEA12の触媒層の表面にラビング処理を施すためのラビングローラ32、製造ライン20を制御するための、電子計算機によって構成された制御手段34を含むものである。
【0014】
なお、ラビングローラ32は、例えば、その円筒表面が、地糸にパイル糸を織り上げることによって構成されたラビングクロスからなり、適宜駆動手段によって回転駆動されるものである。
又、図1の製造ライン20では、必要に応じ、MEA12に拡散層14を熱圧プレスによって接合する装置を具備しており、その一例として、ベルトプレス装置を備えている。図中、符号36はベルト、符号38はベルト36の案内ローラ、符号40はベルト36を介してMEA12及び拡散層14に対し熱と圧力とを付与するプレスローラであり、何れもベルトプレス装置を構成するものである。又、触媒膜26には、必要に応じ、MEA12にガス拡散層14を積層する際の位置決め基準となるアライメントマーク56(図示の例では十字マーク)が付与される。なお、ガス拡散層14にも、必要に応じアライメントマーク56が付与される。
【0015】
ここで、本発明の実施の形態に係る燃料電池膜電極接合体の製造手順を、図1を参照しながら説明する。まず、触媒膜ロール22が軸24にセットされ、触媒膜ロール22から巻き出された触媒膜26が、ガイドローラ28に掛け回されて先へと送られる。この際、ラビングローラ32が一定方向(図示の例では触媒膜26の送り方向に逆らう方向)に回転し、触媒膜26に形成されたMEA12の触媒層の表面に、ラビング処理を施す(ラビング処理工程)。
一方、ガス拡散層14についても、予め、図1の製造ライン20と同様の構成を有する製造ラインを経ており、その表面にはラビング処理が施されている。かかるガス拡散層14のラビング処理は、後述する理由から、ガス拡散層14の乾燥若しくは焼成前に施すことが望ましい。
【0016】
そして、拡散層14は、制御手段34により制御される積層ロボット30により、MEA12の適切な位置に積層される(積層工程)。この際、図2(a)に示されるように、ラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちが、MEA12の触媒層12aとガス拡散層14のコーティング層(マイクロポーラスレイヤー:MPL)14aとで相対向する方向となるように対面させる。かかる作業では、前述のアライメントマーク56を、必要な方向を与える拠り所として用いることも可能である。
更に、図2(b)に示されるように、MEA12とガス拡散層14との各接触面を矢印A、Bのごとく相対向する面方向に位置をずらすように積層ロボット30の動作を制御しつつ、図2(c)に示されるように、MEA12とガス拡散層14とを積層するものである。その後、必要に応じて、ベルトプレス装置により、MEA12と拡散層14とに熱圧プレスを追加的に施すことも可能である。
なお、図1、図2には、MEA12の片面にのみガス拡散層14を積層する様子が図示されているが、実際には、MEA12の両面にガス拡散層14(アノード側/カソード側のガス拡散層14A、14C:図4参照)を積層するものであり、両面の積層作業が、上述の手順により行われるものである。
【0017】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法では、MEA12及びガス拡散層14の各接合面12a、14aに、ラビング処理を施すことで、一方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成する(図2(a)参照)。かかるラビング処理は、ガス拡散層14の乾燥若しくは焼成により表面が脆くなる前にガス拡散層14に施すことで、毛羽立つ態様の表面荒れを、確実に形成することができる。
そして、積層工程で、表面荒れを生じた各接合面12a、14a同士を直接的に噛合わせ、いわゆる面ファスナーの要領で両者を接合するものである。その結果、熱圧プレスを行うことなく、或いは、補助的にのみ熱圧プレスを行うことで、燃料電池膜電極接合体を製造することができる。しかも、MEA12とガス拡散層14とが直接的に接合されるので、両者の接合不良による発電性能の低下を防ぐことが可能となる。又、従来の熱圧プレスでは選択的に使用されていた、MEA12とガス拡散層14とを接着するための接着剤も、不要若しくは使用量が削減されるものである。
【0018】
又、積層工程においてラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちを、MEA12とガス拡散層14とで相対向する方向となるように対面させて積層を行うことで(図2(a)〜(c))、表面荒れを生じた各接合面12a、14a同士を確実に噛合わせることができる。
しかも、積層工程において、MEA12及びガス拡散層14を各接触面の相対向する面方向に位置をずらす操作を加えることで、表面荒れを生じた各接合面同士を強固に噛合わせて接合することが可能となる。なお、本発明の実施の形態では、MEA12及びガス拡散層14の積層工程に積層ロボット30が用いられているが、適宜、その他の積層方法ないし積層手段を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池膜電極接合体の製造方法に係る製造装置を、模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る燃料電池膜電極接合体の製造方法において、ラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちを、積層工程ではMEAとガス拡散層とで相対向する方向となるように対面させて、両者を積層する手順を示す説明図であり、(a)は接合前、(b)は接合中、(c)は接合後の様子を示したものである。
【図3】燃料電池スタックの立体模式図である。
【図4】図3に示される燃料電池スタックを構成するセルの、構成部材を示す模式図である。
【符号の説明】
【0020】
12:膜電極接合体、12a:触媒層、14:ガス拡散層、14a:コーティング層、 20:燃料電池膜電極接合体の製造ライン、22:触媒膜ロール、24:軸、26:触媒膜、28:ガイドローラ、30:積層ロボット、32:ラビングローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池膜電極接合体の製造方法であって、触媒層及びガス拡散層の積層を行う積層工程以前に、前記触媒層及び前記ガス拡散層の各接合面に、ラビング処理により、一方向に毛羽立つ態様の表面荒れを形成する工程を含み、
かつ、前記ラビング処理により形成された表面荒れの毛羽立ちを、前記積層工程において、前記触媒層と前記ガス拡散層とで相対向する方向となるように対面させて、前記触媒層及び前記ガス拡散層を積層することを特徴とする燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記積層工程において、前記触媒層及び前記ガス拡散層の各接触面を密着させ、かつ、前記触媒層及び前記ガス拡散層を相対向する面方向に位置をずらす操作を含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接合面にラビング処理により相対向する方向の表面荒れを形成する工程を、少なくとも前記ガス拡散層の乾燥若しくは焼成工程前に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−129434(P2010−129434A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304210(P2008−304210)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】