説明

燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物並びに電解質膜、その製造方法及び電解質膜・電極接合体、その製造方法

【解決手段】 (1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部、
(4)溶剤0〜2,000質量部
を含有することを特徴とする燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
【効果】 本発明によれば、生産性と高いイオン伝導性、低メタノール透過性及び膜強度などの特性を同時に満足した燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極接合体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を用いる電解質膜とその製造方法及び燃料電池用電解質膜・電極接合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池用電解質膜を用いた燃料電池は、作動温度が100℃以下と低く、そのエネルギー密度が高いことから、電気自動車の電源や簡易補助電源として広く実用化が期待されている。この固体高分子型燃料電池においては、電解質膜、白金系の触媒、ガス拡散電極、及び電解質膜と電極の接合体などに関する重要な要素技術があり、この中でも、電解質膜及び電解質膜と電極の接合体は、燃料電池としての特性に関与する最も重要な技術の一つである。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、電解質膜の両面に燃料拡散電極と空気拡散電極が複合されており、電解質膜と電極とは実質的に一体構造になっている。このため、電解質膜はプロトンを伝導するための電解質として作用し、また、加圧下においても燃料である水素やメタノールと、酸化剤である空気又は酸素とを直接混合させないための隔膜としての役割も有する。このような電解質膜としては、電解質としてイオン(プロトン)の移動速度が大きく、イオン交換容量が高いこと、電気抵抗を低く保持するために保水性が一定かつ高いことが要求される。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度が大きいこと、寸法安定性が優れていること、長期の使用に対する化学的な安定性に優れていること、燃料である水素ガスやメタノール、酸化剤である酸素ガスに対して過剰な透過性を有しないことなどが要求される。
【0004】
初期の固体高分子電解質膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合で製造した炭化水素系樹脂のイオン交換膜が電解質膜として使用されていた。しかし、この電解質膜は、耐久性が非常に低いため実用性に乏しく、そのためその後はデュポン社によって開発されたフッ素樹脂系のパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(デュポン社登録商標)」等が一般に用いられてきた。
【0005】
しかしながら、「ナフィオン」等の従来のフッ素樹脂系電解質膜は、化学的な耐久性や安定性には優れているが、メタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池(DMFC)では、メタノールが電解質膜を通過するクロスオーバー現象が生じ、出力が低下する問題があった。また、「ナフィオン」などのフッ素樹脂系電解質膜は、モノマーの合成から出発するために、製造工程が多く、コストが高くなる問題があり、実用化する場合の大きな障害になっている。メタノールのクロスオーバーを低く抑えるためにはイオン伝導度を低くする必要があり、現状、両者間でトレードオフの関係にあり、高いイオン伝導度を保持したままメタノールクロスオーバーを低くすることが課題となっている。
【0006】
また、電解質膜の膜厚は、薄いほうがプロトンが伝導しやすく、燃料電池の発電特性は良好になるが、電解質膜と電極の密着性を向上するため、電解質膜と電極を高温でプレスする際、電解質膜の膜厚が薄いと電解質膜が破損する問題があった。
【0007】
そのため、前記「ナフィオン」等に代わる低コストの電解質膜を開発する努力が行われており、“Journal of Power Sources” 114(2003)P32−53(非特許文献1)に現在検討されている種々の電解質膜が紹介されている。しかし、いずれの電解質膜も、膜を作製した後、電極と高温でプレスし、一体化されており、膜の破損、工程が煩雑などといった問題があった。また、高温、加圧での接合は密着性が必ずしも十分でなかった。
【0008】
生産性、密着性を向上するために、特開2003−203646号公報(特許文献1)では、溶剤に溶解した電解質膜を電極上に塗工し、溶剤を一部含有した状態で圧着しているが、電解質膜は硬化しておらず、密着性が劣るものであった。
【0009】
また、特開2003−217342号公報(特許文献2)、特開2003−217343号公報(特許文献3)では、耐久性を向上させる目的で電解質膜の架橋が提案されているが、これは固体の電解質膜を架橋しており、膜・電極接合体を作製するためには高温でのプレスが必須であった。
【0010】
また、WO03/033576(特許文献4)では、電解質膜中に非電解質モノマーを含浸させて重合することで、燃料透過性を抑制する方法が提案されているが、非電解質モノマーは硬化するものの、含浸した膜は固体であるため、高温でのプレスは必要であった。
【0011】
【特許文献1】特開2003−203646号公報
【特許文献2】特開2003−217342号公報
【特許文献3】特開2003−217343号公報
【特許文献4】国際公開第03/033576号パンフレット
【非特許文献1】Viral Mehta and Joyce Smith Cooper,“Journal of Power Sources” 114(2003),P32−53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高いプロトン伝導性を有し、かつ、直接メタノール型燃料電池においては燃料であるメタノールの透過性が低い電解質膜を形成できる燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物、電解質膜及び電解質膜・電極接合体、並びに生産性の高い電解質膜の製造方法、及び電解質膜と電極を熱プレスしなくても良好に密着する電解質膜・電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部と、(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部と、(3)フッ素樹脂10〜400質量部と、(4)溶剤0〜2,000質量部とを含有する硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線照射して前記硬化性樹脂組成物を重合、硬化させた場合、得られた硬化膜は、優れたイオン伝導性を有し、かつ良好な伸び、強度を有し、この硬化膜を固体高分子型燃料電池の電解質とした場合、直接メタノール型燃料電池においては、燃料であるメタノールの透過性が小さい燃料電池用として有用な電解質膜を生産性よく製造できること、更に、触媒が担持された第一の電極上に、上記硬化性樹脂組成物を塗工し、加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化膜を形成した後、該硬化膜上に、触媒が担持された第二の電極を隣接して配置する工程を行うか、あるいは、触媒が担持された第一の電極上に、上記硬化性樹脂組成物を塗工し、この塗工膜に隣接して、触媒が担持された第二の電極を配置した後、加熱又は電子線照射により、前記塗工膜を硬化させて硬化膜を形成する工程を行うことにより、電解質膜と電極とが熱プレス等の処理をしなくても良好に密着し得、燃料電池用として有用な電解質膜・電極接合体を工業的に有利に製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物、並びに燃料電池用電解質膜の製造方法及び電解質膜・電極接合体の製造方法を提供する。
請求項1:
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部、
(4)溶剤0〜2,000質量部
を含有することを特徴とする燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
請求項2:
(1)成分のイオン伝導性基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
請求項3:
(3)成分のフッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ポリビニリデン、ポリフッ化ビニル、三フッ化エチレン−エチレンコポリマーから選ばれるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
請求項4:
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部と、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部
とを重合、硬化してなり、上記(1)成分が上記前駆体基を有する場合はこれをイオン伝導性基に変換してなる硬化膜中に、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部
が均一に分散含有されてなることを特徴とする燃料電池電解質膜。
請求項5:
請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物において、(1)成分のモノマーがイオン伝導性基を有するものである前記硬化性樹脂組成物を基材上に膜厚200μm以下に塗工する工程と、塗工した硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化させて硬化膜を形成する工程とを含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
請求項6:
請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物において、(1)成分のモノマーがイオン伝導性基を付与可能な前駆体基を有するものである前記硬化性樹脂組成物を基材上に膜厚200μm以下に塗工する工程と、塗工した硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化させて硬化膜を形成する工程と、イオン伝導性基前駆体基をイオン伝導性基に変換する工程とを含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
請求項7:
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部と、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部
とを重合、硬化してなり、上記(1)成分が上記前駆体基を有する場合はこれをイオン伝導性基に変換してなる硬化膜中に、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部
が均一に分散含有されてなる燃料電池電解質膜が、それぞれ触媒が担持された第一及び第二の電極間に介在してなることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体。
請求項8:
触媒が担持された第一の電極上に、請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化膜を形成した後、該硬化膜上に、触媒が担持された第二の電極を配置する工程を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。
請求項9:
触媒が担持された第一の電極上に、請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、更に、この塗工膜上に、触媒が担持された第二の電極を配置した後、加熱又は電子線照射により前記塗工膜を硬化させて硬化膜を形成する工程を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性と高いイオン伝導性、低メタノール透過性及び膜強度などの特性を同時に満足した燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極接合体を得ることができる。本発明の方法により製造された燃料電池用電解質膜は、膜厚を薄くすることが可能になるため、優れたイオン伝導性を得ることができ、固体高分子型燃料電池、特に直接メタノール型燃料電池用電解質膜として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物は、(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマーと、(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマーと、(3)フッ素樹脂と、必要により(4)溶剤とからなる。
【0017】
ここで、本発明において使用される(1)成分の同一分子内に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基を有する化合物(モノマー)としては、例えば(メタ)アクリル酸などのカルボン酸基含有モノマー、アクリルアミドスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、フルオロビニルスルホン酸、パーフルオロビニルエーテルスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー及びそのアルカリ金属塩、メタクリロイロキシエチルフォスフェート等のリン酸基含有モノマー、また、イオン伝導性の官能基を有しない化合物(化学反応を利用してイオン伝導性を付与可能な化合物)として、グリシジル(メタ)アクリレートモノマーなどが例示され、分子量1,000未満のモノマーが硬化膜のイオン伝導性を高くするために望ましい。上記イオン伝導性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられるが、スルホン酸基であることが好ましく、また化学反応によりイオン伝導性基に転換される前駆体基としては、アシルオキシ基、エステル基(−COOR:Rは一価炭化水素基)、酸イミド基、ハロゲン化スルホニル基、グリシジル基等が挙げられる。この前駆体基は、例えば水酸化ナトリウム、メタノール又は亜硫酸ナトリウムと化学反応してカルボン酸基又はスルホン酸基を形成するものである。
【0018】
本発明において使用される(2)成分の一分子中に少なくとも2個の上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を有し、数平均分子量が400以上のオリゴマーとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキルエーテル構造を有するジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコール、フルオロエチレングリコール、パーフルオロアルキルエーテル構造を有するジオールのジウレタン(メタ)アクリレートなどのポリエーテルポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、(メタ)アクリロキシ基含有オルガノポリシロキサン、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、アルコキシ基含有オルガノポリシロキサンなどが例示され、数分子量は400以上のものが、組成物の硬化性をよくするために望ましい。
【0019】
ここで、上記反応性基としては、エチレン性不飽和基が挙げられ、これは、上記(1)成分のエチレン性不飽和基とラジカル重合して、分子量を増大させるものである。
【0020】
なお、数平均分子量は、より好ましくは400〜2,000、更に好ましくは800〜1,000である。この場合、この数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0021】
上記(2)成分のオリゴマーの製造法は特に制限されないが、ジウレタン(メタ)アクリレート等のポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの場合は、ポリオールとジイソシアネートをOH/NCO<1で反応させ、更に残存イソシアネート基と反応する官能基(例えばヒドロキシル基)とアクリル基を有する化合物を反応させたものであることが好ましい。
【0022】
ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーにつき、更に詳述すると、これは(a)ポリオール成分、(b)ポリイソシアネート成分、及び(c)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物のウレタン化反応により得ることができる。ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの数平均分子量は、例えば、400〜10,000、好ましくは400〜5,000程度の範囲から選択できる。
【0023】
(a)ポリオール成分
ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アルキルジオールなどが挙げられ、これらはフッ素化されたものも有効に用いられる。
(ポリエーテルポリオール)
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、3−メチル−テトラヒドロフランなどのC2-5アルキレンオキシド)の単独重合体又は共重合体、脂肪族C12-40ポリオール(例えば、1,2−ヒドロキシステアリルアルコール、水添ダイマージオールなど)を開始剤とした上記アルキレンオキシド単独重合体又は共重合体、ビスフェノールAのアルキレンオキシド(例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなど)付加体、水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド(例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなど)付加体などが挙げられる。また、これらのフッ素化化合物も好適に用いられる。これらのポリエーテルポリオールは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
好ましいポリエーテルポリオールは、C2-4アルキレンオキシド、特にC3-4アルキレンオキシド(プロピレンオキシドやテトラヒドロフラン)の単独又は共重合体(ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、プロピレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体)が挙げられる。また、これらのフッ素化化合物も好ましい。ポリエーテルポリオールの重量平均分子量は、例えば、200〜10,000程度の範囲から選択できる。
【0025】
これらの市販品としては、例えば、(1)ポリエチレングリコールとして、三洋化成工業(株)製の「PEG600」、「PEG1000」、「PEG2000」、(2)ポリオキシプロピレングリコールとして、武田薬品工業(株)製の「タケラックP−21」、「タケラックP−22」、「タケラックP−23」、(3)ポリテトラメチレンエーテルグリコールとして、保土谷化学工業(株)製の「PTG650」、「PTG850」、「PTG1000」、「PTG2000」、「PTG4000」、(4)プロピレンオキサイドとエチレンオキシドの共重合体として三井東圧化学(株)製の「ED−28」、旭硝子(株)製の「エクセノール510」、(5)テトラヒドロフランとプロピレンオキサイドの共重合体として、保土谷化学工業(株)製の「PPTG1000」、「PPTG2000」、「PPTG4000」、(6)テトラヒドロフランとエチレンオキサイドの共重合体として、日本油脂(株)製の「ユニセーフDC−1100」、「ユニセーフDC−1800」、(7)ビスフェノールAのエチレンオキサイドの付加体として、日本油脂(株)製の「ユニオールDA−400」、「ユニオールDA−700」、(8)ビスフェノールAのプロピレンオキサイドの付加体として、日本油脂(株)製の「ユニオールDB−400」、(9)パーフルオロポリエーテルポリオールとして、エクスフロアー社製「パーフルオロトリエチレングリコール」「パーフルオロテトラエチレングリコール」、Ausimont社製「Fomblin Z DOL」等を挙げることができる。
【0026】
(ポリエステルポリオール)
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタグリコ−ル、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールの如きジオール化合物とε−カプロラクタム又はβ−メチル−δ−バレロラクトンとの付加物;上記ジオール化合物とコハク酸、アジピン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸の如き二塩基酸との反応生成物;上記ジオール化合物と上記二塩基酸とε−カプロラクタム又はβ−メチル−δ−バレロラクトンとの三成分の反応生成物等を挙げることができる。
【0027】
(ポリカーボネートポリオール)
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−オクタンジオール、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2−メチルプロパンジオール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール、ビスフェノールAのようなジオール化合物あるいはこれらジオール化合物とエチレンオキサイド2〜6モル付加反応物、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の短鎖ジアルキルカーボネートとの反応生成物からなるポリカーボネートポリオールが挙げられる。
更に、これらポリカーボネートポリオールのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ε−カプロラクタム又はβ−メチル−δ−バレロラクトン付加反応物であるポリエステルジオール等も用いることができる。
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、住友バイエル社製の「デスモフェン2020E」、日本ポリウレタン社製の「DN−980」、「DN−980」、「DN−982」及び「DN−983」等が挙げられる。
【0028】
(アルキルジオール)
アルキルジオールとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−オクタンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2−メチルプロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)ベンゼン、ビスフェノールA、及び炭素数6〜12のパーフルオロアルキルジオール等が挙げられる。
これらのポリオールの中で、本発明の樹脂の物性のバランス、耐久性の面から、ポリエーテルポリオール、アルキルジオールが好ましい。
【0029】
(b)ポリイソシアネート成分
ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、l,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−ビス[イソシアネートメチル]シクロヘキサン、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート(1,3−シクロペンテンジイソシアネート)等のジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、2−[3−イソシアネートプロピル]−2,5−ジ[イソシアネートメチル]−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2−[3−イソシアネートプロピル]−2,6−ジ[イソシアネートメチル]−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、3−[3−イソシアネートプロピル]−2,5−ジ[イソシアネートメチル]−ビシクロ[2,2,1]へプタン、5−[2−イソシアネートエチル]−2−イソシアネートメチル−3−[3−イソシアネートプロピル]−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、6−[2−イソシアネートエチル]−2−イソシアネートメチル−3−[3−イソシアネートプロピル]−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、5−[2−イソシアネートエチル]−2−イソシアネートメチル−2−[3−イソシアネートプロピル]−ビシクロ[2,2,1]へプタン、6−[2−イソシアネートエチル]−2−イソシアネートメチル−2−[3−イソシアネートプロピル]−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等のポリイソシアネートが使用される。これらのジイソシアネートは単独で用いても、2種以上併用してもよい。
中でも、合成反応の容易性及び硬化膜特性のバランスから、2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0030】
(c)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート[例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ−C2-10アルキル(メタ)アクリレートなど]、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、更にグリシジル基又はエポキシ基含有化合物(例えば、アルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなど)と(メタ)アクリル酸との付加反応により生成する化合物も挙げられる。これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましい水酸基含有(メタ)アクリレートは、ヒドロキシC2-4アルキル(メタ)アクリレート、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどである。
【0031】
なお、ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、前記成分を反応させることにより調製することができ、ポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを構成する各成分の割合は、例えば、ポリイソシアネートのイソシアネート基1モルに対して、ポリオール成分の水酸基0.1〜0.8モル、好ましくは0.2〜0.7モル、特に0.2〜0.5モル程度、水酸基含有(メタ)アクリレート0.2〜0.9モル、好ましくは0.3〜0.8モル、特に0.5〜0.8モル程度である。
【0032】
また、前記成分の反応方法は、特に限定されず、各成分を一括混合して反応させてもよく、ポリイソシアネートと、ポリオール成分及び水酸基含有(メタ)アクリレートのうち何れか一方の成分とを反応させた後、他方の成分を反応させてもよい。
【0033】
これらウレタン化反応の触媒としては、例えば、スタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛などの有機金属系ウレタン化触媒や、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン系触媒が使用できるが、その他公知のウレタン化触媒も使用できる。
【0034】
本発明において、硬化膜のメタノール透過性を抑制する目的で使用される(3)成分のフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、三フッ化エチレン−エチレンコポリマー(ECTFE)などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらフッ素樹脂としては、数平均分子量100,000〜600,000程度の市販品を用いることができる。
【0035】
また、本発明における電解質膜用硬化性樹脂組成物には、(4)成分として溶剤を用いることができる。このとき用いる溶剤としては、(1)成分のイオン伝導性モノマー及び(2)成分のオリゴマーを均一に溶解するものが好ましく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族乃至脂環族炭化水素、あるいはこれらの混合溶剤が用いられる。これらの中でも極性溶剤がより好ましい。
【0036】
本発明の電解質膜用硬化性樹脂組成物において、上記成分の配合量は、上記モノマー(1)100質量部に対し、オリゴマー(2)は10〜400質量部、望ましくは20〜100質量部、更に望ましくは25〜75質量部である。オリゴマーが10質量部未満であると、硬化性が損なわれる可能性があり、また、400質量部を超えるとイオン伝導度が低下する場合がある。また、フッ素樹脂(3)は、上記モノマー(1)100質量部に対し、10〜400質量部、望ましくは、40〜130質量部、更に望ましくは75〜125質量部配合することで、硬化膜のイオン伝導性を損なうことなく燃料であるメタノールの透過性を小さくすることができる。配合するフッ素樹脂が10質量部未満であると、メタノール透過の抑制効果が低下する可能性があり、400質量部を超えるとイオン伝導度が損なわれる可能性がある。
【0037】
組成物の25℃の粘度は、100,000mPa・s以下が塗工上望ましく、更に望ましい粘度は100〜10,000mPa・sである。組成物の粘度が100,000mPa・sを超えるとレベリング性が悪くなり、薄く均一に塗工することが困難になる場合があり、100mPa・s未満になると、ハジキや基材へのしみ込みが大きくなる場合がある。上記溶剤(4)の配合量は、かかる点から選定されるが、通常、上記モノマー(1)100質量部に対し0〜2,000質量部、より好ましくは50〜1,500質量部、更に好ましくは100〜1,000質量部である。
【0038】
なお、本発明の硬化性樹脂組成物には、硬化膜の伸び、強度、ヤング率、ガラス転移温度などを調整する目的で、イオン伝導性基もしくはその前駆体を有しないモノマー、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、n−ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレートなどを硬化膜のイオン伝導性を大幅に損なわない範囲で併用してもよい。
【0039】
更に、本発明では、イオン伝導性を向上する目的で、リンタングステン酸などのヘテロポリ酸、あるいは燃料電池の水素、又はアルコール、水、酸素の透過を防ぐ目的で酸化物、窒化物、炭化物等の無機化合物を充填剤として添加することができる。充填剤の具体例として、窒化硼素、炭化珪素、シリカなどが挙げられる。
【0040】
本発明の硬化性樹脂組成物は、これをポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、テトラフロロエチレンフィルムなどのフィルム基材に塗工し、加熱又は紫外線もしくは電子線を照射することで硬化膜が作製できるが、望ましい膜厚は200μm以下であり、更に望ましくは1〜50μmである。200μmを超えると燃料電池電解質膜とした場合の膜抵抗が大きくなるため、出力が低下する問題がある。1μm以下では燃料電池の燃料である水素ガスやメタノールの遮蔽性が低下するため、出力が低下するおそれがある。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化するには、組成物の温度が80℃以上、望ましくは100℃以上になるよう加熱する。この場合、温度の上限は、適宜選定されるが、硬化性樹脂の耐熱性の点から、150℃以下、特に120℃以下が好ましい。なお、加熱時間は加熱温度によって異なるが、通常1分〜2時間、特に3分〜30分である。あるいは、紫外線を10mJ/cm2以上照射、もしくは吸収線量が5kGy以上になるよう電子線を照射する。紫外線の場合、望ましい照射線量は10〜1,000mJ/cm2、更に望ましい照射線量は50〜500mJ/cm2である。10mJ/cm2以下であると、硬化性樹脂の硬化が不十分になるおそれがあり、1,000mJ/cm2を超えると、エネルギーが無駄になると共に生産効率も低下するため、経済的でない。電子線の場合は5kGy未満であると、硬化が不十分になるおそれがある。また、500kGyを超えると、硬化性樹脂の分解が生じるおそれがあるため、望ましい吸収線量は5〜500kGy、更に望ましい吸収線量は10〜100kGyである。
【0042】
硬化を促進するため、熱硬化の場合はアドビスイソブチロニトリルなどの熱重合開始剤、紫外線の場合はベンゾフェノンなどの光重合開始剤を併用することができる。また、組成物を加熱して硬化させた膜に、更に紫外線、電子線を照射して硬化させることもできる。
【0043】
紫外線や電子線を照射する際の温度は室温付近でよいが、樹脂の粘度を塗布しやすいように調整したり、膜厚や塗工面の状態を一定にするため、予め樹脂の温度又は照射雰囲気の温度を一定に調整したほうがよい。この場合、樹脂及び照射雰囲気の温度は25〜60℃で、定温が望ましい。
【0044】
また、硬化性樹脂組成物を硬化する雰囲気としては、ラジカル重合を容易に進行させるため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましく、該ガス中の酸素濃度は500ppm以下が好ましく、200ppm以下が更に好ましい。
【0045】
なお、上述したように、本発明の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物を基材上に膜厚200μm以下に塗工し、塗工した硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線射により硬化させて硬化膜を形成することにより、電解質膜を製造し得るが、上記(1)成分のモノマーがイオン伝導性基ではなく、イオン伝導性基の前駆体基を有する場合は、これをアルカリによる加水分解、亜硫酸ナトリウムによる反応等の方法によりイオン伝導性基に変換することが必要である。
以上のような硬化により、上記(1)成分と(2)成分が共重合、硬化すると共に、(3)成分のフッ素樹脂がこの硬化膜に均一に分散、含有された電解質膜が形成される。
【0046】
本発明に関わる燃料電池用電解質膜は、触媒が担持された第一の電極と第二の電極との間に両極に隣接して配置されて、燃料電池用の電解質膜・電極接合体として形成されるが、この電解質膜・電極接合体は、下記方法により製造することができる。
(i)触媒が担持された第一の電極上に、イオン伝導性を有する電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、加熱又は紫外線もしくは電子線を照射することにより硬化膜を形成した後、該硬化膜上に触媒が担持された第二の電極を隣接して配置する工程を行う。
(ii)触媒が担持された第一の電極上に、イオン伝導性を有する電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、更に、この塗工膜に隣接して、触媒が担持された第二の電極を配置した後、加熱又は電子線を照射して前記硬化性樹脂を硬化させて硬化膜を形成する工程を行う。
【0047】
図1は、上記(ii)の方法を説明するもので、図中1は、カーボンペーパー2上に触媒塗布層3が形成された空気極、4は、同じくカーボンペーパー5上に触媒塗布層6が形成された燃料極で、7は電解質膜用硬化性樹脂組成物の塗工膜(又はその硬化物である電解質膜)であり、例えば燃料極4の触媒塗布層6上に塗工膜7を形成し、その上に空気極1をその触媒塗布層3が塗工膜7と隣接するように積層し、次いで加熱又は電子線(EB)照射し、上記塗工膜7を硬化させて、硬化膜(電解質膜)を得るものである。
【0048】
上記の触媒が担持された電極としては、通常の燃料電池の電極(燃料極、空気極)に触媒が担持されたものを用いることができる。この場合、これら電極の構成、材質は、燃料電池として公知の構成、材質とすることができ、触媒としても、燃料電池として公知の触媒、例えば白金系触媒等を使用することもできる。
【0049】
上記工程において、電極に塗工膜あるいは電解質膜を接合させるには、プレス等を用いて0.05〜5kG/cm2程度で圧着させればよく、電解質膜と電極とを高温でプレスしなくても良好に密着させることができる。
【0050】
本発明の電解質膜及び電解質膜・電極接合体は、燃料電池用として用いられるものである。燃料電池は、燃料極と空気極との間に各極に良好に密着した薄膜の固体高分子電解質膜が設けられているものであり、固体高分子電解質膜の両面に触媒層・燃料拡散層及びセパレータを配置することで発電特性に優れる燃料電池を製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、数平均分子量の測定は、東ソー(株)製HLC−8220高速GPC装置により、粘度の測定は回転式粘度計による。
【0052】
[実施例1]
数平均分子量410のフルオロテトラエチレングリコール100g、2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.05gを反応容器に仕込み、窒素通気下、65〜70℃で2,4−トリレンジイソシアネート84.9gを滴下した。滴下後更に70℃で2時間反応し、次いでジブチルチンジラウレート0.02gを添加し、乾燥空気下で、2−ヒドロキシエチルアクリレート56.6gを滴下した。更に、70℃で5時間反応させ、数平均分子量990のフルオロポリエーテルウレタンアクリレートオリゴマー(オリゴマーA)を得た。
【0053】
オリゴマーA50g、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸100g、数平均分子量543,000のフッ化ポリビニリデンパウダー(PVDF)100g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)900gを混合し、25℃の粘度が8,000mPa・sで蛍光色透明の硬化性樹脂組成物Bを得た。
【0054】
次に、アプリケーターを用い、ガラス板上に硬化性樹脂組成物Bを50μmになるよう塗工し、酸素濃度50ppm以下の窒素雰囲気下で加速電圧300kV、吸収線量50kGyになるよう電子線照射することにより、硬化膜を得た。
【0055】
この膜を25℃で純水中に24時間浸漬後、表面の水をガーゼで拭き取り、インピーダンス ゲイン フェイズ アナライザー1260(Schulumberger Technologies社製)を用い、電極には白金板を使い、25℃のプロトン伝導度を測定した結果、0.10S/cmであった。また、25℃、1Mメタノール水溶液の膜透過率をガスクロマトグラフィー分析装置により測定した結果、0.07kg/m2・hであった。
【0056】
[実施例2]
ナフィオンの5%イソプロピルアルコール溶液(アルドリッチ社製)と白金を20質量%担持したカーボンVulcanXC−72(Cabot社製)を混練してペースト状とした触媒ペーストをカーボンペーパー(TGP−H−090(東レ(株)製)上に白金触媒が0.34mg/cm2になるようワイヤーバーを用いて塗工した後、熱風循環式乾燥器内で120℃、5分間乾燥させ、電極(燃料極)を得た。
【0057】
この電極上に硬化性樹脂組成物Bを膜厚が約30μmになるようアプリケータを用いて塗工し、この上に前記電極(燃料極)と同様に作製した電極(空気極)を貼り合わせ、室温で5kG/cm2のローラーを2往復させ、圧着した。その後、電子線照射装置を用い、図1に示す態様で、酸素濃度50ppm以下の窒素雰囲気下で加速電圧300kV、吸収線量50kGyになるよう電子線照射したところ、硬化性樹脂組成物は良好に硬化し、硬化膜は各電極共に良好に密着していた。
【0058】
この膜のイオン伝導度は25℃、0.10S/cmであり、1Mメタノール燃料における30℃での電池特性は、電流100mA/cm2で、20mW/cm2の出力であった。
【0059】
[比較例1]
実施例1で作製したオリゴマーA150gと、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸100g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)400gを混合し、25℃の粘度が10mPa・sの硬化性樹脂組成物Cを得た。実施例1と同様の手順で硬化膜を作製し、25℃のプロトン伝導度を測定した結果、0.10S/cmであった。25℃、1Mメタノール水溶液の膜透過率をガスクロマトグラフィー分析装置により測定した結果、0.40kg/m2・hであった。
【0060】
[比較例2]
比較例1の硬化性樹脂組成物Cを使用した以外は、実施例2と同様の手順により作製した膜のイオン伝導度は、25℃、0.10S/cmであり、1Mメタノール燃料における30℃での電池特性は、電流100mA/cm2で、9mW/cm2の出力であった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の電解質膜・電極接合体を作製する方法の一例を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 空気極
2 カーボンペーパー
3 触媒塗布層
4 燃料極
5 カーボンペーパー
6 触媒塗布層
7 電解質膜組成物の塗工膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部、
(4)溶剤0〜2,000質量部
を含有することを特徴とする燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(1)成分のイオン伝導性基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(3)成分のフッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ポリビニリデン、ポリフッ化ビニル、三フッ化エチレン−エチレンコポリマーから選ばれるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部と、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部
とを重合、硬化してなり、上記(1)成分が上記前駆体基を有する場合はこれをイオン伝導性基に変換してなる硬化膜中に、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部
が均一に分散含有されてなることを特徴とする燃料電池電解質膜。
【請求項5】
請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物において、(1)成分のモノマーがイオン伝導性基を有するものである前記硬化性樹脂組成物を基材上に膜厚200μm以下に塗工する工程と、塗工した硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化させて硬化膜を形成する工程とを含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物において、(1)成分のモノマーがイオン伝導性基を付与可能な前駆体基を有するものである前記硬化性樹脂組成物を基材上に膜厚200μm以下に塗工する工程と、塗工した硬化性樹脂組成物を加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化させて硬化膜を形成する工程と、イオン伝導性基前駆体基をイオン伝導性基に変換する工程とを含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項7】
(1)一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくは化学反応を利用してイオン伝導性基を付与可能な前駆体基とを有するモノマー100質量部と、
(2)上記(1)成分のエチレン性不飽和基と共重合可能な反応性基を一分子中に少なくとも2個有し、数平均分子量が400以上のオリゴマー10〜400質量部
とを重合、硬化してなり、上記(1)成分が上記前駆体基を有する場合はこれをイオン伝導性基に変換してなる硬化膜中に、
(3)フッ素樹脂10〜400質量部
が均一に分散含有されてなる燃料電池電解質膜が、それぞれ触媒が担持された第一及び第二の電極間に介在してなることを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体。
【請求項8】
触媒が担持された第一の電極上に、請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、加熱又は紫外線もしくは電子線照射により硬化膜を形成した後、該硬化膜上に、触媒が担持された第二の電極を配置する工程を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項9】
触媒が担持された第一の電極上に、請求項1,2又は3記載の燃料電池電解質膜用硬化性樹脂組成物を塗工し、更に、この塗工膜上に、触媒が担持された第二の電極を配置した後、加熱又は電子線照射により前記塗工膜を硬化させて硬化膜を形成する工程を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−40635(P2006−40635A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216103(P2004−216103)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】