説明

燃料電池

【課題】電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを適宜放出でき、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が少ない燃料電池を提供する。
【解決手段】カソード触媒層2と、アノード触媒層3と、上記カソード触媒層2と上記アノード触媒層3の間に配置されるプロトン伝導性膜6と、液体燃料Lを貯留する液体燃料タンク9と、液体燃料の気化成分を前記アノード触媒層3に供給するための燃料気化層10と、上記燃料気化層10と上記アノード触媒層3との間に形成された気化燃料収容室12とを具備する燃料電池であって、前記アノード触媒層3において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを上記気化燃料収容室12の側壁から電池外に排出する内圧逃がし機構20を設けたことを特徴とする燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料を気化させた気化燃料をアノード触媒層に供給する方式の燃料電池に係り、特に電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを適宜放出でき、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が少ない燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の各種電子機器は、半導体技術の発達と共に小型化され、燃料電池をこれらの小型機器用の電源に用いることが試みられている。燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができ、燃料のみを交換すれば連続して発電できるという利点を有しているため、小型化が実現すれば携帯電子機器の作動に極めて有利なシステムといえる。特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC;direct methanol fuel cell)は、エネルギー密度が高いメタノールを燃料に用い、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出せるため、改質器も不要なことから小型化が可能であり、燃料の取り扱いも水素ガス燃料に比べて安全で容易なことから小型機器用電源として有望である。
【0003】
DMFCの燃料の供給方法としては、液体燃料を気化してからブロア等で燃料電池内に送り込む気体供給型DMFCと、液体燃料をそのままポンプ等で燃料電池内に送り込む液体供給型DMFCと、更には特許文献1に示すような内部気化型DMFC等が知られている。
【0004】
特許文献1に示す内部気化型DMFCは、液体燃料を保持する燃料浸透層と、燃料浸透層中に保持された液体燃料のうち気化成分を拡散させるための燃料気化層とを備えるもので、気化した液体燃料が燃料気化層から燃料極(アノード)に供給される。特許文献1では、液体燃料としてメタノールと水が1:1のモル比で混合されたメタノール水溶液が使用され、メタノールと水の双方を気化ガスの形で燃料極に供給している。
【0005】
このような特許文献1に示す内部気化型DMFCによると、十分に高い出力特性を得られなかった。水はメタノールに比べて蒸気圧が低く、水の気化速度はメタノールの気化速度に比べて遅いため、メタノールも水も気化によって燃料極に供給しようとすると、メタノール供給量に対する水の相対的な供給量が不足する。その結果、メタノールを内部改質する反応の反応抵抗が高くなるため、十分な出力特性を得られなくなるのである。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、上記特許文献1に示す従来の内部気化型DMFCによると、メタノールが電池外部に漏洩することを防止するために、液体燃料タンクからアノード触媒層に至る経路はほぼ気密に形成されている。そして、アノード触媒層におけるメタノール等の燃料の分解反応によって炭酸ガス(CO)が生成し、その生成量は発電量の増加に伴って増加する。そのため、燃料気化層とアノード触媒層との間に形成された気化燃料収容室における内圧が経時的に増加して、相対的に気化燃料ガスの分圧が減少し、アノード触媒層に供給される燃料供給量が低下する結果、電池出力が低下してしまう問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、液体燃料の気化成分をアノード触媒層に供給する方式を有する小型燃料電池の出力特性を安定化向上させることにあり、特に電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを適宜放出でき、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が少ない燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る燃料電池は、カソード触媒層と、アノード触媒層と、上記カソード触媒層と上記アノード触媒層の間に配置されるプロトン伝導性膜と、液体燃料を貯留する液体燃料タンクと、液体燃料の気化成分を前記アノード触媒層に供給するための燃料気化層と、上記燃料気化層と上記アノード触媒層との間に形成された気化燃料収容室とを具備する燃料電池であって、前記アノード触媒層において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを上記気化燃料収容室の側壁から電池外(電池筐体外)に排出する内圧逃がし機構を設けたことを特徴とする。
【0009】
また上記燃料電池において、前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された切欠部と、この切欠部に密着自在に配置された弾性体とから構成することが好ましい。
【0010】
さらに、上記燃料電池において、前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された溝と、この溝に密着自在に配置された弾性体とから構成することが好ましい。
【0011】
また上記燃料電池において、前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁と、この側壁に密着するように配置された弾性体とから成り、前記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリットを上記弾性体の厚さ方向に延びるように形成することが好ましい。
【0012】
さらに、上記燃料電池において、前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された溝と、この溝に密着自在に配置された弾性体とから成り、上記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリットを、溝に密着した弾性体の厚さ方向に延びるように形成することが好ましい。
【0013】
また上記燃料電池において、前記弾性体の硬度が、日本工業規格(JIS K 6301 A:1997(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法))で表される硬度40°〜70°の範囲であることが好ましい。
【0014】
さらに、上記燃料電池において、前記気化燃料収容室の側壁に形成された切欠部の幅が1mm以下であることが好ましい。
【0015】
また上記燃料電池において、前記気化燃料収容室から排出された生成ガスをカソード触媒層側に還流する案内管を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る燃料電池によれば、電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを含む生成ガスが内圧逃がし機構により電池外に適宜放出できるため、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が抑制され、安定した出力特性を備えた燃料電池を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、液体燃料の気化成分をアノード触媒層に供給するための燃料気化層を具備した燃料電池において、電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを含む生成ガスを、気化燃料収容室の側壁に形成した切欠部や溝から成る内圧逃がし機構を経て適宜電池外に放出させることにより、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が少なく安定した出力特性を有する燃料電池が得られるという知見を得た。
【0018】
また、カソード触媒層において生成した水を、プロトン伝導性膜を通して前記アノード触媒層に供給することによって燃料の内部改質反応の反応抵抗を低くすることができ、出力特性が向上することを見出したのである。
【0019】
特に、カソード触媒層において生成した水を用いてカソード触媒層の水分保持量をアノード触媒層の水分保持量よりも多い状態を作り出すことによって、この生成水のプロトン伝導性膜を経由してアノード触媒層への拡散反応を促すことができるため、水の供給速度を燃料気化層のみに依存していた場合に比べて向上させることができ、燃料の内部改質反応の反応抵抗を低減することが可能になり、電池の出力特性が向上することを見出したのである。
【0020】
また、カソード触媒層で発生した水をアノード触媒層における液体燃料の内部改質反応に使用できるため、カソード触媒層で発生した水の燃料電池外への排出等の処理が軽減できると共に、液体燃料への水の供給のための特別な構成を必要とせず、簡便な構成の燃料電池を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る燃料電池によれば、従来は理論上使用することの出来なかった、化学量論比を超える純メタノール等の濃厚な燃料を使用することが出来る。
【0022】
以下、本発明に係る燃料電池の一実施形態である直接メタノール型燃料電池について、添付図面を参照して説明する。
【0023】
まず、第一の実施形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池の構成例を示す模式的な断面図である。
【0024】
図1に示すように、膜電極接合体(MEA)1は、カソード触媒層2及びカソードガス拡散層4から成るカソード極と、アノード触媒層3及びアノードガス拡散層5から成るアノード極と、カソード触媒層2とアノード触媒層3の間に配置されるプロトン伝導性の電解質膜6とを備えるものである。
【0025】
カソード触媒層2及びアノード触媒層3に含有される触媒としては、例えば、白金族元素の単体金属(Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等)、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。アノード触媒には、メタノールや一酸化炭素に対する耐性の強いPt−Ru、カソード触媒には、白金を用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒を使用しても、あるいは無担持触媒を使用しても良い。
【0026】
プロトン伝導性電解質膜6を構成するプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(例えば、パーフルオロスルホン酸重合体)、スルホン酸基を有するハイドロカーボン系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
カソードガス拡散層4はカソード触媒層2の上面側に積層され、かつアノードガス拡散層5はアノード触媒層3の下面側に積層されている。カソードガス拡散層4はカソード触媒層2に酸化剤を均一に供給する役割を担うものであるが、カソード触媒層2の集電体も兼ねている。一方、アノードガス拡散層5はアノード触媒層3に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層3の集電体も兼ねている。カソード導電層7a及びアノード導電層7bは、それぞれ、カソードガス拡散層4及びアノードガス拡散層5と接している。カソード導電層7a及びアノード導電層7bには、例えば、金などの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)をそれぞれ使用することが出来る。
【0028】
矩形枠状のカソードシール材8aは、カソード導電層7aとプロトン伝導性電解質膜6との間に位置すると共に、カソード触媒層2及びカソードガス拡散層4の周囲を気密に囲んでいる。一方、矩形枠状のアノードシール材8bは、アノード導電層7bとプロトン伝導性電解質膜6との間に位置すると共に、アノード触媒層3及びアノードガス拡散層5の周囲を気密に囲んでいる。カソードシール材8a及びアノードシール材8bは、膜電極接合体1からの燃料漏れ及び酸化剤漏れを防止するためのオーリングである。
【0029】
膜電極接合体1の下方には、液体燃料タンク9が配置されている。液体燃料タンク9内には、液体のメタノール等の液体燃料Lあるいはメタノール水溶液が収容されている。液体燃料タンク9の開口端には、燃料気化層10として例えば、液体燃料の気化成分のみを透過させて、液体燃料を透過させない気液分離膜10が液体燃料タンク9の開口部を覆うように配置されている。ここで、液体燃料の気化成分とは、液体燃料として液体のメタノールを使用した場合、気化したメタノールを意味し、液体燃料としてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合ガスを意味する。
【0030】
気液分離膜10とアノード導電層7bの間には、樹脂製のフレーム11が積層されている。フレーム11で囲まれた空間は、気液分離膜10を拡散してきた気化燃料を一時的に収容しておく気化燃料収容室12(いわゆる蒸気溜り)として機能する。この気化燃料収容室12及び気液分離膜10の透過メタノール量抑制効果により、一度に多量の気化燃料がアノード触媒層3に供給されるのを回避することができ、メタノールクロスオーバーの発生を抑えることが可能である。なお、フレーム11は、矩形のフレームで、例えばPETのような熱可塑性ポリエステル樹脂から形成される。
【0031】
上記気化燃料収容室(蒸気溜り)12の側壁には、アノード触媒層3において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを電池外に排出する内圧逃がし機構20が設けられる。この内圧逃がし機構20は、例えば図3に示すように、気化燃料収容室12の側壁11aに形成された溝21と、この溝21に密着自在に配置された弾性体10aとから構成される。
【0032】
上記内圧逃がし機構は、硬質の材料とこの硬質材に密着自在となる軟質の弾性体とを組み合わせて構成することが望ましい。具体的に、上記気化燃料収容室(蒸気溜り)12の側壁を構成する部材としては、特に限定されるものではなく、電池の構成部品間を気密に封止するPETなどの硬質樹脂材から成る枠材(シール材)や電池の筐体で構成しても良い。一方、上記弾性体としては、軟質のゴムシート材が好適である。特に、軟質のシリコンゴムシート、NBR等で形成される前記燃料気化層10をそのまま弾性体として兼用させることもできる。
【0033】
上記ゴム等の弾性体の硬度は、日本工業規格(JIS K 6301 A:1997)で表される硬度40°〜70°の範囲であることが好ましい。この弾性体の硬度が40°未満と過度に柔軟な場合には、側壁に形成した切欠部や溝に嵌入した弾性体によって吹出し口が形成されにくくなる。つまり、切欠を形成しても弾性体の弾性があるため、内圧が上昇しても吹出し口が開かず、所定圧力での解放動作が困難になる。また、例え吹出し口が形成されたとしても、内圧が高い状態での動作となるため、燃料電池のシール構造を兼ねているガス抜き機構であるため、シール構造を破壊する起点となる恐れがある。一方、弾性体の硬度が70°を超えるほどに過大となると、弾性体の変形能が低下し、内圧が変化してもゴム形状がそのまま維持されることなり、切欠部や溝を封止することが困難になる。そのため、弾性体の硬度は40°〜70°の範囲に設定されるが、50°〜60°の範囲がより好ましい。
【0034】
図3に示す内圧逃がし機構20において、気化燃料収容室12内の圧力が低い場合には、図3の左側に示すように、溝21は弾性体10aが嵌入して吹出し口は閉止されている。一方、電池反応が進みアノード触媒層3から生成した炭酸ガスが気化燃料収容室12に蓄積されて内圧が上昇すると、弾性体10aが変形し吹出し口が開くために、炭酸ガスを含む生成ガスは電池外(電池筐体外)に排出される。そして、生成ガスの電池外への排出によって内圧が低くなると、弾性体10aが溝21内に嵌入して吹出し口は再び閉止される。したがって、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が抑制され、安定した出力特性を備えた燃料電池を提供することが可能になる。
【0035】
上記内圧逃がし機構は、図2に示すように気化燃料収容室12の側壁11に形成された切欠部22と、この切欠部22を上下から挟み込むように密着自在に配置された2枚の弾性体10a、10bとから構成することもできる。この内圧逃がし機構20aの作用効果は、図3に示す機構と同様である。
【0036】
図2,3に示す内圧逃がし機構20a、20において、気化燃料収容室の側壁11、11aに形成される切欠部22または溝21の幅Wは、1mm以下であることが好ましい。この切欠部22または溝21の幅Wが1mmを超えるように過大となると、内圧が低い状態であっても吹出し口が形成され、燃料であるメタノールのリークが発生する等、弾性体10、10aによる吹出し口の開閉動作が円滑に実行されなくなる。上記溝21の幅Wを1mm以下とすることにより、発電していないときの燃料のリーク量を低減できる。
【0037】
また、上記内圧逃がし機構は、図4に示すように、前記気化燃料収容室の側壁11と、この側壁11に密着するように配置された弾性体10cとから成り、前記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリット23を上記弾性体10cの厚さ方向に延びるように形成して構成することもできる。
【0038】
上記弾性体10cに形成されるスリット23の高さは、弾性体10cの厚さの4分の3以下が好ましく、具体的には厚さが200μm程度の弾性体10cを用いる場合には、150μm以下とすることが好ましい。上記スリット23の高さが、弾性体10cの厚さの4分の3を超えるように過大になると、弾性体10cによる吹出し口の開閉動作が円滑に実行されなくなる。この内圧逃がし機構20bの作用効果は、図3に示す機構と同様である。
【0039】
さらに上記内圧逃がし機構は、図5に示すように構成することもできる。すなわち、内圧逃がし機構20cを、前記気化燃料収容室の側壁11aに形成された溝21と、この溝21に密着自在に配置された弾性体10dとから構成し、上記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリット23を、溝21に密着した弾性体10dの厚さ方向に延びるように形成して構成したものでも良い。
【0040】
図5に示す内圧逃がし機構20cによれば、図3に示す内圧逃がし機構20の構成に加えて、さらに弾性体10dにスリット23が形成されているために、内圧の吹出し口の開閉動作がより円滑に実行される。
【0041】
なお、上記図2〜図5の右側に示す内圧逃がし機構における内圧が高い場合に形成される逃がし通路は、理解を容易にするために誇張して描かれているが、実際には逃がし通路の幅は数十μm程度であり、この幅の逃がし通路が開くことで内圧が効果的に開放される。また、内圧が低い時においても逃がし通路(吹出し口)を完全に封止することは困難であるが、気化燃料のリーク量は効果的に低減できる。
【0042】
また、上記のような内圧逃がし機構を備えた燃料電池において、図7に示すように前記気化燃料収容室12から排出された生成ガスをカソード触媒層2側に還流する案内管24を設けることが好ましい。
【0043】
上記気化燃料収容室12から排出された生成ガス中には、アノード触媒層3から発生した炭酸ガスの他に、燃料気化層10から供給されたメタノール蒸気等の気化燃料が含有されている。この排出された生成ガスを、上記案内管24を経由してカソード触媒層2側に還流することにより、排出された気化燃料が回収再利用される。すなわち、メタノール蒸気等の気化燃料の燃焼反応が起こり、その発熱によって電池出力を増加させることが可能になると共に、燃料電池の低温度における始動が容易になり始動特性が改善される効果がある。
【0044】
一方、膜電極接合体1の上部に積層されたカソード導電層7a上には、保湿板13が積層されている。酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口14が複数個形成された表面層15は、保湿板13の上に積層されている。表面層15は、膜電極接合体1を含むスタックを加圧してその密着性を高める役割も果たしているため、例えば、SUS304のような金属から形成される。保湿板13は、カソード触媒層2において生成した水の蒸散を抑止する役割をなすと共に、カソードガス拡散層4に酸化剤を均一に導入することによりカソード触媒層2への酸化剤の均一拡散を促す補助拡散層としての役割も果たしている。
【0045】
上述したような構成の第一の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池によれば、液体燃料タンク9内の液体燃料(例えばメタノール水溶液)が気化し、気化したメタノールと水が気液分離膜(燃料気化層)10を拡散し、気化燃料収容室12に一旦収容され、そこから徐々にアノードガス拡散層5を拡散してアノード触媒層3に供給され、以下の反応式(1)に示すメタノールの内部改質反応を生じる。
【0046】
[化1]
CHOH+HO → CO+6H+6e ……(1)
【0047】
また、液体燃料として純メタノールを使用した場合には、燃料気化層からの水の供給がないため、カソード触媒層2に混入したメタノールの酸化反応により生成した水やプロトン伝導性電解質膜6中の水分等がメタノールと反応して前述した(1)式の内部改質反応が生じるか、あるいは前述した(1)式によらない水不使用の反応機構で内部改質反応が生じる。
【0048】
アノード触媒層3におけるメタノール等の燃料の分解反応によって生成した炭酸ガス(CO)は、燃料気化層10とアノード触媒層3との間に形成された気化燃料収容室12に蓄積されるため、内圧が経時的に増加する。
【0049】
上記の内部改質反応で生成したプロトン(H)はプロトン伝導性電解質膜6を拡散してカソード触媒層3に到達する。一方、表面層15の空気導入口14から取り入れられた空気は、保湿板13とカソードガス拡散層4を拡散してカソード触媒層2に供給される。カソード触媒層2では、下記(2)式に示す反応によって水が生成する、つまり発電反応が生じる。
【0050】
[化2]
(3/2)O+6H+6e → 3HO ……(2)
【0051】
発電反応が進行すると、前述した(2)式の反応などによってカソード触媒層2中に生成した水が、カソードガス拡散層4内を拡散して保湿板13に到達し、保湿板13によって蒸散を阻害され、カソード触媒層2中の水分貯蔵量が増加する。このため、発電反応の進行に伴ってカソード触媒層2の水分保持量がアノード触媒層3の水分保持量よりも多い状態を作り出すことができる。その結果、浸透圧現象によって、カソード触媒層2に生成した水がプロトン伝導性電解質膜6を通過してアノード触媒層3に移動する反応が促進されるため、アノード触媒層への水供給速度を燃料気化層のみに頼っていた場合に比べて向上することができ、前述した(1)式に示すメタノールの内部改質反応を促すことができる。このため、出力密度を高くすることができると共に、その高い出力密度を長期間に亘り維持することが可能となる。
【0052】
一方、アノード触媒層3におけるメタノール等の燃料の分解反応によって生成した炭酸ガス(CO)は、燃料気化層10とアノード触媒層3との間に形成された気化燃料収容室12に蓄積されるため、内圧が経時的に増加する。しかしながら、本実施例によれば図2〜図5に示すような内圧逃がし機構20〜20cが設けられているために、電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生した炭酸ガスは適宜内圧逃がし機構20〜20cを経て電池外(電池筐体外)に放出される。したがって、気化燃料収容室12における気化燃料ガスの分圧が減少することがなく、またアノード触媒層3に供給される燃料供給量が低下することもないので、電池出力が低下することがない。
【0053】
具体的に図3に示す内圧逃がし機構20の場合を例にとって以下に説明する。気化燃料収容室12内の圧力が低い場合には、図3の左側に示すように、溝21は弾性体10aが嵌入して吹出し口は閉止されている。一方、電池反応が進みアノード触媒層3から生成した炭酸ガスが気化燃料収容室12に蓄積されて内圧が上昇すると、弾性体10aが変形し吹出し口が開くために、炭酸ガスを含む生成ガスは電池外に排出される。そして、生成ガスの電池外への排出によって内圧が低くなると、弾性体10aが溝21内に嵌入して吹出し口は再び閉止される。したがって、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が抑制され、安定した出力特性を備えた燃料電池を提供することが可能になる。
【0054】
また、液体燃料として濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液か、純メタノールを使用することによって、内部改質反応に、カソード触媒層2からアノード触媒層3に拡散してきた水がもっぱら使用されるようになり、アノード触媒層3への水供給が安定して進行するため、メタノールの内部改質反応の反応抵抗をさらに低減することができ、長期出力特性と負荷電流特性をより向上させることができる。さらに、液体燃料タンクの小型化を図ることも可能である。なお、純メタノールの純度は、95重量%以上100重量%以下にすることが望ましい。
【0055】
次いで、第2の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池について説明する。
【0056】
この第2の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池は、カソードガス拡散層と表面層との間に保湿板を配置しないこと以外は、前述した第1の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池と同様な構造を有するものである。
【0057】
第2の実施形態においては、燃料タンクに収容される液体燃料として、50モル%以上のメタノール水溶液か、純メタノール(純度は95重量%以上100重量%以下にすることが望ましい)を使用する。このため、気液分離膜を拡散してアノード触媒層に供給される水分量が減少もしくは皆無となる。一方、カソード触媒層には、前述した(2)式に示す反応等によって水が生成し、発電の進行と共に水の存在量が増加する。その結果、カソード触媒層の水分保持量がアノード触媒層の水分保持量よりも多い状態を形成することができるため、浸透圧現象によって、カソード触媒層からアノード触媒層への水の拡散を促進することができる。その結果、アノード触媒層への水供給が促進され、かつ水供給が安定して行なわれるようになるため、前述した(1)式に示すメタノールの内部改質反応を促進することができ、出力密度と長期出力特性を向上させることが可能となる。また、液体燃料タンクの小型化を図ることも可能になる。
【0058】
ここで、パーフルオロカーボン系のプロトン伝導性電解質膜を使用した場合における燃料電池の最大出力とプロトン伝導性電解質膜の厚さとの関係を調査した結果、高い出力特性を実現するためには、プロトン伝導性電解質膜6の厚さを100μm以下にすることが望ましい。プロトン伝導性電解質膜6の厚さを100μm以下にすることにより高出力が得られる理由は、カソード触媒層2からアノード触媒層3への水の拡散をさらに促すことが可能になるためである。但し、プロトン伝導性電解質膜6の厚さを10μm未満にすると、電解質膜4の強度が低下する恐れがあることから、プロトン伝導性電解質膜6の厚さは10〜100μmの範囲に設定することがより好ましい。より好ましくは、10〜80μmの範囲である。
【0059】
本発明においては、上記各実施形態に限らず、カソード触媒層2において生成した水をプロトン伝導性膜6を通して前記アノード触媒層3に供給する構成を採用することで、アノード触媒層3への水供給が促進され、かつ水供給が安定して行われるものであれば、何ら限定されるものではない。
【0060】
また、前記アノード触媒層3において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを上記気化燃料収容室の側壁から電池外に間歇的に排出できる構造であれば、内圧逃がし機構の構成は何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0062】
(実施例1)
<アノード極の作製>
アノード用触媒(Pt:Ru=1:1)担持カーボンブラックにパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水及びメトキシプロパノールを添加し、前記触媒担持カーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより厚さが450μmのアノード触媒層を有するアノード極を作製した。
【0063】
<カソード極の作製>
カソード用触媒(Pt)担持カーボンブラックにパーフルオロカーボンスルホン酸溶液と水及びメトキシプロパノールを加え、前記触媒担持カーボンブラックを分散させてペーストを調製した。得られたペーストをカソードガス拡散層としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより厚さが400μmのカソード触媒層を有するカソード極を作製した。
【0064】
アノード触媒層とカソード触媒層の間に、プロトン伝導性電解質膜として厚さが30μmで、含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(nafion膜、デュポン社製)を配置し、これらにホットプレスを施すことにより、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0065】
保湿板として厚さが500μmで、透気度が2秒/100cm(JIS P−8117)で、透湿度が4000g/m224h(JIS L−1099 A−1法)のポリエチレン製多孔質フィルムを用意した。
【0066】
気化燃料収容室12の側壁を構成するフレーム11として、PET製で厚さが25μmである枠状のフレーム11を用意し、このフレーム11の一部11aに図3に示すような幅Wが1mmである溝21を形成し内圧を逃がすための吹出し口とした。また、気液分離膜10と弾性体10aとを兼用する部材として、厚さが100μmであるシリコンゴム(SR)シートを用意した。
【0067】
得られた膜電極接合体1、保湿板13、フレーム11、11a、気液分離膜10(弾性体10a)を用いて前述した図1に示す構造を有する内部気化型の実施例1に係る直接メタノール型燃料電池を組み立てた。この際、燃料タンク9には、純度が99.9重量%の純メタノールを2mL収容した。
【0068】
(実施例2)
実施例1のようにフレーム11に溝21を形成せず、図4に示すように気液分離膜10(弾性体10c)として使用したシリコンゴムシートの厚さ方向に延びるように高さ50μm以下のスリット(切込み)23を2〜4本切った点以外は図1に示す実施例1と同様の構造を有する実施例2に係る燃料電池を組み立てた。
【0069】
(比較例)
実施例1で形成した溝をフレーム11に形成せず、また実施例2で弾性体に形成したスリットを全く形成しない点以外は図1に実施例1と同様の構造を有する比較例に係る燃料電池を組み立てた。
【0070】
こうして調製した実施例1,2および比較例に係る燃料電池について、室温にて一定負荷で発電を行い、その際の燃料電池出力と気化燃料収容室12の内圧(アノード圧力)との経時変化を連続的に測定した。測定結果を図6に示す。図6の横軸は発電時間を示す一方、左右の縦軸はそれぞれアノード圧力と出力値とを示している。アノード圧力は大気圧を0とした相対圧力値を示している。
【0071】
図6に示す結果から明らかなように、アノード触媒層において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを気化燃料収容室の側壁から電池外に排出する内圧逃がし機構を設けた各実施例1、2に係る燃料電池においては、電池反応の進行に伴ってアノード触媒層から発生する炭酸ガスを適宜放出できるため、内圧逃がし機構を有しない比較例に係る燃料電池と比較して、炭酸ガスによる内圧上昇による電池出力特性の低下が少なく、安定的な出力が得られることが判明した。
【0072】
これに対して、内圧逃がし機構を有しない比較例に係る燃料電池においては、アノード圧力は経時的に上昇し続けるために、相対的に気化燃料ガスの分圧が減少し、アノード触媒層に供給される燃料供給量が低下する結果、電池出力が低下してしまう傾向が再確認された。
【0073】
図7は前記気化燃料収容室12から排出された生成ガスをカソード触媒層2側に還流する案内管24を設けた燃料電池の構成例を示している。ここで上記気化燃料収容室12から排出された生成ガス中には、アノード触媒層3から発生した炭酸ガスの他に、燃料気化層10から供給されたメタノール蒸気等の気化燃料が含有されている。したがって内圧逃がし機構から排出された生成ガスを、上記案内管24を経由してカソード触媒層2側に還流することにより、排出された気化燃料が回収再利用される。すなわち、メタノール蒸気等の気化燃料の燃焼反応が起こり、その発熱によって電池出力を増加させることが可能になると共に、燃料電池の低温度における始動が容易になり始動特性が改善される効果が得られた。
【0074】
図8は、図3に示す内圧逃がし機構20の溝(切欠)21の幅Wを0.3〜5mmの範囲で変化させた場合における切欠幅Wとセル電圧との関係を示すグラフである。図8に示す結果から明らかなように、上記溝(切欠)21の幅Wが1mmを超えると、矩形状の弾性体に均一に圧力が掛からなくなるために、無負荷時における電池のセル電圧が低下してしまうことが判明した。
【0075】
図9は、図4に示す内圧逃がし機構20bを構成する弾性体(シリコンゴム(SR))の硬度(Hs)を35〜70度の範囲で変化させた場合における硬度とセル電圧との関係を示すグラフである。図9に示す結果から明らかなように、上記弾性体としてのシリコンゴム(SR)の硬度によっては、スリット23部分において均一に圧力が作用しなくなり、無負荷時における電池のセル電圧が低下してしまう傾向が確認された。特に、弾性体としてのシリコンゴム(SR)の硬度(Hs)が50〜60度の範囲において、電池のセル電圧を高く維持できることが判明した。
【0076】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池の構造例を示す模式的な断面図。
【図2】内圧逃がし機構の構造例を示すと共に、気化燃料収容室内が高圧時と低圧時とにおける内圧逃がし機構の動作を示す模式的断面図。
【図3】図1におけるIII―III矢視断面図であり、内圧逃がし機構の他の構造例を示すと共に、気化燃料収容室内が高圧時と低圧時とにおける内圧逃がし機構の動作を示す模式的断面図。
【図4】内圧逃がし機構のその他の構造例を示すと共に、気化燃料収容室内が高圧時と低圧時とにおける内圧逃がし機構の動作を示す模式的断面図。
【図5】内圧逃がし機構のさらに他の構造例を示すと共に、気化燃料収容室内が高圧時と低圧時とにおける内圧逃がし機構の動作を示す模式的断面図。
【図6】実施例1〜2及び比較例に係る直接メタノール型燃料電池についてのアノード圧力および出力の経時変化を示す特性図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る直接メタノール型燃料電池の構造例を示す模式的な断面図。
【図8】図3に示す内圧逃がし機構20の溝(切欠)21の幅Wを0.3〜5mmの範囲で変化させた場合における切欠幅Wとセル電圧との関係を示すグラフ。
【図9】図4に示す内圧逃がし機構20bを構成する弾性体の硬度を35〜70度の範囲で変化させた場合における硬度とセル電圧との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0078】
1…膜電極接合体(MEA)、2…カソード触媒層、3…アノード触媒層、4…カソードガス拡散層、5…アノードガス拡散層、6…プロトン伝導性電解質膜、7a…カソード導電層、7b…アノード導電層、8a…カソードシール材、8b…アノードシール材、9…液体燃料タンク、10…燃料気化層、10a、10b、10c、10d…弾性体、11…フレーム(側壁)、12…気化燃料収容室、13…保湿板、14…空気導入口、15…表面層、20、20a、20b、20c…内圧逃がし機構、21…溝、22…切欠部、W…切欠部または溝の幅、23…スリット、24…案内管、L…液体燃料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒層と、アノード触媒層と、上記カソード触媒層と上記アノード触媒層の間に配置されるプロトン伝導性膜と、液体燃料を貯留する液体燃料タンクと、液体燃料の気化成分を前記アノード触媒層に供給するための燃料気化層と、上記燃料気化層と上記アノード触媒層との間に形成された気化燃料収容室とを具備する燃料電池であって、
前記アノード触媒層において生成した炭酸ガスを含む生成ガスを上記気化燃料収容室の側壁から電池外に排出する内圧逃がし機構を設けたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された切欠部と、この切欠部に密着自在に配置された弾性体とから成ることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された溝と、この溝に密着自在に配置された弾性体とから成ることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁と、この側壁に密着するように配置された弾性体とから成り、前記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリットを上記弾性体の厚さ方向に延びるように形成したことを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項5】
前記内圧逃がし機構は、前記気化燃料収容室の側壁に形成された溝と、この溝に密着自在に配置された弾性体とから成り、上記気化燃料収容室内の生成ガスを電池外に排出するスリットを、溝に密着した弾性体の厚さ方向に延びるように形成したことを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項6】
前記弾性体の硬度が、日本工業規格(JIS K 6301 A:1997)で表される硬度40°〜70°の範囲であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項7】
前記気化燃料収容室の側壁に形成された切欠部の幅が1mm以下であることを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項8】
前記気化燃料収容室から排出された生成ガスをカソード触媒層側に還流する案内管を設けたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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