説明

燃料電池

【課題】電解質膜の保水性とガス拡散層のガス拡散性、水の排水性とを良くした燃料電池を提供する。
【解決手段】単位セル1のカソードガス拡散層13を撥水部20aと親水部20bとによって構成し、隣り合う撥水部20aの間に親水部20bを配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池とする)は、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜とする)と、電解質膜を挟んで設けた一対の電極触媒層と、電極触媒層の外側に設けた一対のガス拡散層とから構成される。燃料電池の発電反応によりカソードにおいて水が生成されるが、生成された水によってカソードにおいては酸化剤ガスの拡散性が阻害されるフラッディングが生じるおそれがある。
【0003】
そこで従来、電極触媒層に水の排出性を高めるために造孔材を添加し、電極触媒層とガス拡散層との間に保水層を設け、フラッディングを防止し、かつ電解質膜の保水性を確保したものが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−158387公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の発明では、造孔材を設けた電極触媒層と保水層とを積層するだけであるので、電解質膜の保水性を維持し、ガス拡散層におけるガス拡散性と水の排水性を高いレベルで両立させることが困難である、といった問題点がある。
【0005】
本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、電解質膜の保水性を維持し、ガス拡散層におけるガス拡散性と水の排水性を高いレベルで維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、電解質膜と、電解質膜を挟持し、電解質膜と接する面に触媒層を有する電極と、電極の外側に設けた多孔性のガス拡散層と、電極へガスを供給するガス流路を有するセパレータと、を積層して構成する燃料電池において、ガス拡散層は、同一平面内に配設する撥水性の複数の第1のガス拡散層と、隣り合う第1のガス拡散層間に配設し、第1のガス拡散層よりも親水性が高い第2のガス拡散層と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、燃料電池の発電反応によって生じた水を撥水性の第1のガス拡散層からガス流路へ排出してガス拡散性を良くし、第1のガス拡散層よりも親水性の高い第2のガス拡散層に水の一部を吸水させることで、電極、電解質膜の保水性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の第1実施形態の構成を図1の概略構成図を用いて説明する。図1は燃料電池の単位セル1の概略構成図である。燃料電池は単位セル1を例えば100枚から200枚程度積層して構成する。
【0009】
単位セル1は、電解質膜2と、電解質膜2を挟持するアノード3とカソード(電極)4と、アノード3の外側にアノードセパレータ5と、カソード4の外側にカソードセパレータ(セパレータ)6と、を備える。
【0010】
アノード3は、電解質膜2に当接するアノード触媒層7と、アノード触媒層7の外側に設けたアノードガス拡散層(ガス拡散層)8と、を備える。
【0011】
アノードセパレータ5は、アノード3に燃料ガスを供給する燃料ガス流路10を備える。
【0012】
カソード4は、電解質膜2に当接するカソード触媒層(触媒層)11と、カソード触媒層11の外側に設けたカソードマイクロ層(撥水層)12と、カソードマイクロ層12のさらに外側に設けたカソードガス拡散層(ガス拡散層)13と、を備える。
【0013】
カソードセパレータ6は、カソード4に酸化剤ガスを供給するカソードガス流路14を備える。
【0014】
ここでカソード4について図2〜図4を用いて詳しく説明する。図2はカソード4の一部をカソードセパレータ6と当接する面から見た正面図である。図3は図2におけるA−A断面の一部を示す図である。図4は図2におけるB−B断面の一部を示す図である。なお、図2において親水部23を破線で示す。
【0015】
カソードガス拡散層13は、撥水処理を施した撥水部(第1のガス拡散層)20aと、親水処理を施した親水部(第2のガス拡散層)20bと、を備え、隣り合う撥水部20aの間に親水部20bを設ける。親水部20bは例えば格子形状であり、親水部20bの格子間に撥水部20a設けてカソードガス拡散層13を構成する。撥水部20aの側面と親水部20bの側面との間に疎水部21aを備える。また親水部20bとカソードセパレータ6との間に疎水部(疎水部材)21bを備え、疎水部21bの一部には貫通孔22を備え、貫通孔22によって親水部20bとカソードセパレータ6のカソードガス流路14とを連通する。なお、撥水部20aとカソードガス流路14との間には、疎水部21bは設けておらず、撥水部20aはカソードセパレータ6に当接する。
【0016】
貫通孔22は、単位セル1の発電状態に応じて、間隔、または貫通孔22の孔径などを設定することが望ましく、これによって貫通孔22から吸水する水量を調整することができ、湿潤状態を変更することができる。
【0017】
撥水部20aは多孔体の導電性部材であり、この実施形態ではカーボンペーパを使用する。撥水部20aには撥水処理を施しており、単位セル1の発電反応によって生じた水蒸気、または水蒸気が凝縮した凝縮水をカソードガス流路14へ排出する。なお、撥水部20aの細孔の径は数μmから数百μmである。
【0018】
親水部20bは多孔体の導電性部材であり、この実施形態ではカーボンペーパを使用する。親水部20bには親水処理を施しており、貫通孔22を介してカソードガス流路14から取り込まれた水の一部を吸水する。なお、親水部20bの細孔の径は数nmから数百nmである。
【0019】
疎水部21a、21bはそれぞれ分割して形成し、拡散接合によってアッセンブリしてもよい。
【0020】
カソードマイクロ層12は、撥水処理が施されており、単位セル1の発電反応によって生じた水蒸気をカソード触媒層11から主に撥水部20aへ排出する。また、親水部20bの直下に位置するカソードマイクロ層12は、親水部20bとカソード触媒層11とを連通させる貫通孔24を有しており、貫通孔24に親水部20bとカソード触媒層11とに当接する親水部(親水部材)23を配設する。
【0021】
親水部23は多孔体の導電性部材であり、この実施形態ではカーボンペーパを使用する。親水部23には親水処理を施しており、またカソードマイクロ層12の貫通孔24と接する部分に撥水処理を施している。親水部12bの細孔の径は数百nmから数十μmである。
【0022】
この実施形態では親水部20b、23にカーボンペーパを用いたが、これに代えてカーボンナノチューブ、カーボンナノフレーク、カーボンナノウォールを用いてもよい。これらの素材は細孔の径がナノオーダーであり、毛管現象により親水処理を施さずに親水部20b、23に使用することができる。そのため少ない工程で単位セル1を製造することができ、コストを削減することができる。
【0023】
撥水部20aと親水部20bと疎水部21aとは例えば一枚のカーボンペーパをエッチングによって形成する。さらに親水部23はエッチングによって形成する。その後カソードマイクロ層12の貫通孔24に親水部23を充填し、カソードマイクロ層12と、撥水部20aと親水部20bと疎水部21aと、疎水部21bと、を拡散接合によってアッセンブリして、カソード4を形成する。これによって精度良くバラツキの少ないカソード4を形成することができる。
【0024】
なお、撥水部20a、親水部20b、疎水部21aをそれぞれ分割して形成し、拡散接合によってアッセンブリしてもよい。
【0025】
単位セルにおける高電流密度、つまり単位セルから取り出す電力が大きい場合の単位セルの電圧特性は、ガス拡散層の2つの特性によって大きな影響を受けることが知られている。1つは液水飽和度と水の排出特性との関係、もう一つはガス拡散層の液水飽和度とガスの拡散係数の関係である。
【0026】
例えば単位セルの電流密度が同じ場合には、単位セルで生成される水の量が一定であるが、ガス拡散層の排水性によって液水飽和度は異なり、単位セルの電圧特性は図5に示すような特性を示す。図5において、排水性の高いガス拡散層aに関する特性を破線で示し、排水性の低いガス拡散層bに関する特性を実線で示す。単位セルの発電反応によって生成された水の水量が一定の場合、排水性の高いガス拡散層aの液水飽和度が、排水性の低いガス拡散層bの液水飽和度よりも小さくなる。次にその液水飽和度におけるガス拡散層のガスの供給量は、ガス拡散層のガスの拡散係数に影響され、その結果、単位セルで生成される水、つまり単位セルの電流密度に対する単位セルの電圧が決定され、単位セルの発電特性が決定される。
【0027】
以上のように、ガス拡散層の2つの特性によって、単位セルの電圧特性は影響を受け、特に高電流密度の場合、つまり単位セルで生成される水が多い場合に影響が大きくなる。
【0028】
この実施形態では、単位セル1における発電反応によって、生成された水蒸気の一部は、カソードマイクロ層12、または撥水部20aで凝縮し、水蒸気または凝縮水はカソードガス流路14に排出される。カソードマイクロ層12、撥水部20aでは撥水処理が施されており、これによって水蒸気、または凝縮水をカソードガス流路14へスムーズに排出することができる。これによって、撥水部20a、カソードマイクロ層12において、例えば空気などの酸化剤ガスを効率良く拡散することができる。
【0029】
カソードガス流路14へ排出された凝縮水などの水は、その一部が貫通孔22を介して親水部20bに取り込まれる。貫通孔22によって取り込まれて水は、親水部20bによって吸水され、親水処理を施した親水部20bの内部をより液水飽和度が小さい部分へ運ばれる。親水部20bでは水は、毛管現象によって内径がより小さい親水部23へ導かれるので、親水部20bを介して、カソードガス拡散層13の湿潤状態、さらにはカソード触媒層11、電解質膜2の湿潤状態を均一にすることができ、電解質膜1の保水性を維持することができ、単位セル1の発電効率良くすることができる。また単位セル1の酸化剤ガスの流れ方向における発電反応を均一にすることで、酸化剤ガスの流れ方向における電位差を小さくすることができ、単位セル1の発電効率を良くすることができ、単位セル1の劣化を抑制することができる。
【0030】
なお、アノード3についても、カソード4と同様の構成としても良い。
【0031】
また、親水部23の一方の端部をカソード触媒層11へ内挿してもよい。これによって、カソード触媒層11の内部へ水を導くことができ、カソード触媒層11、電解質膜2の保水性を維持することができる。
【0032】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0033】
カソード4のカソードガス拡散層13を撥水部20aと親水部20bとによって構成する。これにより単位セル1の発電反応によって生じた水蒸気を撥水部20aによってカソードガス流路14へ排水し、酸化剤ガスなどのガス拡散性を良くすることができ、単位セル1の発電効率を良くすることができる。また、カソードガス流路14の水の一部を親水部20bによって吸水させることで、カソード触媒層11の保水性を保つことができ、単位セル1の発電効率を良くすることができる。
【0034】
親水部20bの直下に親水部20bとカソード触媒層11とに接する親水部23を設けることで、親水部20bから水をカソード触媒層11に導くことができ、カソード触媒層11、電解質膜2の保水性を保つことができ、単位セル1の発電効率を良くすることができる。
【0035】
親水部20bとカソードセパレータ6との間に疎水部21bを設け、さらに疎水部21bに貫通孔22を設けることで、貫通孔22から親水部20bへ水を取り込むことができ、カソード触媒層11、電解質膜2の湿潤状態を均一にすることができ、単位セル1の酸化剤ガスの流れ方向、つまり単位セル1の同一平面での発電反応を均一にすることができる。これにより単位セル1の同一平面での電位差を小さくすることができ、単位セル1の発電効率を良くすることができ、単位セル1の劣化を抑制することができる。
【0036】
次に本発明の第2実形態について図6、図7を用いて説明する。第2実施形態については第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態は第1実施形態におけるカソード4の構成が異なるものであり、この実施形態のカソード30について図6、図7を用いて説明する。図6はカソード30をカソードセパレータ6から見た正面図であり、図7は図6のA−A断面の一部を示す図である。なお、この実施形態で、第1実施形態と同じ構成ものについては同じ符号を付して説明する。
【0037】
カソード30のカソードガス拡散層31は、隣り合う撥水部20aの間に設けた親水部32をカソードセパレータ6に当接する。
【0038】
これにより、撥水部20aから排出される水蒸気、または凝縮水などの水の一部を親水部32によって取り込むことができる。
【0039】
その他の構成、作用については第1実施形態と同じであるので、ここでの説明は省略する。
【0040】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0041】
簡易な構成によって、カソード4の排水性を良くし、カソード触媒層11の保水性を良くすることができ、発電効率を良くすることができる。
【0042】
また、燃料電池の製造を容易にし、コストを削減することができる。
【0043】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態の単位セルの概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態のカソードをカソードセパレータから見た正面図である。
【図3】図2のA−A断面の一部を示す図である。
【図4】図2のB−B断面の一部を示す図である。
【図5】ガス拡散層の排出性と、電流密度、液水飽和度、ガス拡散係数、単位セルの電圧との関係を示すマップである。
【図6】本発明の第2実施形態のカソードをカソードセパレータから見た正面図である。
【図7】図6のA−A断面の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 単位セル
2 固体高分子電解質膜(電解質膜)
3 アノード
4 カソード(電極)
5 アノードセパレータ
6 カソードセパレータ(セパレータ)
7 アノード触媒層
11 カソード触媒層(触媒層)
12 カソードマイクロ層(撥水層)
13 カソードガス拡散層(ガス拡散層)
14 カソードガス流路(ガス流路)
20a 撥水部(第1のガス拡散層)
20b 親水部(第2のガス拡散層)
21b 疎水部(疎水部材)
22 貫通孔
23 親水部(親水部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜を挟持し、前記電解質膜と接する面に触媒層を有する電極と、
前記電極の外側に設けた多孔性のガス拡散層と、
前記電極へガスを供給するガス流路を有するセパレータと、を積層して構成する燃料電池において、
前記ガス拡散層は、
同一平面内に配設する撥水性の複数の第1のガス拡散層と、
隣り合う前記第1のガス拡散層間に配設し、前記第1のガス拡散層よりも親水性が高い第2のガス拡散層と、を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記電極と前記ガス拡散層との間に積層する撥水層と、
前記第2のガス拡散層の直下に、前記撥水層を貫通し、前記第2のガス拡散層と前記触媒とに接する多孔性の親水部材と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記親水部材は、前記撥水層と接する面に疎水部を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記親水部材の一方の端部を前記触媒層へ内挿することを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第2のガス拡散層と前記セパレータとの間に配設し、前記第2のガス拡散層と前記セパレータとを連通する複数の貫通孔を有する疎水部材を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記第1のガス拡散層と前記第2のガス拡散層と、前記セパレータと、が当接することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第2のガス拡散層、または前記親水部材の少なくともどちらか一方は、カーボンナノチューブ、カーボンフレークおよびカーボンウォールであることを特徴とする請求項2から6のいずれか一つに記載の燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−242417(P2007−242417A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63196(P2006−63196)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】