説明

燃料電池

【課題】セルの面内にて均一的な発電が行われるのを促進する。
【解決手段】MEA(電解質膜)3の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体4が設けられ、さらにMEA3および多孔体4がセパレータ5で挟持された構造である場合に、多孔体4のうちセパレータ5に接する面、またはセパレータ5のうち多孔体4に接する面のいずれか一方または両方に、反応ガスの拡散を促進させるためのガス流路用の溝6を形成する。溝6は複数設けられていること、また、多孔体4へと反応ガスが供給されるガス供給部を中心として放射状に形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。さらに詳述すると、本発明は、セルの内部における構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池(例えば固体高分子形燃料電池)は、膜−電極アッセンブリ(MEA:Membrane-Electrode Assembly)をセパレータで挟んだセルを複数積層することによって構成されている。
【0003】
このような燃料電池としては、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)を流通させるための流路が形成されたメタルセパレータあるいはカーボンセパレータを備えたもののほか、表面に凹凸がなく平坦となっているいわゆるフラット型のセパレータを備えたものもある。フラット型のセパレータの場合には、当該セパレータとMEAとの間に多孔体(例えば導電性多孔板など)を介在させ、当該多孔体を通過させるようにして反応ガスを給排するようにしている。また、反応ガスの拡散性を向上させるべく多孔体に溝を設けているものもある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平6−22141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セル内における実際の発電面についてみてみると、それでもまだガス拡散にむらが生じていることがある。そうすると、面内での均一的(ないしは均質的)な発電という観点からもその分だけ十分でないことがある。
【0005】
そこで、本発明は、セルの面内にて均一的な発電が行われるのを促進することができるようにした燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。まず、フラット型のセパレータを備えた燃料電池の場合、当該セパレータとMEAとの間に介在させた多孔体において生じている差圧(本明細書ではガス等における差圧のことを圧損ともいう)に応じ、いわば成り行き的に反応ガスが分配されている場合がある。また、出力を増大させたときのような過渡応答時、MEA全体にガスを均一となるよう分配するのに時間がかかる場合もある。
【0007】
この点、反応ガスが均一的かつ迅速に分配されるようにするべく多孔体に溝を設けるという技術が提案されていることは上述したとおりである。ところが、かかる従来技術も、さらに均一的かつ迅速なガス分配という観点からはまだ十分でないと考えた本発明者は、さらに種々の検討を行った結果、かかる課題を解決しうる技術を知見するに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくものであり、電解質膜の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体が設けられ、さらに前記電解質膜および前記多孔体がセパレータで挟持された構造の燃料電池において、前記多孔体に形成されたガス流路用の溝の表面における透気度が位置に応じて異なることを特徴としている。
【0009】
このように、溝の表面における透気度を位置に応じて異ならせる構造とすることにより、例えば、反応ガスが多孔体の隅々にまで均一的かつ迅速に行き渡るようなバイパス構造を実現することが可能である。一例を挙げれば、多孔体へとガスが供給されるガス供給部(ガス入口)から複数の溝が放射状に延びる形状等により、反応ガスが均一的かつ迅速に拡散するような構造とすることが好ましい。このようにして反応ガスが行き渡るようにすることで、セルの面内にて均一的な発電が行われるのを促進させることが可能である。
【0010】
また、本発明では、このような燃料電池における前記多孔体の基材の透気度が一定であることとしている。例えば、透気度が一定の基材に対して後処理として加工を施すことにより、事後的に、当該加工が施された部位とそれ以外の部位とで透気度が異なる構造とすることが可能である。
【0011】
さらに、本発明にかかる燃料電池においては、前記溝の表面が密閉された状態となっている。密閉された状態は、例えば形成した溝の一部を事後的に埋めることによって形成することができる。
【0012】
また、上述の燃料電池においては、前記多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部を基準とした場合に、前記溝の表面のうち、前記ガス供給部に近い部分の透気度よりも遠い部分の透気度の方が高くなっていることが好ましい。この場合、ガス供給部から遠ざかるほど溝表面の透気度が高くなることから、当該多孔体の隅の方であっても反応ガスが溝内を流通しやすい構造となり、もともとガスが行き渡り難い部分も含めて反応ガスが拡散しやすくなるためにより均一に行き渡るようになる。
【0013】
さらに、本発明者は従来のような溝構造を有する多孔体に関して検討を重ねた。たしかに、多孔体を利用して反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)を供給すればMEAの全面に対して均一的に反応ガスを拡散させることが期待できるものの、実際には拡散の度合いにむらがあるため十分に行き渡らせることが現実に難しい。そこで発明者は、従来のそもそもの構造に着目し、新規な技術を知見するに至った。
【0014】
本発明はかかる知見に基づくものであり、電解質膜の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体が設けられ、さらに前記電解質膜および前記多孔体がセパレータで挟持された構造の燃料電池において、前記多孔体のうち前記セパレータに接する面、または前記セパレータのうち前記多孔体に接する面のいずれか一方または両方に、前記反応ガスの拡散を促進させるためのガス流路用の溝が形成されているというものである。
【0015】
従来の溝構造について検討を重ねた本発明者は、まず、従来構造の燃料電池の場合、多孔体のうち、MEAに接する側の面に溝が形成されていたことに着目した。そもそも、多孔体は、MEAに対して反応ガスを均一的に供給することを可能にするものであり、当該多孔体の表面に形成された溝はこのような作用をより効果的なものとしうる。しかし、一方で、この溝はMEAとの接触面に種々の形で形成されているため、当該多孔体とMEAとが全面的に接触するのを阻害するものでもある。
【0016】
この点、本発明にかかる燃料電池はガス流路用のバイパスとしての溝を備えているため、従来と同様にガスが拡散するのを促進させることが可能である。しかも、当該溝はMEAと多孔体との接触しあういわば反応面とでもいうべき面に形成されているのではなく、多孔体の背面側(多孔体の背面、または当該面に接触するセパレータの面)に形成されているために、両者の接触領域が減少するのを損なうことがない。このため、多孔体を介してMEAに反応ガスを供給する際に当該反応ガスをより均一的にすることができるという点で優れるから、燃料電池のセルの面内にて均一的な発電が行われるのをより促進することができる。
【0017】
しかも、多孔体の背面側(多孔体の背面、または当該面に接触するセパレータの面)にバイパスとしての溝が形成されていることから、多孔体の端部にまで反応ガスを拡散させて迅速に供給するという作用については従前の場合と大きく異なるところがない。したがって、出力を増大させたときのような過渡応答時、MEA全体にガスを均一となるよう分配するのに時間がかかるようなこともない。
【0018】
また、従来構造のようにMEAと多孔体との接触面に溝が形成されていると、その分だけ両者の接触面積が少なくなるからMEA→多孔体(または多孔体→MEA)と電気が流れる際の電気抵抗(接触抵抗)が大きいということができる。一方、本発明にかかる燃料電池の場合には、多孔体の背面側(多孔体の背面、または当該面に接触するセパレータの面)にバイパスとしての溝が形成されており、当該多孔体とMEAとの接触面をフラットにすることができるから、これら多孔体とMEAとを全面的に接触させることができ、電気抵抗が少ない状態で電気を流すことができるという点でも有利である。
【0019】
以上のような特徴を有する燃料電池においては、前記多孔体に前記溝が形成されていてもよいし、あるいは前記セパレータに前記溝が形成されていてもよい。前者のように多孔体に溝を形成した場合には、従来の場合と同様の加工等によって当該多孔体などを形成することが可能である。また、いずれの場合においてもMEAと多孔体との接触面積は形成された溝の分だけ減少することにはなるが、例えば導電性に優れる金属製セパレータ(メタルセパレータ)が採用されている場合であれば両者間の導電性能が大きく劣化するようなことを回避することが可能である。
【0020】
また、かかる燃料電池では前記溝が複数設けられていることが好ましい。加工の手間が増えすぎない範囲で溝数を増やすことができればその分だけ反応ガスを均一的かつ迅速に拡散しやすくなるという点で好適である。この場合、前記多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部を中心として前記溝が放射状に形成されていることがさらに好ましい。
【0021】
さらに、本発明における燃料電池では、前記溝が櫛歯状のガス流路を形成している。ここで、本明細書でいう櫛歯状の流路とは、ガス供給マニホールドに接続されたガス供給用の溝と、ガス排出マニホールドに接続されたガス排出用の溝とが互いに独立した形で多孔体に形成されている場合に、当該独立した形のもっとも好適な構造例の一つといえるものである。この場合、ガス供給用の溝におけるガスは多孔体を通じてガス排出用の溝へと流通する。
【0022】
さらに、前記多孔体のうち、当該多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部に対応する部分に凹部が形成されていてもよい。また、この場合の前記凹部は前記溝の端部と連通しているものであることが好ましい。ガス供給部に形成された凹部は、反応ガスが各溝へと流れ込んで多孔体の端部まで均一的かつ迅速に拡散するのをさらに促進することができる。
【0023】
また、上述の燃料電池においては、前記溝の少なくとも一部が埋められた状態となっていることも好ましい。さらに、この場合には、前記溝のうち、少なくとも前記反応ガスの出口側を向く側の端部を除いて埋められた状態となっていることも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、燃料電池のセルの面内にて均一的な発電が行われるのをさらに促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1〜図5に本発明にかかる燃料電池の実施形態を示す。本発明にかかる燃料電池1は、電解質膜の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体4が設けられ、さらに電解質膜および多孔体4がセパレータ5で挟持された構造となっているものである。本実施形態にかかる燃料電池1は、多孔体4のうちセパレータ5に接する面、またはセパレータ5のうち多孔体4に接する面のいずれか一方または両方に、反応ガスの拡散を促進させるためのガス流路用の溝6を備えた構造となっており、これにより、当該燃料電池1のセル2の面内にて均一的な発電が行われるのがさらに促進されるようになっている(図2等参照)。
【0027】
以下に説明する実施形態においては、まず、セル2が積層された構成の燃料電池1の概略について説明し、その後、セル2を構成するMEA3、多孔体4、セパレータ5等について説明する。
【0028】
図5に、セル2が積層されることによって構成されたスタック構造の燃料電池1の概略構成を示す。なお、このようなスタックによって構成される燃料電池1は、例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電システムとして利用可能なものであるがこれに限られることはなく、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電システム、あるいは定置の燃料電池1としても用いることが可能である。
【0029】
燃料電池1はセル(単セル)2が積層されたスタック構造となっている。すなわち、この燃料電池1は、複数のセル2を積層したスタックを有し、スタックの両端に位置するセル2,2の外側に順次、出力端子10付きの集電板11、絶縁板12およびエンドプレート13が各々配置された構造となっている。また、燃料電池1は、例えば両エンドプレート13,13間を架け渡すようにして設けられるテンションプレート(図示省略)が各エンドプレート13,13にボルト等で固定されることにより、セル2の積層方向に所定の圧縮力がかかった状態となっている。
【0030】
また、スタックには、燃料電池1の運転状態を監視し制御するためにセル2の電圧を測定するためのセルモニタ(図示省略)が設けられている。燃料電池1においては、この電圧測定結果に基づく出力等の制御が行われる。なお、図5においては出力端子10付きの集電板11を2個例示したが、このようなセルモニタによる電圧監視を実行するためには、セル積層方向に沿った所定の複数箇所にさらに別の出力端子(および集電板)をあらかじめ設けておき、セル電圧を監視しながらこれら別の出力端子に切り換えられるようにしておくことが望ましい。
【0031】
セル2は、膜−電極アッセンブリ(本明細書ではMEA;Membrane Electrode Assemblyとも呼んでいる)と、MEAを挟持する一対の多孔体4、さらにこれらを挟持するセパレータ5によって構成されている(図1、図2参照)。本実施形態におけるMEAおよび各セパレータ5はおよそ矩形の板状に形成されている。また、MEAはその外形が各セパレータ5の外形よりも小さくなるように形成されている。
【0032】
MEA3は、高分子材料のイオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜を両面から挟んだ一対の電極(カソードおよびアノード)とで構成されている。なお、図1等においては便宜上、電解質膜自体ではなくこの電解質膜を含むMEAを符号3で示している(図1等参照)。ここでは特に図示していないが、電解質膜は各電極よりも僅かに大きくなる程度に形成されている。
【0033】
多孔体4は導電性多孔質の部材によって形成されており、その内部を通過させた反応ガスをMEA3に均一的に供給できるように設けられているものである。このような多孔体4は、例えば発泡性材料、焼結体材料などの基材によって形成することができる。本実施形態では、MEA3の一方側に酸化ガス供給用の多孔体4a、他方側に燃料ガス供給用の多孔体4bをそれぞれ設けることとしている(図1、図2参照)。なお、このような多孔体4は等方性を有している必要はないが、本実施形態では均一・均質な材料を用いたものとしている。
【0034】
MEA3を構成する電極は、その表面に付着された白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材(拡散層)で構成されている。一方の電極(カソード)には空気や酸化剤などの酸化ガス、他方の電極(アノード)には燃料ガスとしての水素ガスが供給され、これら2種類の反応ガスによりMEA3内で電気化学反応が生じてセル2の起電力が得られるようになっている。
【0035】
セパレータ5は、ガス不透過の導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えばカーボンや導電性を有する硬質樹脂のほか、アルミニウムやステンレス等の金属(メタル)が挙げられる。本実施形態のセパレータ5の基材は板状のメタルで形成されているものであり、この基材の電極側の面には必要に応じて耐食性に優れた膜(例えば金メッキで形成された皮膜)が形成される。
【0036】
また、本実施形態におけるセパレータ5はいわゆるフラットセパレータあるいはフラットメタルと呼ばれるタイプで、多孔体4に接する面および他のセル2と接する面が原則としてフラット(平坦)になっているものである(図1、図2参照)。例えば本実施形態では、セル2における酸化ガス供給側をセパレータ5aおよびセパレータ5b、燃料ガス供給側をセパレータ5cおよびセパレータ5dでそれぞれ構成することとしている(図1、図2参照)。
【0037】
これらのうち、セパレータ5aは冷却水を流通させるための冷却水流路8を備えたセパレータとして用いられる(図1、図2参照)。この冷却水流路8の形状は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態の場合には、セパレータ角部付近に流入口を有し、その後段で複数の平行な流路に分岐し、さらにその後段で対角部付近の流出口に集まる形状となっている(図1参照)。また、セパレータ5bは平板状に形成されており、セパレータ5aの冷却水流路8が形成されている側の面に設けられる。このセパレータ5bの反対側の面は多孔体4aに隣接している(図2参照)。
【0038】
さらに、セパレータ5cも冷却水を流通させるための冷却水流路8を備えたセパレータとして用いられる(図1、図2参照)。この冷却水流路8の形状は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態の場合、上述した酸化ガス供給側のセパレータ5aと同様に、セパレータ角部付近に流入口を有し、その後段で複数の平行な流路に分岐し、さらにその後段で対角部付近の流出口に集まる形状となっている(図1参照)。また、セパレータ5dは平板状に形成されており、セパレータ5cの冷却水流路8が形成されている側の面に設けられる。このセパレータ5dの反対側の面は隣接する他のセル2に接するようになっている(図2参照)。
【0039】
本実施形態におけるセル2は、多孔体4a、MEA3、多孔体4b、セパレータ5c、セパレータ5dで構成されている(図2参照)。このセル2においては、まず上述したMEA3の両面に多孔体4a,4bが配置されている。また、これらMEA3および多孔体4a,4bは、上述したセパレータ5(セパレータ5a〜5d)によって挟持された構造となっている(図1、図2参照)。
【0040】
ここで、本実施形態の燃料電池1においては、上述した各多孔体4a,4bのうちセパレータ5に接する面に、反応ガス(酸化ガス、燃料ガス)の拡散を促進させるためのガス流路用の溝6を形成している(図1等参照)。このガス流路用の溝6は、例えば従来構造のようにMEA3に接する面に設けられているのではなく、これとは逆の面、すなわちMEA3および多孔体4を挟持するセパレータ5に接する面に設けられている結果、図2からも明らかなように、多孔体4のうちMEA3と接する面はフラット(平坦)な形状とすることができる(図2参照)。こうした場合、MEA3と多孔体4とが全面的に接触し合うことが可能であり、両者間の接触面積を最大限確保することが可能であるから、その分だけ両者間の電気抵抗が少ない状態で電気を流すことが可能である。したがって、MEA3→多孔体4(または多孔体4→MEA3)と電気が流れる際の電気抵抗(接触抵抗)を少なくすることが可能であり、燃料電池1における集電性能・発電効率を向上させることができる。
【0041】
しかも、多孔体4(4a,4b)の外側の面(セパレータ5と接触する側の面)には従来と同様にバイパスとしての溝6がそれぞれ設けられているから、多孔体4の端部にまで反応ガスを拡散させて迅速に供給するという作用については従前の場合より劣るようなことはない。例えば、出力を増大させたときのような過渡応答時、MEA3の全体にガスを均一となるよう分配するのに時間がかかるようなこともなく、反応ガスを均一的かつ迅速に拡散させることができる。換言すれば、上述のように形成されている溝6は反応ガスを多孔体4の端部にまで速やかに拡散させるいわばバイパスとして機能しうるから、反応ガスは多孔体4の多孔質な部分を通り抜けるばかりでなく、このようなバイパスを通過してより均一的に拡散することが可能となっている。また、上述のようにバイパスとして機能しうる溝6が多孔体4におけるいわばバッファ(圧力緩和層)のように機能し、圧損を低下させてガス拡散性を向上させうる。さらに、バイパスにて端部まで供給された反応ガスは、バイパスを抜けた後は多孔体4中における圧損により均一に拡散することになる。以上から、本実施形態の燃料電池1はセル2の面内にて均一的に化学反応が起こりえる構造を実現しており、これに伴って均一的に発電を行うことが可能だという利点がある。
【0042】
加えて、MEA3と多孔体4とが全面的に接触し合っており、両者間に溝などは何ら形成されていないということは、多孔体4を介してMEA3に反応ガスを供給する際、当該反応ガスをより均一的に供給することが可能だということでもある。このため、燃料電池1のセル2の面内にて従来よりも均一的な発電が行われるのをより促進することが可能である。
【0043】
また、本実施形態では従来構造とは逆の面に溝6を形成するという発想に基づいているため、従来と同じような加工工程を経て同様の溝6を形成することができる。このため、従来の技術をそのまま応用することが可能であるし、その分だけ加工に要する時間とコストを抑えることが可能となっている。
【0044】
さらには、本実施形態の燃料電池1によればMEA3を均一的に抑えることができるという利点もある。すなわち、例えば従来構造の多孔体の場合、MEAに直接接触して抑えている部分とそうでない部分とがあるために押圧力をすべて均一にすることが難しく、また、これを解消するべくガス透過性と導電性に優れたガス拡散層(例えばカーボンペーパーなど)を当該多孔体とMEAとの間に介在させる等、ガス拡散層と組み合わせることもあったが、それでも全面にわたり均一にすることはなかなか難しいのが実際である。この点、本実施形態の燃料電池1においては多孔体4のうちMEA3と接触する面には溝6が形成されておらず、フラット(平坦)な面とすることが可能であるから、かかるフラットな面でMEA3の全面と接することができる。これによればMEA3を均一的かつ確実に抑えることが可能となるから、構造的に安定した構造を実現するという観点からも好適である。もちろん、本実施形態の燃料電池1においても拡散層を組み合わせることとしてよい。
【0045】
ここで、以上のような燃料電池1において、溝6は複数設けられていることが好ましい(図1、図2参照)。加工の手間が増えすぎない範囲で溝6の数を増やすことができればその分だけ反応ガスが均一的かつ迅速に拡散しやすくなるという点で好適である。例えば本実施形態では5〜6本程度の溝6を放射状に形成するようにしている(図3参照)。この場合、多孔体4へと反応ガスが供給されるガス供給部(図3、図4において「Air_inもしくはH2_in」と表示されている部分)を中心つまりハブとして、多孔体4の端部にまで行き渡るように複数の溝6が放射状に形成されていることがさらに好ましい。これにより、多孔体4およびMEA3の全域に均一的に反応ガスが行き渡りやすい構造となる。溝6を通る反応ガスは、その途中で多孔体4の中(より具体的には、多孔体4を構成している多孔性材料の内部)へと入り込むようにして拡散していく(図3参照)。さらには、このように形成された溝6を通じて排水性の向上を図ることも可能である。なお、本実施形態では各溝6が直線状に形成されている場合を例示しているがこれは一例に過ぎず、例えば途中で曲折する溝形状としてもよいし、曲線状の溝6としてもよい。また、各溝6の断面形状も特にいずれかの形に限定されることはない。
【0046】
また、本実施形態においては上述したガス供給部に凹部などは何ら設けられていない(図3参照)。この場合、かかるガス供給部とセパレータ(本実施形態の場合、セパレータ5b,5c)とが面接触しうるから機械的強度という観点からは好ましいといえる。このように、ガス供給部に凹部や溝などは必ずしも設けられている必要はないが、これは凹部や溝がない場合に限定するという意味ではなく適宜設けることも可能である。すなわち、例えば多孔体4における圧損をさらに低下させて反応ガスをより均一的かつ迅速に拡散させるという観点からすれば、図3において符号7で示すように凹部(孔を含む)を設けることとしてもよい。さらには、各溝6の端部と連通するように凹部7を設けることとしてもよい。このようにガス供給部に形成された凹部7は、反応ガスが各溝6へと流れ込んで多孔体4の端部まで均一的かつ迅速に拡散するのをさらに促進することを可能とする。
【0047】
さらに、上述のように形成された溝6の少なくとも一部を埋めた状態としてもよい(図4参照)。例えば、溝6を多く形成しすぎたような場合、多孔体4中の反応ガスがこれら溝6に多く抜け出てしまうことも考えられるが、このような場合に、当該溝6を事後的に埋めた状態とすることで、溝6のガス入口側端部と出口側端部との圧力差を調整することができる。つまり、溝6の一部を適宜埋めた状態とすればその分だけ反応ガスの抜け出やすさが抑えられ、端部間における圧損差を減少させうるから、構造や状況などに応じて反応ガスが均一的に行き渡るようにすることができる。また、このように溝6の少なくとも一部を埋めた状態とする場合には、当該溝6のうち、少なくとも反応ガスの出口側を向く側の端部を除いて埋めた状態とする、つまり少なくとも出口側の端部を開放した状態としておくことも好ましい(図4参照)。
【0048】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では放射状に形成された複数の溝6を例示したが上述したようにこれは一例に過ぎず、これを他の形態とすることが可能である。一例を挙げれば、特に図示はいていないが、溝6を櫛歯状にしたガス流路を形成することもできる。櫛歯状のガス流路とは、ガス供給マニホールドに接続(あるいはその近傍に形成)されたガス供給用の溝6と、ガス排出マニホールドに接続(あるいはその近傍に形成)されたガス排出用の溝6とが互いに独立した形で多孔体4に形成されている場合に、これら独立した両溝6を交わらせることなく多孔体4に行き渡らせるようにするための形態の一例である。具体例としては、櫛歯状に分岐する各分岐流路が、ガス供給用とガス排出用とで交互に位置するように並べたものを挙げることができる。以上のような構造の燃料電池1における反応ガスは、ガス供給用の溝6を通り、多孔体4を通じた後にガス排出用の溝6へと流通することができる。
【0049】
要は、ここまでの説明からも明らかなように、MEA3の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体4が設けられ、さらにMEA3および多孔体4がセパレータ5で挟持された構造の燃料電池1に対しては、多孔体4に形成されたガス流路用の溝6の表面における透気度、換言すれば反応ガスの通りやすさを位置に応じて異なる構成とすることが有効である。このように、溝6の表面における透気度を位置に応じて異ならせる構造とすることにより、例えば反応ガスが多孔体4の隅々にまで均一的かつ迅速に行き渡るようなバイパス構造を実現することが可能となる。この場合、多孔体4の基材の透気度が一定であることとしている。例えば、透気度が一定の基材に対して後処理として加工を施すことにより、事後的に、当該加工が施された部位とそれ以外の部位とで透気度が異なる構造とすることが可能である。さらには、以上のような溝6の表面を密閉した状態としてもよい。密閉状態は、例えば形成した溝6の一部を事後的に埋めることによってつくり出すことができる。加えて、このような燃料電池1においては、多孔体4へと反応ガスが供給されるガス供給部を基準とした場合に、溝6の表面のうち、ガス供給部に近い部分の透気度よりも遠い部分の透気度の方が高くなっていることが好ましい。こうした場合、ガス供給部から遠ざかるほど溝6の表面の透気度が高くなり、当該多孔体4の隅の方であっても反応ガスが溝6を流通しやすい構造となるから、もともとガスが行き渡り難い部分も含めて反応ガスが拡散しやすくなるためにより均一に行き渡るようになる。
【0050】
また、上述した実施形態においてはセル2中における一対の多孔体4のそれぞれに溝6を形成した形態について説明したが、セパレータ5側にこの溝6を形成することも可能である。例えば上述した燃料電池1の場合であれば、セパレータ5bのうち多孔体4aに接する面、およびセパレータ5cのうち多孔体4bに接する面のそれぞれに溝6を設けるようにしてもよい。要は、本実施形態にて説明した各溝6は各多孔体4の背面側(MEA3の反対側)に形成されることによって上述したような作用効果を奏するものであるから、同様の溝6を近傍の位置、つまり多孔体4に接するセパレータ5の面に形成することとしても同様の作用効果を得ることが可能である。もちろん、多孔体4とセパレータ5のいずれか一方にのみ溝6を形成するばかりでなく、両者に同形状(より詳しくは面対称)の溝6を形成することとしてもよい。なお、いずれの場合においてもMEA3と多孔体4との接触面積は形成された溝6の分だけ減少することにはなるが、例えば導電性に優れる金属製セパレータ(メタルセパレータ)5が採用されている場合であれば両者間の導電性能が大きく劣化するようなことを回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態における燃料電池の一実施形態を示すもので、セルを構成しているMEA、多孔体およびセパレータのそれぞれについて示す分解平面図である。
【図2】セルの内部構造の一例を示す断面図である。
【図3】多孔体における溝形状の一例を示す平面図である。
【図4】溝の一部が埋められた状態の多孔体を示す平面図である。
【図5】本実施形態における燃料電池の構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1…燃料電池、2…セル、3…MEA(電解質膜)、4…多孔体、5…セパレータ、6…溝、7…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体が設けられ、さらに前記電解質膜および前記多孔体がセパレータで挟持された構造の燃料電池において、
前記多孔体に形成されたガス流路用の溝の表面における透気度が位置に応じて異なることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記多孔体の基材の透気度が一定であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記溝の表面が密閉された状態となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部を基準とした場合に、前記溝の表面のうち、前記ガス供給部に近い部分の透気度よりも遠い部分の透気度の方が高くなっていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
電解質膜の少なくとも一方の面に反応ガス供給用の多孔体が設けられ、さらに前記電解質膜および前記多孔体がセパレータで挟持された構造の燃料電池において、
前記多孔体のうち前記セパレータに接する面、または前記セパレータのうち前記多孔体に接する面のいずれか一方または両方に、前記反応ガスの拡散を促進させるためのガス流路用の溝が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
前記多孔体に前記溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記セパレータに前記溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記溝が複数設けられていることを特徴とするセパレータ1から7のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部を中心として前記溝が放射状に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記溝が櫛歯状のガス流路を形成していることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項11】
前記多孔体のうち、当該多孔体へと前記反応ガスが供給されるガス供給部に対応する部分に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項12】
前記凹部は前記溝の端部と連通しているものであることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記溝の少なくとも一部が埋められた状態となっていることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項14】
前記溝のうち、少なくとも前記反応ガスの出口側を向く側の端部を除いて埋められた状態となっていることを特徴とする請求項13に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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