説明

燃料電池

【課題】 流体供給機構のような補機を持たずに液体燃料が供給でき、電源がどのような姿勢あっても単位電池への液体燃料の供給が可能であり、しかも部品点数を少なくできる固体高分子膜電解質型燃料電池を提供する。
【解決手段】 アノードとカソードがプロトン導電性固体高分子膜を介して設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、燃料とガスを通す流路を備え、電極端子接続部を有し、且つ、集伝機能を有する燃料輸送材を、アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に備える。この燃料電池は、燃料電池の姿勢に依存することなく発電することができ、しかも部品点数を少なくできるので携帯機器用電源に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の燃料を使用する燃料電池に係り、特に膜/電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を有する固体高分子膜電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子技術の進歩によって、電話器、ノート型パソコン、オーディオ・ビジュアル機器、カムコーダ、個人情報端末機器などの携帯電子機器が急速に普及している。このような携帯用電子機器は、従来は二次電池によって駆動されており、新型の高エネルギー密度二次電池の出現により、シール鉛蓄電池からNi/Cd電池、Ni/水素電池、Liイオン二次電池へと進み、携帯機器の小型・軽量化と携帯機器の高機能化が図られてきた。
【0003】
しかし、二次電池は一定の電力を使用した後に、必ず充電操作を必要とし、充電設備と比較的長い充電時間が必要になる。このため、携帯機器を何時でも、何処でも、長時間にわたって連続的に駆動するには多くの問題が残されている。携帯機器は増加する情報量とその高速化、高機能化に対応して、より高出力密度で高エネルギー密度の電源、すなわち、連続駆動時間の長い電源を必要とする方向に向かっており、充電を必要としない小型発電機、即ち、容易に燃料補給ができるマイクロ発電機の必要性が高まっている。
【0004】
このような背景から、燃料電池電源が注目されている。燃料電池は、固体又は液体の電解質と、所望の電気化学反応を誘起する二個の電極すなわちアノード及びカソードから構成され、燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに高効率で変換する発電機である。燃料には化石燃料或いは水などから化学変換された水素のほかに、通常の環境で液体又は溶液であるメタノール、アルカリハイドライド或いはヒドラジン、加圧液化ガスであるジメチルエーテルなどが用いられ、酸化剤ガスには空気又は酸素ガスが用いられる。燃料はアノードにおいて電気化学的に酸化され、カソードでは酸素が還元されて、両電極間には電気的なポテンシャルの差が生じる。このときに外部回路として負荷が両極間にかけられると、電解質中にイオンの移動が生起し、外部負荷には電気エネルギーが取り出される。このために、燃料電池は火力機器代替の大型発電システム、小型分散型コージェネレーションシステム、エンジン発電機代替の電気自動車電源としての期待が高く、実用化開発が活発に展開されている。
【0005】
こうした燃料電池の中でも、液体燃料を使用する直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)やメタルハイドライド、ヒドラジン燃料電池は、燃料の体積エネルギー密度が高いために小型の可搬型或いは携帯型の電源として注目されている。中でも取り扱いが容易で、近い将来バイオマスからの生産も期待されるメタノールを燃料とするDMFCは理想的な電源システムといえる。
【0006】
固体高分子膜電解質型燃料電池発電(PEM−FC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)システムは、一般に固体高分子膜電解質を挟んで多孔質のアノードとカソードを配した単位電池を直列或いは並列に接続した電池、燃料容器、燃料供給装置及び、空気又は酸素供給装置から構成される。液体燃料を用いるDMFCを携帯機器用電源として用いるため及びより出力密度の高い電池を目指して、電極触媒の高性能化、電極構造の高性能化、燃料クロスオーバー(浸透)の少ない固体高分子膜の開発などの努力が払われている。また、これと共に、燃料ポンプや空気ブロアの小型化の極限技術追求、燃料供給ポンプ、空気供給ブロアなどの補機動力を必要としないシステムも検討されている。ポンプやブロアなどの補機動力を低減あるいは必要としない発電構造に関する提案が、液体燃料輸送動力を必要としない電源については特許文献1、液体燃料及び酸化剤ガスの輸送動力をいずれも必要としない電源については特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び非特許文献1で提案されている。
【0007】
【特許文献1】米国特許4562123号明細書
【特許文献2】特開2000−268835号公報
【特許文献3】特開2000−268836号公報
【特許文献4】特開2002−343378号公報
【特許文献5】特開2003−100315号公報
【非特許文献1】S. R.Narayanan、T.I.Valdez,and F.Clara、Development of A Miniature Fuel Cell For Portable Applications、Electrochem.,Soc.,Proceedings、 Vol.2001−4、254−264(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
可搬型或いは携帯型の燃料電池には、燃料を補給することによって容易に発電が継続できること、体積エネルギー密度の高い燃料を使用できることが望まれる。また、セパレータを必要としない部品点数の少ない燃料電池で、流体供給機構のような補機を持たず、電源がどのような姿勢であってもアノードへ燃料を供給できることが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、流体供給機構のような補機を持たずに液体燃料を供給でき、電源がどのような姿勢あってもアノードへの燃料供給が可能である、セパレータを必要としない燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードがプロトン導電性固体高分子膜を介して設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に接するように、液体燃料をアノードへ導くと共にアノードで発生する炭酸ガスを通し、且つ、集電機能を有する燃料輸送材を配置し、前記燃料輸送材に電極端子接続部を設けたものである。
【0011】
また、本発明は、プロトン導電性固体高分子膜を介して、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードを有し、アノード側に燃料室が設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、前記アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に、集電機能と電極端子接続部を有する前記燃料輸送材を設け、燃料室の内部に液体燃料を保持すると共に燃料輸送材に輸送する液体燃料保持材を設けたものである。
【0012】
また、本発明は、プロトン導電性固体高分子膜を介して、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードを有し、アノード側に燃料室が設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、集電機能と電極端子接続部を有する前記燃料輸送材を設け、前記燃料輸送材の一部を前記燃料室の内部まで延長して配置したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池は、燃料室からアノードまでの燃料供給とアノードで発生したガスを排出する流路を有し且つ集電機能を有する燃料輸送材に電極端子接続部が設けられている。このような燃料電池発電装置はセパレータを省略することが可能であり、しかも、装置の姿勢に依存することなく発電することができ、携帯機器用電源として適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、前述の燃料輸送材を備えた単位電池を燃料室の少なくとも一面に複数配置し、電気的に直列、並列、または直列と並列の組み合わせで接続することが可能である。
【0015】
燃料輸送材は燃料とガスが同じ流路を流通するように構成しても良いが、できるならば、燃料は毛細管力で移動し、毛細管力が働かない比較的大きな孔の部分をガスが流通するように構成することが゛好ましい。このような燃料輸送材は、平均孔径の異なる2種類の孔を有し、平均孔径が小さい孔を毛細管力によって燃料が移動し、平均孔径が大きい孔をガスが移動するように形成することによって実現できる。また、毛細管力によって燃料が移動する孔を有する骨格部分とガスを通す孔の部分を有する多孔体とすることによって実現できる。
【0016】
燃料輸送材は、燃料とガスが流通可能な多孔体のみによって構成して、その一部を電極端子接続部としても良いし、或いは、電極端子接続部を有する導電性の枠と多孔体から構成して、多孔体を枠の内側に配置し、枠と多孔体を電気的に接続するようにしてもよい。
【0017】
燃料室には、液体燃料保持材を備えるようにすることが望ましい。この液体燃料保持材は毛細管力によって燃料の保持と輸送が行われるようにすることが好ましく、これによって、液漏れをより確実に抑えることができ、携帯電源として適するようになる。単位電池の場合には、液体燃料保持材に接触して燃料輸送材を配置することができるが、燃料室の一面に複数の単位電池を配置した電池の場合には、燃料室の液体燃料保持材の上に電気絶縁性の多孔体を設けて、その電気絶縁性多孔体と接するように燃料輸送材を配置することが望ましい。これによって、短絡を防止することができる。
【0018】
燃料室の一部にアノードで発生した炭酸ガスを排出する孔を設けることができる。この場合、液体燃料保持材はガス透過性とすることが必要である。液体燃料保持材を燃料輸送材と同じように毛細管力が働く小さな孔と、毛細管力が働かない比較的大きな孔を有する多孔体とすることによって、液体燃料保持材に燃料保持機能とガス輸送機能を持たせることができる。
【0019】
以下、液体燃料としてメタノールを用いた場合を例にとって説明するが、本発明は、以下に述べる実施形態に限定されるものではない。
【0020】
メタノールを燃料とする燃料電池は、以下に示す電気化学反応でメタノールの持っている化学エネルギーが直接電気エネルギーに変換される形で発電される。アノード側では供給されたメタノール水溶液が(1)式に従って反応して炭酸ガスと水素イオンと電子に解離する。
【0021】
CHOH+HO → CO+6H+6e …(1)
生成された水素イオンは、電解質膜中をアノードからカソード側に移動し、カソード上で空気中から拡散してきた酸素ガスと電極上の電子と(2)式に従って反応して水を生成する。
【0022】
6H+3/2O+6e → 3HO …(2)
従って、発電に伴う全化学反応は(3)式に示すようにメタノールが酸素によって酸化されて炭酸ガスと水を生成する反応となり、化学反応式はメタノールの火炎燃焼と同じになる。
【0023】
CHOH+3/2O → CO+3HO …(3)
単位電池の開回路電圧は概ね1.2Vで、燃料が電解質膜を浸透する影響で実質的には0.85〜1.0Vであり、特に限定されるものではないが実用的な負荷運転の下での電圧は0.2〜0.6V程度の領域が選ばれる。従って、実際に電源として用いる場合には、負荷機器の要求に応じて所定の電圧が得られるように、単位電池を直列接続して用いられる。単位電池の出力電流密度は電極触媒や電極構造、その他の影響で変化するが、実効的に単位電池の発電部面積を選択して所定の電流が得られるように設計される。また、適宜、並列に接続することで電池容量を調整することが可能である。
【0024】
図1に本発明の実施例に係る単位電池の構成を示す。図1において、アノード12とカソード13は、プロトン導電性固体高分子膜11を介して対向して配置されている。カソード13のプロトン導電性固体高分子膜11と接している面と反対の面には、カソードカレントコレクタ34が配置されている。アノード12のプロトン導電性固体高分子膜11と接している面と反対の面には、燃料輸送材21が接触するように配置され、更に、その外側に燃料室14が配置されている。燃料輸送材21は側面に電極端子接続部21aを有している。アノード12とカソード13及びプロトン導電性固体高分子膜11を接合して一体化することでMEA15が構成される。
【0025】
本実施例での燃料輸送材21は、毛細管力によって燃料が移動する小さな孔を有する骨格部分とガスを通す比較的大きな孔の部分とからなる多孔体により構成されている。この構造の燃料輸送材は、毛細管力を有する骨格部分を通って燃料が輸送され、毛細管力が働かない孔の部分をガスが通過するようになる。このように構成された燃料輸送材21を燃料室内の液体燃料と直接接触するように配置して、燃料室14の液体燃料をアノード12へ毛細管力によって輸送することにより、ポンプ等の補機を省略することができる。また、燃料を毛細管力によって輸送することで、装置の姿勢に依存することなく発電を行うことが可能になる。本発明では、燃料輸送材が集電体としても働いているので、集電板を省略して部品点数を減らすことができる。
【0026】
燃料輸送材の材料としては、炭素板や、鋼、ニッケル、アルミニウム、マグネシウムなどの金属あるいはそれらの合金、銅とアルミニウムの金属間化合物に代表される各種の金属間化合物、或いは、各種のステンレススチールなどを用いることができる。
【0027】
なお、アノード12は触媒層単独だけではなく、触媒層とカーボンペーパ、クロス等の導電性支持体を有する場合もあるが、本発明は、そのいずれの場合でも適用可能である。
【0028】
図2は、本発明の他の実施例を示したものであり、図1と異なる点は、燃料室14の内部に液体燃料保持材22を配置したことである。液体燃料保持材22は、毛細管力によって燃料を保持すると共に輸送するものであることが望ましい。液体燃料保持材22と燃料輸送材21との組み合わせにより、どのような姿勢でも液漏れを起こさずにアノードに燃料を供給することが可能になり、しかも、ポンプ等の補機を無くすことができる。
【0029】
図3は、本発明の更に他の実施例を示したものであり、図1と異なる点は、燃料輸送材21を燃料室14の内部まで延長して配置したことである。燃料輸送材21は毛細管力が働く小さな孔を有するもので構成した場合には燃料保持機能を持つので、液体燃料輸送材としても使用することができる。これにより、液体燃料輸送材22を省略することができる。
【0030】
図4は別の実施例であり、図1と異なる点は燃料輸送材21を燃料室14の内部まで延長して配置すると共に、燃料室14の内部に液体燃料保持材22を配置したことである。この構造によっても、燃料電池の姿勢に関係なく、どのような姿勢でもアノードに燃料を供給することが可能になり、しかも、ポンプ等の補機を省略することができる。
【0031】
図2〜4において、アノード12で生成したガスは燃料輸送材21を通して電池外部へ排出される。ガス排出口を燃料室14に設けて、液体燃料保持材22を通して排出することもできる。
【0032】
燃料輸送材21と液体燃料保持材22を併用する場合には、燃料輸送材の毛細管力が液体燃料保持材の毛細管力よりも大きくなるようにすることが必要である。燃料輸送材の毛細管力が液体燃料保持材の毛細管力よりも小さいと、液体燃料保持材から燃料輸送材への燃料供給ができない。
【0033】
図1〜4の実施例の大きな特徴は、燃料室からMEAのアノードまでの空間に、毛細管力によって燃料が輸送される小さな孔と、毛細管力は働かずにガスのみが通る比較的大きな孔を有する2種類の孔を有する多孔体を配置し、毛細管力によってアノードに燃料を供給するようにしたことである。これにより、電池の姿勢に依存することなくMEAのアノードに燃料を供給することができる。また、発電に伴ってアノードで発生する炭酸ガスは、多孔体の比較的大きな孔の部分を移動して排出されるので、気泡の滞留による燃料供給阻害を防止でき、高い発電性能を維持することができる。多孔体に孔径の異なる少なくとも2種類の空孔を略均一に分散させることで、液体燃料は小さい径の空孔を毛細管力によって移動し、炭酸ガスは大きい径の空孔を移動するようになる。従って、アノードへの燃料供給及び炭酸ガス排出の安定化に大きな効果がある。
【0034】
燃料輸送材となる多孔体の表面を科学的に親水化すること、或いは、酸化チタンに代表される親水性物質を分散、担持して親水化することは望ましく、これにより、発電により発生した炭酸ガスがアノード近傍に付着、滞留することなく速やかに移動するようになる。
【0035】
燃料輸送材が、電極端子接続部を有する導電性の枠と、燃料及びガスが流通可能な流路を有する多孔体により構成されている場合について、図5を用いて説明する。図5(a)は多孔体42を枠41にはめ込む前の状態を示しており、枠41の側面に電極端子接続部41aが設けられている。図5(b)は多孔体42の厚さと枠41の厚さが同じ場合であり、図5(c)は多孔体42の方が厚く、枠41の下側にはみ出ている場合である。図5(d)は多孔体42が枠41の上部と下部の両方にはみ出ている場合である。
【0036】
燃料輸送材を多孔体のみで構成し、一部に電極端子接続部を設けた場合について、図6を用いて説明する。図6(a)は多孔体よりなる燃料輸送材21の側面に電極端子接続部21aを備えたものであり、図6(b)は多孔体の側面の上部に電極端子接続部を設けたものである。この図6(b)に示す構造は、多孔体の一部を燃料室の内部まで延長して配置する場合に適する。図6(c)は多孔体の側面の中央部分に電極端子接続部を備えたものである。図6に示した燃料輸送材は図5の場阿鼻比べて部品点数を少なくできるというメリットがある。
【0037】
多孔体よりなる燃料輸送材の一部に、別に作製した電極端子接続部を取り付けた場合について、図7を用いて説明する。図7(a)は多孔体の側面に電極端子接続部43を取り付けたものであり、電極端子接続部には端子接続孔が設けられている。図7(b)は電極端子接続部43を挟むようにして多孔体よりなる燃料輸送材を設けたものである。
【0038】
燃料輸送材の形状及び電極端子接続部を設ける位置については特に制限は無く、任意でよい。
【0039】
図8は、本発明の燃料電池を備えた電源システムの構成を示したものである。この電源システムは、燃料電池10、燃料カートリッジタンク26、出力端子31、排ガス19を排出する孔、直流/直流変換器32及び制御器33から構成されている。燃料カートリッジタンク26は着脱可能になっている。発電に伴って、燃料室の燃料が消費されると燃料カートリッジタンク26から燃料室に燃料が補給される。電池出力は直流/直流変換器32を介して負荷機器に供給される。直流/直流変換器32は、燃料電池10、燃料カートリッジタンク26の燃料残量、直流/直流変換器32の運転時及び停止時の状況に関する信号などを基に制御器33により制御される。制御器33は、必要に応じて警告信号を出力するように設定することができ、また、電池電圧、出力電流、電池温度などの電源の運転状態を負荷機器に表示するように設定することができる。例えば、燃料カートリッジタンク26の残量が所定値を下回る状況になった場合、或いは、空気拡散量が所定の範囲から外れた場合には、直流/直流変換器32から負荷への電力供給を停止するとともに、音響、音声、パイロットランプ又は文字表示などの異常警報が発生されるように設定することができる。また、正常運転時においても燃料カートリッジタンク26の燃料残量信号を受けて、負荷機器に燃料残量表示ができるように設定することもできる。
【0040】
図9に燃料電池の部品構成を鳥瞰図で示す。燃料カートリッジホルダ25を備えた燃料室14の片方の面には、アノード端板17a、ガスケット16、MEA15、ガスケット16及びカソード端板17cが順次に積層される。また、燃料室12の他方の面にも、アノード端板17a、ガスケット16、MEA15、ガスケット16及びカソード端板17cが順次に積層される。この積層体を面内の加圧力が略均一になるようにネジで一体化して固定することにより、燃料電池1が構成される。
【0041】
図10に積層、固定された燃料室の両面に発電部を有する燃料電池1の外観構造を斜視図で示す。燃料電池10は、燃料室14の両面に複数の単位電池が直列接続されたものからなり、両面の直列単位電池群は更に接続端子35で直列接続され、出力端子31から電力を取り出す構造になっている。燃料は、燃料カートリッジタンク26から燃料室14へ供給される。単位電池が図2に示したように構成され、且つ、燃料室14に排ガス孔18が設けられている場合には、アノードで生成した炭酸ガスは、燃料輸送材21及び燃料保持材22を移動して排ガス孔18から電池外部へ排出される。酸化剤である空気は、空気拡散スリット27からの拡散で供給され、カソードで生成した水は、この空気拡散スリット27を通して拡散、排気される。なお、電池はネジ38により締め付けることで一体化されている。
【0042】
電池を一体化するための締め付け方法は、ネジにより締め付ける他に、電池を筐体内に挿入して筐体からの圧縮力によって締め付ける方法、或いは、その他の方法でもよい。
【0043】
図11に燃料室14の構造を示す。(a)は平面図であり、(b)はA−A断面図である。本実施例では、燃料室14の内部には液体燃料保持材22が配置されている。また、燃料室14には、排ガス孔18、電池締め付け用ネジ孔36、燃料カートリッジタンク受け口28、及び燃料カートリッジホルダ25が設けられている。液体燃料保持材22の材料はMEA装着時に面圧が均一にかかるように平滑であり、面内に設置される複数の単位電池が相互に短絡しないように絶縁された構造となれば特に限定は無い。液体燃料保持材22の材料としては、セラミックス等の各種金属酸化物や炭素板、鋼、ニッケル、アルミニウム、マグネシウムなどの金属あるいはそれらの合金、銅とアルミニウムの金属間化合物に代表される各種の金属間化合物、各種のステンレススチールなどを用いることができる。また、導電性材料の表面を不導体化する方法や樹脂を塗布して絶縁化する方法を用いることができる。電気絶縁性のある材料との積層構造としてもよい。
【0044】
図12に燃料室に接合されるアノード端板17aの構造を示す。図12(a)は平面図、図12(b)はA−A断面図である。アノード端板17aは同一面内に6個の単位電池を有している。これらの単位電池を直列に電気的に接続するため、電子伝導性と耐食性を持った3種類の形のアノードカレントコレクタ45が備えられ、絶縁性シート44と接合により一体化されている。絶縁性シート44には電池部品の一体化、締め付けのために、複数のネジ孔46が設けられている。アノードカレントコレクタ45は、本発明による燃料輸送材によって構成されており、具体的には燃料及びガスが流通可能な流路を有する多孔体42と電極端子接続部41bを有する枠41とにより構成されている。なお、アノードカレントコレクタ6個のうちの1つには出力端子31が設けられている。多孔体に用いられる材料は特に限定しないが、実質的に電気化学不活性な材料、例えば炭素多孔質基材、ステンレススチール繊維不織布、多孔質なチタンやタンタルなどの多孔質材料を用いることができる。また、電極端子接続部を備えた枠においては、電極端子接続部に金などのように耐食性のある貴金属をメッキすることや、導電性炭素塗料などを塗布することが好ましく、実装時の接触抵抗低減による電池の出力密度向上と長期性能安定性の確保に効果がある。
【0045】
アノード端板17aを構成する絶縁性シート44の材料は、面内に配置されたアノードカレントコレクタ45がそれぞれ一体化接合でき、絶縁性と平面性を確保できる材料であれば特に限定はない。高密度塩化ビニル、高密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリエーテルスルフォン類、ポリ−カーボネート、ポリイミド系樹脂或いはこれらをガラス繊維強化したものなどを用いることができる。また、鋼、ニッケル、アルミニウム、マグネシウムなどの金属又は合金、或いはステンレススチールなどを使用して、表面を不導体化或いは樹脂塗布で絶縁化しても良い。
【0046】
図13の(a),(b),(c)及び(d)に、アノード端板17aに接合されるアノードカレントコレクタの例を示す。アノードカレントコレクタ45の構造は、基本的には図5(b)に示した燃料輸送材と変わらない。図13(b)のアノードカレントコレクタには、電池の出力端子31を備えられている。
【実施例1】
【0047】
本発明を適用した携帯情報端末用DMFCについて説明する。図14はDMFCの外観を斜視図で示したものである。燃料電池10は燃料室14、図には示されていないMEA,ガスケットを挟んで設けられたカソード端板17cとアノード端板17aを備え、発電部は燃料室14の片方の面にのみ実装されている。燃料室14の外周には、燃料供給管29と排ガス孔18が設けられている。また、アノード端板17及びカソード端板17cの外周部には一対の出力端子31が設けられている。電池の組み立て構成は、図9に示した部品構成と同じで、燃料室の片面にのみ発電部を実装したことと燃料カートリッジホルダが一体化していない点が異なる。この燃料電池の断面構造を図15に示した。アノードに接触して導電性の燃料輸送材21が設けられ、燃料輸送材21はインターコネクタ37に接触している。燃料室14の内部には、電気絶縁性のセルロース系多孔体23と金属多孔体24が配置されている。絶縁性のセルロース系多孔体23によって単位電池の短絡が防止されている。燃料室の材料には高圧塩化ビニル、アノード端板の材料にはポリイミド樹脂フィルム、カソード端板の材料にはガラス繊維強化エポキシ樹脂を用いた。また、金属多孔体にはSUS316Lを用い、セルロース系多孔体はセルロース系パルプ繊維で形成した。このような構造を有し、電源サイズが115mm×90mm×9mmの燃料電池を作製した。この燃料電池の燃料室12に30重量%メタノール水溶液を注入し、室温で発電試験を実施したところ、出力は4.2V、1.2Wであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る燃料電池の一実施例を示した断面図。
【図2】本発明に係る燃料電池の他の実施例を示した断面図。
【図3】燃料電池の他の実施例を示した断面図。
【図4】本発明の他の実施例を示す断面図。
【図5】燃料輸送材の一例を示した斜視図。
【図6】燃料輸送材の他の例を示した斜視図。
【図7】燃料輸送材の別の例を示した斜視図。
【図8】本発明の燃料電池を備えた電源システムの概略構成図。
【図9】燃料電池の構成を示した鳥瞰図。
【図10】カートリッジホルダ付燃料電池電源の外観構造を示した斜視図。
【図11】燃料室の平面図とA−A断面図。
【図12】アノード端板の平面図とA−A断面図。
【図13】アノードカレントコレクタの斜視図と平面図。
【図14】燃料室の一方の面に発電部を備えた燃料電池の斜視図。
【図15】燃料電池の断面図。
【符号の説明】
【0049】
10…燃料電池、11…プロトン導電性固体高分子膜、12…アノード、13…カソード、14…燃料室、15…MEA、16…ガスケット、17a…アノード端板、17c…カソード端板、18…排ガス孔、19…排ガス、21…燃料輸送材、21a…電極端子接続部、22…液体燃料保持材、23…セルロース系多孔体、24…金属多孔体、25…燃料カートリッジホルダ、26…燃料カートリッジタンク、27…空気拡散スリット、28…燃料カートリッジタンク受け口、29…燃料供給管、31…出力端子、32…直流/直流変換器、33…制御器、34…カソードカレントコレクタ、35…接続端子、36…電池締め付け用ネジ孔、37…インターコネクタ、38…ネジ、41…枠、41a…電極端子接続部、42…多孔体、43…電極端子接続部、44…絶縁性シート、45…アノードカレントコレクタ、46…ネジ孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードがプロトン導電性固体高分子膜を介して設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、前記アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に、液体燃料を前記アノードへ導くと共に前記アノードで発生する炭酸ガスを通し、且つ、集電機能を有する燃料輸送材が接触しており、前記燃料輸送材に電極端子接続部が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1において、前記燃料輸送材は平均孔径の異なる2種類の孔を有し、平均孔径が小さい孔を毛細管力によって燃料が移動し、平均孔径が大きい孔をガスが移動することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1において、前記燃料輸送材が、毛細管力によって燃料が移動する孔を有する骨格部分とガスを通す孔の部分を有する多孔体によって構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1において、前記燃料輸送材は電極端子接続部を有する枠と前記枠の内側に配置された燃料及びガスが流通可能な多孔体とから構成されており、前記枠と前記多孔体が電気的に接続されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4において、前記多孔体が、毛細管力によって燃料が移動する孔とガスが通る別の孔を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1において、前記燃料輸送材の側面に電極端子接続部が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1記載の単位電池が燃料室の少なくとも一面に複数配置され、各単位電池が電気的に直列、並列または直列と並列の組み合わせで接続されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項7において、前記燃料室に炭酸ガス排出孔が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項7において、前記燃料室に液体燃料保持材が備えられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項9において、前記液体燃料保持材が毛細管力によって燃料を保持し且つ前記燃料輸送材へ輸送するように構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
請求項7において、前記燃料室に液体燃料保持材と燃料輸送機能を有する電気絶縁性多孔体が備えられており、前記電気絶縁性多孔体と接触して前記燃料輸送材が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
プロトン導電性固体高分子膜を介して燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードを有し、前記アノード側に燃料室が設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、前記アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に、液体燃料を前記アノードへ導くと共に前記アノードで発生する炭酸ガスを通し、且つ、集電機能を有する燃料輸送材が接触しており、前記燃料輸送材に電極端子接続部が設けられ、前記燃料室の内部に液体燃料を保持すると共に前記燃料輸送材に燃料を輸送する液体燃料保持材が設けられていることを特徴とする固体高分子膜電解質型燃料電池。
【請求項13】
請求項12において、前記液体燃料保持材が毛細管力によって燃料を保持し且つ輸送を行うものであることを特徴とする燃料電池。
【請求項14】
請求項12において、前記燃料輸送材の一部が前記燃料室の内部まで延長して配置されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項15】
プロトン導電性固体高分子膜を介して、燃料を酸化するアノードと酸素を還元するカソードを有し、前記アノード側に燃料室が設けられている、液体を燃料とする燃料電池において、前記アノードの前記プロトン導電性固体高分子膜の設けられた面と反対の面に、液体燃料を前記アノードへ導くと共に前記アノードで発生する炭酸ガスを通し、且つ、集電機能を有する燃料輸送材が接触しており、前記燃料輸送材に電極端子接続部が設けられ、前記燃料輸送材が前記燃料室まで延長して配置されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項16】
請求項15において、前記燃料輸送材は毛細管力によって燃料を保持し且つ前記アノードへ輸送するものであることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−59194(P2007−59194A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242508(P2005−242508)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】