説明

燃料電池

【課題】燃料電池の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図る。
【解決手段】燃料電池モジュール40において、膜電極接合体ユニット41とセパレータ42との間に、シール部材415、導電性弾性部材416を配置し、燃料ガス流路417を形成する。燃料電池モジュール40には、押圧機構によって、積層方向に押圧力が加えられている。燃料ガス流路417に水素が供給されたときには、水素の供給圧力、および、シール部材415、導電性弾性部材416の弾性力によって、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の距離が増大し、燃料ガス流路417の流路断面積が増大する。一方、燃料ガス流路417への水素の供給が停止されたときには、押圧機構による押圧力によって、シール部材415、導電性弾性部材416が変形して、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の距離が減少し、燃料ガス流路417の流路断面積が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、一般に、電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合してなる膜電極接合体を、セパレータによって挟持した構造を有している。そして、アノードとセパレータとの間には、アノードに燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成され、また、カソードとセパレータとの間には、カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0003】
ところで、このような燃料電池では、カソードに供給された酸化剤ガスや、酸化剤ガスを含む混合ガス(例えば、空気)が、電解質膜を介して、アノード側に透過することが知られている(以下、カソード側から、電解質膜を介して、アノード側に透過した、発電に寄与しないガスを総称して、「不純物ガス」と呼ぶ)。そして、この不純物ガスは、燃料ガス流路における燃料ガスの分圧、すなわち、燃料ガスの濃度を低下させ、燃料電池の発電効率を低下させる。このため、従来、燃料電池による発電中に、燃料ガス流路内の不純物ガスを除去し、燃料電池の発電効率を向上させるための種々の技術が提案されている(例えば、下記特許文献1〜5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−39398号公報
【特許文献2】特開2006−19122号公報
【特許文献3】特開2005−302451号公報
【特許文献4】特開2005−294107号公報
【特許文献5】特開2004−134161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したカソード側からアノード側への不純物ガスの透過は、燃料電池による発電停止中にも起きる。そして、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスは、発電の妨げとなる。このため、燃料電池の起動時には、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスを、燃料ガスによって掃気する掃気運転が行われる。そして、この掃気運転は、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスの量が多いほど、長い時間と多くの燃料ガスを必要とし、燃料電池の起動時間の長時間化、および、燃費の低下を招いていた。しかし、上記特許文献に記載された技術では、燃料電池による発電停止中にカソード側からアノード側に透過し、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスの掃気については、考慮されていなかった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、以下の構成を採用した。すなわち、本発明の燃料電池は、電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合してなる膜電極接合体を、アノード側セパレータ、および、カソード側セパレータによって挟持した燃料電池であって、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間に形成され、前記アノードに燃料ガスを供給するための燃料ガス流路と、前記カソードと前記カソード側セパレータとの間に形成され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路と、前記燃料ガス流路に前記燃料ガスが供給されたときに、該燃料ガスの供給圧力によって、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間の距離を増大させ、前記燃料ガス流路の流路断面積を増大させるとともに、前記燃料ガス流路への前記燃料ガスの供給が停止されたときに、前記燃料ガス流路内の圧力が減少し、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間の距離を減少させることによって、前記燃料ガス流路の流路断面積を減少させる流路断面積可変機構と、を備えることを要旨とする。
【0008】
本発明では、燃料ガス流路への燃料ガスの供給が停止されたとき、すなわち、発電停止時には、流路断面積可変機構によって、燃料ガス流路の流路断面積を減少させ、燃料ガス流路の容積を減少させることができる。したがって、カソード側(酸化剤ガス流路)から電解質膜を介してアノード側(燃料ガス流路)に透過する不純物ガスの絶対量を減少させることができる。この結果、先に説明した燃料電池の起動時の掃気運転に要する燃料ガスの量を少なくし、燃料電池の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図ることができる。また、燃料ガス流路に燃料ガスが供給されたとき、すなわち、発電時には、燃料ガスの供給圧力、および、流路断面積可変機構によって、燃料ガス流路の流路断面積を増大させることができるので、発電に要する燃料ガスの流量を十分に確保することができる。
【0009】
上記燃料電池において、前記流路断面積可変機構は、例えば、前記アノードの周縁部に配置され、前記燃料ガス流路の流路壁を形成する弾性部材と、前記アノード側セパレータ、および、前記カソード側セパレータを、前記膜電極接合体の表面に対して垂直な方向に、所定の押圧力で押圧する押圧機構と、を備えるようにしてもよい。
【0010】
こうすることによって、燃料ガス流路に燃料ガスが供給されたときに、燃料ガスの供給圧力、および、弾性部材の弾性力によって、アノードとアノード側セパレータとの間の距離を増大させ、燃料ガス流路の流路断面積を増大させるとともに、燃料ガス流路への燃料ガスの供給が停止されたときに、押圧機構による押圧力によって、アノードとアノード側セパレータとの間の距離を減少させ、燃料ガス流路の流路断面積を減少させることができる。
【0011】
上記燃料電池において、前記弾性部材は、導電性高分子ゲルを含み、前記導電性高分子ゲルは、前記アノード、および、前記アノード側セパレータに当接しているようにしてもよい。こうすることによって、アノードとアノード側セパレータとの電気的な導通を確保することができる。
【0012】
上記いずれかの燃料電池において、前記アノードと前記セパレータとは、導電性繊維によって接続されているようにしてもよい。こうすることによっても、アノードとアノード側セパレータとの電気的な導通を確保することができる。
【0013】
なお、発電停止時に、酸化剤ガスの供給が完全に遮断される燃料電池では、本発明をカソード側に適用するようにしてもよい。すなわち、電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合してなる膜電極接合体を、アノード側セパレータ、および、カソード側セパレータによって挟持した燃料電池において、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間に形成され、前記アノードに燃料ガスを供給するための燃料ガス流路と、前記カソードと前記カソード側セパレータとの間に形成され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路と、前記酸化剤ガス流路に前記酸化剤ガスが供給されたときに、該酸化剤ガスの供給圧力によって、前記カソードと前記カソード側セパレータとの間の距離を増大させ、前記酸化剤ガス流路の流路断面積を増大させるとともに、前記酸化剤ガス流路への前記酸化剤ガスの供給が停止されたときに、前記酸化剤ガス流路内の圧力が減少し、前記カソードと前記カソード側セパレータとの間の距離を減少させることによって、前記酸化剤ガス流路の流路断面積を減少させる流路断面積可変機構と、を備えるようにしてもよい。
【0014】
こうすることによって、酸化剤ガスの供給が停止されたときに、酸化剤ガス流路内に存在する酸化剤ガスの絶対量を減少させることができるので、カソード側(酸化剤ガス流路)から電解質膜を介してアノード側(燃料ガス流路)に透過する不純物ガスの絶対量を減少させることができる。この結果、先に説明した燃料電池の起動時の掃気運転に要する燃料ガスの量を少なくし、燃料電池の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図ることができる。また、酸化剤ガス流路に酸化剤ガスが供給されたときには、流路断面積可変機構によって、酸化剤ガス流路の流路断面積を増大させることができるので、発電に要する酸化剤ガスの流量を十分に確保することができる。このような態様は、上述した本発明の燃料電池に適用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.燃料電池スタックの構成:
図1は、本発明の燃料電池を適用した一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す説明図である。燃料電池スタック100は、燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(酸素)との電気化学反応によって発電する燃料電池モジュール40を、複数積層させたスタック構造を有している。各燃料電池モジュール40は、概ね、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を、セパレータによって挟持した構成となっている。アノード、および、カソードは、後述するように、それぞれ、電解質膜の各表面に接合された触媒層と、この触媒層の表面に接合されたガス拡散層とを備えている。本実施例では、電解質膜として、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子膜を用いるものとした。電解質として、固体酸化物等、他の電解質を用いるものとしてもよい。各セパレータには、アノードに供給すべき燃料ガスとしての水素の流路や、カソードに供給すべき酸化剤ガスとしての空気の流路や、冷却水の流路が形成されている。なお、燃料電池モジュール40の積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0016】
燃料電池スタック100は、一端から、エンドプレート10a、絶縁板20a、集電板30a、複数の燃料電池モジュール40、集電板30b、絶縁板20b、スプリングユニット60、エンドプレート10bの順に積層することによって構成されている。エンドプレート10aには、燃料電池スタック100内に、水素や、空気や、冷却水を流すための供給口や、排出口が設けられている。また、燃料電池スタック100内部には、水素や、空気や、冷却水を、それぞれ各燃料電池モジュール40に分配して供給するための供給マニホールド(水素供給マニホールド、空気供給マニホールド、冷却水供給マニホールド)や、各燃料電池モジュール40のアノードおよびカソードからそれぞれ排出されるアノードオフガスおよびカソードオフガスや、冷却水を集合させて燃料電池スタック100の外部に排出するための排出マニホールド(アノードオフガス排出マニホールド、カソードオフガス排出マニホールド、冷却水排出マニホールド)が形成されている。
【0017】
エンドプレート10a,10bは、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。絶縁板20a,20bは、ゴムや、樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板30a,30bは、緻密質カーボンや、銅板などのガス不透過な導電性部材によって形成されている。集電板30a,30bには、それぞれ図示しない出力端子が設けられており、燃料電池スタック100で発電した電力を出力可能となっている。
【0018】
スプリングユニット60は、燃料電池スタック100のいずれかの箇所における接触抵抗の増加等による電池性能の低下を抑制したり、ガスの漏洩を抑制したりするために、スタック構造の積層方向に、外部から所定の押圧力(締結荷重)を加えるためのものである。そして、この締結荷重が加えられた状態で、テンションプレート50の両端を、ボルト52によって、エンドプレート10a,10bにそれぞれ固定することによって、締結荷重が維持されている。エンドプレート10a,10b、テンションプレート50、スプリングユニット60は、本発明における押圧機構に相当する。
【0019】
各燃料電池モジュール40のアノードには、図示しない水素タンクから、水素供給マニホールドを介して、燃料ガスとしての水素が供給される。水素タンクの代わりに、アルコール、炭化水素、アルデヒドなどを原料とする改質反応によって水素リッチなガスを生成し、アノードに供給するものとしてもよい。各燃料電池モジュール40のアノードから排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス排出マニホールドを介して、燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0020】
各燃料電池モジュール40のカソードには、図示しないエアコンプレッサによって圧縮された圧縮空気が、空気供給マニホールドを介して、酸素を含有した酸化剤ガスとして供給される。各燃料電池モジュール40のカソードから排出されるカソードオフガスは、カソードオフガス排出マニホールドを介して、燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0021】
燃料電池スタック100は、上述した電気化学反応によって発熱するため、燃料電池スタック100には、燃料電池スタック100を冷却するための冷却水も供給される。この冷却水は、図示しない循環ポンプによって、冷却水用の配管を流れ、図示しないラジエータによって冷却されて、燃料電池スタック100に供給される。
【0022】
なお、一般に、燃料電池スタックでは、先に説明したように、発電停止中に、不純物ガスが燃料ガス流路内に滞留するため、燃料電池スタックの起動時に、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスを、燃料ガス(水素)によって掃気する掃気運転が行われる。そして、この掃気運転は、燃料ガス流路内に滞留した不純物ガスの量が多いほど、長い時間と多くの燃料ガスを必要とし、従来、燃料電池スタックの起動時間の長時間化、および、燃費の低下を招いていた。そこで、本実施例では、燃料電池スタック100の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図るために、燃料電池モジュール40の構造が改良されている。以下、燃料電池スタック100を構成する燃料電池モジュール40の構造について説明する。なお、ここでは、本発明の特徴的な部分についてのみ説明し、他の部分についての詳細な説明は省略する。
【0023】
B.燃料電池モジュール:
図2は、燃料電池モジュール40の断面構造を示す説明図である。ここでは、燃料電池モジュール40における水素供給マニホールド付近(図1に示した領域R)の断面構造を示した。そして、図2(a)に、発電時、すなわち、反応ガス(水素、および、空気)の供給時の燃料電池モジュール40の状態を示した。また、図2(b)に、発電停止時、すなわち、反応ガスの供給停止時の燃料電池モジュール40の状態を示した。
【0024】
図示するように、燃料電池モジュール40は、膜電極接合体ユニット41の両面を、セパレータ42によって挟持することによって構成されている。膜電極接合体ユニット41は、電解質膜411mの一方の面に、アノードとして、アノード側触媒層412aと、アノード側ガス拡散層413aとをこの順に接合し、他方の面に、カソードとして、カソード側触媒層412cと、カソード側ガス拡散層413cとをこの順に接合した膜電極接合体の周囲に、樹脂製のフレーム部材410を配置したものである。そして、カソード側ガス拡散層413cの表面には、酸化剤ガスとしての空気、および、カソードオフガスの流路(酸化剤ガス流路)となる金属多孔体414が配置されている。この金属多孔体414は、カソード側ガス拡散層413c、および、セパレータ42と当接し、金属多孔体414によって、カソード側ガス拡散層413cとセパレータ42との電気的な導通が確保されている。
【0025】
フレーム部材410には、水素供給マニホールドを構成する貫通孔419と、図示しないアノードオフガス排出マニホールドを構成する貫通孔と、空気供給マニホールドを構成する貫通孔と、カソードオフガス排出マニホールドを構成する貫通孔と、冷却水供給マニホールドを構成する貫通孔と、冷却水排出マニホールドを構成する貫通孔とが形成されている。そして、フレーム部材410のアノード側の面の各貫通孔の周囲には、ガス不透過性、および、弾性を有するシール部材415が配置されている。本実施例では、シール部材415として、比較的弾性が高いフッ素ゴムを用いるものとした。シール部材415として、ガス不透過性、および、弾性を有する他の部材を用いるものとしてもよい。
【0026】
また、アノード側ガス拡散層413aの周縁部の全周には、導電性を有する弾性部材(導電性弾性部材)416が配置されている。本実施例では、導電性弾性部材416として、導電性高分子ゲルを用いるものとした。導電性弾性部材416として、導電性、および、弾性を有する他の部材を用いるものとしてもよい。この導電性弾性部材416は、アノード側ガス拡散層413a、および、セパレータ42とそれぞれ当接し、燃料ガスとしての水素、および、アノードオフガスの流路(燃料ガス流路)417を形成するとともに、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との電気的な導通を確保している。シール部材415、および、導電性弾性部材416は、本発明における弾性部材に相当する。また、セパレータ42は、本発明におけるアノード側セパレータ、および、カソード側セパレータに相当する。
【0027】
また、本実施例では、アノード側ガス拡散層413aと、セパレータ42とは、複数の導電性繊維418によって接続されている。この導電性繊維418は、燃料ガス流路417における水素、および、アノードオフガスの流れが妨げられないように配置されており、例えば、糸状であってもよいし、布状であってもよい。また、導電性繊維418の代わりに、導電性高分子ゲル等の導電性弾性部材を配置するようにしてもよい。アノード側ガス拡散層413aと、セパレータ42とは、複数の導電性繊維418によって接続することによって、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の電気抵抗を下げることができる。なお、アノード側ガス拡散層413a、および、セパレータ42と、導電性繊維418とは、例えば、導電性接着剤によって接着される。
【0028】
セパレータ42には、フレーム部材410に形成された各種マニホールドを構成する各貫通孔にそれぞれ対応する貫通孔や、貫通孔から分岐して各膜電極接合体に反応ガスを供給するための連通孔42pや、排出ガスを集合させて排出したりするための連通孔が形成されている。
【0029】
図2(a)に示したように、燃料電池スタック100に反応ガスが供給されているときには、水素の供給圧力、および、シール部材415、導電性弾性部材416の弾性力によって、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の距離dが増大して(d=d1)、燃料ガス流路417の流路断面積が増大し、発電に要する水素の流量が確保される。なお、水素の供給圧力が比較的高い場合であっても水素のシールが可能なように、また、水素が供給されたときに、燃料ガス流路417の流路断面積が十分に確保されるように、スプリングユニット60等の押圧機構による押圧力、および、シール部材415、導電性弾性部材416の弾性力がバランスよく設定されている。
【0030】
また、図2(b)に示したように、燃料電池スタック100に反応ガスが供給されていないときには、燃料ガス流路417内の圧力が減少し、スプリングユニット60等の押圧機構による押圧力によって、シール部材415、および、導電性弾性部材416が変形して、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の距離dが減少し(d=d2、d2<d1)、燃料ガス流路417の流路断面積、すなわち、燃料ガス流路417の容積が減少する。そして、この後、燃料電池スタック100に反応ガスが供給されたときには、図2(a)に示したように、水素の供給圧力、および、シール部材415、導電性弾性部材416の弾性力によって、アノード側ガス拡散層413aとセパレータ42との間の距離dが増大して(d=d1)、燃料ガス流路417の流路断面積が増大し、発電に要する水素の流量が確保される。スプリングユニット60等の押圧機構と、シール部材415と、導電性弾性部材416とは、本発明における流路断面積可変機構に相当する。
【0031】
以上説明した本実施例の燃料電池スタック100によれば、上述した流路断面積可変機構を備えるので、燃料ガス流路417への水素の供給が停止されたとき、すなわち、発電停止時には、流路断面積可変機構によって、燃料ガス流路417の流路断面積を減少させ、燃料ガス流路417の容積を減少させることができる。したがって、カソード側(酸化剤ガス流路)から電解質膜411mを介してアノード側(燃料ガス流路417)に透過する不純物ガスの絶対量を減少させることができる。この結果、燃料電池スタック100の起動時の掃気運転に要する水素の量を少なくし、燃料電池スタック100の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図ることができる。また、燃料ガス流路417に水素が供給されたときには、流路断面積可変機構によって、燃料ガス流路417の流路断面積を増大させることができるので、発電に要する水素の流量を十分に確保することができる。
【0032】
C.変形例:
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0033】
C1.変形例1:
上記実施例では、燃料電池モジュール40において、アノードとセパレータ42との電気的な導通は、導電性弾性部材416、および、導電性繊維418によって確保されるものとしたが、本発明は、これに限られない。導電性弾性部材416、および、導電性繊維418のうちのいずれか一方のみによって、アノードとセパレータ42との電気的な導通を確保するようにしてもよい。
【0034】
C2.変形例2:
上記実施例では、流路断面積可変機構によって、燃料ガス流路417の流路断面積を可変としたが、発電停止時に、燃料電池スタックへの酸化剤ガスの供給が完全に遮断される燃料電池システムに燃料電池スタック100を適用する場合には、上記実施例の燃料電池モジュール40におけるアノード側の構造と同様の構造をカソード側の構造に適用して、酸化剤ガス流路の流路断面積を可変としてもよい。こうすることによって、酸化剤ガスの供給が停止されたときに、酸化剤ガス流路内に存在する酸化剤ガスの絶対量を減少させることができるので、カソード側(酸化剤ガス流路)から電解質膜411mを介してアノード側(燃料ガス流路417)に透過する不純物ガスの絶対量を減少させることができる。この結果、燃料電池スタック100の起動時の掃気運転に要する水素の量を少なくし、燃料電池スタック100の起動時間の短縮、および、燃費の向上を図ることができる。また、酸化剤ガス流路に酸化剤ガスが供給されたときには、流路断面積可変機構によって、酸化剤ガス流路の流路断面積を増大させることができるので、発電に要する酸化剤ガスの流量を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の燃料電池を適用した一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池モジュール40の断面構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
100...燃料電池スタック
10a,10b...エンドプレート
20a,20b...絶縁板
30a,30b...集電板
40...燃料電池モジュール
41...膜電極接合体ユニット
410...フレーム部材
411m...電解質膜
412a...アノード側触媒層
412c...カソード側触媒層
413a...アノード側ガス拡散層
413c...カソード側ガス拡散層
414...金属多孔体
415...シール部材
416...導電性弾性部材
417...燃料ガス流路
418...導電性繊維
419...貫通孔
42...セパレータ
42p...連通孔
50...テンションプレート
52...ボルト
60...スプリングユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合してなる膜電極接合体を、アノード側セパレータ、および、カソード側セパレータによって挟持した燃料電池であって、
前記アノードと前記アノード側セパレータとの間に形成され、前記アノードに燃料ガスを供給するための燃料ガス流路と、
前記カソードと前記カソード側セパレータとの間に形成され、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路と、
前記燃料ガス流路に前記燃料ガスが供給されたときに、該燃料ガスの供給圧力によって、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間の距離を増大させ、前記燃料ガス流路の流路断面積を増大させるとともに、前記燃料ガス流路への前記燃料ガスの供給が停止されたときに、前記燃料ガス流路内の圧力が減少し、前記アノードと前記アノード側セパレータとの間の距離を減少させることによって、前記燃料ガス流路の流路断面積を減少させる流路断面積可変機構と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記流路断面積可変機構は、
前記アノードの周縁部に配置され、前記燃料ガス流路の流路壁を形成する弾性部材と、
前記アノード側セパレータ、および、前記カソード側セパレータを、前記膜電極接合体の表面に対して垂直な方向に、所定の押圧力で押圧する押圧機構と、
を備える燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池であって、
前記弾性部材は、導電性高分子ゲルを含み、
前記導電性高分子ゲルは、前記アノード、および、前記アノード側セパレータに当接している、燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記アノードと前記アノード側セパレータとは、導電性繊維によって接続されている、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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