説明

燃料電池

【課題】カソード側への排出ガスに含まれる未反応燃料および副生成物を処理することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明の燃料電池は、カソードと、アノードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜を具備する膜電極接合体を備える起電部と、前記起電部を覆うカバープレートと、を具備する燃料電池であって、前記カソードと前記カバープレートの間の少なくとも一部に配置された排ガス処理触媒を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器の動作に有効な燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の各種電子機器は、半導体技術の発達と共に小型化され、燃料電池をこれらの小型機器用の電源に用いることが試みられている。燃料電池は、燃料と酸化剤を供給するだけで発電することができ、燃料のみを補充・交換すれば連続して発電できるという利点を有している。このため、小型化ができれば携帯電子機器の作動に極めて有利なシステムといえる。特に直接メタノール燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料に用い、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出せるため、小型化が可能であり、また燃料の取り扱いも水素ガス燃料に比べて容易なことから小型機器用電源として有望であることから、携帯電話、携帯オーディオ、携帯ゲーム機、ノートパソコンなどのコードレス携帯機器に最適な電源としてその実用化が期待されている。
【0003】
DMFCの燃料の供給方法としては、液体燃料を気化してからブロア等で燃料電池内に送り込む気体供給型DMFCと、液体燃料をそのままポンプ等で燃料電池内に送り込む液体供給型DMFC、液体燃料をセル内で気化させる内部気化型DMFC等が知られている。このうち内部気化型DMFCは、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている。内部気化型DMFCでは、燃料浸透層中に保持された液体燃料のうち気化成分を燃料気化層(アノードガス拡散層)において拡散させ、拡散された気化燃料がアノード触媒層に供給され、カソード触媒層側からの酸化剤と電解質膜において発電反応する。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2006/057283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2の内部気化型DMFCにおいては、携帯電子機器を動作させるために十分に高い出力特性を得ることが難しい。これらの従来の燃料電池では、液体燃料としてメタノールと水が1:1のモル比で混合されたメタノール水溶液が使用され、メタノールと水の双方を気化ガスの形で燃料極に供給しているが、水はメタノールに比べて蒸気圧が低く、水の気化速度はメタノールの気化速度に比べて遅いため、メタノールも水も気化によって燃料極に供給しようとすると、メタノール供給量に対する水の相対的な供給量が不足し、その結果、メタノールを内部改質する反応の反応抵抗が高くなるからである。
【0005】
また、メタノール等の液体燃料の供給量が過剰になり燃料(メタノール)改質反応が追いつかない場合、未反応の燃料がカソードを通過して極微量外部に漏れ出すおそれがある。さらに、アノードでの反応で生成した副生成物が外部に漏れ出すおそれがある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、カソード側への排ガスに含まれる未反応燃料および副生成物を処理することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池は、カソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードとの間に挟持された電解質膜を具備する膜電極接合体を備える起電部と、前記起電部を覆うカバープレートと、を具備する燃料電池であって、前記カソードと前記カバープレートの間の少なくとも一部に配置された排ガス処理触媒を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排ガス処理触媒を電解質膜と前記カバープレートの間の少なくとも一部に配置しているので、カソード触媒層を透過した未反応の燃料や副生成物を燃焼させて外部に排出しないようにすることができる。このため、携帯電話、携帯オーディオ、携帯ゲーム機、ノートパソコンなどの携帯電子機器を動作させるために使用される電源として、有益な燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の燃料電池において、排ガス処理触媒は電解質膜とカバープレートの間に存在すればよく、カソードよりもカバープレート側に配置することを要しない。電解質膜の一方の面に複数の矩形状のカソードを平面配置し、電解質膜の他方の面のカソードと対向する位置に複数の矩形状のアノードを並列配置した多極構造の燃料電池では、カソード間スペースに触媒を配置することも可能であるからである。
【0010】
本発明の燃料電池において、カバープレートとカソードの間に設けられ、カソード反応で生成した水の蒸散を抑制する保湿板をさらに有し、排ガス処理触媒は、保湿板の中に埋設又は/及び保湿板の表面に配設されることができる(図3)。
【0011】
また、本発明の燃料電池において、少なくとも電解質膜を貫通するように設けられたアノードで生成したガスをカソード側に逃がすガス抜き孔を有し、排ガス処理触媒は、平面視野においてカソード側のガス抜き孔の開口と重なるところに配設することができる(図4、図5)。
【0012】
この場合に、排ガス処理触媒は、平面視野においてカソード側のガス抜き孔が開口する電極間スペースと重なるところに配設され、電極間スペースに沿って延び出す細長い形状とすることができる(図4)。また、排ガス処理触媒は、平面視野において複数のガス抜き孔の開口と重なるところに配設され、隣り合う複数の電極間スペースを横断するように延び出す細長い形状とすることができる(図5)。排ガス処理触媒をガス抜き孔の開口の直ぐ近くに配置することにより、アノードで生成したガス(例えば二酸化炭素)に混じって排出される未反応燃料(メタノール)を排ガス処理触媒の存在下でカソード側の酸化剤(空気)と直ちに燃焼反応させることができる。
【0013】
また、本発明の燃料電池において、カバープレートは、カソード触媒層に酸化剤を供給するための複数の通気孔を有し、排ガス処理触媒は、平面視野において前記通気孔と重なり合わない位置に配設されることができる(図6、図7、図8)。この場合に、排ガス処理触媒は、平面視野において通気孔の隣り合う列と列との間の列間スペースに沿って延び出す細長い形状とすることができる(図6)。また、排ガス処理触媒は、平面視野において前記通気孔の隣り合う行と行との間の行間スペースに沿って延び出す細長い形状とすることができる(図7)。排ガス処理触媒をカバープレートの通気孔を避けるように配置することにより、発電に必要な酸化剤(空気)の取り込みを阻害すること無く、排ガスを処理することができる。
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明を実施するための種々の実施の形態を説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
先ず、図1を参照して燃料電池の全体の概要について説明する。燃料電池1Aは、全体がカバープレート21および燃料分配機構11等で覆われ、内部に複数の単位セルを備えている。これら単位セルは、アノード触媒層3とアノード触媒層3に一方の面に積層配置されたアノードガス拡散層5とからなるアノードと、カソード触媒層2とカソード触媒層2の一方の面に積層されたカソードガス拡散層4とからなるカソードと、アノード触媒層3他方の面とカソード触媒層2の他方の面に挟持された電解質膜6とからなる膜電極接合体とよりなり、これら複数の単位セルは、実質的に同一平面上に横並びに配置されている。そして、前記膜電極接合体には、両極の導電層(集電体)7a,7bを電気的に積層配置し、図示しないリード配線により直列に接続されるおとで起電部20を構成している。
【0016】
燃料電池1Aは、例えばカバープレート21の端部21aを燃料分配機構11の外面にかしめ加工することにより、複数の単位セルを一体化した1つのユニットとして構成されている。なお、カバープレート21と燃料分配機構11とをボルトとナット(図示せず)で締め付けることにより、これらを一体化形成するようにしてもよい。
【0017】
燃料電池1A内の単位セルは、絶縁性のOリング8a,8bによって液密にシールされている。これらのOリング8a,8bによって燃料電池1Aの内部に種々のスペースや間隙が形成されている。
【0018】
燃料分配機構11には配管のような燃料の流路51を介して燃料収容部50が接続されている。燃料収容部50には、燃起電部20に対応した液体燃料が収容されている。
【0019】
燃料分配機構11には燃料収容部50から流路51を介して燃料が導入される。流路51は燃料分配機構11や燃料収容部50と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構11と燃料収容部50とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構11は流路51を介して燃料収容部50と接続されていればよい。
【0020】
ここで、燃料分配機構11は図2に示すように、燃料が流路51を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口12と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口14とを有する燃料分配板13を備えている。燃料分配板13の内部には図2に示すように、燃料注入口12から導かれた燃料の通路となる空隙部40が設けられている。複数の燃料排出口14は燃料通路として機能する空隙部40にそれぞれ直接接続されている。燃料注入口12から燃料分配機構11に導入された燃料は空隙部(液溜め)40に入り、この燃料通路として機能する空隙部(液溜め)40を介して複数の燃料排出口14にそれぞれ導かれる。
【0021】
アノード導電層7bには複数の燃料供給孔17bが開口し、燃料分配機構11から燃料の気化成分が孔17bを通ってアノードに供給されるようになっている。
【0022】
膜電極接合体10の電解質膜6にはアノードで生成したガスをカソードへ排出するためのガス抜き孔27が形成されている。
【0023】
アノード導電層7bと燃料分配機構11との間には任意に気化膜としての気液分離膜(図示せず)が設けられている。気液分離膜の周縁部は燃料分配機構11のフランジとアノード導電層7bとの間に挟まれている。気液分離膜は、多数の細孔を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートからなり、液体燃料(メタノール液又はその水溶液)を遮断し、燃料ガス(メタノールガス)を透過させる性質を有するものである。
【0024】
空隙部(液溜め)40の内部には任意に図示しない液体燃料含浸層が設けられている。液体燃料含浸層は、空隙部(液溜め)40内の液体燃料が減少した場合や燃料電池本体が傾斜して載置され燃料供給が偏った場合においても、気液分離膜に均質に燃料供給され、その結果、アノード触媒層3に対して均質に気化された液体燃料を供給することが可能となる。液体燃料含浸層として、例えば多孔質ポリエステル繊維、多孔質オレフィン系樹脂等多硬質繊維や、連続気泡多孔質体樹脂が好ましい。ポリエステル繊維以外にも、アクリル酸系の樹脂などの各種吸水性ポリマーにより構成してもよく、スポンジまたは繊維の集合体など液体の浸透性を利用して液体を保持することができる材料により構成する。このような液体燃料含浸部は本体の姿勢に関わらず適量の燃料を供給するのに有効である。カソード導電層7aには複数のガス通流孔17aが開口し、カバープレート22に開口された通気孔22から導入された酸化剤(空気)が保湿板19を経由した後に孔17aを通ってカソードガス拡散層4及びカソード触媒層2に供給されるようになっている。なお、ガス通流孔17aの中心軸は、カバープレート21に形成された通気孔22の中心軸と略一致するように配置されていることが好ましい。
【0025】
カバープレート21は、起電部20を含むスタックを加圧してその密着性を高める役割も果たしているため、例えば、SUS304のような金属板により形成される。保湿板19は、カソード触媒層2において生成した水の蒸散を防止する役割を果たすと共に、カソード拡散層4に酸化剤を均一に導入することによりカソード触媒層2への酸化剤の均一拡散を促す補助拡散層としての役割も果たしている。この保湿板19には好ましくは気孔率が20〜60%の多孔性フィルムなどが用いられる。
【0026】
上記のように燃料電池1Aは、パッシブ方式の燃料電池の流路51の途中にポンプ31を挿入したものであり、ポンプ31は燃料を循環される循環ポンプではなく、あくまでも燃料供給源50から燃料分配機構11に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。このようなポンプ31で必要時に液体燃料を送液することによって、燃料供給量の制御性を高めることができる。
【0027】
燃料電池1Aにおいて、燃料分配機構11から起電部20に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料供給源50に戻されることはない。燃料電池1Aは燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ31を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なるため、燃料電池1Aは例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0028】
ポンプ31の種類は特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーポンプ(ロータリーベーンポンプ)、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリーポンプはモータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0029】
図3に示すように、排ガス処理触媒26が保湿板19の中に埋め込まれている。排ガス処理触媒26は、例えば外径1〜2mm×長さ30〜50mmの細長い円筒状の収容容器25に充填封止されている。円筒容器25の主要部は、良好な通気性を有するPTFE等の樹脂からなり、未反応燃料などのガスが内部の触媒と容易に接触することができるようになっている。
【0030】
排ガス処理触媒26は、図4〜図8に示すように様々に配置や形状を変えることができる。例えば図4に示すように、隣り合うカソード71の間に形成される電極間スペース72に沿ってX方向に延び出す排ガス処理触媒26を配置するようにしてもよい。図4に示す4直列電極の例では3本の排ガス処理触媒26を電極間スペース27に沿って配置したが、1本または2本だけでもよい。また、6直列電極などのように単位セル当たりの電極数が増加する場合は、4本以上の排ガス処理触媒26を設けることも可能である。なお、XY平面視野において電極間スペース72に開口するガス抜き孔27と排ガス処理触媒26とがオーバーラップするように配置することが好ましい。未反応燃料などの排ガス等は、その大部分がガス抜き孔27を優先的に通って排出されるからである。
【0031】
また、図5に示すように、排ガス処理触媒26が複数のカソード71を横断するようにカソード71の長手方向(X方向)に対して直交するY方向に配置してもよい。この場合に、XY平面視野において電極間スペース72に開口する複数のガス抜き孔27と排ガス処理触媒26とがオーバーラップするように配置することが好ましい。図示の例では3つのガス抜き孔27と排ガス処理触媒26とが重なり合っているが、2つ又は1つのみのガス抜き孔27との重なりであってもよい。
【0032】
また、図6〜図8に示すように、排ガス処理触媒25をカバープレート21の通気孔22と重ならないように配置してもよい。これは排ガス処理触媒26によりカソード側への酸化剤(空気)の取り込みが阻害されないようにするためである。図6に示す排ガス処理触媒26は、X方向に延び出し、格子状に規則配列された通気孔22の列と列との間の列間スペースに沿って配置されている。また、図7に示す排ガス処理触媒26は、Y方向に延び出し、格子状に規則配列された通気孔22の行と行との間の行間スペースに沿って配置されている。さらに、図8に示す排ガス処理触媒26は、X方向に延び出す2本の脚部がY方向に延び出す1本の胴部に連結されたコ字状をなし、脚部は通気孔22の列間スペースに沿って配置され、胴部は行と行との間の通気孔22の行間スペースに沿って配置されている。この例では排ガス処理触媒26をコ字状の形状としたが、L字状やロ字状の形状としてもよい。
【0033】
なお、本実施形態では排ガス処理触媒26を保湿板19に埋め込んだが、保湿板19の表面に排ガス処理触媒26を配設するようにしてもよい。すなわち、保湿板19とカバープレート21との間に排ガス処理触媒26を挟みこむようにしてもよいし、保湿板19とカソードとの間に排ガス処理触媒26を挟み込むようにしてもよい。
【0034】
燃料電池の単位セルは、プロトン伝導性を有する固体電解質膜6、アノード触媒層3およびカソード触媒層2を備えている。アノード触媒層3およびカソード触媒層2は電解質膜6を間に挟んで一体化された膜電極接合体を構成している。アノード触媒層3にはアノードガス拡散層5が貼り付けられている。アノード触媒層3は、ガス拡散層5を介して供給される燃料を酸化して燃料から電子とプロトンとを取り出すものである。アノード触媒層3は、例えば、触媒を含む炭素粉末により構成されている。触媒には、例えば、白金(Pt)の微粒子、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)あるいはモリブデン(Mo)などの遷移金属あるいはその酸化物あるいはそれらの合金などの微粒子が用いられる。一酸化炭素(CO)の吸着による触媒の不活性化を防止することができることから、アノード触媒には、メタノールや一酸化炭素に対する耐性の強いPt−Ru、カソード触媒には、白金を用いることが望ましい。しかし、これのみに触媒は限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒を使用しても、あるいは無担持触媒を使用しても良い。
【0035】
また、アノード触媒層3は、固体電解質膜6に用いられる樹脂の微粒子を含むほうがさらに望ましい。発生させたプロトンの移動を容易とするためである。アノードガス拡散層5は、例えば多孔質の炭素材料よりなる薄膜で構成され、具体的にはカーボンペーパーまたは炭素繊維などで構成されている。
【0036】
カソードはカソード触媒層2とカソードガス拡散層4を有する。カソード触媒層2は、酸素を還元して、電子とアノード触媒層3において発生したプロトンとを反応させて水を生成するものであり、例えば上述のアノード触媒層3及びガス拡散層4と同様に構成されている。すなわち、カソードは、電解質膜6の側から順に触媒を含む炭素粉末よりなるカソード触媒層2と多孔質の炭素材料よりなるカソードガス拡散層4(ガス透過層)とが積み重ねられた積層構造をなしている。カソード触媒層2に用いられる触媒はアノード触媒層3のそれと同様であり、アノード触媒層2が固体電解質膜6に用いられる樹脂の微粒子を含む場合があることもアノード触媒層2と同様である。
【0037】
電解質膜6は、アノード触媒層3において発生したプロトンをカソード触媒層2に輸送するためのものであり、電子伝導性を持たず、プロトンを輸送することが可能な材料により構成されている。例えば、ポリパーフルオロスルホン酸系の樹脂膜、具体的には、デュポン社製のナフィオン膜、旭硝子社製のフレミオン膜、あるいは旭化成工業社製のアシプレックス膜などにより構成されている。なお、ポリパーフルオロスルホン酸系の樹脂膜以外にも、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、あるいは脂肪族炭化水素系樹脂獏などプロトンを輸送可能な電解質膜6を構成するようにしてもよい。
【0038】
カソードガス拡散層4はカソード触媒層2の上面側に積層され、かつアノードガス拡散層5はアノード触媒層3の下面側に積層されている。カソードガス拡散層4はカソード触媒層2に酸化剤を均一に供給する役割を担うものであるが、カソード触媒層2の集電体も兼ねている。一方、アノードガス拡散層5はアノード触媒層3に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層3の集電体も兼ねている。カソード導電層7a及びアノード導電層7bは、それぞれ、カソードガス拡散層4及びアノードガス拡散層5と接している。カソード導電層7a及びアノード導電層7bを構成する材料としては、例えば、白金、金などの貴金属、ニッケル、ステンレス鋼などの耐食性金属などの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体を用いることが好ましく、また、金やカーボンなどの導電性材料を異種金属で表面処理した材料、例えば、銅やステンレス鋼に金などの良導電性金属を被覆した複合材などをそれぞれ使用することができる。
【0039】
燃料収容部50には、起電部20に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が収容される。
【0040】
次に、排ガス処理触媒26を収容容器25に収容する際の作製方法を説明する。
【0041】
図9の(a)に示す収容容器25は、円筒状の通気性チューブ25bの両端にヒートシール性チューブ25aを有する。通気性チューブ25bには多孔質のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂を用いることができる。ヒートシール性チューブ25aにはポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱溶着性の樹脂を用いることができる。
【0042】
このようなチューブ25a,25bに、図9の(b)に示すように排ガス処理触媒26を充填する。そして、両端のヒートシール性チューブ25aを熱プレスして図9の(c)に示すように、それぞれ溶着させ、排ガス処理触媒26を封止する。これにより収容容器25に排ガス処理触媒26を収容することができる。
【0043】
収容容器25として樹脂シート原材料とすることもできる。樹脂シートは、通気性を有する主要部の薄いフィルム25dと、通気性フィルム25dの全周縁取りしたヒートシール性の薄いフィルム25cとからなるものである。この樹脂シートの通気性フィルム25dの上に排ガス処理触媒26を図10の(a)に示すように敷き並べる。次いで、図10の(b)に示すように触媒26を包み込むように通気性シートを二つ折りに折り返す。そして、図10の(c)に示すように通気性シートの三辺においてヒートシール性フィルム25cを熱プレスして、排ガス処理触媒26を封止する。これにより排ガス処理触媒26が収容されたパック状の収容容器25が得られる。
【0044】
本実施例では排ガス処理触媒26としてPt/Ru系触媒(Pt:Ru=1:1)を繊維状又は針状のカーボンブラックに担持させたものを用いた。触媒担持量は、カーボン100に対して質量比で15〜30とした。このような触媒担持カーボンブラックにパーフルオロカーボンスルホン酸溶液(デュポン社のナフィオン溶液;SE−20092)とイオン交換水を添加し、前記い触媒担持カーボンブラックを分散させてペーストを調整した。
【0045】
排ガス処理触媒の製造方法の概要を説明する。
【0046】
R.Ramakumar et al. J. Power Sources 69 (1997) 75)に記載された公知のプロセスを用いて、担体となる粒径250〜500μmのカーボンブラックにPtとRuを担持させた排ガス処理触媒を作製した。担体にはカーボンブラックの代わりに活性炭を用いるようにしてもよい。Pt/Ru触媒(Pt:Ru=1:1)の担持量は、例えば嵩単位体積当たり約100(μg/cc)とすることができる。
【0047】
作製したPt/Ru触媒担持活性炭にパーフルオロスルホン酸溶液(デュポン社のNafion溶液 SE-20092)とイオン交換水を添加し、所定のペーストを調合した。
【0048】
以上、種々の実施の形態を挙げて説明したが、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0049】
さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【0050】
また、燃料分配機構11から膜電極接合体10への燃料供給が行われる構成であればポンプ31に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池を示す内部透視断面図。
【図2】燃料分配機構を示す斜視図。
【図3】排ガス処理触媒が設けられたカソード側を示す概略断面図。
【図4】排ガス処理触媒とカソード側のガス抜き孔との位置関係を示す平面図。
【図5】排ガス処理触媒とカソード側のガス抜き孔との他の位置関係を示す平面図。
【図6】排ガス処理触媒とカバープレート通気孔との位置関係を示す平面図。
【図7】排ガス処理触媒とカバープレート通気孔との他の位置関係を示す平面図。
【図8】排ガス処理触媒とカバープレート通気孔との他の位置関係を示す平面図。
【図9】(a)は排ガス処理触媒の収容容器となる通気性チューブを示す斜視図、(b)は排ガス処理触媒を充填するときの通気性チューブを示す斜視図、(c)は通気性チューブの両端部をヒートシールした収容容器を示す斜視図。
【図10】(a)は排ガス処理触媒を収容する収容容器の原材料となる通気性シートおよび排ガス処理触媒を示す斜視図、(b)は排ガス処理触媒を包み込むように二つ折りに折り返した通気性シートを示す斜視図、(c)は通気性シートの三辺をヒートシールした収容容器触媒パッケージを示す斜視図。
【符号の説明】
【0052】
1A…燃料電池、
2…カソード触媒層、3…アノード触媒層、
4…カソードガス拡散層、5…アノードガス拡散層、
6…電解質膜(プロトン伝導膜)、
7a…カソード導電層(正極集電体)、7b…アノード導電層(負極集電体)、
71…カソード電極、72…電極間スペース、
8a,8b…シール部材(Oリング)、
10…膜電極接合体(MEA)、
11…燃料分配機構、
12…燃料導入口、13…流路板、14…燃料供給口、
17a,17b…ガス通流孔、
19…保湿板、
20…起電部、
21…カバープレート(外装ケース)、22…通気孔、
25…収容容器、
25a,25c…ヒートシール部、
25b,25d…触媒保持部(ガス透過部)、
26…排ガス処理触媒、
27…ガス抜き孔、
31…ポンプ、40…空隙部(液溜め)、49…液体燃料、
50…燃料収容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜を具備する膜電極接合体を備える起電部と、前記起電部を覆うカバープレートと、を具備する燃料電池であって、
前記カソードと前記カバープレートの間の少なくとも一部に配置された排ガス処理触媒を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記膜電極接合体は、前記電解質膜の一方の面に複数の矩形状の前記カソードを平面配置し、前記電解質膜の他方の面の前記カソードと対向する位置に複数の矩形状の前記アノードを並列配置したものであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カバープレートと前記カソードの間に設けられ、前記カソードで生成した水の蒸散を抑制する保湿板をさらに有し、前記排ガス処理触媒は、前記保湿板の中に埋設され又は/及び前記保湿板の表面に配設されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項4】
前記膜電極接合体は、少なくとも前記電解質膜を貫通するように設けられた前記アノードで生成したガスを前記カソード側に逃がすガス抜き孔を有し、前記排ガス処理触媒は、平面視野において前記カソード側の前記ガス抜き孔の開口と重なるところに配設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項5】
前記ガス抜き孔は、前記並列配置されたカソード間に形成されており、前記排ガス処理触媒は、平面視野において前記カソード側の前記ガス抜き孔が開口する前記電極間スペースと重なるところに配設され、前記電極間スペースに沿って延び出す細長い形状であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
前記ガス抜き孔は、前記並列配置されたカソード間に複数形成されており、前記排ガス処理触媒は、平面視野において複数の前記ガス抜き孔の開口と重なるところに配設され、隣り合う複数の前記電極間スペースを横断するように延び出す細長い形状であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
【請求項7】
前記カバープレートは、前記カソード触媒層に酸化剤を供給するための複数の通気孔を有し、前記排ガス処理触媒は、平面視野において前記通気孔と重なり合わない位置に配設されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項8】
前記カバープレートの前記複数の通気孔は規則的に配置されており、前記排ガス処理触媒は、平面視野において前記通気孔の隣り合う列と列との間の列間スペースに沿って延び出す細長い形状であることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
前記カバープレートの前記複数の通気孔は規則的に配置されており、前記排ガス処理触媒は、平面視野において前記通気孔の隣り合う行と行との間の行間スペースに沿って延び出す細長い形状であることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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