説明

燃料電池

【課題】電解質膜の両面にガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の少なくとも一方の表面に積層され、ガス拡散電極に供給されるガスの流路を構成する多孔体と、を備える燃料電池において、多孔体からの排水性を向上させる。
【解決手段】ガスの流路を構成する多孔体20が有する空孔の一部に、水に対する接触角が90度以下であって、直径が平均空孔径の1/2以上である球状物22を埋め込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解質膜の両面にガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の少なくとも一方の表面に積層され、ガス拡散電極に供給されるガスの流路を構成する多孔体と、を備える燃料電池が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2008−47299号公報
【特許文献2】特開2007−323975号公報
【特許文献3】特開2007−242564号公報
【特許文献4】特開2004−63098号公報
【特許文献5】特開2004−63095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような燃料電池では、発電時に生成された生成水が、上記多孔体が有する空孔の内壁面に付着し、この付着した生成水は、上記空孔の内壁面で膜状に広がってしまう。この広がった水は、ガスの入口と出口との圧力差では動きにくいため、特に、燃料ガスや酸化剤ガスの流速が小さいときに、排水性が悪かった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、電解質膜の両面にガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の少なくとも一方の表面に積層され、ガス拡散電極に供給されるガスの流路を構成する多孔体と、を備える燃料電池において、多孔体からの排水性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池であって、電解質膜の両面にガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体の少なくとも一方の表面に積層され、前記ガス拡散電極に供給されるガスの流路を構成する多孔体と、を備え、前記多孔体が有する空孔の一部に、水に対する接触角が90度以下であって、直径が平均空孔径の1/2以上である球状物が埋め込まれている、燃料電池。
【0008】
適用例1の燃料電池では、上記多孔体が有する空孔の一部に、水に対する接触角が90度以下の球状物が埋め込まれているので、発電時に生成された生成水(水蒸気)は、多孔体が有する空孔の内壁面ではなく、球状物の表面に付着して水滴となり、ガスの入口と出口との圧力差によって動きやすくなる。また、球状物は、他の形状のものと比較して、多孔体中のガスの流れを阻害しない。したがって、上記多孔体からの排水性を向上させることができる。また、上記球状物の直径が、上記多孔体が有する空孔の平均空孔径の1/2以上であるので、球状物が燃料ガスや酸化剤ガスの流れによって流されることはなく、所望の位置で排水性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。図1(a)に、燃料電池100の断面図を示し、図1(b)に、後述する多孔体20の表面図を示した。
【0010】
図1(a)に示したように、この燃料電池100は、膜電極接合体10の両面にガス流路を構成する多孔体20をそれぞれ積層し、これらをセパレータ30によって挟持することによって構成されている。膜電極接合体10は、電解質膜12の両面に、それぞれ、触媒層14、および、ガス拡散層16をこの順に接合したものである。
【0011】
そして、本実施例の燃料電池100において、多孔体20が有する空孔の一部には、水に対する接触角が90度以下であって、直径が平均空孔径の1/2以上である金属製の球状物22が埋め込まれている。なお、多孔体20は、予め球状物22を含んだ基材を多孔体化するものとしてもよいが、本実施例では、多孔体20を形成した後に、複数の球状物22を所望の位置に押し込んで埋め込むものとした。この製造方法によれば、予め球状物22を含んだ基材を多孔体化して多孔体20を製造するよりも低コストで多孔体20を製造することができる。
【0012】
このような燃料電池100において、多孔体20が有する空孔の一部に球状物22が埋め込まれていない場合には、発電時に生成された生成水は、上記空孔の内壁面に付着し、この付着した生成水は、上記空孔の内壁面で膜状に広がってしまう。この広がった水は、ガスの入口と出口との圧力差では動きにくいため、特に、燃料ガスや酸化剤ガスの流速が小さいときに、排水性が悪くなる。このため、燃料電池100を複数積層して燃料電池スタックを構成した場合、排水性が悪い燃料電池100における、発電量低下・不安定化、ガス配流のバラツキ増加、ガス不足の燃料電池100における触媒層14の劣化、氷点下での凍結増加、低温始動時間の増加、氷結による触媒層14の劣化等、種々の不具合が生じる場合があった。
【0013】
これに対し、第1実施例の燃料電池100では、多孔体20が有する空孔の一部に、水に対する接触角が90度の球状物22が埋め込まれているので、発電時に生成された生成水(水蒸気)は、上記空孔の内壁面ではなく、球状物22の表面に付着して水滴となり、ガスの入口と出口との圧力差によって動きやすくなる。また、球状物22は、他の形状のものと比較して、多孔体20中のガスの流れを阻害しない。したがって、多孔体20からの排水性を向上させることができる。また、球状物22の直径が、上記空孔の平均空孔径の1/2以上であるので、球状物22が燃料ガスや酸化剤ガスの流れによって流されることはなく、所望の位置で排水性を確保できる。この結果、多孔体20に生成水が滞留することに起因する、上述した種々の不具合の発生を抑制することができる。また、球状物22は金属製であるので、多孔体20全体としての導電性を増大させ、電気抵抗を減少させることができる。
【0014】
B.第2実施例:
図2は、本発明の第2実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。燃料電池における多孔体20全体の平面図を示した。第2実施例の燃料電池の構成は、第1実施例の燃料電池100の構成とほぼ同じであり、多孔体20が有する空孔の一部に球状物22が埋め込まれている。そして、第2実施例の燃料電池では、多孔体20における球状物22の分布が第1実施例の燃料電池100と異なっている。
【0015】
図示するように、本実施例の燃料電池では、多孔体20の面内において、破線で囲った一部の領域に、複数の球状物22を集合させた球状物群22gが複数配置されている。そして、本実施例では、各球状物群22gにおいて、複数の球状物22は、多孔体20における毛管長(約3mm)以下の間隔で配置するものとした。また、本実施例では、球状物群22gの大きさ、すなわち、複数の球状物22を集合させた領域の大きさを、多孔体20における毛管長の4倍以下とした。
【0016】
以上説明した第2実施例の燃料電池では、多孔体20において、複数の球状物22を集合させて球状物群22gとしているので、発電時に生成された生成水が球状物22の表面で水滴となるときに、球状物22を集合させていない場合よりも水滴が大きくなり、この水滴は、ガスの圧力差で動きやすくなる。したがって、球状物群22gを起点とした排水パスを作ることができ、多孔体20からの排水性をさらに向上させることができる。
【0017】
また、本実施例の燃料電池では、各球状物群22gにおいて、複数の球状物22を、多孔体20における毛管長以下の間隔で配置することによって、重力による水滴の垂れの影響を受けずに、排水することができる。
【0018】
なお、本実施例の燃料電池において、球状物群22gの大きさを多孔体20における毛管長の4倍以下としたのは、球状物群22gの大きさが大きいほど排水パスができやすいが、大きすぎると水の塊による発電不良が起きるからであり、球状物群22gの大きさを多孔体20における毛管長の4倍以下とすることによって、上述した発電不良が起きにくくなることが実験的に分かったからである。
【0019】
C.第3実施例:
図3は、本発明の第3実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。燃料電池における多孔体20全体の平面図を示した。第3実施例の燃料電池の構成は、第2実施例の燃料電池の構成とほぼ同じであり、多孔体20の面内の一部の領域に、複数の球状物群22gが配置されている。ただし、第3実施例の燃料電池では、多孔体20における球状物群22gの分布が第2実施例の燃料電池と異なっている。
【0020】
図示するように、第3実施例の燃料電池では、多孔体20の面内において、図中に矢印で示したガスの流れ方向に沿って、複数の球状物群22gが配置されている。このガスの流れ方向は、多孔体20中に水が存在していない場合のガスの流れ方向であり、実験、または、数値計算によって求められる。
【0021】
以上説明した第3実施例の燃料電池では、多孔体20の面内において、ガスの流れ方向に沿って、複数の球状物群22gを配置しているので、多孔体20内に、ガス流入口からガス流出口に向けて連通した排水パスを形成することができ、多孔体20からの排水性をさらに向上させることができる。
【0022】
D.第4実施例:
図4は、本発明の第4実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。燃料電池における多孔体20全体の平面図を示した。第4実施例の燃料電池の構成は、第3実施例の燃料電池の構成とほぼ同じであり、多孔体20の面内の一部の領域に、複数の球状物群22gが配置されている。ただし、第4実施例の燃料電池では、多孔体20における球状物群22gの分布が第3実施例の燃料電池と異なっている。
【0023】
図示するように、第4実施例の燃料電池では、第3実施例の燃料電池と同様に、多孔体20の面内において、図中に矢印で示したガスの流れ方向に沿って、複数の球状物群22gが配置されている。そして、多孔体20の面内におけるガス流入口に比較的近い領域に、ガス流出口に比較的近い領域よりも多くの球状物群22gが配置されている。
【0024】
以上説明した第4実施例の燃料電池では、第3実施例の燃料電池と同様に、多孔体20の面内において、ガスの流れ方向に沿って、複数の球状物群22gを配置しているので、多孔体20内に、ガス流入口からガス流出口に向けて連通した排水パスを形成することができ、多孔体20からの排水性を向上させることができる。
【0025】
また、本実施例の燃料電池では、多孔体20の面内におけるガス流入口に比較的近い領域に、ガス流出口に比較的近い領域よりも多くの球状物群22gを配置することによって、上流からの排水量が少なくて生成水の水滴化が比較的困難な領域においても排水性を向上させることができる。逆に、上流からの排水量が多い下流側の領域に配置される球状物群22gの数を少なくすることによって、生成水によるガス拡散阻害や発電不安定を起きにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第2実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。
【図3】本発明の第3実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。
【図4】本発明の第4実施例としての燃料電池の一部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
100…燃料電池
10…膜電極接合体
12…電解質膜
14…触媒層
16…ガス拡散層
20…多孔体
22…球状物
22g…球状物群
30…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜の両面にガス拡散電極を接合してなる膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の少なくとも一方の表面に積層され、前記ガス拡散電極に供給されるガスの流路を構成する多孔体と、を備え、
前記多孔体が有する空孔の一部に、水に対する接触角が90度以下であって、直径が平均空孔径の1/2以上である球状物が埋め込まれている、
燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−140784(P2010−140784A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316507(P2008−316507)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】