説明

燃料電池

【課題】出力性能が向上された燃料電池を提供する。
【解決手段】カソード触媒層5と、アノード触媒層7と、前記カソード触媒層5及び前記アノード触媒層7の間に配置された電解質膜2と、前記アノード触媒層7に積層された第1〜第3の撥水性多孔質層9,11,12を含むアノードガス拡散層8とを具備し、前記第1の撥水性多孔質層9の透気抵抗度が前記第2の撥水性多孔質層11の透気抵抗度に比して大きく、前記第1の撥水性多孔質層9及び前記第2の撥水性多孔質層11の透気抵抗度の合計が前記第3の撥水性多孔質層12に比して大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するもので、特に小型の液体燃料直接供給型燃料電池に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わって、小型の燃料電池が注目を集めている。特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は、水素ガスを使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れている。
【0003】
DMFCでは、アノード(例えば燃料極)においてメタノールが酸化分解され、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成する。一方、カソード(例えば空気極)では、空気から得られる酸素と、電解質膜を経て燃料極から供給されるプロトン、および燃料極から外部回路を通じて供給される電子によって水が生成する。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる。
【0004】
特許文献1〜3には、触媒層と拡散層との間に、炭素を含有する層を一層もしくは二層以上介在させることが記載されている。また、特許文献4には、ガス拡散層にカーボンクロスを使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−214173号公報
【特許文献2】特開2005−100748号公報
【特許文献3】特開2006−120508号公報
【特許文献4】特開2007−317391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、出力性能が向上された燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池は、カソード触媒層と、
アノード触媒層と、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と、
前記アノード触媒層に積層された第1〜第3の撥水性多孔質層を含むアノードガス拡散層とを具備し、
前記第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度が前記第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きく、前記第1の撥水性多孔質層及び前記第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計が前記第3の撥水性多孔質層に比して大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力性能が向上された燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の燃料電池に用いる膜電極接合体の断面図。
【図2】実施例1の第1,第2の撥水性多孔質層の作製方法を説明するための模式的な断面図。
【図3】本実施形態の燃料電池を示す断面図。
【図4】図3の燃料電池の燃料分配機構を示す斜視図。
【図5】王研式(背圧式)透気抵抗度測定機の模式図。
【図6】図5の測定機の流路に関する模式図。
【図7】ガーレ式測定機の流路についての模式図。
【図8】第1〜第3の撥水性多孔質層の透気抵抗度の測定方法を説明するための模式図。
【図9】比較例4の燃料電池に用いられる膜電極接合体を示す断面図。
【図10】実施例1における第1〜第3の撥水性多孔質層の燃料と水の分布を示す模式図。
【図11】実施例2における第1〜第3の撥水性多孔質層の燃料と水の分布を示す模式図。
【図12】比較例2における第1〜第3の撥水性多孔質層の燃料と水の分布を示す模式図。
【図13】実施例1〜2及び比較例1〜4の燃料電池における運転時間と出力密度との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る燃料電池は、アノード触媒層に積層された第1〜第3の撥水性多孔質層を含むアノードガス拡散層を具備する。第1の撥水性多孔質層がアノード触媒層に積層され、第1の撥水性多孔質層の外側に第2,第3の撥水性多孔質層がこの順番に配置されている。第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きくすると共に、第1の撥水性多孔質層及び第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計を第3の撥水性多孔質層に比して大きくすることによって、発電によりカソード触媒層に生成した水が電解質膜を通してアノード触媒層に供給される際、その水をアノード触媒層近傍に保持することができる。
【0011】
また、燃料は、第3の撥水性多孔質層側から供給されるため、第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きくすると共に、第1の撥水性多孔質層及び第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計を第3の撥水性多孔質層に比して大きくすることによって、燃料の供給を円滑にすることができる。
【0012】
これらの結果、燃料と水との混合を適正に行えるため、燃料電池の出力性能を向上することができる。
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池で用いられる膜電極接合体を図1〜図2を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、膜電極接合体(MEA)1は、電解質膜2と、カソード3と、アノード4とを備える。カソード3は、電解質膜2の一方の面に積層されるカソード触媒層5と、カソード触媒層5に積層されるカソード拡散層6とを有する。一方、アノード4は、電解質膜2の他方の面に積層されるアノード触媒層7と、アノード触媒層7に積層されるアノード拡散層8とを有する。アノード拡散層8は、アノード触媒層7側から、第1の撥水性多孔質層9、導電性基材10、第2の撥水性多孔質層11、第3の撥水性多孔質層12がこの順番に積層されて一体化されたものからなる。
【0015】
以下、各部材について説明する。
【0016】
1)第1の撥水性多孔質層9及び第2の撥水性多孔質層11
各撥水性多孔質層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂などの撥水剤を含有することが望ましい。
【0017】
また、各撥水性多孔質層は、その電気抵抗を小さくするため、導電性物質を含有することが望ましい。導電性物質としては、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料には、ケッチェンブラック、プリンテックス、カーボンナノチューブなどが挙げられ、粒子(例えば、球状粒子、扁平状粒子)もしくは繊維の形態を有する炭素材料であれば特に限定されるものではない。特に、炭素材料の微粒子もしくは炭素材料のナノ繊維が好適である。
【0018】
各撥水性多孔質層の透気抵抗度は30ガーレ秒以上であることが望ましい。また、第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度をT1とし、第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度をT2にした際に、T2/T1が90%以下であることが好ましい。
【0019】
各撥水性多孔質層は、導電性基材に一体化されていることが望ましい。具体的には、導電性基材10の一方の面に第1の撥水性多孔質層9が一体化され、かつ他方の面に第2の撥水性多孔質層11が一体化されていることが好ましい。導電性基材10には、例えばカーボンペーパを使用することができる。
【0020】
導電性基材10に一体化された第1,第2の撥水性多孔質層9,11は、例えば、図2に示す方法で作製される。すなわち、撥水剤及び導電性物質を混合してスラリーを調製した後、得られたスラリーを導電性基材10の両面にスプレーコート法により塗布し、温風乾燥もしくは常温で自然乾燥した後、導電性基材10の一方の面のみスラリーを重ね塗りする。これを焼成することにより、導電性基材に一体化された第1,第2の撥水性多孔質層9,11を得る。
【0021】
2)第3の撥水性多孔質層12
第3の撥水性多孔質層12は、導電性基材と、導電性基材に形成され、炭素材料及び撥水剤を含む多孔質膜とを含む。第3の撥水性多孔質層12は、多孔質膜が第2の撥水性多孔質層11と接するように配置することが望ましい。
【0022】
導電性基材としては、例えば、カーボンクロス等を挙げることができる。
【0023】
撥水剤及び炭素材料には、前述した第1,第2の撥水性多孔質層9,11で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0024】
第3の撥水性多孔質層12の透気抵抗度は、30ガーレ秒未満であることが望ましい。
【0025】
第3の撥水性多孔質層12は、例えば、図2に示す方法で作製される。すなわち、撥水剤及び導電性物質を混合してスラリーを調製した後、得られたスラリーを導電性基材の片面にスプレーコート法により塗布し、温風乾燥もしくは常温で自然乾燥した後、焼成することにより、第3の撥水性多孔質層12を得る。
【0026】
3)カソード触媒層5、アノード触媒層7及び電解質膜2
カソード触媒層5とアノード触媒層7に含有される触媒としては、例えば、白金族元素である、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の単体金属、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。具体的には、燃料極側の触媒として、メタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Moなど、空気極側の触媒として、白金やPt−Niなどを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒、あるいは無担持触媒を使用してもよい。
【0027】
また、カソード触媒層5、アノード触媒層7及び電解質膜2に含まれるプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(デュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)や旭硝子社製の商品名フレミオン(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸重合体等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂、無機物(例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、硝酸リチウムなど)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
4)カソードガス拡散層6
カソードガス拡散層6は、カソード触媒層5に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層5の集電体も兼ねている。カソードガス拡散層6には、例えば、撥水処理の施されたカーボンペーパもしくはカーボンクロスを使用することができる。撥水処理には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を使用することができる。
【0029】
アノードガス拡散層8及びカソードガス拡散層6には、必要に応じて導電層が積層される。これら導電層としては、例えば、金、ニッケルなどの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材などが用いられる。
【0030】
図1に示す膜電極接合体を備えた燃料電池を図3〜図4を参照して説明する。
【0031】
図3に示す燃料電池は、図1に示す膜電極接合体1と、この膜電極接合体1に燃料を供給する燃料分配機構20と、液体燃料を収容する燃料収容部21と、これら燃料分配機構20と燃料収容部21とを接続する流路22とから主として構成されている。
【0032】
電解質膜2と燃料分配機構20およびカバープレート23との間には、それぞれゴム製のOリング24が介在されており、これらによって膜電極接合体(MEA)1からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。図示を省略したが、カバープレート23は酸化剤である空気を取入れるための開口部を有している。カバープレート23と膜電極接合体1との間には、必要に応じて表面層が配置される。表面層は空気の取入れ量を調整するものであり、空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された複数の空気導入口を有している。このようなカバープレート23を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード3に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、O2を含むガスを使用可能である。
【0033】
カバープレート23と膜電極接合体1との間には、必要に応じて水蒸気透過抑制層が配置される。水蒸気透過抑制層はカソード触媒層5で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、カソード触媒層5への空気の均一拡散を促進するものである。水蒸気透過抑制層としては、ポリエチレン系高分子、ポリオレフィン系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリプロピレン系高分子、ポリエステル系高分子、フッ素系高分子またはポリイミド系高分子の多孔質膜等を挙げることができる。具体例としては、日東電工製の商品名サンマップ、デュポン製の商品名PTFEなどの水蒸気透過抑制層を挙げることができる。
【0034】
燃料収容部21には、膜電極接合体1に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部21には膜電極接合体1に応じた液体燃料が収容される。
【0035】
液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、複数の燃料排出口25を有する燃料分配機構20の特徴がより顕在化するのは燃料濃度が濃い場合である。このため、燃料電池は、濃度が80%以上のメタノール水溶液もしくは純メタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。燃料としてメタノール燃料を使用する場合には、次の式(A)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
【0036】
CHOH+HO → CO+6H+6e …式(A)
内部改質反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜2を伝導し、カソード触媒層5に到達する。カバープレート23の開口部からカソード触媒層5に供給された空気は、次の式(B)に示す反応を生じる。この反応によって、水が生成され、発電反応が生じる。
【0037】
(3/2)O+6H+6e → 3HO …式(B)
膜電極接合体1のアノード(燃料極)4側には、燃料分配機構20が配置されている。燃料分配機構20は配管のような液体燃料の流路22を介して燃料収容部21と接続されている。燃料分配機構20には燃料収容部21から流路22を介して液体燃料が導入される。流路22は燃料分配機構20や燃料収容部21と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構20と燃料収容部21とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構20は流路22を介して燃料収容部21と接続されていればよい。
【0038】
液体燃料を燃料収容部21から燃料分配機構20まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部21から燃料分配機構20まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路22を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部21から燃料分配機構20まで送液することができる。さらに、燃料収容部21から燃料分配機構20への送液は、図2に示すように、ポンプ26で実施してもよい。あるいは、燃料分配機構20から膜電極接合体1への燃料供給が行われる構成であればポンプ26に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0039】
燃料分配機構20は、図4に示すように、液体燃料が流路22を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口27と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口25とを有する燃料分配板28を備えている。燃料分配板28の内部には図3に示すように、燃料注入口27から導かれた液体燃料の通路となる空隙部29が設けられている。複数の燃料排出口25は燃料通路として機能する空隙部29にそれぞれ直接接続されている。
【0040】
燃料注入口27から燃料分配機構20に導入された液体燃料は空隙部29に入り、この燃料通路として機能する空隙部29を介して複数の燃料排出口25にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口25には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体1のアノード4には液体燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構20とアノード4との間に気液分離膜等として設置してもよい。液体燃料の気化成分は複数の燃料排出口25からアノード4の複数個所に向けて排出される。
【0041】
燃料排出口25は膜電極接合体1の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板28のアノード4と対向する面に複数設けられている。燃料排出口25の個数は2個以上であればよいが、膜電極接合体1の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口25が存在するように形成することが好ましい。
【0042】
上述した燃料分配機構20に導入された液体燃料は空隙部29を介して複数の燃料排出口25に導かれる。燃料分配機構20の空隙部29はバッファとして機能するため、複数の燃料排出口25からそれぞれ規定濃度の燃料が排出される。そして、複数の燃料排出口25は膜電極接合体1の全面に燃料が供給されるように配置されているため、膜電極接合体1に対する燃料供給量を均一化することができる。
【0043】
撥水性多孔質層の透気抵抗度について説明する。透気抵抗度は、王研式透気度試験機により測定される。透気抵抗度の単位であるガーレ秒は、ガーレ法(JIS P8117)に準ずるもので、圧力差0.0132 Kgf/cm2の下で100 cm3の空気が64.5 cm2広さの紙(サンプル)を通過する時間(秒)を意味する。
【0044】
王研式透気度試験機の規格は、J. TAPPI NO5B(紙パルプ技術協会規格)であり、型式はEGO-2Sである。また、測定端の直径はφ30mmでノズル型名はG,100、またはφ10mmでノズル型名は1/10G,100である。
【0045】
以下に測定原理を図5〜図7を参照して説明する。
【0046】
図5は、王研式(背圧式)透気度測定機の模式図を示す。測定端101には、測定サンプル102(例えばアノード多孔質層)が配置されている。測定端101には、細管103を介して水柱圧力計104が接続されている。水柱圧力計104は、細管103に接続された側圧室(B室)105と、ノズルと呼ばれる細管106を介して接続された定圧室(A室)107とを有する。水柱圧力計104の定圧室(A室)107は、細管108を介して外部圧縮源109に接続されている。細管108には、圧力ゲージ110が設けられている。
【0047】
測定サンプル102には、外部圧縮源109から配管108、定圧室(A室)107、細管106、側圧室(B室)105、及び細管103を通して供給された空気圧が加わる。外部圧縮源109から供給された時点での空気圧は、圧力ゲージ110により測定される。空気圧が加わるのと反対側の面に加わる圧力は、大気圧に保たれる。
【0048】
測定サンプル102を透過する空気圧は、水柱圧力計104により測定される。測定サンプル102のガーレの透気度TGは、以下に説明する原理に基づいて得られる。
【0049】
図6に、図5の測定機の流路に関する模式図を示す。図6では、図5で説明したのと同様な部材については同符号を付しているが、側圧室(B室)105の右側に接続されている細管111は、測定サンプル102を見立てたものである。
【0050】
図6に関して、両細管内の流れが層流の場合は、流量と差圧の関係はハーゲン=ポアゼイユの法則に従う。また、流速が小さい場合は、流路系に連続の法則が適用できる。
【0051】
C=Q=π/8μ・(PC−P)・R4/L …(1)
Q=π/8μ・P・r4/l …(2)
Cは定圧室(A室)107の圧力で、500mmH2Oの定圧に保たれており、Pは側圧室(B室)105の圧力で、QCはノズル106での流量(cm3/sec)で、Qは細管111での流量(cm3/sec)で、Lはノズル106の長さ(mm)、lは細管111の長さ(mm)で、Rはノズル106の内径(mm)で、rは細管111の内径(mm)で、μは空気の粘性係数である。
【0052】
図7は、ガーレ式測定機の流路についての模式図で、定圧PGに保たれるG室112の空気が細管113を通じて大気中に放出されることを示している。また、細管113は、測定サンプル102を見立てたものである。図7のG室112及び細管113は、図6で説明したのと同様な法則に従う。
【0053】
G=π/8μ・PG・r4/l …(3)
G=100/QG…(4)
G=4W/πD2=0.0132(kgf/cm2)=1.29(kPa)…(5)
Gは、JIS P8117により規定される測定部の内筒(W=567g,D=74mm)から算出される。QGは細管113での流量(cm3/sec)で、TGは透気度(sec)である。
【0054】
上記の式(1),(2),(3),(4)よりTGとPの関係は次式(6)で与えられる。測定機の定数Kが決定されれば、図5の水柱圧力計に直接ガーレの透気度TGを見積もることができる。
【0055】
G=800μ/πPG・L/R4・P/(PC−P)
=K・P/(PC−P)…(6)
ここで、Kは測定機の定数(K=800μ/πPG・L/R4)であり、細管106の長さL(mm)及び内径R(mm)は設計上定められる。
【0056】
なお、上記方法で透気抵抗度を測定する場合、測定対象の面を下側にして測定を行い、測定値を得る。例えば、第2の撥水性多孔質層11の透気抵抗度を測定する場合、図8に示すように、導電性基材10の両面に担持された第1、第2の撥水性多孔質層9,11を、第2の撥水性多孔質層11の面を下面にした状態でOリング31で挟み、透気抵抗度の測定を行う。
【0057】
本発明に適用可能な燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分をアノードに供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、前述した図3〜図4に示すセミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAのアノードへ供給する一方、カソードに対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAのアノードに気化したメタノールを自然供給で送り、一方カソードに対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池では、燃料を循環させないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0059】
(実施例1)
<スラリーの調製>
炭素材料(市販品、ValcanXC-72)を6.50g、純水を65.00g、界面活性剤(市販品)を1.30g、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)溶液(市販品:濃度60%)を7.20gとを混合し、スターラー分散にて80分分散させ、スラリー約72gを得た。
【0060】
<第1,第2の撥水性多孔質層の作製>
導電性基材としての市販のカーボンペーパ(東レ製:TGP−H−030もしくは060)を50×200mmに切断し回転ドラムに装着した。調製したスラリーを、回転ドラムに装着したカーボンペーパにスプレー方式にて塗布した。
【0061】
塗布スピードは溶液1g当たり1分で、1層当たり10g、全部で3層塗布する。前述の図2に示すように、カーボンペーパの一方の面にスラリーを塗布して乾燥させた後、他方の面が外面となるようにカーボンペーパを回転ドラムに装着し直し、二回目の塗布及び乾燥を行い、再び装着し直し、既に一層目が形成された面に重ねて三回目の塗布、乾燥を行った。その後、380℃の焼成温度で1時間の条件にて焼成を行い、カーボンペーパに一体化された第1,第2の撥水性多孔質層を得た。
【0062】
このときの二回塗布された側を第1の撥水性多孔質層とし、一回のみ塗布された側を第2の撥水性多孔質層とした。
【0063】
<第3の撥水性多孔質層の作製>
第3の撥水性多孔質層として、市販の撥水性多孔質膜付カーボンクロス(BAFS製:LT−2300W 又は LT−2500W)を使用した。撥水性多孔質膜は、炭素材料及びポリテトラフルオロエチレンを含むもので、カーボンクロスの片面に形成されていた。
【0064】
<アノード触媒層の作製>
白金ルテニウム合金微粒子を担持したカーボン粒子とパーフルオロスルホン酸重合体溶液(デュポン社製のナフィオン溶液DE2020)と溶媒をホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製し、これを基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、アノード触媒層を形成した。
【0065】
<カソードガス拡散層の作製>
カソードガス拡散層として気孔率が75%のカーボンペーパ(東レ(株)製TGP-090)を用意した。
【0066】
<カソード触媒層の作製>
白金微粒子を担持したカーボン粒子とパーフルオロスルホン酸重合体溶液(デュポン社製のナフィオン溶液DE2020)と溶媒とをホモジナイザで混合して約15%固形分のスラリーを作製した。得られたスラリーを、基材の一方の面にダイコーターを用いて塗布した。そしてこれを常温乾燥して、基材から剥離し、カソード触媒層を形成した。
【0067】
<電解質膜の作製>
電解質膜として、パーフルオロスルホン酸重合体を含む固体電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)を用意した。
【0068】
<膜電極接合体(MEA)の作製>
電解質膜とカソード触媒層を重ね合わせ、さらにカソード触媒層にカソードガス拡散層を重ね合わせ、温度が135℃、圧力が40kgf/cm2の条件でプレスした。続いて、電解質膜のカソードを重ね合わせたのと反対側の面にアノード触媒層を重ね、さらにアノード触媒層に第1の撥水性多孔質層、カーボンペーパ、第2の撥水性多孔質層、撥水性多孔質膜付カーボンクロス(第3の撥水性多孔質層)を重ね合わせ、温度が135℃、圧力が10kgf/cm2の条件でプレスし、膜電極接合体(MEA)を作製した。なお、第3の撥水性多孔質層の撥水性多孔質膜を第2の撥水性多孔質層に接触させた。また、電極面積は、カソード、アノードともに12cm2とした。
【0069】
<燃料電池の組み立て>
続いて、この膜電極接合体をもちいて図3に示す構成の燃料電池を作製した。具体的には、この膜電極接合体を空気および気化したメタノールを取り入れるための複数の開孔を有する金箔で挟み、アノード導電層およびカソード導電層を形成した。
【0070】
上記の膜電極接合体(MEA)、アノード導電層、カソード導電層が積層された積層体を樹脂製の2つのフレームで挟み込んだ。なお、膜電極接合体のカソード側と一方のフレームとの間、膜電極接合体のアノード側と他方のフレームとの間には、それぞれゴム製のOリングを挟持してシールを施した。
【0071】
また、アノード側のフレームは、気液分離膜を介して、燃料分配機構にカシメおよびネジ止めによって固定した。気液分離膜には、厚さ0.2mmのシリコーンシートを使用した。一方、カソード側のフレーム上には水蒸気透過抑制層を形成した。この水蒸気透過抑制層上には、空気取り入れのための空気導入口(口径4mm、口数64個)が形成された厚さが2mmのステンレス板(SUS304)を配置してカバープレートを形成し、ネジ止めによって固定した。
【0072】
(実施例2)
第3の撥水性多孔質層の導電性基材としてカーボンクロスの代わりにカーボンペーパを使用した以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製した。
【0073】
(比較例1)
第3の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第1,第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計値に比して大きくすること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きくすること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製した。
【0075】
(比較例3)
第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きくすると共に、第3の撥水性多孔質層の透気抵抗度を第1,第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計値に比して大きくすること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製した。
【0076】
(比較例4)
図9に示すようにアノード拡散層としてカーボンペーパ32を使用すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様な構成の燃料電池を作製した。
【0077】
上記したように形成された燃料電池の液体燃料収容室に、純メタノールを注入し、以下の条件で初期出力値(mW/cm2)、連続運転後出力値(mW/cm2)、出力維持率(%)を測定し、その結果を下記表1及び図13に示す。
【0078】
初期出力値(mW/cm2)の測定方法を以下に説明する。
【0079】
燃料分配機構への燃料の送液は、燃料収容室からポンプを用いる構成にて行った。この燃料電池を制御温度45℃にて0.35V定電圧測定を行い、測定開始から10時間後の出力値を初期出力とした。
【0080】
連続運転後出力値(mW/cm2)の測定方法を以下に説明する。
【0081】
上記と同様の定電圧測定を行い、測定開始から1000時間連続測定を行った際の出力値を連続運転後出力値とした。
【0082】
出力維持率(%)の測定方法を以下に説明する。
【0083】
上記測定により得られた各値から以下の式により出力維持率を計算にて求める。
【0084】
出力維持率(%)=(連続運転後出力値/初期出力値)×100
【表1】

【0085】
表1及び図13から明らかな通りに、実施例1〜2の燃料電池は、初期出力、出力維持率及び連続運転後出力値が、比較例1〜4に比して高いことがわかる。
【0086】
図10〜図12に、実施例1,2及び比較例2における第1〜第3の撥水性多孔質層の燃料と水の分布を模式的に示す。図10,図11に示すように、実施例1,2によると、第1の撥水性多孔質層により多くの水を保持できる。特に図10に示すように、実施例1では、第1の撥水性多孔質層9における燃料保持量が十分に絞れており、また、第1の撥水性多孔質層9の水保持性に優れているため、クロスオーバを抑制することができ、出力性能が向上される。
【0087】
一方、図12に示す比較例2では、アノード触媒層7近傍における水保持量が実施例1,2に比して少なく、そのために出力性能が劣化した。
【符号の説明】
【0088】
1…膜電極接合体(MEA)、2…電解質膜、3…カソード(空気極)、4…アノード(燃料極)、5…空気極触媒層、6…空気極ガス拡散層、7…燃料極触媒層、8…燃料極ガス拡散層、9…第1の撥水性多孔質層、10…導電性基材、11…第2の撥水性多孔質層、12…第3の撥水性多孔質層、20…燃料分配機構、21…燃料収容部、22…流路、23…カバープレート、24…Oリング、25…燃料排出口、26…ポンプ、27…燃料注入口、28…燃料分配板、29…空隙部、31…Oリング、32…燃料極ガス拡散層、101…測定端、102…測定サンプル、103,108,111,113…細管、104…水柱圧力計、105…側圧室(B室)、106…ノズル、107…定圧室(A室)、109…外部圧縮源、110…圧力ゲージ、112…G室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒層と、
アノード触媒層と、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と、
前記アノード触媒層に積層された第1〜第3の撥水性多孔質層を含むアノードガス拡散層と
を具備し、
前記第1の撥水性多孔質層の透気抵抗度が前記第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度に比して大きく、前記第1の撥水性多孔質層及び前記第2の撥水性多孔質層の透気抵抗度の合計が前記第3の撥水性多孔質層に比して大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
一方の面に前記第1の撥水性多孔質層が一体化され、かつ他方の面に前記第2の撥水性多孔質層が一体化される導電性基材をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記第3の撥水性多孔質層が一体化される導電性基材をさらに具備することを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記第3の撥水性多孔質層が一体化される導電性基材はカーボンクロス膜であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−170826(P2010−170826A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12131(P2009−12131)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】