説明

燃料電池

【課題】安定した高い出力(発電性能)を有し、小型化が可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池1は、アノード(燃料極)13、カソード(空気極)16およびこれらに挟持された電解質膜17を有するMEA10と、このMEA10のアノード側に配置された燃料供給機構30を備えている。そして、アノード側とカソード側の少なくとも一方において、35℃より高くかつ燃料電池1の運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有する層を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の小型化、高性能化、ポータブル化が進んでおり、携帯用電子機器においては、使用される電池の高エネルギー密度化への要求が高まっている。そのため、軽量で小型でありながら高容量の二次電池が要求されている。
【0003】
このような状況のもとで、リチウムイオン二次電池に代わって小型の燃料電池が注目を集めている。特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は、エネルギー密度の高いメタノールを燃料として使用し、メタノールから電極触媒上で直接電流を取り出すことができる。そのため、水素ガスを使用する燃料電池に比べて、水素ガス取り扱いの困難さがないうえに、有機燃料を改質して水素を作り出すための改質器が不要で小型化が可能であり、かつ出力密度が高いので、携帯機器用の電源として有望視されている。
【0004】
DMFCの主発電部は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ばれ、それぞれがガス拡散層と触媒層を備える燃料極(アノード)と空気極(カソード)、およびアノードの触媒層とカソードの触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の高分子電解質膜を有する。電池反応は触媒層において進行する。具体的には、アノード触媒層で水の供給のもとに燃料の酸化分解反応が進行し、プロトン(水素イオン)および電子が生成される。このプロトンは高分子電解質膜を経てカソード触媒層に達し、一方電子は外部回路を通ってカソード触媒層に達する。そしてカソード触媒層において、供給された空気中の酸素が前記プロトンおよび電子と反応し、酸素が還元されて水が生成される。また、この外部回路を通る電子によって、電力が供給されることになる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このように構成されるDMFCにおいては、アノードでの反応に必要な水を供給するために、カソードの上に保湿層を設けて水の蒸散を抑制し、カソード触媒層で生成した水の一部をアノード側へ拡散させる構造が採られている。そして、出力を上げるために、保湿層を厚くするなどの方法で水の蒸散量を低減し、カソードからアノードへの水の拡散量を増やすことが考えられている。
【0006】
また、発電時の発熱を抑制して電池性能を維持するために、熱を可逆的に吸熱(蓄熱)する潜熱蓄熱剤を含む部材を容器表面などに配置した燃料電池が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット
【特許文献2】特開2004−186097公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、保湿層を厚くして水の蒸散量を抑える方法は、燃料電池の小型化、ポータブル化の要請に逆行するものであり、携帯用電子機器への搭載が難しかった。したがって、保湿層の厚さを増大させることなく、MEAで十分な水を生成して滞留させ、出力を向上させる方法が求められている。また、特許文献2に記載された方法でも、小型で安定した高い出力の燃料電池を得ることはできなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、安定した高い出力(発電性能)を有し、小型化が可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様の燃料電池は、燃料極(アノード)と、空気極(カソード)と、前記アノードと前記カソードとに挟持されたプロトン伝導性の電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構を備えた燃料電池であり、前記アノードと該アノードより外側からなるアノード側および/または前記カソードと該カソードより外側からなるカソード側に、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様の燃料電池は、燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、前記カソード触媒層、前記保湿層、前記表面層のうちの少なくとも一つが、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の態様の燃料電池は、燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、前記アノード触媒層と前記燃料供給機構を構成する部材の少なくとも一つが、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の態様の燃料電池は、燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、前記カソード触媒層、前記保湿層、前記表面層のうちの少なくとも一つが、35℃より高く運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有し、かつ前記アノード触媒層と前記燃料供給機構を構成する部材の少なくとも一つが、前記相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る燃料電池によれば、電気抵抗(インピーダンス)を低くすることができ、安定した高い出力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る燃料電池1の一実施形態の構成を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、実施形態の燃料電池1は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14との間に挟持されたプロトン伝導性を有する電解質膜17とから構成される膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)10を有している。また、このMEA10のアノード13より外側に、アノード導電層18と、アノード13(アノード触媒層11)に液体燃料Fを供給する燃料供給機構30を備えている。さらに、MEA10のカソード16より外側に、カソード導電層19と保湿層20、および保湿層20の上に積層された複数の空気導入口21aを有する表面カバー層21を備えている。また、燃料供給機構30は、アノード導電層18に対向させて設けられた複数の開口部31aを有する燃料分配層31と、この燃料分配層31に液体燃料Fを供給する燃料供給部本体32を有している。
【0016】
そして、このような燃料電池1のアノード側とカソード側の少なくとも一方において、35℃より高くかつ燃料電池1の運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料(以下、低温型潜熱蓄熱材料と示す。)を含有する層を有している。なお、燃料電池1のアノード側とは、アノード13およびアノード13より外側(電解質膜17と反対側)の部位を意味し、カソード側とは、カソード16およびカソード16より外側(電解質膜17と反対側)の部位を意味する。
【0017】
潜熱蓄熱材料は、発生した熱を潜熱として蓄熱し、所定の温度(相変化温度)を境にして凝固と融解という相変化を繰り返すものである。実施形態においては、潜熱蓄熱材料として、相転移温度が35℃より高くかつ燃料電池1の運転温度(通常40〜55℃)よりも低い低温型潜熱蓄熱材料が使用される。
【0018】
低温型潜熱蓄熱材料しては、例えば、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンなどのノルマルパラフィンやそのエマルジョン、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料等が挙げられる。これらのノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料は、ノルマルパラフィンの分子量を調整することで、35℃を超えて燃料電池1の運転温度未満の温度範囲で相転移温度を任意にかつ精確に設定することができる。また、このマイクロカプセル化した潜熱蓄熱材料は、分散安定性の高い水性スラリーあるいは分散媒を取り除いた粉体として取り扱うことができ、燃料電池1を構成する部材に容易に含有させることができるという利点がある。
【0019】
実施形態の燃料電池1のアノード側においては、アノード触媒層11および燃料供給機構30を構成する部材(例えば、燃料分配層31および燃料供給部本体32など)のうちの少なくとも一つが、低温型潜熱蓄熱材料を含有しているか、あるいは低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を有している。より具体的には、アノード触媒層11および燃料分配層31においては、これらの層自体に前記した低温型潜熱蓄熱材料(例えば、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料)が含有されている。また、燃料供給部本体32に対しては、低温型潜熱蓄熱材料を含有する層(例えば、ノルマルパラフィンのマイクロカプセルを樹脂に混合し成形したシート)を外周面に設置する態様が採られている。さらに、燃料供給機構30を構成する部材の間に、前記低温型潜熱蓄熱材料の層、あるいは低温型潜熱蓄熱材料を含有する樹脂シートを配置する態様を採ることもできる。
【0020】
カソード側においては、カソード触媒層14、保湿層20、表面カバー層21のうちの少なくとも一つが、低温型潜熱蓄熱材料を含有しているか、あるいは低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を有している。より具体的には、カソード触媒層14および保湿層20においては、これらの層自体に低温型潜熱蓄熱材料(例えば、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料)が含有された態様が採られている。また、保湿層20と表面カバー層21との間に、前記低温型潜熱蓄熱材料の層、あるいは低温型潜熱蓄熱材料を含有する樹脂シートを配置する態様を採ることもできる。
【0021】
なお、燃料電池1のアノード側とカソード側の両方の側において、低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を設ける必要はなく、少なくとも一方の側で低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を設けるように構成すれば、抵抗の低減および出力向上の効果をあげることができる。特に、カソード16側に低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を配置することが望ましい。
【0022】
燃料電池1のアノード側とカソード側の少なくとも一方に低温型潜熱蓄熱材料を含有する層を設けることにより、以下に示す理由で、セル抵抗を低くし出力を向上させることができる。
【0023】
すなわち、相転移温度である融点が運転温度(通常40〜55℃)よりも低い低温型潜熱蓄熱材料を含有する層が設けられた燃料電池1においては、運転(発電)の起動時に、MEA10の温度が相転移温度(融点)を超えた時点で、前記潜熱蓄熱材料がMEA10からの発熱を吸収し、固体から液体への相転移(融解)を生じる。そして、この相転移(融解)が完了するまでの間は、MEA10の温度の上昇が抑えられるので、保湿層20等を通っての水の蒸散が抑制され、カソード16に滞留する水の量およびカソード16からアノード13へ拡散する水の量が増大する。そして、このようなMEA10における水量の増大により、燃料電池のセル抵抗(インピーダンス)が低下し、出力が向上する。
【0024】
なお、潜熱蓄熱材料の相転移温度(融点)が35℃よりも低いと、夏季など気温が高い場合に、未使用時でも潜熱蓄熱剤材料が融解し、燃料電池1の運転時に潜熱蓄熱材料の吸熱作用(潜熱蓄熱作用)を利用することができない場合がある。したがって、35℃より高い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を使用する。また、実施形態において使用する低温型潜熱蓄熱材料は、燃料電池1の運転温度よりも低い相転移温度を有するものであるので、運転温度により使用可能な潜熱蓄熱材料が変わる。すなわち、相転移温度が所定の値(例えば50℃)の潜熱蓄熱材料は、運転温度が相転移温度(50℃)を超える燃料電池1に使用した場合には、セル抵抗を低くし出力を向上させる効果を発揮することができるが、相転移温度(50℃)以下の運転温度では前記効果を上げることができない。したがって、50℃以下の温度で運転される燃料電池1の低温型潜熱蓄熱材料としては、使用することができない。
【0025】
MEA10を構成するアノード触媒層11およびカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えば、Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒としては、例えば、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒としては、例えば、Pt、Pt−Ni、Pt−Co等を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は、炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。このようなアノード触媒層11および/またはカソード触媒層14には、前記した低温型潜熱蓄熱材料(例えば、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料)を含有させることができる。
【0026】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性の材料としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。電解質膜17は、具体的には、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成工業社製)等により構成される。なお、プロトン伝導性の電解質膜17は、これらに限られるものではなく、例えば、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、あるいは脂肪族炭化水素系樹脂膜などのプロトンを輸送可能な電解質膜で構成することができる。
【0027】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料ガスである水素含有ガスを均一に供給する機能を有するとともに、アノード触媒層11の集電体としての機能も兼ね備えている。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤である酸素含有ガスを均一に供給する機能を有するとともに、カソード触媒層14の集電体としての機能も兼ね備えている。アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15は、それぞれ導電性材料から構成されている。導電性材料としては公知の材料を用いることができるが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために、多孔質のカーボン織布またはカーボンペーパーを用いることが好ましい。アノードガス拡散層3とカソードガス拡散層6の具体的な形態としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルトなどが挙げられる。
【0028】
このように構成されるMEA10のアノードガス拡散層12には、アノード導電層18が積層され、カソードガス拡散層15にはカソード導電層19が積層されている。
【0029】
アノード導電層18とカソード導電層19は、例えば、金(Au)、ニッケル(Ni)のような電気特性および化学安定性に優れた導電性金属材料からなる多孔質膜(例えばメッシュ)または箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材等で構成される。中でも、複数の開口部を有する薄膜で構成されることが好ましく、この開口部を介して、燃料分配層31の開口部31aから送られる燃料がMEA10に導かれる。なお、アノード導電層18およびカソード導電層19は、それらの周縁から燃料や酸化剤が漏れないように構成されている。また、電解質膜17とアノード導電層18との間および電解質膜17とカソード導電層19との間には、それぞれゴム製のOリング22が介在されており、これらによってMEA10からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。なお、ここでは、アノード導電層18およびカソード導電層19を備えた燃料電池1を示しているが、アノード導電層18およびカソード導電層19を設けずに、アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15を導電層として機能させてもよい。
【0030】
カソード導電層19の上には、保湿層20が積層されている。保湿層20は、カソード触媒層14で生成した水の蒸散を抑制し、生成した水の一部をアノード13へ拡散させる機能を有する。また、カソードガス拡散層15に酸化剤である空気を均一に導入し、カソード触媒層14への酸化剤の均一な拡散を促進する補助拡散層としての機能も有している。保湿層20としては、例えば多孔質ポリエチレン膜などを使用することができる。この保湿層20に、前記した低温型潜熱蓄熱材料(例えば、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料)を含有させることができる。
【0031】
保湿層20の上には、酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口21aが複数個形成された表面カバー層21が配置されている。表面カバー層21は、MEA10や保湿層20を加圧し密着性を高める役割も果たしており、例えばSUS304のような金属から構成されている。保湿層20と表面カバー層21との間に、前記低温型潜熱蓄熱材料の層(塗付層など)、あるいは低温型潜熱蓄熱材料を含有する樹脂層(シート)を配置することができる。
【0032】
MEA10のアノード側に燃料供給機構30が配置されている。燃料供給機構30は、アノード導電層18に対向させて設けられた複数の開口部31aを有する燃料分配層31と、この燃料分配層31のMEA10側とは異なる側に配置され燃料分配層31に液体燃料Fを供給する燃料供給部本体32と、燃料収容部33と、流路34、および流路34に介挿されたポンプ35を備えている。
【0033】
燃料収容部33には、MEA10に対応した液体燃料Fが収容されている。液体燃料Fとしては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料Fは、必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えば、エタノール水溶液、純エタノール、プロパノール水溶液、ギ酸水溶液、ギ酸ナトリウム水溶液、酢酸水溶液、エチレングリコール水溶液、ジメチルエーテルなどの水素を含む有機系の水溶液、水素化ホウ素ナトリウム水溶液、水素化ホウ素カリウム水溶液、水素化リチウム水溶液などを用いてもよい。これらの液体燃料Fの中でも、メタノール水溶液は、炭素数が1で反応の際に発生するのが二酸化炭素であり、低温での発電反応が可能であり、産業廃棄物から比較的容易に製造することができる。そのため、液体燃料Fとしてメタノール水溶液を使用するのが好ましい。
【0034】
液体燃料Fは、燃料成分の濃度が100wt%から数wt%までの範囲で種々の濃度のものを用いることができるが、特にメタノール水溶液の場合は、燃料であるメタノール濃度が60wt%以上のものを使用することが望ましい。その理由は、より少ない体積の燃料で発電することができるからである。
【0035】
燃料供給部本体32は、供給された液体燃料Fを燃料分配層31に対して均一に供給するために、凹部からなる燃料供給部36を備えている。この燃料供給部36は、配管等で構成される流路34を介して燃料収容部33と接続されている。燃料供給部36には、燃料収容部33から流路34を介して液体燃料Fが導入され、導入された液体燃料Fおよび/またはこの液体燃料Fが気化した気化成分は、燃料分配層31およびアノード導電層18を介してMEA10に供給される。燃料供給部本体32の外周に、前記低温型潜熱蓄熱材料を含有する樹脂層(シート)を配置することができる。
【0036】
流路34は、燃料供給部36や燃料収容部33と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料供給部36や燃料収容部33を積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料Fの流路であってもよい。すなわち、燃料供給部36は、流路34等を介して燃料収容部33と連通されていればよい。
【0037】
流路34の一部にはポンプ35が介挿されており、燃料収容部33に収容された液体燃料Fは燃料供給部36まで強制的に送液される。流路34にポンプ35を介在させず、燃料収容部33に収容された液体燃料Fを重力を利用して燃料供給部36まで落下させて送液してもよい。また、流路34に多孔体等を充填して、毛細管現象により燃料収容部33に収容された液体燃料Fを燃料供給部36まで送液してもよい。
【0038】
このポンプ35は、燃料収容部33から燃料供給部36に液体燃料Fを単に送液する供給ポンプとして機能するものであり、MEA10に供給された過剰な液体燃料Fを循環する循環ポンプとしての機能を備えるものではない。このようなポンプ35を備えた燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは構成が異なる。また、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも構成が異なり、いわゆるセミパッシブ型と呼ばれる方式に該当する。なお、燃料供給手段として機能するポンプ35の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料Fを制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。このポンプ35は、制御手段(図示しない)と電気的に接続されており、この制御手段によって、燃料供給部36に供給される液体燃料Fの供給量が制御される。
【0039】
ここで、ポンプ35の送液量は、燃料電池1の主たる対象物が小型電子機器であることから、10μL/分〜1mL/分の範囲とすることが好ましい。送液量が1mL/分を超えると一度に送液される液体燃料Fの量が多くなりすぎて、全運転期間に占めるポンプ35の停止時間が長くなる。そのため、MEA10への燃料の供給量の変動が大きくなり、その結果として出力の変動が大きくなる。これを防止するためのリザーバをポンプ35の下流側に設けてもよいが、そのような構成を適用しても燃料供給量の変動を十分に抑制することはできず、さらに装置サイズの大型化等を招いてしまう。
【0040】
一方、ポンプ35の送液量が10μL/分未満であると、運転立ち上げ時のように燃料の消費量が増える際に供給能力不足を招くおそれがある。これによって、燃料電池1の起動特性等が低下する。このような点から、10μL/分〜1mL/分の範囲の送液能力を有するポンプ35を使用することが好ましい。ポンプ35の送液量は10μL/分〜200μL/分の範囲とすることがより好ましい。このような送液量を安定して実現する上でも、ポンプ35には電気浸透流ポンプやダイアフラムポンプを適用することが好ましい。
【0041】
燃料分配層31は、液体燃料Fやその気化成分を透過させない材料で構成され、複数の開口部31aが形成された平板で構成される。燃料分配層31は、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で構成され、アノード導電層18と燃料供給部本体32との間に挟持される。この燃料分配層31に、前記した低温型潜熱蓄熱材料(例えば、ノルマルパラフィンをマイクロカプセル化した材料)を含有させることができる。
【0042】
また、燃料分配層31は、例えば、液体燃料Fの気化成分と液体燃料Fとを分離し、その気化成分をMEA10へ透過させる気液分離膜で構成されてもよい。気液分離膜には、例えば、シリコーンゴム薄膜、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)の微多孔膜などが用いられる。燃料供給部32aに導入された液体燃料Fは、燃料分配層31の複数の開口部31aからアノード13の全面に対して供給される。このように、燃料分配層31によって、アノード13に供給される燃料供給量を均一化することが可能となる。
【0043】
次に、このように構成される実施形態において、アノード触媒層11およびカソード触媒層14に低温型潜熱蓄熱材料を含有させた構成の燃料電池1を製造する方法を、次に示す。まず、アノード触媒を、例えば以下に示すようにして製造する。
【0044】
すなわち、カーボンなどの導電性担体を、白金族元素の単体や白金族元素の合金を構成する金属の化合物を含む水溶液またはスラリーと接触させ、この金属化合物またはそのイオンを導電性担体上に吸着させる。そして、スラリー等を高速で撹拌しながら、適当な固定化剤、例えば水酸化ナトリウム、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸、クエン酸、ホルマリン、メタノール、エタノール、プロパノールなどの希釈溶液をゆっくりと滴下し、金属塩として、または一部還元された金属微粒子として導電性担持体上に担持させる。次に乾燥し、還元ガスあるいは不活性ガス雰囲気で熱処理を行うことにより、アノード触媒を製造する。
【0045】
次いで、得られたアノード触媒と、相転移温度が35℃より高くかつ燃料電池1の運転温度よりも低い(例えば40℃)低温型潜熱蓄熱材料を、プロトン伝導性の電解質の溶液と混合し、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコールおよびグリセリン、エチレングリコールなどの分散媒を加えて粘度調整を行い、アノード触媒層形成用スラリー(以下、アノード触媒スラリーと示す。)とする。
【0046】
こうして得られたアノード触媒スラリーを、アノードガス拡散層12となるカーボンペーパーやカーボンクロスなどの導電性多孔質基材の上に、吸引ろ過法、スプレー法、ロールコータ法、バーコータ法などを用いて塗布し乾燥させて、アノード触媒層11とする。なお、このようにしてアノードガス拡散層12上にアノード触媒層11が形成されたものがアノード13となる。
【0047】
また、同様にしてカソード16を形成する。すなわち、前記アノード触媒と同様にしてカソード触媒を製造し、得られたカソード触媒と、相転移温度が35℃より高くかつ燃料電池1の運転温度よりも低い(例えば40℃)低温型潜熱蓄熱材料を、プロトン伝導性の電解質の溶液と混合し、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコールおよびグリセリン、エチレングリコールなどの分散媒を加えて粘度調整を行い、カソード触媒層形成用スラリー(以下、カソード触媒スラリーと示す。)とする。
【0048】
次いで、得られたカソード触媒スラリーを、カソードガス拡散層15となるカーボンペーパーやカーボンクロスなどの導電性多孔質基材の上に、吸引ろ過法、スプレー法、ロールコータ法、バーコータ法などを用いて塗布し乾燥させて、カソード触媒層14とする。こうしてカソードガス拡散層15上にカソード触媒層14が形成されたものがカソード16となる。
【0049】
次に、こうして得られたアノード13(アノード触媒層11)とカソード16(カソード触媒層14)の間にプロトン伝導性の電解質膜17を挟み込んだ後、これらをロールまたはプレスによって熱圧着することにより、MEA10が得られる。さらに、このMEA10にアノード導電層18およびカソード導電層19を積層する。そして、MEA10のアノード側に燃料供給機構30を配置し、カソード側に保湿層20、表面カバー層21を順に重ね合わせて一体化することにより、燃料電池1を製造することができる。
【0050】
次に、実施形態に示した燃料電池1の作用について説明する。
【0051】
燃料収容部33から流路34を通って燃料供給部36に供給された液体燃料Fは、液体燃料のまま、もしくは液体燃料と液体燃料が気化した気化燃料が混在する状態で、燃料分配層31およびアノード導電層18を介してMEA10のアノードガス拡散層12に供給される。アノードガス拡散層12に供給された燃料は、アノードガス拡散層12で拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料Fとしてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11では、次の式(1)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
CHOH+HO → CO+6H+6e ……式(1)
【0052】
なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、メタノールは、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水と上記した式(1)の内部改質反応によって改質されるか、または水を必要としない他の反応機構により改質される。この式(1)に示す反応によって発生した熱の一部は、アノード触媒層11、燃料分配層31などに含有された低温型潜熱蓄熱材料により吸熱(蓄熱)される。そして、この潜熱蓄熱材料の相転移が完了するまでの間は、アノード13の温度の上昇が抑えられる。また、この吸熱(蓄熱)によって、式(1)の反応に必要な水の蒸散が抑えられるため、メタノールの内部改質反応が促進されるようになる。
【0053】
この反応で生成した電子(e)は、集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、カソード16に導かれる。また、式(1)の内部改質反応で生成したプロトン(H)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e)とプロトン(H)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と次の式(2)に示す反応を生じ、この発電反応に伴って水が生成する。
(3/2)O+6e+6H → 3HO ……式(2)
【0054】
この式(2)に示す反応によって発生した熱の一部は、カソード触媒層14、保湿層20などに含有された低温型潜熱蓄熱材料により吸熱(蓄熱)される。そして、この潜熱蓄熱材料の相転移が完了するまでの間は、カソード16の温度上昇が抑えられるので、保湿層20を通っての水の蒸散が抑制され、カソード16に滞留する水の量が増大する。そして、カソード16に滞留する水量の増大により、アノード13への水の拡散量が増大し、アノード13に含有される水の量も増大する。
【0055】
このようなカソード16およびアノード13における水の含有量の増大により、実施形態の燃料電池1では、セル抵抗(インピーダンス)が低下し、出力が向上する。また、実施形態において、燃料電池1を構成するアノード触媒層11、カソード触媒層14、保湿層20などが低温型潜熱蓄熱材料を含有するように構成された態様では、潜熱蓄熱材料を含有する部材(樹脂シートなど)を別に配置する構成に比べて、製造の際の工程追加を必要とせず、また燃料電池全体の厚さや体積を増大させることがないという利点がある。
【0056】
上述した実施形態の燃料電池は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。さらに、上述した実施形態は、燃料電池本体の構成として燃料の供給にポンプを使用したセミパッシブ型のものを例に挙げて説明したが、内部気化型のような純パッシブ型の燃料電池に対しても本発明を適用することができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明に係る燃料電池が優れた出力特性を有することを実施例1〜5および比較例1,2に基づいて説明する。
【0058】
実施例1
カーボン担体であるケッチェン(Ketjen)ECP(商品名、ライオン社製)に、アノード触媒金属であるPt−Ru合金(Ru60at.%)を担持させ、ナトリウムボロハイドライドを用いて液相還元した後、500℃不活性雰囲気で1時間固溶体化処理を行い、アノード触媒を製造した。
【0059】
次いで、このアノード触媒と、ナフィオン溶液DE2020(商品名、デュポン社製)および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、アノード触媒の含有割合(重量割合)とナフィオンの含有割合(重量割合)との比が37:63になるように混合し、アノード触媒スラリーを調製した。得られたアノード触媒スラリーを、アノードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−120、東レ(株)製、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布した後乾燥させ、アノード触媒層(厚さ200μm)を形成した。こうしてアノードを作製した。
【0060】
また、カーボン担体であるケッチェンECPに、カソード触媒金属であるPtを担持させ、アノード触媒と同様にしてカソード触媒を製造した。次いで、このカソード触媒と、低温型潜熱蓄熱材料であるマイクロカプセルに封入されたノルマルパラフィン(商品名HSカプセル−P、三菱製紙(株)製)(相転移温度40℃、吸熱量(蓄熱量)170ジュール/g)と、ナフィオン溶液DE2020(商品名、デュポン社製)、および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、カソード触媒の含有割合(重量割合)とナフィオンの含有割合(重量割合)との比が74:26になるように混合し、カソード触媒スラリーを調製した。なお、低温型潜熱蓄熱材料の配合量は、最終的に形成されるカソード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が150ジュールになるように調整した。このカソード触媒スラリーを、カソードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−090、東レ(株)製、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布し乾燥させ、カソード触媒層(厚さ80μm)を形成した。こうしてカソードを作製した。
【0061】
次に、プロトン伝導性の電解質膜としてナフィオンNRE−212CS(商品名、デュポン社製)を使用し、この電解質膜と前記アノード(電極面積12cm)およびカソード(電極面積12cm)を、アノード触媒層とカソード触媒層がそれぞれ電解質膜側になるように重ね合わせた後、加熱温度150℃、圧力30kgf/cm、加圧時間5分間の条件でプレスし、MEAを作製した。そして、このようにして作製されたMEAを用いて、図1に示す燃料電池を作製した。なお、保湿層としては、厚さ1.0mmの多孔質ポリエチレン膜を使用した。
【0062】
実施例2
カソード触媒スラリーの調製において、低温型潜熱蓄熱材料の配合量を、最終的に形成されるカソード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が500ジュールになるように調整した。それ以外は実施例1と同様にして、カソードを作製した。また、実施例1と同様にして、アノードを作製した。
【0063】
次に、こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0064】
実施例3
実施例1と同様にして製造されたアノード触媒と、低温型潜熱蓄熱材料であるマイクロカプセルに封入されたノルマルパラフィン(商品名HSカプセル−P)(相転移温度40℃、吸熱量(蓄熱量)170ジュール/g)と、ナフィオン溶液DE2020、および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、アノード触媒とナフィオンの含有割合(重量割合)の比が37:63になるように混合し、アノード触媒スラリーを調製した。なお、低温型潜熱蓄熱材料の配合量は、最終的に形成されるアノード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が150ジュールになるように調整した。得られたアノード触媒スラリーを、アノードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−120、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布した後乾燥させ、アノード触媒層(厚さ200μm)を形成した。こうしてアノードを作製した。
【0065】
また、実施例1と同様にして製造されたカソード触媒と、ナフィオン溶液DE2020および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、カソード触媒とナフィオンの含有割合(重量割合)の比が74:26になるように混合し、カソード触媒スラリーを調製した。このカソード触媒スラリーを、カソードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−090、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布し乾燥させ、カソード触媒層(厚さ80μm)を形成した。こうしてカソードを作製した。
【0066】
次に、こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0067】
実施例4
アノード触媒スラリーの調製において、低温型潜熱蓄熱材料の配合量を、最終的に形成されるアノード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が500ジュールになるように調整した。それ以外は実施例3と同様にして、アノードを作製した。また、実施例3と同様にして、カソードを作製した。
【0068】
次に、こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0069】
実施例5
実施例1と同様にして製造されたアノード触媒と、低温型潜熱蓄熱材料であるマイクロカプセルに封入されたノルマルパラフィン(商品名HSカプセル−P)(相転移温度40℃、吸熱量(蓄熱量)170ジュール/g)と、ナフィオン溶液DE2020および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、アノード触媒とナフィオンの含有割合(重量割合)の比が37:63になるように混合し、アノード触媒スラリーを調製した。なお、低温型潜熱蓄熱材料の配合量は、最終的に形成されるアノード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が150ジュールになるように調整した。得られたアノード触媒スラリーを、アノードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−120、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布した後乾燥させ、アノード触媒層(厚さ200μm)を形成した。こうしてアノードを作製した。
【0070】
また、実施例1と同様にして製造されたカソード触媒と、低温型潜熱蓄熱材料であるマイクロカプセルに封入されたノルマルパラフィン(商品名HSカプセル−P)(相転移温度40℃、吸熱量(蓄熱量)170ジュール/g)と、ナフィオン溶液DE2020および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を、カソード触媒とナフィオンの含有割合(重量割合)の比が74:26になるように混合し、カソード触媒スラリーを調製した。なお、低温型潜熱蓄熱材料の配合量は、最終的に形成されるカソード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が150ジュールになるように調整した。このカソード触媒スラリーを、カソードガス拡散層となるカーボンペーパー(商品名TGP−H−090、40mm×30mmの長方形)の一方の面にバーコータを用いて塗布し乾燥させ、カソード触媒層(厚さ80μm)を形成した。こうしてカソードを作製した。
【0071】
次に、こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0072】
比較例1
カソード触媒スラリーの調製において、低温型潜熱蓄熱材料を配合せず、カソード触媒とナフィオン溶液DE2020および溶媒(1−プロパノール、2−プロパノールおよびグリセリン)を混合した。それ以外は実施例1と同様にしてカソード触媒スラリーを調製し、このカソード触媒スラリーを用いてカソード触媒層を形成し、カソードを作製した。また、実施例1と同様にして、アノードガス拡散層上にアノード触媒層を形成し、アノードを作製した。
【0073】
次に、こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0074】
比較例2
カソード触媒スラリーの調製において、低温型潜熱蓄熱材料の代わりに、燃料電池の運転温度以上の相転移温度を有する潜熱蓄熱材料(商品名HSカプセル−P)(相転移温度60℃、吸熱量(蓄熱量)170ジュール/g)を、最終的に形成されるカソード触媒層中に含有される潜熱蓄熱材料の吸熱量(蓄熱量)が500ジュールになるように配合した。それ以外は実施例1と同様にしてカソード触媒スラリーを調製し、このカソード触媒スラリーを用いてカソード触媒層を形成し、カソードを作製した。また、実施例1と同様にして、アノードガス拡散層上にアノード触媒層を形成し、アノードを作製した。
【0075】
こうして得られたアノードおよびカソードを用いて、実施例1と同様にして図1に示す燃料電池を作製した。
【0076】
次に、実施例1〜5および比較例1,2で得られた燃料電池の燃料収容部に純度99.99%のメタノールを供給した。そして、運転温度55℃−0.35V定電位で運転させ、2時間運転後の出力密度を測定した。ここで、燃料電池の出力密度(mW/cm)とは、電流密度に出力電圧を乗じたものである。また、運転停止後に1kHzの交流インピーダンスを測定し、面積抵抗率(Ω・cm)を求めた。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から、以下のことがわかった。すなわち、アノード触媒層および/またはカソード触媒層が、35℃より高くかつ燃料電池の運転温度(55℃)よりも低い相転移温度を有する低温型潜熱蓄熱材料を含むように構成された実施例1〜5の燃料電池では、いずれの触媒層も低温型潜熱蓄熱材料を含有しない比較例1の燃料電池に比べて、面積抵抗率が低下しており、出力密度が向上していた。また、カソード触媒層に低温型潜熱蓄熱材料を含有させた実施例1,2の燃料電池の方が、アノード触媒層にのみ低温型潜熱蓄熱材料を含有させた実施例3,4の燃料電池に比べて面積抵抗率が低くなっており、出力密度がより高くなっていた。さらに、アノード触媒層とカソード触媒層の両に低温型潜熱蓄熱材料を含有させた実施例5の燃料電池において、潜熱蓄熱材料の含有量に比して出力密度の向上効果が高くなっており、アノードとカソードの両側で低温型潜熱蓄熱材料を含有させることにより、少ない含有量で効率的に出力を向上できることがわかった。
【0079】
さらに、カソード触媒層に、燃料電池の運転温度(55℃)よりも高い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料(相転移温度60℃)を含むように構成した比較例2の燃料電池では、潜熱蓄熱材料を含有しない比較例1の燃料電池に比べて、抵抗(面積抵抗率)の低下がほとんど見られず、カソード触媒層に触媒以外の異物となる材料を含有させていることになるので、比較例1の燃料電池よりもかえって出力密度が低下した。
【0080】
なお、実施例1〜5の燃料電池において、電気抵抗(面積抵抗率)の低下および出力(出力密度)向上の効果は100時間以上継続するが、その後次第に抵抗が上昇し出力も低下した。しかし、再び燃料電池を起動し運転した時には、同様の効果が得られ、面積抵抗率が低下し出力密度が向上した。
【0081】
本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、燃料電池セルに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、すべてが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る燃料電池の一実施形態の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1…燃料電池、10…MEA、11…アノード触媒層、12…アノードガス拡散層、13…アノード(燃料極)、14…カソード触媒層、15…カソードガス拡散層、16…カソード(空気極)、17…電解質膜、18…アノード導電層、19…カソード導電層、20…保湿層、21…表面カバー層、22…Oリング、30…燃料供給機構、31…燃料分配層、32…燃料供給部本体、33…燃料収容部、34…流路、35…ポンプ、36…燃料供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極(アノード)と、空気極(カソード)と、前記アノードと前記カソードとに挟持されたプロトン伝導性の電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構を備えた燃料電池であり、
前記アノードと該アノードより外側からなるアノード側および/または前記カソードと該カソードより外側からなるカソード側に、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、
前記カソード触媒層、前記保湿層、前記表面層のうちの少なくとも一つが、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、
前記アノード触媒層と前記燃料供給機構を構成する部材の少なくとも一つが、35℃より高くかつ運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
燃料極(アノード)触媒層を有する燃料極(アノード)と、空気極(カソード)触媒層を有する空気極(カソード)と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に挟持されたプロトン伝導性の電解質膜を有する膜電極接合体と、前記アノードより外側に配置され前記アノード触媒層に燃料を供給する燃料供給機構と、前記カソードより外側に配置された空気導入口を有する表面層と、前記表面層と前記カソードとの間に配置され、前記カソード触媒層で生成した水の蒸散を抑止する保湿層とを備えた燃料電池であり、
前記カソード触媒層、前記保湿層、前記表面層のうちの少なくとも一つが、35℃より高く運転温度よりも低い相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有し、かつ
前記アノード触媒層と前記燃料供給機構を構成する部材の少なくとも一つが、前記相転移温度を有する潜熱蓄熱材料を含有するか、あるいは前記潜熱蓄熱材料を含有する層を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記燃料における燃料成分の濃度が60wt%以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−73608(P2010−73608A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242168(P2008−242168)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】