説明

燃料電池

【課題】ポンプやファン等の外部動力を使用する補機を用いることなく液体燃料および空気の供給が可能なパッシブ型の燃料電池であって、十分な電力を供給することができる発電性能の高い燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料極11、電解質膜10および空気極12をこの順で積層してなる膜電極複合体20を備える単位電池セル30と、燃料極11の下方に配置された燃料供給室60と、燃料極11に供給される液体燃料を保持するための燃料貯蔵室70と、液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなり、その一端が燃料貯蔵室70内に保持される液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が燃料供給室60内部に配置され、燃料極11に対向するように延びる燃料輸送部材61とを含み、燃料輸送部材61がその表面の少なくとも一部を被覆する層であって、液体燃料の蒸気を透過させるガス透過層62を備える燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、毛細管現象による液体燃料輸送を利用したパッシブ型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、ユーザが1回燃料補充することで電子機器を従来よりも長く利用できる長時間駆動の点や、ユーザが外出先で電池を使い切ってしまっても、電池の充電を待たずに燃料を購入し補充することで直ぐに電子機器が利用できる利便性の点から、情報化社会を支える携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。
【0003】
燃料電池は一般的に、燃料極で炭化水素系ガス、水素ガス等の燃料ガスまたはアルコール水溶液等の液体燃料を酸化し、空気極で空気中の酸素を還元する酸化還元反応を起こして、電力を生じさせる。
【0004】
燃料電池は、使用する電解質材料や燃料の分類から、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、ダイレクトアルコール型等に分類される。特に、電解質材料に固体高分子であるイオン交換膜を用いる固体高分子型燃料電池およびダイレクトアルコール型燃料電池は、常温で高い発電効率が得られることから、携帯電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての実用化が検討されている。
【0005】
特に、燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用するダイレクトアルコール型燃料電池は、燃料がガスである場合と比較して、燃料貯蔵室を比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池の構造の簡略化、省スペース化が可能であり、携帯電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が高い。電解質膜としてカチオン交換膜を使用するダイレクトアルコール型燃料電池においては、燃料極にアルコールまたはアルコール水溶液である液体燃料を供給すると、燃料極に接触した液体燃料が酸化されて、二酸化炭素等のガスおよびプロトンに分離される。
【0006】
たとえばアルコールとしてメタノールを用いた場合では、
CH3OH+H2O → CO2↑+6H++6e-
の酸化反応により二酸化炭素が燃料極側で発生する。
【0007】
燃料極側で発生したプロトンは、電解質膜を介して空気極側に伝達される。そして、空気極に伝達されたプロトンと、空気極に供給される空気中の酸素とが、
3/2O2+6H++6e- → 3H2
の還元反応を起こし、水が生成する。このときに電子が外部の電子機器(負荷)を通過して燃料極から空気極に移動し、電力が取り出される。
【0008】
一方、燃料電池、特に小型燃料電池は、燃料供給や空気供給の供給方式による分類から、パッシブ型とアクティブ型とに大きく分類することができる。パッシブ型燃料電池は、ポンプやファン等の外部動力を用いる補機を使用することなく、燃料および空気をそれぞれ、燃料極、空気極に供給する方式の燃料電池であり、非常に小さな小型燃料電池の実現の可能性があることから、携帯電子機器への搭載用途として期待が高い。
【0009】
毛細管現象を利用して液体燃料を輸送するパッシブ型燃料電池として、たとえば、特許文献1には、天然繊維、ガラス不織布、合成繊維不織布等の毛細管作用を示す材料をアノードに接触させ、かつ毛細管作用を示す材料の一端を液体燃料に接触するようにした液体燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−66066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
毛細管作用を示す材料からなる部材(以下、燃料輸送部材とも称する)を用いて液体燃料を燃料電池内で輸送させるパッシブ型燃料電池において、良好な発電性能を示す燃料電池が実現されるためには、この燃料輸送部材は、十分に高い「吸い上げ高」と十分に高い「吸い上げ速度」を有していなければならない。「吸い上げ高」とは、燃料輸送部材の一端を液体燃料に浸漬したときの、毛細管現象による液体燃料の当該部材における到達可能位置を意味し、これが小さいと、燃料極全体にわたって液体燃料を供給させることができず、燃料電池の出力が低下する。また、「吸い上げ速度」とは、燃料輸送部材の一端を液体燃料に浸漬したときの、単位時間当たりに吸い上げられる液体燃料の体積を意味し、燃料電池による発電で消費される液体燃料の消費速度に対して、十分な吸い上げ速度を有していないと、燃料輸送部材のいずれかの箇所で液体燃料が枯渇し、燃料輸送部材の他端まで液体燃料が供給されない結果、同様に燃料電池の出力が低下する。この吸い上げ速度の問題は、燃料電池から大電流を取り出す場合や、燃料輸送部材の空隙率が小さい場合に特に顕著である。
【0012】
そこで本発明は、ポンプやファン等の外部動力を使用する補機を用いることなく液体燃料および空気の供給が可能なパッシブ型の燃料電池であって、十分な電力を供給することができる発電性能の高い燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、燃料極、電解質膜および空気極をこの順で積層してなる膜電極複合体を備える単位電池セルと、燃料極の下方に配置され、燃料極側が開放された空間からなる燃料供給室と、燃料極に供給される液体燃料を保持するための燃料貯蔵室と、液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる部材であって、その一端が燃料貯蔵室内に保持される液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が燃料供給室内部に配置され、燃料極に対向するように延びる燃料輸送部材とを含み、燃料輸送部材が、その表面の少なくとも一部を被覆する層であって、液体燃料の蒸気を透過させるガス透過層を備える燃料電池を提供する。
【0014】
上記燃料供給室は、その内部と燃料貯蔵室の内部とを連通する、または、その内部と燃料電池外部とを連通する第1の開孔を備え、燃料貯蔵室は、その内部と燃料電池外部とを連通する第2の開孔を備えることが好ましい。
【0015】
上記ガス透過層は、燃料輸送部材における、燃料極に対向する表面を被覆することが好ましく、燃料極に対向する表面とは反対側の表面をさらに被覆することがより好ましい。ガス透過層は、細孔径が0.01〜10μmである細孔を有する多孔質樹脂層からなることができる。また、ガス透過層は、2以上の層の積層構造からなっていてもよい。
【0016】
上記燃料輸送部材は、液体燃料に対して毛細管作用を示す金属多孔質体からなることが好ましい。該金属多孔質体は、好ましくは、繊維表面が酸化皮膜で被覆された金属繊維不織布の焼結体からなる。
【0017】
本発明の燃料電池の1つの好ましい実施形態において、燃料貯蔵室は、単位電池セルおよびその下方に配置される燃料供給室の側方に配置され、燃料輸送部材は、その一端が燃料貯蔵室内に保持される液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が燃料極における燃料貯蔵室側とは反対側の端部の略直下の位置に配置される。
【0018】
本発明の燃料電池において燃料供給室は、上述のように、その内部と燃料電池外部とを連通する第1の開孔を備えることができ、この場合、第1の開孔は、燃料輸送部材の上記他端近傍に配置されることが好ましい。
【0019】
上記単位電池セルは、燃料極上に積層されるアノード集電層と、空気極上に積層されるカソード集電層とをさらに備えることが好ましい。
【0020】
本発明の燃料電池は、単位電池セルを2以上含んでいてもよく、この場合、これら2以上の単位電池セルのそれぞれに対向するように2以上の燃料輸送部材を配置してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の燃料電池が備える燃料輸送部材は、その表面がガス透過層で被覆されていることにより、優れた吸い上げ高および吸い上げ速度を有している。したがって、本発明の燃料電池は、ポンプやファン等の外部動力を使用する補機を用いることなく液体燃料を燃料極全体にわたって十分な速度で供給することが可能であり、これにより、十分な電力を供給することができる。また、本発明で用いるガス透過層が形成された燃料輸送部材は、優れた吸い上げ速度を有し、したがって液体燃料は燃料輸送部材内部を速やかに浸透していくため、燃料電池の起動から電力が取り出されるまでの時間を短縮することができる。
【0022】
本発明の燃料電池は、数ワットクラスの消費電力である携帯電子機器への応用を目的とした小型燃料電池、特に携帯電子機器搭載型の小型燃料電池して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の燃料電池の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示される燃料電池の概略上面図である。
【図3】図1に示されるIII−III線における断面図である。
【図4】図1に示されるIV−IV線における断面図である。
【図5】図1に示されるV−V線における断面図である。
【図6】図1に示されるVI−VI線における断面図である。
【図7】金属繊維表面が酸化皮膜で被覆されている金属繊維不織布焼結体からなる燃料輸送部材の燃料極に対向する表面およびこれと反対側の表面にガス透過層を形成したときの一例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の燃料電池の他の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の燃料電池のさらに他の一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の燃料電池のさらに他の一例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の燃料電池のさらに他の一例を示す概略断面図である。
【図12】本発明の燃料電池のさらに他の一例を示す概略上面図である。
【図13】図12に示される燃料電池を燃料輸送部材が存在する位置で構成部材の積層方向に対して垂直な方向に切断したときの概略上面図である。
【図14】比較例1で作製した燃料電池を示す概略断面図である。
【図15】実施例1〜3および比較例1の燃料電池における電圧0.2V時に得られる電流密度の燃料極および空気極の長さ依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
図1は本発明の燃料電池の一例を示す概略断面図であり、図2は当該燃料電池の概略上面図である。また、図1に示されるIII−III線、IV−IV線、V−V線およびVI−VI線における断面図をそれぞれ図3〜図6に示している。これらの図面に示されるように、図1に示される燃料電池100は、燃料極11、電解質膜10および空気極12をこの順で積層してなる膜電極複合体20と、燃料極11上に積層され、これに電気的に接続されたアノード集電層21と、空気極12上に積層され、これに電気的に接続されたカソード集電層22とを備える単位電池セル30;燃料極11(より具体的にはアノード集電層21)の下方に配置され、燃料極11側が開放された空間からなる燃料供給室60;燃料極11に供給される液体燃料(図示せず)を保持するための燃料貯蔵室70;および、一端(図1における左側端部)が燃料貯蔵室70内に保持される液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が燃料供給室60内部に配置され、燃料極11(ただし、アノード集電層21が介在している)に対向するように延びる燃料輸送部材61とを備える。燃料輸送部材61は、燃料貯蔵室70に保持される液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる。
【0025】
燃料供給室60を構成する燃料極11直下の空間は、単位電池セル30の下部にアノード集電層21に接するように配置された箱筺体40とアノード集電層21とによって形成されている。すなわち、箱筺体40は、燃料供給室60を構成する凹部を有しており、この凹部が燃料極11の直下に配置されるようにアライメントし、かつ当該凹部の開口部側がアノード集電層21に対向するように箱筺体40をアノード集電層21上に積層することにより、燃料供給室60が形成される。また、箱筺体40は、燃料電池100の燃料供給室60を構成する部位とともに、燃料貯蔵室70の底壁および側壁を構成する部位を一体として有している。
【0026】
燃料電池100は、箱筺体40とともに、カソード集電層22上に積層され、複数の開口51を有する蓋筺体50を備えており、単位電池セル30は、箱筺体40と蓋筺体50とによって挟持されている。蓋筺体50は、カソード集電層22上に積層される部位とともに、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)を構成する部位を一体として有しており、箱筺体40、蓋筺体50および単位電池セル30によって燃料貯蔵室70が形成されている。図1に示される燃料電池100において、燃料貯蔵室70は、単位電池セル30およびその下方に配置された燃料供給室60の側方に配置されている。
【0027】
燃料供給室60は、その内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する第1の開孔63を備えている。この第1の開孔63は、箱筺体40に設けられた貫通孔である。また、燃料貯蔵室70は、その内部空間と燃料電池100外部とを連通する第2の開孔71を備えている。この第2の開孔71は、蓋筺体50に設けられた貫通孔である。
【0028】
ここで、本発明の燃料電池は、燃料輸送部材の表面の少なくとも一部を、液体燃料の蒸気を透過させるガス透過層で被覆することを1つの特徴としており、図1に示される燃料電池100において、ガス透過層62は、燃料輸送部材61における燃料極11に対向する表面および燃料極11に対向する表面とは反対側の表面を被覆している。
【0029】
本発明の燃料電池は、次のような動作により発電を行なう。すなわち、図1に示される燃料電池100を参照して、燃料貯蔵室70に液体燃料が供給されると、液体燃料は、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側端部から、燃料輸送部材61が有する細孔へ毛細管現象により移動する。移動した液体燃料は、燃料輸送部材61の細孔および燃料輸送部材61とガス透過層62とによって形成される毛細管を通して燃料輸送部材61内を浸透していき、燃料輸送部材61の他端(燃料貯蔵室70側とは反対側の端部)まで行き渡る。
【0030】
燃料輸送部材61内を浸透して燃料供給室60に輸送された液体燃料は、液体燃料の蒸気を透過させるガス透過層62を介して、燃料供給室60の空間にガス状態で充満する。燃料供給室60の空間に充満したガス状態の液体燃料は、アノード集電層21の開口から燃料極11に供給される。そして、液体燃料としてメタノール水溶液を例に挙げると、燃料極11に供給されたガス状態のメタノール水溶液は、
CH3OH+H2O → CO2↑+6H++6e-
の式で表される酸化反応を起こし消費される。一方、空気極12においては、蓋筺体50の開口51およびカソード集電層21の開口を通って到達した空気中の酸素と、電解質膜10を介して燃料極11から空気極12に伝達されたプロトンとが、
3/2O2+6H++6e- → 3H2
の式で表される還元反応を起こす。かかる酸化還元反応により、電子が、燃料極11→アノード集電層21→外部の電子機器(負荷)→カソード集電層22→空気極12のルートで移動し、外部の電子機器に対して電力が供給される。
【0031】
燃料供給室60内のガス状態の液体燃料は、燃料電池100の消費電流量に応じて消費されていくこととなるが、これを補うように、燃料輸送部材61からガス透過層62を介して、液体燃料が随時蒸発を続けるため、燃料供給室60内におけるガス状態の液体燃料の濃度は略一定に保持され、十分に高い電力を安定して供給することができる。
【0032】
燃料貯蔵室70から燃料供給室60への液体燃料の輸送(燃料輸送部材61内での液体燃料の浸透移動)は専ら毛細管現象を利用したものである。本発明では、液体燃料輸送用部材として、燃料輸送部材61の表面をガス透過層62で被覆したものを用いているため、燃料輸送部材61自身の毛管力とともに、燃料輸送部材61とガス透過層62との界面に形成される毛細管による毛管力が付加され、その結果、非常に大きな毛管力が得られ、十分に高い吸い上げ高と吸い上げ速度とが実現されている。したがって、燃料貯蔵室70から燃料供給室60への液体燃料の輸送を、外部動力を用いることなく、そしてほぼ重力の影響を受けることなく行なうことができる。
【0033】
このように、図1に示される燃料電池100では、燃料貯蔵室70から燃料供給室60への液体燃料の輸送において非常に大きな毛管力が得られるため、使用時の燃料電池100の向きが特に制限されず、たとえば燃料貯蔵室70を下にし、燃料輸送部材61を鉛直方向上向きに立てた状態で使用した場合であっても、十分に高い電力を供給することができる。また、吸い上げ速度が高いため、液体燃料が燃料輸送部材61に染み渡る(飽和する)時間が短縮されることから、燃料電池の起動から電力が取り出されるまでの時間を短縮することができる。
【0034】
次に、燃料電池100を構成する各部材等について詳細に説明する。
(燃料輸送部材)
燃料輸送部材61は、その少なくとも一部が燃料供給室60内に配置され、燃料貯蔵室70から燃料供給室60に毛細管現象を利用して液体燃料を輸送するための部材であり、用いる液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる。このような毛細管作用を示す材料としては、アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、セルロースなどの高分子材料(プラスチック材料)および、ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチールなどの金属材料からなる不規則な細孔を有する多孔質体が挙げられる。多孔質体としては、上記材料からなる不織布、発泡体、焼結体などを挙げることができる。また、上記高分子材料または金属材料からなり、毛細管として表面に規則的なまたは不規則なスリットパターン(溝パターン)を有する基板を燃料輸送部材61として用いることもできる。
【0035】
燃料輸送部材61が有する細孔の細孔径は、重力に対して十分な毛細管現象が生じ、良好な吸い上げ高および吸い上げ速度を得るために、0.1〜500μmとすることが好ましく、1〜300μmとすることがより好ましい。なお、燃料輸送部材61が有する細孔の細孔径は、水銀圧入法により測定される径である。
【0036】
上記のなかでも、ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチールなどの金属材料からなる金属多孔質体が好ましく、該金属材料を繊維状に加工し、不織布とした金属繊維不織布、およびこれを焼結し、必要に応じて圧延してなる金属繊維不織布焼結体がより好ましく、金属繊維不織布焼結体を用いることがさらに好ましい。金属繊維不織布焼結体を用いることにより、空隙率を高くした場合であっても燃料輸送部材61の十分な強度を維持することができるため、燃料電池製造時における組み立て精度を高めることができる。また、十分な強度を維持しつつ、空隙率を高めることができるため、燃料輸送部材61が保持可能な液体燃料量を向上させることができる。このことは、吸い上げ高さが同じ場合、吸い上げ速度がより大きくなることを意味しており、したがって、燃料貯蔵室70から離れた燃料極11の部位に対しても、効果的に液体燃料を供給することが可能となる。
【0037】
金属繊維不織布および金属繊維不織布焼結体を構成する金属繊維の繊維径Rは特に制限されず、たとえば10〜200μmとすることができる。金属繊維不織布および金属繊維不織布焼結体の空隙率は、たとえば30〜90%であり、吸い上げ高および吸い上げ速度向上の観点から、好ましくは50〜80%である。
【0038】
また、燃料輸送部材61を構成する材料として、ステンレス、チタン、タングステン、アルミニウムなどからなる金属繊維不織布焼結体の繊維表面に、酸化皮膜からなる不動態層を形成した金属多孔質体も好ましく用いられる。繊維表面が酸化皮膜で被覆されていると、燃料輸送部材61から液体燃料への金属イオンの溶出が防止されるため、膜電極複合体20に含まれる固体電解質成分(イオン交換樹脂)中に金属イオンがトラップされ、出力が低下する恐れがなくなる。図7に、金属繊維3表面が酸化皮膜4で被覆されている金属繊維不織布焼結体からなる燃料輸送部材の燃料極に対向する表面およびこれと反対側の表面にガス透過層62を形成したときの一例を断面図で示した。
【0039】
また、特にアルコール濃度が50重量%以下のアルコール水溶液を液体燃料として使用する場合には、酸化皮膜からなる不動態層を形成することにより、繊維表面に対する液体燃料の濡れ性が向上するため、液体燃料の吸い上げ速度および引き上げ高さがより向上し、したがって、燃料貯蔵室70から離れた燃料極11の部位に対しても、より効果的に液体燃料を供給することが可能となる。
【0040】
繊維表面が酸化皮膜で被覆された金属繊維不織布焼結体を用いる場合、金属繊維の繊維径Rは、たとえば10〜200μmとすることができ、酸化皮膜の膜厚dは、0.1〜10μmであることが好ましい。酸化皮膜は、少なくとも原子レベルで1層形成されていれば、金属イオンの溶出防止効果および繊維表面に対する液体燃料の濡れ性向上効果を得ることができるが、酸化皮膜の膜厚dが0.1μm未満であると、後述するガス透過層62を燃料輸送部材61に熱圧着する製造プロセスにおいて、酸化皮膜が破損し、部分的に金属の溶出が生じたり、濡れ性が低下する恐れがある。
【0041】
また、金属繊維の繊維径Rと酸化皮膜の膜厚dとの比R/dは、10<R/d<100を満たすことが好ましい。酸化皮膜は非常に硬く強靭である一方、脆い性状を有するが、R/dを上記範囲内にすることにより、金属繊維の柔軟性を損なうことなく、破損等のない良好な酸化皮膜を形成することができる。
【0042】
図1に示される燃料電池100において、燃料輸送部材61は、短冊形状、より具体的には直方体形状を有している(図1および図5参照)。ただし、これに限定されるものではなく、燃料輸送部材61の形状は、燃料電池全体の形状や膜電極複合体の形状等に応じた適宜の形状とすることができる。直方体形状以外の他の例として、たとえば立方体形状、一端から他端に向かうに従い、幅が連続的または段階的に小さくまたは大きくなる形状(表面が台形や三角形である形状等)などの短冊形状が挙げられる。
【0043】
燃料輸送部材61の長さ(燃料貯蔵室70側の一端からこれに対向する他端までの距離)は、特に制限されず、燃料電池全体の形状や膜電極複合体の形状等に応じた適宜の長さとすることができるが、燃料輸送部材61の一端を燃料貯蔵室70に保持された液体燃料に接触可能な位置に配置したときに、その他端が燃料極11の端部(燃料貯蔵室70側とは反対側の端部)の略直下の位置に配置されるような長さまたはそれ以上の長さを有していることが好ましい。これにより、燃料極11の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部までを含めた燃料極11全体にわたって、液体燃料をより効果的に供給することができる。
【0044】
なお、「液体燃料に接触可能な位置」とは、図1に示されるように、燃料輸送部材61の一端が燃料供給室60と燃料貯蔵室70とを仕切る壁(箱筺体40の一部分である)の内部に位置する場合や、図8に示される燃料電池800のように、燃料輸送部材61の一端が燃料貯蔵室70内部に位置する場合などを含む。燃料輸送部材61の一端が燃料貯蔵室70内部に位置するように燃料輸送部材61の長さを調整することにより、使用時における燃料電池100の向きがどのような向きであっても、液体燃料と燃料輸送部材61との接触が可能となる。この場合、使用時の燃料電池100の向きにかかわらず、燃料輸送部材61への液体燃料の浸透を可能とするために、燃料貯蔵室70内に位置している燃料輸送部材61の端部側面および燃料輸送部材61の表面は、ガス透過層62で被覆されていないことが好ましい。
【0045】
燃料輸送部材61の厚みについても特に制限はなく、燃料電池100の厚みや燃料供給室60の高さなどに応じて適宜されるが、たとえば0.05〜5mm程度とすることができ、燃料電池100の小型化、ならびに、吸い上げ高および吸い上げ速度向上の観点からは0.1〜1mmとすることが好ましい。
【0046】
図1に示される燃料電池100において、短冊形状を有する燃料輸送部材61は、短冊形状(より具体的には直方体形状)を有する単位電池セル30の直下の位置に、燃料輸送部材61のガス透過層62が形成された表面が燃料極11に対向するように配置されている。より具体的には、燃料輸送部材61は、アノード集電層21および燃料供給室61の上部空間を介して、燃料極11の直下の位置に配置されており、かつ、燃料極11と燃料輸送部材61との配置関係は、上下方向(燃料電池の各部材の積層方向)(図1参照)およびこれと垂直な方向(燃料電池の幅方向)(図3〜6参照)に関して、ともに平行である。このような燃料極11と燃料輸送部材61との配置関係は、燃料輸送部材61からガス透過層62を介して蒸発したガス状の液体燃料を効率的に燃料極11へ供給する上で極めて好ましいが、このような配置関係に限定されるものではない。たとえば、燃料輸送部材61は、燃料貯蔵室70から離れるに従い、次第に燃料極11に近づくように、あるいは離れるように、上下方向に関して傾斜して配置することができる。また、燃料輸送部材61は、燃料電池100を上から見たときに、燃料極11と交差するように配置してもよい。さらに、燃料輸送部材61は、燃料極11の直下の位置に(燃料電池100を上からみたときに、燃料輸送部材61の位置と燃料極11の位置とが一致するように)配置するのではなく、ずらした状態で配置してもよい。
【0047】
また、図1に示される燃料電池100において燃料輸送部材61は、燃料供給室60における上下方向の中心部付近に配置されているが、これに限定されるものではなく、たとえば、上下方向の中心部付近以外の箇所に配置してもよいし、アノード集電層21に接するように配置してもよいし、燃料供給室60の底面(箱筺体40)に接するように配置してもよい。
【0048】
(ガス透過層)
ガス透過層62は、燃料輸送部材61の表面の少なくとも一部を被覆する、液体燃料の蒸気を透過可能な層である。「液体燃料の蒸気を透過可能」とは、燃料輸送部材61内の液体燃料を、ガス透過層62の外表面からガス状態で放出できることを意味している。ガス透過層62内に存在する液体燃料は、液体状態であってもよいし、ガス状態であってもよい。ガス透過層62を燃料輸送部材61の表面に形成することにより、燃料輸送部材61とガス透過層62との界面にも毛細管が形成されることとなるため、非常に大きな毛管力を得ることが可能となり、これにより、吸い上げ高および吸い上げ速度を向上させることができる。また、ガス透過層62は、液体燃料それ自体を透過させることなく、液体燃料の蒸気を透過させる層であることから、燃料輸送部材61から燃料供給室60、ひいては燃料極11にガス状態の液体燃料を輸送する機能を有している。そして、燃料供給室60への液体状態での液体燃料の輸送を抑制し、ガス状態の液体燃料を透過する結果、ガス透過層62は、燃料極11への液体燃料の過度の供給を抑制する機能をも果たしている。これにより、液体燃料の空気極12へのクロスオーバーによる出力低下および燃料利用効率の低下を効果的に抑制することができる。このような液体燃料供給抑制機能は、液体燃料の水分含有量が低い場合、具体的には、液体燃料がアルコール水溶液であり、アルコール濃度が数十mol/L〜アルコール100重量%と高濃度である場合に特に有効であり、このような高濃度の液体燃料を用いる場合であっても、本発明に従うガス透過層62の形成により、液体燃料のクロスオーバーを効果的に抑制することができる。したがって、本発明の燃料電池は、高濃度の液体燃料(水分含有量が低い液体燃料)を使用する場合に特に好適である。
【0049】
ガス透過層62としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド、シリコンラバーなどの有機または無機高分子材料からなるシートであって、細孔径が0.01〜10μm程度である細孔を有し、この細孔をガス状態の液体燃料の通過孔とする多孔質シートや、意図的に設けられた細孔は有さず、シートを構成する高分子の分子鎖の隙間をガス状態の液体燃料の通過孔とする非多孔質シート(たとえば、上記高分子材料からなる延伸シートなど)を用いることができる。なお、ガス透過層62が有する細孔の細孔径は、水銀圧入法により測定される径である。また、ガス透過層62として、無機材料からなるシートを用いることもできる。無機材料からなるシートとしては、たとえば、Ti、Al、Ni等からなる金属粒子を加圧下での加熱により焼結した金属粒子焼結体からなるシートなどの金属多孔質シート(または板);チタニア(TiO2)粒子やシリカ(SiO2)粒子の焼結体またはポーラスアルミナ(アルミニウムを酸性電解液中で陽極酸化することにより得られる規則的なナノサイズの細孔が形成されたアルミナ)等からなるシートなどの金属酸化物多孔質シート(または板)を挙げることができる。これらのなかでも、熱圧着により容易に燃料輸送部材61上に積層できることから、高分子材料からなるシートを用いることが好ましい。
【0050】
ガス透過層62が細孔を有する多孔質シートである場合、ガス透過層62が有する細孔の細孔径は、ガス状態の液体燃料のみが透過されるために、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。また、ガス透過層62が細孔を有する多孔質シートである場合、ガス透過層62の空隙率は特に制限されないが、たとえば20〜90%程度とすることができ、高濃度の液体燃料(たとえば高濃度アルコール)を使用する場合には、蒸発量を抑制する観点から、好ましくは20〜50%である。
【0051】
ガス透過層62の厚みは特に制限されず、たとえば20〜500μm程度とすることができ、製造プロセスにおける破損を防止する観点から、好ましくは100〜500μmである。ガス透過層62が熱圧着により燃料輸送部材61に接合される高分子材料からなるシートである場合、ガス透過層62は、燃料輸送部材61の表面に存在する細孔の細孔径(好ましくは0.1〜100μmである)の0.5〜10倍程度の厚みを有することが好ましい。これにより、燃料輸送部材61の表面に存在する細孔によって形成される凹凸にガス透過層62がアンカー効果により物理的に接合されることになるため、特に接着剤等を用いることなく、燃料輸送部材61とガス透過層62とを強固に接合することが可能になる。接着剤を用いて燃料輸送部材61とガス透過層62とを接合する場合には、特に純メタノール等の高濃度アルコールを液体燃料として使用すると、接着剤が膨潤・溶解してガス透過層62が剥離することがあるが、熱圧着による接合によれば、高濃度の液体燃料を用いる場合であっても、ガス透過層62の剥離などの問題を抑制することができる。高濃度の液体燃料を使用する場合のガス透過層62の好適な例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等の高分子材料からなる厚さ20〜500μmの延伸シート(高分子鎖の隙間をガス状態の液体燃料の通過孔とする非多孔質シート)を挙げることができる。
【0052】
上述のように、ガス透過層62は、燃料極11への液体燃料の過度の供給を抑制する機能を有することができるが、このようなガス透過層62の燃料供給抑制能力は、たとえば、ガス透過層62の厚み、細孔径、空隙率、細孔の濡れ性などの調整により制御することができる。液体燃料として純メタノールを使用する場合における最適な燃料供給抑制能力を有するガス透過層の一例として、厚み100〜500μm、細孔径0.01〜1μm、空隙率20〜80%の、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等の高分子材料からなる細孔を有する多孔質シートを挙げることができ、細孔内面は、フルオロアルキル基やシリル基などの官能基を導入したり、細孔内面に微細な凹凸形状を形成したりした撥油処理が施されていることが好ましい。一方、50重量%以下のメタノール水溶液等の比較的低濃度の液体燃料を用いる場合には、ガス透過層62の細孔内面は、親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理としては、たとえば、予め表面張力の低い水溶性溶剤を含浸させ、これを過酸化水素水または水溶性有機溶剤の水溶液で置換し、レーザー光を照射する方法を挙げることができる。親水化処理により、燃料輸送部材61の細孔とガス透過層の間に生じる空間においてより強い毛細管力を得ることができる。
【0053】
図9に示される例のように、ガス透過層62は、2以上の層からなる積層構造を有するものであってもよい。図9に示される燃料電池900において、ガス透過層は、燃料輸送部材61の燃料極11に対向する表面および該表面と反対側の表面に接して形成された第1のガス透過層62aと、この上に積層された第2のガス透過層62bとからなる。たとえば、第1のガス透過層62aを、上記したような親水化処理方法で作製した親水性のガス透過層とし、第2のガス透過層62bを、フッ素系樹脂を延伸することで作製した撥水性のガス透過層とすることにより、燃料輸送部材61の細孔と第1のガス透過層62aとの間に生じる空間においてより強い毛管力を得ながらも、第2のガス透過層62bによって、燃料輸送部材61から液体状態の液体燃料が滲み出ることを防止することが可能となる。
【0054】
ガス透過層を2以上の層からなる積層構造とする構成は、上述の燃料供給抑制能力を制御する手段としても有効である。たとえば、高分子材料の多孔質シート等からなる第1のガス透過層62a上に、ポリオレフィン系樹脂の有機溶剤溶液または分散液を塗布、乾燥し、高分子鎖の隙間をガス状態の液体燃料の通過孔とする非多孔質層からなる第2のガス透過層62bを形成することにより、ガス透過層の燃料供給抑制能力をより高めることができる。この際、第2のガス透過層62bの厚みは一定であってもよいが、液体燃料がアルコール水溶液またはアルコールである場合においては、燃料貯蔵室70から離れるに従い、厚みを小さくしていくことが好ましい。燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70に近い側はアルコール蒸発量が多く、燃料貯蔵室70から離れるに従いアルコール濃度が低下するなどの理由によりアルコールの蒸発量が少なくなるが、第2のガス透過層62bの厚みに上記のような傾斜を持たせることにより、燃料貯蔵室70に近い側において液体燃料の過剰供給を適度に抑制しつつ、燃料貯蔵室70から離れた部位においても液体燃料の十分な供給が可能となり、燃料極11の面内で均一な反応を行なうことが可能となる。
【0055】
本発明においてガス透過層62は、燃料輸送部材61の表面の少なくとも一部を被覆していればよいが、図1に示される燃料電池100や図10に示される燃料電池1000のように、少なくとも燃料輸送部材61における燃料極11に対向する表面を被覆することが好ましい。これにより、十分な吸い上げ高および吸い上げ速度の向上が得られるとともに、燃料供給抑制機能が発揮され、液体燃料の空気極12へのクロスオーバーによる出力低下を効果的に抑制することができる。吸い上げ高および吸い上げ速度をより向上させるために、ガス透過層62は、燃料輸送部材61の燃料極11に対向する表面とともに該表面とは反対側の表面を被覆することがより好ましい(図1参照)。ガス透過層62は、燃料貯蔵室70側とは反対側の端部側面をさらに被覆してもよい。なお、ガス透過層62は、燃料極11に対向する表面とは反対側の表面のみを被覆していてもよいが、ガス透過層62に燃料供給抑制機能を発揮させ、クロスオーバーを抑制するために、少なくとも燃料輸送部材61における燃料極11に対向する表面はガス透過層62によって被覆されることが好ましい。
【0056】
(電解質膜)
膜電極複合体20を構成する電解質膜10は、本発明の膜電極複合体における電解質膜は、燃料極11から空気極12へプロトンを伝達する機能と、燃料極11と空気極12との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。電解質膜の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜なども挙げられる。
【0057】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。
【0058】
電解質膜10の膜厚はたとえば1〜200μmである。また、電解質膜10のEW値(プロトン官能基1モルあたりの乾燥重量)は、800〜1100程度であることが好ましい。EW値が小さいほど、プロトン移動に伴う電解質膜の抵抗が小さくなり高い出力を得ることができるが、実用上は電解質膜の寸法安定性や強度の問題から、極端に小さくすることは困難である。
【0059】
(燃料極および空気極)
電解質膜10の一方の表面に積層される燃料極11および他方の表面に積層される空気極12には、少なくとも触媒と電解質とを有する多孔質層からなる触媒層が設けられる。燃料極11用の触媒は、メタノール水溶液等の液体燃料をプロトンと電子に分解し、電解質は、生成した該プロトンを電解質膜10へ伝導する機能を有する。空気極12用の触媒は、電解質を伝導してきたプロトンと空気中の酸素から水を生成する機能を有する。
【0060】
燃料極11および空気極12用の触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていてもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。これにより、燃料極11および空気極12の保水性を向上させることができる。また、燃料極11および空気極12の電解質は、電解質膜10のEW値よりも小さなEW値を有する材料からなることが好ましく、具体的には、電解質膜10と同質材料であるが、EW値が400〜800である電解質材料が好ましい。このような電解質材料を用いることによっても、燃料極11および空気極12の保水性を向上させることができる。燃料極11および空気極12の保水性の向上により、プロトン移動に伴う電解質膜10の抵抗や燃料極11および空気極12における電位分布を改善することができる。また、EW値の低い電解質は同時に液体燃料の透過性も高いことから、EW値の低い電解質を用いることにより、燃料極11の触媒層に均一にガス状態の液体燃料を供給することができる。
【0061】
燃料極11および空気極12はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノード導電性多孔質層、カソード導電性多孔質層を備えていてもよい。これらの多孔質層は、燃料極11、空気極12に供給されるガス(ガス状態の液体燃料または空気)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0062】
(アノード集電層およびカソード集電層)
アノード集電層21、カソード集電層22はそれぞれ、燃料極11上、空気極12上に積層され、膜電極複合体20とともに単位電池セル30を構成する。アノード集電層21およびカソード集電層22はそれぞれ、燃料極11、空気極12における電子を集電する機能と、電気的配線を行なう機能とを有する。集電層の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。なお、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層が、たとえば金属等からなり、導電性が比較的高い場合には、アノード集電層およびカソード集電層は省略されてもよい。
【0063】
より具体的には、アノード集電層21は、ガス状態の液体燃料を燃料供給室60から燃料極11へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。この貫通孔は、燃料極11の触媒層で生成する排ガス(二酸化炭素ガス等)を燃料供給室60へ誘導するための排出孔としても機能する。同様に、カソード集電層22は、燃料電池外部の空気を空気極12の触媒層に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0064】
(燃料供給室)
燃料供給室60は、好ましくは燃料極11の直下に配置され、その内部空間に上述のガス透過層62で表面が被覆された燃料輸送部材61を備えている。燃料供給室60の内部空間は、好ましくは、燃料極11の燃料貯蔵室70側端部からこれと反対側の端部までの長さと同じかまたはそれ以上の長さを有しており、燃料極11の幅と同じかまたはそれ以上の幅を有している。燃料供給室60の内部空間の高さ(深さ)は特に制限されず、ガス透過層62で表面が被覆された燃料輸送部材61を設置できる高さを有していればよい。
【0065】
図1に示される燃料電池100において燃料供給室60は、単位電池セル30の下部にアノード集電層21に接するように配置された、燃料供給室60の内部空間を構成する凹部を有する箱筺体40とアノード集電層21とによって形成されている。なお、箱筺体40は、燃料供給室60を構成する部位とともに、燃料貯蔵室70の底壁および側壁を構成する部位を一体として有しているが、これに限定されるものではなく、燃料供給室60を構成する部材と燃料貯蔵室70を構成する部材とは異なる部材であってもよい。
【0066】
箱筺体40は、プラスチック材料または金属材料を用いて、少なくとも燃料供給室60の内部空間を構成する凹部を有するように適宜の形状に成形することによって作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。これらのなかでも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエチレン(PE)は、3次元架橋による分子量増加により強度が高く安価に加工ができ、また軽量であることから好ましく用いられる。
【0067】
燃料供給室60は、燃料極11の触媒層で生成する排ガス(二酸化炭素ガス等)を燃料供給室60の内部空間から排出するための第1の開孔63を有することが好ましい。図1に示される燃料電池100において第1の開孔63は、燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔(燃料供給室60の内部空間を構成する箱筺体40が有する壁に設けられた貫通孔)である。後述するように、燃料貯蔵室70には、その内部空間と燃料電池外部とを連通する第2の開孔71が設けられており、したがって、燃料極11の触媒層で生成した排ガスは、燃料供給室60、第1の開孔63、燃料貯蔵室70および第2の開孔71を順に通って燃料電池外部に排出される。
【0068】
また、これら第1の開孔63および第2の開孔71が設けられることにより、燃料供給室60内は常に大気圧に維持されるため、燃料輸送部材61の高い吸い上げ高および吸い上げ速度を維持することができる。すなわち、燃料輸送部材61に液体燃料が染み込み、燃料供給室60内が加圧状態となって、燃料輸送部材61の吸い上げ高および吸い上げ速度が低下することを防止できる。このような吸い上げ高および吸い上げ速度の低下を効果的に防止するために、燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する第1の開孔63の断面積は、燃料輸送部材61が有する細孔の断面積よりも大きいことが好ましい。これにより、燃料極11で生成した排ガスが燃料輸送部材61中の液体燃料を燃料貯蔵室70に押し戻しながら燃料貯蔵室70に排出されるときの圧力損失よりも、第1の開孔63を通って燃料貯蔵室70に排出されるときの圧力損失の方がはるかに小さくなるため、燃料輸送部材61の吸い上げ高および吸い上げ速度の低下が効果的に防止される。ただし、第1の開孔63の断面積は、燃料貯蔵室70内に保持された液体燃料が直接第1の開孔63内に侵入して燃料供給室60内に漏れ出さない程度の大きさとすることが好ましく、あるいは、燃料供給室60内への液体燃料の漏出を防止するための気液分離膜(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等からなる多孔質膜)を第1の開孔63内に設けることが好ましい。
【0069】
燃料極11で生成する排ガスを燃料供給室60内から排出するための第1の開孔63は、燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔である必要は必ずしもなく、たとえば、図11に示される燃料電池1100のように、燃料供給室60の内部空間と燃料電池外部とを直接連通する孔(箱筺体40における燃料供給室60の底壁を構成する部位に設けられた貫通孔)であってもよい。この場合、燃料供給室60内と燃料電池の外部とは液相を介さずにガス相のみで連通することとなるため(第1の開孔63が燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔であって、燃料貯蔵室70に保持される液体燃料の液面が第1の開孔63の設置位置を超える場合には、燃料供給室60内と燃料電池の外部とは液相(液体燃料)を介して連通することとなる)、排ガスを排出するための圧力損失をより小さくすることができ、燃料輸送部材61の吸い上げ高および吸い上げ速度をより向上させることができる。特に燃料電池の起動時においては、液体燃料が瞬時に燃料輸送部材61に浸透するため、燃料電池の起動から電力が取り出されるまでの時間をより短縮することができる。
【0070】
第1の開孔63が燃料供給室60の内部空間と燃料電池外部とを直接連通する孔である場合、第1の開孔63は、燃料貯蔵室70からできるだけ離れた位置に配置されることが好ましく、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部近傍に配置されることがより好ましい。液体燃料がアルコール水溶液(メタノール水溶液など)である場合、ガス透過層62を介して放出されるガス状態の液体燃料のアルコール濃度は、燃料貯蔵室70に近いほど高濃度となり、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部に近づくほど低濃度となるため、上記のような位置に第1の開孔63を設置することにより、燃料極11で生成する排ガスとともに第1の開孔63から排出されるアルコール量を低減することができる。第1の開孔63から排出される液体燃料をより低減するために、第1の開孔63内に液体燃料を燃焼させる触媒を含む多孔質層を形成することも好ましい。
【0071】
なお、第1の開孔63、特に燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する第1の開孔63においては、開孔内部が液体燃料で濡れてしまうことによる排ガス通過時の圧力損失の上昇を抑制するために、液体燃料に対する第1の開孔63内部の濡れ性を低減させることが好ましい。濡れ性を低減する方法としては、開孔内壁面に撥水処理を施すか、もしくは開孔内に撥水性の多孔質材料を充填する方法が挙げられる。ただし、使用する液体燃料の濃度および表面張力によっては、撥水処理ではなく撥油処理を施すことが好ましい場合もある。たとえば、液体燃料として純メタノールを使用する場合には、開孔内壁面に撥油処理を施すか、もしくは開孔内に撥油性の多孔質材料を充填することが好ましい。
【0072】
第1の開孔63の直径は、たとえば1〜1000μmとすることができ、好ましくは10〜500μmである。
【0073】
(燃料貯蔵室)
燃料貯蔵室70は、好ましくは単位電池セル30および燃料供給室60の側方に配置される、液体燃料を保持するための室である。燃料貯蔵室70の大きさや形状は特に制限されないが、燃料供給室60内に配置されたガス透過層62で被覆された燃料輸送部材61の一端と燃料貯蔵室70内に保持された液体燃料とが接触可能となるよう、その側壁面に開口を有する必要がある。その開口は、燃料供給室60と燃料貯蔵室70とを仕切る箱筺体40の一部分を構成する壁を貫通する穴から形成されるものであってもよく、この場合、燃料輸送部材61は、その一端が当該穴の内部に位置するか(図1)または燃料貯蔵室70内部に位置する(図8)ように、当該穴に挿入される。
【0074】
図1に示される燃料電池100において燃料貯蔵室70は、カソード集電層22上に積層され、複数の開口51を有する蓋筺体50、箱筺体40および単位電池セル30によって形成されている。ただし、燃料貯蔵室70は、これら蓋筺体50および箱筺体40を用いて構成する必要性は必ずしもなく、たとえば、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)、側壁および底壁を形成する部位を一体として含む1つの部材から構成することもできる。
【0075】
図1に示される燃料電池100において蓋筺体50は、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)を形成するとともに、単位電池セル30が直接露出することを防止している。蓋筺体50の空気極12直上部分には、空気を流通させるための複数の開口51(ただし、開口の数は1以上あればよい)が形成されている。
【0076】
蓋筺体50は、プラスチック材料または金属材料を用い、適宜の形状に成形することによって作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。これらのなかでも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエチレン(PE)は、3次元架橋による分子量増加により強度が高く安価に加工ができ、また軽量であることから好ましく用いられる。
【0077】
燃料貯蔵室70は、その内部空間と燃料電池外部とを連通する第2の開孔71を備えることが好ましい。これにより、液体燃料が燃料輸送部材61によって燃料供給室60に輸送される場合においても、燃料貯蔵室70内が大気圧に維持されるため、液体燃料の輸送が阻害されず、燃料輸送部材61の高い吸い上げ高および吸い上げ速度を維持することができる。第1の開孔63が燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔である場合、第2の開孔71は、燃料極11で生成した排ガスを燃料電池外部へ排出する機能も有している。図1に示される燃料電池100において第2の開孔71は、蓋筺体50を厚み方向に貫通する貫通孔であるが、これに限定されるものではない。
【0078】
第2の開孔71からの液体燃料の漏洩を防止するために、第2の開孔71の開孔径は十分に小さいことが好ましく(たとえば直径100〜500μm程度、好ましくは100〜300μm)、あるいは、燃料電池外部への液体燃料の漏出を防止するための気液分離膜(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等からなる多孔質膜)を第2の開孔71内に設けることが好ましい。
【0079】
なお、特に第2の開孔71が、燃料極11で生成した排ガスを燃料電池外部へ排出する機能を有する場合においては、第2の開孔71の内部が液体燃料で濡れてしまうことによる排ガス通過時の圧力損失の上昇を抑制するために、液体燃料に対する第2の開孔71内部の濡れ性を低減させることが好ましい。濡れ性を低減する方法としては、開孔内壁面に撥水処理を施すか、もしくは開孔内に撥水性の多孔質材料を充填する方法が挙げられる。ただし、使用する液体燃料の濃度および表面張力によっては、撥水処理ではなく撥油処理を施すことが好ましい場合もある。たとえば、液体燃料として純メタノールを使用する場合には、開孔内壁面に撥油処理を施すか、もしくは開孔内に撥油性の多孔質材料を充填することが好ましい。
【0080】
以上、本発明の燃料電池について、燃料電池が1つの単位電池セルを備える実施形態を示して説明したが、本発明の燃料電池はこのような構成に限定されるものではなく、単位電池セル30を2以上含むものであってもよい。その一例として、単位電池セル30を4つ備える燃料電池の概略上面図を図12に示す。この燃料電池の層構成は図1と同じであってよい。また、図13は、燃料輸送部材61が存在する位置で構成部材の積層方向に対して垂直な方向に切断したときの概略上面図であり、図1に示されるV−V線における断面図に相当する図である。
【0081】
図12および13に示される燃料電池において、各単位電池セル30は、図1の燃料電池100と同様、短冊形状(より具体的には直方体形状)を有しており、隣り合う単位電池セル同士が互いに平行となるように、離間して配置されている。単位電池セル30間に設けられる隙間の幅Lは、たとえば0.5〜10mm程度である。ただし、各単位電池セルは必ずしも平行に配置される必要はない。
【0082】
燃料電池が複数の単位電池セル30を有する場合、燃料輸送部材61は、図13に示されるように、燃料供給室60内に各単位電池セルに対向するように配置される複数の燃料輸送用の部材(櫛歯)が燃料貯蔵室70側において一体化された櫛歯形状の1つの部材であってもよく、あるいは、単位電池セル30のそれぞれに対向するように配置された単位電池セル30と同数の複数の燃料輸送部材61を設けるようにしてもよい。また、図12および13に示される例においては、単位電池セル30と同数の燃料供給室60が設けられているが、これに限定されるものではなく、たとえば複数の単位電池セル30に対して燃料供給室60を1つのみ設け、この燃料供給室60内に複数の燃料輸送部材61(または複数の櫛歯を有する1つの燃料輸送部材61)を設置するようにしてもよい。複数の単位電池セルを備える燃料電池のその他の可能な変形は、上述した1つの単位電池セルを備える燃料電池と同様である。
【0083】
なお、本発明の燃料電池において使用することのできる液体燃料としては、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメトキシメタンなどのアセタール類、ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類;ならびにこれらの水溶液を挙げることができる。液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
<実施例1>
以下の手順で図1〜6に示される燃料電池と同様の構成を有する燃料電池を作製した。
【0086】
(1)ガス透過層62で被覆された燃料輸送部材61の作製
繊維径R 20μm、厚さ0.8mm、目付量700g/m2、空隙率81%、細孔径200μmのチタン繊維不織布の焼結品(ベキニット社製)を用意し、これを幅約30mm、長さ約60mmに切断して燃料輸送部材61とした。また、細孔径0.1μm、膜厚125μm、空隙率85%の多孔質体であるポリフッ化ビニリデン製メンブレンフィルタ(親水性デュラポア、ミリポア社製)を用意し、これを同じく約30mm、長さ約60mmに切断して、2枚のガス透過層62を作製した。ついで、燃料輸送部材61の両面に、ガス透過層62を、それらの中心が完全に一致するように重ね合わせた後、厚さ0.5mmのステンレス製の隙間ゲージを用いて完全に燃料輸送部材61がつぶれてしまうのを防止しながら、ホットプレス(130℃、5kN)により、燃料輸送部材61とガス透過層62とを熱圧着した。得られた積層体を幅18mm、長さ50mmに切断し、厚さ0.5mmの、両面がガス透過層62で被覆された燃料輸送部材61(以下、ガス透過層付き燃料輸送部材Aと称する)を得た。得られたガス透過層付き燃料輸送部材Aを、メタノール、エタノール、アセトンのそれぞれに24時間浸漬する浸漬試験を行なったところ、ガス透過層の剥離は生じず、高濃度燃料を使用する場合においても構造的に問題がないことがわかった。
【0087】
(2)膜電極複合体20の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、燃料極11用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いて、燃料極11用の触媒ペーストと同様にして、空気極12用の触媒ペーストを作製した。
【0088】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパ(25BC、SGL社製)を幅約30mm、長さ約50mmに切断した後、その多孔質層上に、上記の燃料極11用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、幅25mm、長さ45mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノード導電性多孔質層であるカーボンペーパ上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約200μmの燃料極11を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパの多孔質層上に、上記の空気極12用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、幅25mm、長さ45mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソード導電性多孔質層であるカーボンペーパ上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約200μmの空気極12を作製した。
【0089】
つぎに、厚さ約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を幅約30mm、長さ60mmに切断して電解質膜10とし、上記燃料極11と電解質膜10と上記空気極12をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜10に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間のホットプレスを行ない、燃料極11および空気極12を電解質膜10に接合した。上記重ね合わせは、燃料極11と空気極12の電解質膜10の面内における位置が一致するように、かつ燃料極11と電解質膜10と空気極12の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の長辺側両端部を切断して、幅20mm、長さ60mmの膜電極複合体20を作製した。
【0090】
(3)単位電池セル30の作製
厚さ100μm、幅20mm、長さ60mmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらをアノード集電層21およびカソード集電層22とした。
【0091】
つぎに、上記アノード集電層21を燃料極11上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着材層を介して積層するとともに、カソード集電層22を空気極12上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着材層を介して積層し、これらをホットプレスにより接合して、単位電池セル30を作製した。なお、アノード集電層21およびカソード集電層22は、それらの開孔が形成された領域がそれぞれ燃料極11、空気極12の直上に配置されるように積層した。
【0092】
(4)箱筺体40の作製
幅25mm、長さ80mm、厚さ3mmのポリフェニレンサルファイド製の樹脂基板(PPS)に、燃料貯蔵室70を形成する幅23mm、長さ15mm、深さ2mmの凹部を切削加工するとともに、燃料供給室60を形成する幅18mm、長さ45mm、深さ2mmの凹部を切削加工し、箱筺体40とした。また、燃料貯蔵室70を形成する凹部と燃料供給室60を形成する凹部との間に位置する仕切り壁の上部を、深さ1mm、幅18mmで切削した。
【0093】
(5)蓋筺体50の作製
幅25mm、長さ80mm、厚さ3mmのポリフェニレンサルファイド(PPS)製の樹脂基板を用意し、切削加工により、空気極12の直上に配置される領域に23×2mmの開口51を20個形成するとともに、燃料貯蔵室70の天井壁を構成する部位に第2の開孔71として直径0.2mmの貫通孔を形成した。
【0094】
(6)燃料電池100の作製
上記箱筺体40の切削加工を施した仕切り壁上に、ガス透過層付き燃料輸送部材Aの一端が当該仕切り壁上に配置されるとともに、その他端が、およそ燃料極11の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部の直下に位置するようにガス透過層付き燃料輸送部材Aを配置した。この際、ガス透過層付き燃料輸送部材Aは、燃料極11の直下の位置に、燃料極11と平行になるように配置した。ついで、ガス透過層付き燃料輸送部材Aの上記仕切り壁上に配置された部分の上に、第1の開孔63としての、幅18mm、長さ10mm、厚さ0.8mm、空隙率80%のポリテトラフルオロエチレン製の多孔質フィルタを重ね合わせた。さらに、シリコンシートからなるガスケットを多孔質フィルタ上に重ねて厚み調整を行ない、燃料供給室60を形成する空間に蓋をするように、上記の単位電池セル30をガスケット上(および、燃料貯蔵室70側とは反対側の領域においては箱筺体40上)に配置した。この際、単位電池セル30は、そのアノード集電層21側がガスケット側(燃料供給室60側)となるように配置した。そして、単位電池セル30のカソード集電層22上に、上記の蓋筺体50を、その複数の開口51が空気極12の直上に配置されるように積層して、燃料電池100を作製した。なお、本実施例では箱筺体40と蓋筺体50とをネジ止めすることにより、各部材の積層方向に押圧をかけ、各部材の固定化を行なったが、箱筺体40とガス透過層付き燃料輸送部材A、ガス透過層付き燃料輸送部材Aと多孔質フィルタ、ガスケットと多孔質フィルタ、単位電池セル30と蓋筺体50は、ホットメルト剤を用いた熱圧着や両面テープによる貼合などの各種方法により接合してもよい。また、図6を参照して、カソード集電層22からガス透過層62に至る各部材の側面と箱筺体40の側面とを、液状シール剤の充填し、これを固化させることにより接合してもよい。
【0095】
<実施例2>
燃料極11に対向する表面にのみガス透過層62を形成したガス透過層付き燃料輸送部材Bを作製し、これを用いること以外は実施例1と同様にして、図10に示される燃料電池と同様の構成を有する燃料電池を作製した。
【0096】
<実施例3>
燃料極11に対向する表面とは反対側の表面にのみガス透過層62を形成したガス透過層付き燃料輸送部材Cを作製し、これを用いること以外は実施例1と同様にして、燃料電池を作製した。
【0097】
<実施例4>
実施例1で用いたチタン繊維不織布の焼結品を300℃のホットプレート上で2時間保持することにより、チタン繊維の表面に厚さ約1μmの酸化皮膜を形成し、ついで、幅約30mm、長さ約60mmに切断することにより燃料輸送部材61作製した。この燃料輸送部材を用いること以外は実施例1と同様にしてガス透過層付き燃料輸送部材Dを作製し、さらにガス透過層付き燃料輸送部材Dを用いること以外は実施例1と同様にして、図11に示される燃料電池と同様の構成を有する燃料電池を作製した。
【0098】
<実施例5>
厚さ1mm、目付量200g/m2、空隙率70%、細孔径50μmのパルプ系不織布(ハトシートSF1)を用意し、これを幅約30mm、長さ約60mmに切断して燃料輸送部材61とした。また、細孔径0.1μm、膜厚125μm、空隙率85%の多孔質体であるポリフッ化ビニリデン製メンブレンフィルタ(親水性デュラポア、ミリポア社製)を用意し、これを同じく約30mm、長さ約60mmに切断して、2枚のガス透過層62を作製した。ついで、2枚のガス透過層62の一方の表面全体に、バーコート法を用いて厚さ5μm程度となるように、ホットメルト剤(PPET1600、東亜合成社製)を塗布した後、燃料輸送部材61の両面にガス透過層62を、それらの中心が完全に一致するように、かつホットメルト剤の塗布面が燃料輸送部材61側となるように重ね合わせた後、厚さ0.5mmのステンレス製の隙間ゲージを用いて完全に燃料輸送部材61がつぶれてしまうのを防止しながら、ホットプレス(100℃、5kN)により、燃料輸送部材61とガス透過層62とを熱圧着した。得られた積層体を幅18mm、長さ50mmに切断し、厚さ0.5mmの、両面がガス透過層62で被覆された燃料輸送部材61(ガス透過層付き燃料輸送部材E)を作製した。ついで、ガス透過層付き燃料輸送部材Eを用いること以外は実施例1と同様にして、図11に示される燃料電池と同様の構成を有する燃料電池を作製した。なお、ホットメルト剤の層もまたガス透過層に属するものであり、したがって、ガス透過層付き燃料輸送部材Eが有するガス透過層は2層構造からなる。
【0099】
<比較例1>
ガス透過層62を有しない燃料輸送部材(この燃料輸送部材の材質およびサイズは、実施例1で使用したものと同じである)用いること以外は実施例1と同様にして、図14に示される燃料電池1400を作製した。
【0100】
(燃料電池の性能評価)
(1)燃料電池の開回路電圧および電流密度の測定
実施例1〜5および比較例1の燃料電池に、15mol/Lのメタノール水溶液を燃料室に充填した後、燃料電池を作動させ、60秒後の開回路電圧と、電圧0.2V時に得られた電流密度を測定した。結果を表1に示す。なお、表1における比較例1の数値「<10」は、装置の分解能下限界を示している。すなわち、比較例1の燃料電池の電圧0.2V時の電流密度については、時間の経過とともに、電流密度が低下し続けて評価できなかった。
【0101】
【表1】

【0102】
(2)電流密度の燃料極および空気極の長さ依存性の評価
実施例1〜3および比較例1において、燃料極11および空気極12の長さを変更した燃料電池を作製し、電圧0.2V時に得られる電流密度の燃料極および空気極の長さ依存性を評価した。結果を図15に示す。なお、実施例1〜3および比較例1の燃料電池の燃料極11および空気極12の長さはいずれも45mmであり、この長さを10mmから最大70mmまで増減させて(比較例1については、安定した電流密度の測定が可能な長さまでとした)、燃料極11および空気極12の長さを変更した燃料電池を作製した。燃料極11の長さと空気極12の長さとは、変更後のいずれの燃料電池においても同じであり、また、燃料極11および空気極12の長さを変更した燃料電池においては、燃料極11および空気極12の長さの増減と同じ分だけガス透過層付き燃料輸送部材(比較例においては燃料輸送部材)の長さを増減させた。
【0103】
ガス透過層を備える本発明に係る実施例1〜5の燃料電池は、ガス透過層を有しない比較例1の燃料電池に比べて、60秒後の開回路電圧が高く、このことは、吸い上げ速度に優れ、燃料電池の起動から電力が取り出されるまでの時間がより短いことを意味している。特に、燃料輸送部材61として繊維表面に酸化皮膜が形成されたチタン繊維不織布の焼結品を用いた実施例4の燃料電池は、酸化皮膜を有しない実施例1の燃料電池と比べて60秒後の開回路電圧が高く、吸い上げ速度により優れている。また、ガス透過層を有しない比較例1の燃料電池においては、燃料極11および空気極12の長さが40mmに近づくと急激に電流密度が低下するのに対し、実施例1〜3の燃料電池においては、燃料極11および空気極12の長さが40mm以上である場合にも電流を得ることができた。特に、実施例1の燃料電池では、長さを70mmまで長くしても比較例1の燃料電池に認められる極端な電流密度の低下は観察されなかった。このことは、ガス透過層を形成することにより、とりわけ、ガス透過層を燃料輸送部材における燃料極に対向する側の表面およびこれとは反対側の表面に設けることにより、液体燃料の吸い上げ高および吸い上げ速度が顕著に向上することを意味している。
【0104】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
10 電解質膜、11 燃料極、12 空気極、20 膜電極複合体、21 アノード集電層、22 カソード集電層、30 単位電池セル、40 箱筺体、50 蓋筺体、51 開口、60 燃料供給室、61 燃料輸送部材、62 ガス透過層、62a 第1のガス透過層、62b 第2のガス透過層、63 第1の開孔、70 燃料貯蔵室、71 第2の開孔、100,800,900,1000,1100,1400 燃料電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極、電解質膜および空気極をこの順で積層してなる膜電極複合体を備える単位電池セルと、
前記燃料極の下方に配置され、前記燃料極側が開放された空間からなる燃料供給室と、
前記燃料極に供給される液体燃料を保持するための燃料貯蔵室と、
前記液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる部材であって、その一端が前記燃料貯蔵室内に保持される前記液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が前記燃料供給室内部に配置され、前記燃料極に対向するように延びる燃料輸送部材と、
を含み、
前記燃料輸送部材は、その表面の少なくとも一部を被覆する層であって、前記液体燃料の蒸気を透過させるガス透過層を備える、燃料電池。
【請求項2】
前記燃料供給室は、その内部と前記燃料貯蔵室の内部とを連通する、または、その内部と燃料電池外部とを連通する第1の開孔を備え、
前記燃料貯蔵室は、その内部と燃料電池外部とを連通する第2の開孔を備える、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記ガス透過層は、前記燃料輸送部材における、前記燃料極に対向する表面を被覆する、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記ガス透過層は、前記燃料輸送部材における、前記燃料極に対向する表面とは反対側の表面をさらに被覆する、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記ガス透過層は、細孔径が0.01〜10μmである細孔を有する多孔質樹脂層からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記ガス透過層は、2以上の層の積層構造からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃料輸送部材は、前記液体燃料に対して毛細管作用を示す金属多孔質体からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記金属多孔質体は、繊維表面が酸化皮膜で被覆された金属繊維不織布の焼結体からなる、請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記燃料貯蔵室は、前記単位電池セルおよびその下方に配置される燃料供給室の側方に配置され、
前記燃料輸送部材は、その一端が燃料貯蔵室内に保持される前記液体燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が前記燃料極における前記燃料貯蔵室側とは反対側の端部の略直下の位置に配置される、請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項10】
前記燃料供給室は、その内部と燃料電池外部とを連通する第1の開孔を備え、
前記第1の開孔は、前記燃料輸送部材の前記他端近傍に配置される、請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項11】
前記単位電池セルは、前記燃料極上に積層されるアノード集電層と、前記空気極上に積層されるカソード集電層とをさらに備える、請求項1〜10のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項12】
前記単位電池セルを2以上含む、請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項13】
2以上の前記単位電池セルのそれぞれに対向するように配置される2以上の前記燃料輸送部材を備える、請求項12に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−146224(P2011−146224A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5613(P2010−5613)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】