説明

燃料電池

【課題】混合ガスを良好に酸素還元することができ、電極反応面に劣化促進物質が供給されることを確実に阻止することを可能にする。
【解決手段】燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12と第1セパレータ14及び第2セパレータ16とが積層される。燃料電池10は、積層方向に貫通して、酸化剤ガス入口連通孔18a、燃料ガス入口連通孔20a、酸化剤ガス出口連通孔18b及び燃料ガス出口連通孔20bを設ける。第1セパレータ14には、酸化剤ガス流路24が形成される一方、第2セパレータ16には、燃料ガス流路28が形成される。電解質膜・電極構造体12の突出部12bには、燃料ガス入口連通孔20aと燃料ガス流路28との間に、アノード電極42とは別体に構成された酸化還元触媒層46が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質の両側に一対の電極が設けられた電解質・電極構造体が、一対のセパレータ間に積層され、前記電解質・電極構造体と各セパレータとの間には、それぞれ電極反応面の面方向に沿って反応ガスを供給する反応ガス流路が形成されるとともに、積層方向に貫通して前記反応ガス流路に連通する反応ガス連通孔が形成される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を対設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の燃料電池において、アノード電極には、燃料ガス(反応ガス)、例えば、主に水素を含有するガス(以下、水素含有ガスともいう)が供給される一方、カソード電極には、酸化剤ガス(反応ガス)、例えば、主に酸素を含有するガスあるいは空気(以下、酸素含有ガスともいう)が供給されている。アノード電極に供給された燃料ガスは、電極触媒上で水素がイオン化され、電解質膜を介してカソード電極側へと移動する。その間に生じた電子は外部回路に取り出され、直流の電気エネルギとして利用される。
【0004】
上記の燃料電池では、積層されている各発電セルのアノード電極及びカソード電極に、それぞれ反応ガスである燃料ガス及び酸化剤ガスを供給するため、内部マニホールドを構成する場合が多い。この内部マニホールドは、発電セルの積層方向に貫通して設けられる反応ガス入口連通孔及び反応ガス出口連通孔を備えており、電極面に沿って反応ガスを供給する反応ガス流路(酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路)の入口及び出口には、前記反応ガス入口連通孔及び前記反応ガス出口連通孔がそれぞれ連通している。
【0005】
ところで、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路では、発電時に反応生成水が生成される一方、燃料ガスが流れる燃料ガス流路では、前記反応生成水の逆拡散や結露等による凝縮水が発生し易い。その際、凝縮水(生成水)が酸化剤ガス流路や燃料ガス流路に付着すると、酸化剤ガスや燃料ガスの流れが阻害されてしまい、発電性能の低下が惹起される。このため、酸化剤ガス流路及び燃料ガス流路から酸化剤ガス出口連通孔及び燃料ガス出口連通孔(反応ガス出口連通孔)に、それぞれ凝縮水を確実に排出させる必要がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムが知られている。この特許文献1は、燃料極に供給された燃料ガスと空気極に供給された空気中の酸素との電気化学反応により発電する固体高分子型の燃料電池システムにおいて、燃料極通路に燃料ガスを供給するか空気を供給するかを切り換える燃料極通路切換弁と、空気極と燃料極とを連通させる連通弁とを備え、運転状況に応じて燃料極通路に空気を供給するように前記燃料極通路切換弁を切り換えるとともに、前記連通弁を連通させて、空気で燃料極をパージする空気パージを行うことを要旨としている。
【0007】
これにより、燃料ガスの代わりに空気により燃料極に溜まった水等を吹き飛ばして除去することができるので、発電に使われずに消費されてしまう燃料の量を減らし、燃費を向上させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3664150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1では、燃料電池システムの起動時及び発電終了時に、空気により燃料極に溜まった水等を吹き飛ばしている。このため、反応ガス連通孔内には、水素ガス、窒素ガス及び酸素が混在した混合ガスが残存し易い。また、膜を水素が透過して拡散し易いため、反応ガス連通孔内に水素ガス、窒素ガス及び酸素が混在した混合ガスが残存し易い。また、停止時に、外部から窒素や酸素が混入し易い。従って、起動時には、反応ガス入口連通孔から電極反応面に混合ガスが流入する一方、停止時には、反応ガス出口連通孔から前記電極反応面に前記混合ガスの逆流が惹起するおそれがある。
【0010】
従って、混合ガスが電極触媒層に最初に接触する部位で反応が起こり、前記電極触媒層の端部には、過酸化水素やラジカル等の物質が生成され易い。これにより、特に固体高分子電解質膜の局所的な劣化が発生するという問題がある。
【0011】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、混合ガスを良好に酸化還元することができ、電極反応面に劣化促進物質が供給されることを確実に阻止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電解質の両側に一対の電極が設けられた電解質・電極構造体が、一対のセパレータ間に積層され、前記電解質・電極構造体と各セパレータとの間には、それぞれ電極反応面の面方向に沿って反応ガスを供給する反応ガス流路が形成されるとともに、積層方向に貫通して前記反応ガス流路に連通する反応ガス連通孔が形成される燃料電池に関するものである。
【0013】
この燃料電池では、反応ガス連通孔と電極反応面との間には、電極とは別体に構成された酸化還元触媒層が配設されている。
【0014】
また、この燃料電池では、酸化還元触媒層は、反応ガス連通孔に隣接して電解質・電極構造体の端部に設けられることが好ましい。
【0015】
さらに、この燃料電池では、酸化還元触媒層は、絶縁部材を介装することにより電解質及び電極から電気的に絶縁されることが好ましい。
【0016】
さらにまた、この燃料電池では、酸化還元触媒層は、反応ガス連通孔に隣接してセパレータに設けられることが好ましい。
【0017】
また、この燃料電池では、酸化還元触媒層は、劣化促進物質と電解質が直接接触しないようガスバリア性を有する部材を、前記電解質と前記酸化還元触媒層との間に介装することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反応ガス連通孔と電極反応面との間には、酸化還元触媒層が配設されており、前記反応ガス連通孔から前記電極反応面側に流入する混合ガスは、前記酸化還元触媒層により酸素還元される。従って、電極反応面には、劣化促進物質が供給されることがなく、電解質、特に固体高分子電解質膜の劣化を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視図である。
【図2】前記燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図3】前記燃料電池の、図1中、III−III線断面図である。
【図4】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の、図1中、IV−IV線断面図である。
【図5】前記電解質膜・電極構造体の、図1中、V−V線断面図である。
【図6】前記電解質・電極構造体の製造方法の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視図である。
【図8】前記燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視図である。
【図12】前記燃料電池の、図11中、XII−XII線断面図である。
【図13】前記燃料電池を構成する第2セパレータの正面説明図である。
【図14】前記燃料電池の、図11中、XIV−XIV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)12と第1セパレータ14及び第2セパレータ16とが、矢印A方向(例えば、水平方向)に積層される。複数の燃料電池10が矢印A方向に積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタックが構成される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、金属セパレータ又はカーボンセパレータが使用される。
【0021】
燃料電池10は、横長形状を有し、矢印B方向の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔(反応ガス連通孔)18a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔(反応ガス連通孔)20bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0022】
燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔(反応ガス連通孔)20a、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔(反応ガス連通孔)18bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0023】
燃料電池10の矢印C方向の一端縁部(上端縁部)には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔22aが設けられるとともに、前記燃料電池10の矢印C方向の他端縁部(下端縁部)には、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔22bが設けられる。
【0024】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス流路(反応ガス流路)24が設けられる。酸化剤ガス流路24は、複数の酸化剤ガス流路溝24aを有するとともに、前記酸化剤ガス流路溝24aは、矢印B方向に延在する。酸化剤ガス流路溝24aの入口側には、入口バッファ部24bが設けられる一方、前記酸化剤ガス流路溝24aの出口側には、出口バッファ部24cが設けられる。酸化剤ガス入口連通孔18aと入口バッファ部24bとの間には、入口連結流路(ブリッジ部)26aが形成され、酸化剤ガス出口連通孔18bと出口バッファ部24cと間には、出口連結流路(ブリッジ部)26bが形成される。
【0025】
図2に示すように、第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス流路(反応ガス流路)28が設けられる。燃料ガス流路28は、酸化剤ガス流路24と同様に、矢印B方向に延在する複数の燃料ガス流路溝28aを有する。燃料ガス流路溝28aの入口側には、入口バッファ部28bが設けられる一方、前記燃料ガス流路溝28aの出口側には、出口バッファ部28cが設けられる。燃料ガス入口連通孔20aと入口バッファ部28bとの間には、入口連結流路(ブリッジ部)30aが形成され、燃料ガス出口連通孔20bと出口バッファ部28cと間には、出口連結流路(ブリッジ部)30bが形成される。
【0026】
第1セパレータ14と第2セパレータ16とは、互いに対向する面14b、16bに冷却媒体流路32を一体的に形成する(図1参照)。
【0027】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周縁部を周回して第1シール部材34が射出成形等により一体的に設けられる。第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周縁部を周回して第2シール部材36が射出成形等により一体的に設けられる。第1シール部材34及び第2シール部材36は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0028】
電解質膜・電極構造体12は、横長形状を有するとともに、矢印B方向の両端上下には、酸化剤ガス流路24及び燃料ガス流路28から酸化剤ガス入口連通孔18a、燃料ガス入口連通孔20a、酸化剤ガス出口連通孔18b及び燃料ガス出口連通孔20bに向かって突出する突出部12a、12b、12c及び12dが設けられる。突出部12a、12b、12c及び12dは、入口連結流路26a、入口連結流路30a、出口連結流路26b及び出口連結流路30bを覆って配置される。
【0029】
電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38を挟持するカソード電極40及びアノード電極42とを備える。
【0030】
図3に示すように、カソード電極40及びアノード電極42は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層40a、42aと、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子を前記ガス拡散層40a、42aの表面に一様に塗布して形成される電極触媒層40b、42bとを有する。ガス拡散層40a、42aの端部は、電極触媒層40b、42bの端部よりも外方に突出するとともに、前記電極触媒層40b、42bにより電極反応面が形成される。
【0031】
図4に示すように、電解質膜・電極構造体12の突出部12b(突出部12dも同様)では、アノード電極42側のガス拡散層42aの先端が切り欠かれることにより、カソード電極40側のガス拡散層40aよりも短尺に形成される。ガス拡散層42aの切り欠かれた端面42aeと固体高分子電解質膜38とに接して、前記端面42aeと隙間なくガスバリア性を有する保護フイルム44が配置される。保護フイルム44は、例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンナフタレート等の絶縁性材料で構成されるとともに、前記保護フイルム44には、酸化還元触媒層46と反応ガスが透過する絶縁メッシュ部材48とが積層される。
【0032】
酸化還元触媒層46は、混合ガス(O2、N2及びH2等)を捕捉して迅速に酸化還元反応(ORR)及び水素酸化反応(HOR)を進行させる必要があるため、触媒表面積が多く、酸化還元反応活性の高い触媒が好ましい。酸化還元触媒層46は、アノード電極42とは別体に構成されるとともに、図2に示すように、突出部12bでは、燃料ガス入口連通孔20aと入口バッファ部28bとの間、すなわち、入口連結流路30aに対応して配置される。酸化還元触媒層46は、突出部12dでは、燃料ガス出口連通孔20bと出口バッファ部28cとの間、すなわち、出口連結流路30bに対応して配置される。
【0033】
酸化還元触媒層46は、例えば、白金、白金担持カーボン、白金コバルト担持カーボン又は白金ニッケル担持カーボン等の触媒が使用され、前記触媒と電解質又は接着剤からなる。酸素還元反応は、(HOR)H2⇔2H++2e- 及び(ORR)1/2O2+2H++2e-→H2Oである。
【0034】
絶縁メッシュ部材48は、耐熱温度が70℃以上であり、耐酸化性及び絶縁性を有する。絶縁メッシュ部材48は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共同合体したフッ素樹脂)、PEN(ポリエチレンナフタレート)又はポリイミド等により形成される。
【0035】
酸化還元触媒層46は、絶縁部材である保護フイルム44と絶縁メッシュ部材48との間に配置されるとともに、ガス拡散層42aの切り欠かれた端面42aeから距離Sだけ離間する。酸化還元触媒層46は、固体高分子電解質膜38及びアノード電極42の電極触媒層42bから電気的に絶縁される。
【0036】
図5に示すように、電解質膜・電極構造体12の突出部12a(突出部12cも同様)では、カソード電極40側のガス拡散層40aの先端が切り欠かれることにより、アノード電極42側のガス拡散層42aよりも短尺に形成される。ガス拡散層40aの切り欠かれた端面40aeと固体高分子電解質膜38とに接して、保護フイルム44が配置される。
【0037】
酸化還元触媒層46は、絶縁部材である保護フイルム44と絶縁メッシュ部材48との間に配置されるとともに、ガス拡散層40aの切り欠かれた端面40aeから距離Sだけ離間する。酸化還元触媒層46は、カソード電極40とは別体に構成されるとともに、図1に示すように、突出部12aでは、酸化剤ガス入口連通孔18aと入口バッファ部24bとの間、すなわち、入口連結流路26aに対応して配置される。酸化還元触媒層46は、突出部12cでは、酸化剤ガス出口連通孔18bと出口バッファ部24cとの間、すなわち、出口連結流路26bに対応して配置される。
【0038】
このように構成される燃料電池10において、電解質膜・電極構造体12を製造する方法について、以下に説明する。
【0039】
先ず、図6中、(a)に示すように、長手方向両端部に切り欠き部位を有する固体高分子電解質膜38が用意される。そして、図6中、(b)に示すように、固体高分子電解質膜38の両方の面には、電極触媒層42b、40bが設けられるとともに、前記固体高分子電解質膜38の四隅である突出部12a〜12dには、それぞれ所定の面側に保護フイルム44を介装して酸化還元触媒層46が形成される。
【0040】
具体的には、電極触媒層42b、40bは、カーボンブラックに白金粒子を担持した触媒粒子を形成し、イオン導伝性バインダーとして高分子電解質を含む溶液を使用し、この高分子電解質の溶液中に前記触媒粒子を均一に混合して作製された触媒ペーストを有する。この触媒ペーストが、固体高分子電解質膜38の両面に、電極部がくり抜かれたマスクシートを介して印刷、塗布又は転写されることによって、触媒被覆膜50が構成される。高分子電解質としては、フッ素系のイオン交換膜、例えば、デュポン社製のナフィオン(商品名)が用いられる。
【0041】
次いで、図6中、(c)に示すように、触媒被覆膜50には、四隅の各酸化還元触媒層46に絶縁メッシュ部材48が設置された状態で、前記触媒被覆膜50にガス拡散層42a、40aがホットプレスにより一体化される。ここで、ガス拡散層42aは、突出部12a、12cに対応して対角位置に膨出部を有する一方、ガス拡散層40aは、突出部12b、12dに対応して対角位置に膨出部を有する。これにより、電解質膜・電極構造体12が製造される。
【0042】
さらに、電解質膜・電極構造体12の両側に、第1セパレータ14及び第2セパレータ16が配置されるとともに、締め付け荷重が付与されて燃料電池10が組み付けられる(図1及び図2参照)。
【0043】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0044】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔20aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔22aに純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0045】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路24に導入される。酸化剤ガス流路24では、酸化剤ガスが入口連結流路26aから入口バッファ部24bに導入された後、複数の酸化剤ガス流路溝24aに分散される。このため、酸化剤ガスは、各酸化剤ガス流路溝24aを介して電解質膜・電極構造体12のカソード電極40に沿って移動する。
【0046】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔20aから第2セパレータ16の燃料ガス流路28に導入される。この燃料ガス流路28では、図2に示すように、燃料ガスが入口連結流路30aから入口バッファ部28bに導入された後、複数の燃料ガス流路溝28aに分散される。さらに、燃料ガスは、各燃料ガス流路溝28aを介して電解質膜・電極構造体12のアノード電極42に沿って移動する。
【0047】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード電極40に供給される酸化剤ガスと、アノード電極42に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0048】
次いで、カソード電極40に供給されて消費された酸化剤ガスは、出口バッファ部24cから出口連結流路26bを介して酸化剤ガス出口連通孔18bに排出される。同様に、アノード電極42に供給されて消費された燃料ガスは、出口バッファ部28cから出口連結流路30bを介して燃料ガス出口連通孔20bに排出される(図2参照)。
【0049】
一方、冷却媒体入口連通孔22aに供給された冷却媒体は、第1及び第2セパレータ14、16間に形成された冷却媒体流路32に導入される(図1参照)。この冷却媒体流路32では、冷却媒体が重力方向(矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔22bに排出される。
【0050】
燃料電池10では、発電終了時に、酸化剤ガス流路24及び燃料ガス流路28に空気(酸化剤ガス)による掃気が行われている。また、燃料電池10の起動時に、燃料ガス流路28及び酸化剤ガス流路24に燃料ガスを供給する場合がある。
【0051】
このため、燃料ガス入口連通孔20a及び燃料ガス出口連通孔20bの他、酸化剤ガス入口連通孔18a及び酸化剤ガス出口連通孔18b内には、O2、N2及びH2等を含む混合ガスが存在し易い。
【0052】
そこで、第1の実施形態では、図2及び図4に示すように、電解質膜・電極構造体12を構成する突出部12bでは、燃料ガス入口連通孔20aと入口バッファ部28bとの間、すなわち、入口連結流路30aに対応して酸化還元触媒層46が配設されている。このため、燃料ガス入口連通孔20aから燃料ガス流路28(電極反応面側)に流入する混合ガスは、酸化還元触媒層46により酸素が還元され、水素が酸化されることにより混合ガスがなくなる。
【0053】
しかも、酸化還元触媒層46は、燃料ガス入口連通孔20aに最も隣接する入口連結流路30aに対応して配置されている。従って、燃料ガス入口連通孔20aから流入した混合ガスは、入口バッファ部28bで拡散する前に狭小な領域内で確実に捕捉することができる。その上、酸化還元触媒層46は、電極触媒層42bから比較的長い距離を確保することが可能になり、イオン伝導の影響を抑制することができる。
【0054】
これにより、燃料ガス流路28に劣化促進物質、例えば、過酸化水素が供給されることを可及的に阻止することが可能になる。このため、アノード電極42を構成する電極触媒層42b及び固体高分子電解質膜38の劣化を良好に抑制することができるという効果が得られる。
【0055】
さらに、図4に示すように、酸化還元触媒層46は、絶縁部材である保護フイルム44と絶縁メッシュ部材48との間に配置されるとともに、ガス拡散層42aの切り欠かれた端面42aeから距離Sだけ離間している。従って、酸化還元触媒層46は、固体高分子電解質膜38及びアノード電極42の電極触媒層42bから実質的に電流が流れない程度に電気的に確実に絶縁されるという利点がある。
【0056】
また、電解質膜・電極構造体12を構成する突出部12dにも同様に、酸化還元触媒層46は、燃料ガス出口連通孔20bと出口バッファ部28cとの間、すなわち、出口連結流路30bに対応して配置されている。これにより、燃料ガス出口連通孔20bから燃料ガス流路28に逆流した混合ガスは、酸化還元触媒層46により確実に捕捉されて酸化還元処理が施される。このため、燃料ガス流路28に劣化促進物質、例えば、過酸化水素が供給されることがなく、電極触媒層42b及び固体高分子電解質膜38の劣化を良好に抑制することができるという効果が得られる。
【0057】
一方、突出部12aでは、図1及び図5に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aと入口バッファ部24bとの間、すなわち、入口連結流路26aに対応して酸化還元触媒層46が配置されるとともに、突出部12cでは、酸化剤ガス出口連通孔18bと出口バッファ部24cとの間、すなわち、出口連結流路26bに対応して前記酸化還元触媒層46配置されている。従って、酸化剤ガス流路24では、上記の燃料ガス流路28と同様の効果が得られる。
【0058】
図7に示すように、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池60は、第1セパレータ14と第2セパレータ16の間に、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)62を挟持する。
【0059】
電解質膜・電極構造体62は、横長形状を有するとともに、矢印B方向の両端上下には、入口連結流路26a、入口連結流路30a、出口連結流路26b及び出口連結流路30bに向かって突出する突出部62a、62b、62c及び62dが設けられる。突出部62a、62b、62c及び62dは、入口バッファ部24b、入口バッファ部28b、出口バッファ部24c及び出口バッファ部28cの一部を覆って配置される。
【0060】
突出部62a、62b、62c及び62dには、第1の実施形態と同様に酸化還元触媒層46が配設される。酸化還元触媒層46は、図7及び図8に示すように、入口バッファ部24b、入口バッファ部28b、出口バッファ部24c及び出口バッファ部28cの一部を覆って入口連結流路26a、入口連結流路30a、出口連結流路26b及び出口連結流路30bに隣接する位置に配置される。
【0061】
酸化還元触媒層46は、実質的に連結流路幅と略同一のバッファ領域に設定される(図8参照)。
【0062】
このように構成される第2の実施形態では、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、反応面積を有効に確保することができるという利点がある。
【0063】
図9に示すように、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池では、酸化還元触媒層46は、バッファ領域全域に設けられており、図10に示すよう、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池では、酸化還元触媒層46は、バッファ領域全域及び連結流路全域に設けられている。従って、第3及び第4の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
図11に示すように、本発明の第5の実施形態に係る燃料電池70は、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)72と第1セパレータ74及び第2セパレータ76とが、矢印A方向(例えば、水平方向)に積層される。
【0065】
第1セパレータ74は、入口連結流路26a及び出口連結流路26bを覆って酸化還元触媒層78を設ける(図11及び図12参照)。酸化還元触媒層78は、第1セパレータ74の表面に、例えば、白金を蒸着することにより形成される。なお、蒸着の他、めっきやインクジェット等による塗布方式も採用可能である。第1セパレータ74と酸化還元触媒層78との間には、絶縁層(図示せず)が設けられる。
【0066】
第2セパレータ76は、図13に示すように、入口連結流路30a及び出口連結流路30bを覆って酸化還元触媒層78を設ける。酸化還元触媒層78は、第2セパレータ76の表面に、例えば、白金を蒸着することにより形成される(図14参照)。なお、第2セパレータ76と酸化還元触媒層78との間には、絶縁層(図示せず)が設けられる。
【0067】
電解質膜・電極構造体72は、横長形状を有するとともに、矢印B方向の両端上下には、酸化剤ガス入口連通孔18a、燃料ガス入口連通孔20a、酸化剤ガス出口連通孔18b及び燃料ガス出口連通孔20bに向かって突出する突出部72a、72b、72c及び72dが設けられる。突出部72a、72b、72c及び72dには、酸素還元触媒層等が設けられていない。
【0068】
このように構成される第5の実施形態では、第1セパレータ74及び第2セパレータ76に酸化還元触媒層78が設けられており、前記酸化還元触媒層78により混合ガスの酸素還元処理が行われている。これにより、第5の実施形態は、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0069】
なお、第5の実施形態では、酸化還元触媒層78が入口連結流路26a、入口連結流路30a、出口連結流路26b及び出口連結流路30bを覆って配置されているが、これに限定されるものではない。例えば、第2の実施形態と同様に、酸化還元触媒層78が入口バッファ部24b、入口バッファ部28b、出口バッファ部24c及び出口バッファ部28cの一部を覆って配置されていてもよい。
【0070】
また、電解質膜・電極構造体72では、突出部72a、72b、72c及び72dに、例えば、過酸化水素による電極触媒層42b及び固体高分子電解質膜38の劣化を良好に抑制するため、酸化還元触媒層78と電気的に絶縁を図るための絶縁部材(図示せず)を膜と触媒層との間に配設してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10、60、70…燃料電池 12、62、72…電解質膜・電極構造体
12a、12b、12c、12d、62a、62b、62c、62d、72a、72b、72c、72d…突出部
14、16、74、76…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…燃料ガス入口連通孔
20b…燃料ガス出口連通孔 22a…冷却媒体入口連通孔
22b…冷却媒体出口連通孔 24b、28b…入口バッファ部
24c、28c…出口バッファ部 26a、30a…入口連結流路
26b、30b…出口連結流路 28…燃料ガス流路
32…冷却媒体流路 38…固体高分子電解質膜
40…カソード電極 42…アソード電極
40a、42a…ガス拡散層 40b、42b…電極触媒層
44…保護フイルム 46、78…酸化還元触媒層
48…絶縁メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質の両側に一対の電極が設けられた電解質・電極構造体が、一対のセパレータ間に積層され、前記電解質・電極構造体と各セパレータとの間には、それぞれ電極反応面の面方向に沿って反応ガスを供給する反応ガス流路が形成されるとともに、積層方向に貫通して前記反応ガス流路に連通する反応ガス連通孔が形成される燃料電池であって、
前記反応ガス連通孔と前記電極反応面との間には、前記電極とは別体に構成された酸化還元触媒層が配設されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記酸化還元触媒層は、前記反応ガス連通孔に隣接して前記電解質・電極構造体の端部に設けられることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池において、前記酸化還元触媒層は、絶縁部材を介装することにより前記電解質及び前記電極から電気的に絶縁されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池において、前記酸化還元触媒層は、前記反応ガス連通孔に隣接して前記セパレータに設けられることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項2記載の燃料電池において、前記酸化還元触媒層は、劣化促進物質と前記電解質が直接接触しないようガスバリア性を有する部材を、前記電解質と前記酸化還元触媒層との間に介装することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−182093(P2012−182093A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45836(P2011−45836)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】