説明

燃料電池

【課題】燃料ガスと酸化剤ガスとが対向流となる固体高分子型燃料電池において、ドライアップを抑制する。
【解決手段】燃料電池100において、カソード側触媒層14は、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の第1の領域(領域Ra;高触媒密度触媒層14a)における単位面積当たりの触媒の重量が、第1の領域以外の第2の領域(領域Rb;低触媒密度触媒層14b)における単位面積当たりの触媒の重量よりも多くなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、詳しくは、固体高分子型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガス(例えば、水素)と酸化剤ガス(例えば、酸素)との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池には、電解質膜として固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池がある。そして、この固体高分子型燃料電池では、所望の発電性能を得るために、電解質膜を適正な湿潤状態に維持し、電解質膜のプロトン伝導性を適正に保つ必要がある。
【0003】
ところで、従来、固体高分子型燃料電池について、アノードに供給される燃料ガスとカソードに供給される酸化剤ガスとが対向流となるように、燃料ガス流路、および、酸化剤ガス流路を備える構成が知られている(例えば、下記特許文献1,2参照)。そして、燃料電池において、燃料ガスと酸化剤ガスとを対向流とすることによって、発電によって生成された生成水を、電解質膜を介して、アノードとカソードとの間で内部循環させ、加湿器を用いることなく、電解質膜の加湿(自己加湿)を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−186671号公報
【特許文献2】特開2010−097744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した燃料ガスと酸化剤ガスとが対向流となる燃料電池では、酸化剤ガスの流れ方向についての上流部、すなわち、燃料ガスの流れ方向についての下流部において、電解質膜が比較的乾燥しやすく、ドライアップ(電解質膜の乾燥による発電性能の低下)が生じやすくなることが知られている(例えば、上記特許文献2参照)。そして、従来技術では、ドライアップ、特に、燃料電池の高温運転時のドライアップについて、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料ガスと酸化剤ガスとが対向流となる固体高分子型燃料電池において、ドライアップを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池であって、
固体高分子からなる電解質膜の両面に、それぞれ、アノード側触媒層と、カソード側触媒層とを接合してなる膜電極接合体と、
前記アノード側触媒層の表面に沿って、第1の方向に燃料ガスを流すための燃料ガス流路と、
前記カソード側触媒層の表面に沿って、前記第1の方向と対向する第2の方向に酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路と、
を備え、
前記カソード側触媒層は、前記酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の第1の領域における単位面積当たりの触媒の重量が、前記第1の領域以外の第2の領域における単位面積当たりの触媒の平均重量よりも多くなるように形成されている、
燃料電池。
【0009】
ここで、「触媒の重量」、「触媒の平均重量」は、設計値であり、製造誤差を含む。
【0010】
適用例1の燃料電池では、カソード側触媒層を上記構成とすることによって、上記第1の領域における単位面積当たりの発電量を、上記第2の領域における単位面積当たりの発電量よりも増大させ、発電(カソード反応)による生成水の生成量を増大させることができる。したがって、この第1の領域で生成された生成水によって、電解質膜が比較的乾燥しやすい酸化剤ガスの流れ方向についての上流部の乾燥を抑制し、ドライアップを抑制することができる。
【0011】
さらに、本適用例の燃料電池によれば、カソード側触媒層全体における触媒の総重量を増量することなく、発電性能を向上させることができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、
前記第1の領域は、前記酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の25(%)以下の範囲の領域である、
燃料電池。
【0013】
ここで、「酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の25(%)」とは、「酸化剤ガスの導入口から排出口までの距離の25(%)」を意味している。
【0014】
適用例2の燃料電池によって、第1の領域で生成された生成水によって、電解質膜が比較的乾燥しやすい酸化剤ガスの流れ方向についての上流部の乾燥を効果的に抑制し、ドライアップを効果的に抑制することができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または2記載の燃料電池であって、
前記カソード側触媒層は、
前記第1の領域の全面に設けられ、単位面積当たりの触媒の重量が、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の平均値よりも高い高触媒密度触媒層と、
前記第2の領域の全面に設けられ、単位面積当たりの触媒の重量が、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の平均値よりも低い低触媒密度触媒層と、
を備える燃料電池。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の領域における単位面積当たりの触媒の重量は、前記第2の領域における単位面積当たりの触媒の重量の1.5倍以上である、
燃料電池。
【0017】
[適用例5]
適用例1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第2の領域における単位面積当たりの触媒の重量は、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の0.83倍以下である、
燃料電池。
【0018】
本発明は、上述の燃料電池の発明としての構成の他、燃料電池に用いられる膜電極接合体の発明、燃料電池の製造方法、燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法の発明として構成することもできる。なお、それぞれの態様において、先に示した種々の付加的要素を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。
【図2】比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における各種分布を示す説明図である。
【図3】比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100におけるセル電圧のセル温度依存性を示す説明図である。
【図4】本発明の第2実施例としての燃料電池100Aの概略構成を示す説明図である。
【図5】比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける各種分布を示す説明図である。
【図6】比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおけるセル電圧のセル温度依存性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。図1(a)に、燃料電池100の断面構造を模式的に示した。また、図1(b)に、後述するカソード側触媒層14の概略平面図を示した。
【0021】
図1(a)に示したように、燃料電池100は、膜電極接合体10のカソード側の表面、および、アノード側の表面に、それぞれ、カソード側ガス拡散層20、および、アノード側ガス拡散層30を接合し、これらを、カソード側セパレータ50、および、アノード側セパレータ70で挟持することによって構成されている。
【0022】
膜電極接合体10は、固体高分子からなり、プロトン伝導性を有する電解質膜12の両面に、それぞれ、カソード側触媒層14と、アノード側触媒層16とを接合することによって構成されている。カソード側触媒層14、および、アノード側触媒層16は、それぞれ、例えば、アイオノマ(例えば、ナフィオン(登録商標))と、触媒(例えば、白金)を担持した担体(例えば、カーボンブラック)と、分散媒(例えば、エタノール)とを所定の割合で混合したペーストを、電解質膜12の表面に塗工して乾燥させることによって形成される。
【0023】
なお、本実施例では、電解質膜12として、ナフィオン(登録商標)を用いるものとした。電解質膜12として、プロトン伝導性を有する他の固体高分子膜を用いるものとしてもよい。また、本実施例では、カソード側ガス拡散層20、および、アノード側ガス拡散層30として、カーボンクロスを用いるものとした。カソード側ガス拡散層20、および、アノード側ガス拡散層30として、カーボンペーパ等、ガス拡散性、および、導電性を有する他の材料を用いるものとしてもよい。また、カソード側セパレータ50、および、アノード側セパレータ70としては、カーボンや、金属など、導電性を有する種々の材料を適用可能である。
【0024】
カソード側ガス拡散層20とカソード側セパレータ50との間には、酸化剤ガス流路40が形成されている。本実施例では、酸化剤ガス流路40は、カソード側セパレータ50におけるカソード側ガス拡散層20と当接する側の表面に溝およびリブ(符号省略)を設けることによって形成されている。また、アノード側ガス拡散層30とアノード側セパレータ70との間には、燃料ガス流路60が形成されている。本実施例では、燃料ガス流路60は、アノード側セパレータ70におけるアノード側ガス拡散層30と当接する側の表面に溝およびリブ(符号省略)を設けることによって形成されている。なお、燃料電池100において、酸化剤ガス流路40、および、燃料ガス流路60は、酸化剤ガスと燃料ガスとが対向流となるように形成されている。
【0025】
また、図1(b)に示したように、カソード側触媒層14は、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の10(%)の領域Raにおける単位面積当たりの触媒の重量(以下、「触媒目付け量」とも言う)が、領域Ra以外の領域Rbにおける単位面積当たりの触媒の重量よりも多くなるように形成されている。すなわち、カソード側触媒層14は、領域Raの全面に設けられ、触媒目付け量がカソード側触媒層14全体における触媒目付け量の平均値(以下、「平均目付け量」とも言う)よりも高い高触媒密度触媒層14aと、領域Rbの全面に設けられ、触媒目付け量が平均目付け量よりも低い低触媒密度触媒層14bと、を備えている。領域Raは、課題を解決するための手段における第1の領域に相当する。また、領域Rbは、課題を解決するための手段における第2の領域に相応する。
【0026】
本実施例では、高触媒密度触媒層14aにおける触媒目付け量は、高触媒密度触媒層14aの全体(厚さ方向、面方向)において均一であり、0.25(mg/cm)とした。また、低触媒密度触媒層14bにおける触媒目付け量は、低触媒密度触媒層14bの全体において均一であり、0.083(mg/cm)とした。この場合、カソード側触媒層14全体における触媒目付け量の平均値は、約0.1(mg/cm)である。そして、高触媒密度触媒層14aにおける触媒目付け量は、低触媒密度触媒層14bにおける触媒目付け量の約3倍であり、また、平均目付け量の約2.5倍である。
【0027】
A2.実施例の効果:
本実施例の燃料電池100と比較例の燃料電池とを比較することによって、本実施例の燃料電池100の効果について説明する。なお、図示は省略するが、比較例の燃料電池の構成は、カソード側触媒層の構成を除き、図1に示した本実施例の燃料電池100の構成と同じである。そして、比較例の燃料電池では、カソード側触媒層の触媒目付け量が全体(厚さ方向、面方向)において均一であり、0.1(mg/cm)である。したがって、比較例の燃料電池のカソード側触媒層全体における触媒の総重量は、本実施例の燃料電池100のカソード側触媒層14全体における触媒の総重量とほぼ等しい。
【0028】
図2は、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における各種分布を示す説明図である。図2(a)に、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における燃料ガス、および、酸化剤ガスの流れ方向についての電流密度分布を示した。また、図2(b)に、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における酸化剤ガス流路40における酸化剤ガスの流れ方向についての湿度分布を示した。また、図2(c)に、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における燃料ガス流路60における燃料ガスの流れ方向についての湿度分布を示した。また、図2(d)に、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100における燃料ガス、および、酸化剤ガスの流れ方向についてのセル抵抗分布を示した。なお、図示した各分布は、それぞれ、セル温度が90(℃)であるときの分布を示している。また、図3は、比較例の燃料電池、および、第1実施例の燃料電池100におけるセル電圧のセル温度依存性を示す説明図である。
【0029】
図2(a)に示したように、第1実施例の燃料電池100では、酸化剤ガスの流れ方向についての中流領域および下流領域においては、カソード側触媒層14(低触媒密度触媒層14b)における触媒目付け量が比較例の燃料電池よりも少ないため、電流密度、すなわち、単位面積当たりの発電量が比較例の燃料電池よりも低下した。一方、酸化剤ガスの流れ方向についての上流領域においては、カソード側触媒層14(高触媒密度触媒層14a)における触媒目付け量が比較例の燃料電池よりも多いため、電流密度、すなわち、単位面積当たりの発電量が比較例の燃料電池よりも増大した。これにより、酸化剤ガスの流れ方向についての上流領域において、生成水の生成量が増大し、図2(b)に示したように、酸化剤ガス流路40における相対湿度がほぼ全領域に亘って比較例の燃料電池よりも増大した。また、図2(c)に示したように、燃料ガス流路60における相対湿度も全領域に亘って、特に、燃料ガスの流れ方向についての下流部(酸化剤ガスの流れ方向についての上流部)において、比較例の燃料電池よりも増大した。そして、図2(d)に示したように、全領域において、セル抵抗が比較例の燃料電池よりも低下した。この結果、図3に示したように、少なくともセル温度が70〜90(℃)の範囲内で、セル電圧が比較例の燃料電池よりも増大した。つまり、第1実施例の燃料電池100では、カソード側触媒層14全体における触媒の総重量が比較例の燃料電池とほぼ等しいにも関らず、発電性能が比較例の燃料電池よりも向上した。
【0030】
以上説明した第1実施例の燃料電池100によれば、領域Ra(高触媒密度触媒層14a)における単位面積当たりの発電量を、領域Rb(低触媒密度触媒層14b)における単位面積当たりの発電量よりも増大させ、発電(カソード反応)による生成水の生成量を増大させることができる。したがって、この領域Raで生成された生成水によって、電解質膜12が比較的乾燥しやすい酸化剤ガスの流れ方向についての上流部の乾燥を抑制し、ドライアップを抑制することができる。
【0031】
さらに、カソード側触媒層14に使用する触媒の総重量を所定量に規定した場合、カソード側触媒層14の全面において単位面積当たりの触媒の重量を均一とするよりも、本実施例の構成とすることによって、燃料電池の発電性能が向上することが見出された(図3参照)。つまり、本実施例の燃料電池100によれば、カソード側触媒層14全体における触媒の総重量を増量することなく、発電性能を向上させることができる。
【0032】
B.第2実施例:
B1.燃料電池の構成:
図4は、本発明の第2実施例としての燃料電池100Aの概略構成を示す説明図である。図4(a)に、燃料電池100Aの断面構造を模式的に示した。また、図4(b)に、後述するカソード側触媒層14Aの概略平面図を示した。
【0033】
図4(a)に示したように、燃料電池100Aは、第1実施例の燃料電池100と同様に、膜電極接合体10Aのカソード側の表面、および、アノード側の表面に、それぞれ、カソード側ガス拡散層20、および、アノード側ガス拡散層30を接合し、これらを、カソード側セパレータ50、および、アノード側セパレータ70で挟持することによって構成されている。なお、膜電極接合体10Aは、第1実施例の膜電極接合体10におけるカソード側触媒層14の代わりに、カソード側触媒層14Aを備えることを除き、膜電極接合体10と同じである。
【0034】
また、図4(b)に示したように、カソード側触媒層14Aは、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の25(%)の領域RAaにおける触媒目付け量が、領域RAa以外の領域RAbにおける単位面積当たりの触媒目付け量よりも多くなるように形成されている。すなわち、カソード側触媒層14Aは、領域RAaの全面に設けられ、触媒目付け量がカソード側触媒層14A全体における触媒目付け量の平均値(以下、「平均目付け量」とも言う)よりも高い高触媒密度触媒層14Aaと、領域Rbの全面に設けられ、触媒目付け量が平均目付け量よりも低い低触媒密度触媒層14Abと、を備えている。領域RAaは、課題を解決するための手段における第1の領域に相当する。また、領域RAbは、課題を解決するための手段における第2の領域に相応する。
【0035】
本実施例では、高触媒密度触媒層14Aaにおける触媒目付け量は、高触媒密度触媒層14Aaの全体(厚さ方向、面方向)において均一であり、0.15(mg/cm)とした。また、低触媒密度触媒層14Abにおける触媒目付け量は、低触媒密度触媒層14Abの全体において均一であり、0.083(mg/cm)とした。この場合、カソード側触媒層14A全体における触媒目付け量の平均値は、約0.1(mg/cm)である。そして、高触媒密度触媒層14Aaにおける触媒目付け量は、低触媒密度触媒層14Abにおける触媒目付け量の約1.8倍であり、また、平均目付け量の約1.5倍である。
【0036】
B2.実施例の効果:
本実施例の燃料電池100Aと比較例の燃料電池とを比較することによって、本実施例の燃料電池100Aの効果について説明する。なお、この比較例の燃料電池は、先に第1実施例で説明した比較例の燃料電池と同じである。
【0037】
図5は、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける各種分布を示す説明図である。図5(a)に、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける燃料ガス、および、酸化剤ガスの流れ方向についての電流密度分布を示した。また、図5(b)に、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける酸化剤ガス流路40における酸化剤ガスの流れ方向についての湿度分布を示した。また、図5(c)に、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける燃料ガス流路60における燃料ガスの流れ方向についての湿度分布を示した。また、図5(d)に、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおける燃料ガス、および、酸化剤ガスの流れ方向についてのセル抵抗分布を示した。なお、図示した各分布は、それぞれ、セル温度が90(℃)であるときの分布を示している。また、図6は、比較例の燃料電池、および、第2実施例の燃料電池100Aにおけるセル電圧のセル温度依存性を示す説明図である。
【0038】
図5(a)に示したように、第2実施例の燃料電池100Aでは、酸化剤ガスの流れ方向についての中流領域および下流領域においては、カソード側触媒層14A(低触媒密度触媒層14Ab)における触媒目付け量が比較例の燃料電池よりも少ないため、電流密度、すなわち、単位面積当たりの発電量が比較例の燃料電池よりも低下した。一方、酸化剤ガスの流れ方向についての上流領域においては、カソード側触媒層14A(高触媒密度触媒層14Aa)における触媒目付け量が比較例の燃料電池よりも多いため、電流密度、すなわち、単位面積当たりの発電量が比較例の燃料電池よりも増大した。これにより、酸化剤ガスの流れ方向についての上流領域において、生成水の生成量が増大し、図5(b)に示したように、酸化剤ガス流路40における相対湿度がほぼ全領域に亘って比較例の燃料電池よりも増大した。また、図5(c)に示したように、燃料ガス流路60における相対湿度もほぼ全領域に亘って比較例の燃料電池よりも増大した。そして、図5(d)に示したように、全領域において、セル抵抗が比較例の燃料電池よりも低下した。この結果、図6に示したように、少なくともセル温度が70〜90(℃)の範囲内で、セル電圧が比較例の燃料電池よりも増大した。つまり、第2実施例の燃料電池100Aにおいても、第1実施例の燃料電池100と同様に、カソード側触媒層14A全体における触媒の総重量が比較例の燃料電池とほぼ等しいにも関らず、発電性能が比較例の燃料電池よりも向上した。
【0039】
以上説明した第2実施例の燃料電池100Aによっても、第1実施例の燃料電池100と同様に、領域RAa(高触媒密度触媒層14Aa)における単位面積当たりの発電量を、領域RAb(低触媒密度触媒層14Ab)における単位面積当たりの発電量よりも増大させ、発電(カソード反応)による生成水の生成量を増大させることができる。したがって、この領域RAaで生成された生成水によって、電解質膜12が比較的乾燥しやすい酸化剤ガスの流れ方向についての上流部の乾燥を抑制し、ドライアップを抑制することができる。また、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0040】
なお、図5と図2との比較から分かるように、第2実施例の燃料電池100Aと第1実施例の燃料電池100とでは、第1実施例の燃料電池100の方が、ドライアップを抑制する効果が高い。また、図6と図3との比較から分かるように、第2実施例の燃料電池100Aと第1実施例の燃料電池100とでは、第1実施例の燃料電池100の方が、発電性能を向上させる効果が高い。これらのことから、カソード側触媒層に使用する触媒の総重量を所定量に規定する場合、高触媒密度触媒層を形成する領域を、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の比較的狭い範囲の領域に限定するとともに、高触媒密度触媒層における触媒目付け量を多くすることが好ましいことが分かる。
【0041】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0042】
C1.変形例1:
例えば、上記第1実施例の燃料電池100では、カソード側触媒層14は、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の10(%)の領域Ra(高触媒密度触媒層14a)における触媒目付け量が、領域Ra以外の領域Rb(低触媒密度触媒層14b)における触媒目付け量よりも多くなるように形成されているものとしたが、本発明は、これに限られない。本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスとが対向流となる固体高分子型燃料電池において、カソード側触媒層が、酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の第1の領域における触媒目付け量が、第1の領域以外の第2の領域における触媒目付け量よりも多くなるように形成されていればよい。
【0043】
C2.変形例2:
例えば、上記第1実施例の燃料電池100では、領域Ra(高触媒密度触媒層14a)、および、領域Rb(低触媒密度触媒層14b)において、それぞれ、触媒目付け量が均一であるものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、高触媒密度触媒層14a、および、低触媒密度触媒層14bの面内において、それぞれ、触媒目付け量が連続的あるいは段階的に変化するようにしてもよい。
【0044】
C3.変形例3:
上記実施例では、カソード側セパレータ50における、カソード側ガス拡散層20と当接する側の表面に設けられた溝およびリブによって、酸化剤ガス流路40を形成するものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、カソード側セパレータ50の代わりに、カソード側ガス拡散層20と当接する側の表面が平らなセパレータを用い、このセパレータとカソード側ガス拡散層20との間に金属多孔体やエキスパンドメタル等の導電性およびガス透過性を有する部材を挟むことによって、酸化剤ガス流路を形成するようにしてもよい。このことは、アノード側セパレータ70、および、燃料ガス流路60についても同様である。
【符号の説明】
【0045】
10,10A…膜電極接合体
12…電解質膜
14,14A…カソード側触媒層
14a,14Aa…高触媒密度触媒層
14b,14Ab…低触媒密度触媒層
16…アノード側触媒層
20…カソード側ガス拡散層
30…アノード側ガス拡散層
40…酸化剤ガス流路
50…カソード側セパレータ
60…燃料ガス流路
70…アノード側セパレータ
100,100A…燃料電池
Ra,RAa…領域(第1の領域)
Rb,RAb…領域(第2の領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
固体高分子からなる電解質膜の両面に、それぞれ、アノード側触媒層と、カソード側触媒層とを接合してなる膜電極接合体と、
前記アノード側触媒層の表面に沿って、第1の方向に燃料ガスを流すための燃料ガス流路と、
前記カソード側触媒層の表面に沿って、前記第1の方向と対向する第2の方向に酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路と、
を備え、
前記カソード側触媒層は、前記酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の第1の領域における単位面積当たりの触媒の重量が、前記第1の領域以外の第2の領域における単位面積当たりの触媒の平均重量よりも多くなるように形成されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記第1の領域は、前記酸化剤ガスの流れ方向についての上流側の25(%)以下の範囲の領域である、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池であって、
前記カソード側触媒層は、
前記第1の領域の全面に設けられ、単位面積当たりの触媒の重量が、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の平均値よりも高い高触媒密度触媒層と、
前記第2の領域の全面に設けられ、単位面積当たりの触媒の重量が、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の平均値よりも低い低触媒密度触媒層と、
を備える燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第1の領域における単位面積当たりの触媒の重量は、前記第2の領域における単位面積当たりの触媒の重量の1.5倍以上である、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記第2の領域における単位面積当たりの触媒の重量は、前記カソード側触媒層全体における単位面積当たりの触媒の重量の0.83倍以下である、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−186105(P2012−186105A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49895(P2011−49895)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】