説明

燃料電池

【課題】排水性を向上させるために、流路端部を閉塞した櫛歯状の分岐流路を交互に有する燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池は、ガス流入流路48inとガス流出流路48outとを交互に並べて備え、両流路の両側に枝状に複数の閉塞状の凹所49aと凹所49bを有する。凹所49aは、ガス流入流路48inを流れる空気に対して、ガスの分流を起こす側に傾斜してガス流入流路48inから延びている。凹所49bは、ガス流出流路48outを流れる空気に対して上流側からのガスの合流を起こす側に傾斜してガス流出流路48outから延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(例えば、水素)と酸化剤ガス(例えば、酸素)との電気化学反応によって発電する。この燃料電池は、概ね、電解質膜(例えば、プロトン伝導性を有する固体高分子膜)の両膜面にアノードとカソードの電極を形成した膜電極接合体(発電体)を、ガス拡散層を介在させた上でセパレーターで挟持して構成される。
【0003】
このような燃料電池において、ガスの利用率を向上させて電池性能を向上させるための種々の提案がなされてきた。その一つとして、燃料ガスあるいは酸化ガスの流路の形状を、櫛歯状に分岐して流路末端で閉塞された複数の流路を、閉塞側が互い違いになるように交互に配列する構成が提案されている(例えば、特許文献1)。このような流路構成の燃料電池では、供給されたガスは、まず、ガス入口側が開放されて末端が閉塞された流路に流入する。この流路に流入したガスは、流路末端の閉塞により、流路間のリブが当接するガス拡散層を透過して、隣の流路に流入する。この隣の流路は、先の流路とは逆にガス入口側で閉塞されガス出口側で解放されていることから、当該隣の流路に流入したガスは、ガス拡散層の表面に沿って流しつつガス排出を行うので、ガス拡散層全体にガスが行き渡る効率が高まり、電極面全体でガス利用率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−296198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような流路端部を閉塞した櫛歯状の分岐流路を交互に有する燃料電池にあっては、ガス利用率の向上により電池性能の向上が期待できるものの、次のような問題点が指摘されるに到った。カソード側では、電気化学反応により水が生成され、その生成水は、流路を流れるガスに運ばれて、閉塞した流路末端に貯まることになる。こうして流路末端に貯まった生成水は、流路末端付近のガス拡散層をガスと同様に透過して隣の流路に達して電池外部に排出される。こうした生成水の移動は、隣り合う流路の静圧差によりもたらされるので、ガス拡散層での生成水移動にはある程度の時間が掛かる。このため、生成水が全て貯まって生成水移動が起きる流路末端付近では、この生成水移動の間にあっては、生成水が入り込んだ範囲のガス拡散層ではガス拡散が生成水により阻害され、有効発電面積の低減を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、流路端部を閉塞した櫛歯状の分岐流路を交互に有する燃料電池において、水の排水性の向上に寄与する新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:燃料電池]
電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の少なくとも一方の電極面に設けられたガス拡散層と、該ガス拡散層に電気化学反応に供される反応ガスを供給するガス流路とを有する燃料電池であって、
前記ガス流路は、
前記反応ガスの供給用のガス供給マニホールドの側から櫛歯状に分岐して流路末端で閉塞され、前記ガス供給マニホールドから流入した前記反応ガスを前記ガス拡散層の表面に沿って流す複数のガス流入流路と、
ガス排出用のガス排出マニホールドの側から櫛歯状に分岐して前記ガス流入流路の隣に並んで流路端部で閉塞され、前記ガス流入流路から前記ガス拡散層を透過したガスを受け取って、該ガスを前記ガス拡散層の表面に沿って流しつつ前記ガス排出マニホールドに流出させる複数のガス流出流路と、
前記ガス流入流路を流れるガスの分流を起こす側に傾斜して前記ガス流入流路から延びた閉塞状の流入流路凹所とを備える
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える燃料電池では、ガス供給マニホールドから流入した反応ガスを複数のガス流入流路に入り込ませる。当該流路は末端で閉塞されているので、ガス流入流路に入り込んだ反応ガスは、ガス拡散層を透過して隣のガス流出流路に入り込む。こうしてガス流出流路に入り込んだ反応ガスは、ガス拡散層の表面に沿って流れつつガス排出マニホールドから流出される。そして、反応ガスは、ガス流入流路を通過する際と、ガス拡散層を透過する際、および、ガス流出流路を通過する際に、ガス拡散層を経て膜電極接合体に供給される。
【0010】
上記構成を備える燃料電池では、ガス流入流路に入り込んだ水(例えば、生成水)を、上記したガス供給に伴って次のようにして排出する。ガス流入流路には、ガスの分流を起こす側に傾斜してガス流入流路から延びた閉塞状の流入流路凹所が存在することから、ガス流入流路に沿ってガスにより運ばれる水は、ガスの分流に乗って流入流路凹所に入り込んで当該凹所に貯まると共に、閉塞された流路末端(以下、流路閉塞末端)にも貯まる。そして、流入流路凹所と流路閉塞末端とに貯まった水は、隣り合う流路の静圧差により、ガス流入流路からガス拡散層を透過してその隣のガス流出流路に入り込み、このガス流出流路に沿って運ばれて排出される。つまり、上記構成を備える燃料電池では、水が貯まる箇所(以下、水貯留箇所)を流路閉塞末端と流入流路凹所とに分散して、流路閉塞末端と流入流路凹所の水貯留箇所での水が貯まる量を低減できる。この結果、上記構成を備える燃料電池によれば、水移動に要する時間の短縮化とこれに伴う排水性の向上を図ることができるほか、ガス拡散層に水が留まることの抑制を通した電池性能の維持も可能となる。
【0011】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記流入流路凹所を、前記ガス流入流路の複数箇所において前記ガス流入流路から延びるようにできる。こうすれば、水貯留箇所の分散が進み、各水貯留箇所で貯まる水の量もより少なくできるので、更なる排水性の向上を図ることができる。この場合、前記流入流路凹所を、前記ガス流入流路の両側において前記ガス流入流路から延びるようにすれば、ガス流入流路からのガスの分流がより進むので効果的である。
【0012】
また、前記流入流路凹所を、前記ガス流入流路のガスの流れ方向に対して下流側から90°未満の傾斜角度で傾斜して前記ガス流入流路から延びるようにもできる。こうすれば、ガス流入流路に沿って流れるガスの分流がより確実に起きるので、水移動に要する時間の短縮化と排水性の向上の実効性を高めることができる。
【0013】
この他、前記ガス流出流路を流れるガスに対して上流側からのガスの合流を起こす側に傾斜して前記ガス流出流路から延びた閉塞状の流出流路凹所を備えるようにすることもできる。この態様では、次の利点がある。
【0014】
ガス流出流路に沿ってガスが流れる場合、ガス流出流路から延びた閉塞状の流出流路凹所では、ガス流出流路に沿ったガス通過に伴い、負圧が発生する。ガス流出流路と当該流路から延びた流出流路凹所とには、そのガス流出流路の隣のガス流入流路から水がガス拡散層を透過して流れ込むことになるが、流出流路凹所では上記の負圧により水がガス拡散層から吸引されることになる。そして、流出流路凹所に流れ込んだ水は、ガス流出流路に沿って流れるガスに引かれてガス流出流路のガスに合流して当該流路に沿って運ばれるので、流出流路凹所に留まることはない。この結果、上記の態様によれば、水移動に要する時間の更なる短縮化を図ることができ、排水性をより高めることができる。
【0015】
また、前記流出流路凹所を、前記ガス流出流路の複数箇所において前記ガス流出流路から延びるにできる。こうすれば、上記したような負圧による水の吸引が複数の流出流路凹所で起きることから、水移動に要する時間のより一層の短縮化と、排水性の更なる向上とを図ることができる。この場合、前記流出流路凹所を、前記ガス流出流路の両側において前記ガス流出流路から延びるようにすれば、流出流路凹所からガス流出流路へのガスの合流がより進むので効果的である。
【0016】
また、前記流出流路凹所を、前記ガス流出流路のガスの流れ方向に対して上流側から90°未満の傾斜角度で傾斜して前記ガス流出流路から延びるようにもできる。こうすれば、ガス流出流路に沿って流れるガスへの流出流路凹所からの合流がより確実に起きるので、水移動に要する時間の短縮化と排水性の向上の実効性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】ガスセパレーター26の具体的な形状の一例を平面視して示す説明図である。
【図3】図2における3−3線の概略断面図である。
【図4】図2における4−4線の概略断面図である。
【図5】隣り合うガス流入流路48inとガス流出流路48outにおける凹所49aおよび凹所49bの形成の様子を一部拡大して示す説明図である。
【図6】凹所49aと凹所49bの流路に対する傾斜の様子を説明する説明図である。
【図7】凹所形状の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を表わす断面模式図である。本実施例の燃料電池10は、図1に示す構成の単セル15を複数積層したスタック構造を有している。なお、本実施例の燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であるが、異なる種類の燃料電池、例えば固体電解質型燃料電池においても、同様に適用可能である。
【0019】
単セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に形成され膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、単セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するガス拡散層23,24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。ガスセパレーター25は、ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図1には記載していないが、隣り合う単セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。
【0020】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。ガス拡散層23,24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。ガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。ガスセパレーター25,26は、既述したセル内燃料ガス流路47およびセル内酸化ガス流路48の壁面を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。
【0021】
なお、図1では図示していないが、ガスセパレーター25,26の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、ガスセパレーター25,26が他の部材と共に積層されて燃料電池10が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池10内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路47やセル内酸化ガス流路48、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
【0022】
次に、上記したカソード22の側のガスセパレーター26におけるセル内酸化ガス流路48の詳細について説明する。図2はガスセパレーター26の具体的な形状の一例を平面視して示す説明図、図3は図2における3−3線の概略断面図、図4は図2における4−4線の概略断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、ガスセパレーター26がなす矩形形状の長辺方向を水平方向とし、矩形短辺方向を垂直方向と称する。
【0023】
図示するように、ガスセパレーター26は、垂直方向の2辺に沿って、外周近傍に孔部40〜45を備える。孔部40は、燃料ガス供給マニホールドを形成し(図中、H2 inと示す)、孔部41は冷媒供給マニホールドを形成し(図中、CLT inと示す)、孔部42は酸化ガス供給マニホールドを形成し(図中、O2 inと示す)、孔部43は冷媒排出マニホールドを形成し(図中、CLT outと示す)、孔部44は酸化ガス排出マニホールドを形成し(図中、O2 outと示す)、孔部45は燃料ガス排出マニホールドを形成する(図中、H2 outと示す)。ガスセパレーター26は、カソード22の側のものであることから、孔部42の酸化ガス供給マニホールドからセル内に流入したエアー(酸化ガス)は、このガスセパレーター26で形成された後述のガス流路を通過して、孔部44の酸化ガス排出マニホールドから排出される。こうしたガス供給は、積層された単セル15のそれぞれでなされる。アノード21の側のガスセパレーター25では、孔部40の燃料ガス供給マニホールドからセル内に流入した水素ガス(燃料ガス)は、このガスセパレーター25で形成されたガス流路を通過して、孔部45の燃料ガス排出マニホールドから排出される。
【0024】
図2に示すガスセパレーター26は、その中ほどに、セル内燃料ガス流路が形成されてカソード22と重なって孔部42および孔部44と連通する略四角形状の領域を、発電領域50とする。ガスセパレーター26は、この発電領域50に、水平方向に筋状のガス流路(セル内酸化ガス流路48)を交互に並べて備える。つまり、このガスセパレーター26は、発電領域50において、流路間リブ30と溝部32とを交互に備え、それぞれの溝部32を、入口側閉塞部34と出口側閉塞部35とで交互に閉塞する。この場合、入口・出口側の両閉塞部は、流路間リブ30と異なる部材(例えば、セラミックス、カーボン、金属、あるいは、樹脂やゴムで形成の別部材)にて溝部32を閉塞するものでもよく、溝部32を、入口側閉塞部34と出口側閉塞部35とで交互に閉塞するよう、切削等するようにすることもできる。なお、ガスセパレーター26とガス拡散層24との接触抵抗を低減するためには、入口側閉塞部34および出口側閉塞部35を、導電性を有する材料により構成することが望ましい。
【0025】
上記の両閉塞部は、その設置箇所、即ち流路末端或いは端部において溝部32を閉塞する。このため、ガスセパレーター26は、孔部42の側に入口側閉塞部34を備えず孔部44の側に出口側閉塞部35を有する溝部32を複数備えることになり、この複数の溝部32を、ガス供給マニホールド(孔部40)の側から櫛歯状に分岐して流路末端で閉塞され、流入したエアーをカソード22のガス拡散層24の表面に沿って流すガス流入流路48inとする。その一方、ガスセパレーター26は、孔部42の側に入口側閉塞部34を備えて孔部44の側に出口側閉塞部35を有しない溝部32にあっても、これを複数備えることになり、この複数の溝部32を、ガス排出マニホールド(孔部44)の側から櫛歯状に分岐して流路端部で閉塞され、ガス流入流路48inと交互に並んだガス流出流路48outとなる。つまり、単セル15は、櫛歯状に分岐したガス流入流路48inとガス流出流路48outとを流路間リブ30を挟んで交互に有することになる。このガス流入流路48inとガス流出流路48outは、図中に矢印で示すガスの流れ方向に対して傾斜した凹所49a、49bを有するが、この凹所についての構成と、両流路におけるガス通過の様子は後述する。
【0026】
また、ガスセパレーター26は、発電領域50において、複数の流路間リブ30の端部と孔部40〜42との間の領域、および、複数の流路間リブ30の端部と孔部43〜45との間の領域に、互いに離間して形成された複数の凸部36を備える。これら複数の凸部36は、燃料電池10内では、ガス拡散層24に当接して、セル内ガス流路の壁面の一部を構成する。孔部42が形成するガス供給マニホールドからセル内燃料ガス流路に流入したエアーは、上流側の凸部36の間に形成される空間を導かれて、複数のガス流入流路48inに分配される。
【0027】
このガス流入流路48inに流れ込んだエアーは、当該流路が出口側閉塞部35でその末端において閉塞されていることから、図3に示すように、ガス流入流路48inとガス流出流路48outを区画する流路間リブ30が当接した範囲のガス拡散層24を透過して隣のガス流出流路48outに入り込む。こうしてガス流出流路48outに入り込んだ反応ガスは、ガス拡散層24の表面に沿って流れつつガス排出マニホールド(孔部44)から流出される。そして、エアーは、ガス流入流路48inを通過する際と、流路間リブ30が当接した範囲のガス拡散層24を透過する際(以下、この際のエアー透過をリブ当接箇所エアー透過と称する)、および、ガス流出流路48outを通過する際に、ガス拡散層24を経てMEAに供給される。このリブ当接箇所エアー透過は、隣り合うガス流入流路48inとガス流出流路48outの静圧差により起きる。アノード21の側においても、ガスセパレーター25において上記した流路構成とできる。
【0028】
次に、凹所49a、49bについて説明する。図5は隣り合うガス流入流路48inとガス流出流路48outにおける凹所49aおよび凹所49bの形成の様子を一部拡大して示す説明図、図6は凹所49aと凹所49bの流路に対する傾斜の様子を説明する説明図である。
【0029】
図示するように、凹所49aは、ガス流入流路48inに対して下流側に向けて斜めに傾斜してガス流入流路48inから延び、ガス流入流路48inの両側に枝状に複数形成されている。個々の凹所49aは、三角波形状で閉鎖した凹形状をなし、ガス流入流路48inを流れるガスの分流を起こす側に傾斜する。そして、この凹所49aの傾斜程度は、図6に示すように、ガス流入流路48inのガスの流れ方向に対して下流側から約60°の傾斜角度で傾斜してガス流入流路48inから延びている。
【0030】
凹所49bにあっては、ガス流出流路48outに対して上流側に向けて斜めに傾斜してガス流出流路48outから延び、ガス流出流路48outの両側に枝状に複数形成されている。個々の凹所49bは、三角波形状で閉鎖した凹形状をなし、ガス流出流路48outを流れるガスに対して上流側からのガスの合流を起こす側に傾斜する。そして、この凹所49bの傾斜程度は、図6に示すように、ガス流出流路48outのガスの流れ方向に対して上流側から約60°の傾斜角度で傾斜してガス流出流路48outから延びている。そして、凹所49aと凹所49bとは、隣り合うガス流入流路48inとガス流出流路48outの間の流路間リブ30において、両流路の流路方向に交互に位置することになる。なお、本実施例では、凹所49aと凹所49bの傾斜角度を約60°としたが、当該傾斜角度は、ガスの流れ方向に対して下流側或いは上流側から90°未満の傾斜角度とすればよく、約20〜80°の傾斜角度範囲とすることが、後述のガス分流・合流の実効性確保の上から、或いは、凹所形成のしやすさから好ましい。
【0031】
本実施例の燃料電池10では、既述したようにガス流入流路48inとガス流出流路48outのセル内酸化ガス流路48によるカソード22への空気の供給と、セル内燃料ガス流路47によるアノード21への水素の供給を受けて発電し、発電に伴ってカソード22において水を生成する。この生成水は、ガス流入流路48inとガス流出流路48outに入り込む。本実施例の燃料電池10では、この生成水を次のようにして排出する。
【0032】
本実施例の燃料電池10は、図5〜図6に示すように、ガス流入流路48inの両側に枝状に複数の閉塞状の凹所49aを備え、この凹所49aを、ガス流入流路48inを流れる空気に対して、ガスの分流を起こす側に傾斜してガス流入流路48inから延ばしている。このため、ガス流入流路48inに入り込んだ生成水は、当該流路に沿って流れる空気に運ばれ、流路下流側に流れる。このようにしてガス流入流路48inを運ばれる生成水は、ガスの分流に乗って凹所49aに入り込む。この凹所49aは閉塞状であり、ガス流入流路48inでは空気搬送の動圧が掛かっていることから、凹所49aに入り込んだ生成水は、この凹所49aに貯まり、凹所49aに入り込まなかった生成水は、ガス流入流路48inの出口側閉塞部35に貯まる。そして、それぞれの凹所49aと出口側閉塞部35とに貯まった生成水は、ガス流入流路48inとその隣りのガス流出流路48outとの静圧差により、ガス流入流路48inからガス拡散層24(図3参照)を透過して隣のガス流出流路48outに入り込み、このガス流出流路48outに沿って運ばれ、燃料電池10から排出される。
【0033】
以上説明したように、本実施例の燃料電池10では、生成水を出口側閉塞部35に貯めるばかりか、ガス流入流路48inからガスの分流が起きる側に斜めに傾斜して延びる複数の凹所49aにも分散して貯め置くので、出口側閉塞部35と各凹所49aで生成水が貯まる量を低減できる。この結果、本実施例の燃料電池10によれば、水移動に要する時間を短縮できると共に、排水性についてもその向上を図ることができる。その上、水移動が短時間で済むことから、ガス拡散層24に水が留まることも抑制できるので、有効発電面積の確保、延いては電池性能の維持も図ることができる。
【0034】
また、本実施例の燃料電池10は、ガスの分流が起きる側に傾斜した凹所49aをガス流入流路48inの流路に亘ってその両側に枝状に複数有することから、各凹所49aに貯まる水の量をより少なくできるので、より一層、排水性を向上できる。しかも、本実施例の燃料電池10は、凹所49aを、ガス流入流路48inのガスの流れ方向に対して下流側から約60°の傾斜角度で傾斜してガス流入流路48inから延ばしているので、ガス流入流路48inに沿って流れるガス(空気)の分流を確実に起こして、凹所49aに水を貯め置く。このため、水移動に要する時間の短縮化と排水性の向上の実効性を高めることができる。
【0035】
また、本実施例の燃料電池10では、上記のようにガス流入流路48inから下流側に傾斜して延びた凹所49aに、ガス流入流路48inに沿った空気搬送を起こす動圧を掛ける。このため、空気搬送のための動圧をも、凹所49aの水をガス拡散層24を透過して隣のガス流出流路48outに移動させるよう作用させるので、水移動に要する時間の短縮化と排水性の向上の実効性をより高めることができる。
【0036】
この他、本実施例の燃料電池10は、図5〜図6に示すように、ガス流出流路48outについても、その両側に枝状に複数の閉塞状の凹所49bを設け、この凹所49bを、ガス流出流路48outを流れるガス(空気)に対して上流側からのガスの合流を起こす側に傾斜してガス流出流路48outから延ばしている。この凹所49bを有するガス流出流路48outには、既述したように隣のガス流入流路48inから、詳しくは各凹所49aおよび出口側閉塞部35から水が入り込む。つまり、水は、ガス流出流路48outに直接入り込むほか、それぞれの凹所49bに入り込むことになる。
【0037】
ガス流出流路48outでは、その流路に沿ってガス(空気)が流れているので、このガス流出流路48outから延びた閉塞状の凹所49bでは、ガス流出流路48outに沿った空気通過に伴い、負圧が発生する。このため、凹所49bでは上記の負圧により水がガス拡散層24から吸引されることになる。そして、凹所49bに入り込んだ水は、ガス流出流路48outに沿って流れるガス(空気)に引かれてガス流出流路48outの空気に合流して当該流路に沿って下流に運ばれるので、凹所49bに留まることはない。この結果、本実施例の燃料電池10によれば、水移動に要する時間の更なる短縮化を図ることができ、排水性をより高めることができる。
【0038】
また、本実施例の燃料電池10では、ガスの合流が起きる側に傾斜した凹所49bをガス流出流路48outの流路に亘ってその両側に枝状に複数有することから、上記したような負圧による水の吸引をそれぞれの凹所49bで起きるようにできる。このため、本実施例の燃料電池10によれば、水移動に要する時間のより一層の短縮化と、排水性の更なる向上とを図ることができる。しかも、本実施例の燃料電池10は、凹所49bを、ガス流出流路48outのガスの流れ方向に対して上流側から60°の傾斜角度で傾斜してガス流出流路48outから延ばしているので、ガス流出流路48outに沿って流れるガス(空気)への凹所49bからの合流を確実に起こす。このため、水移動に要する時間の短縮化と排水性の向上の実効性をより高めることができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、本実施例では、カソード22の側のエアー流路を流路端部を閉塞した櫛歯状の分岐流路を交互に有するものとしたが、アノード21のセル内燃料ガス流路47についても、セル内酸化ガス流路48と同様に櫛歯状の分岐流路を交互に有するものとできる。アノード21に水素ガスを供給する際には、ガスを加湿する場合があるので、加湿のために加えられた水蒸気がセル内燃料ガス流路47において水滴となることが有り得る。そうすると、この水滴は、カソード22について説明した場合と同様にして流路末端の閉塞箇所と各流路から傾斜した凹所に分散されて、排出されるので、アノード側での排水性も高めることができる。
【0040】
また、凹所49aおよび凹所49bについては、該当する流路における形成の様子、凹所形状等、種々の変形が可能である。図7は凹所形状の変形例を示す説明図である。図示するように、上記の両凹所を、流路の長手方向の両側において交互に設けたり(図7(A)参照)、流路のガスの流れに対する傾斜の程度を、流路の長手方向の両側において異なるようにすることもできる(図7(B)参照)。この他、各流路において長手方向に並ぶそれぞれの凹所を異なる傾斜程度で形成したりすることもできる。また、凹所49aおよび凹所49bの形状についても、三角波形状の凹所の他、図7(C)に示すような矩形形状でガス流入流路48inやガス流出流路48outから延びる凹所や、図7(D)に示すような異形形状で流路から延びる凹所とすることもできる。この他、閉塞状の凹所であれば、湾曲した凹所とすることもできる。
【0041】
また、図2において上下のガス流入流路48inとガス流出流路48outについては、凹所49a或いは凹所49bを流路長手方向の一方側だけに有するようにすることもできる。例えば、図2の最下端のガス流入流路48inは、隣のガス流出流路48outの側にだけ凹所49aを備え、最上端のガス流出流路48outについては、隣のガス流入流路48inの側だけ凹所49bを備える。
【符号の説明】
【0042】
10…燃料電池
15…単セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23…ガス拡散層
24…ガス拡散層
25…ガスセパレーター
26…ガスセパレーター
30…流路間リブ
32…溝部
34…入口側閉塞部
35…出口側閉塞部
36…凸部
40〜45…孔部
47…セル内燃料ガス流路
48…セル内酸化ガス流路
48out…ガス流出流路
48in…ガス流入流路
49a…凹所
49b…凹所
50…発電領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の少なくとも一方の電極面に設けられたガス拡散層と、該ガス拡散層に電気化学反応に供される反応ガスを供給するガス流路とを有する燃料電池であって、
前記ガス流路は、
前記反応ガスの供給用のガス供給マニホールドの側から櫛歯状に分岐して流路末端で閉塞され、前記ガス供給マニホールドから流入した前記反応ガスを前記ガス拡散層の表面に沿って流す複数のガス流入流路と、
ガス排出用のガス排出マニホールドの側から櫛歯状に分岐して前記ガス流入流路の隣に並んで流路端部で閉塞され、前記ガス流入流路から前記ガス拡散層を透過したガスを受け取って、該ガスを前記ガス拡散層の表面に沿って流しつつ前記ガス排出マニホールドに流出させる複数のガス流出流路と、
前記ガス流入流路を流れるガスの分流を起こす側に傾斜して前記ガス流入流路から延びた閉塞状の流入流路凹所とを備える
燃料電池。
【請求項2】
前記流入流路凹所は、前記ガス流入流路の複数箇所において前記ガス流入流路から延びる請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記流入流路凹所は、前記ガス流入流路の両側において前記ガス流入流路から延びる請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記流入流路凹所は、前記ガス流入流路のガスの流れ方向に対して下流側から90°未満の傾斜角度で傾斜して前記ガス流入流路から延びる請求項1ないし請求項3いずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4いずれかに記載の燃料電池であって、
更に、
前記ガス流出流路を流れるガスに対して上流側からのガスの合流を起こす側に傾斜して前記ガス流出流路から延びた閉塞状の流出流路凹所を備える
燃料電池。
【請求項6】
前記流出流路凹所は、前記ガス流出流路の複数箇所において前記ガス流出流路から延びる請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記流出流路凹所は、前記ガス流出流路の両側において前記ガス流出流路から延びる請求項5または請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記流出流路凹所は、前記ガス流出流路のガスの流れ方向に対して上流側から90°未満の傾斜角度で傾斜して前記ガス流出流路から延びる請求項5ないし請求項7いずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−48995(P2012−48995A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190279(P2010−190279)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】