説明

燃料電池

【課題】燃料電池の発電性能を向上させる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池100は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を狭持するセパレータ20,30を備える。セパレータ20,30には、空間的に互いに分離された閉塞流路溝である供給側並列流路溝23,33と、排出側並列流路溝33,35とが設けられている。膜電極接合体10の電極層2,3は、ガス拡散層5を有する。ガス拡散層5は、燃料電池100の積層方向に沿って見たときに、流路溝23,33,25,35と重なる流路溝領域GAと、並列流路隔壁29,39と重なる流路壁領域WAとを有する。ガス拡散層5は、流路溝領域GAに、拡散抑制部6が設けられることにより、流路溝領域GAの方が流路壁領域WAよりガス拡散性が高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池としては、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜の両面に電極が配置された発電体である膜電極接合体を備えるものがある。一般に、膜電極接合体は、導電性を有するガス不透過の板状部材であるセパレータによって狭持される。また、セパレータの外表面には、反応ガスのガス流路として機能する流路溝が設けられ、膜電極接合体の電極には、反応ガスを電極面(発電領域)全体に拡散させるためのガス拡散層が設けられる。セパレータの流路溝としては、反応ガスを発電領域に供給するための供給側流路溝と、発電領域から排ガスを排出するための排出側流路溝とが、流路壁を挟んで空間的に分離するように形成されたものが提案されている(特許文献1等)。
【0003】
このような流路溝を有する燃料電池では、供給側流路溝の下流側端部が閉塞されているため、供給側流路溝に流入した反応ガスのほとんどを、膜電極接合体のガス拡散層へと流入させることができる。従って、発電反応に用いられることなく燃料電池の外部へと排出されてしまう未反応ガスの量を低減することができる。しかし、こうした燃料電池では、発電領域内における反応ガスの供給量分布や発電量が不均一となる傾向にあり、その発電性能は十分に向上されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−079457号公報
【特許文献2】特開2004−342483号公報
【特許文献3】特開2005−116179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池の発電性能を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池であって、電解質膜の両側に電極層が配置された膜電極接合体と、前記膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータと、反応ガスを前記膜電極接合体に供給するための供給用マニホールドと、前記膜電極接合体から排ガスを排出するための排出用マニホールドと、を備え、前記電極層は、前記電解質膜と接する側に設けられた触媒層と、前記セパレータと接する側に設けられたガス拡散層とを有しており、前記2枚のセパレータのうち少なくとも一方には、前記ガス拡散層と接する側の面に、前記供給用マニホールドに連結された反応ガスのための供給側流路溝と、前記排出用マニホールドに連結された排ガスのための排出側流路溝と、前記供給側流路溝と前記排出側流路溝とを隔てる流路隔壁と、が設けられ、前記供給側流路溝と前記排出側流路溝とは、前記ガス拡散層の外表面上に配置されたときに、前記流路隔壁を挟んで互いに空間的に分離されることにより、前記供給側流路溝の反応ガスを前記ガス拡散層へと流入させるように構成されており、前記電極層は、前記燃料電池を前記電極層の積層方向に沿って見たときに、前記セパレータの前記供給側流路溝または前記排出側流路溝と重なる流路溝領域と、前記流路隔壁と重なる流路壁領域と、を有し、前記電極層は、前記ガス拡散層と前記触媒層の少なくとも一方において、前記流路溝領域の方が前記流路壁領域より高いガス拡散性を有するように構成されている、燃料電池。
この燃料電池によれば、反応ガスが触媒層を経由することなくガス拡散層を介して供給側流路溝から排出側流路溝へと流れることを抑制し、供給側流路溝から流路溝領域内の触媒層へと到達する反応ガスの量を増大させることができる。即ち、セパレータに供給側流路溝と排出側流路溝とを設けることにより、反応ガスの消費効率を向上させている燃料電池において、発電領域における触媒層への反応ガスの配流性を改善でき、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、前記電極層は、前記流路壁領域の方が前記流路溝領域よりも前記触媒層における触媒の含有量が多い、燃料電池。
この燃料電池によれば、流路壁領域における触媒の含有量を増大させておくことによって、流路壁領域における反応ガスの流量が多い場合であっても、流路壁領域における発電量を増大させて、発電反応に用いられることなく流路溝領域の触媒層から流出する反応ガスの量を低減させることができる。従って、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2記載の燃料電池であって、前記ガス拡散層の前記流路壁領域には、前記流路溝領域のガス拡散性よりも低いガス拡散性を有し、反応ガスの拡散を抑制する拡散抑制部材が、前記セパレータの前記流路壁と接する部位に配置され、前記拡散抑制部材が、前記流路溝の反応ガスを前記触媒層へと誘導するための誘導壁として機能する、燃料電池。
この燃料電池によれば、拡散抑制部材によって、反応ガスが、流路溝領域において、より下層の領域へと誘導されるため、流路溝領域の触媒層に到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】燃料電池の構成を示す概略図。
【図2】膜電極接合体の構成を説明するための概略図。
【図3】膜電極接合体の構成を説明するための概略断面図。
【図4】アノードセパレータの構成を示す概略図。
【図5】カソードセパレータの構成を示す概略図。
【図6】拡散抑制部の構成およびその機能を説明するための概略図。
【図7】第1実施例における他の構成例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【図8】第1実施例における他の構成例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【図9】第2実施例の燃料電池に用いられる膜電極接合体の構成を示す概略図。
【図10】第2実施例の燃料電池の構成を示す概略図。
【図11】第2実施例における他の構成例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【図12】第2実施例における他の構成例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【図13】第3実施例としての燃料電池の構成を示す概略図と、触媒担持カーボンと高分子電解質とを示す模式図。
【図14】第3実施例における触媒層の形成工程の一例を工程順に示す模式図。
【図15】第4実施例としての燃料電池の構成を示す概略図と、触媒担持カーボンと高分子電解質とを示す模式図。
【図16】第4実施例における他の構成例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【図17】第5実施例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池100は、発電体である複数の単セル110が積層されたスタック構造を有する。単セル110は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を両側から狭持するアノードセパレータ20およびカソードセパレータ30とを備える。なお、これら2枚のセパレータ20,30の膜電極接合体10側の面には、反応ガスのための流路溝(破線で図示)が設けられている。流路溝の構成については後述する。
【0013】
図2,図3は、膜電極接合体10の構成を説明するための概略図である。図2は、膜電極接合体10のアノード側の面の構成を示す概略図である。なお、膜電極接合体10のカソード側の面の構成は、アノード側の構成と同様であるため、その図示および説明は省略する。図3は、図2に示す3−3切断における膜電極接合体10の概略断面図である。
【0014】
膜電極接合体10は、反応ガスが供給され、発電反応が行われる発電領域11と、発電領域11の外周に設けられた外周シール部12とを有する(図2)。なお、図2の発電領域11には、便宜上、アノードセパレータ20に設けられた流路溝を燃料電池100の積層方向に投影した投影像が破線で図示されている。
【0015】
ここで、発電領域11には、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜1と、電解質膜1の両面に配置された電極層(アノード2およびカソード3)とが含まれている(図3)。アノード2およびカソード3はそれぞれ、積層構造を有しており、電解質膜1側に配置される触媒層4と、触媒層4の上側に配置されるガス拡散層5とを備える。電解質膜1は、例えば、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性を有するイオン交換膜によって構成することができる。
【0016】
触媒層4は、触媒担持カーボンと、電解質膜1と同種の化合物である高分子電解質とを、水溶性溶媒または有機溶媒に分散させた混合溶液である触媒インクを用いて形成される。具体的には、触媒層4は、触媒インクをフィルム基材の外表面に塗布・乾燥させて形成された薄膜層を、電解質膜1の外表面に転写させることにより形成することができる。あるいは、触媒層4は、電解質膜1の外表面に、触媒インクを直接的に塗布・乾燥させることにより形成されるものとしても良い。なお、触媒としては、例えば、白金(Pt)を用いることができる。
【0017】
ガス拡散層5は、導電性およびガス拡散性を有する多孔質の基材(例えば、炭素繊維基材や黒鉛繊維基材)によって構成することができる。ガス拡散層5は、そうした多孔質の基材を、電解質膜1の外表面に形成された触媒層4に、ホットプレスなどによって接合することによって形成される。なお、ガス拡散層5を構成する基材の触媒層4側に配置される面には、マイクロポーラス層などの撥水層が予め形成されるものとしても良い。
【0018】
ところで、本実施例の燃料電池100では、ガス拡散層5の外表面に、ガス拡散層5を構成する基材よりもガス拡散性の低い基材6が、各セパレータ20,30の流路溝の配置位置に対応する位置に配置されている。以後、このガス拡散性の低い基材6を「拡散抑制部6」と呼ぶ。
【0019】
ここで、本明細書において「ガス拡散性」とは、多孔質部材などのガス透過性を有する部材の内部におけるガスの移動しやすさを表す度合いである。ガス拡散性は、多孔質部材の気孔率や細孔率によって調整することができる。また、ガス拡散性は、多孔質部材の透気度によっても表すことができる。ここで、「透気度」とは、板状(膜状)の繊維基材や多孔質基材について、一方の面の側と他方の面の側との間に所定の圧力差を付与したときに、当該基材を厚み方向に通過する気体の単位時間あたりの量として求めることができる値である。拡散抑制部6の具体的な形成位置とその機能については後述する。
【0020】
外周シール部12は、電解質膜1や電極層2,3の外周端面が被覆されるように樹脂部材を配置することにより形成される。外周シール部12は、セパレータ20,30に狭持され、燃料電池100の外部への反応ガスの漏洩を抑制する。外周シール部12には、反応ガスのためのマニホールドM1〜M4が厚み方向を貫通する貫通孔として形成されている。
【0021】
各マニホールドM1〜M4は、発電領域11における水素の流れる方向と酸素の流れる方向とが、電解質膜1を挟んで互いに対向し、かつ、交差するように配置されている。具体的には、水素供給用マニホールドM1と酸素排出用マニホールドM4とが、発電領域11に対して同じ側(紙面左側)に配列され、水素排出用マニホールドM2と酸素供給用マニホールドM3とが、その反対側(紙面右側)に配列されている。
【0022】
また、水素供給用マニホールドM1と、水素排出用マニホールドM2とは、発電領域11を挟んで互いに対角する位置に形成されている。酸素供給用マニホールドM3および酸素排出用マニホールドM4についても同様の配置構成となっている。なお、各マニホールドM1〜M4の配置構成は、他の構成であっても良い。また、外周シール部12には、反応ガスのためのマニホールドM1〜M4に加えて、冷媒のためのマニホールドが形成されるものとしても良い。
【0023】
ここで、本明細書では、アノード側の発電領域11における水素供給用マニホールドM1側、または、カソード側の発電領域11における酸素供給用マニホールドM3側をそれぞれ「上流側」と呼ぶ。また、アノード側の発電領域11における水素排出用マニホールドM2側、または、カソード側の発電領域11における酸素排出用マニホールドM4側をそれぞれ「下流側」と呼ぶ。さらに、アノード側およびカソード側のそれぞれの発電領域11において、上流側から下流側に向かう方向を「反応ガスの流れ方向」と呼ぶ。
【0024】
図4は、アノードセパレータ20の構成を示す概略図である。図4には、アノードセパレータ20におけるアノード2と接触する側の面が図示されている。なお、図4には、アノードセパレータ20に設けられた流路溝における水素の流れを示す矢印が図示されている。また、図4には、燃料電池100の積層方向に沿って見たときに、膜電極接合体10の発電領域11と重なる領域が一点鎖線で図示されている。
【0025】
アノードセパレータ20は、導電性を有するガス不透過の板状部材(例えば金属板)によって構成することができる。アノードセパレータ20には、膜電極接合体10と同様に、反応ガスのためのマニホールドM1〜M4が貫通孔として形成されている。また、アノードセパレータ20には、反応ガスのための流路溝が発電領域11全体に渡って形成されている。
【0026】
アノードセパレータ20には、反応ガスのための流路溝として、発電領域11に水素を供給するための「供給側流路溝」(「一次流路溝」とも呼ぶ)と、発電領域11から水素を排出するための「排出側流路溝」(「二次流路溝」とも呼ぶ)とが設けられている。ここで、アノードセパレータ20の流路溝は、燃料電池100に組み付けられたときに、溝上方の開口部(溝開口部)が、膜電極接合体10のアノード側のガス拡散層5および拡散抑制部6によって塞がれる。このとき、供給側流路溝と排出側流路溝とは、流路隔壁を挟んで互いに空間的に分離された状態となる。
【0027】
アノードセパレータ20には、供給側流路溝として、供給側連絡流路溝21と、分配流路溝22と、複数の供給側並列流路溝23とが設けられている。供給側連絡流路溝21は、水素供給用マニホールドM1と、発電領域11内に設けられた分配流路溝22とを連結・連絡する流路溝であり、水素供給用マニホールドM1の水素を発電領域11へと流入させる。
【0028】
分配流路溝22は、発電領域11の上流端において、発電領域11における反応ガスの流れ方向と直交する方向の全域に渡って形成された流路溝である。分配流路溝22には、各供給側並列流路溝23が連結されている。分配流路溝22は、供給側連絡流路溝21から流入した水素を、発電領域11において、反応ガスの流れ方向と直交する方向に行き渡らせるとともに、各供給側並列流路溝23に分岐・流入させる。
【0029】
各供給側並列流路溝23は反応ガスの流れ方向に沿って延びる直線状の流路溝であり、発電領域11において、ほぼ等間隔で並列に配列されている。なお、供給側並列流路溝23は、その上流側端部が分配流路溝22に連結され、下流側端部が、排出流路溝の合流流路溝26の手前において閉塞されている。即ち、供給側並列流路溝23は、いわゆる略櫛歯状の流路溝として構成されている。
【0030】
アノードセパレータ20には、排出側流路溝として、複数の排出側並列流路溝25と、合流流路溝26と、排出側連絡流路溝27とが設けられている。各排出側並列流路溝25は、発電領域11において、供給側並列流路溝23と併走する直線状の流路溝であり、上流側の領域から下流側の領域に渡って、反応ガスの流れ方向に沿って延び、合流流路溝26と連結されている。各排出側並列流路溝25の上流側の端部は、供給側並列流路溝23の上流側の始端とほぼ同程度の位置において閉塞されている。
【0031】
ここで、供給側並列流路溝23と排出側並列流路溝25とは、反応ガスの流れ方向に対して垂直な方向に交互に配列されている。即ち、供給側並列流路溝23と排出側並列流路溝25とは、互いに噛み合う略櫛歯状の流路溝を構成している。なお、本明細書では、以後、供給側並列流路溝23と排出側並列流路溝25とに挟まれた流路隔壁をそれぞれ「並列流路隔壁29」と呼ぶ。
【0032】
合流流路溝26は、発電領域11の下流端において、発電領域11の反応ガスの流れ方向と直交する方向の全域に渡って延びる流路溝である。排出側連絡流路溝27は、合流流路溝26と水素排出用マニホールドM2とを連結・連絡するための流路溝である。各排出側並列流路溝25の排ガスは、合流流路溝26において合流し、排出側連絡流路溝27を介して水素排出用マニホールドM2へと排出される。
【0033】
図5は、カソードセパレータ30の構成を示す概略図である。図5には、カソードセパレータ30のカソード3と接触する側の面が図示されており、図4と同様に、カソードセパレータ30における酸素の流れを示す矢印と、発電領域11と重なる領域を示す一点鎖線とが図示されている。カソードセパレータ30は、アノードセパレータ20と同様に、導電性を有するガス不透過の板状部材により構成され、反応ガスのための各マニホールドM1〜M4が形成されている。
【0034】
さらに、カソードセパレータ30には、アノードセパレータ20と同様に、互いに分離された供給側流路溝および排出側流路溝とが形成されている。具体的には、カソードセパレータ30には、供給側流路溝として、アノードセパレータ20の供給側連絡流路溝21、分配流路溝22、供給側並列流路溝23と同様な構成の、酸素のための供給側連絡流路溝31、分配流路溝32、供給側並列流路溝33が設けられている。
【0035】
また、カソードセパレータ30には、排出側流路溝として、アノードセパレータ20の排出側並列流路溝25、合流流路溝26、排出側連絡流路溝27と同様な構成の、排出側並列流路溝35、合流流路溝36、排出側連絡流路溝37が設けられている。なお、カソードセパレータ30において、供給側並列流路溝33と排出側並列流路溝35とで挟まれた流路隔壁を、アノードセパレータ20の並列流路隔壁29と同様に、「並列流路隔壁39」と呼ぶ。
【0036】
このように、本実施例の燃料電池100では、各セパレータ20,30の流路溝が、供給側流路溝と排出側流路溝とは互いに分離された閉塞流路溝として構成されている。従って、各マニホールドM1,M3から供給側流路溝へと流入した反応ガスは、電極層2,3を介して排出側流路溝へと流れることとなる。即ち、本実施例の燃料電池100によれば、供給側流路溝の反応ガスのほとんどを電極層2,3へと流入させることができるため、反応に用いられることなく燃料電池100の外部へと排出される未反応ガスの量を低減できる。
【0037】
さらに、本実施例の燃料電池100では、ガス拡散層5に拡散抑制部6を有することにより、発電反応に用いられる反応ガスの量を増大させ、反応ガスの消費効率を向上させている。ここで、本明細書において、「反応ガスの消費効率」とは、供給された反応ガスの量に対する燃料電池反応に用いられた反応ガスの量の割合を意味する。以下に、拡散抑制部6の具体的な構成とその機能について説明する。
【0038】
図6(A)は、本実施例の燃料電池100における拡散抑制部6の構成およびその機能を説明するための概略図である。図6(A)には、図2に示す6−6切断と同様な切断部位における任意の単セル110の概略断面が図示されている。なお、図6(A)には、供給側並列流路溝23,33からガス拡散層5へと流入する反応ガスの流れを模式的に示す矢印が図示されている。
【0039】
ここで、本実施例の燃料電池100では、膜電極接合体10が2枚のセパレータ20,30に狭持されたときに、各セパレータ20,30の並列流路隔壁29,39同士が互いに膜電極接合体10を挟んで対向し合う。また、供給側並列流路溝23,33同士および排出側並列流路溝25,35同士が互いに膜電極接合体10を挟んで対向し合う。本明細書では、燃料電池100の積層方向に沿って見たときに、並列流路隔壁29,39と重なる領域を「流路壁領域WA」と呼び、供給側並列流路溝23,33または排出側並列流路溝25,35と重なる領域を「流路溝領域GA」と呼ぶ。
【0040】
拡散抑制部6は、ガス拡散層5において、流路溝領域GA内に形成されており(図2)、並列流路隔壁29,39のそれぞれと接触するとともに、ガス拡散層5の内部に入り込むように設けられている(図6(A))。本実施例の燃料電池100では、流路壁領域WAに拡散抑制部6が設けられることにより、電極層2,3におけるガス拡散性は、流路溝領域GAの方が流路壁領域WAよりも高くなっている。
【0041】
なお、拡散抑制部6は、ガス拡散層5の細孔に樹脂部材を含浸させることにより形成されるものとしても良い。あるいは、拡散抑制部6は、ガス拡散層5の外表面に予め形成された凹部に、ガス拡散層5の基材よりもガス拡散性の低い部材を勘合して配置することにより設けられるものとしても良い。
【0042】
供給側並列流路溝23,33の水素または酸素は、並列流路隔壁29,39および拡散抑制部6の壁面(ガス拡散層5と拡散抑制部6との境界面)に誘導されて、ガス拡散層5へと流入して拡散する。即ち、拡散抑制部6は、ガス拡散層5の内部にまで並列流路隔壁29,39が延長された反応ガスの誘導壁部として解釈することも可能である。
【0043】
図6(B)は、本発明の比較例としての燃料電池100aの構成を示す概略図である。図6(B)は、拡散抑制部6が省略されている点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点と、反応ガスの供給量が比較的少なくなる領域SAが図示されている点以外は、図6(A)とほぼ同じである。即ち、比較例の燃料電池100aの構成は、ガス拡散層5以外の構成が、本実施例の燃料電池100とほぼ同じである。
【0044】
ここで、アノード2およびカソード3における反応ガスの流量分布は、下記の式(1)によって表されるFickの第1法則に従うことが知られている。
J=−D×ΔC/Δx …(1)
Jは、流束 (flux)と呼ばれる量であり、単位時間当たりに単位面積を通過する流体の量を表す。Dは拡散係数である。ΔCはある領域における流体の濃度勾配を示す。Δxはある領域における流体の拡散距離を示す。即ち、アノード2およびカソード3の内部では、反応ガスの拡散距離が短い領域ほど反応ガスの流量が多くなる。
【0045】
即ち、供給側並列流路溝23,33からガス拡散層5へと流入した反応ガスの多くは、ガス拡散層5の内部を並列流路隔壁29,39の上面に沿って流れ、隣り合う排出側並列流路溝25,35へと流出する。そして、その一部が、触媒層4へと拡散していき、発電反応に用いられる。従って、比較例の燃料電池100aでは、触媒層4において、流路壁領域WA内の中央近傍の領域SAに到達する反応ガスの量が他の領域より少なくなる傾向にある。
【0046】
しかし、本実施例の燃料電池100(図6(A))では、ガス拡散層5に設けられた拡散抑制部6によって、ガス拡散層5において、反応ガスが、より下層へと誘導された上で、排出側並列流路溝25,35へと流れる。そのため、反応ガスが、触媒層4を経由することなく排出側流路溝へと流出することを抑制し、流路溝領域GAの触媒層4に到達する反応ガスの量を増大させることができる。従って、発電反応に用いられる反応ガスの量を増大させることができる。
【0047】
このように、本実施例の燃料電池100によれば、供給側流路溝と排出側流路溝とに分離された閉塞流路と、その閉塞流路に合わせてガス拡散層5に設けられた拡散抑制部6とを有することにより、反応ガスの消費効率が向上されている。従って、燃料電池100の発電性能が向上される。なお、以下に説明する構成であっても、同様に、燃料電池の発電性能を向上させることが可能である。
【0048】
図7,図8は、第1実施例における他の構成例を説明するための説明図である。以下に説明する各構成例の燃料電池は、電極層2,3の構成が異なる点以外は、第1実施例の燃料電池100と同様の構成を有しており、各セパレータ20,30に、供給側流路溝と排出側流路溝とが分断された閉塞流路溝が設けられている(図4,図5)。
【0049】
図7(A)は、第1実施例における他の構成例としての燃料電池100Aの構成を示す概略図である。図7(A)は、ガス拡散層5に換えて、ガス拡散層5Aが設けられている点以外は、図6(A)とほぼ同じである。この燃料電池100Aでは、ガス拡散層5Aは、ガス拡散性の高い基材によって構成された高拡散層5Aaと、ガス拡散性の低い基材によって構成された低拡散層5Abとを有している。
【0050】
高拡散層5Aaは流路溝領域GA内に設けられており、低拡散層5Abは流路壁領域WA内に設けられている。ガス拡散層5Aは、透気度や気孔率が異なる2種類の基材をそれぞれ、予め複数の短冊状の基材として準備し、それらガス拡散性の異なる短冊状の基材を、流路壁領域WAおよび流路溝領域GAごとに、交互に配列することによって形成されるものとしても良い。
【0051】
このように、この構成例の燃料電池100Aでは、供給側並列流路溝23,33からガス拡散層5Aの高拡散層5Aaに流入した反応ガスの多くは、低拡散層5Abとの境界面に沿って触媒層4へと誘導される。従って、第1実施例の燃料電池100と同様に、流路溝領域GA内の触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させることができ、反応ガスの消費効率を向上させることができる。従って、燃料電池100Aの発電性能を向上させることができる。
【0052】
図7(B)は、第1実施例における他の構成例としての燃料電池100Bの構成を示す概略図である。図7(B)は、ガス拡散層5Aに換えて、ガス拡散層5Bが設けられている点と、反応ガスの流れを示す矢印が省略されている点以外は、図7(A)とほぼ同じである。この燃料電池100Bのガス拡散層5Bでは、薄型化された低拡散層5Abと、各セパレータ20,30の並列流路隔壁29,39との間に、拡散抑制部6が設けられている。
【0053】
このような構成であっても、第1実施例の燃料電池100と同様に、流路溝領域GA内の触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させることができる。従って、燃料電池100Bにおける反応ガスの消費効率を向上させることができ、その発電性能を向上させることができる。
【0054】
図8は、第1実施例における他の構成例としての燃料電池100Cの構成を示す概略図である。図8は、拡散抑制部6が省略され、比較例の燃料電池100a(図6(B))と同様なガス拡散層5が設けられている点と、触媒層4に換えて触媒層4Cが設けられている点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点以外は、図6(A)とほぼ同じである。
【0055】
この構成例の燃料電池100Cでは、比較例の燃料電池100aと同様に、ガス拡散層5に拡散抑制部6が設けられていない。しかし、燃料電池100Cの触媒層4Cには、流路溝領域GAに透気度の高い高透気度触媒層4Caが設けられ、流路壁領域WAに透気度の低い低透気度触媒層4Cbが設けられている。この構成によって、透気度の高い高透気度触媒層4Caへと反応ガスを誘導することができ、流路溝領域GAにおいて発電反応に用いられる反応ガスの量を増大させることができる。
【0056】
なお、高透気度触媒層4Caおよび低透気度触媒層4Cbは、触媒層4Cの領域ごとの高分子電解質と導電性担体であるカーボンとの含有質量比率(Ionomer/Carbon;I/C)を調整することにより形成することができる。高透気度触媒層4CaはI/Cが低い領域として形成することができ、低透気度触媒層4CbはI/Cの高い領域として形成することができる。より具体的には、各領域GA,WAごとの透気度が一様な触媒層を形成した後に、流路壁領域WAに高分子電解質が含まれる溶液を塗布・含浸させることにより、流路壁領域WAのI/Cを増大させるものとしても良い。即ち、高透気度触媒層4Caはガス拡散性の比較的高い触媒層として構成され、低透気度触媒層4Cbはガス拡散性の比較的低い触媒層として構成される。
【0057】
このように、触媒層4Cにおける透気度を、流路溝領域GAより流路壁領域WAの方が低くなるように構成することにより、流路溝領域GAにおいて消費される反応ガスの量を増大させることができる。従って、燃料電池100Cにおける反応ガスの消費効率を向上させることができ、その発電性能を向上させることができる。なお、上記の第1実施例の燃料電池100や、他の構成例における燃料電池100A,100Bにおいて、触媒層4に換えて、この燃料電池100Cの触媒層4Cが設けられるものとしても良い。
【0058】
B.第2実施例:
図9,図10は本発明の第2実施例としての燃料電池100Dの構成を説明するための概略図である。図9は、第2実施例の燃料電池100Dに用いられる膜電極接合体10Dの構成を示す概略図である。図9は、拡散抑制部6の位置が異なる点以外は、図2とほぼ同じである。なお、第2実施例の燃料電池100Dは、第1実施例の燃料電池100と同様に、膜電極接合体10Dと、2枚のセパレータ20,30(図4,図5)とを備える複数の単セル110が積層されたスタック構造を有する(図1)。
【0059】
図10は、第2実施例の燃料電池100Dにおける任意の単セル110の構成を示す概略図である。図10は、拡散抑制部6の位置が異なる点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点以外は、図6(A)とほぼ同じである。
【0060】
この燃料電池100Dでは、拡散抑制部6は、流路溝領域GA内に設けられている。また、拡散抑制部6は、供給側並列流路溝23,33または排出側並列流路溝25,35の溝幅より小さい幅で構成されるとともに、供給側並列流路溝23,33または排出側並列流路溝25,35のほぼ中央に配置されている。従って、供給側並列流路溝23,33または排出側並列流路溝25,35の溝開口部は、拡散抑制部6によって中央部が塞がれるとともに、その中央部に隣接する2つの側部がガス拡散層5に向かって開口した(開放された)状態となる。
【0061】
即ち、燃料電池100Dでは、供給側並列流路溝23,33からガス拡散層5へと反応ガスが流入するための溝開口部の開口面積が、拡散抑制部6によって低減されており、ガス拡散層5へと流入する際の反応ガスの圧力損失が増大している。そのため、ガス拡散層5へと流入する反応ガスの流速を増大させるとともに、触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0062】
また、燃料電池100Dでは、ガス拡散層5から排出側並列流路溝25,35へと反応ガスが流出するための溝開口部の開口面積も、拡散抑制部6によって低減されている。従って、ガス拡散層5に流入した反応ガスの出口方向以外への拡散が促進され、触媒層4において反応に用いられる反応ガスの量を増大させることができる。
【0063】
このように、第2実施例の燃料電池100Dによれば、ガス拡散層5の流路溝領域GA内の一部にガス拡散性の低い拡散抑制部6が設けられることにより、触媒層4へと到達して発電反応に用いられる反応ガスの量を増大させることができる。従って、燃料電池100Dにおける反応ガスの消費効率を向上させることができ、発電性能を向上させることができる。
【0064】
なお、拡散抑制部6は、全ての供給側並列流路溝23,33や全ての排出側並列流路溝25,35に対応して設けられていなくとも良い。即ち、拡散抑制部6は、一部の供給側並列流路溝23,33や、一部の排出側並列流路溝25,35に対応して設けられるものとしても良い。また、以下に説明する構成を有する燃料電池であっても、第2実施例の燃料電池100Dと同様に、発電性能を向上させることが可能である。
【0065】
図11〜図13は、第2実施例における他の構成例を説明するための説明図である。以下に説明する各構成例の燃料電池は、電極層2,3の構成が異なる点以外は、第2実施例の燃料電池100Dと同様であり、各セパレータ20,30には、供給側流路溝と排出側流路溝とが分断された流路溝が設けられている。
【0066】
図11(A)は、第2実施例における他の構成例としての燃料電池100Eの構成を示す概略図である。図11(A)は、供給側並列流路溝23,33の溝開口部の一部を塞ぐ拡散抑制部6が省略されている点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点以外は、図10とほぼ同じである。
【0067】
このように、供給側並列流路溝23,33と重なる流路溝領域GA内の拡散抑制部6が省略された場合であっても、排出側並列流路溝25,35の溝開口部の一部が、拡散抑制部6によって塞がれている。従って、ガス拡散層5に流入した反応ガスの出口方向(排出側並列流路溝25,35へと向かう方向)以外への拡散が促進され、触媒層4に到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0068】
図11(B)は、第2実施例における他の構成例としての燃料電池100Fの構成を示す概略図である。図11(B)は、排出側並列流路溝25,35の溝開口部の一部を塞ぐ拡散抑制部6が省略されている点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点以外は、図10とほぼ同じである。
【0069】
燃料電池100Fでは、排出側並列流路溝25,35と重なる流路溝領域GA内の拡散抑制部6が省略され、供給側並列流路溝23,33の溝開口部の一部が、拡散抑制部6によって塞がれている。このような構成であっても、ガス拡散層5へと流入する反応ガスの流速を増大させることができるため、触媒層4に到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0070】
図12(A)は、第2実施例における他の構成例としての燃料電池100Gの構成を示す概略図である。図12(A)は、ガス拡散層5に換えて、ガス拡散層5Gが設けられている点以外は、図6(A)とほぼ同じである。この燃料電池100Gのガス拡散層5Gは、ガス拡散性の高い基材によって構成された高拡散層5Gaと、ガス拡散性の低い基材によって構成された低拡散層5Gbとを有している。
【0071】
低拡散層5Gbは、流路溝領域GA内の一部に設けられている。より具体的には、低拡散層5Gbは、第2実施例の燃料電池100Dにおける拡散抑制部6の配置領域と同様な領域内に設けられている。一方、高拡散層5Gaはそれぞれ、流路壁領域WA内と、流路溝領域GA内の低拡散層5Gbの配置領域以外に配置されている。なお、ガス拡散層5Gは、透気度や気孔率の異なる2種類の基材をそれぞれ、予め複数の短冊状の基材として準備し、それらのガス拡散性の異なる短冊状の基材を交互に配列することによって形成することができる。
【0072】
この構成例の燃料電池100Gでは、供給側並列流路溝23,33の反応ガスの多くが、高拡散層5Gaへと流入する。即ち、この構成例においても、供給側並列流路溝23,33の溝開口部が低拡散層5Gbによって絞られているため、その分だけ、高拡散層5Gaへと流入する反応ガスの流速を増大させることができる。従って、第2実施例の燃料電池100Dと同様に、触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0073】
また、排出側並列流路溝25,35の溝開口部の一部を塞ぐ低拡散層5Gbによって、ガス拡散層5G内における出口近傍の領域における圧力損失が増大している。そのため、第2実施例の燃料電池100Dと同様に、ガス拡散層5Gにおける反応ガスの出口方向以外への拡散が促進され、触媒層4において反応に用いられる反応ガスの量を増大させることができる。
【0074】
なお、この構成例において、供給側並列流路溝23,33に対応させて設けられた低拡散層5Gbと、排出側並列流路溝25,35に対応させて設けられた低拡散層5Gbのうちいずれか一方が省略されるものとしても良い。また、低拡散層5Gbは、一部の供給側並列流路溝23,33または一部の排出側並列側流路溝25,35については省略されるものとしても良い。
【0075】
図12(B)は、第2実施例における他の構成例としての燃料電池100Hの構成を示す概略図である。図12(B)は、ガス拡散層5Gに換えて、ガス拡散層5Hが設けられている点以外は、図12(A)とほぼ同じである。この燃料電池100Hのガス拡散層5Hでは、低拡散層5Gbが薄型化され、低拡散層5Gbと並列流路隔壁29,39との間に、低拡散層5Gbと同様な幅を有する拡散抑制部6が配置されている。
【0076】
このような構成であっても、第2実施例の燃料電池100Dと同様に、触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させることができる。従って、燃料電池100Hにおける反応ガスの消費効率を向上させることができ、その発電性能を向上させることができる。
【0077】
C.第3実施例:
図13(A)は、本発明の第3実施例としての燃料電池100Iの構成を示す概略図である。図13(A)は、触媒層4Cに換えて、触媒層4Iが設けられている点と、反応ガスの流れを示す矢印が省略されている点以外は、図8とほぼ同じである。即ち、第3実施例の燃料電池100Iは、触媒層4Iの構成が異なる点以外は、第1実施例の他の構成例として説明した燃料電池100Cと同様の構成である。触媒層4Iはそれぞれ、触媒の含有量が異なる第1と第2の触媒層4Ia,4Ibを有する。
【0078】
図13(B)は、第1の触媒層4Iaにおける触媒担持カーボン91と高分子電解質93とを示す模式図である。図13(C)は、第2の触媒層4Ibにおける触媒担持カーボン91と高分子電解質93とを示す模式図である。燃料電池100Iでは、第1の触媒層4Iaより第2の触媒層4Ibの方が、触媒担持カーボン91に担持される触媒92の量が多くなるように構成されている。そして、第1の触媒層4Iaは流路壁領域WAに設けられ、第2の触媒層4Ibは流路溝領域GAに設けられている。
【0079】
図14(A)〜(D)は、アノード側の触媒層4Iの形成工程の一例を工程順に示す模式図である。第1工程では、2つのフィルム基材Fa,Fbの外表面にそれぞれ、触媒担持量の異なる触媒担持カーボンを含む触媒インクを塗布・乾燥させることにより、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibを形成する(図14(A))。そして、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibが形成されたフィルム基材Fa,Fbを切断して、複数の第1の短冊状基材41と、複数の第2の短冊状基材42とを形成する。
【0080】
第2工程では、第1工程において準備された第1と第2の短冊状基材41,42をそれぞれ交互に配列する(図14(B))。そして、第3工程では、その配列された第1と第2の短冊状基材41,42を電解質膜1の外表面に配置し、ローラ200等によって押圧し、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibを電解質膜1に転写する(図14(C))。第1と第2の触媒層4Ia,4Ibの転写後、フィルム基材Fa,Fbを取り除く(図14(D))。なお、カソード側の触媒層4Iについても上記と同様の形成工程によって形成することができる。
【0081】
このように、第3実施例の燃料電池100Iによれば、触媒層4Iに到達する反応ガスの量が比較的少なくなる流路溝領域GAに、触媒の含有量が多い第2の触媒層4Ibが設けられる。これによって、流路溝領域GAにおける有効触媒表面積が増加し、流路溝領域GAにおける反応ガスの消費量を向上させることができる。従って、燃料電池100Iにおける反応ガスの消費効率が向上し、その発電性能を向上させることができる。
【0082】
D.第4実施例:
図15(A)〜(C)は、本発明の第4実施例としての燃料電池100Jの構成を説明するための概略図である。図15(A)は、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibの形成位置が入れ替えられた触媒層4Jを有している点以外は、図13(A)とほぼ同じである。図15(B)は、図13(C)と同様な模式図であり、第2の触媒層4Ibにおける触媒担持カーボン91と高分子電解質93とが図示されている。図15(C)は、図13(B)と同様な模式図であり、第1の触媒層4Iaにおける触媒担持カーボン91と高分子電解質93とが図示されている。
【0083】
第4実施例の燃料電池100Jでは、触媒担持量が少ない第1の触媒層4Iaが流路溝領域GAに設けられ、触媒担持量が多い第2の触媒層4Ibが流路壁領域WAに設けられている。即ち、この燃料電池100Jでは、反応ガスの供給量が多くなる流路壁領域WAにおいて、有効触媒表面積を増加させることにより、その領域における発電量を増加させている。また、反応ガスの供給量が少なくなる流路溝領域GAにおいて、触媒担持量を低減することにより、その領域における触媒の利用効率を向上させている。
【0084】
このように、第4実施例における燃料電池100Jによれば、反応ガスの供給量が比較的多くなる領域における反応ガスの消費効率を向上させるとともに、反応ガスの供給量が比較的少なくなる領域における触媒の利用効率を向上させることができる。従って、燃料電池100Jの発電性能が向上する。また、触媒の使用量を低減することにより、燃料電池100Jの製造コストを低下させることも可能である。
【0085】
図16は、第4実施例における他の構成例としての燃料電池100Jaの構成を示す概略図である。図16は、ガス拡散層5に第1実施例で説明したのと同様な拡散抑制部6(図6(A))が設けられている点以外は、図17(A)とほぼ同じである。この燃料電池100Jaでは、拡散抑制部6によって、供給側並列流路溝23,33の反応ガスは、電極層2,3のより下層へと誘導されるため、触媒層4Jへと到達する反応ガスの量を増大させることができる。
【0086】
また、燃料電池100Jaでは、流路壁領域WAの方が触媒の含有量が多い。そのため、触媒層4Jにおいて、流路壁領域WAに多くの反応ガスの流れる場合であっても、発電反応に用いられることなく第2の触媒層4Ibを通過してしまう反応ガスの量を低減することができ、反応ガスの消費効率を向上させることができる。なお、燃料電池100Jaでは、ガス拡散層5に換えて、図7(A),(B)で説明したガス拡散層5A,5Bが設けられるものとしても良い。
【0087】
E.第5実施例:
図17は、本発明の第5実施例としての燃料電池100Kの構成を示す概略図である。図17は、触媒層4Cに換えて、触媒層4Kが設けられている点と、反応ガスの流れを示す矢印が異なる点以外は、図8とほぼ同じである。この燃料電池100Kの触媒層4Kは、流路壁領域WAに透気度の高い高透気度触媒層4Kaを有し、流路溝領域GAに透気度の低い低透気度触媒層4Kbを有している。この構成によって、触媒層4Kまで到達する反応ガスは、透気度の高い高透気度触媒層4Kaへと誘導される。即ち、流路壁領域WAへと流れる反応ガスの量を増大させることができ、流路壁領域WAにおける発電量を増大させることができる。
【0088】
なお、高透気度触媒層4Kaおよび低透気度触媒層4Kbは、図8において説明したのと同様に、触媒層4Kの領域ごとのI/Cを調整することにより形成することができる。即ち、領域ごとの透気度が一様な触媒層を形成した後に、流路溝領域GAに高分子電解質が含まれる溶液を塗布・含浸させる。これによって、流路溝領域GAのI/Cを増大させ、高透気度触媒層4Kaおよび低透気度触媒層4Kbを形成することができる。
【0089】
このように、触媒層4Kにおける透気度を、流路溝領域GAより流路壁領域WAの方が高くなるように構成することにより、流路壁領域WAに流れる反応ガス量を増大させることができ、流路壁領域WAにおける発電量を増大させることができる。従って、燃料電池100Kにおける発電量を増大させることができ、その発電性能を向上させることができる。
【0090】
なお、この燃料電池100Kにおいて、第4実施例の燃料電池100Jと同様に、流路溝領域GAより流路壁領域WAの方が触媒担持量が多くなるように構成されるものとしても良い。即ち、高透気度触媒層4Kaの触媒担持量を、低透気度触媒層4Kbの触媒担持量より多くするものとしても良い。これによって、流路壁領域WAにおける発電量をより増大させることができる。また、上記の第2実施例の燃料電池100Dや、第2実施例の他の構成例における燃料電池100E,100F,100G,100Hにおいて、触媒層4に換えて、この燃料電池100Cの触媒層4Kが設けられるものとしても良い。
【0091】
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0092】
F1.変形例1:
上記実施例では、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30の両方に、供給側流路溝と排出側流路溝とに分断された流路溝が設けられていた。しかし、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30の両方にそうした流路溝が設けられていなくとも良い。供給側流路溝と排出側流路溝とに分断された流路溝は、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30の少なくとも一方に設けられているものとしても良い。例えば、アノードセパレータ20の流路溝を、上記流路溝の構成に換えて、分配流路溝22と各排出側並列流路溝25とが連結され、合流流路溝26と各供給側流路溝23とが連結された流路溝とするものとしても良い。なお、この場合のアノード2の構成は、比較例の燃料電池100a(図6(B))におけるアノード2の構成と同様であるものとしても良い。
【0093】
F2.変形例2:
上記実施例において、供給側流路溝と排出側流路溝とは、供給側並列流路溝23,33と排出側並列流路溝25,35とが互いに噛み合う略櫛歯状の流路溝を構成していた。しかし、供給側流路溝と排出側流路溝とは、そうした互いに噛み合う略櫛歯状の流路溝を構成していなくとも良い。供給側流路溝と排出側流路溝とは、電極層2,3の外表面上に配置されたときに、流路隔壁を挟んで互いに空間的に分離されるように閉塞された流路溝として構成されていれば良い。例えば、供給側流路溝と排出側流路溝とは、いわゆるサーペンタイン状に折り返しつつ、互いに併走する閉塞流路溝として構成されるものとしても良い。
【0094】
F3.変形例3:
上記第1実施例において、拡散抑制部6は、供給側並列流路溝23,33および排出側並列流路溝25,35とほぼ重なるように形成されていた。即ち、拡散抑制部6は、流路溝領域GAの全体を覆うように形成されていた。しかし、拡散抑制部6は、流路溝領域GAの一部にのみ形成されるものとしても良い。例えば、拡散抑制部6は、供給側並列流路溝23,33および排出側並列流路溝25,35の溝幅より狭い幅で形成されるものとしても良く、拡散抑制部6は、流路溝領域GAの中で上流側にのみ形成されるものとしても良い。また、第1実施例における他の構成例としての燃料電池100A,100B,100Cにおいても同様に、拡散抑制部6や高拡散層5Aa、高透気度触媒層4Caは、流路溝領域GAの一部にのみ形成されるものとしても良い。即ち、第1実施例では、電極層2,3は、流路溝領域GAの方が、流路壁領域WAよりガス拡散性が高くなるように構成されていればよい。
【0095】
F4.変形例4:
上記第2実施例において、拡散抑制部6は、各供給側並列流路溝23,33および各排出側並列流路溝25,35のほぼ中央に設けられていた。しかし、拡散抑制部6は、各供給側並列流路溝23,33および各排出側並列流路溝25,35の中央から外れた位置に設けられるものとしても良い。拡散抑制部6は、各供給側並列流路溝23,33からガス拡散層5へと流入する反応ガスの流速が向上するように、各供給側並列流路溝23,33の溝開口部が適度に絞られるように配置されていれば良い。あるいは、拡散抑制部6は、ガス拡散層5から各排出側並列流路溝25,35への反応ガスの流出が遮断されない程度に、各排出側並列流路溝25,35の溝開口部の一部が開放された状態となるように配置されていれば良い。
【0096】
F5.変形例5:
上記第3実施例および第4実施例において、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibは、燃料電池100Iの積層方向に沿って見たときに、互いの境界が流路溝領域GAと流路壁領域WAの境界とほぼ一致するように形成されていた。しかし、第1と第2の触媒層4Ia,4Ibの境界と、流路溝領域GAと流路壁領域WAの境界とは一致していなくとも良い。燃料電池100Iでは、流路溝領域GAにおける領域面積に対する触媒の含有量の比と、流路壁領域WAにおける領域面積に対する触媒の含有量の比とが異なるように構成されていればよい。
【0097】
F6.変形例6:
上記第4実施例では、流路溝領域GAに触媒担持量の少ない第1の触媒層4Iaが設けられていた。しかし、流路溝領域GAにおいては、触媒が省略されるものとしても良い。即ち、触媒層の形成工程において、流路溝領域GAには、触媒インクに換えて、触媒が担持されていないカーボン粒子と高分子電解質との混合溶液を用いて形成された薄膜層が配置されるものとしても良い。
【0098】
F7.変形例7:
上記第1実施例では、流路溝領域GAへと流れる反応ガスの量を増加させるために、流路溝領域GAと流路壁領域WAとで透気度の異なる材料を配置していた。しかし、他の構成により、流路溝領域GAへと流れる反応ガスの量を増加させることも可能である。例えば、流路溝領域GAと流路壁領域WAとで気孔率の異なる部材を用いてガス拡散層5や触媒層4を形成するものとしても良いし、流路溝領域GAと流路壁領域WAとでガス拡散層5や触媒層4の厚みを変えるものとしても良い。また、ガス拡散層と触媒層との間に撥水層が形成されている場合には、その撥水層における透気度を変えるものとしても良い。即ち、電極層2,3において、流路壁領域WAの方が流路溝領域GAよりガス拡散性の低い材料が用いられるものとしても良い。
【0099】
F8.変形例8:
上記第2実施例では、触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させるために、流路溝領域GAの一部に、拡散抑制部6などの透気度の低い材料を配置していた。しかし、透気度の低い材料に換えて、気孔率の小さい材料を配置するものとしても良い。即ち、触媒層4へと到達する反応ガスの量を増大させるために、流路溝領域GAの一部に、流路壁領域WAに用いられる材料よりもガス拡散性の低い材料が用いられるものとしても良い。
【0100】
F9.変形例9:
上記第3実施例では、流路溝領域GAにおける発電量を増大させるために、流路溝領域GAに触媒担持量の多い第1の触媒層4Iaを設けていた。しかし、流路溝領域GAにおける発電量を増大させるためには、触媒層を以下のように構成するものとしても良い。即ち、流路溝領域GAにおいて、高い触媒活性を有する触媒を用いるものとしても良い。あるいは、粒径の小さい触媒を用いて、触媒表面積の総計を増大させるものとしても良い。
【0101】
F10.変形例10:
上記第4実施例では、流路壁領域WAにおける発電量を増大させるために、流路壁領域WAに触媒担持量の多い第1の触媒層4Iaを設けていた。しかし、流路壁領域WAにおける発電量を増大させるためには、触媒層を以下のように構成するものとしても良い。即ち、流路壁領域WAにおいて、高い触媒活性を有する触媒を用いるものとしても良い。あるいは、粒径の小さい触媒を用いて、触媒表面積の総計を増大させるものとしても良い。
【0102】
F11.変形例11:
上記第5実施例では、流路壁領域WAにおける発電量を増大させるために、流路壁領域WAに高透気度触媒層4Kaを設け、流路溝領域GAに低透気度触媒層4Kbを設け、流路壁領域WAに反応ガスを誘導していた。しかし、流路壁領域WAにより多くの反応ガスを誘導するために、触媒層を以下のように構成するものとしても良い。即ち、流路壁領域WAにおける触媒層の気孔率を流路溝領域GAにおける触媒層の気孔率より高くするものとしても良い。流路壁領域WAにおけるガス拡散層や触媒層の厚みを流路溝領域GAにおけるガス拡散層や触媒層の厚みより薄くするものとしても良い。
【符号の説明】
【0103】
1…電解質膜
2…アノード(電極層)
3…カソード(電極層)
4…触媒層
4C…触媒層
4Ca…高透気度触媒層
4Cb…低透気度触媒層
4I…触媒層
4Ia…第1の触媒層
4Ib…第2の触媒層
4J…触媒層
4K…触媒層
4Ka…高透気度触媒層
4Kb…低透気度触媒層
5…ガス拡散層
5A…ガス拡散層
5Aa…高拡散層
5Ab…低拡散層
5B…ガス拡散層
5G…ガス拡散層
5Ga…高拡散層
5Gb…低拡散層
5H…ガス拡散層
6…拡散抑制部
10…膜電極接合体
10D…膜電極接合体
11…発電領域
12…外周シール部
20…アノードセパレータ
21…供給側連絡流路溝
22…分配流路溝
23…供給側並列流路溝
25…排出側並列流路溝
26…合流流路溝
27…排出側連絡流路溝
29…並列流路隔壁
30…カソードセパレータ
31…供給側連絡流路溝
32…分配流路溝
33…供給側並列流路溝
35…排出側並列流路溝
36…合流流路溝
37…排出側連絡流路溝
39…並列流路隔壁
41…第1の短冊状基材
42…第2の短冊状基材
91…触媒担持カーボン
92…触媒
93…高分子電解質
100〜100K…燃料電池
100a…燃料電池(比較例)
110…単セル
200…ローラ
Fa,Fb…フィルム基材
GA…流路溝領域
M1…水素供給用マニホールド
M2…水素排出用マニホールド
M3…酸素供給用マニホールド
M4…酸素排出用マニホールド
SA…領域
WA…流路壁領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜の両側に電極層が配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータと、
反応ガスを前記膜電極接合体に供給するための供給用マニホールドと、
前記膜電極接合体から排ガスを排出するための排出用マニホールドと、
を備え、
前記電極層は、前記電解質膜と接する側に設けられた触媒層と、前記セパレータと接する側に設けられたガス拡散層とを有しており、
前記2枚のセパレータのうち少なくとも一方には、前記ガス拡散層と接する側の面に、前記供給用マニホールドに連結された反応ガスのための供給側流路溝と、前記排出用マニホールドに連結された排ガスのための排出側流路溝と、前記供給側流路溝と前記排出側流路溝とを隔てる流路隔壁と、が設けられ、
前記供給側流路溝と前記排出側流路溝とは、前記ガス拡散層の外表面上に配置されたときに、前記流路隔壁を挟んで互いに空間的に分離されることにより、前記供給側流路溝の反応ガスを前記ガス拡散層へと流入させるように構成されており、
前記電極層は、前記燃料電池を前記電極層の積層方向に沿って見たときに、前記セパレータの前記供給側流路溝または前記排出側流路溝と重なる流路溝領域と、前記流路隔壁と重なる流路壁領域と、を有し、
前記電極層は、前記ガス拡散層と前記触媒層の少なくとも一方において、前記流路溝領域の方が前記流路壁領域より高いガス拡散性を有するように構成されている、燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記電極層は、前記流路壁領域の方が前記流路溝領域よりも前記触媒層における触媒の含有量が多い、燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の燃料電池であって、
前記ガス拡散層の前記流路壁領域には、前記流路溝領域のガス拡散性よりも低いガス拡散性を有し、反応ガスの拡散を抑制する拡散抑制部材が、前記セパレータの前記流路壁と接する部位に配置され、
前記拡散抑制部材が、前記流路溝の反応ガスを前記触媒層へと誘導するための誘導壁として機能する、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−49007(P2012−49007A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190509(P2010−190509)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】